帝国歌劇団 〜捕縛劇
マスター名:龍河流
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 普通
参加人数: 11人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/08/25 23:25



■オープニング本文

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 天儀の人々は凌ぎやすいというけれど、ここで生まれて住んでいる者にしたら暑いジルベリアの夏。
 天儀生まれで、ジルベリア育ちのもふらさまが二頭、木陰でおなかを晒してひっくり返っていた。
『あついもふ〜』
『おてんとさまはきびしいぜ‥‥もふもふ』
 そうかと思えば、別の木陰で行儀よく座って、目を輝かせているもふらさまもいる。
『ステキもふよ、いのちがけのせっとくに、おじいちゃまもこころうたれたもふね』
「依頼されたとはいえ、あそこまで気持ちの入った言葉を聞かされた時は嬉しかったねぇ。でも最初に来た時は、タラス様のご機嫌取りかと疑ったんだよ」
 これは内緒だよと笑っているのは、大分高齢の男性だ。農作業の合間の休憩の世間話といった風情だが、相手がもふらさまなのがちょっと変わっている。
 そして、聞いているもふらさまは、同族の中でも相当の変わり者だった。
『もういっかい、もういっかいききたいもふよ〜』
 人に話をねだるばかりか、服の裾を加えて引っ張るとは困ったものである。だが、流石にそれを続けてはいられない。
 なぜなら、もふらさまでも理解できる偉い人がやってきたからだ。ここミエイの領主のアリョーシャ・クッシュである。
「鳴もご飯を食べておいで。早くしないとなくなるよ」
 アリョーシャが示したのは、先程まで二頭のもふらさまが転がっていた木陰のほうだ。そちらでは元気に起き上がったもふらさま達が、焼いた芋を取り合っている。もちろん鳴もそちらに突進して、
『じぶんたちばっかり、ずるいもふよ〜』
『メイまできたもふっ』
『じゃかぁしいやっ』
 ぎゃいぎゃい騒ぎながら、芋の取り合いを始めた。

 その間に、老人が座っていた切り株の向かいの地面に座り込んだアリョーシャは、相手が恐縮するのも構わずに書面を一枚差し出していた。
「貴方の証言を送ったところ、タラスからの主君への報告に虚偽があることが判明した。例の川の橋整備が済んでいない件だ」
 ミエイの隣領地のシューヨーゲン領主タラスは、自分の趣味を追求するあまりに領内の若い娘の髪の毛を刈り歩いて、老人ダルゴに告発された。先代領主の下で働いていたダルゴは領内の状況にも詳しく、領地内での工事や労役、租税徴収についても詳細な状況を述べたが、その証言の中にタラスが主君である大貴族へ報告した内容と齟齬があることが判明したのである。
 もちろん移動が極端に制限されている現在のシューヨーゲンの住人の証言は、確実性がやや乏しい。だから密かに人が派遣されて調査が行われ、アリョーシャが事前に派遣していた開拓者集団・帝国歌劇団からの報告も参照された結果。
「あそこは近隣街道の要の橋だ。毎年持ち回りで整備をする慣例を破ってばれないとでも思ったものか‥‥まさか人形作りのために木材をけちったわけじゃなかろうな」
「タラス様は、そうした事柄はかなり他人任せでしたから、重要性を理解していない者が手を抜いたかもしれません」
「そうだとしても、それは領主の監督責任だ。他の事も合わせて、流石に地位剥奪は免れないよ。親族から後継者を選抜中らしい」
 タラスに役人の身分は取り上げられたものの、自分が仕えていた主の息子に対する某かの感情はあるだろうダルゴは難しい顔をしていたが、アリョーシャは随分とさばさばした表情だった。彼も社交はたいして好きではなく、畑の見回りの方がよほど好きな、貴族の中では変わり者だが、領主たる者の責任感は備えている。自身の信念がいつでも正しいと信じるほどに偏狭でもないが、信念なくして統治など出来るかくらいは考えているだろう。
 だから、統治の責任を放棄したタラスに対しては同情も何もなく、次の領主が真っ当な人間であればよいと思っているだけだ。
 その前に、タラスとその一党を一人残さず捕らえて、主君に突き出す必要があるのだが。
「さて、捕縛は白峰傭兵団を呼びつけるとして。ここで帝国歌劇団を呼ばなかったら後が怖いが‥‥彼女達は、どうしたいのかな」
 普通に歌劇団の仕事を依頼してもいいのだが、領主が捕まるという状況では領民も落ち着かなかろう。なにより、当人達の希望をないがしろにするのは論外だ。
 女性の恨みを買うと尾を引いて、とても大変だということくらいは、アリョーシャも知っていた。


■参加者一覧
雲母坂 芽依華(ia0879
19歳・女・志
花焔(ia5344
25歳・女・シ
スワンレイク(ia5416
24歳・女・弓
雲母(ia6295
20歳・女・陰
シャンテ・ラインハルト(ib0069
16歳・女・吟
ヘスティア・V・D(ib0161
21歳・女・騎
リスティア・サヴィン(ib0242
22歳・女・吟
アイリス・M・エゴロフ(ib0247
20歳・女・吟
フィーナ・ウェンカー(ib0389
20歳・女・魔
アレーナ・オレアリス(ib0405
25歳・女・騎
月影 照(ib3253
16歳・女・シ


■リプレイ本文

 初めて依頼を受けたのは、七月上旬のこと。
 それから一ヵ月半。依頼を受けた帝国歌劇団の面々の表情は、妙に晴れ晴れとしていた。今回こそ、あの不愉快な連中を一網打尽だと、満面の笑みを浮かべている者までいる。
 唯一の例外は、今回初めて合流したシャンテ・ラインハルト(ib0069)で、事情は詳細に聞いているものの、やはり感情的なものを全て共感するには、まだ到らない。だがシューヨーゲンの現状が、領主があるべき姿を全うしていないとは理解している。
 そんな彼女達を、『呼ばずに済ませたら、やはり後が怖かった』と笑う依頼人・ミエイ領主のアリョーシャ・クッシュはともかく、初顔合わせの白峰傭兵団の人々は怪訝そうに眺めていた。
「あのタラスに、歌劇を楽しむ素養があったかね?」
 白峰傭兵団長のイワノフもタラスと面識はあるそうで、最初は歌劇団の作戦に首を傾げていたが、アレーナ・オレアリス(ib0405)から歌劇の内容を説明されて、なるほどと納得していた。タラスの人形好きは、相当知られているものらしい。
 そのおかげか、歌劇の上演と称してタラス一党を一箇所に集め、捕縛を行なう作戦は反対されることもなかった。白峰傭兵団はまず関所の制圧を、アリョーシャは領民への事情の説明を担当する。流石に開拓者でも十人程度で人数で倍する男達を取り押さえるのは大変かもしれないので、傭兵団の半数は関所を突破したら、即応援に駆けつけることになった。
「今回は人間相手だから、殺すなよー」
 緊迫感のなさに大丈夫かと呟いたのは、両者の連絡係を担う月影 照(ib3253)だ。当初は地道に走って行く予定だったが、傭兵団が連絡用の笛を貸し出してくれたので、移動中でも連絡可能になった。
 歌劇に加わるのは、花焔(ia5344)、ヘスティア・ヴォルフ(ib0161)、イリス(ib0247)、リスティア・バルテス(ib0242)、スワンレイク(ia5416)、雲母坂 芽依華(ia0879)、アレーナ。裏方が雲母(ia6295)、フィーナ・ウェンカー(ib0389)、照となる。
 歌劇の時間は夜。タラス一党が領民を歌劇の場に招くはずもなく、深夜であれば領民が寝ているうちに事態をまとめることも出来る。
 それと、ヘスティアが前回連れ出した老人から聞きだした情報を記したシューヨーゲンの地図を広げつつ、
「毒で亡くなった人はいないようだが、解毒剤は持たなくて本当に平気か?」
「具体的な種類も分からないからね。こちらですぐ対応出来る様にはしたよ」
 毒を使う者がいるから、対応策を持っておきたいと医者のアリョーシャに言っておいたが、解毒剤は持たせてくれなかった。老人の話でも、急激に症状が出るような毒を使っていたことはないのだが、それでも用心するに越したことはなかろう。
 アリョーシャ達からの注文は、他に『領内のものは壊さない、傷付けない、持ち出さない』の三点だ。照は逃走手段の馬を潰したらとか、ヘスティアの人形を燃やしたら精神的打撃になるだろうとか考えていて、特に人形は誰もが頷いたのだが、一通り駄目。逃走防止に、馬具なら壊してもいいことにはなったが、色々条件が煩かった。
 理由は、後を継ぐ予定の者が『人形でも何でも、領地の財産だ』と手紙を寄越したかららしい。そんな人物でこの領地は将来も大丈夫かと、皆の頭をよぎらないでもなかったが‥‥血統は傍系でも真っ当な人物だとイワノフもアリョーシャも口を揃えたので、二人を信用しておく。
 まずはタラス一党を捕縛しなくては、シューヨーゲンの変化は望めないのだ。

 人が増えたり減ったり、落ち着かないねぇ。
 関所でそう言われた帝国歌劇団は、それでも無事にシューヨーゲンに入り込んだ。
「相変わらず、失礼な奴らやわぁ」
 芽依華が拳を握って、ぷるぷると震えているのは怒りを堪えているから。物は言いようで角が立つが、ここの連中はその辺りが極め付きだ。以前に嫌な思いをさせられている奴だったので、余計に彼女の怒りは深い。
「ここでヘマしたら、今までの努力がパーだから。最後までしっかり決めるのに、もうちょっとの我慢よ」
 花焔がこちらもこめかみあたりをひくひくさせつつ、自分にも言い聞かせるように話している。あまり表情が動かないシャンテも眉をひそめたくらいの物言いだから、他の者が我慢の限界に来ていてもおかしくはない。
 ただ、相変わらず雲母だけは、
「キララ、悪い人きらーい♪」
 と、煙管を咥えた姿がはなはだ似合わない発言を繰り返している。そんな彼女も、弓術師らしく弓「緋鳳」を小道具だといって持ち込み、更に山姥包丁が複数荷物に入っているのは‥‥当人は料理のためだと主張しているが、危険な香りがする。
 他にも、スワンレイクも鉄弓、ヘスティアは海冥剣、イリスが名刀「ソメイヨシノ」、アレーナがレイピア「ヴァーチカル・ウィンド」、芽依華が珠刀「阿見」とそうそうたる武器が『小道具』の一言で持ち込まれていた。照の霊拳「月吼」やフィーナのクリスタル・ロッドは持っていて当然のような顔で、花焔の苦無は荷物の底に隠して、これまた持ち込み完了だ。
 リスティアとシャンテの楽器は、借りてきた合図用の笛も含めて見るからに商売道具なのだが、武器の類はよく取り上げられなかったものだと、吟遊詩人の二人は思っている。流石に短期間で三度目ともなると、関所の確認にもやる気のなさが見えてきていた。
 スワンレイクが関所の連中から名前を聞きだすことに成功していたから、捕縛対象一覧のうちの三人ほどが顔の確認も済んでいた。

 歌劇の内容は、前回の人形姫を踏襲しつつ、更に新たな演出を加えたもの。
「ご自慢の人形ともご一緒させていただけませんかしら。私共も、一度ゆっくり拝見してみたいですし」
 更にフィーナがタラスや側近達に、人形を何体か借り受けたいと願っている。かなり渋るのを世辞で持ち上げるのは、いざという時に人形が人質ならぬ人形質になると踏んでいるからだ。
 この願いに優雅な笑顔を保ったままで同席していたアレーナは、公演を二回行う許可をもぎ取っていた。全員に見せるためと称して、観劇の場に誰がいるか確かめるためだ。名前の記録は、照が請け負って筆を走らせている。
 大広間では、窓を開け放ってリスティアとシャンテが演奏の練習を行っていた。シャンテはほとんど舞台初見で伴奏に入るので、音合わせである。そういう名目で、幾つかの曲を奏で、合間に梟の声を真似た音が出る笛を鳴らす。
「観劇が二十六人で、関所に二人ずつ六人、その交代が三人で、屋敷の周りに三人。これで合計三十八、と。ええと、笛の吹き方は‥‥」
 リスティアが頭を悩ませつつ、順繰りに笛を吹くのは捕縛対象の居場所を知らせるための合図だ。
 シャンテもそのあたりは心得ていて、笛の音がいかにも舞台の効果音であるかのように伴奏を沿わせている。
 観劇希望者が多いのは、地道な宣伝活動のおかげだった。花焔と芽依華が屋敷内を回り、会う人毎に『ぜひ見に来てね』と愛想を振りまいたのだ。仲間だけのところで、二人が鳥肌を立てていようと、よりいっそう修練を積んだ人形の舞なる宣伝と相手への世辞は有功だったらしい。
 イリスが磨き立ててくれた姿より、人形の一言にうっとりする連中相手は神経もささくれるが、下手に自分達に対して色気を出されるよりはいい。
 屋敷の外では相変わらずキララを演じている雲母が、見張りを連れ回していた。今回は馬を借りて連れて来ているので、その様子を見に行くのも役割分担のうちだ。馬具の在り処を確かめて、自分達の分は他に避けておく。
 そこまで準備した頃には日も暮れて、お待ちかねの公演時間が迫っていた。

 人形姫。持ち主に愛され、夜の間だけ人間になる人形達が、月の精霊のお告げで悪の化身たる夜の王に立ち向かう。
 今度の公演内容は、おおむねそういう筋書きだった。
 ヘスティアは前回と異なり白のドレス、イリスも型は似ているが白地に水色が入ったドレスを纏って、何かを誘い出すような腕の動きが強調された踊りだ。ヘスティアは古い伝承の女神が乙女達を誘惑するような歌劇を考えていたが、なにしろ観る側は人形という言葉がないと反応しない。それで展開はアレーナの案に譲ったものの、踊りの内容は当初考えたとおり。
 宵闇の中、照明も絞って人ならぬ妖しさを強調するのであれば、相手の目を引く動きは重要。ヘスティアは妖艶に、イリスは清楚に。普段の性格を多少なりと反映した大胆さと繊細さが同じ動きをなぞる様子は、芸術を見る目がない連中にも麗しいものと映ったようだ。
 同様にアレーナもやはり白のドレス。踊り手は全員が髪から肌まで入念に磨いているから、色味が似たドレスも髪の色を写してまるで異なって見える。こちらはあくまで優雅に、思わせぶりな仕草が続く。
 今回は全体を白で揃えて、スワンレイクは白銀の衣装だった。客席に満遍なく熱のこもった視線を投げつつ、弓を手にする姿は夜の王に立ち向かうにふさわしい。だが弓を構える姿が、明らかに射手の経験豊かな者だけが持ちえる姿勢だと気付いた者がいたかどうか。
 客席がざわめいたのは、花焔が小さな羽根を背負って登場したから。昼間に見れば可愛らしい飾りだが、絞られた灯りの下ではどう見えたものか。白いドレスに、乳白色の羽が照り映え、同時に出た芽依華が珠刀を構えて周囲を睥睨する姿が、貴種と護衛のようだったとは後刻の誰かの弁。
 リスティアが夜の王へと立ち向かえと、月の精霊のお告げを歌い上げ、シャンテが自前のものではない笛を甲高く吹き鳴らす。
 それが、捕縛の合図になった。

 笛の音を耳にして、照も用意の笛を吹いた。厩の馬具は手綱を切って使えないようにしてきた。それから傭兵団と合流すべく関所の一つに向かっているのだが、笛の音が届いたはずなのにそちらからは争う物音一つしない。はて、首尾はどうかと思ったら。
「よう、案内頼むぜ」
 三人程度は敵でなかったと見え、すでに役人を縛り上げた傭兵団が照の方向に走って来ていた。思っていたより優秀なことに、ほとんど足音を立てずに走る。
「ちゃんとついて来てくださいよ」
 多分靴の底が相当柔らかく出来ていると観察しつつ、照は速やかに方向を転換して、元来た方向に走り出した。
 同じ頃、
「キララ、前にも言ったけどぉ、演技はへたっぴだから裏方さんなのぉ」
 雲母が、くすくす含み笑いを漏らしつつ、屋敷の周りを警戒する役目の三人を殴り倒していた。あまりあっけなく当身が決まって、雲母は咥えた煙管をぶらぶらと揺らして、次はどうしたものかと考えている。

 大広間は、ある種の狂乱状態だった。
「帝国歌劇団、ここに推参!民を締め付け、乙女の魂とも言うべき髪を奪うは余りに非道。我等歌劇団が天誅を下します!」
 イリスが朗々と宣言した時には、他の者は全員が武器を抜いている。これまで奥に控えていたフィーナが、アリョーシャから預かったタラス捕縛の許可証を示して、自分達の行動に理があることを説明すると同時に、アレーナと芽依華がタラスを捕らえに掛かっている。後押しするのは、リスティアの武勇の歌だ。
 タラスはじめ、ほとんどの者は何が起きているのか分からない風情だったが、自分の身が危ういとすぐに察した者もいる。その大半は出入り口に向かおうとして、スワンレイクやヘスティア、花焔に転がされたり、
「抵抗したら、このお嬢さんは大変なことになりますわよ」
 フィーナが抱えた人形にロッドを突きつけ、脅迫することで足止めしている。
 そして、ごく少数は窓に向かった。そちらは閂が掛けてあるだけで、抜け出せないことはない。そのほとんどはシャンテの夜の子守唄で倒れたけれど、二人ばかりが逃れている。その片方が毒を使う奴だと、警戒していたヘスティアが見て取った。
 ドレスの裾をからげて、窓枠から身を乗り出したスワンレイクと花焔が、それぞれに射撃と投擲で攻撃したものの、暗闇に紛れた相手の動きを止めるに至らない。シャンテが二人逃げたと笛で知らせ、了解の合図が周囲から返って来る。
 その音が案外近いと皆が思った時には、照と雲母が屋敷のすぐ近くで、『逃げたのこいつら?』と踏みつけにしているのが、集まってきた明かりの中に見えた。慌てて人数を確かめると、全部で三十八人、ちゃんと捕まっていることも判明した。
「仕返ししたりない‥‥」
 誰かがそう呟いたが、人形姫の歌劇に釣られた阿呆な男がいかに多かったかということで‥‥つまりは作戦の勝利だろう。
 領民達は、この頃になってようやく何事か起きたようだと外を窺い始めていたが、すぐに静まったせいか、出てきたのは随分経ってからだ。
「悪逆を続けてきた領主は私達が捕らえたわ。もう酷いことはされないわ、安心よ」
 リスティアが様子を伺いに来た人々に明るく告げたけれど、皆きょとんとして、容易にはその内容が飲み込めないでいた。

 結局、領民達が仔細をようやく理解したのは、翌日の昼過ぎになってからだ。アリョーシャとイワノフが、元役人の老人ダルゴも連れてきて、タラスの領主地位剥奪を説明して、やっと。
 流石に私刑に掛けてやるといった意見は出なかったが、タラスの処分がきちんと為されるか、次の領主はどういう人物かと心配する声と、髪を切られた女性達から、その人形を処分してくれまいかと言う話があった。
 だが歌劇団面々も見て回って頭痛を覚えた大量の人形から、問題のものを探し出すのがまず一朝一夕では済みそうにない。だが何にもしないのでは女性達の気も収まらない。
 それで、人形師が作っている途中の人形をタラス達へも見せしめとして燃やすことにし、歌劇団員の案内で領民女性が人形工房に向かい‥‥盛大な怒りの声と悲鳴に傭兵団の女性田達が掛け付けた。と、今度はアリョーシャ達の許可も得ないうちに、縛り上げられたタラス一党を引きずり出してくる。
「よくもやってくれましたわねぇっ!」
 こう、盛大に叫んだのが誰かは言わない。
 傭兵団女性が黙々と盛大な焚き火を起こし、なんだか分からないままにタラス一党を抑える役を割り振られた男性陣が様子を見ていると、領民女性が人形を十体近く、抱え出してきた。
 帝国歌劇団員そっくり、タラス達にしたら人形姫生き写しの等身大人形が、ぽいぽいと焚き火に投げ込まれていく。タラス達の悲鳴が響くが、うるさいので途中で傭兵団に猿轡を咬まされた。領民はその様子を見て溜飲を下げたようだ。
 人形が焼け落ちる頃には、帝国歌劇団員の開拓者達も、劇団名にふさわしい笑顔を取り戻して、領民達に事の次第を語ったりし始めていた。
 あいにくと歌劇の披露は時間の都合で叶わなかったが、歌劇団らしく皆を楽しませる初仕事は、この日、ようやく実現したのだった。