【源繋】走龍キラー2
マスター名:月宵
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 4人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/11/24 12:03



■オープニング本文

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 開拓者達の調査が終わり、あれから数週間の月日が、源繋に流れていた。未だに走龍キラーは捕まってはいない。
 開拓者に調査依頼を頼んだその人、高戸 賢吏は結局自ら犯人を名乗るメアリー・ブロドを指名手配はしなかった。
 開拓者達の話を聞く限り、当初予定していた、メアリーの復讐による走龍虐殺。と言う説は、どうも違う様に思える。何より、とある村では恩人だとすら称されている。
 そんな人物を、直ぐ様指名手配する気に彼はならなかった。

 だが、彼もこのまま次の犠牲者ならぬ、犠牲龍を出す気はなかった。

●襲撃の夜、新たな手がかり。
 メアリーは再び、源繋の中へ侵入を果たしていた。彼女は耳を澄ます、視線の先は暗闇だが、彼女にはしっかりとその声が届いていた。
 走龍の僅かな鳴き声。息遣い。
 メアリーにはそれで充分。彼女は弓の弦を引き、指を……離す。
 風を裂いて、矢じりは放物線を描き、的を狙う。
 バキッ
 だが、彼女が聞いたのは常に聞いた、自らを芯より震わせたあの断末魔ではなかった。何かが折れる音、自らへ直線上に向けられた明かりであった。

「メアリー・ブロドか?」
 光源の先には、一人の長身の男。
「貴様……何故に気付いた?身共がここを襲うと」
 メアリーはその場を動かず、男へと問う。
「強いて言えば『勘』……だろうな」
 男はそれだけ言うと、手にしていた得物を下ろした。男には苛立ちが見える、だが他に驚嘆を覚えているのも、所作によりメアリーには理解出来た。
「俺は高戸 賢吏。この源繋の統治者だ」
「ほう、それで原因の身共を、取り除きに来たか……」
 煽動するかの様な言葉に、賢吏は首を横に振ってこう答えた。俺は生物を一切殺せない、と。
「この世に生きるものにしては、甘いことだ……」
「それでも俺は、生物を愛している。だからこそ問う、走龍キラー。何故走龍たん達を殺すんだ?」

「この期に及んで……か」
 メアリーはその言葉だけを呟いてから、あることを思い出す。それは数週間前の侵入者。その彼女も今の賢吏と同じく、こう言い切ったのだ。
『私はあなたが復讐のために、走龍を殺したとは思えません』
 そこで繋がる。この賢吏こそが、開拓者達に依頼したのだろうと……彼女の心に一つの可能性が生まれる。
 それはとっくに諦めていた、一つの確率であった。
「其れほどに真実が知りたくば、翡翠山を調べろ」
 翡翠山。賢吏は、その場所を知っていた。開拓者に調査を依頼した山で、翡翠色の鱗を持つ走龍が、生息しているらしい。その為に、アヤカシがあまりいないとも聞く。
 山裾は兎も角、奥地は全くの未開とも聞いていた。
 尤も、山の奥地に踏みいるのを警告した人こそ、このメアリーなのだが。
「好きに調べろ、身共は邪魔はせぬ。今宵は退く」
 そう言ってメアリーは光届かぬ場所へと、頭巾を被り走り去って一体。賢吏は追うこともなく、ただ龍舎の壁に体を凭れさせて、木刀を片手にぶら下げたまま呟く。

「翡翠山……俺も行くべきだろうな」
 その視線の先には、叩き落した弓矢があった……


■参加者一覧
アムルタート(ib6632
16歳・女・ジ
クアンタ(ib6808
22歳・女・砂
シリーン=サマン(ib8529
18歳・女・砂
ディヤー・アル=バクル(ib8530
11歳・男・砂


■リプレイ本文

 賢吏と開拓者達は、賢吏の自室で準備をしていた。前以て、源繋でも少し話が聞きたいと賢吏に言えば了承する。遅くならないように、と釘を刺し。
 開拓者四人は楓屋へと向かっていた。
「なんかちょっとドッキドキかも〜♪」
 前回の依頼から、怪しさを醸し出す事件にアムルタート(ib6632)は一回転、二回転と舞いながら楓屋の店へ向かった。
「希儀踏破は面白かったのう!」
 未知なる土地への踏み込みを、 ディヤー・アル=バクル(ib8530)は物見遊山気分に心を躍らせていた。キャンディボックスに寿司詰折りと、正にピクニックだ。
「坊ちゃま。山に行く前から、はしゃいでは疲れてしまいますよ」
 それを優しく諭すのは、シリーン=サマン(ib8529)だ。が、ディヤーの為にと、しっかり重箱弁当を持参していては、なんら説得力は持たない。

●行きはよいよい……
 開拓者達は、楓屋の前へと到着した。その中でも、これ以上走龍への被害は止めたいと、人一倍クアンタ(ib6808)は考えていた。
(「この際、致し方ないか……」)
 彼女は頭部に手を掛けて、顔を覆うフードを剥がし、相棒、プトレマイオスの羽を一枚髪にさした。
「おっはよー!えっと、楓屋さんはここで良いのかな?」
 ヴィヌイシュタルはもう、アムルタートの代名詞かも知れない。
 前依頼にて、龍舎を訪ねたこともあり、店主は快諾し、調教師に話を聞くことになった。
 小部屋に通され、アムルタートとクアンタは話を聞いた。
「先ず、襲撃を受けた走龍について聞きたい。一体どこから、あの走龍を入手した?」
「ああ、……全て源繋で仕入れている」
 調教師によれば、元々源繋では生物の飼育が盛んな為、通常よりも信頼出来て、尚且つ安価で提供出来るのだと言う。
「『行きはヨイヨイ』とは、どういう意味なの?」
「それは、賢吏様が作った制度さ」
 調教師の話を、詳しく言えばこうだ。確かに走龍は、比較的安価で手に入れることが出来る。しかし、不当な理由による処分や引き取りには、それ相応の金がかかるのだ。
 調教師からして言えば、元より扱い難くい走龍なのだから、買いすぎを防ぐための、それ相応の処置だ、と彼は頷いた。
「今回の様な場合は、心配無いしな」
 今回とは、以前に襲撃を受けた走龍のことだろう。そこに話が及んだのを見て、アムルタートが口を開いた。
「そういえば新しい走龍さんって杉屋って人から貰うんだって?高戸が言ってた〜。今までもその人から貰ってるの?沢山龍用意できるんだね〜」
 その言葉に、あからさまに顔を曇らせた。
「どうしたの?何か変な顔してる」
 調教師が一度、外を見る。そこでは店主がディヤーとシリーンの相手をしているのが見えた。

「なぁあなぁ、これ何だ!」
「恐らく、胡椒の粒でしょう」
「これは、どこかに卸したりなさります?」
「はい、店の規模も小さいので、仁生や楼港を往復しておりますよ」

 調教師は安堵する。あまり聞かれたくはないの話かも、とクアンタは勘付いた。
「まさか……本当は主様とて、嫌で嫌で仕方ないだろうな。彼処に借りを作るなんて……」
 杉屋は中々に大手の商家で、走龍もそれなりの数を揃えていると言う。だが、あまり良い噂を聞かないため、関わりたくは無いらしい。楓屋の主も、表向きは笑みを浮かべるが、実際は歯噛みしているらしい。
「走龍の扱いも雑なんだ。いくら雑食だからと、同じものばかり食べさせるのはどうかと思わないか?!」
「お、落ち着いて〜。ね?」
「ああ…悪い。あの事件で色々とな」
 アムルタートの浮かべた笑みに、調教師は頷いた。

 調教師との話を終え、クアンタとアムルタートは軒先まで出た。
「しかし、あの走龍は本当に残念であったのう……仲間も鳴いておったわ」
「はい。ジルベリア種の良い毛並みのメスでした……つがいの片割れでした」
 そう、ホロホロと目元を拭う楓屋の店主に、共感するようにディヤーは何度も頷いていた。
 どうやら、店主からもいくらかの情報は引き出せたらしいなと、クアンタはシリーンを眺めながら思案した。

 時間は半刻は過ぎ、そのまま山全員はへ向かった。


「ディヤー様、こちらを」
「うむ、感謝するのじゃ」
 クアンタは、疲れたであろうとディヤーに水と樹糖を渡すも、ディヤーは水は受けとるものの、自ら頬を示し飴の存在を知らせる。そう言えば先程から、主にしては会話が無かったな、と彼女が思い当たれば、それが飴であったのかと、納得した。
 足を止めたその場所、山守の小屋。
 つまりは、メアリーの小屋の前だ。目的はと言えば、彼女に案内を頼めないかというものであった。シリーンが、戸を叩く。
「すみません、メアリー様。いらっしゃいませんか?」
 反応は無い。戸を一目見れば、鍵がかかっていないのは、すぐわかった。シリーンは意を決して、小屋の戸を開いた。
「留守〜みたいだねぇ?」
 次いでアムルタートが中を覗き込むと、部屋はこぢんまりしているものの整頓がなされているのがわかった。しかし、部屋にはしっかり生活感は溢れている。黄色や白の走龍の皮や毛で、造られた装飾具や鞄が、幾つも並んでいた。恐らく、これを売って生活費に当てているのでは、と考えられる。

「しかし妙じゃのぅ」
 ディヤーが呟くと、部屋の中を見渡した。そう、この部屋には翡翠色の走龍の装飾品は見当たらないのだ。
「もう売ってしまったから、無いのでは?」
「んーでもでも、麓の村で見たことないよ」
 アムルタートは、前に少しだけ村で話を聞いていた。 メアリーは確かに、走龍を狩って加工して売ってはいたらしい。だが、その色に翡翠色の商品は無かったという。
「大体アルカマル種とジルベリア種ですよ。襲撃を受けた走龍たんは、遺体はそのままでしたし」
 白と黄色の走龍は、まず天儀では見かけない。賢吏はこれが、直ぐに諸外国の走龍だと見分けた。それならば、メアリーは何処からこの走龍を手に入れたのか、と不思議にも思った。

 こうして、全員は小屋を出て、奥地に向かった。クアンタは東方面へ、他の面子は西方面へと向かった……

●水音
 アムルタート、シリーン、ディヤー、賢吏はひたすら西へと向かっていた。時折、後々迷子にならないようにアムルタートが、白墨を使い木々に目印で丸を描いていた。
「水音、と言うことはやはり、水飲み場じゃろうな」
 ディヤーはそう言いながら、進む方向からの水音が近くなるのを実感していた。
「はい。ですがやはり、生き物の姿が見当たりません」
 バダドサイトを駆使して、先まで見通すシリーンであったが、やはり小動物は愚か、鳥の姿すら見当たらない。賢吏はその言葉の意味を受け取り、山の閑静を染みるように沈黙した。
「ところで、サマン。 お主が以前メアリー殿に受けた警告、繰り返せるか」
 ディヤーは一つ考えていた。メアリーの警告は、危険を知らせるものでなく、外敵に対するものでは無かったのか………と。だが、シリーンは首を横に振った。
「申し訳ありませんが、あの時は偶然でしたので」

 そんな事を話しながら、彼らは前進していた。ここで時間を戻して、東側へ進んだクアンタを確認しよう。


 クアンタは、生い茂る草葉をショーテルで切り払い抜けて、道なき道を歩いていた。この場所、特に目印も目的地も無い。彼女はどうにか開けた箇所を、バダドサイトで探りながら歩を進め……やがて一つの光景に行き当たった。

 何より、この鼻を裂くほど異臭、死臭だ。
「なんなんだ、うっ」
 彼女は思わず、口と鼻を頭巾で覆った。今にも戻しそうな其を、どうにか生唾と嚥下すれば辺りを改めて見回した。
 それは、おびただしい数の走龍の死体。鋭く美しい鱗は、その姿を残すも腐肉と化したものもあった。
 何時までも、不気味さに棒立ちになっているワケにも行かない。そう思い、クアンタはしゃがんで、比較的新しい走龍の遺骸を調べた。
 肌から心臓に突き刺さる程の冷たい首を、持ち上げた。そこには、唯一つ、何かで刺した小さな傷が残っていた。クアンタがそれがどういった傷で、それこそが唯一の走龍の致命傷であることを、前回の調査で知っていた。

 そう、走龍キラー、メアリー・ブロドが走龍を殺めた方法と全く一致していた。
(「商家の走龍だけじゃ無いのか」)
 そしてクアンタは、やはり死んだ走龍の中に翡色の走龍がいないことが気になった。
 走龍の遺骸を調べ終えれば、彼女は人の入った後が無いかと、くまなく辺りを調べる。すると、一つの事がわかった。地面に走龍の足跡以外は無かったが、不自然に木々の枝葉が落ちていた部分を見つけた。
 恐らくメアリーが木に登ったのだろう。

 そして、クアンタは、この場所に他に敵意を持つものの存在が無いことを確認した。とは言うのも、それらしき生物はすでに掃討されていたのだが……
 こうして、クアンタはまた場所を確認しながら、進み始めた。

●野生?の走龍
 西へと更に向かった、ディヤー達はいよいよ水音へと近付いていた。
「水飲み場みたいですよ。走龍が二匹、水を飲んでいますね。」
「待ち伏せせずとも、良さそうじゃな」
 開けた所に抜けると、わき水が溜まる水飲み場があった。
 そして、翡翠色の走龍は此方に感付いたのか、瞳があった瞬間互いに身体を強張らせる。アムルタートは、得物に手をかけるも、その間すら惜しいと走龍達は逃げ出した。
「やはりのう、ヒトは怖いか」
「これだけ数がいれば、ね」
 さすがに野生の走龍とはいえ、自分より数がいれば襲うことはない。
 だからこそ、麓の村を襲った走龍が、謎なわけだが。
 一先ず、走龍がいた水飲み場まで移動をした。
 ぬかるんだ土にあるのは、走龍の足跡ばかりで、他にヒトが踏みいった形跡は無い。
 アムルタートは何か思い付いたのか、手を一つと打ってから賢吏に話し掛けた。
「そだ!高戸さん。心眼って、使える〜?あったら、お願いしたいんだ〜」
 その提案に賢吏は頷けば、意識を集中させ呟く。最初の二匹、そして近付く一匹。
 グァァァァ!
 賢吏が言うと同時に、それは現れた。 此方へ敵意を剥き出しにした、一匹の白い鱗を持つ、赤い瞳の走龍であった。
「皆様行きましょう。坊ちゃま、アムルタート様、前へ!」
 最初に動いたのは、シリーンによる戦陣による指揮。
「君の相手はわたしだよー♪」
 ほぼ同時に、アムルタートは歩を進め、身体を輝かせて、足を鞭で狙う。呻きと、よろめきを与える。そこに、ディヤーが素早く追撃した。
 それでも、回避を試みる走龍。結果は腕を浅く斬るのみに終わる。そして、走龍は素早く後方にいたシリーンへと、視線を向け……そして、加速、擦れ違い、鋭角な翼がシリーンを襲った。
「サマン!」
 シリーンには今の術技に、見覚えがあった。走龍の相棒が扱う『龍翼刃』だ。とてもではないが、野生の走龍が使えるとは思えない。がむしゃらに爪で攻撃を、賢吏に行うも彼は木刀で受け流す。
 最後は、シリーンの至近距離ブラストショットが炸裂し、白い走龍は逃げていく。
「あ、待たぬか!」
 手当てをしてやろうと考えていたディヤーであったが、とうに走龍は彼方に消えていた。

 再び、生物の気配を探るがもう、この場所には走龍はいないようであった。
「あの毛色、ジルベリア種?」
 見晴らしもよく、湧水のあるこの場所で一同はシリーンの手当ても兼ねて、休憩と昼食を始めていた。
「ディヤー様、お腹空かれたでしょう?」
「いや、それよりおぬしは大丈夫か?」
 微笑みを僅かに浮かべながら、てきぱき重箱の蓋を開けてゆくシリーン。
「はい、まだ痛みますが、動けないほどではないので……」
「あ、ディヤー。このお寿司貰うね♪」
「ぬぬ!それは余の玉子ではないか!」
「フフ……皆さま。そんな、急かずとも沢山ありますよ。賢吏様もどうぞ?」

 こうして、楽しい昼食を終えれば、先に進むのであった……

●この期に及んで
 ディヤー達が進んだ先には、柵そしてその奥に広がる草原があった。そして柵の前にはクアンタが来ていた。どうやら、どちらの方向へ行ってもこの場所に繋がっていたらしい。
「遅かったですね。何かありましたか?」
「うむ。サマンの手当てをしながら弁当を食していた」
 まだ残ってるぞ?と元気に言うディヤーに対し、遠慮しますとクアンタは若干青白い顔色で、首を振った。不信に思ったシリーンは、クアンタの耳元で囁く。何か向こうにあったのか、と。
「後で教える」

 草原、そして大きな岩。その影の近辺には、大きな椀状の籠。そしてその中には……
「走龍たんの幼生だとー!!」
 と、賢吏が飛びかかり、いとおしげに抱き込む。
「噛まれておるのに、笑顔じゃの……」
「高戸って、こ〜いう趣味なんだね〜」
 若干引き気味な、アムルタートとディヤー。そんな三人とは別に、シリーンとクアンタは籠に挟まれていた文と木片を見つけた。
「何かしらね、これ?」
 クアンタが手に取った木片は、元は何かの板であったらしく、焼き印が施してあった。
 シリーンは文を広げ、ゆっくりと皆に語りかける様に朗読し始めた。
「この文を見たと言うことは、貴様らがあの場所を抜けたということだろう……」
 それはメアリーからの、置き手紙であった。抜粋すれば、この様な話が書いてあった。

 自分が山守になってすぐ、ある異変に気付いた。本来いる筈の翡翠色の走龍が激減していて、代わりに黄色や白の走龍が異常繁殖をしていた。そのせいで、生態系の調節は崩れてしまっていた。
 その直ぐ後で、山の麓の村が走龍に襲撃を受けた。恐らく縄張りを追われたのだろう。
「そこに居る走龍の幼生こそ、身共が殺した走龍の子。理不尽によって、運命を変えたせめてもの責任よ」
 自分は山の中で、ある手掛かりを見つけた。木片で商家の荷箱の一部であること。
 そして……

「身共は、長年に渡り源繋の商家の走龍がこの山に捨てられている事実を知った」
「なん、だと!」
 一番に大声をあげたのは賢吏であったが、他の開拓者達もあんまりな事実に、絶句していた。
「あーあ、本当に怪しくなって来ちゃったな〜」
 これ以上山に、走龍を捨てられてはたまらない。それならば、と自分は走龍を殺すことを考えた。見知らぬ土地で相談も出来ず、どれだけの商家が関わってるかもわからないので、誰にも話せなかった、そう書いてあった。
「もし貴様らがその商家をつきとめ、捕縛したならば、身共は自らお縄になる」
 最後に、笛が一つ添えられ、『身共と連絡がとりたい時は吹いてくれ、運ばせる』と書かれ、文は終わっていた。
「くっそー!何と酷いことをするのじゃ!」
 ディヤーは年相応の地団駄を踏みながら、悔しさを滲ませつつも絶対捕まえると意気込む。

 「もう日が暮れます。今は……帰りましょう」
 シリーンだけは、表情を崩さず、そう言い放った。