【狂幕】誘う籠
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/03/19 19:30



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 麻貴が監察方の役所に戻った。
 開拓者達は麻貴を役所に届けると、帰ってしまった。
 年少三人組が麻貴の姿を見つけると、三人は「お仕事お疲れ様です」と声をかける。その言葉で自分が火宵に拉致されていた事が秘密裏にされていた事が分かった。
 四組主幹室に顔を出すと、柊真が書類を眺めていた。
「ただいま、戻りました」
 それだけ言うと、柊真は書類を机に置き、立ち上がる。
 無表情で近づく柊真に麻貴は叱責を覚悟したが、柊真は麻貴を抱きしめた。
「よかった‥‥」
 強張った柊真の身体から力が緩んでいく。
 吐息のような弱弱しい声と温もりに麻貴はそっと涙を流す。
「ごめん‥‥」
 それでも自身がした事を麻貴は後悔はしていなかった。


 柊真は麻貴を連れて羽柴家へと向かった。
 夜ともあり、杉明も梢一も家にいた。
 戻ってきた末姫に家族は安堵し、葉桜は泣いて麻貴の無事を喜んだ。

 麻貴が得た情報は火宵が繚咲周辺に目的がある事。
「火宵は繚咲の流通の事を聞き出したのか」
 確認したのは柊真だ。麻貴はこっくりと頷く。
 麻貴が繚咲の流通に詳しくない事を知ると、帰ってもいいとまで言われた。
 なぜ、帰らなかったのかは、火宵が繚咲から奇妙な旅人が理穴に入ったという話を聞いたからだ。ついでに情報収集にと二人で乗り出した。
「奴の部下が見張っていたのか‥‥」
「奏生入りした途端に姿を消したようです、火宵の推測は義父上を狙わせるようにさせたのは沙桐への牽制ではないかと言っていた」
 麻貴が呟くと、柊真と梢一が顔をしかめる。
「繚咲の呪花冠の意味すらわかっているのかあの男は」
「相手は豪商の息子だ諦めろ。直接繚咲の流通に関わってないだろうが、引っ掛かってもおかしくはない」
 苛つく柊真に対し、梢一は呆れていた。
「やはり、私は沙桐の足枷なのか…」
 自嘲する麻貴に杉明が首を振る。
「お前がいるからこそ、沙桐は生きてきた。あの名は己が欲を遮る嫉妬する者共が勝手に付けただけだ」
「義父上」
 心細げに義父の顔を見上げる麻貴に彼は優しい笑みを浮かべる。
「無事に戻って安心した。火宵と未明に客人として扱われていたようだな」
「はい。奏生内に火宵個人の友人がいて、現在は旅に出ているので会いませんでしたが‥‥」
「そうか、一度会いたいものだな」
 微笑む杉明に麻貴も絆されるように微笑む。
「して、柊真。根付けの行方は」
「今、調べる」
 麻貴の問いかけに柊真が言えば、障子の向こうで女中さんが葉桜に声をかける。
「まぁ、橘様が。お通しして、疲れているでしょうから、泊まっていってもらうわ。客室の御用意を」
 驚いた葉桜は早々に部屋を出て、遅い時間に現われた客人を向かい入れる為に玄関に出る。
「永和君?」
 麻貴もつられて立ち上がり、出迎えに出ると、そこには沙桐の幼馴染である橘永和が旅姿で玄関にいた。
「麻貴殿、ご無沙汰している。元気そうだな」
「うん、永和君も元気そうだな。祝言おめでとう。何、今日は奥さんいないの?」
 上がれと麻貴が声をかけて二人は杉明達がいる部屋に戻る。
 永和が少し緊張した面持ちで杉明と梢一、柊真に挨拶をする。
「此度は私事だ。気にする事はない。沙桐の伯父‥‥いや父親として接してくれ」
「わかりました」
 にこやかに話す杉明だが、永和の緊張は完全にはとけてない模様。
「そうだ、すまないが、これを見てくれ」
 柊真が思い出したように永和に根付けを見せ、事情を全て話した。永和は根付けに彫ってあった家紋を見れば、そっと溜息をついた。
「‥‥沙桐より、鷹来家当主の見合い相手が家族ともども消息を絶ったという話を聞きました。その際に家紋や詳細を手紙にて確認しましたが、この家紋はその見合い相手の家の家紋です」
「‥‥仕留めたら娘を推す様にするとでも上手い事を言ったのだろうな」
 梢一の言葉に麻貴は目を伏せる。
「都合のいいよき駒だな‥‥私達にできる事をしよう」
 顔を上げた麻貴にはもう弱々しさはなく、いつもの強い意志が瞳に宿っていた。
「とりあえず、次に奴らに会う約束もしたし、場所は分かっている。今の所分かっているのは、シノビが二人、サムライが一人だ。後は保護するべき見合い相手の家族だな」
「どこで会うんだ?」
「奏生郊外の廃寺だと言っていた。店とは違い、余計な心配も要らない。尾行した者達がその近くに奴らが逃げ込んだのも確認してもらっている」
「そうか。お前は行くんだろう」
 くすっと、柊真が笑うと、麻貴は頷いた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲


■リプレイ本文

「麻貴様、お帰りなさいませ」
 改めて麻貴を迎え入れる言葉を言ったのは滋藤御門(ia0167)と御樹青嵐(ia1669)だった。
「ただいま。揚げに玉子入れた煮物教えたんだって? 美味しかったよ」
 麻貴が言えば、青嵐は困ったように溜息をつく。
「無事でよかった。でも、一人で走りすぎだ。俺達だっている」
 劉天藍(ia0293)が言えば、麻貴は首を振る。
「あの状態で縋れる人間が火宵しかいなかった。輝血(ia5431)は分かっていてくれたがな。あの選択に私は反省する気はない。」
 淡々と言い切る麻貴に輝血はじろりと麻貴を睨みつける。
「分かっているなら尚更でしょ」
 意味が分からない腹の中のムカムカを麻貴にぶつけるように輝血が言う。
「‥‥彼は最後まで私を守ってくれた。私は迷惑しかかけてなかったがな」
「奴らに捕らわれてもいつもの強欲さが失われてなくてよかったですよ。欲なくて人は生きていけませんからね」
 寂しそうに呟く麻貴に紫雲雅人(ia5150)がにこやかに笑いかける。
「しかし、麻貴さんと縁がある武天の里との因縁があっただなんて‥‥事件の闇の根深さと人の業を感じずにはいられませんね」
 憂いの溜息をつくフレイア(ib0257)を横目で見た天藍は関わった事件を思い出す。
「とりあえずは私達を狙う者達の身柄を捉えるぞ」
 麻貴が言えば全員が頷いた。


 天藍は杉明を会いに羽柴家へ来ていた。
「知っている範囲でいい、他言はしない」
 そう言葉を閉じたその内容とは繚咲の花嫁候補の毒殺についてと見合いの家々、鷹来家周辺に関するアヤカシの伝承。
 シノビまで使い、鷹来家の実権を狙う勢力の心当たり。
 杉明はうつむきがちに思案している。
「先日、沙桐さんの見合い相手が消息を絶ったそうです」
 天藍がさらに言えば、杉明は溜息をつく。
「橘殿より聞いておる。沙桐からの連絡はまだなく、娘の身柄がどうなっているか分からん」
「他に知ってることは」
「私とて、繚咲に詳しいわけではない。私が知る限りもある。だがな、ものを推測で他人に口に出すのは余計な情報となる」
 言葉を選び、杉明が口を開く。
「私が知る中でも推測に過ぎない。私は繚咲の人間ではないからな。だが、一つだけはっきり言える事がある」
 杉明の言葉に天藍は顔を上げる。
「倉橋葛という人物を知っておるか」
 唐突に尋ねられた天藍は目を見張る。
「麻貴さん達の知り合いと聞いたが」
「彼女は武天の町医者でな。聞いた話だと、麻貴と沙桐を取り上げた人物と聞いている。香雪の方とも交流がある」
 知っている。随分と親しい仲だと認識している。
「此隅とも繚咲とも離れた所に住まう一介の町医者が何故、香雪の方と仲がいいのか」
 静かな杉明の言葉に天藍は続きを待つ。
「彼女もまた、犠牲者と言っても過言ではないだろう‥‥」
 そっと口を噤む杉明に天藍はそれ以上聞けなかった。
「とりあえず、娘さんの確保をしてくる」
 話を切り上げる天藍に杉明が「どうやって」尋ねると、「龍を使う」と言った。
「今回の依頼は朋友を使う事は許されておらんはず」
「だが、非常事態だ」
 語気を強める天藍に杉明は声音を和らげる。
「走りすぎるな。事を急くな。確かに、身柄確保は先だ。今事を急いて確保に行っても娘の命が危険に晒されるだけだ。こちらの方からも香雪の方に沙桐の動きについて連絡を貰うようにしておる」
 前回、武天に向かった際、龍を使おうとしたら理穴のギルド職員の白雪より馬を貸し出してくれた。天藍を心配しての事だろう。


 無言のやる気を見せているのは珠々(ia5322)だ。
 色々な事をひっくるめて黒幕の暴きの為に周囲を捜索。
 だが、相手にはシノビがいる為、無闇には入れない。じっと、宿が見える建物の屋根の陰から宿を見ていた。
「珠々。フレイアと永和が見取り図を持ってきてくれたんだぜ」
 小さな声で叢雲怜(ib5488)が珠々に声をかけると、珠々は猫のしなやかさでするすると降りてきた。
「柊真殿よりお借りした」
 三人が裏路地で地図を広げる。
 黒羽に紫の瞳の小鳥が三人を見つけると、珠々がその小鳥に地図を見せる。
 小鳥はぐるりと首を回すと、そのまま飛び立っていった。
「今のは人魂か」
 永和が言えば、珠々が頷く。
「青嵐さんの人魂です」
「成る程」
「ぜーったいに捕まえないとな」
 意気込むのは怜も一緒。
 頷き合う黒猫達に永和とフレイアが微笑む。


 目的の宿の周囲を見ている雅人はそっと溜息をつく。
 今回の事件はあまりにも伏せなくてはならない部分が多い。
 真実を公にするのは当たり前の事。
 だが、伏せなくてはならない事も存在する。
 伏せる事が出来ず、真実を出すという事は筆という凶器を持つ殺人者になりかねない。
 それは記者として一番恥ずべき事だ。
「辛気臭いな」
 背後から麻貴に話しかけられ、雅人は深く溜息をつく。
「そりゃ、そうでしょう。この事件は皆さんが言ってる通り深いし、まるで、一つ一つが真結びされているようです」
「‥‥最近、君達が介入しないと繚咲の闇は晴れないのではないかと思うようになった」
 ぽつりと呟く麻貴の言葉にあからさまな溜息が上から聞こえる。
「今頃気付いた」
 呆れた声音の輝血が降りてきた。
「ああ、今更だな」
 からっと笑う麻貴に雅人が溜息をつく。
「しかし輝血、聞いたよ。義父上と柊真を脅したって? 二人があんな骨がある奴なんて久々に見たって喜んでいたよ」
「だって、まどろっこしいんだもん」
 そこは喜ぶ所なのかと疑問に思いつつ輝血は不貞腐れる。
「柊真が監察方の人間でよかったと義父上も義兄上も義姉上も言ってたよ。柊真は監察方に入るべく育てられている。骨の髄から仕込まれている。もし、監察方に入っていなかったら火宵のようになっているだろう」
「だから僕は火宵を信じられることが出来ました」
 裏路地の奥から御門が現れた。力強い言葉に麻貴は眩しそうに微笑む。
「火宵、喜んでたよ。後、檜崎さんから組手習ったって? 披露を楽しみにしてる」
「そんな機会がなく、平和に終われる事を祈ってますよ‥‥麻貴様、彼と交わる事はないのでしょうか‥‥」
 寂しそうに呟く御門に麻貴は御門の白い手を握り締める。
「せめて、刃を交えない事だけを祈りたいな」
 囁く麻貴の言葉は優しい風が攫っていった。



 天藍の合流を待ち、日も暮れない内に襲撃をかける事に決めていた。
 藍色の羽の小鳥が開拓者達の視界に触れると、全員が強襲の時間が近い事を悟った。
 まずはシノビ達‥‥輝血、珠々、雅人が更に近くへと宿に近づく。
 雅人は逃走防止の為後衛になろうとしていたが、沙穂が駆けつけて、シノビが中にいる可能性が高いと声をかけられ、沙穂と場所を交換した。
 宿は殆ど人は織らず、陰陽師達が人魂で探った間取りとフレイアが借用した監察方所有の見取り図とほぼ合致した。
 輝血のそばには青嵐の人魂が付き添っていた。
 頃合を感じた輝血は肩に止まる小鳥を指に移し、そのまま鳥を上空高く飛ばした。
 合図を受けた青嵐は人魂を宿の上まで高く飛ばし、大きく旋回させた。
 何気ない日常のひとコマに過ぎないそれが戦いの合図と誰が知れようか!
 宿の部屋の中に秋明とサムライがいた。シノビはきっと隠れているだろう。
「逃がさないんだぜ」
 愛らしさは少しだけ顰めて怜がマスケット銃を構えた。

 響く銃声にシノビ達は気付いただろう。だが、スピードブレイクも乗せた閃光練弾は全員の動きを判断力を低下させる!

 目的の部屋は見事に当たり、眩い閃光が視界を蹂躙する!
「うおっ!」
 サムライと秋明は光に食われ、目を庇う。
 最初に入って来たのはシノビ達。待ち受けるかのようにシノビ二人が降りてきた。
 珠々に振り下ろされる刀は珠々の忍刀の鞘が受ける。その隙を縫って輝血がシノビの腹を蹴るが、手ごたえは頑丈な篭手。シノビの手が閃くと、輝血はシノビ特有の俊敏さで避けた。
 背後で響くのは柱に突き刺さる苦無の音。
「街にいた方ですね」
 雅人が尋ねても相手は無言。だが、口元を隠した布の下で顔の筋肉が笑みを作り、雅人は肯定と確信した。
 シノビから下手に突き出される拳を雅人が避けると、麻貴が刀でシノビを突く。
「羽柴麻貴か」
 ちろりとシノビの鋭い目が麻貴を捉える。麻貴は無言のまま、刀を返した。
 次に入ってきたのが御門だ。視界を光に奪われている秋明の前に立つ。
「秋明さん」
 御門が呼びかけると、秋明は顔を上げる。
「貴方は‥‥」
 口調は穏やかになっても声だけは誤魔化せない。壷振り女の代わりに現れた青年の声。
「貴方は騙されてます。恐らく相手は約束を守る気はないと思います。一華さん‥‥妹さんを護る為に僕を信じて貰えませんか?」
 秋明に少しずつ、視界が見えてくる。ぼんやりといるのはきっと、御門だろう。
「‥‥私は死んでもいい‥‥っ 一華を助けてくれ!」
 悲鳴のような秋明の悲痛な声が響く。
 彼に視界が見えてくるという事は‥‥
「お前は用済みだ!」
 サムライの男の方が視界が戻るのが早かった! 刀を抜き、秋明を斬ろうとした瞬間‥‥!
 静かかつ、重厚な銃声が響いた。
 銃弾が狙いをすましたのはサムライの肩だ。弾丸が肩当てに当たるなり砕け、弾丸を撃った衝撃は肩の筋肉すら抉った!
「ぐぉおおおおお!」
 筋肉が抉れた右肩は使い物にならない。熊すらも撃つ狩猟そのものの名を持つ技を持つのは怜しかいなかった。
 まだ左腕が残っている。サムライは何が何でも秋明を殺そうとし、刀を振り降ろす。
 女のような細い手が男の左手にかけられた。
「はっ!」
 気合と共に御門が手首を捻ると、屈強な男がふわりと宙を浮き、背中を床に撃ちつかせた。サムライは起き上がる事を許されず、そのまま天藍の呪縛符、フレイアのアムルリープでサムライは動きを完全に拘束された。

 狭い部屋の中、シノビはまだ捕獲されていない。
 シノビ達は狭い室内戦に長けていた。そして、獲物も室内戦を考慮したように苦無で応戦していた。
 珠々がシノビが突き出される苦無の攻撃を回避し、床の間の上に降りると、畳がひっくり返り、シノビの苦無を畳が受け止め、珠々がそのまま両足を突き出して畳ごと相手を蹴り倒すが、苦無の動きを止めるだけに留まったが、畳の大きさはシノビの動きを鈍らせるに十分だった。
 輝血がシノビの腕を取り、腕を支点にし、足でシノビの首を取り、そのまま締め倒す!
 首を絞められていてもシノビの空いた腕はまだ動く。シノビは輝血が隠し持つ針短剣に気付き、輝血の忍装束の中に手を入れる。
「落ちろ‥‥!」
 輝血の言葉と同時に青嵐がシノビに呪縛符を発動させた。
「‥‥斬撃符を持ってくるべきでした」
 ぽつりと呟く青嵐に気付かず、輝血はもう一人のシノビの方へと参戦する。

 シノビは執拗に麻貴を狙っていた。麻貴を殺す事を目的としているようだ。
 麻貴が相手に背後から取られたと思った瞬間、雅人が麻貴を締め上げているシノビの手の甲と腕を鴉の濡れ羽色の刃で串刺しにする。
 シノビは痛みに対しても訓練はされているが、本能的な隙は完全にはなくなるわけではない。
 その瞬間を輝血と雅人は見逃さず、雅人が一度刀を抜き、麻貴がシノビの腕を振りほどき、永和がシノビを捉えた。
「麻貴さん、大丈夫ですか」
「ああ、大丈夫だ」
 雅人が声をかけるとその向こうではシノビが麻貴を睨みつけていたが、怪我の状況とフレイアのアムルリープで気絶した。


 強襲開始時から一刻も過ぎていないが、こんなに騒いだのであれば店員に気付かれるだろう。
「ごめんなさい」
 三人の声が宿の主に向けられた。
 謝っているのは御門、珠々、怜。
 他の開拓者は仲間がいない事を確認すると、早々にサムライとシノビを連れて行った。フレイアはフロストマインをかけた周囲の確認と他にも誰かいないか沙穂と一緒に確認に出た。
 秋明も同じく引っ立てられようとしたが、御門が止めた。
 麻貴の隣で開拓者年少組をぼーっと見ていたが、自分より年下‥‥開拓者とはいえ、子供に頭を下げさせるのは申し訳ない気持ちになった秋明が前に出る。
「‥‥謝るのは私もです。どうか、弁償させてください」
 秋明が言えば、宿の主と修理代について話し始めた。
「いいひとだったのか?」
 首を傾げる怜に御門が微笑む。
「本当に悪い人に妹さんを盾に悪さをするように言われてたようですね」
「‥‥許せないんだぜ」
 憤慨する怜に珠々は麻貴を見やる。珠々の視線に気付いた麻貴が笑顔を向けると、珠々は麻貴の方を近寄り、力任せに麻貴の頭を下げさせる。
「珠々!?」
 驚く麻貴だが、可愛らしい珠々の手が麻貴の頭を撫でる。
 その行為に麻貴はそのまま甘んじた。


 サムライには最低限の治療を施し、尋問が始まっていた。
 中々話してはくれなかったが、開拓者崩れの放浪人である事を話し出した。
 雇い主はシノビの麻貴を執拗に狙っていた方だった。もう一人のシノビは雇い人のシノビの部下のようでもあった。
 シノビは秋明を連れてサムライに護衛するように行ってきたらしい。
 何も分かっていない秋明はシノビに妹の命を盾に取られ、理穴入りしたそうだ。
 サムライもまた、麻貴の事は知らず、誘拐出来れば金になるとくらいしか考えてなかったそうだ。秋明が裏切り行為に出て場合は斬るようにと言われていたらしい。始末すれば、先に貰った金の倍を出すといわれた。
「つまりは、その先を知るのはシノビか」
 ゆっくりと天藍が溜息をついた。


 フレイアが沙穂と手分けして周囲を確認していたが、特には無かった。
「沙穂さん、何かありましたか?」
 戻ってきたフレイアが声をかけると、沙穂は首を振った。
「これ以上の敵は今のところいないわね」
「‥‥そうですか」
 そっと、蒼氷の瞳が伏せられた。


 戻ってきて一息ついた麻貴を見つけた雅人が声をかける。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様」
 二人が肩を並べて茶を飲んでいると、雅人は湯飲みに視線を落とす。
 この「取材」が記事に出来るまで真実を手にする事が出来た時、彼女は声にする事を言葉にする事をどう思っているのかと思案する。
「読売屋」
「はい」
 思案を妨げるように麻貴が雅人に声をかける。
「‥‥いかなる真実が君に触れても目を瞑らないでくれ、耳を塞がないでくれ」
 辛そうな麻貴の声は酷く弱々しかった。
「俺は貴女の筆であり、声ですが‥‥何を伝えるかは俺が決めたっていいでしょう」
 雅人が言えば、麻貴は驚いたように自身の懐筆を見つめ、笑った。