開拓村未満〜八月
マスター名:龍河流
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/09/14 00:24



■オープニング本文

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 開拓者達が帰ってから、開拓予定地の少年少女は異様に石投げの技を磨いてくれた。

「誰だ、射線交差や連続投射のこつを教えたのは」
「それより、なんで全員で練習するかなぁ」

 特技があるのはいいことだが、もう少し社会性の方を養って欲しいと思うのは、監督役の総意だ。
 なにより、もうちょっと何事にも我慢強くいて欲しいと、そう思っていたら。

「時間、掛かった。四時間くらい?」
「五時間は掛かったよ。ちょっと腰が痛いや」
「でもすげーな、七つもとれたんだ」

 三十人の中では物静かな少女が二人、半日近く行方をくらましたと思えば、小型の野鳥を七羽も捕まえてきた。
 事情を聞いたら、林の中に罠を張って、延々と野鳥が掛かるのを待っていたらしい。
 罠と言っても、籠を逆さにして、つっかえ棒で隙間を作り、その下に餌を撒いておく子供だましだ。棒に紐を付けて、鳥が籠の下に入ったら引くという、あれ。
 騎士や兵士達も、子供の頃にやってみたことはあるが、あれは息を潜めて観察するのが大変で、なかなか鳥が近付いてこない。それを何度も成功させるとは、かなりの隠行ぶりと言えよう。
 そういう特技があってもいいが、出掛けたいなら一言断って行けと教えるのは一苦労だ。
 加えて、鳥は一羽二羽と数えてもらいたい。

「はー、これをあんな罠で? ふぅん、でも時間掛かりすぎじゃない?」

 監督役の大半は、社会常識を三十人に植え付ける方法に頭を捻っていたが、騎士の一人、唯一の女性は違うことを思い出していた。
 鳥を捕まえるなら、固いパンの欠片を強い酒に一晩浸して、それを鳥が来る原っぱに撒くといいと、実行してくれたのだ。
 これを鳥がついばむ。わざと大きめの欠片にしてあるから、食べるのに時間が掛かる。
 すると、鳥の大きさにもよるが、酒が回って飛べなくなって、子供でも容易に捕まえられる‥‥

「って、あんた、子供の時にそんなことしてたのか?!」
「だってほら、あたしはテュールだから、ご領主に奉公する代わりに、村の租税減らしてもらえたクチなのよ。子供の頃は必死に食べ物集めたわよ」
「俺も同じく奉公だけど、そんな狩りはしなかったなぁ。酒があるだけ、村は裕福じゃねえ?」
「一番の納税品をちょろまかしたって、そりゃあ怒られたものよ」
「おまえら、ほんとはなんなの?」

 監督役は騎士や兵士という職分でも、生まれは農村だ。だから捕らえた鳥を絞めるのも、羽を処理して捌くのも、平然と手早くやってのけた。
 少年少女の中には、肉はたまになんらかの方法で手に入れたくず肉か、自分達で中途半端に処理したものが一番のご馳走だったという者ばかりで、きちんと処理と熟成、更に下拵えがされた肉料理を口にして、取り繕うこともなく感動していたが。

「おまえ達の仕事は、石拾いだから。狩りだの罠だのに夢中になるな」
「あと、今度の便で鶏と山羊が来るからな。家畜用の囲いも作るぞ」
「なんだ、食べるんじゃないのか」
「ちゃんと世話をすれば、卵とチーズが食べられるようになるよ。ちゃ・ん・と・世・話・を・す・れ・ば!!」
「ヤギって、どういう鳥?」

 これに絶句した監督役に代わり、少年の一人が山羊はこういう動物だと地面に絵を描き始めたが‥‥
 それも六本足で羽が生えていて、どんなアヤカシだと尋ねたくなるような代物だった。

 開拓予定地の今月の課題は家畜用の囲い作りだが、どう考えても前途は多難だ。


■参加者一覧
御剣・蓮(ia0928
24歳・女・巫
八十神 蔵人(ia1422
24歳・男・サ
皇 りょう(ia1673
24歳・女・志
明王院 玄牙(ib0357
15歳・男・泰
サブリナ・ナクア(ib0855
25歳・女・巫
フィン・ファルスト(ib0979
19歳・女・騎
三条院真尋(ib7824
28歳・男・砂
エルシア・エルミナール(ib9187
26歳・女・騎


■リプレイ本文

 人には、普段の姿からは予想もしない面がある。
「気ぃは済んだか?」
「あぁ、もう到着してしまったのか」
 仔山羊を抱えてうっとりしていた皇 りょう(ia1673)は、八十神 蔵人(ia1422)に声を掛けられて、ようやく我に返ったらしい。
「志士だったよね?」
「それは事実だと思いますよ?」
 挨拶の時と印象が違うと感心と呆然とが相半ばしたフィン・ファルスト(ib0979)に、なぜか語尾が疑問形になってしまった明王院 玄牙(ib0357)が応えた。こちらの二人は、とっとと移動の馬車から飛び降りている。
「山羊が一頭足りないねえ」
「ちょっとー、まだそっちに持って行ってるのー? 早く戻してよー」
 別の馬車から降りて、家畜が載せられた馬車を覗いたサブリナ・ナクア(ib0855)はもう笑うしかないといった様子で、反対に深ぁく嘆息した三条院真尋(ib7824)が呼びかけている。これから、きっと山羊を初めて見る面々に引き合わせるのだから、母山羊を興奮させたくはない。
「生き物の世話をすることで、少しは勤勉さが身につくといいのですが」
「いきなり食べてしまわないように、根本から教え込むのが先かと思いまするな」
 一番大事なのは誠実さだが、なんと言っても生き物は世話を怠ると弱るからと、毎回色々と心労が溜まる御剣・蓮(ia0928)が鶏の詰められた籠を下ろしながら言えば、大抵の者が頷きかけた。止まってしまったのは、エルシア・エルミナール(ib9187)の危惧に同意してしまうからだ。
 そんなことはないだろうと思うのは今回初めて話題の少年少女達に出会うフィンで、こんな愛らしいものを食べるなんてとりょうは主張している。
 仔山羊にうっとりしているりょうのような感性を、少年少女達も持っていたらと期待する向きもあったが、
「これ、どう肉にするの?」
 彼らは、速やかに食欲に走った。
 という訳で、到着直後の三時間ほどは、家畜飼育の心得と小屋の作成の簡単な説明等に費やされた。反応の大半は『なんだ、食べられないのか』だが、そこは予想のうち。
 教えることとその方法とは、今回も練りに練ってあるのだ。

 まず、三十人を作業ごとに担当分けして、専業化を計る。得意分野を伸ばすのと同時に、いずれかの作業が停滞すれば全体に迷惑が掛かること、逆に効率が上がれば貢献になることを覚えさせ、街に戻った時にも集団生活に馴染めるように教育していく。
「分担項目は相談として、割振りは日常的に関わっている皆様にお任せしたいのですが」
蓮に班分けの担当を依頼された監督役達は流石に全員の様子をよく把握していた。合間に、誰それはこの点に注意が必要と説明を挟んでもらい、顔と名前と特性の一致に努めていたフィンは、テイワズの二人が力仕事から外されたのに、目を瞬かせた。筋力を活かせる仕事をさせたらと思うわけだが、少年少女達は二人がこなせると思ったら見ているだけだと聞いて納得する。
「普通は、他の作業を進んでするもんね。あたしも手を出し過ぎないように、気を付けないといけないのか」
「手伝いに扱き使ったらええんや。まだ全体を見て作業するっちゅう状態にはなっとらんし、細々指示したらんとぼけっとするで」
 問題は、指示を嫌がる傾向があることだ。これはもう、作業がちゃんと進まなかったら胃袋に直結して被害が出る方式で攻めるのがいいとは八十神の意見だ。実際、仕事をちゃんとしなければ食事に事欠く事になるのは、街でもどこでも変わりはない。
 反対に頑張れば報いがあると、これも分かりやすく食事でご褒美とすることになったが、そもそも美味しいものが作れなければ意味がない。当初の食べられるなら何でもいいが改善して来たのを幸い、こちらは三条院が中心になって対応することになっていた。
「いただきますとご馳走様も徹底させないとね。あ、一度ここにある物で作れるちょっと豪勢なものを食べさせて、やる気を伸ばしたいんだけど‥‥材料って余裕あるかしら?」
 食材はどうしても限られるが、量は十分に余裕があると返答を得て、三条院は軽い足取りで倉庫に確認に出掛けた。手にしている数種類の匙は、サブリナが作った調味料を計るためのものだ。三条院はだいたい目分量で料理をこなせるが、少年少女達にはこれの使用も徹底させる予定でいる。
「山羊の乳や卵から作れる料理も作って見せれば、世話にも力が入ると思って、幾つか料理を調べてみました」
 年齢の割に家庭料理なら達者な明王院も色々考えてきていて、山羊乳や卵、乾燥野菜などを使うジルベリア料理の作り方の覚え書きを持っていた。エルシアやフィン、サブリナがそれを覗いて、自分の地元だと味付けがこう違うとか言うので、それらもきちんと書いていく。
「食事の席も、朝食は作業の班毎にしてみませんか。元々の仲間同士の方が気は楽でしょうけれど、街に出ればそれでは通用しませんから」
 今のうちに、仕事の仲間と色々な時間を一緒に過ごす経験を積ませてみよう。蓮の提案は、その日の作業の相談をするのにもよいからと、翌々日から実行される事になった。
 なぜなら、班分け行動の決定はその日の内に済んだが、それぞれの作業の詳しい説明は翌日になったからだ。大事な説明を食事時にすると、事故の原因になりかねない。
 そうやって気を使っても、困ったことは起きるのだが。

 困ったことの一つ目は、五人の少年と一緒に近くの森に出掛けた八十神とサブリナを見舞っていた。八十神は狩りの基本を教えると同時に、罠の一部が家畜や自分達を守る役にも立つことを主に教えるつもりだ。サブリナは香草を主眼に、役に立つ植生の有無の確認と加工方法の伝授が目標だったが。
「あんなぁ、毒草は街に持ち込んだら、それだけで捕まるところがあるんやで。ついでにこの麻は、火ぃ付けても変なことにはならん」
 大麻の使い方を知っている少年がいて、八十神は頭が痛い。これを教えた闇医者と知人になるだろうサブリナに、危険人物じゃないかと目顔で語りかけた。
「じゃあ、葉っぱは置いてくか。やり方は知らないけど、茎でなんか作れるんだろ?」
「そうだね、繊維が取れる。糸や紐が作れるけど、家畜小屋に間に合わせるなら蔓草を編むほうが早いかね。で、キーラは何に使ってた?」
「もうすぐ死ぬ奴に煙を吸わせると、あんまり苦しまないって」
 今までを考えたら素直に教えてくれたわけだが、あまりいい話ではない。キーラを知らない少年達も、それは便利だとか口にするのだから、八十神の頭痛はいや増すが‥‥この点はやはり医者のサブリナがきっぱりと解説してくれた。
「薬草だって使い道が良く分からない人間が使うと、回りを巻き込む。仲間を死なせたくないなら、採るのは食べられるものだけにおし」
 あと使うものも採っていいが、どちらも手当たり次第は駄目。二人掛かりでしつこく繰り返されて、少年達はとりあえず言われた通りに香草の類を探し始めた。
 そんなことをしていたら、もちろん動物の影など見付かるわけもなく。ついでに開拓者込みで四十人を超える人数を養うほど大型の獣はあまり居なさそうな様子に、八十神はウサギがせいぜいかと残念半分、安堵半分でいた。大きくても、肉食獣がいないのは幸いだ。

 困ったことの二つ目は、エルシアが出くわしていた。正確には、目の前で勃発したので、しばし眺めてから実力行使で介入、鎮圧している。
「よいですか。貴方達は人より力があるのであります。うかつに喧嘩などして、相手がテイワズでなければ人殺しになれますですよ」
 地面に憮然とした顔で座っているのは、アルミアとサヴァーのテイワズ二人だ。住居の壁補修の作業中に、何がどうしたものか言い争いをはじめ、そこから殴りあいに発展した。少しばかり怪我をしているがたいしたことはない。そうなる前に、エルシアが止めてくれたからだとは、二人は理解していないだろう。
 喧嘩の原因を尋ねても言わない。反省の弁もない。という訳で、エルシアはあっさり『夕飯抜き』を申し渡した。
「痴情のもつれ、作業での意見の相違、過去の遺恨などはありませんでしょう。些細な話題の行き違いから、逆上した結果と思いまするがどうです?」
 何を言われているのか分からないと心底思っている顔だった二人も、続けられたエルシアの台詞は正しく理解出来たらしい。
「私は騒ぎが起きるのを止められませんでした。だから、一緒に夕飯抜きになりますです」
 ことの成り行きを『また説教が続く』と思って見守っていた少年少女達も、先に夕飯抜きを宣告された二人も、目を丸くしてエルシアを見ていた。そう言った理由は、分からないのだ。

 いきなり夕飯抜きが三人も出て、驚かされたのは料理の指導をしていた明王院と三条院だ。前回の反省を元に、塩の計り方を料理担当の少年一人と少女五人に教えていたのに、六人とも喧嘩騒ぎに気を取られて、手元と記憶が疎かになっていくのが丸分かりでまた頭が痛い。
「よそ見しない。味付けに失敗したら、皆から文句を言われますよ」
「‥‥何杯入れたっけ?」
 料理の基礎がまるきりなっていない人達に、大鍋で調理させるのがまず問題なんだなと明王院は理解したが、調理道具も限られるので改善するのは難しい。だから味見で、後どのくらい調味料を入れたらいいのか考えさせようと思ったら、今度は味見ではない量を口に入れ始めるから止めなくてはならない。
「自分達だけいい思いをするんじゃないわよ。それこそ喧嘩のもとになるでしょ」
 三条院にも叱られて、作っているのに食べられないと不平たらたらながら、六人は料理に戻っている。とはいえ、野菜の大きさがばらばらで、火の通り具合が怪しい事に変わりはない。
 まあ、今日の所は出来る範囲で頑張らせるのが、調理担当班の方針だ。明日は三条院と明王院の二人で腕を振るってのご馳走の日なので、そちらと比べれば、より美味しいものを食べたい欲求で色々覚えてもらえるはず。
 この期待を実現するのに必要な香草を、採取に出掛けた班が採ってきたので、三条院は大喜びだ。少年少女達もその態度で期待を膨らませている。
「喧嘩やさぼりは夕飯抜きになりますから、明日も仕事を頑張りましょうね」
 ついついこう言ってしまうので、明王院はぶうぶう文句をぶつけられているが、当人は聞き流す事にしたようだ。

 翌日。
「さあ、今日はご馳走が待っているからな。さぼって品数を減らされないように、頑張ろうじゃないか」
 朝一番から、りょうが晴れ晴れとした顔で少年少女達に話しかけている。この呼び掛けには十人ほど割り振られた少年少女達も同感らしいが、残念ながらやる気のほうは今ひとつだ。前日の作業の最後で、柵の柱を立てるための穴を掘っていたら、大きな岩に当たってしまったからだ。
 本日はフィンも監督に入っているし、騎士も一人いるから、三人掛かりで叩き割れば事は簡単だ。でもそれでは彼らのためにならないので、フィンは早朝にこっそり騎士やサブリナから岩の割り方を習ってきた。
「今日の作業は、ちょっと手間が掛かって、ぼんやりしてると怪我するからね。でも真面目にやって、手順を覚えたら、色んなところで役に立つよ」
 金属の楔に大きな木槌で、岩の割れ目を広げて掘り返し、運び出せる大きさにしていく方法をフィンとりょうに実演されて、もちろんこの二人だとさくさく進む作業に、少年少女も言われたほど手間ではないとうっかり思ったのだろう。自分達がやると、ちっとも進まないので、すぐに愚痴を零し始めた。
 これがまた、フィンやりょうには考え付かないくらいに後ろ向き。一応手は動いているが、こんな心持ちでは当然力も入っていない。
 だが、りょうがぽかりと一人の少年の頭を叩いたのは、多分彼が『どうせ長生きもしないし』と口にしたからだろう。
「君が死んだら、仲間は悲しいだろうが。この程度の問題で、そんなことは言うな。もっと大変な状態を仲間と助け合ってきたんだろ?」
 仕事の出来は、これから解決のしようがあることだ。だがそれより先に、もっと自分に誇りを持てとたしなめられても、少年少女にはそもそも『誇りを持つ』がどういうことか良く分かっていない。
「ほらほら、こんな岩くらい、棒一本で動かせたりしちゃうのよ。さっ、一緒にぱっぱと避けちゃって、それからお昼ご飯にしようじゃないの」
 後ろ向きに将来を語るくらいなら、とっとと一仕事してご飯を食べるわよと、フィンが全員の尻を叩いて急かした。動かなかったら、昼の弁当は食べてしまうとフィンとりょうが言い出したので、少年少女達も何か言い返したそうな顔でも動き始める。特に後者は本当に食べ尽くしかねないと、今までに実感していたからだろう。

 掘っ立て小屋だった宿舎の壁を、周辺の土地からどんどん出てくる石を積んで補強する作業に加わって、蓮は作業している少年少女の動きを観察していた。何かと悪事を働いてきたとはいえ、これだけいれば性格は色々だ。
今も、石を積むのは上手だが仕上げが荒いのと、仕上げがものすごく丁寧だが作業がとにかく遅いのとが、隣り合わせで手を動かしている。
「おまえ、おっせー」
「後で壊れたら困るでしょ?」
 当人達もお互いの違いに気付いているが、あっちとこっちから壁を作っているばかり。協力したら、さぞかしいい具合の壁になると思われるが、そういう予想は出来ていない。
 作業を速やかに進めるための調整能力は一朝一夕には身につくまいが、思いつくくらいはしないかと様子を見守っていた蓮も、そろそろ指摘した方がいいと考えるに到った。一度方法を示せば、覚えてくれる‥‥かもしれない。
「二人とも、早く完成させる方法を教えますから、試しにやってごらんなさい」
 早く完成するという一言が良かったか、二人は案外素直に蓮の指示通りに分担して壁を積み始めた。途端に、壁の出来は格段に上がっている。
「なんで二人でやってるー?」
「こいつが遅いから、俺が積んでやってる」
「僕がちゃんと塗ってあげてるの」
 でも、その様子を見た別の少年少女達は『ふうん』と納得して、自分達はばらばらに作業を続けていた。ちゃんと見ていないと、手抜きをするのもいる。
 身に付けて欲しいものはやまほどあるが、まだまだ道程は険しいと蓮は溜息をついた。これでも、反発ばかりだった頃よりは成長しているはずだが‥‥
「時間はないのに先は長い、と」
 悩ましいこと、この上ない。

 その翌々日。
「美味しいものが食べたかったら、山羊と鶏を驚かせるのは絶対に駄目ですよ!」
 今度は卵料理に目覚めた一同が完成間近の家畜小屋の周りで騒いでいたのを、作業場所へと追い払いつつ、明王院が口を酸っぱくして家畜の扱いに注意をしている。
 そういえば、今回は誰も明王院に突っかかっていないなと、見ていた人々は今更ながらに気が付いた。