【狂幕】誘う灯
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/02/15 22:53



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 警鐘が鳴っていた。
 理穴監察方で何年も叩き込まれたものが頭に拒否を求める。
 だが、これは仕事には関係ある事だろうか。
 否、ない。

 目の前の男は知らなかった事に対し、「わかった」の一言だけ。
 怒らないのか、苛立たないのか。
「これは脅しだ。やれよ」
 薄笑みを浮かべて男が笑う。

 なんて、優しい男なのだ。

「とりあえず、傷を塞ごう」


 麻貴が火宵に拉致された事を聞くと、柊真はそうかとだけ言った。
 あの後、捕まえた男達を尋問した結果、開拓者崩れを雇った男と壷振りの女は繋がっていた。
 だが、女は早々に逃げ出し、雇った男に始末するように言った。
 一方、雇った男は同時に杉明を襲撃したシノビ三人は知らなかった。
 杉明を襲撃したシノビは口を割っていない。
 火宵の名前を出したが、知らぬ存ぜぬ。様子を見ると、本当に知らない。
 ふと開拓者の言葉を思い出した柊真が鷹来家の名前を出した瞬間、目の動きが微かに不自然になったのを見逃さなかった。

「勘と言われたが、振られたという事か」
 ふむと、柊真が呟く。
「香雪の方の意向関係なく、今回は内々で済ますように手をつくそう」
 杉明の言葉に柊真と梢一が頷く。
「何を呑気な事を! 麻貴が心配じゃないのですか!」
 珍しく声を荒げたのは葉桜だ。
 麻貴が連れ去られたのを知り、気丈に振舞っていたが、やはり心配のようだ。
「心配だからって怒るなよ」
 柊真が言えば、葉桜が座布団で柊真をばしばし叩く。
「葉桜っ、お前っ!」
「麻貴が心配だからって遠ざけるからこうなるのよ! 開拓者の皆様だって気落ちしていたじゃない!」
 柊真の抗議もなんのその。葉桜はぜいはぁと息が上がっている。
「話を聞けば、火宵という男は柊真みたいに掴みどころがないっていうし、麻貴が強いからって心配よ。梢一は心配じゃないの!?」
「心配している。だが、俺達が鍛えたんだから、周囲に迷惑かけて逃げるだけ逃げてくる」
 微笑む梢一に葉桜は黙り込む。
「心配しているのが火宵が麻貴を利用する事だ。それだけは防がないとならない。麻貴が傷つかないかが心配だ」
 柊真が言えば、葉桜がぎゅっと、自身の着物を握りしめる。
「皆さん、大丈夫かしら‥‥そう言えば、キズナって子はどうしたの?」
「俺の家で預かっている。旭さんとよく共にしていたから母上に話し相手になってもらっている」
 ふと、思い出した葉桜が言えば、柊真が答えた。
 キズナは火宵が何かしているのかは気付いているが、実際の所は何も知らない。
「美冬様、喜んでいるのだろうな」
 そっと梢一が微笑むと、柊真が頷く。
 本当に涙を流して喜んでいるのだから。


 それから柊真は沙穂と檜崎、監察方の年長組にだけに事情を伝え、麻貴の捜索を頼んだ。
 だが、麻貴に関する情報は出てこない。
 奏生を出た様子も無い。
 役所の廊下を歩いていた時、前回、麻貴のお守りをお願いした組から、壷振りの女が理穴の繁華街で誰かと会っていたという話。
 それが誰なのかはわからなく、顔も見えなかったが身なりはそれなりに良かったらしい。
 そんな話を頭の片隅に残しつつ、柊真が四組の主幹室に戻ると、欅が待っていた。
「どうかしたのか?」
「お手紙を持ってきました。とはいっても、裏門に投げ込まれてました」
「投げ文?」
 欅が裏面を見せれば、「羽柴麻貴」とあった。
 間違いなく、麻貴の筆跡。
 柊真が手紙を開くと、火宵からの手紙。
 内容は麻貴は火宵の下で無事でいること。
 衣食住の約束はする。
 自分の用が終わったら返す。
 キズナに美冬に旭の話をしてやってほしい事を書いていた。
 そして、それまでキズナをどうか頼む。

「どんなお手紙ですか?」
 首を傾げる欅に柊真は報告書だとだけ言って手紙を仕舞っていると、ひらりと、一枚紙が落ちた。
 柊真が拾い上げると、麻貴の手紙だ。

 ドジを踏んですまない。
 今は火宵と共にいる。
 実に暇だ。
 火宵はとても奇知に飛んでて、話し相手になっている。
 未明は料理上手だ。節分に美味しい太巻きを作ってくれた。
 開拓者の皆は相変わらずだよな。そう願う。

 追伸
 小腹が空いたとき、火宵が林檎をウサギにして剥いてくれた。
 とても美味しかった。


 麻貴の手紙を読み終え、柊真はぽつりと呟いた。
「次会ったらあの男シメる‥‥」
 心の底から出てきた柊真の言葉に欅は訳が分からず、可愛らしく首を傾げた。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
紫雲雅人(ia5150
32歳・男・シ
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲


■リプレイ本文

 一人募集を増やして集まった開拓者達は面を食らった。
「今まで負担をかけさせてしまい、申し訳なかった」
 頭を下げて謝る柊真にが劉天藍(ia0293)首を振る。
「私も油断してました。麻貴さんを狙うやからがいるとは思っておりませんでした」
「今は自身を責めても何も導けません。どうか、父上を狙うように指示をした輩を見つけてくださいませ」
 肩を落とす御樹青嵐(ia1669)を優しく諭すのは葉桜だ。麻貴が誘拐された事によってどこか精彩を欠いているが、芯があるその瞳は麻貴とよく似ていた。
「何にせよ、火宵はシメる」
 前回の事を思い出してか、輝血が淡々と決意する。
「火宵は麻貴さんを庇って肩に怪我を負いました」
 青嵐が言えば、滋藤御門(ia0167)がそっと瞳を伏せる。
 麻貴を攫ったのが火宵で安心している。だから大丈夫と思える。
「あと、繚咲の呪花冠って何。麻貴が攫われた理由は?」
 輝血(ia5431)が言えば、杉明が口を開く。
「繚咲‥‥鷹来家では麻貴の事をそう呼ぶ。現鷹来家の当主‥‥沙桐に兄弟は存在しない事になっている。麻貴の存在を知る者は麻貴の事をそう呼ぶ事になっている。私を襲った連中が麻貴を攫うのは理解できるが、火宵が攫う事に思いつく理由が無いな」
「火宵め、そこまで調べ上げていたのか」
 珍しく舌打ちする柊真にフレイア(ib0257)が首を傾げる。
「火宵さんは母親の故郷や繚咲周辺に探りを入れているのですよね。近いのですか?」
「かなり近く、領地があった頃は交流もあったようだ。これは折梅様が嫁入りしてからの話だから確かだ。アヤカシの襲撃の際も前鷹来家当主が天蓋を動かして応援に駆けつけたが全て終わっていた」
 柊真はそっと溜息をつく。
「他には? ただあんまり隠し事ばかりしてると、あたし達はどう動くか分からないよ。なんせ自由な開拓者なんだし」
 脅しめいた輝血の言葉に柊真がくつりと笑う。
「己から動かない限り情報とは手に入らないものだろう。とはいえ、動きようが無いのも確かだ。こっちも火宵がそこまで調べていたとは思わなかったんだよ。つか、麻貴が鷹来家とすっぱり縁を切っていないのは沙桐と折梅様の繋がりで分かるだろうが、忌み名までとはなぁ」
「その点と点を結ぶ線がわかんないんだけど」
「正直、奴が何故、繚咲を調べるのか。検討がつかない」
 輝血が言えば、柊真が両手を挙げて降参と言うように言う。
「柊真様、火宵の狙いは故郷の再興ではないのですか?」
 御門が言えば、柊真は目を伏せる。
「俺もそうだと思っている。俺の母親もそれを願っていた。きっと、鏡合わせのように旭さんの願いでもあるだろう。だが、武器を作る理由がどこにあるか」
「繚咲の武力はどれほどのものですか」
 御門が前回、心の中で留めていた事を口にする。
「領地自体が軍事的なものではないが、護るだけだったら正直大きいものだ」
 柊真の言葉に嘘は無いが、彼も困惑しているのだろう。何故、火宵が麻貴を連れて行ったのか。
「俺は、麻貴がお手紙で大丈夫だって言ってるし、帰ってくると思う。火宵って奴は柊真と似てるんだろ? 俺は信じてみたいんだぜ」
 首を傾げる叢雲怜(ib5488)に柊真が微笑む。
「そうだな」
 静かにその場を聞いていた紫雲雅人(ia5150)は話題に上っている麻貴を思う。
(「全く、また皆に心配をかけて。仕方の無い人だ」)
 監察方とギルドの資料を見ているのだ。
 時間が惜しく、詰め込められるだけの情報は詰めている。
「‥‥では、大きな魚を引っ掛けてきます」
 珠々(ia5322)が立ち上がると、葉桜と柊真と梢一の頭を撫でる。
「‥‥なんだか、欅ちゃん達みたいです」
 ぽつりと呟く珠々に三人は笑う。
「私も昔は仕官しててね。監察方ではなかったけど、護衛方にいたのよ。よく三人で事件を追ったものよ」
 悪戯っぽく笑う葉桜に珠々は納得した。
「今は余計な情報を闇雲に新しく入れるよりは今の過去を整えた方がいいだろう。その上で私達が知っている事が必要ならば全て教えよう。宜しく頼む」
 杉明の言葉に全員が頷いた。



 天藍、青嵐、輝血、フレイアは上原家に訪れていた。
「こんにちはっ」
 笑顔のキズナに天藍はもう立場が違うのかと虚しさを胸に秘め、美冬に会いたい旨を伝える。
 その場にキズナを居させないように青嵐とフレイアがキズナとお話したいと誘う。
 美冬が笑顔で二人と相対する。
「故郷の事と繚咲について教えてほしいのですが」
 天藍が切り出すと、美冬は一つ頷いた。
「まずは故郷が滅んだ理由です。後、再興は何を持ってか」
 美冬は一度俯くと、直に顔を上げる。
「アヤカシの軍勢に襲われました。昼間の襲撃でしたが、その多さは志体を持った者達を凌駕する数と強さでした」
「アヤカシの軍か‥‥」
「風の便りで、鷹来家が天蓋‥‥警備部隊を動かして駆けつけて頂いたと聞きました」
「繚咲については? 再興を手伝って貰おうとは思わなかったのですか?」
 更に天藍が尋ねると、美冬は首を振る。
「その頃、鷹来家は時期当主の事で揉め始めておりまして、それが十年ほど続いていたようです」
「麻貴達が産まれるか否かか‥‥」
 ぽつりと呟く輝血の脳裏にあの酒場で麻貴が言っていた事を思い出す。
「何か、繚咲の伝承か何か知ってますか?」
 それに美冬は首を振る。交流のあった土地とはいえ、知らなかったようだ。
「杉明も柊真も聞いてないようだね。折梅か沙桐に会った時に聞くしかないのかな」
 輝血が言えば、美冬が少し答えていいのか分からないようにおずおずと口を開く。
「伝承とは違いますが、繚咲は元からああいう成り立ちはしておらず、小領地が集まり、その上で取りまとめる鷹来家が出来たと聞いてます。天蓋は今、折梅様の手配の元、地位が向上されたと聞いております」
「元は、そういう所って事か。折梅らしいっちゃらしいね」
 ふうんと、輝血が言えば、美冬が微笑む。
 繚咲には存在していたのだ。シノビを道具をみなす者が。

 別室では干し果物の焼き菓子を振舞ってキズナとお茶会。
「そうですか、火宵さんは意外とお節介焼きなのですね」
「うん」
 お菓子を美味しいと喜んで食べるキズナは年齢相応の子供だ。
 キズナは本当に火宵が何をしているのかは知らないが、何かを目的として未明や曙らを配してやっていることは知っているようだった。
「キズナさんは知りたいとは思わないのですか?」
「ぼくは火宵様の目的より、火宵様がただいまって言える場所をまもりたい」
 フレイアの疑問にキズナが答える。
「それは火宵さんの家ですか?」
 青嵐の言葉にキズナが頷く。
「火宵さんは理穴ではどこにいるかと仰っていませんでしたか?」
 更に青嵐がぶつけると、キズナはうーんと、記憶を辿る。
「お友達の家にいるって。未明も一緒だよ」
「三人で来られたのですか?」
 フレイアが確認を取ると、キズナが頷く。
「どこに住んでいるのですか?」
 キズナは詳しい事は分からないが、火宵と別れた場所は奏生でも上級階級の者が住む地域の近くだった。
「そろそろ出るよ」
 輝血が声をかけると、青嵐だけがその場を辞し、入れ違いに美冬が入り、お茶会の続きとなる。


 資料を読み終え街に出た雅人は壷振り女の後を追う。
 必ず生活の跡はあると食事所や宿屋、雑貨屋まで足を向ける。警戒しているのだから、表通りにはいないだろう。
 適度な世間話をして確認を取っていくと、女の目撃情報は確かにあった。
 随分と怯えたようであり、そそくさと店を出るようにしていたようだ。
 それより前は金の羽振りが随分とよかったようだ。あの美貌だ、金のいい男でも引っ掛けたのだろうと誰もが言っていた。
 だが、ここのところは誰かと会っていた話は無かった。
 どこにいるかまではわからなく、とりあえずは同じく壷振り女を探している御門と合流しようと踵を返した。

 辻占いの格好をし、天藍が囮役を務める。
 火宵の目撃情報を聞いた所、特には無かった。
 必ず連れているだろう未明や曙の事も聞いたが、特に無かった。もしかしたら、変装をしている可能性は否めない。
「アンタ、賭場にいなかったか?」
 道を歩いていた男に声をかけられた。
「ああ、居たがどうした」
「壷振り女、最近見ねぇの知ってるか」
「そうか。賭場には来てないのか」
 天藍が話に乗ると、男は頷く。
「ああ、別嬪だし、親分が大怒りでよ」
 女の美貌に流されて金をつぎ込む男達が女がいなくなったから金を賭けなくなったらしい。
「そりゃ災難だ」
 くつくつと天藍は笑って話を合わせる。それとなく火宵の事も聞いてみるが、男は知らなかったようだ。


 繁華街できわどい店の往来を歩いていると、随分と声をかけられた。
 男ではなく、お姉さんに。
 女性と間違われかねない美貌の持ち主である御門だが、現在は年上に見られるように服装を変え、髪形も変えたり束ねたりしている。
 実際に立場を変えて男達に探りを入れると知っているものは知っていた。
 下世話な話を適度にかわしつつ、逗留先を尋ねると、ころころと変えてるようだった。
「滋藤さん」
 御門が振り向くと、雅人が店と店の裏路地に隠れるようにいた。
「何か分かりましたか」
 御門の言葉に雅人は店で聞いた女の様子を伝える。
「こちらの情報と合点が行きました。女は逗留先を変えて、食事は店で行っているようですね」
「新しい男の家を作って逃げ込むのはないな」
 奥から現われた柊真にあっとなる二人。
「今、劉が囮役で辻占いをしているから劉が女を捜しているという情報をちょっと撒いて来た。今に慌てて逗留先を変えるだろう」
「分かりました。何人か人員を貸してください」
 御門が言うと、柊真が沙穂と檜崎、新人三人組が向かっている事と旨を伝えた。
「それと、麻貴の誘拐の件、新人には言ってないからな」
 劉に引き上げの合図を入れに踵を返した柊真が言った。
「‥‥言われて騒がれるよりはましですがね」
 雅人が苦笑すると、御門がくすくす笑う。


 輝血は繁華街に行き、青嵐はキズナが言っていた場所へと赴いた。
 青嵐はその近くの商店などで確認を取っていた。
「あら、カタナシの手伝いしてた人じゃないかい」
 艶っぽい声に青嵐が振り向けば火宵の部下である未明がいた。
「あなたは‥‥!」
 身構える青嵐に未明は戦う気は無いとだけ言う。
「麻貴はちゃんと返すよ。火宵様の用事は殆ど終わったからね。ああ、もう、呪縛符とか用意しない」
 懐の呪符に気付いた未明が言えば、青嵐は納得してないように呪符をしまう。
「狙いは何ですか。柊真さんも杉明さんも麻貴さんの忌み名を知っていることに驚いてましたよ」
「そりゃそうだろうね。繚咲であの子の事を知るのはほんのごく少数」
 あっさり肯定する未明に青嵐は彼女の様子を見逃さない。
「アンタみたいな色男に見つめられるのは嬉しいけど、今は晩御飯に忙しいの。あ、麻貴の好物知ってる?」
「私が作ってあげましょうか」
「今度作ってあげて」
 青嵐が言えば、未明はにっこり笑って断る。
 溜息をついた青嵐は油揚げの中に玉子を落とした煮物が好きだと教えた。
「献立に助かったよ。ありがとう。それと、羽柴杉明を狙ったのはあたし達じゃないからね」
 手を振って未明がシノビ特有の跳躍力で逃げていった。


 監視者を追う事にした珠々はとりあえず、理穴の街に向かった。
 あくまで珠々は囮なので、本来、追う怜の存在を相手に悟らせてはいけない。
 屋根を伝い、走り、跳ぶ。
 その前には‥‥
「‥‥!」
 驚く声を出せなかった珠々が感じたのは監視者だ。
 足を止め、珠々は監視者と対峙する。
 抜くべきか。撃つべきか。珠々と下の怜に緊張が走る。
「羽柴麻貴はどこだ」
 静かな問いに珠々は感情を崩さず黙り込む。
 この時点でこの監視者が火宵の手のものという可能性が消えた。そして、麻貴も監視していた。
 ならば、どこの者か判明させねば。
「知りません」
 すっと、男の目が細められ、男の開かれていた男の手が握り締められ、再び開いた時には苦無があった。
 お互いの呼吸を見計らい、相手の呼吸が鋭く整った瞬間を珠々は見逃さなかった!
 同時に男が珠々に向かって走り、珠々は跳躍した。
 空中で身を翻し、怜の姿を視界の端で確認し、珠々が風神を繰り出した。襲い掛かる風に男は腕で顔を庇って珠々を追う。
 珠々に手がかかろうとした瞬間、男の脇腹に銃弾が襲った。怜のクイックカーブだ。
 もう一人いたことに男は不利を感じ、腹を抑えて走った。
 珠々が姿を追い、最終的には撒かれたが、その場所はほぼ確定できた。


 女は繁華街を走っていた。
 食事をとりに店に行ったら、怪しい辻占いの男が自分を探しているという話だ。あの男は何で自分に声をかけたのだろうか。
 御大尽の襲撃を頼んだ男は捕まったと聞いた。
 あの人からの連絡があった今、しくじったから消されるのだろうか。
 得体の知れない恐怖が女に襲い掛かる。
「よう、姉さん。話をさせてくんねぇか?」
 女の前に二人の男が現われた。

 繁華街で輝血は柊真と会い、更に情報のばら撒きに参加していた。
 女も捜していると、金切り声が微かに聞こえた。

 人魂を飛ばしていた御門は人魂から見えた姿に目を見張る。
「麻貴さんがいます。火宵と一緒に!」
 御門が言うと、離れた所にいた雅人がその声を聞いた。
同時に青嵐も天藍も人魂を飛ばしており、女が火宵と麻貴と対峙しているのを知った。

 超越聴力を使用できる者達が聞こえたのは女の金切り声だった。
 知らない、何にも知らないよ!
 火宵の事だから何をするかわからん、だが、女を保護せねばならない。
「麻貴!」
 先に駆けつけたのは輝血だった。
「輝血‥‥」
 どこか戸惑った顔の麻貴は動こうとしなかった。
「また、似たような状況だな」
 にこっと笑うのは火宵だ。確かに前にもこんな事があった。
「俺には用がないからな、女は好きにしろ」
「キズナに何をさせている」
 天藍が火宵を止めた。火宵の表情は困惑しているようであった。
「美冬さんにお袋の話をするように言っただけだぞ?」
「何が目的ですか」
 青嵐の言葉に火宵が意図に気づいたのが、目を細める。
「見くびるな! 約束を違えてまで情報を得る気などない」
 火宵の一喝に全員が油断した瞬間、火宵が麻貴を抱きかかえて跳躍しようとしたが、片翼の小鳥が火宵の眼前を横切った。
「御門君‥‥柊真、読売屋‥‥」
 三人が駆けつけた。
「麻貴様、御無事で何より」
 御門が言えば、柊真が麻貴に手を伸ばすが、麻貴は口を開いた。
「皆、すまない‥‥私は、守りた‥‥」
 麻貴の言葉が終わらない内に火宵が麻貴を連れ去ってしまった。


 女を捕らえて戻ってきた開拓者達は珠々と怜の報告を聞く。
 監視者は火宵の手のものではなく、麻貴を探していたのだ。
「また直に依頼をかける。監視者と壷振り女を雇った男の捜索を頼む‥‥」
 どこか疲れたように柊真が呟いた。