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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 五行、陽天へ続く街道に近い、魔の森。 少し前に、ここには隊商の一行がちょっとした事件に巻き込まれ、商店の人間一人の命と、その積荷が失われそうな事件が発生していた。 この「蒲生商店」の店主である蒲生譲二郎の依頼により、その店員・環蜀は助けられ、積荷も回収。事件はこれで解決した‥‥はずであった。 環蜀は事件後に、少しばかりよそよそしい態度を取っていた。 借金で困っている環蜀の恋人・銀嶺。借金の問題が解決したら、環蜀と結婚する予定ではあったが、借金相手の高利貸し・権蛇はかなりあくどく強欲らしい。確たる話は聞いた事がないが。 そして、その銀嶺の兄・元也は警邏隊の下働きであったが、妹のため、そして自分の儲けのためにと、一攫千金を望む男といわれている。 さらに、銀嶺の友人、春乱もまた、孤児院を手伝っている女性。問題解決のためなら、短気な方法をとるのも厭わない女性。彼女もまた、銀嶺の事を心配に思っていた。 そんな中、事件が発生した。 蒲生商店の店員寮、その環蜀の部屋に泥棒が入り込んだのだ。それが起こってから、環蜀は蘭厨に銭入れを預けていた。「大事なもんだから、預かっておいてくれ」と。 さらに数日後。環蜀が誘拐され、さらに以前取り戻した商品の薬、その在庫が倉庫から盗まれるという事件が発生。 そして、環蜀の部屋からは脅迫状が。 『環蜀と商品は預かった、銭入れの地図と交換だ』 しかし、蘭厨が預かった環蜀の銭入れには、汚らしい布切れが一枚あるのみ。何かが描かれているが、血や土で汚れ判然としない。 ともかく、脅迫状に記された取引場所に赴くが、そこには犯人らしき覆面の男たちが。が、取引を行う直前にアヤカシの群れが出現、蒲生商店と覆面男たち双方へと襲撃してきたのだ。 ほうほうの体で逃げ帰った蒲生商店の一行だが、再び置手紙を発見。 『あのアヤカシは無関係だった。誰も、環蜀も傷つけるつもりはない、地図を暮れたら、預かった商品を返す』 かくして、蒲生商店の店主・蒲生譲二郎と、その店員・蘭厨は、開拓者たちに依頼した。 店員を助けて欲しいと。 だが、運悪く。この依頼を承諾する者が中々集まらず、時間ばかりが経ってしまった。 そして現在。 更なる事件が二件、発生したのだ。 一つめは、蘭厨の部屋に泥棒が入った事。 依頼後、人が集まらず仕方なく蒲生商店の皆は、取引先に赴いた。が、やはりアヤカシの群れに追われて双方ともに元の木阿弥に。 その日の夜。蘭厨は眠ろうとしたところ、部屋に密かに入り込んでいた何者かにいきなり殴られ、気絶させられた。 気がつくと、環蜀から預かった財布が消えていた。 そして、もう一つ。蘭厨の部屋に泥棒が入って数日後。五行の街道で、この事件の発端となった、魔の森からほど近い地点で発生した。 蒲生商店の隊商が、陽天へと商品を積んで旅している途中だった。その日は途中でアヤカシの群れに襲われたのだが、護衛を十分につけていたおかげで事なきを得た。こちらの人的被害も、品物や荷役獣の損失も無し。夕暮れになる前に目的地へとたどり着けるだろう。 しかし、陽天に続く、石鏡との境界近くにて。 ぼろぼろになった人間が、助けを求めてきたのだ。 すぐに介抱されたものの、もう手遅れだった。 その男は、息を引き取る寸前、こう述べた。 「あ、アヤカシにやられた、環蜀と一緒に、あのお宝を手に・・・・」 そう言って、事切れた。 「おい、そいつひょっとして‥・・元也じゃあないか?」 警備の一人が、男の顔を覚えていた。彼、源二は警邏隊に勤めている男で、元也とは知り合いであった。 「間違いない、元也だ。アヤカシにやられただと? 一体何を‥・・」 この先には、以前の事件でアヤカシの群れに襲われ、環蜀らが森の奥へと逃げるはめになった場所。まさか、襲われて逃げてきたのか? ふと聞くと、森の奥から声が聞こえてきた。女の、助けを呼ぶような声。 源二他、数名の護衛が武器を手にして森の奥へと進んでいった。 森の中は、瘴気が漂い殺気と邪悪な気配とが混在していた。そして、女の悲鳴のような声は、持続していたが、そのうちに聞こえなくなっていった。 「あれを‥・・」 源二は、仲間の指摘でそれを見つけた。 それは、布がかぶせられた何か。あまり汚れた様子は無く、おそらく置かれて数日くらいだろう。注意ぶかく近づき、布を取り払うと‥・・そこにあったのは多数の木箱だった。 「なんだ、これは?」 その木箱を開けてみると、その中には紙に包まれた粉が。匂いをかいで見ると、それは薬のそれ。 「まさか、蒲生商店から盗まれた在庫の薬? しかし、何でこんなところに‥・・」 ふと、次に聞こえてきたのは、またも女の声。 しかし今度は、甘く、何か誘惑するような声が。それはかすかだが、確かに聞こえてくる。 「引き上げよう、何かやばい」 猛烈な、嫌な予感がする。これ以上ここに居続けたら、あの「声」に誘われるに違いない。 事実、源二自身も急激に、声に「誘われたい」という欲求が湧き上がってきたのだ。 「というわけで、改めてこの事件を調べてもらいたいのです」 蒲生譲二郎、そして源二、蘭厨が、あらためてギルドに赴き、仕事内容を依頼してきた。 「死んだ男は、間違いなく元也でした」と、源二。 「で、源二さんのいうには『環蜀のことを口にしたからには、間違いなくこの件に絡んでいるに違いない』との事。もしも先輩が捕らわれてるのなら、皆さんに助けてもらいたいのです」 「さしあたっては、森に赴いて、木箱の薬‥・・おそらくは、盗まれた在庫の薬を回収してください。あの薬を待つ病人や医師の皆さんもいるので、どうかそちらもお願いします。それとともに、周辺地域を捜索して、環蜀がどこかに捕らわれているなら助け出していただければと」 そう言って、彼らは君達に懇願した。 |
■参加者一覧
柊沢 霞澄(ia0067)
17歳・女・巫
薙塚 冬馬(ia0398)
17歳・男・志
カンタータ(ia0489)
16歳・女・陰
かえで(ia7493)
16歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
ジナイーダ・クルトィフ(ib5753)
22歳・女・魔 |
■リプレイ本文 「‥‥というのが、今までの流れだ」 薙塚 冬馬(ia0398)が、説明を終えた。 蒲生商店の空き部屋のひとつ。ここで開拓者たちは、作戦会議を開いていた。 六名のうち、前の依頼に参加していたのは四名。今回初参加の二名、カンタータ(ia0489)とかえで(ia7493)は、考え込むように目を閉じた。 「ボクが思うに」と、目を見開いたカンタータが言葉を放った。 「魔の森の財宝の噂、何も無ければこんなにいろいろな人が拘る訳が無いと思うのです」 「その点は、まだなんとも言えないわね」ジナイーダ・クルトィフ(ib5753)が、カンタータに返答した。 「あたしの予想では、噂の財宝が本当にあって、それを巡って事件が起こってるのかな‥‥って思うんだよね」 ジナイーダに続き、リィムナ・ピサレット(ib5201)が口を挟む。 ジナイーダは、さらに言葉を重ねた。 「美談としてなら、環蜀と妹の為に、魔の森に宝探しに‥‥なんて、元也が動いてたって事も在るのかしら」 「元也さんが、黒幕だと?」 柊沢 霞澄(ia0067)が、訊ねる。 「ええ。‥‥善意の存在も、忘れたくは無いのよ。勿論、金が人を狂わしてる可能性もあるけど」 「ま、ともかく」 かえでもまた、目を見開いた。 「まずは、身辺調査よ」 そして、後日。 一行は魔の森へと向かっていた。 六人の開拓者は一人の警邏隊員と、馬が引く三つの荷車を伴い道を進んでいた。 「もう一度、話をまとめてみようぜ」と、徒歩の冬馬は言い始めた。 「俺が警邏隊に聞き込みに行ったら、『元也は乱暴で、稼ぎは博打代と酒代に消えてて、さらに借金を増やしていた』」 「ええ、あいつはどうしようもない奴でした」同行していた、警邏隊の源二が付け加える。 「ボクは孤児院で、春乱さんの事を聞いた」と、カンタータ。 「院長さん曰く『手抜きが多く、楽してお金が手に入る話には、毎回飛びつき損をしている』」 「で、あたしは銀嶺さんを訪ねたけど‥‥」 リィムナが、カンタータに続き言う。 「皆に対し、愛想をつかしてるみたいだった。兄さんは借金を真面目に返そうとしない、春乱さんも堅実に孤児院を経営しようとしない。さらには婚約者の環蜀さんも、すぐ結婚して欲しいのに、本人が『借金の問題が解決してから』とぐずぐずしている‥‥ってこぼしてたね」 肩をすくめ、リィムナはかぶりをふる。 「それで、こちらは権蛇の事だけど」と、ジナイーダも会話に加わった。 「権蛇は確かに、金に厳しく暴力的なとこはあったわね。けど、酒場の店主などに確認を取ったけど、今回の関係者とつるんでいる様子はなかったみたいよ」 ジナイーダは、権蛇と直接話し、確認を取った時の事を語った。 「借金に関しても、銀嶺には『毎月払える額を払えば良い』と言っていたわ。その事も確認はとってある」 「じゃあ、なんで『強欲であくどい』なんて言われてるんだ?」と、冬馬。 「さあね。ただ、そう言ってる人たちの多くが、敵対してる金貸しだったり、柄が悪かったりするから、理由は想像つくけど。ただ少なくとも、二つの事は言えるわ」 ジナイーダは、指を二本立てた。 「一つ。銀嶺が権蛇へ払う借金は、緊急のものではない。一つ、権蛇本人は、魔の森のお宝なんかに興味ない。彼は隠された宝といった、あやふやなものを嫌ってたわ」 「となると」かえでが口を開いた。 「元也と春乱が怪しいわね。二人とも大金を欲しがってて、なおかつ『魔の森にある宝』に手を出そうとしている。‥‥で、環蜀本人も、それに巻き込まれたか、あるいは協力してるのか」 「う〜む‥‥」 沈黙が流れた。やがて、霞澄の静かな口調とともに、その沈黙が破られた。 「‥‥皆さん、森に着きました‥‥」 そして、彼女の言葉が終わると共に。森の奥から、這い出てきたものがあった。 リィムナとジナイーダが、這い出てきたそれら‥‥巨大な蜘蛛の姿を持つアヤカシから、荷車、そして仲間を守るようにして立ちはだかる。 後衛の開拓者達もまた、各々武器を構え迎撃の構えを取った。 目前のアヤカシ‥‥土蜘蛛は、カサカサという足音とともに、地面を穢しつつ迫り来る。 「あたしに任せて!」 「じゃ、お先にどうぞ」 リィムナが進み出て、ジナイーダが後ろに下がる。目前のアヤカシは二匹。 リィムナは携えていた魔杖・ドラコアーテムを構え、アヤカシへと向けた。そして、口の中で呪文を唱える。 呟きが力となり、蓄積し、力となって解き放たれた。 「ブリザーストーム!」 解き放たれた力は、強烈な吹雪と化し、ドラコアーテムから放たれた。奔流と化した吹雪を受け、土蜘蛛はきりきり舞った。 おぞましきアヤカシどもが絶命し霧散するのに、そう時間はかからなかった。 「‥‥さすがは、開拓者だな」 その見事な動きと戦いぶりに、源二は感嘆の呟きをもらすしかなかった。 土蜘蛛をしとめた後、開拓者たちは荷車ごと森の中へ侵入していった。 「あれです。あれが発見した箱です!」 そして、さらに数刻。 源二は、数日前に発見した木箱が置かれた場所へ、開拓者達を案内していた。 「箱は壊れていないようだし、中身も‥‥手はつけられてないみたいだなっと」 冬馬が、箱をあらためる。確かに、破損も盗難もなさそうだ。数個はこじあけられた様子があるものの、内部の薬の紙包みは破られたり湿気たりはせず、状態もひどくは無い。 「さ、それじゃあ‥‥またさっきみたいなのに出てこられる前に、すませちゃいましょ」 カンタータの言葉とともに、木箱を荷車へ積載する作業が始まった。 「それじゃあ、頼むわね」 かえでが、カンタータと霞澄とともに、森の奥へと向かっていく。 「ああ、気をつけてな」 それを、冬馬とリィムナ、ジナイーダが見送った。 おそらく、行方不明の環蜀と春乱は、森の奥で立ち往生しているに違いない。だからこそ、開拓者達はここに来る前に話し合いをしていた。 三名が、薬を積み込んだ荷車を見張りつつ待機。三名が更に奥へと進み、洞窟を中心に行方不明者を捜索する。 魔の森の奥、草木と瘴気に覆われた深淵の中に消え行くのを見て、源二は先刻の恐怖が更に増した気がした。 「皆さん、大丈夫でしょうか?」 「何、みんなやり手の奴らばかりだ。信用しろって」 とは言うものの、冬馬も少しだけ心配していた。 「‥‥ふむ」 カンタータは、ため息をついた。 瘴気に侵された木々と草花が繁茂する中、彼女に先行し金色の蝶が舞う。既にこれで、三度目の人魂だ。 今は、源二らが聞いたという「声」は聞こえない。 カンタータは人魂を、蝶と化して飛ばしていた。しかし、蝶の目と耳は、カンタータへと何も伝えない。 カンタータ、かえで、そして霞澄は、森の奥、源二がちらりと見たという洞窟の前に立っていた。 が、ここで予想外の事実が二つ。一つは「洞窟は浅く、奥を見ると何も無い」 そして、もう一つ。「更なる洞窟が、離れた場所に存在している。それもかなりの数が」 そのため三人は、発見した洞窟を片端から探っていたのだ。もっとも、今のところそれらは皆浅く、中には何も無い。唯一見つかったのは、何かの足跡と漂い出る悪臭。 その臭いにうんざりしつつ、かえでもまた、超越聴覚にて人の気配を探らんとしていた。どこかに、必ず手がかりがあるはず。が、彼女の強化された聴覚もまた、何かを聞き取る事はかなわなかった。 霞澄もまた、周囲への注意を怠らず、二人につき従う。彼女の銀色の瞳が、何かを見つけ出さんとあちこちへと視線を向けていた。 「どこかに、手がかりがあるはず。でも、どこに‥‥?」 かえでがつぶやいた、その時。 「? ‥‥これは?」 カンタータの蝶、ないしはその視界に、「それ」を捕らえた。 どうも、眠い‥‥いや。 というか、ぼうっとする。なんというか、妙な心地よさを覚えてしまう。 かえで達三名が森の奥へと向かい、半刻ほどした頃。心眼を用い、冬馬は周辺へと目をやっていた。いち早く脅威を発見し、それに対しすぐに対処できるようにしようと考えての事だ。 「ん? あれは‥‥?」 そして、彼の視界に。それが入ってきた。 暗くて判然としないが、それはまさしく、女性の姿。それも、かなり美しいと思わせるような輪郭を持っている。 同時に聞こえてくるのは、何かの旋律。 いや、これは‥‥歌? 見ると、隣に立つ源二が、少しばかりぼうっとした表情を浮かべていた。まるで、居眠りをする寸前の子供のように。 後ろを振り返ったら、リィムナが小さな何かを懐から取り出し、口にしてる様子が見えた。それをジナイーダにも薦めている。 「冬馬さん! 源二さん!」 駆け寄ってきたリィムナが、赤い色の何かを、二人の口の中へと入れた。それを噛んだ、次の瞬間。 「‥‥ッ!」 激痛とも、高熱とも思えるほどの辛味が、冬馬の舌を襲った。リィムナは干し唐辛子を、彼の口へとねじ込んだのだ。 が、その強烈な辛味は、冬馬の目を覚まさせてくれた。 「なっ、なんだ!?」 「しっかりして!」 「え? あ‥‥」 そうだ。自分も「それ」を見たとたん。 あれが聞こえてきた。それを聞いているうちに、ぼうっとなってしまったのだ。 「ああ、すまない。もう大丈夫だ」 しかし、約一名はそうではなさそうだ。 「お‥‥俺は大丈夫‥‥じゃないかも‥‥」 源二はひいひい言いつつ、真っ赤になった舌を出して口中の辛味を消そうとしていた。 「‥‥くそっ、あいつにしてやられたらしいな。俺に見られていたから、あいつは『歌』を使ったのか?」 「あいつ? 冬馬さん、何か見たの‥‥?」 「ああ、実は‥‥」リィムナの質問に答えようとした彼は、すぐにそれどころではなくなってしまった。 「アヤカシよ!」 ジナイーダの声が、魔の森内に響いた。 「これは‥‥春乱さん?」 そこは、ひときわ大きな木の根元。巨大な化け物が立ち尽くして、そのまま固まったかのような大木の根元に、それはあった。 そこにあったのは、遺体。服装や見た目から、その人物が春乱だとわかった。腐乱してはいるが、まだ完全には崩れていない。吐き気をもよおさせる腐臭が、辺りに漂っていた。 「‥‥両足が折れてます。きっと、動けなかったんでしょう」 遺体をあらためた霞澄は、かぶりを振った。 「そうみたいだね‥‥ん?」 カンタータが、遺体の手に注目した。何かを握り締めているのに気づいたのだ。 「何かしらね?」 「中に何か書かれてる。‥‥手がかりかしら?」 それは、巻かれた紙だった。それをとりあげ広げてみると、ひどく乱れた字がびっしりと埋まっていた。 それを読もうとした、その時。 「「「!」」」 全員に、緊張が走った。アヤカシの群れが、そこに現われたのだ! 荷車は三台。それが、縦に並んでいる。 ジナイーダは、その右側面に立ち、周囲を警戒していた。そしてその時には、左側面に冬馬、リィムナ、源二が居た。 アヤカシ・土蜘蛛の群れは、その左右の側面から、まるで挟み込むようにして出現していた。数は四体。うち三体は右側から、一体は左側から迫り来ている。 まるで、森の入り口で倒したアヤカシの敵討ちをするかのように、そいつらは吼えていた。 「たーっ!」 飛び掛った、土蜘蛛の一匹。しかし、それは刀を抜いた冬馬が迎え撃つ。 勇敢なる志士が振るった、鋭き刃の刺突。それは土蜘蛛の脳天を突き刺し、引導を渡した。不気味な唸り声をあげつつ、土蜘蛛は昇天し、霧散する。 「ジナイーダ!」 振り向いたリィムナ、冬馬の視線の先には、三匹の土蜘蛛に襲われる仲間の姿が。 だが、ジナイーダは己の精霊武器をかざし、それに対抗していた。その先端から放たれるのは、炎のように燃えあがる冷気。 「ブリザーストーム!」 先刻のリィムナと同じく、彼女もまた土蜘蛛どもへと吹雪をぶつけたのだ。おぞましき怪物どもは、仲間達の後を追っていった。 「はーっ!」 かえでの武器「八握剣」が振るわれ、土蜘蛛の一匹、ないしはその足一本が切り払われた。 が、そいつは三匹の仲間と共にひき下がり‥‥下生えの中に隠れた。カサカサと言う音が、土蜘蛛の存在を示す。少なくとも、やつらは逃がしてはくれないだろう。 かえで、カンタータ、霞澄は、大木を背にして、四匹のアヤカシへと注意を向ける。 カンタータは、片手剣カッツバルゲルを、そして霞澄は杖「榊」と刀とを装備している。 しかし、カンタータは傷を負っていた。先刻に不意打ちを喰らい、少しばかり負傷したのだ。 「どこから‥‥どこから来る?」 やつらのカサカサという足音が消え‥‥次の瞬間。 下生えから、土蜘蛛は跳躍していた。そして空中から、そいつらは霞澄とカンタータへと襲い掛かる。 が、霞澄は攻撃の用意ができていた。カンタータもまた、待ち構えていた。 「精霊砲!」 霞澄の充填された精霊力が、土蜘蛛へと放たれる。白き巫女が放った攻撃は、土蜘蛛どもを完膚なきまでに吹き飛ばし、叩き潰した。 「吸心符!」 カンタータもまた、式を飛ばす。それは土蜘蛛に張り付き体力を吸い取ると、カンタータ自身の体力を回復させた。 更に土蜘蛛へ、かえでの八握剣が放たれる。刃が食い込み、三匹目が息絶えた。 残るは一匹。それも、先刻に足を一本失った土蜘蛛。 そいつは躊躇するような動きを見せ‥‥開拓者へと向かっていった! が、カンタータの吸心符を受け、かえでの一撃が決まり‥‥事切れた。 蒲生商店。 蒲生譲二郎へと、開拓者達は事の次第を説明していた。 「‥‥そうですか。環蜀は見つかりませんでしたか‥‥」 「春乱さんの遺体は、松明を使って荼毘に付したわ。で、見つけたのがこの巻物」 かえでは、蒲生へとそれを手渡した。 「中を読ませてもらいました。それによると‥‥」 それは、春乱が死ぬ間際に書き残した遺書だった。 『‥‥元也と自分(春乱)の思いつき、薬を盗み金にするのはうまくいくはずだった。けど、環蜀のやつがお宝の地図を持っていると聞いたから、わざわざ計画を変更したんだ。薬を地図と交換すれば、これ以上は追求されないだろう。そう思っていたのに‥‥』 『‥‥この地図、本当にお宝の隠し場所を記してるのか? 元也が蘭厨ってやつから奪ったのに、嘘だったら大損じゃないか。環蜀のやつ、これを魔の森の近くで、美女からもらったとかいうけど‥‥』 『‥‥畜生、騙されたよ。あいつ、あたしらを‥‥』 「‥‥ここで終わっています」 つまり、環蜀が「宝の地図」を持ち込み、それを使って元也と春乱とをたぶらかした張本人だということだ。 しかし、その地図は「森の中の『美女』からもらった」という。 「冬馬様が見たという、森の中の女性に関係あるのでしょうか?」 蒲生の言葉に、開拓者達は確たる答えを返す事はできなかった。 しかし、次はこの答えを見つけてみせる。そのように心を新たにさせる開拓者たちだった。 |