たった一つの殺し方:壱
マスター名:塩田多弾砲
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/06/02 23:02



■オープニング本文

 石鏡、陽天。
 石鏡の商業都市であり、様々な商品が売買される経済の都。
 その郊外には、屋敷があった。屋敷の主人は絵描き。
 彼の名は、伴仮真。彼は使用人の栗緒とともに、二人で屋敷にて暮らしていた。

 郊外には、すぐ近所に何軒かの小屋が建ち、小さな集落になっていた。そして、そのすぐ近くには年老いた警邏隊の隊員の詰め所もあった。
 屋敷の裏にはちょっとした森があり、周囲には小さな畑が広がる。長閑な雰囲気すら漂うが、それはもう存在しない。
 伴の屋敷にて、首を切り落とされた惨殺死体が発見されたからだ。

 蒲生商店の主人、蒲生譲二郎。
 かつて開拓者により、商品を取り戻してもらった過去を持つ商店の店主。
 彼はよく、伴の屋敷に赴いていた。伴の描く絵を、仕入れては売るためである。
 伴の描く絵は、名画と言うほど見事なものではない。しかし、その分速筆であった。一週間に七枚以上、絵を描き納品することが出来るほどだ。多いときには二十枚以上も描けたりする。
 そのため、譲二郎は安価に絵を求める客向けにと、伴に依頼して多くの絵を描いては仕入れ、それを売っていた。彼の目論見は当たり、安い絵は結構な売り上げを伸ばすことに。しかしもう、伴から絵を買うことは出来なくなってしまった。

「‥‥というわけで、皆様にお願いしたいのです。アヤカシ退治を」
 譲二郎が、再びギルドの門を叩き、そして再び開拓者たちへと依頼をしていた。
「いつもの通り、私は部下を連れて伴先生の元へと赴きました。今月分の絵、約20枚を受け取りたいと思いまして。ところが、いつも出迎えてくれる栗緒さんの姿が無いのです」
 栗緒とは、伴の使用人。伴は一人暮らしのため、栗緒が身の回りの世話をしている。
「そして、血のにおいが漂ってきました。何かあるなと思い、私は同行させた部下とともに家の奥へと足を踏み入れました。そして、仕事場に行くと‥‥」
 そこで彼らは発見した。首が切断されている死体を。
「死体は、いつも伴先生が着ている青い作務衣姿でした。ただ、その‥‥首は見つかりませんでしたが」
 この異様な事態。物取りか何かが押し入ったのか? しかしそれなら、わざわざ首を切り落とす必要も無い。
 かくして、近くの警邏隊の詰め所に事の次第を知らせんと、戻ろうとしたが‥‥。
「裏の庭に、立っていたんですよ。警邏の方が。‥‥死んでいたのに、それは立っていました」
 顔が半分かじり取られた、老人の姿。明らかに、瘴気が宿った死体に他ならない。
 それだけでなく、切り落とされた人間の頭部が数個、ふわりとあちこちを舞っている。
 そのうちの一つは、恐ろしい面相で、白髪を振り乱しながら迫ってきた。譲二郎と、部下の幸吉は、護身用の刀を振り回して屍人や浮かぶ首などを牽制し、やっとの事で逃げ出すことに成功した。
 そして、陽天へと戻ることができたのだ。

「‥‥というわけで、皆様にお願いしたいのです。あの屋敷に赴いて、伴先生の絵を回収する手伝いをしてもらえませんか? お客様が、伴先生の絵を待っているのです」
 そう、伴の絵を楽しみにしている客は、結構居るのだ。
 病気がちな小さな少女、なけなしの金で恋人に贈り物を贈りたい貧乏な若者、裕福ではないが絵を家に飾りたい老夫婦。彼らは皆、蒲生商店から伴の描いた絵を注文し、所望していた。
 その注文の分を、今回受け取りに来たのだが‥‥このアヤカシのために叶わぬことに。
「それと‥‥、ひょっとしたら、幸吉は犯人を目撃しているかもしれません。私と訪ねた一週間前に、幸吉は絵の代金を支払いに伴先生のところへと赴きました。その時には、先生も栗緒さんには何事も無かったとの事です」
 譲二郎の言葉に幸吉はうなずき、話し始めた。
「ええ。旦那様の言うとおり、全く何もありはしませんでした。『屋敷の周辺の瘴気が濃くなってきたみたいだ、引っ越さないとな』などと、伴先生と会話したのを覚えています。ただ‥‥」
 その帰り道。いつも立ち寄る茶店で一休みしていると、幸吉は怪しい人物を見た。
 店の女の子に対して、慇懃な態度で何かを尋ねていたのだ。
「そいつは、『黒作』と名乗ってました。しきりに伴先生の家はどこだと聞いていましたね。夕方で暗かったんで顔は良く見えなかったんですが、女の子が知らないと知ると、片足を引きずりながらその場を立ち去りました」
 その時には、そのまま帰ってしまったのだが‥‥。
「もしもあの時、止めていたら‥‥正直言って、悔しいです。おそらく、首を切り落としたのはその黒作じゃあないでしょうか。伴先生に恨みがあって、それで伴先生を殺したんじゃないかと」
 まだ、栗緒の死体は見当たらない。ひょっとしたら、どこかに隠れているか。
 いや、あるいは栗緒自身も黒作に協力しているかもしれないと、幸吉は続けた。
「自分が行った時、ひどく言い争っていました。何十年も仕えているのに、給料の払いが悪いとか何とか。その時に伴先生は、殴りつけて黙らせていましたね」
 栗緒は髭を蓄えた、伴と同年代の男。背格好も同じくらいで、灰色の作務衣をいつも着ている、との事だ。手の甲には、過去に負ったひどい火傷の痕がある。
「その場は、なんとか収まったんですが‥‥ただ、栗緒さんも伴先生を尊敬してましたから、いくらなんでも殺す、なんて事はしないんじゃないかとも思います。ともかく‥‥」
 アヤカシが、屋敷の周辺をうろついている。それでは、絵の回収もできはしない。
「絵はおそらく、倉庫の中に保管していると思います。伴先生は書き上げた絵を、いつも倉庫に運び込んで保管していましたから。そこは中から鍵がかけられるので、あるいは栗緒さんはその中で隠れているかもしれません」
 アヤカシを倒し、そしてもし生きていたら栗緒を助けたい。そのために、皆に救出を依頼したいと。
「もしも、栗緒さんが生きていたら、犯人も誰か分るかもしれません。黒作が犯人だとしたら、その行方も調べる必要がありますし。ともかく‥‥」譲二郎と幸吉は、君たちに頼んだ。
「そのためには、アヤカシを退治しない事には始まりません。どうか、皆さんのお力を貸してください」


■参加者一覧
蘭 志狼(ia0805
29歳・男・サ
衛島 雫(ia1241
23歳・女・サ
吉田伊也(ia2045
24歳・女・巫
風鬼(ia5399
23歳・女・シ
古廟宮 歌凛(ib1202
14歳・女・陰
月野 魅琴(ib1851
23歳・男・泰


■リプレイ本文

「現地の様子を、もう一度確認しておきたい」
 厳格な面持ちと態度を漂わせるは、巌なるサムライ・蘭 志狼(ia0805)。開拓者の面々は、蒲生商店、すなわち依頼人の店の応接室に赴いていた。
「はい、皆様。なんなりと」
 蒲生の説明は、今まで聞いたものと同じ事。伴の住む屋敷は、街道から分かれた小さな道を、森をかきわけるようにして進むと突き当たる。
 そこは、家屋がいくつか集まった、小さな集落のような場所。最初につきあたるのが、隠居した老警邏の小屋。その裏庭には、趣味の盆栽がいくつかある。蒲生商店から購入したものだ。
 伴の屋敷は、その小屋を通り過ぎてすぐに存在する。その裏には倉庫のある裏庭があり、そして雑木林が倉庫の後ろに広がっている。そこを抜けると、老夫婦が住む小屋と、二人の所有物である小さな畑が。
 伴の屋敷の隣には、木彫り職人が住む住居兼仕事場がある。裏の林で取ってきた木材から色々なものを作り、それを陽天に持っていって売ることで生計を立てている。
「建物は、このみなさんの四つがあるのみです。一番大きな建物が、伴先生の屋敷と、裏庭の倉庫ですね」
「隣同士なら、何か起こったら駆けつけるのではないか?」
 麗しき女性のサムライが、質問をぶつけた。衛島 雫(ia1241)、緑の瞳を持つ、猛き女傑。
 だが、彼女の質問に譲二郎はかぶりをふった。
「いえ、隣といってもかなり距離が離れています。それに、‥‥皆、人間嫌いというわけではないのですが、人付き合いを好むたちでもないので、基本的に互いに干渉はしてなかったんですよ」
「‥‥ふむ」
 何かが引っかかる、それが何なのかが、分からないが。
「それにしても、アヤカシ相手に幸吉殿と譲二郎殿は良く無事に戻って来れましたねぇ」
 飄々とした口調の、白銀の髪を持つ巫女。吉田伊也(ia2045)。
「‥‥そういえば。蒲生殿と幸吉殿は、武芸の心得がおありなのか?」蘭が伊也の言葉に続き、たずねた。
「ええ。私も護身術を少々嗜んでますし、幸吉はもとより武家の次男坊です。彼は商いで陽天を平和に導きたいと考えておりましてね、そこで私のもとで商いを学んでいるわけで」
「その幸吉さんは、今どちらに?」
 今度たずねたのは、シノビの風鬼(ia5399)。
「ああ、今は商品の仕入れに行っています。そろそろ戻ってくる頃でしょう」
 その言葉どおり、幸吉が戻ってきた。彼は籠を、たくさんの果実を入れた籠を背負っていた。

「引っかかるな、どうも引っかかる」
 陽天から、向かう道すがら。古廟宮 歌凛(ib1202)は同じ言葉を何度も繰り返していた。
 長く美しい黒髪を持つ、陰陽師の少女。
「自分も不本意ながら、おかしいと思います」
 歌凛に同意するは、泰拳士・月野 魅琴(ib1851)。歌凛と対照的に長い白髪を持つ彼は、片眼鏡をきらめかせつつ、空を仰いだ。
「私は、まだ幸吉が怪しいとは思っている。しかし‥‥」
 先を進む雫は、幸吉の事を思い出しながら合点がいかないといった表情を浮かべていた。その隣では、蘭も同じく思案にふけっていた。

 あれから幸吉は、籠一杯の果物を仕入れて戻ってきた。果物は、幸吉自身が良いものだと確信し仕入れたもの。しかし、その目利きはいささか劣ると言わざるをえなかった。
 果物は全て熟しすぎ、果肉も崩れかけていた。平たく言えば、売り物にならないものを仕入れてしまったのだ。
「‥‥おかしいな、こんなすぐに傷むわけがないのに。‥‥そうか、きっとあの農家の果物は、普通より腐りやすいんだな! 間違いない!」
 大真面目に、彼はそう言っていた。
「‥‥いや皆様、とんだ恥ずかしいところをお見せしまして。幸吉はこのとおり仕事熱心なのですが、どうにも思い込みが激しく浅慮なところがありまして」
 譲二郎の様子からして、幸吉は同じ事を何度も繰り返していたのだろう。
 その後で、開拓者たちはそれとなく、幸吉の事を譲二郎や従業員などから聞いてみた。
 生活態度も、金遣いも、別段怪しいところなど見られない。むしろ真面目で堅物で、ひとつの事しか頭に入らない単純な人間であるという。
 ただ最近、人目に見られないようにして、伴の屋敷の方向へ向かうところが何度か見られたそうだが。

「‥‥妙ですな」
 風鬼は、己の疑問を何度も何度も口にしていた。
 幸吉が怪しい。それは、彼女自身も、そして伊也ら他の仲間たちも考えている事。
 ではあるが、どこか違和感を覚えてしまっていた。正直なところ、実際に幸吉と相対した印象は、「まぬけな善人」といったところ。確証はないものの、誰かを傷つけたりだましたりする事ができる人物には見えなかった。
 もちろん、そう見せているだけかもしれない。非常に狡猾で、他者をだます事に長けているのかもしれない。
 ではあるが、それが正しい確信とも思えなかった。
「人目を気にして、被害者の屋敷の方向へ向かう事があった‥‥。これが、何を意味しているのかがわからないんですよねえ」
 伊也もまた、少々疑問に思いつつ考えを述べた。真犯人が別にいて、知ってか知らずか、その手助けをしていたのかもしれない。
 それに何より、動機らしいものがなかった。伴を殺したとしても、幸吉にとって得るものはないのだ。
「ともかく、わかっている事は被害者の、伴の容貌くらいか」
 歌凛が、譲二郎から受けとった伴の似顔絵を再び広げ、それを確認するように見た。厚ぼったい唇に、やぶにらみ気味の目つき。正直なところ、善人には見えない面構えではある。どこか、底意地の悪さがにじみ出ているような、そんな印象すら覚えてしまう。
 正確には、伴本人のものではなく、彼の双子の弟‥‥明賀のものなのだが。なんでも、明賀は伴と、かなり良く似ているとの事だ。明賀もまた商店を営んでいるが、兄弟仲は良くないらしい。旅好きで、今は仕入れを兼ねて、あちこちを旅行しているそうだ。
 馬の引く小さな荷車とともに、六人の開拓者は現場へと進んでいく。だが、現場には近づいていくものの、真相に近づく事は未だなかった。
 思案しつつ、彼らは進んだ。ひたすら進んでいった。

「『本当に昼間だろうかと疑いたくなるくらい、その屋敷周辺は薄暗かった』‥‥。書き物作家なら、冒頭にこのような描写をするでしょうね」
 屋敷を前にして、魅琴は小さくつぶやいた。だが、片眼鏡越しの彼の視線は、周辺を鋭く見据えている。すべてを見逃さず、すべてに何かの手がかりを見出そうとするかのように。
 快晴だった空模様は、次第に曇天になりつつあった。それとともに、人気のない屋敷とその周辺は、どことなく不気味な雰囲気を漂わせつつある。
 瘴気らしきものの気配は、術を用いずとも肌に食い込むかのように漂い、伝わってくる。
「‥‥いますね。瘴気の気配、瘴気の漂いが伝わってきます」
 伊也のかけた瘴索結界が、瘴気の塊を、アヤカシの存在を彼女へと伝えてきた。
 周辺にいるのは、4〜5体ほどの、歩く何か。そして、ふわりふわりと浮いている何かがいるのは間違いない。
「‥‥聞こえては、こないですな」
 風鬼が超越聴覚で、耳を済ませてみた。が、がさりがさりと何かが歩き回る以外、何も聞こえてこない。おそらくそれは、アヤカシの足音なのだろうが。
「汝に形を与える。我が意を汲み、見聞を報せよ‥‥」
 足音と瘴気以外にも、より完璧を期するため。歌凛は符を取り出した。
「‥‥―人魂―!」
 歌凛の符は、彼女の命を受け変化した。朱色の小さき獣、三寸ほどの鼠に姿を変えた符は、歌凛からの命令を受け、人気のなくなった屋敷内部へと入っていった。そして、裏庭へ、林へと皆は歩を進める。
「? ‥‥どうやら、来たようだね」
 雫の言葉に、伊也はうなずいた。建物や木立の影、そして薄暗くなった林の木々から、ゆらりゆらりとした歩調で、そいつらが現れたのだ。
 それは、生ける存在でないことは、見るからに理解できた。なぜならば、そいつらはアヤカシであったからだ。見たところ、それらには首はある。が、腐敗と腐臭とを感じさせたそれら五体の歩く死人は、十分怪しく、危険に見えた。
 それだけではなく、ふわりふわりと浮かぶ生首めいたものも二つ。それは、苦悶の表情を浮かべ、宙に浮かび開拓者へと牙をむいていた。その片方は、どこかで見たことがあるような顔つき。
 それらに対して、長槍を構えた蘭は、鋭い切っ先を怪物どもへと向けていた。同じく、珠刀「阿見」を握り構えるは雫。
 風鬼は、バトルアックスを、歌凛と伊也は符を、それぞれの手には構えていた。泰拳士たる魅琴は、己の全身が武器。それゆえ、丸腰のままだが。
 そんな六名の開拓者たちに向かい、声にならない声を上げつつ、アヤカシ‥‥屍人が踏み込み、大首が襲い掛かってきた!

「こちらだ、化け物!」
 咆哮が、蘭へと屍人の注意をそらす。二体の屍人が、蘭へと注意を向けて近づいてきた。
「死者を冒涜する者等よ‥‥瘴気に戻してやろう。蘭 志狼、推して参るッ!」
 接近してきた一体に、蘭は長槍・羅漢の突きを一撃。腐った体を貫かれ、一体目が沈黙し、霧散していった。
 二体目がすかさず向かってくるも、そいつの攻撃は容易に防がれ、逆に羅漢の柄で一薙ぎ。殴られ、よろめいたところに一閃が炸裂し、またも瘴気を霧散させつつ消滅していった。
「こっちだ、来るがいい!」
 雫もまた、咆哮して屍人、そして大首の注意を引こうと試みた。首の片方は、醜く黒っぽい肌の大首。そして屍人の残るうちの一体は、雫に向かって襲い掛かる。
 屍人のつかみかかる腕を、雫は撫で斬りした。それは、顔が半分無い老人のそれ。おそらくは、老警邏のそれだろう。が、阿見の刃をうけ、袈裟懸けに切り込まれた屍人は、そのままもとの死体に戻り‥‥瘴気を霧散させつつその存在を消滅させていった。
 すかさず、空中からの攻撃にも刃を振るう。黒く醜いその顔にも、刃を叩き込み、沈黙させた。
 別の方向から襲い掛かる、二体の屍人。それらが牙をむき噛み付かんと迫る。
「動くでない。―縛―!」
 が、歌凛が放った呪縛符‥‥糸の塊のごとき式が、それより早く屍人に絡みついて動きを止めた。
「ふんっ!」
 残る一体の屍には、シノビの振るう斧、風鬼のバトルアックスの刃が叩き込まれる。鋭い刃が瘴気に犯された肉体に食い込み、引導を渡した。
「下郎が! 切り裂け‥‥―斬―!」
 絡み付き、動けない屍人。歌凛は更なる式を飛ばし、その怪物にも止めをさした。朱のイタチが屍人を斬り、その場に沈黙が訪れた。
「‥‥もう片方の大首は?」
 蘭が周囲を見回した。
「心配は無用ですよ。ほら」
 魅琴が地面を指差した。そこには、彼の空気撃を受けて地面に転がった、醜い首のアヤカシがあった。
 そいつの面相を、詳しく見ようと近づいたが。
「!」
 大首は、不意に空中へと躍り出て、開拓者たちへと強烈な体当たりを食らわさんと突撃してきた。その先にあるのは、歌凛。
 符を構えた歌凛だが、
「はーっ! ‥‥大丈夫か?」
 その前に、雫の阿見が大首へと打ち下ろされた。今度こそ、大首は完全に沈黙し、二度と動くことは無かった。
「ああ、すまない! ‥‥しかし‥‥」
 歌凛は無傷ですんだ。そして、大首の面相も直接見て、それが似顔絵の伴=明賀にそっくりだということも見た。
「‥‥確かに、伴殿の顔に酷似していた。いたが‥‥」
 腑に落ちない。なぜだかは知らないが、どうにも腑に落ちない何かがある。
「さて。戦いの余韻を楽しむのも良いですが、そろそろ絵と生存者の救出に向かいませんか?」
 魅琴の言葉で我に返り、歌凛は向かった。裏庭の倉庫へと。

「‥‥これは、どういうことだ」
 歌凛の式、人魂により、屋敷内にはアヤカシを含めて生きている存在は何も無いことが判明した。
 そして、裏庭の倉庫を開ける。そこは、「外側から」かんぬきをかけられており、そして内部には、死体があった。‥‥灰色の作務衣を着た、首の無い死体が。
「栗緒さんのもの‥‥でしょうかね」
 伊也が、その死体を検分する。確か栗緒は、手の甲に火傷の痕があるはず。それを確認すれば‥‥。
「手の甲の火傷の痕は?」蘭もそれに気づき、指摘する。が、それはかなわない事となった。
 手の甲は、確かに火傷の痕があった。が、その火傷の痕は、新しいものだった。少なくとも、数日前に負ってしまった傷。そうとしか思えないもの。
「偽装、か?」歌凛が己の疑問を口にするが、ただれきったその様子からして、そこまで言い切る事もしかねる。火傷の痕の上に、本当に最近新たに火傷を負ったのかもしれない。
「‥‥とりあえず、絵の方は無事みたいですなあ」
 風鬼が倉庫内を見て、当初の目的のひとつ‥‥蒲生商店向けの絵を発見した。見たところ、傷みはなさそうだ。
「しかし、生存者はいなかった。というか、伴さんに続き、栗緒さんも殺されていましたね」
 雫とともに、屋敷内を探っていた魅琴が戻ってきた。
「そっちは、どうだったのじゃ?」
 歌凛の言葉に、魅琴はかぶりをふる。
「胴体には、致命傷がありました。首を切断する前に殺し、そして首をはねて、作務衣を着せたものと思われます。作務衣には、殺された時の血痕などがありませんでしたからね」
「そうか‥‥」
 そして、この栗緒のもの‥‥とは言えないかもしれない首なし死体。
 こちらも、作務衣には血痕が無い。そして、伴と同様に首の切り口が刃のそれ。
「‥‥俺は、頭を使うことは苦手だが。これくらいはわかる」
 蘭が、静かに言った。
「この事件、これだけでは終わらんだろう。おそらく‥‥これから、何かが起こる」
 そしてそれもまた、血なまぐさいものになる。間違いはあるまい。
 腐敗臭と血のにおいとが交じり合った中。解かれぬ謎とともに不安を覚える開拓者たちだった。