【狂幕】誘いの手
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/31 22:37



■オープニング本文

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 明け方の奏生に三つの影が入った。
 風のように速く、軽やかな影であるが、一番小さな影を導くように前の影達は走っている。


 杉明を狙った者達はあくまで依頼されただけだった。
 金に喰いついてやっただけ。
 誰に依頼されたか聞けば、開拓者崩れはあっさりと答えた。
 最近できた賭場で会った男だ。
 賭場の壷振り女が結構な別嬪で、鼻の下を伸ばしていた所にスッて金がなくなって服でも売ろうかという時に同じ客の男に声をかけられたとの事。
 管理している任侠者は影でシノギを削る連中。
 高利貸しや賭場なんかで生計を立てている者達だ。
 監察方は新しい賭場の件は知っていたが、あまり気にもしていなかった。
「運営組が知ってるかどうかか」
 ふむと、杉明がお茶を啜る。
「誰かを襲わせるような事をするほど経営に困窮している話は聞いた事はありません」
 ため息をつくのは柊真だ。
「賭場を披くのだって大金が必要だ。それに、その手の風俗がなくなれば正直治安は悪化する」
 賭場には金が動く。維持費だって馬鹿にならない。
 栄えた場所であるが故にその手の風俗で欲求を解消しなければ犯罪に走る者だって存在する。
「本来は暗黙ですがね‥‥」
 あっさり肯定するお偉い様に柊真が肩を落とす。政治関係者が爆弾発言とも聞こえる言葉を言えるのは、既知の家だから。
「しかし、とりあえずは道は消されてないのが救いだな。黒幕の目的は私ではないだろうな」
 杉明の言葉に柊真は黒鈴猫の言葉を思い出す。柊真もまた同じ考えだ。
「ええ、そうですね。物陰で見ていた人物も気になりますが、あの子の話によれば、襲撃者を監視していたように見えたとか」
「味方とは言えないのか」
 ふむと考え込む杉明に柊真が声をかける。
「そう言えば、例の一件は私に人選を任せてもらっても良いですか?」
「構わない。正直、向こうに知り合いがあまりいなくてな。内々で収めたいのが香雪の方の意向だからな」
「はい」
 柊真が頷くと、ピクリと肩を震わせた。
「柊真殿?」
 杉明が首を傾げると、柊真はげんなりとした。
「バレたようです」
 その言葉と同時に玄関の方からどすどすとものすごい足音が近づいてくる。
「義父上! 柊真! なんで黙ってたんですか!」
 勢いよく開かれる障子と同時に麻貴の怒声が響く。
「羽柴様すみません‥‥」
 美冬が申し訳なさそうに謝る。玄関先で知らぬ存ぜぬをしていたが、折れてしまったようだ。
「仕事で足りない案件があったんだよ」
 噛み付く麻貴に受け流すのは柊真だ。
「義父上が襲撃された話を聞いた」
「どこで」
「駒木殿を脅した」
 じろりと柊真が言えば、憮然とした表情で麻貴が答えた。
「それに、この話は結構広まっているぞ。義父上の対抗勢力の人達が私にわざわざやったのは自分じゃないとかまで言い出す始末だ。仕事を欠席し、開拓者雇って別宅にいた話とかされましたよ」
 上になればシノビを雇用している者もいないわけではない。
 芦屋の件はそれとなく広まっており、一応は静まっているようだ。
「とにかく、お前は他の組の仕事を手伝ってもらう。去年の件、忘れたとは言わせないぞ」
 柊真が言えば、麻貴は悔しそうに黙り込んだ。去年の失態を覚えているようだった。
「とりあえずお前は三組の手伝いに入れ」
「‥‥わかりました」
 悔しそうに麻貴がそっと涙を零して上原家を後にした。
 台風一過よろしく、二人が溜息をついた。
「でも、あんな風に言うことないんじゃないの? つーか、失敗したなら遠ざけるんじゃなくて、返上させるのが兄さんの新人教育方針じゃない」
 ひょっこり天井の板をはずして沙穂が顔だけ出す。
「‥‥状況を知ってるやつが何を言う」
「公私混同って言葉知ってる? あと、人を呪わば穴二つとか」
 呆れる妹に苦々しく言うが、沙穂は更に兄に止めを刺した。


■参加者一覧
滋藤 御門(ia0167
17歳・男・陰
劉 天藍(ia0293
20歳・男・陰
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲


■リプレイ本文

 呆れたようにため息をついたのは輝血(ia5431)だ。
 目の前の麻貴はきょとーんとしている。輝血と麻貴で挟むように座っている御樹青嵐(ia1669)と滋藤御門(ia0167)が謝っている。
「何で青嵐さん達が謝るんだ?」
「麻貴さんにとって杉明さんは大事な人でしょう? そんな人が襲われた事を黙っていた事をお詫びしないといけませんし」
 青嵐の理由に御門も頷く。
「開拓者には守秘義務があるだろ。仕方ないさ。問題は柊真」
 怒りの矛先はやっぱり柊真にあるようだ。
「ですが、柊真様はお考えがあっての事と思います」
 御門が控えめに言うと、麻貴は溜息をつく。
「‥‥ばーさまの手紙を貰ってから義父上、何かおかしいんだ」
「折梅の?」
 首を傾げる輝血に麻貴が頷く。
 ふと、思い当たる節に気付いた御門だが、あえて口にしなかった。

 珠々(ia5322)と叢雲怜(ib5488)は怜が見た監視者の捜索をする事にした。
「うーん」
 唸っているのは怜だ。
 監視者がいた場所は店と店の間にある小さな小道。
 別段、何かあるものではない。
 困ったように怜が見上げると、ちょっと不自然な所に土汚れがあった。
「あれ。珠々っ」
「何でしょう」
 怜が声をかけると、周辺の屋根の上にいた珠々が降りてくる。
「あれ、おかしくないか?」
「あれは多分、三角跳の跡だと思います」
 二人が見上げるその場所には確かに土汚れがあった。
「あの高さなら多分、大人のシノビでしょうか。でも、土汚れをつけるだなんて何だか不自然です。普通のシノビにはありえない間違いです」
「あれが一歩だとしたら。汚れがどっちかの屋根にないか?」
「探してみます」
 怜の言葉に珠々が言うと、怜が手を組んで珠々の足掛けを作る。珠々がシノビの特性を活かし、怜の両手に足をかけて肩で反動をつけて窓なんかに手をかけつつ、上へ上がる。
 確かに土の汚れはあった。
 その方向に思い当たる場所は珠々に思い浮かばなかった。


 杉明の警護に付いたフレイア(ib0257)は杉明の仕事について聞き出そうとしたが、杉明はあまり口には出さなかった。
「開拓者ならば、彼の御方の依頼にも応じていると聞いた。私は彼の御方を支えるが為に在る」
 答えたのはそれだけだ。
 いつ命を狙われるか分からない事を杉明が覚悟していると感じたフレイアが過去の権力者を思い出す。
 簡単に仕事を明かさない身分がどれほどの地位にいるか察知は出来る。
「成程、それは聞かない方が互いの為かもしれませんね」
「芦屋殿の件で美味い汁を吸えなくなった者達は随分と大人しくなったとはいえ、影で何をしてくるかは分からんがな。前回の聞き込みの件が不安となって麻貴への暴露となったからな」
 溜息をつく杉明にフレイアは溜息をつく。
「臆して余計な動きをされたのですね」
「まぁ、余計な火の粉は避けたいのが人間だからな」
 困ったように杉明が苦笑した。


 賭場に入った劉天藍(ia0293)は壷振りの女を探していた。
 だが、入った時点ではまだいなかった。
 胴元に話を聞けば、女はいつも人の入りが多く、賑わってきた時に出てくる。
 まだまだ宵の口。
 家や店屋で飯を食ったり一杯引っ掛けている者も多い時間帯だろう。
(「早すぎたか」)
「兄ちゃん、壷振り女目当てか」
 客の一人が天藍に声をかける。
「あぁ、ちぃっと、いい女だって話を聞いたからよ」
 今回も変装と口調を変えている。
「それだったら遊んでいきなよ。派手に遊べば出てくるぜぇ」
 ニヤニヤと質の悪い笑みを浮かべて男が言うと、天藍は「金がない」とだけ言って奥の酒飲み場の方へと向かった。銚子一本で粘るようだ。
 厠に行く振りをしてその場を出て、道に迷ったように天藍が周囲を見ていると、襲撃者の話通りの容貌の女がいた。
「なぁ、ちょっといいか」
「あによ、迷ったのかい?」
 女が言えば、天藍が本題を切り出した。
「ここに来ていた連中から仕事に誘われてよ。奴等はしくじったが、何とか逃げたんだがよ。俺、あんな奴らより使える連中知ってっからよ。仕事回してくれねぇか?」
 天藍が交渉すると、女は無表情のまま。ややあって溜息をついた。
「やぁだね。下戸かい? 酔っ払い相手に与太話するほど暇じゃないんだよ。賭場はあっちだよ」
 指で賭場があった方向を指して女は奥へと行った。

 少し時間を巻き戻し、資料作成した後、柊真と合流。
「麻貴様、怒ってましたよ」
「わかってる。すまないな」
 御門が報告すると、柊真は困ったように笑った。
「柊真様、有明残党と繚咲自警団は連絡待ちという事でしょうか。後、麻貴様が杉明様の様子を心配していましたよ」
 その確認に柊真は瞳を伏せた。
「これは仕事じゃないし、お前達なら大丈夫だろう。今、自警団は失踪者達の対応に追われている」
「達?」
 眉を潜める御門に柊真は少しだけ声を上げる。
「出てこないと人参食わすぞ」
「‥‥に、にゃー‥‥」
 表情筋が死滅していると言われている珠々であるが、その瞳は恐怖で怯えている。
「何かあったようだな」
 柊真が言えば、珠々は怜と一緒に監視者の件を報告した。
 街で聞き込みをしていた所、サムライらしき男や陰陽師らしい者の尾行があり、少し気になったという話だった。
 壁の土汚れについては、珠々同様に柊真も不審に思い、顔を顰める。
「シノビらしくないが‥‥足の向きはどっちだった」
「方角的にはこの羽柴家別宅です」
 珠々の言葉に御門は不安な気持ちを胸に秘める。
「とりあえず、警備はまだ必要のようだな。御門、後で人魂を回してくれ」
「畏まりました。そういえば、先程の話は‥‥」
「それが原因で折梅様も此隅にはまだ戻れないそうだ。沙桐に言えば俺達の捜査の件があるから、沙桐や麻貴の耳に入れるなとの御用命の手紙が来たんだ」
 御門が話を戻すと、柊真が説明をした。
「失踪者ですか‥‥折梅様、大丈夫でしょうか‥‥」
「お前がそんな顔をしてたらもっと気を落とす。お前達が笑ってお酌でもしてくれる事が香雪の方にとって元気の源だからな」
 心配そうに言う御門に柊真は笑う。
「やっぱり、お考えあっての遠ざけだったのですね」
 麻貴が鷹来家に対し、心に抱える物がある事を知る御門は安心したようにようやっと笑った。


 夕暮れ時に麻貴と青嵐、輝血は賭場に入るのに時間潰しで酒場に入って食事をとる事にした。
「目的の男はいいのかい?」
 ちびりと、酒を舐める輝血に麻貴は頷く。
「他の組の人達が見てくれている。捕縛は未明にかけて人気ない所でやる予定だ。私的には義父上を襲った連中が気になる。後監視してたやつ」
「しっかし、何であんなお粗末なのをよこしたんだろ」
「‥‥輝血さん」
 横目で窘める青嵐に輝血は悪びれることもなく話を進める。
「守秘義務は確かにあるよ。でも、情報が全然ない、闇雲に探すよりは少しでも知恵を出し合った方が効率いいよ。麻貴に対して隠すよりは情報を出し合った方がいいよ」
「輝血、話が早いな」
「いつだってそうだよ。鈍感だね」
 正論を言い切る輝血に麻貴はにこにこと笑う。
「杉明の暗殺依頼がもし、囮だとしたら目的はどこにあるんだろうね」
「天藍は鷹来家絡みと勘で言ってましたが」
 青嵐がそっと口を挟むと、麻貴は少し元気をなくしたように俯いた。
「鷹来家は四つの小領地を統括する有力氏族だ。領地の中では絶大な権力を誇る」
「だから、折梅みたいなのが嫁に貰われたのか」
 奇妙に納得する輝血に麻貴と青嵐が苦笑する。
「葛先生は私達の母親になる可能性があったんだよ」
「え‥‥」
 意外な名前に輝血がきょとんとした。
「つか、時間だ。さ、行くよ」
 麻貴が切り上げると、輝血は次時間があったら‥‥と心に決めた。

 珠々と別れ、監視者の手がかりを探していた怜は空が暗くなったのに気付いた。
「戻った方がいいかな」
 怜が呟くと、「ねぇ」と声をかけられた。
 振り向くとそこには自分と似たような年齢の少年がいた。

 時間を戻し、戻った天藍は銚子一本で粘りつつ、向こうでの賭け事の行方を見ていた。
 勝負事が嫌いではないので、こういった事にも興味がないわけではない。
「兄さんやらないのかい?」
「こういうのはここ一番の勝負でガツンと遊びてぇんだよ」
 声をかけてくる男に軽くかわしながら天藍が女の登場を待つ。
「ウチの壷振り女でガツンと、か。いいだろう、お前さん、男前だからな。出てくるだろう」
 奥で酒を飲んでいた頭らしき男がゆっくりと立ち上がる。
 呼んできてくれるのはありがたいと思いつつ、襲撃者を雇った男が頭と入れ違いで現われた。その男は丁の目が出たのを確認して、場に入った。
 続いて入ってきたのは麻貴と青嵐だ。身なりのいい二人は好奇の目に晒されている。輝血がいたはずだがと、視線だけ上に上げると、輝血と目が合った。
 麻貴は他組の仕事をしていると聞いたので、目的の人物がここにいるようだ。
 何度かのやりとりの後、目的の男は木札を失い、場から離れた。
 まだ女は現われていない。
「兄さん、ちぃっといいですか?」
 声をかけられたのは天藍だ。立ち上がった天藍はそのまま男について行った。


 人魂で別邸を巡回していた御門と超越聴覚で誰かいないか珠々と柊真が確認している。
「いますね。シノビだと思います」
 御門が言えば、珠々が頷いた。
「今のところ、多分、三人です」
 フレイアがムスタシュィルを発動させているので、侵入してきても即座に反応できる。
「まだ狙ってくるのだな」
 呆れたように言う杉明はのんびりしている。
「来るなら捕まえるまでです」
 頼もしく珠々が言えば、杉明は微笑んだ。
「‥‥きます。瘴気はなしです」
 フレイアが静かに言うと、珠々が走り出し、障子を開けた!
 反射的に珠々が手を上げて苦無を構えた。その苦無の刃が受け止めたのは忍者刀だった。
「シノビ‥‥!」
 はっと珠々が苦無を弾き返して間合いを取る。
 御門とフレイアが杉明の護る為に傍らに立つが、もう一人のシノビの目的は蝋燭だ。それに気付いた御門が斬撃符でシノビの腕を狙ったが、相手はその衝撃に失速すれど、怯む事無く蝋燭を倒そうとする。柊真が蝋燭の明かりを護るようにシノビに斬りかかる。
「御門!」
 柊真の声に御門がもう一度斬撃符を投げると命中し、シノビは膝を突いた。
 珠々と戦っているシノビは接近戦で戦っている。相手のシノビは刀だというのにものともせず、珠々と激しい攻防を続けている。珠々がふと見えたのは、後ろから来るシノビ二人。
「させません」
 フレイアがアークブラストを放ったが、忍者服の頭巾を掠り、顔が見えた。若い男だ。
 シノビは失速せず、そのまま杉明を狙う!
 銃声が聞こえ、シノビは足を撃たれた。
「え」
 誰かがその音に驚きの言葉を漏らした。
 そして旋風が奔り、そのシノビを取り押さえた。
「やったね!」
 銃声を起こした怜が喜ぶと、その旋風が頷く。
 旋風の正体を見た柊真が呆然とした。

 男に連れ出された天藍は周囲と男に警戒していた。
 何とかこの男は捕縛し、次に繋げないとならない。近くに輝血が目を光らせてくれているから何とかなるだろう。
 こくりと、生唾を飲んだ天藍が男に話しかけようとした瞬間‥‥
 天藍の上空で男二人が刀を合わせていた。
 その一人に天藍の肌が粟立つ。
 薄茶の髪に一房だけ長く、紫の瞳が印象的な男前――
 名を叫ぼうとした瞬間、天藍は鋭い痛みに反射的に身体を捻った。男が匕首で天藍を刺してきた!
 男は対峙した男を蹴飛ばし、その勢いで方向転換をして賭場の方へと向かう。
 騒がしい賭場の屋根裏部屋で異変に気付いた輝血が天藍の方へと走り出す!
 輝血もまた、その男に気付く。
「アイツ、志体持ちだ。気をつけろ」
 すれ違いざまに男が輝血に助言した。嫌そうに輝血が顔をゆがめるが、今は天藍が危険だ。
 男が蹴飛ばした相手は元は天藍を狙っていたようで、天藍は二対一で戦っている。
 賭場の方では壷振り女はまだ来ていなかったが、大盛り上がりしていた。
 どうやら、大一番のようだ。
 その騒ぎに麻貴も青嵐も周囲に警戒する。この瞬間に相手が何かしかねない。
 後ろから近づく刃に気付いた青嵐がその方向が麻貴に向けられた。
 誰もが興奮する大一番には大きな金がかけられていた。誰もそれに気付いていない。
 青嵐が呪縛符を発動しようとした時‥‥
「繚咲の呪花冠、迎えに来た」
 天藍が連れ出された方向から侵入してきた男が麻貴を庇うように身を翻し、そのまま肩に刀を受け、その隙を狙って麻貴を狙った男を蹴飛ばした。
 青嵐が呆然としていると、男は不敵に笑い、麻貴を抱きかかえた。
「イカサマだぁあああああ!」
 客の一人が叫びだし、興奮の坩堝と化した賭場はそのまま乱闘場と化した。
「麻貴さん‥‥っ!」
 青嵐が手を伸ばしても人込みで届かない!
「麻貴‥‥っ!」
 はっと、輝血が麻貴に気付いた。輝血に気付き、連れ去られる麻貴が手を伸ばしている。
 何とか雇った男を倒した天藍が後姿を見た。
「どういうことだ‥‥火宵!!」
 天藍の叫びは冷え冴える空に吸い込まれていった。


 怜が連れてきた珍客に誰もが状況を飲み込めなかった。
「何か、だめだったか?」
 首を傾げる怜に柊真は「下手すれば大手柄かもしれん」を怜の頭を撫でる。
 旋風‥‥いや、細身の少年は下座に正座で座って大人しくしている。
「火宵様が羽柴麻貴さんを預かったから、ボクが皆さんと一緒にいます。麻貴さんは必ず無事に帰します」
 そうは言われてもと、誰もが困惑する。
「名を聞いてもいいか? 私は羽柴杉明という。麻貴の父親だ」
 杉明が言えば、少年は自分が名乗っていなかった事に気づいた。
「ボクはキズナっていいます。よろしくおねがいします」
 礼儀正しく頭を下げるキズナに誰もがこの展開は何なんだとキズナを見つめる。
 当人はにっこりと笑っている。


 天藍の傷は青嵐に直して貰い、改めて壷振りの女を捜したが、女は姿を消していた。
「とりあえず、戻りましょう」
 悔しい思いをしているのは皆同じ。
 まずは自分達が今出来る捕縛だけをし、監察方の役所に詰めていた檜崎に預けて、三人は羽柴家別邸へと向かった。
 そこで天藍は急展開、急再会に呆然とした。

 これから奇妙な交換生活が始まる。