【源繋】走龍キラー4
マスター名:月宵
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/07/09 11:21



■オープニング本文

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「賢吏殿の推測通りです。その調教師、早朝には旅宿に寄り、その後源繋を出てから楼港に荷を運搬してますよ」
 シノビの阿尾(iz0071)は、源繋の統治者である高戸 賢吏(iz0307)に資料を渡す。暫し和紙を捲る音だけが、二人しかいない部屋に響く。
「……よし」
 開拓者達の報告を受けた後に賢吏は、気になる場所を阿尾に調べさせた。あれから数日後。変わったことといえば楼港にいた何でも屋が何故か蒸発した、ということくらいだろう。走龍キラーの襲撃もないためか、街も最近は落ち着いている。だからと言って、真実を知らない商家の人々から恐怖が消えたわけではない。何時聞くことになるかわからない走龍の断末魔が、彼らには聴こえているかも知れない。
「では、もうよろしいですね」
「ああ、依頼終了だ。ここまでの協力感謝するぜ」
「またのご利用お待ちしております、ね」
 自分のするべきことを全て終えた阿尾は、会釈と微笑を組み合わせて賢吏から背を向ける。利用、という言葉に若干眉を顰める賢吏に、まるでわかっていた様に一言歩きながら付け加えるのだ。
「その情報せいぜい上手くお使い下さいよ?」

 ●召集
 開拓者達は早急に賢吏に集められた。今まで集めた証拠から、運搬方法や黒幕の目星はついた。
「俺は、これから来賓室に各商家へ召集をかける。後はきみ達へと一任したいと思う」
 彼は話をこう続ける。ここまで真相に近付くことが出来たのは、何より依頼を受けてくれたきみ達のおかげだ、と口にするのだ。今回の依頼は、賢吏の開拓者達へ対する信頼の証、とでも言うべきか……
 内容はこうだ。走龍を荷引きに扱う商家を集め、そこで全てを明らかにする。
 それはつまり黒幕の話だけではなく、今までの経緯を説明しなければならない、と言うことだ。
「だがコイツは俺達だけじゃ、足りねぇんだな」
 賢吏は机に一つの物を置いた。それは笛。賢吏の手からそれが離れる。彼は息を一つ吐き、開拓者達へ向き直る。

「何かありゃ、全ての責任は俺が持つ……では、頼みます」


■参加者一覧
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
クアンタ(ib6808
22歳・女・砂
シリーン=サマン(ib8529
18歳・女・砂
ディヤー・アル=バクル(ib8530
11歳・男・砂
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓


■リプレイ本文

 薄暗い屋内に二人は対峙している。
 一人は今にも消え入りそうな程に弱気な男で、もう一人は賢吏より依頼を任されたクアンタ(ib6808)である。
「──ですので、このままでは主犯として処罰されるやも……」
 その台詞に男は声を荒げて、左右に首を振りながら否定を繰り返す。その反応を待っていたのだ、そう思うかのようにクアンタは次の言葉を告げた。
「皆の前で話していただけるのなら、情状酌量の余地ありと見なされ、罪も軽くなると思うのですが」
 その台詞に糸が切れたかの様に、男は頭を下げた。それを出口眺めていた草薙 早矢(ic0072)は腕にとまった迅鷹を高く掲げた。
「そらっ!」
 やがて、飛び立った三色を彼女は青い空に見送る。
 彼の足にくくりつけた手紙に、この依頼の命運がかかっている。

●解決編
 賢吏とディヤー・アル=バクル(ib8530)は最後の確認をしていた。
 確かに状況証拠はかなり集まっている。しかし、肝心の黒幕の決め手となるものは無いのだ。それを訝しむ賢吏に対して、ディヤーはこう呟く。
「なれば、証人を増やせばよい。商人は沢山集まるじゃろ?」
「ショウニンだけに、てか?」
 クスリ、と賢吏は緊張を解くように笑った。

 貴賓室には、十数の商家の店主と調教師が集まっていた。その中には、楓屋、杉屋、既に色を失った顔をしている柊屋もいた。
 そこで先ず賢吏が語り出す。ある山の麓の村が、野生の走龍に襲撃をうけた事。更に、その襲撃にこの源繋の商家が関わっている、とそう話した。
「……」
 賢吏の傍らで話を聞いていたアムルタート(ib6632)は、視線だけを商家へと向けた。各商家の反応をうかがうためにだ。だが、この話を聞いていただけでは何の事やら、と疑問符ばかりが浮かぶだけのようだ。
「詳しい話は、彼らからお聞きください」
 そう言うと賢吏と入れ替わりに、クアンタとシリーン=サマン(ib8529)が口を開いた。
 口に三日月をかたどり微笑むシリーンと、表情もあまりなく広い室内の空気を一気に冷たくするクアンタ。なんとも真逆の雰囲気を纏っている。
「とある方より耳にした情報です。源繋で荷引き用の走龍が捨てられ、山に投棄されている、と」
 その言葉に一瞬だけ場がざわめく。アムルタートが確認すれば、幾つかの商家の顔に硬直が走っていた。
「な、何ですって!? 本当なのでしょうか」
「お静かに。残念ながら事実で御座いますよ」
 楓屋の店主を、シリーンが悲しげに慰めた。
 当たり前だが、走龍の処分の方法が源繋では、申請を行わなければ知らないことは商家の皆には常識なのだ。
「証人がおります……そうですよね、柊屋さん?」
 視線が一気に柊屋の店主に集まる。隣に居た、柊屋の調教師も目を丸くしていた。
 集合前にクアンタは、柊屋の店主と取引をしたのだ。走龍投棄の罪を軽くするから証人になって欲しい、と。
「ぼ、僕は……それ、は」
 声帯を失ったように口だけを動かす柊屋の店主に、シリーンは近付き視線を合わせ、落ち着いて、とただ一言語りかけた。
 それが功をそうしたのか彼は、ゆっくりとだが語り出した。その噂は、だいぶ昔から商家の間であったらしい。
『走龍を安く処分してくれる組織がある』
 旅宿があり、その場所に走龍と共に泊まるのだ。そして、翌朝。自分だけが部屋の抜け穴を通って、旅宿を出るのだ。
 本人は『旅宿に走龍を忘れただけ』と言って、罪の意識を減らしていたと言う。
「だから、あの話を聞いたときはそんなこと、知らなくって………ご、ごめんなさい!!」
 初耳だ、と言う顔をする楓屋屋の調教師と店主。恐らく新参者であった二人は、まだその噂を知らなかったのだろう。
「だがのう、その内、商家だけではすまなくなったのじゃ」
 挟む様にディヤーは、続けて語った。
 その組織は楼港にいた何でも屋と連携し、開拓者の相棒も処分していた事、それらが山で繁殖し大変なことになっている事も話した。
「あれ〜、どうしたの? ぴくってしたね〜?」
 アムルタートが、雰囲気を破壊しかねない楽天さで呟く。商家の約半数が、彼女から視線をそらし口を閉じた。恐らく詳しくは知らずとも、走龍を投棄した商家だろう。
 賢吏が歯噛みした様子に、早矢が気付く。恐らく裏切られたという思いより、気付けなかったという悔しさが先行しているのだろう。

「ワタクシも初耳ですが、そんな話一体どこで仕入れたのですか?」
 ガヤが増える中で一人だけ冷静に杉屋の店主が聞いたのだ。
 その言葉に続くように、そうだそうだと他の商家も追従する。その殆んどは勿論、先程沈黙した商家の皆様だ。
「見目麗しい御方と……伝え聞いておりますけれど」
 そう言ってシリーンは、視線を横へ流し賢吏に合図をする。彼は扉の近くへ進み、戸を開けた。
 扉長身のフードを目深まで被った人物が、クアンタの前まで来る。
「……………」
 フードのせいで顔は殆どわからないが、覗く長い耳と地味な色に生える金毛から、エルフであることは理解出来る。

「紹介しましょう。件の情報提供者、走龍キラーです」
 その一言に、あれだけ騒がしかったガヤは一瞬で停まる。そして……一気に噴き出す。
「な!? コード様!? なな」
「何を考えておられる!」
「…………チッ」
「ハハ、そんな馬鹿なこと」
「早く捕まえて下さいな!!」
「いやー、殺さないでぇ!」
「にゃろー! よくも大切な走龍を!」
 まぁ……恐怖の対象が、いきなり眼前に現れれば当然な一般人の行動である。だがそれは、この場で行っていい行動か、といえば別物である。

 パシュッ

 先ず早矢の放った矢が、商家の皆様の眼前を通過する。
 そして、この一瞬の沈黙の間をシリーンが、優しげな笑みと地獄をも凍らせる声色で諭す。
「私、発言をお願い致しましたでしょうか……。私、お願いをした記憶はございませんけれど……」
「ハ、ハイ!」
 これには思わずディヤーも竦み上がる。
 クアンタ以上に、彼女に逆らったら命がヤバイ。本能的に皆が悟ったのか、シリーンに逆らうものはいなかった。
「では続きをお願い致します」
 そして再び、クアンタは語り出した。
 走龍キラーは山守をしていた。が、山で沢山の走龍が繁殖していることに気付き、調査をしていた。
「そして、ある手がかりを元に走龍キラーは、商家が絡んでいることに気付き、山に捨てられ殖える前に、と仕方なく走龍を殺し始めました」
「ある手がかり? ……あっ」
 一人呟く楓屋の調教師。数日前に、彼らに見せられたあるものを思い出して結論に至った。
「この木片です。これを元に、走龍キラーは襲撃を行いました」
 クアンタの見せた木片を早矢が受け取り、商家へと渡した。
 木片を確認しだす各商家。特に自分の商家の家紋を見つけた柊屋の店主は、すっかり怯えていた。
「そそ……そんな、僕まで狙われていたなんて」
(「狙われた所か、襲われてるけどね〜」)
 と、アムルタートは珍しく口に出さない。と言うのも、木片を持たぬ杉屋の店主の表情が若干変わったからだ。
「この木片は、楼港近くの山に捨てられた走龍と共にありました。ですが、実は妙なことがわかりました」
 一つは楼港近くの山で見つかった楓屋の木片が、仁生で使われている荷箱のものだということ。
 それを確かです、と楓屋が頷き認めた。
「因みに楓屋様。使い終わった荷箱はどうなされますか?」
「回収いたします。ただ、古くなったり、破損すれば港の方に捨てますが……それならば、誰でも持ち帰れます」
 一度肯定の意味で頷いてから、クアンタは更に話を続けた。走龍キラーはこの木片の家紋だけを便りに、襲撃を行っていたこと。そして、襲撃したのは山にいる走龍をこれ以上増やさないためだった、と彼女は説明する。
「ですが、実はこの木片こそ罠なのです」
 何となしにこの事に勘付いていた走龍キラーは、歯がゆさに俯く。フードで表情は見えずとも、神妙な面持ちであることは想像できる。
 自分から疑いの目を遠ざけ、更に邪魔な商家を潰し、自ら恩を売る。走龍キラーの想いを利用した、何とも卑劣な策であった。
「走龍キラーが襲撃したのは、木片に家紋のある商家だけ」
「だとするとおかしいのう……杉屋よ」
 杉屋へと、鋭い言葉とうら若くとも君主の瞳が向けられる。何故、木片が無いのに杉屋は襲撃を受けたのか……と。
「な……何をおっしゃいますやら。ただ、家紋を間違えてワタクシの走龍は襲撃をうけたのでしょう。全く傍迷惑な……」
「ここに来る前に、余は走龍襲撃の際の調書を確認したのだ」
 オス、毒矢による刺殺。ディヤーはそれだけ呟くと、杉屋は口を噤む。杉屋の店主に言葉を続けさせる前に、ディヤーが再び口を開く。
「貴公の所だけ、死因と狙った走龍の性別が異なるのじゃ」
「走龍キラーの目的は間引きです。生殖を防ぐために、メスしか殺してはおりません」
 すかさず主の補足を行うシリーン。
 今まで弓矢一本で走龍を仕留めていた走龍キラーが、失敗したわけでもないのにわざわざ毒を用いる必要などないのだ。
「恐らく自作自演ですね?」
「それが、それがワタクシのやった証拠になるのかね!?」
「それから、柊屋様から聞きましたが旅宿の名前は『玉津』と言うようですね?」
 しかも、そこは杉屋から酒や食材を卸しているとクアンタから聞くと、もう杉屋には罵声を飛ばす以外道は無かった。

「この女のでっち上げかも知れないだろう! こいつは走龍キラーなんだぞ!!」
「「「え?」」」
 他の商家がその台詞に目を丸くして、走龍キラーへと眼を向ける。その意味を杉屋の店主は暫し理解出来ず、調教師は察して後ずさった。
「……この間もそれ聞いたけどさ。走龍キラーって女なの? 見たこともないのに、よく知ってるね〜」
 最初と何ら変わらぬ口調、変わらぬ陽気さでアムルタートが問い詰める。
 無言で肩を跳ねさせる杉屋の店主に、フードを外す走龍キラー……メアリー・ブロド。
「如何にも、身共が走龍キラーだ」
 しかしこの情報を知っているのは、賢吏と阿尾、そして開拓者達だけの筈だ。何せ現在、杉屋を除く全商家が走龍キラーの正体が女性であることに、驚き場をざわめかせている。
 もし、他に走龍キラーの正体を知るものがいるとすれば……
「走龍襲撃を利用していた黒幕」
「教えて下さい、何故走龍キラーが女性だと知っていたのですか?」
 皆の視線は杉屋の主人に一斉に向く。その隙を見計らい、調教師は懐の得物に手をかけ───
「グッ」
「逃げちゃダメなんだよ〜♪」
 片足にはアムルタートの鞭が絡み付き、そのまま引き倒されれば衝撃で得物から手が離れる。
 痛みにしかめた顔を上げれば、早矢の矢尻が眼前に煌めくのだ。
「大人しくして下さい」
 そして、杉屋の店主は両膝から崩れ落ちた。これにて投了、とクアンタ達は理解した。

●その後
 杉屋は自供した。
 旅宿『玉津』にて荷を入れ換え、源繋を出て翡翠山に走龍を放していたことを話し、そのまま旅宿の主人共々お縄となった。お家お取り潰しは必定であろう。その他の関わった連中も、後々調査されるはずだ。
 全てを終えた賢吏は、私室にてクアンタと会話を繰り返していた。
「提案はわかった。だが、それでもまださばききれねぇな」
 クアンタは、翡翠山にいる走龍を捕獲し、各商家へと分配してはと提案したのだ。
 その提案自体は賢吏は許諾したが、まだまだ山に破棄された走龍はいる。これからが俺には本番だ、そう賢吏は呟いたのだ。メアリーから頼まれた走龍の子供達は、このまま賢吏の元で育てることになった。これは恐らく、信用……なのだろう。
「ところで、メアリー様の件ですが」
 クアンタは、同時に源繋にメアリーが近付かないよう命じさせてはどうか、と賢吏に提案していた。が、彼は首を横の振ってこう返したのだ。
 わざわざ言う必要もない、と。自分という存在を、何よりも知っているのは彼女なのだから。

 源繋の門をくぐり外へ向かうメアリー。ディヤーとシリーン、早矢は見送りに出ていた。
 このまま自ら奉行所へ赴くと言うのだ。彼女曰く『約束を守った』と言うことらしい。

「たまに迅鷹と遊ばせてくれ。また来る……それからの」
 ディヤーは腰元に下げたジャンビーヤを取り出す。
 メアリーもそれだけで意味を察したのか、短剣と代わらない大きさの迅鷹の羽根を用意した。
 二人は無言でそれらを掲げ、同時に叫んだ。
「「我、汝と信頼の盟約を誓わん!!」」
「まぁまぁ坊ちゃまったら……」
「ディヤーくん、カッコいい!」
 ディヤーがメアリーの顔を見る。そこには今までの感謝を表すかのように、僅な微笑を浮かべる彼女がいた。

 こうして、源繋の走龍キラー事件は幕を閉じたのである。最後に奉行所に向かったメアリーの判決を記しておこう。
『黒幕の逮捕に協力し、開拓者より情状酌量の嘆願があったため、罪状は不問とし、お咎めなし』