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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 石鏡、陽天。 その郊外の屋敷で、住民の首が切断される事件が起こった。 被害者は画家の伴 仮真で、商店へと卸す絵が倉庫に保管されていた。首の所在は不明。そして、隣近の住民たちの死体も、アヤカシと化す。 絵の卸し先、蒲生商店の店主・蒲生 譲二郎は、絵の回収を開拓者へと依頼。開拓者たちの活躍によりアヤカシは掃討、絵を取り戻すことができた。 が、犯人は不明。唯一の容疑者は、生前に伴を訪ねていた「黒作」と名乗る謎の男。 「皆様。今回もまた依頼したく思い、こちらにお邪魔させていただきました」 譲二郎は、再びギルドを訪ねていた。 彼は、一人の女性を連れていた。色白で細身の美しい女性だが、足が悪いらしく杖を手にしていた。 彼女の名は、当麻 鳩羅。夫は、作家の当麻 端葉。書き物を執筆・出版している作家である。譲二郎も、彼の作品を商品として扱っていた。 「鳩羅さんは、わたしの妻と友人でして。それで、ここに来た理由は二つあります。その解決方法は、たった一つ」 譲二郎が言うと、鳩羅が神妙な顔つきになって続けた。 「皆様、どうか、殺された夫の無念を晴らして欲しいのです。夫は‥‥当麻は殺されました。ついこないだに殺された、あの男と同じように」 当麻もまた、首を切り落とされて殺されていたという。ちょうど伴のように。 ここ一〜二ヶ月の間。当麻は仕事が忙しいために、庵に引きこもり作品を執筆していた。生まれつき体の弱い鳩羅は、その前後に体調を崩し、郊外の療養所にて静養していた。 だが、体調が回復し、静養所から家に戻った時。夫が殺されたのを知った。 締め切り日まで訪ねるな‥‥と言われていたので、その日になるまで誰も庵には近づいていない。締め切りの日に原稿を受け取るため、蒲生商店の従業員が女中とともに庵に赴いた。そこで彼らは発見したのだ。当麻が首を切断され、死んでいるのを。 首は見つかっていない。そして、庵の周辺で男が、当麻の居場所を訪ね回っていたという噂も聞いた。男は「黒作」と名乗っていた。 そして、二つ目の理由。それは「黒作」なる男が、譲二郎の取引先「明賀商会」の会長宅に現れたかもしれない、という事。 会長の名は、明賀 長一郎。歴壁に本拠地を置いているため、陽天を拠点にしている蒲生商会とは今まで接点がなかった。此度、陽天にも支店を置く事を考え、少し前から陽天の郊外に屋敷を購入し住居としている。 譲二郎は明賀とその時に知り合ったが、彼は最初に会って驚いた。彼は伴と似ていたからだ。 その事を言うと、 「やつとは兄弟だが、今は縁を切っている。その事については、あまり話したくない」という答えが返ってきた。 さて、その明賀であるが。彼は一人旅が好きで、旅先にて商売の取引先を見つけ取引する、といった事を行っていた。 そして、ここしばらくは旅に出て、戻る予定の日になっても戻らない。もっとも、予定より一週間遅れて帰宅‥‥というのは良くある事だったので、住民たちはその時には怪しいとは思っていなかった。 が、帰宅予定日から一週間経ったある日の夜。明賀の屋敷の庭先に、黒い影の何者かが目撃された。影は逃げ去り、屋敷の住民たちはすぐに警邏隊を呼んだ。が、何も盗まれていなかった。 更に一週間、明賀はようやく戻ってきた。それが、今から大体五〜六日ほど前の事。 明賀は、ひどく痛めつけられていた。顔や体中には痛々しい傷跡が残っている。 帰宅が遅れた理由は、拉致されていたからだそうだ。旅先で「黒作」に拉致されたが、なんとか逃げ帰ったという。そのせいで帰宅が遅れた、と。 「それを聞いたわたしは、明賀殿の屋敷へ赴きました。で、伴先生が殺された事を伝えると、驚き悲しんだ様子でした。『伴は自分とそっくりだから、きっとそのために殺したのだろう』とも言っておりましたね」 しかし、明賀が帰宅した直後。倉庫の付近で新たな事件が起こった。 蔵の周辺で、宙を舞う首が現れたのだ。そして、それらは屋敷の住民たちにも襲い掛かってきた。 そのために、今現在。明賀たちは一時的に譲二郎の家に避難している。明賀は怯え、部屋にこもり震えている状態だという。 「明賀商会の幹部さんによると、黒作なる男は十数年前に、歴壁の明賀商会支店で下働きをしていたらしいです。浅黒い肌に、醜い顔のひどく怒りっぽい男で、傷害事件まで起こしたそうです。解雇され、以後の消息は分からないとか」 譲二郎は警邏隊にこの事を伝え、明賀が黒作に監禁されたという山中の小屋へと向かってもらった。が、そこは全焼していた。遺体らしきものは見当たらない。 「もしも、この事件の黒幕が黒作という男の仕業なら、私にも心当たりがあります」鳩羅が付け加えた。 三年以上前。当麻が作家として活動しはじめた頃に、黒作は彼の下で半年ほど働いていた事があったらしい。が、明賀商会の下働きの仕事を見つけ、支払いが良いそちらに鞍替えし去ってしまったのだが。 「生前、主人から聞いた事があります。『乱暴で頭が悪い奴だった』と。ただ、主人は『根は決して悪い奴ではない』と気に入っていた様子でした」 そして、譲二郎の下で働く幸吉も行方不明にもなっていた。 「あやつは、事件の後でも伴先生の屋敷の下へ、何度か向かってました。こんな事件の後、何のためにと問い詰めましたが‥‥やつは話そうとしませんでした」 やがて彼は『理由を話します、けど一日待ってください』と言って外出。 どこに行くかを問いかけたら『伴先生の屋敷の近くです。必ず戻るので、どうか信じて待って下さい』。 それが、大体二週間くらい前。ちょうど明賀が戻ってくる一週間くらい前の事である。 「幸吉は単純で抜けておりますが、決して人を裏切らない男でした。私は信じ、待ちました」 が、それきり彼は行方不明に。伴の屋敷近くの茶店に来ていたらしいが、そこから先の行方が分からない。 「よもや、黒作に協力しているのか、あるいは黒作に殺されたのか‥‥。皆様にお願いしたい事は、三つあります」 一つ、明賀の屋敷に出た、首の化け物を退治する事。 一つ、行方不明の幸吉を見つけ出し、連れてくる事。 一つ、可能ならば、黒作と思われる人物を見つけ出し、その者を捕らえてくる事。 「おそらく、この仕事は簡単には済まぬと思われます。どうか皆様、お力をお貸しください」 そう言って譲二郎と鳩羅は、頭を下げた。 |
■参加者一覧
樹邑 鴻(ia0483)
21歳・男・泰
蘭 志狼(ia0805)
29歳・男・サ
衛島 雫(ia1241)
23歳・女・サ
吉田伊也(ia2045)
24歳・女・巫
橘 楓子(ia4243)
24歳・女・陰
風鬼(ia5399)
23歳・女・シ |
■リプレイ本文 「やれやれ、面倒くさいねぇ」 この言葉、橘 楓子(ia4243)にとってはおなじみのもの。言葉ではこうは言うものの、戦うこと自体は嫌いではない。 今彼女は、石鏡は陽天、明賀商会の屋敷、ないしはその庭に立つ蔵の前にて立っていた。周囲は草木が生い茂り、むせかえるような湿気とともに匂いが充満しており、開拓者たちの気力を削ぐかのよう。 そんな事を気にするより先に、確認すべき事がある。そう、アヤカシの人相を確認する事。すでに彼女の周囲には、今回同じ仕事に就いた仲間が武器を構え、展開していた。 槍・羅漢を握る白狼のサムライ、蘭 志狼(ia0805)。 灰緑の髪と瞳を持つ不屈の女傑、衛島 雫(ia1241)。 白髪の白き巫女、吉田伊也(ia2045)。 鬼の名と、風の奔放さとを持つシノビ、風鬼(ia5399)。 彼らとともに、迫り来るアヤカシに対峙するは、樹咲拳宗家が長男。彼は泰拳士、その名は樹邑 鴻(ia0483)。 鴻もまた、楓子同様に今回の任務は途中参加。そして、宙を舞う首のアヤカシと、それらがともなう奇妙な事件には、警戒心を抱いていた。 鋭い機知と観察眼にて、調査する事が必要だろう。だがまずは、目前の戦いが先。伊也の瘴索結界が、そいつらの存在を感知していた。 鴻は両の拳を握り締めた。拳に装着された赤龍鱗の紅が、戦いの場の中できらめいた。 昼なお暗い屋敷の庭に建つ蔵、その周辺の薄暗い中に、首が舞う。 首は二つ。土に汚れて判然としないが、一つは若者、一つは壮年のそれ。 それらはかっと口を開き、命を噛みちぎらんと開拓者たちへ猛襲した! 「‥‥さて、と」 戦い終わり、開拓者たちは呼吸を整えていた。 アヤカシ‥‥大首との対決は、あまりにもあっけなく終わったのだ。 咆哮を用い、蘭と雫がそれぞれに注意を向けさせる。二手に分かれた舞う首は、それぞれのサムライへと向かい牙をむき迫り来る。 が、 「空気撃!」 鴻の拳の一撃が、おぞましき首を宙より叩き落した。 続き、蘭の槍の一撃がそれに止めを刺す。首は霧散し、果てた。 同じく、雫へと向かった首もまた、彼女の攻撃を、珠刀「阿見」による斬撃を受ける。その攻撃の後、首は苦悶とともに果てた。 「‥‥間違い、ありませんでしたな」 「ええ、間違いないですね」 風鬼と伊也とが、顔を見合わせて言葉を交わした。彼らは、アヤカシの顔を凝視し、その面相を確認していたのだ。 そして首のアヤカシの片方は、間違いなく彼らにとって、前回の依頼を受けた者たちにとって、既知の顔であった。 もう片方は、見た事のない顔。‥‥いや、別の意味では見た事のある顔。 屋敷へと赴く直前、雫は当麻の妻・鳩羅の下へと赴き、人相を確認していた。 新婚時に、二人で記念にと描いてもらった似顔絵。当麻の人相を確認するために見せてもらった二人の姿は、それはもう幸せそうな表情であった。 アヤカシの人相は、まさしくそれだった。雫は当麻の首を、携えた刀で切り捨ててしまったのだ。 「さて、それじゃあ屋敷の調査を始めましょう。‥‥おそらくは、何かが見つかるに違いありません。予想通りならば、ね」 伊也の言葉に、雫は我に返った。今は仕事を行なう時、感傷にひたる時ではない。深呼吸して己を落ち着かせると、彼女は皆とともに屋敷へ、そして蔵の周辺へと鋭い目を向けた。 「‥‥瘴気らしきものは、感じられませんね」 目を閉じ集中する伊也だが、やはり結果は同じ。蔵の周辺には瘴気の気配はまったく感じられない。 雫は携えた竜の牙で草を薙いで、調べを進めていく。屋敷の鍵は、今のところは住民全員が使えたという。が、一人を除きこちらの、勝手口の扉は開けたことが無い。その一人とは、明賀本人。 「足跡や、争った痕跡は無し‥‥か。しかし‥‥」 彼女は、妙な一点を発見した。閉ざされていたはずの、外へと続く勝手口。そこから蔵へと、足跡が残されていたのだが、それは蔵の方へと続き、壁の前で途切れていた。 壁には、扉らしきものは見当たらない。が、小さな空気抜きの格子がかわりにあった。目立たぬ場所にあるため、言われなければ気づかなかったところだ。 さらにその格子は、留め金がさび付いていたためか、枠ごと取り外す事ができた。人ひとりが入り込むには十分な隙間だ。 「さてと、中から物音は‥‥」 風鬼が耳をそばだてたが、何も聞こえない。が、その代わりに妙に嫌な匂いと、予感が漂ってくる。 「死臭、ですかね?」 瘴気はない。しかし、それに劣らぬおぞましき何か、恐ろしき何かが蔵の中に潜んでいるような、そんな錯覚を覚える。 「それじゃあ、面倒だけどやるとするかね。『汝に形を与える。我が意を汲み、見聞を報せよ‥‥』」 楓子が、陰陽師の美女が進み出て術をかける。 「‥‥―人魂―!」 彼女の前に現れたのは、小さな鼠。それが蔵の内部へと入り込み、嫌な気配の源へと向かっていった。 鼠は、内部へと入り込む。視覚を共有している楓子は、内部にひそむおぞましき存在が群れを成しているのを見た! 薄汚い毛皮に、醜い短毛の体。見るからに悪臭が漂ってきそうな、不潔な外見をしているそれは、鋭い牙を有していた。 「‥‥本物の、鼠の群れとはねえ」 おそらく、近所から集まったドブネズミか何かだろう。それら害獣の群れは、腐りかけた食べ物にたかっていた。悪臭のもとは、まちがいなくこれだろう。 よく見ると、それだけではない。毛布に、使った様子のある蝋燭立てなど、人間の生活した跡がはっきりと残されていた。 そしてこの発見とともに、疑惑の臭いもまた深まった。何者かが、ここでしばらく生活していた。おそらくは、住民たちには知らずに。 「黒い影は、ここで生活していたのでしょうかねえ?」 風鬼が疑問を口にする。そうだとしても、それを証明するための手段は無かった。 それを確認するためには、依頼人の下へと戻らねばなるまい。 「明賀殿が?」 風鬼は、思わず驚きの声をあげていた。 「そうです。皆様が屋敷へと向かった直後、病院へと向かうために馬車を呼んで欲しいと言われましてね。私は医者を呼ぶからと言ったのですが、聞き入れてはくれませんでした」 譲二郎が、その質問に答えた。 とりあえず、アヤカシを退治した事、そして明賀邸の調査が終わった事を報告するため、楓子と風鬼は蒲生邸へと赴いていた。伊也に雫、蘭、そして鴻の四名は、他の場所で聞きこみや調査を行なった後、伴の屋敷へと向かっている。‥‥おそらくは殺されているだろう、幸吉の足取りをたどるために。 「明賀殿は、ひどく慌てていたといいますか、怯えていた様子なのです。『どうしたんですか?』と声をかけたのですが、『なんでもない、本当になんでもない』と言っていました。しかし、あの様子はなんでもないわけがありません。どうも、何かに追われているというか、迫られていたような、そんな感じでしたね」 「ふむ‥‥?」 話を聞き、楓子は眼を細め、そしてたずねた。 「譲二郎。それで、その原因に心当たりは?」 その言葉を聞いて、譲二郎は顔をこわばらせた。 「あります。出て行った後に確認してわかった事なのですが、これを見てください」 そう言って、彼は折りたたまれた紙切れを取り出した。 「本日の早朝に、我が家の門のところに置かれていたのを、使用人が見つけたものです。『明賀商会・明賀殿へ』と書いてあったので、明賀商会の急ぎの知らせかと思い、本人へと届けたのですが‥‥」 「それが、明賀殿を死ぬほど怯えさせたってわけですな。では、ちと拝見」譲二郎の言葉に、風鬼が続き言った。 その内容を確かめんと、彼はその紙を開いた。 「『とうとう追い詰めた、お前は逃げられない。今度こそ、伴の下に送ってやる。黒作』‥‥これは‥‥!」 言うまでもない。これは、黒作からの手記だった。 「ええ、確かに私に質問してきたのは、そんな顔の人でした。そりゃあもう、黒っぽくて、醜い顔をしてましたわ。あれから、もう全然姿を見せないですけど」 黒作の顔を模した人相書きを見ながら、その娘は答えていた。 伴の屋敷から、そう遠くない場所に位置する街道の茶店、『一服』。そこで一人の娘が、開拓者たちに質問されていた。名は、お里。 「それでお里。そいつは間違いなく、『黒作』と名乗っていたんだね?」雫が、更に質問した。 「はい、おさむらい様。間違いないです。それで、『伴の屋敷はどこか』って言ったんで、あっちの方だと言ったら、そのまま行ってしまいました。幸吉さんが助けようとしてくれてましたけど、大事にならずにすみましたわ」 「幸吉さん? 失礼ですがあなた、蒲生商店の幸吉さんとお知り合いで?」伊也の質問にも、お里はうなずいた。 「はい、巫女様。それで、その‥‥あの人との事、蒲生の大旦那様にはまだ知られてないですよね?」 「? どういう事だ?」今度は、蘭が質問する。が、すぐにその答えは聞くまでもないと悟った。 お里は恥ずかしそうに顔を赤らめ、もじもじしていたのだ。 「その‥‥幸吉さんからは‥‥将来、夫婦になってほしいって、言われてまして‥‥」 「‥‥なるほど、幸吉って人がこのあたりに通ってた理由は、これだったんだな」お里の様子から、鴻はつぶやいた。 それにかまわず、お里は言葉を続ける。 「私はすぐにも夫婦になりたかったんですけど、幸吉さんったら『俺はまだ半人前。結婚は早すぎるって旦那様に怒られる。けど、一人前になったら、必ずお前を嫁にするから待っててくれ』って言うんですよ」 照れつつも、お里は嬉しそうだった。 「でも、このところ幸吉さんの姿が見えないんですけど。ひょっとして蒲生商店の大旦那様に、私たちの事がばれちゃったんでしょうか? 何か、ご存知ありませんか?」 「‥‥つらいな。譲二郎殿とお里殿に、この事を知らせるのは」 無念さをにじませつつ、蘭はつぶやいた。 茶店から出て、伴の屋敷へと向かった開拓者たち。そこで彼らは、あの首無し死体を見つけた場所に、またも新たな死体が置かれていたのを発見した。 それもまた首をはねられ、着物を剥ぎ取られていた。そして雫は、その死体の左膝に印を見つけたのだ。 紛れもない星型のあざが、そこにはあった。 「それはまた、幸吉殿らしいな。茶店の娘と会いたいがために、通っていたとは」 風鬼が、納得したようにうなずいていた。 陽天の、とある旅籠の一室にて。 戻った雫らの報告を受けて、風鬼は残念そうに目を閉じていた。 「伴の周辺に住んでいた人たちは、調べたが怪しい点は見受けられなかった。だが、それとは別にもう一つ‥‥」 雫の言葉に、蘭が続けた。 「木登りをして遊んでいた子供が、夕暮れの帰り道に変な人を見かけた‥‥と言っていたな」 その「変な人」とは、妙にきょろきょろと、周囲を気にしているような様子だったという。頭巾をかぶっていたために、顔はわからない。しかしその手の甲には大きなひどい傷跡があり、スイカほどの大きさの包みを抱えていたという。 「その子供は、木の上でじっとしていたため、そやつには気づかれなかったそうだ。で、怪しい男は伴の屋敷のある方向から出てきて、連れていた馬に乗ると、そのまま陽天の市外地へ向かって行った、との事だ。‥‥栗緒の特徴と、一致するな」 「そういえば、黒作についてですが‥‥」と、伊也。 開拓者たちが聞き込みをした結果、黒作についてわかった事はごくわずか。いや、最初の依頼の時に聞いた話と対して変わらなかった。 歴壁に居た頃の事は、明賀商会の人間たちも知らなかった。何せ働いていたのは、明賀商会の下部組織にあたる商店で、今はなくなってしまっている。 しかし、黒作は当麻のもとで、そして明賀商会本店にて働いていた頃の話はわかった。黒作は乱暴で怒りっぽく短気で、金に汚い‥‥と、誰もが口をそろえていた。 「で、明賀商会の下働きを止めた後は、定職にも付かずぶらぶらとしていたようですね。時折、日雇いの肉体労働の仕事を見つけては、わずかばかりの賃金を得ていたようですが」 「‥‥本当に、こやつが犯人なのか? どうも、分からなくなってきた」 皆の心情を代弁するかのように、蘭が呟いた。聞けば聞くほど、この黒作という男が今回の事件の首謀者とは思えない。間違いなく、黒幕は別に居る。 「おそらく、誰かがこの黒作を利用して、こやつに罪をなすりつけよう‥‥そう考えているのでは?」と、風鬼。 「だろうな。そしてその誰かが、この事件を起こした者に相違あるまい」雫が、風鬼に同意するように頷いた。 「しかし、明賀‥‥いや、伴か? そやつも居なくなったというのは怪しいねぇ」 楓子の言葉に、開拓者たちは黙り込んでしまった。 手の傷から、伴の屋敷近くにいた「変な人」は、栗緒であろう。だとしたら、包みの中身は幸吉の頭部か? そして、幸吉が伴の屋敷近くに赴いていたのは、茶店の娘と逢引するためだった。彼は伴や黒作と無関係で、巻き込まれて殺された? さらに、黒作の手紙が蒲生屋敷へと投げ込まれ、明賀、あるいは明賀に成りすました伴は恐れて逃げ出し行方不明。黒作は既に陽天に戻っていて、明賀を突き止めた? いや、黒作と書いてあっただけで、あの手紙を書いたのは黒作でない誰かか? 「ただ一つ、確実に言える事は」鴻が口を開き、重苦しい沈黙を破った。 「明賀、あるいは明賀に成りすました伴を探し出す必要があるって事だろうな。多分そいつが、全ての鍵を握っている事だろうよ」 そうだ、全ての謎の応えは、おそらくは行方不明になった明賀(あるいは、明賀に化けた伴?)が握っている。 次があるならば、おそらく彼と合間見える事になるだろう。その時の事を思い、開拓者たちは決意を新たにした。 このような殺し方をした犯人を捕まえて、その謎を解いてみせると。 |