未来を創る〜荘園・弐
マスター名:龍河流
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/09/13 03:11



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 ジルベリア貴族ガリ家の所領ツナソー地方内で、主が叛乱容疑で捕まった荘園の建て直し依頼を受けた開拓者達が不在の期間。荘園内では収穫物の分量確認と脱穀、当座必要な分の製粉などが行われていた。
 本来はそこに加えて、家畜の生産物、乳や卵、それらの加工物の荘園主への納入が加わるのだが、住人の健康状態が相当悪いとの報告を受けたガリ家が、年内は納入された生産物の住人への配給を指示している。
 そうした収穫物、生産物から、住人への配給は週に一度の割合で行われているが、適正な量として渡しているものがこれまでの七割増しで、どこの家でも使い切らずに少しずつ貯め込んでいるらしい。多少の備蓄はいいが、まずは栄養状態改善が必要なので、居残っている派遣の者達がこまめに各戸を回って声を掛けている。


「今年の徴税の不足分は、荘園主の私財没収で賄うとして‥‥まずは麦の余剰分の販売をさせないといけないわねぇ」
「それは開拓者を呼ぶ期間に済ませませんと、出入りの商人に足元を見られます。適正価格で売りさばいてもらって、荘園内の住居補強の費用を捻り出さねば、冬に凍死者が出る可能性が高いでしょう」
「今年の住人への配給は備蓄の麦で乗り切らせて、高値が付く今年の麦を売らせなさい。あぁ、その中から医者の給与も先に支払って」
「はい。それと測量の人員も確保しましたので、そちらの指示も開拓者に任せても?」


 荘園の立て直し計画の順次立てを担う事になったガリ家当主夫人は、側近達と山を為す書類を前に、幾つかの決定を行っていた。
 これまでの提出書類と実数がまるで合わない上に、当主夫人ともなれば簡単に実情を見に行くことも叶わない。幸いにして、人数は少なかったが依頼した開拓者達が詳細な報告書を寄越したし、居残っている者達も嘘偽りなく、徴税品目に関する情報を送ってくる。
 それらを付き合わせて、来年春の収穫までの生活を成り立たせると共に、税も確保するための算段をして、今回の依頼で開拓者に任せる部分を決定する。納税のないところに多額の建て直し費用は工面できないから、減税などの処置はしないことに決まっていた。
 今回は収穫物、生産物を出入りの商人に売り払う仕事と、測量の技師達の管理・監督、加えて荘園内の住居状況の確認とまず一軒の空き家の修繕が仕事とされた。関係する書類作りは派遣されている者達が行うから、開拓者は主に指導・指示に集中してくれればいいのだが‥‥


「住人を使って色々出来ないのは、不自由だわね」
「単純労働力にはなりますが‥‥家屋の修繕が出来るかどうかも危ぶまれます」
「最低限、医者の家の修繕はさせなさい。本人が病人になったら一大事だわ」


 荘園の住人が、長年の抑圧生活のために自主性乏しく、他の地域で当然の知識あれこれも持たず、なにより自らの生活向上の目標も持たないと問題を多数抱えている状態は、立て直しの一番の障害だ。
 だが今回、この荘園に住んでも良いという医者が見付かり、近日派遣される手筈も整った。今の季節は栄養状態が悪いだけの住人も、放置すれば冬季には重病人か死者に化ける可能性が高い。当主夫人が荘園の新たな代官より先に手配を決めた医者には、さっそく働いてもらう必要があるが、空き家に家財を用意しておくようにとの指示に、荘園からは『あばら家しかない』と戻ってきたところなのだ。


「住人がもう少しやる気を出してくれたらねぇ」
「他の生活を知らない者に、それは酷な願いですよ」


 真っ当な地図や台帳が作成されて、住人が自ら収穫物を売買し、得た金銭で欲しいものを買うような生活になるには年単位の時間が掛かるだろうが、まずはその最初の軍資金を稼ぎ出すために開拓者に商売人と職人の真似事もしてもらう必要があるだろう。


■参加者一覧
御剣・蓮(ia0928
24歳・女・巫
メグレズ・ファウンテン(ia9696
25歳・女・サ
レートフェティ(ib0123
19歳・女・吟
十野間 空(ib0346
30歳・男・陰
ルヴェル・ノール(ib0363
30歳・男・魔
羊飼い(ib1762
13歳・女・陰
将門(ib1770
25歳・男・サ
ヘルゥ・アル=マリキ(ib6684
13歳・女・砂


■リプレイ本文

 荘園ノーヴィに派遣されてきた測量技師達は、開拓者達の測量を手伝うとの弁に、不思議そうな顔になった。
「ちょっと気の利いた若いので十分ですけど?」
 そもそも前回は四人しかいなかった開拓者全員に手伝わせるつもりなどなかった技師長は、人数が倍増していようと住民で十分だと口にしたが、十野間 空(ib0346)が取り出した書面を見て、表情が変わった。
「勝手ながら、地形図を起こしておきました。測量基点はこの地方では荘園主の屋敷前に置くそうなので、前のものを探しましたが」
「はっきり言うと、ここ数年は測量した形跡が見当たらなかった」
 所領持ちの騎士を妻に持つ十野間に、元は遭都で一家の当主を務めていた将門(ib1770)の、到着早々に人魂の能力や自分達の足で行った下調べは、徴税と防衛を目的とする今回のような測量の準備としては十分に過ぎた。おかげで真っ当な測量が行われていなかったことも分かったが、それは技師達も予想していたらしい。
 ついでに、ノーヴィを訪れるのが二度目の三人は、『気の利いた者』との条件が、すでに厳しいと承知していた。何が原因か、レートフェティ(ib0123)は機会があれば尋ねてみようと思っているが、技術者達が求める条件はまだここの住人には難しかろう。
 そのあたりの説明をヘルゥ・アル=マリキ(ib6684)が悩んでいたが、メグレズ・ファウンテン(ia9696)はあっさりとこう済ませた。
「見たとおりなので、住民には慣れた仕事を優先させたいが」
 相変わらずの畑仕事に家畜の世話、収穫物販売の準備に家屋の修繕と、仕事が山積みの状況に技師達もあっさりと納得した。
 結局、測量補助は十野間に将門、ルヴェル・ノール(ib0363)の開拓者男性が担い、女性陣は他の仕事に取り掛かっておく事になった。
「この袋からどうにかした方がよくはないかしら?」
「これだけ麦が取れればぁ、食うには困らないですよぉ」
「うんうん、うまいものを食べるには作ってくれる皆がおらねばならんからな」
 すでに御剣・蓮(ia0928)と羊飼い(ib1762)、ヘルゥの三人は、収穫物を見ながらあれこれと言っている。ただし応対は作業を先導している派遣の者で、住民は変わらず緊張した面持ちだ。
 前回の訪問より血色がいいのと、何人かはメグレズやレートフェティを見てほっとしたような顔をしたのが、少しばかりの変化だろうか。

 麦はじめ、今回売りに出す収穫物は荘園主の屋敷横の倉庫に集められていた。更に一部は庭に広げられて、老人や子供がせっせとごみを取り除いている。
「一見で良質な品物だと分かれば、価格も期待出来ますから」
 蓮が収穫物の品質確認に赴いたところ、元商人だという男女の指示で幾つかの作業が進んでいた。どちらも食品を商っていたそうで、より高く売る準備に余念がない。
 とはいえ、麦を入れる袋はつぎはぎだらけ、根菜を入れる箱も古くて壊れそうと詰めが甘いが、新しい袋と箱を作るより、その分の材料を家屋修繕に回すためでは致し方ない。
「粒も大きくて、良い麦ですね。この辺りではどのくらいになるのでしょう?」
 一応ガリ家所領内での穀物の取引金額は資料で貰っているが、元商人の経験とやる気の度合いを見るのに尋ねたところ、二人は領内でも特に大きな街の市場での上等品を参考に、蓮の見積もりより三割ほど高値を提示してきた。結構な値段だが、蓮の観察でも品質は良いし、実際は交渉で下がる事を考えたら強気に過ぎることはない。加えての品質向上策だから、この二人も真剣に考えたのだろう。
 後は相手の商人の出方だが‥‥
「そちらも調べておくべきでしたね」
 蓮とて相手を見ればある程度の性質は分かるが、どうせなら先んじて手を打っておくべきだったと少しばかり悔やむ。まあ、品物はいいのだから、後は交渉の腕の見せ所だ。
 将来はこうしたことを担う住人達が、まったく話に興味も示さず、反応が薄いことは心配なのだが‥‥これは一朝一夕でどうにか出来るものではない。

 牧場体験が出来るはずだったんだけどなぁ‥‥と、羊飼いは家畜小屋の前でしょんぼりしていた。ジルベリアならではの家畜の扱いなど聞こうと意気込んでみたものの、住民達から手伝いなんてとんでもない的対応を受けて、気力が下がるばかりだ。
「放牧行こうぜー、放牧。楽しーのにぃ」
「あら、さっき子供達が羊と出掛けて行きましたよ。追いかけてみたら?」
 こちらも住人から恐々と対応されつつ、顔見知りである強みで家畜小屋への寝藁運びを買って出たレートフェティがひょっこりと顔を出した。手伝うと言えば遠慮するから、皆の仕事に勝手に加わっているのだ。それを見て、羊飼いもなるほどと納得している。やらせてくれと言っても駄目なら、こちらから加わってしまえばよいのだ。
 先ほどまでと一転、弾むような足取りで家畜の群れを追いかけていった羊飼いは、
「天儀には羊が少なくてですねー」
「馬もいいですねー」
「アル=カマルで駱駝も飼ってみたいですよぅ」
 子供達にあれこれ話しかけては反応がない二時間を過ごし、
「喉が渇きましたねぇ」
「‥‥水、あっち」
 ようやく、初めて会話が成立した。他所の人間に慣れない上に、知らない話題に反応が出来なかったらしい。羊の毛刈りの時期を尋ねたら、ようよう返事があった。
 普通なら、子供は知らない地域のことを聞いて喜ぶのだが、ここではそうはいかない。それは住人と多少会話が出来るレートフェティも感じていて。
「うーん、どこに言っても断られてしまうのですが‥‥」
 住居の状況確認に泊めて欲しいと、主に家畜の世話をしている家庭に声を掛けているのだが、どこも尻込みしてしまう。根気良く何軒も声を掛けるが人を泊めるような家ではないと言い、しまいには対応に困るのか遠巻きになってしまった。
 こういう反応を表面だけ見れば、まるきり気力がないように思えるが、レートフェティは自分と同年代の女性達が、エプロンドレス姿をちらちら盗み見するのに気付いていた。やはり口にしないだけで可愛らしいものなどへの興味はあるのだと分かれば、話題と言葉を選んで興味を引くのは吟遊詩人の本領発揮。
「泊めていただくのも、お仕事なのです」
 ちょっと心が痛むが、自分達が泊まれないと仕事が出来ていないと怒られるかも‥‥と攻め始めている。

 下調べが功を奏し、開拓者が手伝うなら人手は少なくても大丈夫だと測量技師達が請け負ったので、測量補助には十野間と将門が入った。道具は揃っているから、測量順序を決めて、住民の生活や仕事とかち合わないように調整が済めば、すぐに始められる。
もちろん将門も十野間も、住民への協力依頼などに出向くつもりでいたが、どうも怯えられるので、それらは女性陣に任せた。代わりに、測量の邪魔になる岩を避けたり、見通しが悪い場所の枝打ち作業に勤しんでいる。荘園運営の監督を担うはずの開拓者が率先して肉体労働をこなすのに技師達は驚いていたが、仕事のうちと手伝ってくれる。
「ここの林は、手が入ってないねぇ」
「確かに。間伐をしないと、いい材木にはなりませんね」
「いっそ切るか? こんな曲がった木は、薪にしかならんだろう」
 畑や果樹園は良く手入れされているが、林は通常立ち入り禁止だとかで下草が多く、枝が絡み合っている。将門が示したような、雪の重みで曲がった雑木も多く、実際は大人数で一気に手を入れたほうがいいのだが、それには手が足りない。
 林の枝打ちは六人でやったが、技師達が細かな測量をしている間に十野間と将門は斧を持ち出して、雑木を切り倒し始めた。技師長が感心していたが、二人にしたら、細い木を切るくらいはたいした力仕事でもない。
「別に貴公達まで付き合う必要はないぞ」
「監督役が働くなら、ご一緒したほうが上の覚えがいいでしょ」
「なるほど。報告にきちんと書かないと怒られるわけですね」
 雑木を運び出すのに付き合う技師達に将門が気を使うと、技師長が胸を張った。十野間が大袈裟に納得すると、他の技師達が笑っている。外仕事なら珍しい光景ではなかろうが、住民達がおっかなびっくり見てくるのが、開拓者の二人にも技師達にも不思議だった。

 案内された医者用の家は、
「他にはなかったのか?」
 メグレズが尋ねてしまうほどに傷んでいた。医者が要求した広さに叶う家屋で、まだ使えそうなのがこれだけでは仕方ないが、ルヴェルがざっと見たところでも壁は全部に穴が開いている。
「どこから手を付けたらいいだろう?」
 先ほど挨拶を済ませた大工の青年は、積極性はないが、質問にはしっかり返答してくれる。他の仲間は背後に半ば隠れて様子を窺っているが、ルヴェルもメグレズもあまり気にしない。流石に職人は『ここまでやってよい』と言われれば、それぞれの技量範囲でやるべき仕事をこなしてくれるのは、前回の鍛冶師で分かっているからだ。
 ただ、逐一指示や許可がないと動き出さないので、二人は一計を案じた。専門知識、経験があるメグレズは作業監督として、色々な指示を出す。多少知識がある程度のルヴェルは、細かな指示を青年に仰いでみる。開拓者がいるいないに関わらず、これから家屋の修繕が始まれば住民の大半が駆り出される。いちいち開拓者の指示がなくても、青年が作業の割り振りを決められれば、住民も仕事がしやすかろう。
 そういう期待も込めて、メグレズが描いた修繕箇所の図面と実情を見せ、指示はと問うと、途端におたおたし始めた。やるべきことがわからないのではなく、それを言えと促されると混乱するらしい。
「では、屋根の修繕は身が軽い人、扉は作り直せる人を選んでください。壁土はいつもどうしていましたか?」
 メグレズが仕事を小分けにして、それぞれに適した人を選ぶように促すと、ようやく誰それがと返事がある。名前を挙げられた者も、仕事内容を指定され、材料は準備された中から好きに使っていいと許可を貰うと、今度は速やかに仕事に移る。
「そういえば、大工仕事は誰に習ったんだ?」
 床板もあちこち抜けているが、まずは壁の塗り直しが先と土と藁くずなどを混ぜる作業の合間に、ルヴェルは青年に尋ねてみた。親方らしい人物はいないが、メグレズとの会話には独学とは思えない知識がある。世間話の一環のつもりで、修行の様子でも聞ければと思ったのだが、青年はしばらく迷った後にこう言った。
「最初は父さんで、後は祖父さんに。父さんは前のご主人に殺されたんで」
 穏やかではない話だが、青年はメグレズに『前の荘園主は絶対戻ってこない』と断言されて、ぽつぽつと話を続け‥‥それまでに住民から聞いた話は紙に書き付けていたルヴェルも、後に手が鈍った古い事情を教えてくれた。

 日中は各戸の外観から分かる傷み具合を調べていたヘルゥは、皆で手を変え品を変えの交渉の結果でようやく決まった宿泊先で困り果てていた。食料は住民と同じ分量を貰って持ち込み、他の皆同様に寝袋なども持参していたが、
「毛布もないのか‥‥」
 床は土間のまま、食事の卓は箱に板を乗せて、丈の長い草を編んだ茣蓙を敷いて座るのがジルベリアでは珍しい形式だとは、ヘルゥも理解している。冬には大層寒いと聞くのに毛布もないとは、前の荘園主はどこまで阿呆かと頭痛がするほどだ。
 今の時期でも砂漠とは違う冷え込みで、ヘルゥには感覚的なものだが少しきつい。そんな気候なのに、羊を育てている者達が毛布も持てないとは、どこに怒ればいいのか困ってしまう。
「よし、これを一緒に使うのだ。それで良かったら、新しいのをもらえるように働こう」
 怒りで震えていた彼女の様子を家の者達は恐々窺っていたのだが、毛布を差し出されて、珍しく遠慮はしなかった。大人まで一緒に被るのは無理ながら、ヘルゥと同年代の女の子が親に促されて隣に潜り込んでくる。
 ここで初めての至近距離に、寝る前に少し話をしたいと思ったヘルゥだったが、相手はすとんと寝てしまい、大人も同様。寒くないのかと思っているうちに、ヘルゥも瞼が重くなってきた。
 ここの住民は足りないものを聞いても大丈夫と言うが、羊飼いが『その大丈夫は信用できない』と言っていた通りで、例示を挙げて聞き出すべきとのレートフェティの意見は正しいと、明日やることを指折り数えているうちに、ヘルゥも寝入ってしまう。

 数日経って、測量技師がかなりしっかりした仮地図を描いて帰るのと入れ違いに、二人の商人がやってきた。彼らは開拓者と挨拶を交わした後、蓮が勧めた酒を丁寧に断り、速やかに商品の確認に入った。慌しい様子に、立会いと称して蓮と十野間、将門にヘルゥ、羊飼いと、後者二人が引き摺ってきた住民数人が付いて歩く。
 作業しながらも、商人達は蓮が振った世間話やヘルゥの質問攻めに応対していたが、麦の袋は底の方から少し抜き出して確かめたり、野菜の箱も全部開ける徹底振りだ。
「何か急ぎの用事でもあるんですかぁ?」
「来年の春からのドーの街の運河工事が決まってね。商家からの注文が増加してるんだ」
 それは大きな工事になりそうだと十野間とヘルゥが詳しい話をねだっている間に、蓮と羊飼いと将門が提示する金額を再検討し始めた。欲しがる者がいるなら、ここはより強気に出てもいい。
 だが先方も負けてはおらず。
「ご領主様の口利きもあるだろうが、こちらも紹介するから」
 超強気の数字提示に、これから先に荘園で必要になる建材と日用品を扱う商人への紹介で食い下がる。商人と開拓者の丁々発止に、住民達はぽかんとして、とりあえずいるだけ。
 最終的に、予定していた価格より少し高めで、他の商人の紹介を約束してもらっての商談成立となった。商人からは、今後も丁寧な下処理がされている出荷が望まれて、それは住民も理解したようだ。

 商人との価格交渉が盛り上がっている頃、ノーヴィに馬車が二台到着した。
「荘園内の案内はいつにしましょう?」
 とりあえず隙間風が入らず、雨漏りがしない程度に修繕された家を見上げる医者に、レートフェティが微笑みかけた。荷物は箱に中身が大書されているので、メグレズとルヴェルが住民と一緒に運び始めている。開拓者が寄越した報告書は読んだという医者は、住民を観察してはなにやら頷いている。
 どうせならきちんと様子を見てもらおうと、先月生まれたばかりの赤ん坊と母親の診察をレートフェティが願うと、医者は家の名前を聞いてすたすたと歩き出した。ルヴェルとメグレズが誰か案内を付けると申し出たが、
「大丈夫。あたし、ここの生まれだから」
 と、迷うない足取りで目的地に向かっていった。
「ここの生まれの医者とは‥‥よくいたな」
「でも、以前の知り合いなら馴染むのも早そうで、いいことですね」
 医者が馴染めるかと心配していた三人が安堵したのもつかの間、当の医者が診療鞄を忘れたと引き返してきて、溜息をついた。