【狂幕】誘いの幕引き
マスター名：鷹羽柊架
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| ■オープニング本文 前回のリプレイを見る 早咲きの桜はもう咲いている。 監察方の桜は早咲きの桜で咲くのも早ければ散るのも早い。 気にしていなければ見逃してしまう事も多々ある。 ぼんやりと麻貴が桜を眺めていると、後ろから可愛らしい声が聞こえた。 「今年も咲きましたね」 振り向くと、報告書を抱えて欅が微笑んでいた。 「ああ、咲いたな」 「上原主幹が呼んでましたよ。この間監視下に置いた方の件で」 欅が伝言を伝えると、会釈をして歩いていった。麻貴は一呼吸置いて主幹の下へと向かった。 前回、保護という形となって監察方の下にいる秋明は質問に素直に応じている。 彼は父親の友人の紹介で繚咲の有力者と会ったのが始まりだった。 その有力者には娘がいなく、両親のいない秋明とその妹、一華の後見人となりたいと申し出てきた。 有力者の話からでてきたのは鷹来家当主の見合い話。 当主は若く美しく、人格もいい。両親はいないが、祖母である鷹来家管財人はとても優しい人物と教えてくれた。 常々、秋明は一華を良い所の家へと継がせたいと願っており、この話に飛びついた。 他にも何人もの見合い相手がいる話を聞いたが、どうか、一華を選んでほしいと願った。 妹が兄と離れたくないと願っていた事を知らずに。 ある日、秋明が一人で出かけていた時だ。近道をしようと人気ない道を歩いていた矢先に有力者の名代と言う男に呼び止められた。 何度も有力者の家には出向いているが、一度も会った事がない。 疑うと、男はその場で秋明を気絶させて連れ去った。 気が付いた頃、そこにいたのは仲間だろう男が二人いた。 男は秋明に羽柴麻貴の暗殺を言い渡した。経費は全てこちらが出し、成功したならば、妹の見合いを前面に推すと付け加えて。 当然、秋明は断った。 何者かも分からずに人を殺して妹を嫁に出しても一生後ろ指を差されて生きるだけ。 自分がしてきた意味がない。 男は「妹を仲間が預かっている」と言い出したのだ。 言葉に詰まった秋明だが、頷きたくはない。 「嘘だと思うならば、何か分かる証拠でも持ってこさせようか。そうだな、左手首なんかどうだ。あの妹には手の平の真下に黒子があるだろう？」 男は本気だ。おそらくシノビだと直感した。 大人しく従うなら妹には何もしないと言い切った。 秋明は従うしかなかった。 何もかも崩れ落ちてきた気がした。 殺す相手の羽柴麻貴の顔も知らなかった。 鷹来沙桐の姉であり、男達にとって邪魔な存在だったという話しか教えてもらってない。 言われるままに人を雇って言われた事を言っただけだった。 もう、感覚がなくなってきていたのかもしれない。 捕まり、これでよかったと秋明は思っている。 今日の分の秋明の尋問が終わり、麻貴と柊真は肩を並べて廊下を歩く。 「そういや、そろそろ慰労会でも開かんとな」 思い出したように柊真が呟いた時、飛脚が届いた。 見てみれば、そこには鷹来沙桐の署名があり、二人は主幹室に駆け込み、手紙を開いた。 現在、沙桐は繚咲におり、一華の行方を捜している。 一華の行方が引っかかったが、また行方をくらましている状態。 情報があった場所は繚咲から二日ほど離れた街で、随分と丁寧な扱いを受けていたので、お嬢様と思われていたようだった。 そこからまた、行方をくらましていた。 沙桐は更に捜索を続けているようだった。 一華の行方が分かり、状況次第で必ず依頼を出すと書いてあった。 急いで麻貴が秋明に伝えに行くと、彼はじっくりとその手紙を読んだ。 「‥‥その時点では一華は無事なんですね‥‥」 肩を落とし、秋明が震えた声で呟いた。 「一華が無事なら、もう何も望みません‥‥」 そうとだけ呟くと、秋明は嗚咽を堪えられず、涙を零した。 戻ってきた麻貴に柊真はちろりと、部下である麻貴をみやる。 「とりあえず、依頼は出してきた」 「そうか」 「宴会をするというよりはここでのんびりと茶会がいいだろうな。最近だと天気もいいし、弁当を広げて軽く一杯くらいならここでやってもいいだろう」 柊真の言葉に麻貴はゆっくり頷いた。 |
■参加者一覧
滋藤 御門（ia0167）17歳・男・陰 
御樹青嵐（ia1669）23歳・男・陰 
紫雲雅人（ia5150）32歳・男・シ 
珠々（ia5322）10歳・女・シ 
輝血（ia5431）18歳・女・シ 
フレイア（ib0257）28歳・女・魔 
叢雲 怜（ib5488）10歳・男・砲 |
| ■リプレイ本文 麗らかな陽気と暖かい風に出迎えられた開拓者が監察方の役所の門を潜る。 暖かい日が続いたのか、桜も五分咲きとなっていた。 開拓者が秋明と捕縛者達の面会を申し出てきた。 秋明は西向きの質素だが清潔な部屋にいた。杉明の采配で牢送りが免れた。 戸が開き、知った顔を見た秋明は少しだけほっとした表情を見せた。 「協力してくれてありがとうございます」 滋藤御門（ia0167）が秋明に言えば、彼は首を横に振った。 「礼を言うのはこちらの方です。許されない事を行った私を助け出してもらって‥‥」 うなだれる秋明を御樹青嵐（ia1669）は静かに見ていた。 何がどうあれ、麻貴を狙おうとした事実は変わらない。その胸の中の苛つきはそう簡単に収まるものではないようだ。 「話を聞きたいのは有力氏族の名前の事です」 フレイア（ib0257）が話を切り出すと秋明はあっさりと教えてくれた。 「貴方を浚った人達は貴方と懇意にしていた有力者とは違うという事で宜しかったのですよね」 秋明はそれにはしっかりとは頷けなかった。 「奴らの口調では違うというようではありましたが、はっきりと口にする事はありませんでした」 疑心暗鬼のまま彼は言われるまま、行動に起こしていたのだろう。 はっきりと裏切られたのかも確信できない事は精神的に追いつめられる。 「他の遼咲の有力者の名前を知ってますか？」 フレイアの言葉に出したのは遼咲の小領地の領主達の家の名前だけだった。 「他の見合い相手の名前を把握していたら教えて下さい」 御門の質問に秋明は高砂、貌佳、深見の三領主の娘しか知らないとの事。あと幾つかは見合い相手が存在しているのは知っているとの事。 「後見人に申し出てきた方とは」 紫雲雅人（ia5150）が口を挟むと、秋明はあっさり言った。 「名は荒木楊山という方、母方の祖父は貌佳の領主の直系だったそうです」 奥方とは子供が出来なく、娘がほしいということと鷹来家ので嫁探しもしていたので、後見人を申し出てきたらしい。 「シノビ達に何か共通するものってあった？」 少し離れた所に様子を見た輝血が尋ねると秋明は首を振ろうとしたが、その動きが止まった。 「何か心当たりが？」 首を傾げるフレイアに秋明は必死に記憶を辿っている。 「シノビ達が持っていた物も別物ですが、扱いに慣れていないような事を呟いてました」 「別物‥‥」 ぽつりと珠々（ia5322）が言えば、輝血（ia5431）と目が合う。 「一華が心配です‥‥」 肩を落とす秋明に「大丈夫！」と声をかけたのは叢雲怜（ib5488）。 「お嬢様みたいに丁寧に扱っていた子をいきなりグルグル巻きで放置したりはしないだろうし、誰か別の人が面倒を見てるんだと思うのだ！ 焦ったりすると姉ちゃんがかえって危なくなるかもだし！」 意気込んで言い切る怜に麻貴はそっと怜の肩に手を置く。 「誰が一華姉ちゃんを閉じ込めているかが問題だよな！」 「ああ、その通りだな」 見上げる怜に麻貴が微笑む。 場所を変えて、シノビ達と話をしているのは珠々と御門とフレイア。雅人と輝血は少し離れて様子を見ている。 シノビとは口を割らない。ならば、他の話で特定するしかない。 シノビの持ち物は見た事もない流派‥‥というか、偽装目的ででたらめに作った物である事が窺い知れた。 「麻貴様を憎んでいる方の行動とお見受けしましたが、目的は鷹来家‥‥いえ、沙桐個人にあるのではないのですか」 厳しく切り込んだ御門の口調に他の開拓者が目を見張る。 「シノビにその手の質問は無意味だよ。アンタ、雇われだったら雇い主見限るのがいいよ」 瞳に力をこめて輝血が言えば、シノビはふっと、笑う。 「その通りだな。鷹来沙桐をどうこうしたい思ってる有力者は沢山いる。その為に娘を嫁にと送り込む」 「娘が産む産まれる子供を使ってですか？」 雅人が口を挟むとシノビは笑う。 「鷹来家の潤沢な資産とそれらを生み出す産業は魅力的。だがな、脈々と続き繚咲を統括する鷹来家の血がそれを許さなかった」 「血‥‥」 ぽつりと、御門が呟く。 「どんなに有力者に従順でも、最後の最後で鷹来家を食いつぶそうとする有力者を跳ね除けて鷹来家を護り抜くらしい。今はそう、管財人の折梅だな」 くつりとシノビが嗤う。 「折梅は鷹来家の管財人って聞いたけど」 「あの人の一言で繚咲は変えさせられた。こっちにしたら天女のような人だ。あの人自体に力はない。だが、あの人を敵に回すという事は天蓋を敵に回す事だ」 「こっち？」 首を傾げる珠々にシノビは一言呟いた。 「あの人は繚咲にきて最初にこう言ったらしい「シノビは道具なのか」と」 珠々と輝血と御門が言葉を失った。 隣の部屋にいるサムライは怜が話していた。 「奴等は外に出ていて、俺はアイツの監視をしていた」 シノビの事を尋ねる怜にサムライは記憶を辿る。 「そうだな‥‥他にも敵がいるようだった」 「敵？」 確認するように呟く怜にサムライは頷いた。 「名前は？」 怜が言えば、サムライは首を横に振る。 「壷振り女と連絡が取れなかった頃にその敵が死んだような話もしていたな」 はっとなった怜が思い出したのは自害したあのシノビの事。 「奏生内の土地勘を得る為に随分と歩き回っていたようだった」 「そっか‥‥」 ふと、怜の視線が向けられたのはサムライが受けた怜の弾丸。 「大丈夫か‥‥」 「戦いとは両成敗だ。迷いなく戦ったからこその傷。気にする事などない」 静かにサムライが言えば、怜は頷いた。 ● それぞれの情報を元に、雅人は別室にて情報の整理をしたいと申し出て案内されたのは柊真の執務室。 「じゃ」 柊真が出ると、雅人は遠慮なく柊真の机に座る。 まず起きた事柄を古い方から纏めていく 三十年前、鷹来家の見合い相手の毒殺、その半年後に起こった火宵と柊真の母親達の故郷がアヤカシによって殲滅。 その十年後、鷹来家次期当主が理穴の有力貴族の姫と駆け落ちし、麻貴と沙桐が誕生した後、アヤカシの手によって死亡。 同年、鷹来家が沙桐のみを引き取るが、有力貴族の姫の実兄にあたる杉明が麻貴を引き取りに武天に来た。 麻貴、沙桐が十五歳の時に再会。 その数年後、柊真が理穴の地方豪商と奏生文官との黒い噂を聞きつけ、単身潜入捜査。 同年、火宵一味が雪原一家の当代と成り代わり、三茶を仕切る。 その時点では武天と理穴の境界にたたら場と刀匠達を集めて武器を製作されていた。 開拓者が雪原一家の偽当代を討ち、三茶が再生される。 数ヵ月後、たたら場と刀匠達の解放が行われたが、製作された武器は火宵の元へ。 有明が羽柴家と懇意にしている金子家の若夫婦を狙わせ、花嫁のお付と入らせた女シノビに新郎の食事に毒を混ぜさせるという仕事をさせていた。 火宵が柊真の正体に気付き、殺害しようとするが、柊真は生還。 同時期、理穴の役人を狙う事件が多発。火宵の父親の有明と文官が杉明の命を狙うのが目的としてやっていた。 杉明を狙ったシノビは金子家が有しているシノビの者であり、金子家奥方の病気を盾に杉明を狙わせていた事が判明。 同時期、火宵を殺そうと考えた有明が自身の腕利き配下数名を火宵殺害の命を渡す。 開拓者達の手により、配下は撃破された。 有明と文官は開拓者と監察方の手により捕縛される。 火宵が武天に何度も足を運んでいた事も判明。 そして今回、再び杉明が狙われたが、本来の目的は麻貴の殺害。 その犯人は武天は繚咲の関係者‥‥ 雅人は纏めるだけ纏めると、情報の選別に入る。 ● 別の部屋では茶会の準備が始まろうとしていた。 どんなお菓子を持ちよっていたのか、情報を交換し合っている。 「麻貴さんはお菓子作り出来たのですね」 意外そうに言うのはフレイアだ。 麻貴が作ったのは鶯餅だ。フレイアと一緒にうさぎ飾りの大福も作っていた。 「料理は面白いぞ」 「ふーふーふー、綺麗どころは沢山いるといいのです」 じりじりと寄る珠々に麻貴はにっこり両手を広げる。 「どうぞ」 にゃーー！ っと珠々ががばっと抱きつくと、麻貴がしっかり抱きとめる。 「きれいきれいにしますね！」 目を爛々と光らせる珠々に麻貴は珠々を抱き上げる。 「え？」 きょとんとする珠々の背後で青嵐が声を上げる。 「麻貴さーん。葉桜さんから着物が届いてますよー」 「ありがとう」 スタスタと麻貴が珠々を抱き上げたまま青嵐からの着物を受け取る。 「綺麗、綺麗にしましょうね」 艶然に微笑む麻貴に珠々がはっと気付く。 「きれいきれいがんばってなー」 怜が手を振ると、珠々がお約束の鳴き声を上げる。 「毎度毎度‥‥」 ふーっと溜息をつく輝血が青嵐と目が合う。 青嵐が穏やかに微笑むと輝血はぴくりと背筋が伸びてしまう。青嵐は気にする風でもなく、御門と話をしている。 ● ギリギリの部分で悩むのは火宵と有明の事だ。 有明は理穴でも有数の豪商。その親子関係は息子として公にされていない。 そして、麻貴と沙桐の関係もまた、公にされていない。 だが、それを記事として公にするか否か‥‥ 「あれ」 ふと、雅人はいくつかの違和感を感じていたが、一つだけ明確な違和感を感じた。 「どうして、沙桐さんは麻貴さんを鷹来家に入れてないのでしょうか？」 沙桐は鷹来家の当主だ。何故、あんなにも大事にしているのに公にしないのだろうか。 柊真も妙だ。 確かに、火宵の一件が収まれば正式に申し入れをすると言っていたが、そんな事を気にするような人物だろうか。 柊真と火宵は光と闇の背中合わせと言っていた。 彼ならばいくらでも麻貴を丸め込んで祝言を挙げさせる事は可能ではないのか。 もし、麻貴が鷹来家の籍がほしいと願っていて、その上での婚姻を望んでいるとすれば‥‥ 沙桐さんに頑張ってもらわないと 予測を口にする事無く苦笑を漏らす雅人が窓の外を見れば、色艶やかな振袖に着替えた麻貴が同じく振袖に着替えた珠々と共に庭の方へと歩いている。 皆が笑顔で麻貴と珠々の艶姿を喜んでいる。 「害をなす呪花冠ではないですよ。貴女は」 そう呟いて雅人は部屋を出た。 ● 乾杯から始まり、皆がお茶や酒に口をつける。 「お酒、いかがですか？」 青嵐が柊真の隣に座って酌をする。 「頂こうか」 青嵐の異変に気付いた柊真が杯を青嵐に向ける。 「‥‥覚悟を決めようと思ってます」 その一言に柊真は黙って注がれた杯の酒を飲み干す。 「‥‥俺が麻貴にしてやれる事は喜ばせる事だ。あいつの笑顔を一生見ていたいからな。覚悟を決めるのは肩の力が入る。だがそれ以外はもう少し肩の力を抜け」 ぽんっと、柊真が青嵐の背中を叩いた。 ひょっこり檜崎が現われると、御門が席を勧める。 「檜崎さん、どうぞ」 書類を持っているところから、仕事中だろうと思い、お茶を勧めると、御門の隣に座る。 「今回は組手の御指南、ありがとうございました。少し、自信がつきました」 「お前さんが頑張り屋なのは誰もが分かってる。俺でお前の成長を手助けできるなら喜んでやる」 微笑む檜崎に御門は「ありがとうございます」と礼を言った。 フレイアの意向で、秋明やサムライ、シノビ達に散り落ちた早咲きの桜の花が部屋や牢に届けられた。 綺麗どころという事で腹を決めた珠々は可愛らしいお菓子の数々を披露。 「こういうものにケチったらだめだって師匠が言ってました！」 ドヤッと言う珠々に数人が心の中で「顔はきれいなつくりなのに」と残念がる。 「珠々ちゃん、青嵐さんからの贈り物だが」 麻貴が出してきたのは林檎のジャムと橙の焼き菓子‥‥ 「にゃーーー！」 立ち上がった珠々が木葉隠を発動させて周囲を惑わせる。 だが、今は春。木の葉の存在は明らかに不自然。 「ちっ！」 舌打ちした珠々が奥義を発動させる。 そして、昼の陽気に夜の静けさが訪れる。 瞬時に珠々は早駆で走り出す。 たった数秒だが、その効果は甚大。 逃げ切ったと息をついていたが‥‥ 「奥義を使いやがって、師匠が泣くぞ」 ひょいっと、珠々が抱き上げられた。 「後、着物汚したら葉桜にシメられるから」 その一言に珠々は黙り、借りてきた猫同様柊真に搬送された。 戻ってきた柊真が見たのは麻貴の膝に甘える怜。 「筋肉があるから硬いのだが‥‥」 「そんな事ないんだぜ」 麻貴が自身の膝に甘える怜の頭をさらさらと撫でる。 「柊真、負けてるよ」 くいっと、杯を傾ける輝血に柊真が苦笑する。 「カタナシさん、男子三日会わざれば刮目して見よですわ」 クスクスと笑うのはフレイア。 「あのなぁ‥‥俺としては養子に来てもいいと思うが」 おおっと、周囲が驚く。 「でも、麻貴は沙桐みたいな子供もほしいと思うんだぜ！」 麻貴の膝の上でぴっと、指を立てる怜に全員が「一枚上手だ」と戦慄した。 「麻貴とカタナシでなんかやれば？」 ちろっと、輝血が視線を向けると、麻貴はふむと思案する。 「麻貴さん。俺もご一緒させて頂いても、よろしいですか？」 ひょっこり後ろから雅人の声がする。 「よし分かった。一緒に舞うぞ、読売屋」 「え！ 俺、シラフなんですけど！」 そういう意味で言ったつもりではなかったが、雅人は麻貴にずるずると引きずられていった。 「まぁまぁ。御門君、一曲頼むぞ」 「はい」 にっこり笑って御門が笛を奏でる。 皆が二人の舞に皆が視線を向いた時、青嵐がそっと輝血を誘い出した。 輝血に心から惚れ溺れている青嵐だが、分かっている事は分かっている。 彼女の底知れぬ闇を。 だが、思いは止められなくなりつつある。 自らの想いを再び青嵐が口にする。 自分が愛しているのは『何か』。 輝血にしてみれば、愛など多次元のものとしか捕らえようがなかった。 全ては一歩間違えればまやかし。 だが、彼女は一歩踏み出せば愛が現実になる事を知らなかった。 否、知りえる術がなかった。 「あたしは‥‥青嵐と一緒にいる事が嫌じゃない」 虚飾に塗れていた彼女がどうにか出す事の出来た答え。 「ごめん、ずっと待たせっぱなしだ。さっさとあたしのことなんて見限っても‥‥」 「待ちます。ずっと貴女の隣で生きて、待ちます」 青嵐の言葉に輝血は身体の芯で何かが疼いた気が‥‥した。 宴は夜もあり、店に入って行われていた。 入った店の桜は散り始めていた。 夜桜を眺めていた麻貴に御門が隣に座る。 「麻貴様、僕は沙桐様のお力にもなりたいと思います」 御門の言葉に麻貴は目を見張る。 「繚咲の闇は深い、泥を被る気か」 麻貴の厳しい口調に御門は一度口を閉じた。 「貴女の願いは僕の願い。代わりに力となって彼へ馳せ参じます。過去を繰り返すような事は決してさせません」 強い言葉の驚きと沙桐の闇を勘付いてくれていた事に麻貴は俯き涙を零す。 「沙桐を‥‥たすけて‥‥」 か細い悲鳴を御門は受け止め、柊真と視線をぶつけた。 柊真の瞳を真っ向から受け止めた御門はしっかり頷いた。 |
