【繚咲】三枝の旅立ち
マスター名:鷹羽柊架
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: やや易
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/07/24 20:25



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


 ここは武天内にある領地である繚咲。
 四つの小領地から構成される領地。
 それらを纏めるのは武天有数の志族鷹来家。
 現在は領地の中にある魔の森のアヤカシの侵攻が出てきていた。

 つい先日まで繚咲の魔の森のアヤカシに狙われていた医師、倉橋葛が鷹来家本屋敷に招かれていた。
「おば様、この度はありがとうございます」
 三つ指をつく葛に鷹来家管財人の折梅が首を振る。
「私の力ではありませんよ。全ては開拓者の皆様と繚咲の者達のお陰です」
「沙桐、神楽の都に行ったそうですね」
「陰陽師の事ですね」
 今回、陰陽師の名が分かり、沙桐は神楽の都へ向かっている。
「兄はあの時私を狙った高砂のシノビは私を狙うわけではなく、百響を狙ったと言ってました‥‥」
 葛は自身の記憶を辿る。
 微かな記憶には「大理様のため」という言葉がしっかり残っていた。
「アヤカシには人の心を操るものもいると聞いております。百響、もしくは先日倒したアヤカシ戎もその能力を持っているやもしれませんね」
 折梅がため息混じりに呟く。
「大理殿に命を狙われなくてよかったですね」
 微笑む折梅に葛は笑顔で頷いた。
「そういえば、あの陰陽師が百響に差しだそうとしていた遊女達は?」
「借財はやはり存在しているようで、金利を調整し、数年で返せるようにいたしました。幸い、働く意欲はありましたので各所の天蓋の繋ぎに使っている店で働いて貰う事になりました」
 借財を返したその時にはある程度纏まった金が貯められるようにしてあるとのこと。
「よかった‥‥私、もう少し看てきます」
「高砂のシノビですか」
「開拓者の方のお陰で死者が出なくてなによりでした」
 葛が大理に捕らわれていた時、開拓者と交戦していたシノビの治療を葛はしていたようだった。
「おばさま?」
 折梅の様子に葛は首を傾げる。
「母を思うよき娘と思いましてね」
「私にはもったいないいいこです」
 微笑む二人だが、ふと、葛が表情を曇らせる。
「おば様、もう戻らないと患者さん達が心配です。戻ろうにもアヤカシが怖いので、開拓者の皆様に護衛をお願いしたく思います」
 葛が言えば、折梅が顔を輝かせる。
「高砂と言えば、川下りですよね。折角だし、皆様をお誘いしては?」
「暑くなった時期ですし、よいかもしれませんね」
 楽しそうに提案しあう二人に控えていた蓮司がギルドへと走った。



■参加者一覧
鷹来 雪(ia0736
21歳・女・巫
御樹青嵐(ia1669
23歳・男・陰
珠々(ia5322
10歳・女・シ
輝血(ia5431
18歳・女・シ
溟霆(ib0504
24歳・男・シ
御簾丸 鎬葵(ib9142
18歳・女・志


■リプレイ本文

 白く光る陽が街並みの影を濃く映す。
 夏だなぁ‥‥と顔を上げたのは溟霆(ib0504)だ。
 繚咲の街を歩く彼がひょっこり顔を出したのはお菓子屋。気軽なものではなく、よい物を出す菓子屋だ。
「旬の物ってどんなのかな」
 溟霆が声を出すと、店番をしていた少女が勧めたのは貝の形をした葛餅だ。
「貝の形か‥‥」
「ここは山の土地です。海は憧れの場所なんです」
 確かにここは山に囲まれた土地であり、海まで遠く、海を見たことがない者が殆どだ。
 遠い地平線に恋焦がれての菓子らしい。
「それを貰おうか。あと季節の練りきりも見せてもらえるかな」
 溟霆が言えば、娘は「まいどありがとうございます!」と喜んだ。



 御簾丸鎬葵(ib9142)と白野威雪(ia0736)は高砂領主の屋敷に赴いていた。
 だが、何だか屋敷内が少し緊張しているようにも思えた。
 領主である大理は構わないから上がれと言っているようで二人は不思議そうに顔を見合わせながら大理のいる部屋へ向かう。
 立葵が咲いている庭に面した部屋だ。そこにいたのは碁をしている大理と緑萼だ。緑萼は雪の姿を見てぎょっとしていたが、驚きと怒りの視線を大理にぶつける。
「理不尽に付き合うなら巻きこませるのが一番納得がいく」
 あっさり言い切る大理に緑萼はむすっとしてしまう。
「あの、お暇した方がよろしいのでは‥‥」
 雪が言えば、大理が「お主らが香雪殿に愛されているだけだから気にするな」と返す。
「母上はやきもち焼きなのでな」
 はぁっと、緑萼が溜息をつく。
「用はなんだ?」
 座を直した大理が尋ねると、鎬葵が切り出した。
「先日の非礼の侘びに参りました」
「俺は気にしていない」
「調べれば知る事が出来た事やも知れませぬ」
 鎬葵の言葉に大理は目を瞑る。
「そうだな、無知とは命に関わる」
 しみじみ言うのは己への自戒だろう。
「戎が倒れたとはいえ、未だ百響は未だ魔の森に潜み、綾咲に仇為す松籟は健在。松籟配下シノビが、現在も草となり紛れている可能性は考えられる故、どうぞお気を付け下さいませ」
「心遣い、痛み入る‥‥が、何か言いたそうだな」
 鎬葵に礼を言った大理が見透かすと、鎬葵は少し逡巡し、口を開いた。
「倉橋先生はもう、高砂の姫ではありませぬ‥‥此処が、倉橋先生の帰る場所の一つであって欲しいと‥‥やはり私は思うのです」
「あれはもう紗枝ではない。だが、倉橋医師は此方の配下にも人気だ。腕もいい。いくらでも遊びに来ればよい、家にしたって俺は構わん」
 素直ではないが、葛の気持ちを思えば彼なりの気遣いだろうと鎬葵は思う。
「鎬葵だったな」
「はい」
 大理に呼ばれ、自分が段々俯いていた事に気づいた。
「お主の願いは叶えられないのか」
 鎬葵は答えられなく、俯いた。
「娘、名は雪と申したな」
 大理は雪に興味が移る。
「はい。白野威雪と申します」
 彼もまた雪が沙桐が選んだ娘と理解している。
「領主に失礼な態度をとりましたが、正直申しまして、後悔はしておりません」
 言い切った雪に大理は面白そうに口元を笑みに歪める。
「香雪殿の尽力で繚咲は生まれ変わった。だが、まだ中で腐敗している部分もある。俺は鷹来の純粋な血など滅べばよいと思っている」
 きっぱり言う代理の言葉に雪と鎬葵は目を見張る。
「お主は沙桐の子を産みたいと思っているか」
 大理に見据えられ、雪は「はい」と頷いた。
「ならば、条件は百響の討伐だな」
 ちろりと見やったのは緑萼の方向。彼は秀麗な表情を崩さない。
「よかろう、有事の際は必ずやこの高砂領主に声をかけろ。必ずや駆けつける」
 どこか愉しげな大理が宣言した。
「鎬葵、お主の願い叶えばよいな」
 大理の言葉に鎬葵は頷いた。



 葛にぴったりくっついているのは輝血(ia5431)だ。
「なによ、折梅。にやにやして」
「ふふ、ちゃんとお仕事しているのですね」
 様子をしげしげ見られて輝血はむすっとする。
「当たり前でしょ。あたしは護衛なんだから、ここにいるのもおかしくないでしょ」
 つんとする輝血に折梅も葛も可愛いと心の中で可愛がる。
「葛先生、この間は、シノビさん達相手にやりすぎてしまいました‥‥ごめんなさい」
 ちんまりと珠々(ia5322)が謝ると、葛はやりすぎたシノビさん達に謝ったの?と返されてしまってどうしようと珠々は固まってしまった。
「それは後にしても‥‥」
 珠々の後ろから茄子の煮びたしに胡瓜の酢揉みを出してきたのは御樹青嵐(ia1669)だ。
「まぁ、旬の物ね」
 嬉しそうに笑う折梅に青嵐が「まずは一献」と酒を注ぐ。
「松籟のシノビの中に紛れていた私達を助けたシノビの事ですが」
「聞いております」
 杯の酒を飲み干した折梅が頷いた。
「松籟という陰陽師もまた、気付いていなかったようですね。天蓋でも追っておりますが、相手は土地勘があると思われ、尻尾はつかまれません」
「引き続きお願いします」
 青嵐の言葉に折梅はしっかりと頷いた。
「あ、おばあさま。青嵐さんはカタケットという場所でおばあさまの格好をしていましたよ」
 珠々の言葉に青嵐がピクリと肩を震わせた。
「まぁ、そうですの」
 きらりと目を輝かすのは折梅だ。
「はい、とても楽しそうでした」
「まぁまぁまぁ、珠々さん。葛桜はいかが? もっとお話を聞かせてくださいな」
「はい」
 楽しそうな折梅にこっくりと頷く珠々。青嵐はそろりそろりと逃げようと腰を浮かせる。
「青嵐さん、御支度は架蓮達に任せてどうぞ、ごゆるりと」
 にっこりと笑いかける折梅に青嵐は覚悟を感じるしかない。
 青嵐の尊い犠牲の横で輝血が葛と少し離れてのんびり酒を飲んでいる。
 輝血の心の中で思うのは何故、あの時自分は葛を抱きしめたのか。
 自分は仕事なくして価値がない。
 計算の盤上で人との繋がりがあるはずなのに‥‥
 そう、最初は葛の繋がりも依頼だった。
 今は‥‥?
 輝血は唇を噛んで俯いた。
「‥‥葛先生、飲もう‥‥」
「うん、飲もう」
 葛の屈託のないこの笑顔は損得抜きに輝血の為にある。


 溟霆が見世に現れたのは昼見世と夜見世の合間。
 遊女たちは化粧や着物を変えている真っ最中だった。
 柳枝は花魁ともあり、今日も客は来るようである。それならば仕方ないなと、溟霆が柳枝お付の禿を捕まえて言付を伝えようかと思った瞬間、吹き抜けの上の階から何か騒ぐ声が聞こえた。
 少しずつ近づく足音と後ろから縋る声に「太夫‥‥!」と聞こえる。
 太夫は花魁の事だ。
 溟霆が顔を上げれば、そこにいたのは柳枝だ。支度が出来上がったばっかりなのだろう。
 新たに仕上がった白粉の肌、艶やかに引かれた紅、闇色に浮かぶ吉祥の着物‥‥
「溟霆殿‥‥」
 名を呼んでもらって溟霆は目を細める。
「やぁ、支度中に悪かったね」
 柳枝の表情はいつも通りの凛とした気高い花魁のものだが、その瞳は感情に揺れていた。
「気にしないでくんなまし」
「とりあえず‥‥今回は終わったよ」
「よかったぇ。お疲れ様でありんすぇ」
 ふわりと微笑む柳枝に溟霆が菓子が入った箱を渡す。
「夏だからね。涼を楽しんで」
 それじゃぁと、溟霆が踵を返そうとするなり柳枝が座り込み、吹き抜けの柵の合間から腕を伸ばし、溟霆の肩を掴もうとするがやめてしまった。
「また来るよ」
 気位の高い柳枝の行動に溟霆は振り向かずにそう告げて階段を降りていった。
「どうか‥‥生きて‥‥」
 そう呟く柳枝の声は嗄れて寂しそうだった。


 雪と鎬葵が戻ってきたのを見た青嵐は輝血を連れて川へと向かった。
「あら、青嵐様‥‥」
「行ってしまわれましたね」
 二人の後姿を見送る雪と鎬葵は折梅と葛の方へと向かう。
「おふた方、いらっしゃい」
 笑顔で迎え入れる折梅と葛に二人は笑顔となる。
「あの、蓮誠殿は‥‥」
 挨拶もそこそこに鎬葵が尋ねると、折梅が船の方に行って見なさいとだけ言うので、鎬葵はその言葉に従った。
 待っていたのは蓮誠であり、いつもとは違ってゆったりした紬の着流し姿だった。
「いつも頑張りすぎているから休めといわれましてな」
 ゆっくり溜息をつく蓮誠に鎬葵はそっと笑む。
「皆様、蓮誠殿の頑張りを存知、心配されているのでありましょう」
「繚咲を守るのが仕事なんですが‥‥立っているのは暑いゆえ、乗りませぬか」
 蓮誠の言葉に鎬葵が「よろこんで」と頷く。
「水が涼しいでありまするな‥‥」
 今日は晴れていて水面が日の光を反射して煌いている。
「高砂の水は繚咲一美しいです。この水が私達の作物を支えています」
 彼が見据えるのは川の向こうの育っている作物だ。
「蓮誠殿は繚咲を大事にしておりまするな」
 鎬葵の言葉に蓮誠は頷く。
「先祖代々が守り続けたこの美しい土地にその価値はあります」
「蓮誠殿‥‥」
「はい」
 そっと鎬葵が目を落とすのは蓮誠の手だ。無駄な肉がないしっかりとした手だ。垣間見る手の平には豆がある。
 この手で繚咲を守っている。
 鎬葵はその手をそっと自分の両手で包み込む。
「あの戦いの時、蓮誠殿は私を信じて下さいました。まだ若輩の私の想いを解ってくださり‥‥」
「鎬葵殿‥‥あ‥‥」
「本当にありがとうございます」
 そっと手を祈るように包みこみ、鎬葵の胸の前へと引き寄せる。
「どうか、綾咲の護り手である貴方様に、いつも御武運と幸運がありますように‥‥」
「あ、貴女がいてくだされば‥‥それだけで私は負けません‥‥」
 顔を茹蛸にしてどうにか絞り出して言った蓮誠の言葉に嬉しそうに鎬葵は微笑んだ。


 折梅と葛のお酌役は雪と珠々で行っていた。
「そういえば珠々様」
「はい」
 雪に声をかけられた珠々はくるりと振り向く。
「最近、貴様と柊真様の事を、お母さんとお父さん、と呼ぼうとなさってますね」
「い、いずれ‥‥ですから」
 まだ言い慣れていないどころか言い切ってもいないので、中々前途多難だ。
「あ、あの、最近気付いたのですが、もしかして珠々様は姪っ子さんになるのかもしれないのですよね‥‥」
 真剣に言う雪の言葉に珠々が確かにと目を見開く。雪にとって珠々は姪。珠々にとって雪は‥‥
「その言葉で呼ぶのは許されません」
 折梅と葛が同時に言うと、珠々はその威圧に負けてふるふると雪の後ろに隠れてしまった。
「折梅様、最近、理穴の方でアヤカシの戦いがありました。その際に沙桐様が麻貴様を心配して戦いに参加をしたのですよ」
 今、沙桐は松籟の調査の為、繚咲を留守にしているのは折梅も知っていたが、理穴の戦いに行っていたのは知らなかった模様で驚いていた。
「二人は一緒に戦っていたのですか?」
 折梅が問うと、雪は首を振った。
「麻貴様は司令官として弓兵達の指揮に入っておりましたが、沙桐様は私や珠々様達と前衛におりました」
「え‥‥」
 声を上げたのは葛だった。
「お二人とも、無事で戦いを終えられました。何だか最近、更にお二人の様子が変わってきたように思えます」
 勘違いだったらすみません‥‥と雪が付け加える。
「きっと、皆さんをお互いを信じる事が出来るようになったんですよ。以前の沙桐さん、麻貴さんは一度会えば互いを離れずにいました。国を上げての戦いでもそれは譲る事は出来ない事と思います。本当に皆さんには礼を尽しても足りません」
 折梅がそう言えば、葛も頷く。


 食べ物を持ち込もうとした青嵐だが、それは止められた。
「信じちゃいるが、水が命なんでな。上がったらいくらでも食べてくれ」
 しかし、酒は特別だよと通してくれた。
 青嵐に連れて行かれるまま輝血は小船に乗った。青嵐は全く自分の方を見ていない。
 何か怒っているようなむすっとした表情をしている。いつもならそういった表情を見せることはないのに。
 拗ねているのだろうか。
 何に対してかは輝血には解らない。
「ねぇ青嵐、そのままでいいから聞いて」
 ぽつりと輝血が言えば青嵐は輝血の方を向く。
「最近ね。あたし、自分が自分じゃない感じがする」
 輝血はまっすぐ青嵐を見て口を開いた。
「自分の知らない感情ばかりが浮かんでくるんだ。先生が捕まった時、目の前にいた奴は全部蹴散らかしていた。無駄な動作ばっかりで今でもどうしてあんな事をしたのかわからない」
 青嵐はただ聞いているだけだ。
「麻貴や沙桐に対してもそうだった」
 すぐに思い出せるのは理穴の大アヤカシ戦だろう。
「青嵐に対してもそうだと思う。まるで知らない自分がもう一人いるみたいで‥‥どう言っていいのかわかんないけど‥‥」
 そこまで吐露すると輝血は黙ってしまった。
「‥‥輝血さんは変わる事が嫌なのですか?」
「変わる事がわからない」
 輝血にとって不変しかなかったのだろうかと青嵐は思案する。
 今年に入ってから輝血は変わってきたのは解らないでもないが、それは自分にとってやきもきするものでもある。
 輝血と葛の関係が強いものであるか肌で一番感じているのは青嵐だろう。
 今もその絆に嫉妬をしている。
 自分にはないものだから。葛を助けようとしたあの時の輝血はとても美しく感じたから。
 ふと、青嵐の脳裏に言葉がよぎった。

「君は美しい、これから更に美しくなるだろう。心の平安という果実を実らせた本当に美しくなるその日を楽しみに待とう」

 松籟の予言めいた言葉だ。
「青嵐?」
 輝血が心配そうに言えば、青嵐は「何もないですよ」とだけ言った。
 青嵐は輝血に酌をしてもらいながら考える。
 輝血の関係をどうしたいのか。目の前の輝血は目の前の煌く水面をじっと眺めている。なんだか無垢な赤子のように思える。戦いの中では蛇神の如くの
 ゆっくりと二人の小舟は川を下ってゆく。


 珠々は一人川下りの船に乗る。
 小さい子一人じゃなぁっと渋られるかと思ったが、シノビであるのは知られているようであった。
 船の端に捕まって絶妙に平衡感覚をとっているのはシノビならではだろう。
 ぼんやり考えるのは「こどもになる」ということ。
 家族の実感はまだわからない。
 自分がよく見かける家族とは違うものになると思う。
 ふと、珠々が顔を上げると、雪と折梅が自分に手を振っている。多分、振っていいんだよなと珠々は手を振る。
 折梅の顔を見て、珠々が思い出したのは百響と松籟だ。
 松籟は繚咲に害を為すのに何故、百響と手を組んでいるのか‥‥
 奴は百響達へ人間を供している。
 戎が言っていた繚咲外の娘に恋をしていた大理が娘の村を滅ぼした百響を討とうとしたのに大理を許したのは、戦いに敗れた彼が繚咲の娘と婚姻を結んだから。
 深部まで百響は繚咲を監視している可能性がある。その証拠が松籟の存在。
 あの顔は鷹来の血なのだろう。
 百響は食べたのだろうかと珠々は思案するとある事に気付く。
「おばあさまの血は鷹来のものなのでしょうか‥‥」
 小さな呟きの後、川を泳ぐ魚が跳ねて波紋が広がった。