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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 今日も今日とて、少年少女らは生意気だった。 「また来るって。同じのかな?」 「あいつが同い年のはずない。来たら、ホントのことを白状させようぜ」 「もう一人の大きいの、あれ男?」 「前にドーの街の芝居小屋に、ああいうのだけの一座がいたことあったじゃん」 また近々開拓者が来ると知らされてから、べらべら、べらべら、飽きもせずに噂話をしている。 「魔法使い、魔法使わなかったな」 「シシっていたけど、あれなんだろうねぇ?」 「紙切れ出してたのは誰だったっけ?」 結構色々覚えているが、ジルベリアでは開拓者以外は滅多に見ない職種の者は、何が出来るのかさっぱり分かっていなかった。 なにしろ天儀でいうところの志体持ちであるサヴァーとアルミアの二人でさえ、将来その能力を活かした職種を選ぼうとは思っていない。他の少年少女には目指すことすら出来ない技能では、噂話の種にしかならないのだ。 「また、説教女も来るのかな‥‥」 「医者には、水仙の葉っぱでも食わしてえ」 挙げ句の果てに、仕返しの方法を相談している。 監督役の騎士や兵士達は、作業の手が止まらない限りは無駄口も素知らぬ振りを貫いていたが、最後の一言はいただけない。水仙の葉は、食べると腹下しを起こすのだ。計画している当人達の口に入ったら、開拓者や監督役より重症になるのは目に見えている。 ついでに、気になるのは。 「お前ら、どこで水仙が食えないって覚えた? こら、誰に使ったかは聞かないから、白状しろ」 貧民街の緑と言ったら道端の雑草がせいぜいのはずの少年少女の数人、厳密にはドーの街出身者に、時々薬草毒草に詳しい者が混じっているようなのだ。三分の一ほどのフダホロウ貧民街出身者には、そういうことはない。 水仙など咲かない場所で、誤食して覚えることもなかろう。誰かに習ったのだと思われるが、彼らはそういうことはなかなか白状しない。大抵、まだ把握していなかった犯罪暦に繋がるからだ。 しかし、監督役には、今回は切り札があった。 「開拓者が来る時に、お前らの仲間の様子が知らされて来るんだが‥‥その調子なら教えないぞ」 「花街の闇医者と一緒に、時々薬草採りに行ってたんだよ。その時に習ったんだ」 「あいつの仕事をしとくと、後で誰か調子が悪い時に世話してくれたから。あの女が捕まっちまってからは、大変だったんだからな」 『仲間の様子』の一言で、あっさり白状するのには監督役の方が驚いたが、闇医者の手伝いとはまたあまり真っ当そうでない。しかしこの調子なら、食べられる野草も少しは知っていそうだからと、翌日は森の中で食べられるものを探させる事にした。 ところが、森に入ろうという所で事件が起きたのである。 「馬鹿ーっ。犬の前で走ったら駄目だろー!」 今まで散々警戒していても姿を見せなかった野犬と、森の中で突然に遭遇したのだ。あまりに唐突に現われた上に、すでに興奮状態にあった野犬に驚いた少女達が、開拓者に散々注意されたのに走り出す。 数頭の野犬は、どういうわけかいずれも怪我をしていた。中には足の一本が引き千切られているものもいる。野犬だけなら少年少女の対処をぎりぎりまで見守るのが監督役の態度だったが、それを見たら更なる敵を予想した。熊か、ケモノか、もっと悪いものか。 「いいから走れ!!」 野犬以外なら対処は自分達だと剣を抜きかけた監督役より先に、フダホロウ出身者達のリーダー格が叫んだ。 「おっさん達、邪魔ぁっ」 こちらは、同じフダホロウの少女だ。その声に重なって、勢い良く石礫が飛んでくる。 それらは前に出た監督役達の横をすり抜け、野犬に次々と当たっていった。 「去年の暮れに、芸妓誘拐事件の犯人を石で打ったのは、あんた達かー!」 フダホロウから来た騎士の女性が叫んだが、服のあちこちに石を隠していた少年少女は、犬の足を止めたと見るやとっとと逃走に転じている。 監督役達も、その犬達の背後から来たモノを見て、宿舎に向けて走り出した。 「足を止めるなよ、アヤカシだぞ」 犬の鳴き声が遠いから、段々走る速度が落ちてきた少年少女に、騎士が声を張り上げた。 だが幸いに、鬼と思しきアヤカシは野犬を殴り殺して持ち去って、彼らに手は出してこなかった。 「‥‥アヤカシ退治って、罪人がやらされるって、ほんとか?」 少年少女はアヤカシを見るのは初めてで、貧民街での噂を思い出したのか、今までになく蒼い顔で固まっていたが、ガリ家がそれをさせるのは重犯罪者だけだ。彼らは『性根を叩き直してから、連れ帰る』事になっている。 「流石にあれは俺達の領分だが、開拓者にも頼まないと手が足りないなぁ」 「あんた達も一緒に頼むのよ。先月のことも謝って」 開拓者は強いが、実は護衛は仕事に入ってないから断られるかもしれない。仕事の契約上、アヤカシ退治を断られてもガリ家も文句の付けようがないので、騎士達もいささか顔色が悪い。少年少女はもう蒼白だ。 開拓者が到着したのは、彼らが揃って神経をすり減らす一夜を過ごした後だった。 |
■参加者一覧
御剣・蓮(ia0928)
24歳・女・巫
八十神 蔵人(ia1422)
24歳・男・サ
皇 りょう(ia1673)
24歳・女・志
明王院 玄牙(ib0357)
15歳・男・泰
サブリナ・ナクア(ib0855)
25歳・女・巫
三条院真尋(ib7824)
28歳・男・砂
エルシア・エルミナール(ib9187)
26歳・女・騎 |
■リプレイ本文 開拓者達が、文字、文章構成共にぐだぐだの手紙の解読を終えると共に到着した目的地では、難問が持ち上がっていた。 「アヤカシが出たの? 大変」 「そらぁ、またやっかいな。あ、脱走とかはやめとき。大人からはぐれた子供とか、よく狙われるんや」 普通の村なら大騒ぎのアヤカシと数だろうが、多少経験を積んでいる開拓者なら何度かは勝っている相手だ。事前に知らなかったのは痛いが、一般の農村に来るのと違うから装備も問題はなかった。 だから言葉程には三条院真尋(ib7824)も危機感を見せないし、今回初顔見せの八十神 蔵人(ia1422)は落ち着かない少年少女達にまずは釘を刺している。 「野犬はともかく、アヤカシですか‥‥」 アヤカシに怯えた様子で、そういうところは普通の子供と変わりないなと見て取った御剣・蓮(ia0928)は、しかし八十神の注意にむっとした顔付きになる少年達に、相変わらずだと感想を抱いた。些細なこと、更には有益な助言にまで反発するのはどうしたらいいものか。 少なくとも、喉元過ぎればなんとやらでさぼり癖が出ないように、この機会に色々矯正を試みたほうがいい。せめても、人に助けて欲しい時は監督役に促されなくてもお願いしますと言えないと、どこに行っても生活出来まい。 などと、あまりに当たり前のこともどう叩き込むか悩まねばならないのが、この依頼の一番の苦労だとの考えが蓮の頭をちらりと横切った。一番のというか、ほとんど全てがそれだ。 ここは一つ、彼らから頼みごとをするように仕向けるべきではないか。そう蓮は考えた。ちなみに後に確かめたところでは、三条院に八十神も同じ思考だった。サブリナ・ナクア(ib0855)は、もう少し相手の反応が見たかったとのこと。 ところが。 残る三人、皇 りょう(ia1673)、明王院 玄牙(ib0357)、エルシア・エルミナール(ib9187)は、口を揃えてすぐさま退治に行こうと言い出したのだ。討伐計画を立てようでもなく、『さあ行こう、今すぐ行こう。行かない人は置いていく』といった様子である。いや、実際にはちゃんと相談してから出掛けたわけだが。 あまりにあっさり言われてしまい、他の四人の開拓者も口を挟む隙はなく、騎士達と兵士達の特に後者はあからさまに安堵の表情を見せ、少年少女達は何か信じられないものを見た表情で固まっていた。 「こんな時に力を出し渋るのは、家訓に反します」 「騎士の義務でありますです」 「そう、私自身の矜持の問題だ。しかし、アヤカシが出るようなところに、犯罪者とはいえ、護身の術も知らない子供達を寄越すとは‥‥いささか計画が甘いのではないか?」 最終的には、兵士達を少年少女の護衛と見張りを兼ねて残し、開拓者と騎士達の十人でアヤカシはきっちりと退治された。開拓者側の思想信条は色々だが、ここに来た者はいずれも依頼外だと無視する性格ではない。そういう性格なら、そもそもこんな依頼は受けていないだろう。そこに何か付随させるために時間を取るのをよしとするかしないかで、多少態度が異なったという違い。 それでも、一部だけでも少年少女達を討伐に参加させたらいいのではないかと提案した開拓者は複数いるが、それも実行されずじまいだった。騎士達がそれは領内の規律に合わないと反対したのと、少年少女達の一部が何度も口にした闇医者が面識のある人間だと察したサブリナが手紙で入手した情報を元に、今回に限り全面的に守護することにしている。 「居た場所が場所だから、理不尽な暴力に晒されるのも日常茶飯事だったようだし、一度くらいは丸抱えで守ったら、私達が味方だとちょっとは分かる‥‥分かったかねぇ?」 簡単とはいついかなる時も言えまいが、アヤカシを首尾よく退治した帰り道にサブリナが『これで図に乗って、またさぼらなきゃいいが』と心配する面々に苦笑を向け、集落とも呼べない小屋の連なりの方角を見た時にはもう少し楽しげな顔になった。 そこには、どんよりという言葉が似合う風情で、話題になっていた三十人がこちらを見ながら座り込んでいて、戻っていた十人を見付けると、懸命に数を数え始めている。 「‥‥これでもう、突っかかってこられないといいなぁ」 明王院の希望が叶えられるかは不明だが、ちゃんと人数が揃っていたのを確かめた彼らの姿から、まるきり心配されていなかったわけではないことは、十分に察せられた。 兵士達は、口を揃えて言う。 「なんで自分達より偉い奴が危ないところに行くんだって、それは不思議そうで。危険なとこは下っ端が無理やりさせられるって‥‥まあ、それが今までの体験なんでしょう」 あっさりと皆がアヤカシ退治に行ったことに相当驚いた少年少女は、『大人なのにおかしい』で意見が一致していたらしい。相変わらず、明王院の年齢詐称は彼らの中では確定事項だ。 そのうちに、実は自分達が取り残された疑惑やら、出かけた人々がアヤカシに食われた想像が出てきて、そわそわと落ち着かずに皆が戻ってくるのを外でぼんやり待ち焦がれていた。とは、兵士達の見立てだ。 しかし、それは実は気の迷いか目の錯覚ではなかったろうかと、開拓者達は思い始めている。 「死ねぇっ!」 「どうして訓練でそういう台詞が出るんですかっ」 「そこ。基本が全然守れていませんですよ。今はまだ、打ち合いの時間ではないのであります」 一応、前回よりは身を入れて訓練を始めた一同は、しかし性懲りもなく明王院や指導役のエルシアに突っかかっては、あっさりいなされている。明王院に軽くかわされては悔しそうだが、 「離せーっ」 「馬鹿力ー!」 エルシアに片手で押さえ込まれるのは、もっと腹立たしいようだ。相手が騎士だから力が違うと言おうにも、右手でサヴァー、左手でアルミアを身動き出来ないようにした挙げ句、他の少年達を軽い蹴りで転がした光景に、そればかりではないと理解出来たのだろう。 「あなた達は体を使う基礎がまったく出来ていないのでありますですよ。いつまでもアヤカシに怯えているようでは、先が暗そうでありますからな」 年長者が年少者を守れるように。アヤカシはともかく大型動物にも怯えない程度の腕があれば、それが叶うのだと諭したエルシアは、強烈に厳しい教師だったが‥‥特に少年達は訓練に身を入れるようになっていた。指示に従うのは相変わらず嫌々といった態だが、訓練中の動きは幾らかきちんとしてきている。 ただし、それは真っ向から『説教女』と罵られて、平然と『説得と言うであります』と返したエルシアの訓練中だけだから。 「だぁっ、お前ら、本はどこにやった!」 「どっか、あの辺」 「あんなの見たって、なんもわかんねーよ」 薬草採りの経験がある少年少女を連れ出した八十神は、持参した資料の野草図鑑を置き去りにされていた。読み書きがまるで出来ない彼らには、図鑑を参考にする能力が欠けている。よって扱いもぞんざいだ。 とはいえ、食事が少しでも楽しいように香草類を重点的に探せとの指示は、単純に胃袋の欲求と重なったようで、八十神が経験してきた野草探しとは趣きがまるで違うが、あれこれ摘み取ってきていた。中には手当たり次第にそれっぽいものを摘んできて、仲間に仕分けてもらっているのもいる。 「きみ、なにしてるん?」 「うん? いやその、私もそんなに詳しくはないからな、教えてもらっているところだ」 この中には、一緒に作業にやってきたりょうも混じっていたりする。最初は面倒なんか見られるかと突っ撥ねられていたのが、半日頼みまくって、相手が根負けしたものだ。 「雑草ばっかりじゃないよぅ。探すのは、これだってば」 「これは違うのか? ‥‥違うんだな。よし、一本貸してくれ。見本があれば、多分間違えないから」 うろ覚えで摘んだ草が違うと怒られたりょうは、見本を持って再挑戦だ。それを見て、怒っていた少女は手当たり次第派に同様に見本を持たせた。このおかげかどうか、一日がかりで結構な量の香草、薬草が集まっている。 問題は。 「これ、食えん草やないか。持って帰ってどないしたいんや?」 「医者がいるじゃん」 食べられるもの重点、後は訓練の時に使う傷薬やシップに使える薬草と指定したのに、毒草まで摘んできたこと。それらは捨てていこうとした八十神に抵抗した挙げ句、 「これ、医者なら使うだろ? 買え」 「猫いらずでも作れって? キーラも妙な教育をしてたもんだね」 サブリナのところに持ち込んで、買い取らせようとしたのだ。 確かにサブリナと蓮、三条院が同じガリ家の依頼で行った土地にも、ここの少年少女と同じく犯罪行為の償いで送り込まれた医者がいたとは皆が聞かされていた。サブリナが手紙を出して尋ねたら、キーラという医者から『そいつらは知っている』と返事も届いた。凄まじく悪筆で、手紙の体裁も整わない覚え書きみたいな代物で、解読するのに七人がかりでも一日掛かったが、時々一部の少年少女達に薬草採りの仕事をさせていたのは間違いない。 蓮がそれを知って、ならば労働と報酬の基本的な仕組みくらい理解しているはずではないのかと頭を抱えていたが、少年少女にとって労働に対する正当な代価を支払ってくれる相手は他にいなかったようだ。だから、今の労働も扱き使われているだけと思い込んでいるのだと理解して、蓮は現在騎士達と対応を相談中である。 ちなみに、買取を希望されたサブリナは、『自分が要らないものは買わない』と要求を切って捨てた。途端に、周りに集まっていた少年少女がぴいぎゃあと騒ぎ出したが、もちろん気にしない。 そもそも金銭のやり取りをしたところで、ここでは使い道もないことを質すと、採ってきた少女は『肉がせしめられると思ったのに』と返してくる。よくよく聞くと、キーラの仕事は現物支給だったらしい。 別に食事に肉がないわけではないのだが、ちゃんと食べられるようになったら欲が出たのだろう。 「そういうことなら、ちゃんとお目当ての香草をたくさん採ってきた人には、お肉増量なんてどうかしらね。って、話してんだけどねぇ」 「どうもあなた方の生活に合わないようなので、毎日の目標を達成したら何かご褒美ということにしようかと考えたのです」 代わりに指示に従って、全員がちゃんと協力して、仕事はすること。生活全般の指導担当の三条院と蓮とが、騎士達と一緒に様子を見に来たらしく、口を挟んだ。やる気を出させるのに、一定以上の働きに対して何かご褒美を出すのが、当初の開拓者達の発案だったが、騎士達の意見とキーラの手紙では効果が薄いと判明して、何事も全体に波及する方法に少しばかり方向転換している。 なにしろ、なんらかの罰で食事を抜くと、他の者が少しずつ食事を隠して持っていく。何事もお互いに庇い立てするから、犯人が分からないまま悪戯も幾つかある。生育環境が原因ながら、仲間意識が歪に肥大しているから、そこを逆手にとって、まずは少年少女達の中で真っ当な関係の持ち方を学習させる。仲間意識と言っても、やはり元から一緒の者と違う者とを明確に区別する傾向があるから、小さい集団内での関係から正していく計画だった。 「これから毎朝、作業の目標を言います。それを全員で出来れば、夕食の材料の数を少し増やしましょう。出来なかったら、減らします。特によく働いた人にどう感謝を示すかは、自分達でよく考えてください」 「全然感謝しなかったり、作業が得意じゃない人を苛めたりしたら、全員食事抜きか、別の強制労働だからね。作業が得意じゃない人には、ちゃんと出来るように教えてあげればいいのよ。わかった?」 全員が不得手な料理などは、開拓者なり騎士達なりが教えるので、真面目に取り組むこと。この指示を少年少女が理解するのに、たっぷり半時間は掛かったが、彼らの損得勘定では一応得だとなったようだ。 「ちぃと考えが甘くないか?」 「まずはやる気を出させることが先だそうですよ。作業をやるつもりになっただけ、進歩だと思いますけど?」 「うん、そこはまあええんやけど‥‥騙されやすそうな連中やなと思うて」 おそらく彼らの頭の中では、『指示されるのは嫌。でも交換条件が悪くないからやってもいい』なんだろうとは、八十神の読みだ。聞いていた明王院も、これには同意である。今のままなら、世間に出したら親切な振りをした悪人に低賃金で使われそうなのも納得だ。 これは蓮も三条院も了解していて、でもああいう具合にまとまったのは。 「要するに、常識という点では幼児も同然。あの年齢の人間だと思うから、要求度合いも高くなるのです‥‥口だけは達者な三歳児だと思えば」 「せめて一月に一歳くらいの速度では、成長して貰わないと困るけどね。いや、一歳でも足りないか? なんにしても、頑張ったら報いがあるって覚えさせるのに、他に思い付かなかったのよ」 時間がある時に、もっといい方法がないか相談するわよと、三条院は開拓者仲間に言い渡している。睡眠時間の一時間や二時間、削っても話し合いだという事になろうか。蓮はサブリナから、キーラの手紙を借りて読み直し始めていた。 「甘やかす必要はないけど、危ない時にも自分で対処するか、なにより先に逃げるか、人に頼るなら誰にか、分かるように教え込むには、まだまだ私達の信用され具合が足りないんじゃないかい? ま、一緒に厳しい方の味方と認めてもらおうじゃないか」 「理屈が通じて、もっと世間に通じていれば、ちゃんと説得も駆け引きも出来るのですが」 まずは増長しないように、初期の仕事量の配分に注意して、いい結果の後でよく働く気になっている日には難しい仕事を割り振って、しっかりと覚えさせる。すぐに来る秋に備えた暖炉作りや建物の補強、どうにも向上しない料理や家事全般の習得に、特技がある者にはそれを伸ばす個別教育も。案は幾らでも湧いてくるが、実行するための計画を立てるのは並大抵の苦労ではない。 それでも。 「自ら請けた仕事ですし、あのキーラがこんなに頼んでくるのだから、最良の計画をまずは明日の分、作ってみせましょうとも」 いずれはそれが少年少女にも通じるといいのだがと、蓮とサブリナが思いながら、本日の作業の仕上げに夕食の準備をしているはずの小屋に目をやると、エルシアが少年を二人担ぎ出してきた。更に八十神も、三人ほど引き摺っている。 計五人を地面に座らせて、今日の説教は二人掛かりだ。小屋からは明王院に連れられて少女達が食料の保管小屋に走り、三条院が何か叫んでいる声もする。 「ふざけていて塩を入れすぎたとかで‥‥今日の夕飯はどうなるのやら」 年少者達と一緒に、覚束ない手付きで芋の皮むきをしていたりょうが心配そうに教えてくれたが‥‥その夕食と次の日の全部の食事は、どうやっても塩辛さが抜けきらないスープが主になったのだった。 |