【源繋】走龍キラー3
マスター名:月宵
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 5人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/06/14 18:24



■オープニング本文

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 ここは源繋、高戸 賢吏(iz0307)の私室。彼は早々に頭を抱えていた。
 源繋の商家が走龍を翡翠山に捨てていた。その事実を知り、商家より抜き打ちで走龍の数を調査したのだ。
「……何故だ」
 もし、走龍を無断で処理していれば、届け出た走龍より著しい数の増減がある。その為の調査だが、結果ある一件の商家を別にして届け出通りの頭数であった……
「手詰まり致しましたか」
 傍らで聴こえた忌々しいほどに、涼しげな声に不機嫌さを隠さぬ声で賢吏は応える。
「今までどこに居やがった、阿尾」
 その男はシノビの阿尾(iz0071)と言い、開拓者と情報屋をやっている。そして今回、引き続き賢吏が情報提供を依頼していた。そして、賢吏と開拓者が翡翠山を探索してる間も、どうやらやることはやっていたらしい。
「それでは先ずは、そちらの収穫から聞きましょう」
 賢吏は、翡翠山での出来事を事細かに阿尾へと伝えた。結果としてメアリーを捕まえるには、黒幕となる源繋の商家を突き止めなければならないのだと……

「そして、それが連絡用の笛と荷箱の木片ですか」
 賢吏の手元には笛と家紋らしきものの描かれた木片が数枚あった。これこそが、前回の翡翠山調査で手に入れた手がかりであり、助け船なのだ。
「ああ、それにカワイイ走龍たんの幼竜が五匹も居て――」
「それはどうでも宜しいです」
 この人は、生物を見ればその愛おしさを伝えなくてはいてもたってもいられないのかと、話題をピシャリと締めた。
 次は、と阿尾が情報を話し始める。彼は源繋以外の街で情報を集めていた。その結果気になる話が、二つほどあったと言う。
「一つは仁生の港で、もう一つは楼港のとある酒場の話でした」
 仁生で相棒を売ることを生業とするとある女性が、商売相手と激しく喧嘩になったらしい事。
 その時の話を、阿尾は直接彼女から聞いたと言う。

●走龍売りの話

 数匹の走龍が嘶き、それを手綱を引きながらおさえる女性。詳しく話を聞きに来た阿尾に口を開いた。

「いつもお世話になってる氏族の人だったんだけどね。そこのドラ息子がウチの走龍を買ったのよ」
「したらね、また三週間くらい後に買いに来たワケ。前のはどうしたのって聞いたら、死んだ、って」
「不慮の事故ですか。開拓者であれば、無きにしも非ずですが……」
「そうならアタシも怒らんさ、ね。『言うこと聞かない使えないヤツだったから、新しいヤツくれ』だよ! 相棒を何だと思ってるのか……」
「何とも気の毒な御話です」
「綺麗な紅い瞳のジルベリア種だったのよ。だからなおのことムカついてね。ぶっ飛ばしたわ♪ 幸い親の方は真面目でね、話を聞いて勘当したらしいね」
「……わかりました。情報提供感謝致します。拙者は阿尾、以後お見知りおきを」


 楼港の話は、未だ噂で聞いた程度だが、相棒に関する便利屋が存在するらしい。
「此方は長居出来ませんでしたが、場所はつかんでおきました。拙者があまり動き過ぎて、色々な方々に気取られても困りますから」

 阿尾は、情報屋でもそれなりに有名な部類に入る。だからこそ、命もそこらじゅうから狙われるのだ。何時もより思い情報屋の溜め息に、賢吏はそれを察した。
「だから、んなに疲れてんのか。旅宿に泊まっても良いんだぜ。ここは楼港に行く道すがらだ。相棒と一緒に泊まっていける施設も揃っている」
「宣伝せずとも結構です」
 立場上商売ごとに抜け目ないのは構わないのだが、興味すらない自分に言うのはどうなのか、と心で呟く阿尾であった。

●『勘』の真実。
 至極残念そうに項垂れる賢吏に、新たな話題を阿尾は振った。
「しかし、貴殿は何故メアリーが襲う商家が理解出来たのですか?」
 源繋には、いくつか走龍で荷引きをする商家がある。
 確かに数少ないと言えど、その数は両手足の指は余る。その中から、襲撃を受けるであろう一つの商家を選び出すのは中々無理難題である。
「ああ、あまり多くは語れねぇが、商家の人達は源繋を出入りするとき書留をするんだよ」
 要約すると賢吏の話はこうだ。源繋に荷を出し入れする際に、その内容や商家の名を書き留めているのだと言う。だが、これは非公開で部外者に見せる訳にはいかないらしい。
「聞けば教えるけどな」

「しかもそここそ、今回抜き打ち結果が怪しかった唯一の商家、『柊屋』と言うワケですか」
「……まだ俺はそれ話してねぇよな」
 訝しむ賢吏にたいして、容易いので、と笑顔で返してきたのでもう言葉も無かった。
「その関所の調書の結果を見て、賢吏殿はその商家で見事走龍キラーと対面し、彼女の話を開拓者へ話してから、翡翠山に向かったのですね」
「…………あ」
 とある阿尾の台詞に、言ってなかった、と賢吏は返したのだ。
「彼ら(開拓者達)にその話をせず、依頼を頼んだな」
 暫しの沈黙。同時に、常では考えられないほどの依頼主を見下げる阿尾の眼。
「し、仕方ないだろ。翡翠山の調査と聞いて、いてもたってもいられなくてだな――」
「開拓者の皆様方に感謝しなくては……」
 詳細を教えることもなく、賢吏の依頼を受けるなど自分に話を出来ない……この男の人柄が彼らにそうさせたのか、とすら阿尾は考えてしまう。
「先ずメアリーの話も、真実かわからないのでしょう?」
 全てがただの状況証拠。しかも提供先は彼女からのものだ。阿尾が不信がるのも無理のない話だ。だが、賢吏は別に黒幕がいると何処か確信を持った表情をしていた。
「心配しなくても、メアリーの言ったことは本当だぜぇ!」
「根拠は?」
 聞いたところで、なんとなくまともな答えな気はしないが……
「あんな透き通った鱗の走龍たんを育てるヒトが、悪者なワケがねぇじゃねぇか!」

(「……そう来ますよね」)


 そんなやり取りがありながらも、こうして賢吏は調査を再び開拓者に依頼したのであった。


■参加者一覧
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
クアンタ(ib6808
22歳・女・砂
シリーン=サマン(ib8529
18歳・女・砂
ディヤー・アル=バクル(ib8530
11歳・男・砂
草薙 早矢(ic0072
21歳・女・弓


■リプレイ本文


 高戸 賢吏(iz0307)は、自らが柊屋にてメアリーと邂逅をなした、と言う事実を開拓者に語り、申し訳なさげに謝った。
「本当にすみません……」
「真実全て話せというほうが土台無理じゃ。言ってないことにも真実は含まれるしの!」
 ディヤー・アル=バクル(ib8530)がしょげる賢吏を慰める。そこに変装だろうか、旅装と黒に染めた長髪のアムルタート(ib6632)が話を続ける。雰囲気は変われど、性格はやはり、そのままだ。
「やっほー高戸! あのねあのね、教えてほしいことあるの。教えて〜」
 賢吏も内容も聞かず頷いた。最初から、その話が来ると予想していたのだろう。何故自分が襲撃を予測出来たかを語った。
 一つ、源繋の調書を調べた所、商家の出入りが多い日の数日後に襲撃があった。一つ、襲われた走龍はほぼメス。それなら、とメスを多く飼っている商家を夜な夜な見張ってたらしい。
「後は勘だ」
 一つだけ言おう。彼、高戸 賢吏はこの街の統治者である。
「高戸様も興味がお有りでしたら如何です?」
「出たいのは俺も山々何だがなぁ……」
 シリーン=サマン(ib8529)が賢吏に促すも、彼は苦々しげに首を振る。
 本来走龍の調査は、半年に一回程度で定期的に行われていた。それを今回抜き打ちで急遽。前回は、つい数月前に行ったばかりである。
 これ以上彼が動けば、黒幕と思わしき商家に勘づかれ身を潜めてしまう可能性があるのだ。因みに数月前の調査の際に柊屋の走龍の総数は、届け出通りであった。更に言えば、走龍の商家の入手ルートによる黒幕の特定は難しいだろうと語った。かなりの長期的に走龍を捨てていた、それが気付かれない程だ。独自の確固たるルートがあるのだろうと、賢吏は予想を付けていた。
「その代わり、他にかかる費用は俺が持ちます」
 隣では、前払いされた報酬から『お気持ち』を阿尾に渡す篠崎早矢(ic0072)とクアンタ(ib6808)がいた。
「はい。では以上今の三つの情報を、出来うる限り探しますよ」
「費用はかかった分だけ請求してくれ。なんとかして払う。……クアンタも鬼ではない、小遣い何ヶ月か抜きになるくらいじゃろ」
 と、震え声で従者をチラ見するディーヤに阿尾は笑顔でこう返した。
「ご心配せずに、前のアレよりは安いですよ」

 こうして、開拓者達は各地にて調査を始めたのであった……

●源繋調査
 アムルタートと早矢は木片を手に、各商家から話を聞くことにした。アムルタートはお得意のヴィヌイシュタルを、早矢は相棒の翔馬、夜空を引き連れ商家へと歩を進める。

 柊屋。
 訪れて二人はいきなり顔を見合わせた。家紋を見る限りは、木片と一致している。
『本日御休』の看板。賢吏から今日が定休日だ、何て話は聞いてない。寧ろ各商家が営業しているからこそ、今日と言う日付に調査を依頼したのだ。
「どうしよっか〜?」
「一応訪ねてみるか?」
 と言うわけで、数度戸を二人で叩いてから、声をかけてみる。すると、何とも気弱で何かに怯えている声が木戸から響く。
「ウルサイ! 僕はただ、忘れただけだ。それは罪にはならないだろ!? 帰れ! 帰ってくれ!」
 と、顔も出さず二人に声が応えた。と、言うよりはただの暴言。それ以上は、とりつく島無し。もし走龍の届出を忘れた、という意味だとしてもこの様子は異様だ。
(「あ……怪しすぎる」)

 ところ代わって何度目にもなる楓屋だ。店前で店主は算盤を叩き、走龍の荷を調教師が下ろしているという日常と言った風景。早矢は早速木片と荷箱の家紋を見比べる。やはりここで間違いなさそうだ。
「こんにちわ〜。これ下さい♪」
「はい、此方ですね?」
 適当な香辛料を見繕い、アムルタートは購入した。笑顔で感謝の意を表す店主に本題を語り出した。

「そういえば翡翠山って知ってる? 緑の綺麗な走龍見れるって聞いたの! でもこの間行ってみたら白と黄色のばっかなんだー。ちょっと残念だったよ。しかもなんか襲ってきてさ。意外と強くてびっくりしちゃったー」
「翡翠山……楼港の外れのですか? それは大変でしたね」
 とごく普通の四方山話に発展。何も裏の事情を知らないなら、この反応はある意味当然だ。

「天儀種は、荷引きには購入しないな。クセがあるからな」
「ヒナからは買わないな。俺らが欲しいのはあくまで、足だ」
 調教師と早矢は、夜道を介して話に花を咲かせていた。そして此方も本題。走龍キラーについての調査と話して、例の木片を見せた。
「なら、あっちの黒毛は彼奴か」
「それで、翡翠山で見つけたこの木片なんですけど」
 調教師は木片を眺めると一度首を傾げる。そして、木片を貸してほしいと言われ、早矢は頷き手渡す。
「主様よろしいですか?」
 そう言って調教師は、先程の話をして木片を店主に見せる。
「何故これが翡翠山なんかに?」
 店主は、二人にこう説明した。実は楓屋の荷箱は二種類扱っている。送り先を間違えないように、場所ごとに荷箱を変えるらしい。
 そして、この木片は仁生で扱っている荷箱だと言う。
「ほんとだ〜。荷箱に使われてる木の種類が違うんだね」
「仁生の荷箱が、何故楼港の近くの翡翠山にあるのでしょう、か?」
 楓屋の二人も、翡翠山に行くこともないのに落ちている木片ことに首を傾げるのだった……

 所変わって、杉屋。ここに直接来るのは初めてか。
 主に大手に食物や酒を出しているようだ。店主を探し、また先程と同じくアムルタートは買い物。そして、会話を始めた。
「それがどうかしましたかね? そんなことより、早く走龍キラーをどうにかして欲しいものですよ。ワタクシだって彼女の被害を被ったのですからね」
 高戸様は何をしてるやら、と愚痴られて散々だった。因みに調教師もいたのだが……
「この子は夜空って言うんだけど……」
「…………で?」
「あー、えっと……」
 あまりに反応が冷たすぎて、早矢は話が続かず挫けた。

●楼港

『無いじゃと?』
『ああ、木片の中に杉屋の家紋はねぇ。だから代わりに、俺が家紋を描いた。これでわかるだろ』
『うむ、世話をかけたな。後で走龍のヒナのことでも話すかのう』
『あの幼竜たんか……ああ、全て解決したら語ろう!』

(「賢吏の生き物好きは筋金入りじゃの……しかし、何故木片が―――」)
 着きましたよ、そうディヤーの思考を戻したのはシリーンだ。時間短縮に相棒アイヤーシュにて、二人乗りで楼港に向かっていた。
 ディヤーは源繋で杉屋の木片を借り受けようとしたが、木片自体が無かった。メアリーが渡し忘れたのだろうか、そんな風に考える。
 ちょうどディヤーとその従者達が楼港に着いた頃、クアンタの元へ鳥が飛んできた。
「……流石に早いな」
 鳥は阿尾から手紙だ。クアンタは仁生で聞いた話に出てきたドラ息子を探させていたのだ。そして、シリーンとディヤーは何でも屋のいる酒場へ、クアンタはドラ息子のいる酒場へと別れた。

「『ふやじょう』はほーとーむすこ、が遊ぶところらしいな。余も遊んで――」
「「却下」」

 相棒何でも屋。
 この酒場はとても賑わっている。その傍らにその人はいた。印象はその辺りにいる優男、と言った感じだ。
「貴公が何でも屋か?」
「ハイハイ。相棒の一時的なお世話や、仕入れ情報を扱っています」
 これまた当たり前の話だが、噂になるほどの何でも屋が、表向きの話しかしないのは道理だ。
 例え、裏の顔があったとしても『ハイ、そうです』なんて言うわけがない。
「実は山で走龍を見ましたの。赤目のジルベリア種って珍しいのですの?」
「いないことはない、程度ですねー。御所望ですか?」
 と笑みを向けながら、男は返答を返した。いいえ、とシリーンは首を振る。他にもいくつか話をしてみるも、うまく対応されて、のらりくらりとかわされてしまう。そんな二人の様子をディヤーは眺める。まるで『どこかの情報屋兼シノビ』と話しているようだと思えた。
「では、この印に見覚えはないか?」
「さぁ……家紋っぽいですね」
 と杉屋の家紋を見せたが、これは素で知らないようだった。
「けども、良く、ウチが走龍を扱っていると知ってましたね?」
 何となしに、男はそう返すと内心焦りながらもシリーンは微笑と共に口にする。
「とある氏族の方に良く購入すると伺いまして。此方では、商家の走龍も取り扱っているのでしょうか?」
「それはないですよ。ウチはあくまで相棒、ですから」
 結局情報は無く、ディヤーとシリーンは酒場を後にした。
 二人がいなくなった後、男は舌打ちを一つ潮時か、とだけ呟いた。

 廃れた酒場にて。
 人気もまばら、と言うより目的の人物を見つけるのも造作もないほどに客がいない。
(「男なんて怖くない怖くない怖くない……」)
 目的の人物をみつけるも、恐怖に自分に暗示をかけるクアンタ。隣の席良いかしら、と覆面下に艶美な笑みを含ませつつ座る。
 相手の青年は、と言えば、本来は良かった筈の身なりは今やボロ布と変わらない。そう彼こそが、勘当されたドラ息子である。これも何かの縁、とお酒でも奢らせて、と言えば直ぐにのってきた。
(「これだから男って……」)
「大体あのバカ龍が、オレの言うことを聞かねーからだ? オレは悪くねぇ!」
 恐らくこの龍は、前回翡翠山に出現したと聞く、紅い瞳の走龍とクアンタは予想した。今が好機、と身を相手へ寄せて、落とすしゃらりと袋入りの金属音。
「ちょっと気性の荒い走龍を処分しようと思ったのですがいい伝手が無くて……、良いお店をご存じだと伺って……勿論お礼も致しますので」
 直ぐに青年は顔を上げる。何故、その事を知っているのか、と。しかし、問い質しはしない。今の自分に必要なものは生きるための手段、つまり金銭だ。今までぬるま湯の中にいた青年は、この過酷な状況から少しでも逃げたいだろう。
 青年は、クアンタの耳元で一言だけ囁いた。

「源繋。旅宿『玉津』くさかんむりのアオの間、だ」

●これこれ云々
 開拓者達全員は、一度源繋に合流した。各情報を纏めるためだ。場所は犬、猫と戯れる甘味処……
「うむ……今回はどうするか」
「お、ディヤー君! みたらしだんごあるぞ」
「ほほう、では余はそれに」
 と早矢が増えて、更にディヤーのやんちゃっぷりが目に見えるも、気にせず(寧ろ一名微笑ましげに観察しながら)従者達は阿尾の情報を聞いていた。
「杉屋と柊屋に関連性は、表向きにはありませんね。と言うより楓屋と異なり、柊屋が格下過ぎて杉屋は相手にしてません」
 他に源繋以外の走龍の商家の入手も、あるにはあったが、しっかり申請はされていたと言う。
「やはり、高戸様が行っていたように、ここから目星をつけるのは無理のようですわね」
 楓屋で聞いた、木片の種類の違いについて、アムルタートと早矢は喋る。と、言うよりここ以外まともに話が聞けなかったのだが………
 その話にディーヤは、誰かが楓屋を嵌めた可能性を考えた。誰かが仁生で楓屋の荷箱を手に入れ、それを翡翠山に置いたのではないか、と。団子を黙々と食みながら予測していた。
 そして話は、クアンタが聞いた源繋のとある旅宿の話になる。
「玉津と言えば、相棒と泊まれる旅宿、と賢吏殿が言っていた一つですよ」
 と阿尾が呟く。
(「どうでもいい、と言いながらちゃっかり調べるんだな」)

 あの場所あの問いで何故その名が出たのか、恐らく何か関係があるのだろうとクアンタは睨んだ。場所も近い。行っておいて損は無いだろう。
「モグモグ……んむ、メアリー殿に聞きたいことがあるのじゃ。笛使わぬか?」
「流石坊っちゃま。私が笛は持ってますわ」
 シリーンが、口の周り甘じょっぱいタレまみれのディヤーを誉める。一応、先程実際に迅鷹が来るか、クアンタと先に試したのだ。
 その様子を一人眺めるクアンタ。
「ディヤー様、メアリーに聞きたいことがあるのなら良い方法がありますよ?」
 口元を吊り上げて、ディヤーに進言するクアンタに嫌な予感を覚えるシリーンであった……
「ねーねー。そう言えば、ここで笛吹いちゃって良いの?」
 アムルタートが心配するのも良くわかる。他人様の施設で、堂々と会話や迅鷹の呼び出しをして良いものだろうか……
「問題ありません。この甘味処、賢吏殿の息がかかっている……と言うより、この甘味処造ったのも、あの賢吏殿です」
「……わー」

●王手
 アムルタート、シリーン、クアンタは旅宿『玉津』の前にいた。何処にでもよくある、普通の宿だ。ただ違うと言えば、厩舎が備え付けてあることだろう。馬や小型の龍くらいなら、入れそうだ。
「こんにちわ〜♪あのね、ここのこと聞きたいんだけど良いかな?」
 アムルタートが旅宿で対応する。宿を探して調べている、と言えば従者二人が相棒を連れてたことにより、あっさり教えて貰った。
「へ〜赤とか、青とか、お部屋の名前が色になってるんだ♪ あれ?部屋ってこれだけ?」
 そんな風にアムルタートが説明を聞いている間、シリーンは手がかりが無いかと周りを見渡す。
 宿屋に卸した荷だろうか、空の荷箱が幾つも積まれていた。
「シリーンこれって」
「ええ、ディヤー様が言ってた……」


 翡翠山にて、エルフであるメアリー・ブロドは客人にドクダミ茶を用意していた。
「確かに『運ばせる』と書いたが、身共も想定外だ」
「余もだ。なかなかに面白かったがの」
 客人とは、ディヤーと早矢とその相棒、夜空であった。
 どうやら、メアリーの相棒である上位迅鷹が他人同化を覚えていたらしく、そのままディヤーに同化し、ここまで飛んできたのだ。
 同時に早矢は、翔馬で彼に付き添い翡翠山を眺めていた。走龍を密かに運ぶための道があるのかと思ったが、少なくとも上空から確認出来なかった。今はお茶をもらい、舌鼓を打っている。凛として、清楚、それでいて冷たさを見せぬ表情。話には聞いていたが、本当にこの女性が沢山の走龍を殺してきたとは、早矢にはとても思えなかった。
「確かに覚えさせていた……な」
 お疲れさま、とディヤーが大きな迅鷹の頭を撫でる。その様子に早矢は傍らで悶えている。
 ところで、とディヤーが一枚の紙をメアリーに見せた。勿論、杉屋の家紋の入ったアレである。
「この家紋と同じ木片があったら貰いたいが構わぬか?」
 メアリーはその家紋を見たまま、無い、と一言呟く。
「貴様達に渡したアレが全てだ」
「「え?」」
 二人の揃った返答に、更にメアリーは説明する。自分は捨てられた走龍の傍らにあった木片に書かれた家紋の商家しか襲ってない……と。
「簡素に纏めるなら、身共はその商家は襲っていない」



 ほぼ同じ時刻。旅宿の手がかりから、クアンタとシリーンは、一つの可能性に至った。
「間違いない。こいつは杉屋の荷箱だ」