【繚咲】みはられし花
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 7人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/09/27 19:38



■オープニング本文

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 北の方から跳ねる影があった。
 月の光に透ける白の髪。風に流れる白の兎耳。頬が隠れる伊達襟がまるで牡丹の花のよう。
「咲主さまの♪ ごはん♪」
 楽しそうに跳ねた。



 沙桐は開拓者が持ってきた情報にどうしてくれようか頭を抱えていたが、とりあえずは泉に確認をした。
 松籟が先代貌佳領主の妹の子供であるかも知れないことは伏せておき、妹が子供を産んだという話があるかどうか確認だけをした。
「‥‥私が産まれる前だからあまり知らないの。でも、大叔母様は死ぬ数年位前から貌佳北部の屋敷に移ったようだけど」
「理由は?」
 泉は首を振ったが、思い出したように目を見開く。
「母が言ってたんです大叔母様は最後は扱いだけは粗末だったけど、幸せだって手紙が来たと。やはり、子供は宝だって。子供を産んだかは明確には言ってませんでしたが‥‥」
 俯く泉に沙桐は「それだけでいい、ありがとう」と答える。
「‥‥沙桐様、変わりましたね」
 ぽつりと呟く泉に沙桐は目を瞬く。
「なんでいきなり」
「沙桐様は私達、繚咲の有力者には一度も穏やかな目で見た事はありません。香雪様は別として」
 それは確かにと沙桐も頷く。沙桐はいつも半身が異国の血が流れていることで差別的な目を向けられていた。それを返す沙桐の目はいつでも憎悪に染まっていた。
「開拓者の皆さんのお陰ですね」
「‥‥感謝、しきれないよ」
 恥ずかしそうに沙桐が呟く。
「そんな格好までして話を聞きに行くなんて‥‥」
「形振り構ってられないからね」
「もう半年切ってますもんね」
 彼女もまた聞いているのだ。
「私もそんな人に出会いたい」
 泉は寂しそうに呟いた。
 話を終えておせんの家を出た沙桐は辺りを見回し、目を細めた。
「お嬢様は」
「中にいます」
 侍女が戻ると、沙桐は会釈をして天蓋のシノビの者が経営している茶屋へと戻った。


 天蓋の茶屋に戻った沙桐はふーっと、ため息をついた。
「とりあえずは天蓋の者が泉様を護っておりますが‥‥」
「‥‥貌佳領主の屋敷に閉じこもらせても毒殺でも暗殺でもやろうと思えばやれる。泉がおせんちゃんであることが分かっていれば、開拓者の皆が動きやすいようにおせんちゃんの家で攻防したほうがいい」
 架蓮の言葉に沙桐が答える。
「問題は松籟ですが‥‥」
「朱枇が貌佳領主の娘に害をなそうとしているのは明白。それに奴は理穴の有力貴族の令嬢を殺そうとしていたんだ。一緒に拘束する」
 分かりましたと言って架蓮はその場を辞した。


■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
溟霆(ib0504
24歳・男・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
白雪 沙羅(ic0498
12歳・女・陰


■リプレイ本文

 御樹青嵐(ia1669)が見た朱枇の娘、杷花に花文様の痣があると聞いた沙桐は首を傾げる。
「百合文様なら破月と同じだろうけど」
 その言葉に青嵐はそうですかと応える。薄暗い中で人魂越しに見たからしっかりとそうとは言えない。もしかしたら、百合だったかもしれないと思ってしまう。
「花といえば、百響一味のアヤカシを思い出すね」
 沙桐の言葉に溟霆(ib0504)も頷く。
「薄布の伊達襟を幾枚も重ねてて、見えなくもないね。そうなれば、芍薬文様の娘もいるかもね。あの戎に従い」
 ふと溟霆が悪戯めいた表情を見せる。先に例えたのは兎のアヤカシだ。
「まるで、美人の形容だね。繚乱に咲き誇る命の里に巣食うアヤカシ‥‥か」
「俺達はそいつらを撃破しなくちゃならない。あ。前に、百響は満散の事を食事って言ってたよね」
 思い出した沙桐に目を閉じて集中していた輝血(ia5431)が瞳を開く。
「誰が相手でも、捕まえるし倒すよ」
 そろそろ向こうも動く頃だ。
 当の泉は口を硬く閉じており、事態に唇を噛むと白雪沙羅(ic0498)が唇が切れますと心配する。
 泉の隣に珠々(ia5322)と白野威雪(ia0736)が寄り添っている。
「大丈夫だよ! 悪い奴は捕まえるから♪」
 リィムナ・ピサレット(ib5201)が片目を瞑って泉に笑顔を向けると彼女は力なく微笑む。


 青嵐は沙桐と共に朱枇の夫が生きていた頃、鷹来家の縁者との接触があったかどうかの確認をしていた。
 ここの工房は基本的に鷹来家の方も受注を受けているが、すべて問屋を通していたので、直の接触はなかったようだ。
 問屋を訪ねていった所、朱枇の過去を知っている老人がいた。
 話の流れは基本的に開拓者達がが前回聞いていた事と同じだが、朱枇の家が潰されたと同時に彼女の使用人一家も繚咲を出て、郷里に戻ったとの事。
 確かに、主一家が潰れると使用人一家もそうなるだろう。使用人一家の長男は朱枇と幼馴染で、潰される前は何かと長男が朱枇を護っていたそうだ。
 確かな噂ではないが、繚咲を出た長男は度々貌佳に戻っていたという噂があり、朱枇が会っていたという話もあった。
 どんな男か、特徴を聞くと、白みがかった緑‥‥百緑色の目をしている。
「杷花お嬢さんと同じ目の色をしてるんだよ。まぁ、あまり言いたくないけどね」
 そんな話で切り上げて二人は前回、輝血と沙羅が調べた朱枇が入った店の者に話を聞くと、確かに、朱枇と会っていた男は杷花と似た目の色であったと言う。
「‥‥杷花の父親は‥‥」
「取り潰されたから、子供を使ってでも昇りつめられるだけ昇りたいって事だよね」
 ふーっと、沙桐がため息をついた。
 二人が肩を落とし、皆に伝えるために甘味処に戻り、察した大人達が頭を抱えた。


 泉の護衛は雪、珠々、沙羅で行われる。
 決行日が何時なのかは分からないが、もう、近いだろう。沙羅が飛ばした小鳥の人魂がこの家に集まってきているのが見えていた。
 貌佳領主の娘だが、領主に助けを求めるのは泉にとって不利だ。彼女は領主に黙って市井に出ていたのだから。そのツケは払わないといけない。
「ごめんなさい‥‥私の勝手で‥‥」
 自分が誘拐されるよりも、自分の行動で他人に目をつけられて、他の者を戦わせる羽目にしてしまった事が何より辛いようだ。
「大丈夫です。よくあることです」
 珠々自慢のおまじないこと、しょんぼりしてる人の頬を笑みの形にむにむにするを泉にもする。
「ありがとう」
 泣き笑顔で泉が言った。
「志体がない人にも出来る人を笑顔にするじまんのおまじないです」
 無表情だが、珠々は誇らしげだったのもつかの間、珠々が天井を見上げる。
「珠々ちゃん?」
 沙羅が珠々に声をかけたが、彼女も察して鼠形の人魂で外の様子を探る。
 見えたのは数人の男の姿。
 着流しを着ており、あまり人相はよくない。偵察に更に行けば、見たのは四人だ。その中の一人に百緑色の目の男がいた。年齢も中年くらいだ。
「珠々ちゃん、集まってます」
「音は五人です」
「お願いします」
 泉が開拓者達に頭を下げると、雪が泉の手を握り締める。
「繚咲の民は必ずや、お守りします」
 雪の強い意志を持った微笑みに泉は心を惹かれた。


 松籟捕縛班は松籟を探して二人一組と持ちまわっていた。
 今までの状況で松籟が朱枇の誘拐を知ってたとしても、彼は積極的には関わってはいなさそうだった。
 とはいえ、繚咲原理主義といわんばかりの百響に与する松籟が繚咲外出身者の血が混ざっている娘を沙桐の嫁とするべく動くとは思えないが、今まで何をしでかすか分からないというのと、手配したので、拘束できるならすぐに拘束しようとなった。
 問題は松籟だ。工房にはいなかった。
 工房内に忍び込んでいた溟霆と輝血がいないと告げた。
「逃げられたのかな」
 むーっと、不機嫌顔になるリィムナだが、輝血は目を閉じ、超越聴覚で音を追う。
 これ以上野放しにはさせたくはなかった。
 今ここで捕まえようと決めたのだ。

「鬼灯の君、鬼灯の君」

 穏やかな声はまるで唄のよう。
 そう呼ぶのは一人だ。
 輝血が目を開くと、小鳥の羽ばたきが聞こえた。
「小鳥」
 ぽつりとリィムナが呟く。
「北の方にいる」
 輝血が言えば、全員がそっちの方へと走り出す。
 工房の北の方向は主に倉庫のようなところであり、必要のないものを焼却処分する時に使用する場所であり、普段は立ち入りは殆どないと溟霆と青嵐が言った。
「やる気十分って事だね」
 戦闘にわくわくしているリィムナが駆け出しながら呟いた。
 小さな木陰を抜けた所が焼却処分の場所。輝血を呼ぶ声から松籟が喋った音はなかった。
 草むらより葉擦れの音がしてその方向を向けば白狐が飛び出した。
 食い止めに入ったのは輝血と沙桐だ。二人が食い止めていると、リィムナがフルートで奏でたのは「魂よ原初に還れ」だ。
 直撃を受けた白狐は醜く歪み、ゆっくりと倒れて地にぶつかる瞬間、消えた。
「どこにいるんだろ。かくれんぼだね」
 可愛らしく笑うリィムナがフルートを奏でながら再び曲をつむぐ。
 奥からどさりと、何かが倒れる音がした。
 一人、倒れた。あの攻撃では命を落としている。
 焼却場所に出ると、黒髪の男が倒れていた。
 松籟だろうか‥‥

 静寂に気づくものはいない。
 術者だけしか分からない。
 短い、短い夜が訪れる。

 次の瞬間、リィムナが地に伏されていた。
 手にフルートはない。
 木陰から差し込む光でフルートが随分向こうに投げられたのが分かった。
「相手も使うとはね」
 リィムナを護るように溟霆が周囲を警戒する。
「溟霆、左」
 超越聴覚を使っている輝血の言葉に従い、溟霆がシノビを迎え撃つ。
 音が溟霆の耳にも聞こえる程になれば彼が先制して手裏剣を投げ打つ。三枚の手裏剣の間隔はそんなに離れてはおらず、シノビは手裏剣の中を飛び込んで溟霆の懐に飛び込んだ。
 一枚の手裏剣はシノビの二の腕にめり込んだが、シノビは突き進む。
「仕方ないねっ」
 間合いを詰められて溟霆は杖を構える。まだ仕込みを使う訳には行かない。
 よろけながらも立ち上がったリィムナは狩衣を着た男の確認をする。一緒に走ってくれたのは輝血だ。
 倒れた狩衣の男はやはり絶命しており、輝血が確認すれば違うと言う。悔しそうにリィムナが周囲を見回した瞬間、ヴァ・ル・ラ・ヴァを唱えた。
 軽やかにリィムナが回避するも、残るは輝血だ。再び白狐と相対することになる。フルートがないリィムナだが、狩衣の中にセイレーンネックレスをつけており、唄で術を発動させようとした瞬間、その術はヴァ・ル・ラ・ヴァとなり、飛んできた流星錘を避けた。
 瞬きをした彼女の視界に手裏剣が飛んできた。
「手裏剣!?」
 リィムナが叫び、咄嗟に猛攻を避ける。
「輝血さん!」
 白狐が今に瘴気を輝血に吹き込もうとした瞬間、青嵐が暗影符を発動させて白狐の視界を奪う。沙桐が飛び出し、白狐の鼻下から先を斬りおとす。
「随分お転婆なお嬢さんがいるものだ」
 くつりと笑ったのはシノビ姿の松籟だ。先ほど死んだシノビと服を交換したのだろう。
「相変わらずだね‥‥」
 目を細める輝血は蛇のそれだった。

 戦いは嫌いじゃないと思っている。
 死線ギリギリの戦いは肌と感覚を冷たくなぞる。
 溟霆の相手は三人になっていた。
 リィムナが魂よ原初に還れを唄う時間が全く割けない。早く自分が行かなくてはならないと感じている。
 遠方から来る攻撃ではなく、三人とも攻めの構えで溟霆を殺そうとしている。
 ここは同職を殺さなくていいと思ったのに。
 溟霆が持っているのはもう杖ではない。
 彼も夜を迎えさせた。
 手近なシノビに斬りつけ、鎖骨を折り肉を裂いた。次の瞬間、シノビ二人の眼前に緑鷹の闇霧の刃が閃く。
 溟霆の脳裏に綺麗なひとの口元が笑みを浮かべている。

「リィムナ!」
 輝血は松籟より一度背を向き、リィムナを庇うようにシノビの前に立つ。
 リィムナの目標は松籟。輝血と立場を替え、自身は松籟へと走る。
 随分と水を差されてしまったが、これで仕事が出来る。
 現在松籟は青嵐とやりあっている。青嵐が氷龍を呼び出して松籟は結界呪符「黒」を呼び出して壁としていた。
「さぁ、十秒は持ってもらうよ!」
 再び唄ったのは魂よ原初に還れ。
 リィムナの唄は形を取らずに松籟を襲う。
 一度松籟は顔を歪めたが、そのまま進み、白狐を青嵐に襲わせる。青嵐も陰陽師ゆえに、その強さは理解していた。即座に氷龍を呼び出して相殺を試みるも、白狐に喰われて消滅してしまう。
 松籟がリィムナの懐に入るも、彼女は回避して再び間合いを取ろうとする。彼の手には刀があった。確実にリィムナの喉を狙い、松籟が刀を振るう。その太刀筋は陰陽師とは思えないしっかりとしたものだ。
「させないよ!」
 沙桐が割って入るが、お構いなしに松籟はもう一度白狐を発動させる。青嵐が暗影符を発動させ、足が止まったのを好機と見たリィムナが歌おうとした瞬間‥‥
 松籟は自身が持っていた刀を地に投げた。
「捕まります」
 だらんと、腕を下ろして松籟が敗北を宣言した。


 おせんの家の戸を誰かが叩いた。
「ど、どなた!」
 緊張で声が少しひっくり返った泉が答えると、男の声がする。
「旅の物売りですが、異国の小間物は如何かと思いまして」
「け、結構です‥‥」
「そうですか。理穴で染色された布の半襟とかもあるんですがね」
 意外に食い下がる声に泉は頑張って断っている。珠々がどこかに反応すると、泉の方を向く。
 彼女は緊張で顔が強張っているし、声も上手く出せていない。相手にもそれがわかっているのだろう。
「泉さん。次はきんとんを当てられるように今の後片付けをしてきます」
 こそっと、珠々が泉に耳打ちすると、彼女はこくりと頷いた。
 珠々が泉より離れて向かったのは勝手口。そこで足音に気づいて急行している。足音は勝手口から台所を抜けようとする。
 台所は一応片付けてあり、投げられる物はおいてない。
 たかが賊。珠々の敵ではないと思うが、彼女は何一つ油断はしてないが、懸念はしている。
 兎アヤカシこと天香の事だ。百響の耳であるあいつがどう絡んでくるか。
 最低限、泉を襲う事はないだろう。
 あれとやりあうよりはまだマシ。
 床を蹴った珠々は一気に速度を上げ、台所から廊下へ出ようとした賊の顎をめがけて膝を出す。
自分の頭を天井にぶつからないように入口の上縁に指を掛けて逆上がりのように自分の体を引き寄せて後ろにいるもう一人の賊の顔面めがけて手を放ち、蹴りつける。

 奥からの大きな音に気づき、戸が乱暴に開けられた。
 いかつい顔をした男達が泉を狙い、入ってくる。
「他の者は後だ、娘を狙‥‥」
 指揮をする男の目が白緑色なのを確信した沙羅はひるむ事はないというか‥‥
 男が言い終わる前に風の刃が白緑色の目の男の肩を切り裂いた。
「にゃっすーー!!」
 気合と共にきりりと賊を睨み付ける沙羅。
「随分でっかいねずみがよくも沙羅様の目の前に現れるもんだにゃ! 傷心になってる人を攫おうにゃんざ、この沙羅様がやっつけるにゃー!」
 びしぃ! と沙羅が人差し指を賊に差した一瞬の注目を利用し、もう片方の手の中の符で再び風の刃を呼び出して賊の足を切り裂いた。
「構うな、行け!」
 沙羅の斬撃符で傷を負いながらも男達が入っていき、沙羅を突き飛ばして泉の方へと向かう。泉には雪がついており、錫杖を構えていた。
 雪が錫杖の間合いの長さを利用して賊を寄せ付けないようにしている。
 自分だって戦わなくてはいけない。
「はっ!」
 気合と共に賊の腹に杖を突く。更に泉に手を伸ばそうとする賊の腹を目掛けて薙ぐも、男は脇を締めて腕で錫杖を受け止める。受け止められた衝撃より、賊の腕は籠手に護られていた。
 珠々が戻るまで‥‥
「泉は‥‥渡さないにゃ‥‥っ」
 突き飛ばされた沙羅が起き上がろうとすると、ふわりと身体が軽くなった。
 反射的に沙羅が顔を上げると綺麗な目をしたシノビ装束の大人。
 綺麗と思ったその顔の左半分は古い火傷で歪んでいたが、その上に百合文様の痣のような刺青のようなものがあった。
「がんばって」
 女の声だ。女が沙羅をそのまま賊の方へと放り投げる。
「いっくにゃー!」
 意図を理解した沙羅はくるりと足を前に向け、そのまま賊の背骨を全体重をかけて見事な横とび蹴りを炸裂させる。
「ゴフゥ」
 子供とはいえ、背骨への衝撃は志体持ちでも正直つらい。
 悶える仲間に動揺した白緑の目の男の隙を感じた雪は振り回していた反動で腕を上げていた男の脇を狙い、錫杖を力いっぱい振り上げた。
 珠々が戻った時には戦闘が終わっており、猫化冷め止まぬ沙羅が頑張って縄で賊を締め上げていた。
「お縄にゃー!」
「沙羅様、そこは首です」
「は! べ、別ににゃーとか言ってませんよ!」
 猫化が収まった沙羅がきょろきょろと見やれば、綺麗な人はいなかった。
「どうかしましたか?」
 沙羅の様子に気づいた珠々が尋ねると、沙羅は事のあらましを話した。
 瞬間、珠々と雪が顔を見合わせる。
「知っているのですか?」
「百響のご飯候補のひとです」
 去年の今頃に出会った松籟の手先の暗殺者だった女だ。
「沙羅様に人相書きをお願いしましょうか」
「さ、探し出します!」
 慌てる沙羅に雪は一緒に探しましょうと微笑んだ。


 その日、母は苛立ったような様子をしておりました。
 母の手伝い役の松籟さんもいらっしゃいませんでした。
 苛々してた母はいても立ってもいられないといったように外に出かけてしまいました。
 大きな取引でもあったのでしょうか。
 私は家にいるように言い遣われてました。
 だから、私は、家に‥‥

 いました。


 朱枇捕縛は時間の問題。
 そして、松籟が捕まったが、兎は姿を現さなかった。
 沙桐はこの報告を理穴の方に文を飛ばす。
 新月に向けて月が細くなっている。