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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「いよいよ準備が整った。これより、我が領地を取り戻す!」 凛とした装いで、小柄な姿を戦装束で包んだ少年はそう宣言した。 彼の前には、集った兵たちおよそ50名。 最初の依頼より一年の時を経て、ようやく準備が整ったのである。 目標は、喪ったかつての領地。狙うは、そこに巣くった鬼の首。 開拓者達にも協力が要請され、いよいよ次なる作戦が動き出すのであった。 領地の奪還を正式に認可された少年領主の名は、葉山 雪之丞(はやま ゆきのじょう) 現在12才、両親は領地がアヤカシに奪われた際に没したため、すでに領地を相続。 10年前に領地が滅んだ際は赤子であったが、現在は特例で元服を済ませたとのこと。 昨年、喪われた領地が魔の森縮小と共に、奪還可能と判断され、開拓者が調査に赴いた。 それから一年、少年領主はその教育役の老家臣とともに、家臣団を作り奪還の準備を進めたのである。 そして、今回ある程度の人員が集まり、敵の動きも判明したため依頼が出されることとなった。 今回、開拓者の仕事は対アヤカシ戦闘の専門家としての働きだけではない。 戦闘経験が豊富であることを見越して、戦場での指揮官としての働きも期待されているのである。 集められた兵達は、新たな領地を奪還したときにそこに住まうことを考えている。 つまり、喪われた領地は新たな開拓地となるということだ。 そのため、集まったのは歴戦の兵士というよりはまだ経験が浅い若者たち中心である。 武家の次男三男や、食い詰めた浪人が新たな領主の元で取り立ててもらうために集まったのだ。 そうした者たちを指揮し、鬼が巣くう城を解放しなければならない今回の依頼。 さて、どうする? |
■参加者一覧
緋桜丸(ia0026)
25歳・男・砂
喪越(ia1670)
33歳・男・陰
月酌 幻鬼(ia4931)
30歳・男・サ
緋宇美・桜(ia9271)
20歳・女・弓
和紗・彼方(ia9767)
16歳・女・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔 |
■リプレイ本文 ●戦いに向けて 「先制攻撃の時に火矢を使用、と‥‥雪之丞。見取り図を取ってくれ」 「うむ。これが調査を元に書き直した現在の見取り図だ」 尋ねた緋桜丸(ia0026)に、少年領主は地図を手渡して。 現在、開拓者と兵達は領地近くにて布陣中。領主の天幕の中では、作戦の調整も最終局面のようであった。 「火矢を使うに当たってだが、砦は延焼に関して大丈夫なのか?」 「それは‥‥ま、孫市! え、えん‥‥しょう? そのえんしょうとやらはどうなのだ?」 「‥‥坊ちゃま、軍学も頑張りませんといかんですぞ」 と、ちょっと老家臣に釘を刺されつつ、 「砦の各施設は一部に火がついたとしても、延焼しないように作られておられたはずです」 「なら被害が拡大しすぎることは無いか。だが敵に取られたとはいえ仮にも故郷。火攻めは良いのか?」 緋桜丸の言葉に、孫市が雪之丞少年の方を見返れば。 「‥‥むー‥‥確かに惜しくもあるが、何よりもまずアヤカシの排除が先決だ」 と、精一杯威厳を見せようと胸を張る雪之丞。 「それに前回の話では、手入れもされず荒れ放題とか。ならばたとえ燃えたとしても再建が楽ではないか!」 と笑顔を見せたり。そんな様子を見て、ならばと緋桜丸は再び作戦細部の調整を進めるのであった。 どうやら、緋桜丸が今回の前線指揮官役といった感じなのだろう。 その対面で、兵士たちの名を記した一覧表を見ているのは緋宇美・桜(ia9271)。 「とりあえず、弓隊は五人一組に分けて配備と‥‥弓隊の集中運用が課題だと思うのです」 こちらは弓隊の指揮、いくつかの策をすでに立案済みのよう。 実は、若輩であることを理由に兵に受け入れられるかどうかを心配していたようだが。 「緋宇美殿は、すでに弓部隊からは信頼を得ているようですから、心配ないですぞ」 孫市が言うように、組分けとその運用において緋宇美の案が評価を得ているようで。 「でも、血気盛んな人ばかりかと思いましたが、若い人も多いんですね」 ふと、緋宇美が視線を向けた先は、明日の決戦に備えて準備を進める兵士たちだ。 実のところ、若輩だと謙遜する彼女よりも若い兵士たちが大勢いるようで。 そんな緋宇美の言葉を聞いて孫市が、 「‥‥アヤカシとの戦乱で生まれた家を失った者や、戦乱から逃げ延びた者が多いからかもしれませんな」 ぽつりと零した言葉に、緋宇美も成る程と静かに頷くのであった。 時刻は夕暮れ。開拓者と兵士たちは、明日に備えて最後の準備をしていた。 こういう時、重要なものは士気である。 戦いを前に緊張が高まり、不安定になる瞬間。だがそれを逆に奮起の時とすれば軍は強くなるのだ。 「おう主等、主等がここで求める者は何じゃ? 金か? 名誉か? 義か? 欲しければくれてやるわ!」 そんな兵士たちの前で朗々と声を上げている偉丈夫が1人。月酌 幻鬼(ia4931)であった。 指揮官役の緋桜丸も大柄であったが、月酌はそれに増して容貌魁偉だ。 自らを鬼と宣う月酌の檄は良く響いた。 「食うために突け、栄誉のために斬れ、仲間のため射れ、今の死生観なんぞただの塵じゃ」 少数とは言え軍勢は軍勢。それを前に鼓舞激励する月酌。 「明日の己を生かすために今日の己を喰らえ。このまま踏ん反り返ってる彼奴等をこのまま黙ってられるか?」 否! と方々から上がる声に深々と頷く赤鬼、 「‥‥よいな、ならば城奪じゃ!」 応! と上がる鬨の声。それを満足げに聞きながら、 「ふむ、寄せ集めの兵で城攻めか‥‥撫で切り根切りは楽しみじゃ」 にやりと微笑む月酌であった。 そして、そんな盛り上がりの中にあって、わぁと目を瞬かせていた少女が1人。 「凄い声‥‥いよいよ奪還作戦なんだね。あれからもう一年近く経ってたんだ‥‥」 和紗・彼方(ia9767)は、月酌の檄を聞きながら思わず物思いにふけっていたのだ。 そこに数名の兵がやってきた。 「ん? どうしたのかな」 「はっ、月酌殿や緋桜丸殿のお達しによれば、明日我々シノビ衆は和紗殿の指揮の下動くとのことで‥‥」 「って、ええーっ! ボ、ボクには指揮なんて無理だよ‥‥まだまだ駆け出しだもん」 大いに慌てる和紗。そこに丁度良く雪之丞に緋桜丸、そして檄を飛ばし終えた月酌の姿が。 「あ、丁度良いところに葉山様!」 「むっ? 和紗殿‥‥い、如何したかな?」 様付けで呼ばれて、照れ照れと赤くなりつつ雪之丞が応えれば、 「みんなと一緒にがんばるから、指揮官じゃなくてもいいかな? 葉山様」 その言葉に雪之丞は、どうしよう? と緋桜丸や月酌に顔を向ければ、 「ふむ、俺はシノビ衆5名と身軽な兵を連れて行くつもりなだけだからな」 と月酌。その言葉を聞いて、兵士の一覧を見ながら緋桜丸は和紗に 「なら指揮官としてでは無く、同行しシノビの一員として月酌の補助を頼めるかな?」 と笑顔で伝えれば、それに和紗はうん、と応えるのだった。 そして、これぐらいの人数にとって一番良い団結方法。それは集まって盛り上がることだ。 兵士たちも、命を預ける仲間として開拓者には信頼を向けている。 というより、実際の所は信頼するしかない、というところだろう。 そんな中で、逆にちょっとばかり周りが心配している相手が1人。 「雪之丞さん大丈夫! 絶対、鬼をやっつけるからね!」 輪の中心で、少年領主・葉山雪之丞あいてにそう声を上げている少女はリィムナ・ピサレット(ib5201)。 なんと、雪之丞よりも年少のちびっ子であった。 「でも、鬼の軍勢か‥‥うちの姉ちゃん、たまに鬼に見える時が‥‥」 「む、ならば此度のアヤカシたちとどちらが怖いのだろうか?」 雪之丞がそんな風に問いかければ、真剣に悩んでみたりするリィムナ。 そんな様子に一同は笑いつつ、時は過ぎていくのだった。 ●戦いの朝 早朝、兵士たちは戦いの準備に余念が無かった。 有る者は、慣れた様子で具足を整え、若い兵士は緊張に青い顔をしながらも、心を奮い立たせて。 いよいよ開拓者達の渾身の作戦が始まるのであった。 「準備に一年、若い身空で大した執念だわな。数では四倍以上の相手に虚仮の一念岩をも通すか‥‥」 まず移動を始めたのは喪越(ia1670)だ。 率いるのはたった5名の歩兵たちだ。ただし、戦慣れした練達の兵士を回してもらったのは理由があった。 「‥‥ま、乗りかかった舟だ、その大博打、ノったぜ」 そう告げて出立した彼ら一団の目的はいわゆる遊撃戦だった。 不意打ちで、本隊とも陽動部隊とも違う第三の部隊として行動する予定のようで。 ただし、あまり本隊との連携は取れなかったよう。基本は独立友軍の形となったようで。 「さて、こっちの博打は当たるかどうか‥‥兵士諸君も肩の力を抜いて〜♪」 にやりと不敵に笑う風来坊は、いくつかの策を脳裏に浮かべつつ、ただひっそりとすすむのだった。 そして、同じく先行して行動を始めたのは月酌と和紗の部隊だ。 今回の戦闘に置いて、本隊と連動するいわゆる助攻役が2人の部隊だ。 シノビ衆に投擲兵装の歩兵を3名ほど追加したこの部隊、狙いは北からの潜入。 「それじゃ、あたしが先導するね。今回は巫女さんがいないから‥‥怪我には気をつけてね?」 心配げに隊の兵達を見る和紗を先頭に、10名の小隊はひっそりと侵攻を開始して。 「命は大事に‥‥引き際を見極めて引かないと駄目だからねっ」 「応とも。隊の者は死なせない、決してな」 そう請け負う2人は、小隊一丸となって砦の後輩に回り込むのだった。 そして、砦の正面。領主雪之丞に孫市は布陣後方にリィムナと共に。 舞台中央には弓隊、弓は歩兵と組まされ小集団を形成しつつ、弓隊の長である緋宇美の指示を待って。 そして、布陣の先頭には悠然と刀を抜き放って構える緋桜丸が。 この規模の侵攻であり、すでに小鬼たちには気付かれてしまったようだ。だがそれがどうした。 「お山の大将さんよ。その薄汚い足で踏み躙ったこの土地は、きっちり返してもらうぜ!」 アヤカシ達は、傲慢にも崩れかけの砦の防衛力を使ってこちらに弓を向けていた。 だが、それを怖れることなく吼える緋桜丸。 「さあ、かかってきな! それとも、こっちから行くか?!」 獣が牙を剥くように笑みを浮かべて言い放つ緋桜丸の咆哮に、城門前に集っていた鬼たちの集団が動く。 それと同時に、高々と緋桜丸は吼えた。 「さぁ、戦だ! 1人じゃ出来ない事も、仲間が居れば成せる事を証明しようじゃないか」 そう告げた次の瞬間、歩兵部隊を盾として布陣していた弓・歩兵混合部隊は二つに分かれながら微速後退。 緋桜丸ただ1人におびき寄せられた集団を弓の射程に収めると。 「弓隊構えっ! ‥‥‥射て!!」 緋宇美の矢に誘導されるよう、15名が一斉に射撃を開始。 たったの15? 否、まだ経験が浅くとも弓術士15名の矢は必殺の矢。 敵の先頭を次々に射貫けば、あっというまに敵先陣は満身創痍で動きが鈍る、そこに続いたのは。 「鬼さんこちら〜! メテオの鳴る方へ♪」 彼女は練達の魔術師だ。味方さえ驚くその威力で放たれた火球は敵先陣に直撃。 吹き上がる爆炎。その煙がはれたあとには、瘴気へと還る鬼・鬼・鬼の姿! 見事狙い通りの作戦運び、緋桜丸や緋宇美の策が、それぞれの能力と見事にかみ合ったのである。 戦の趨勢を決めるのは最初の激突だ。だからこそ一番槍が戦場の誉れとされるのである。 ここで敵の出鼻をくじけば、四倍の兵力差なんてなんのその。 もちろん逸る兵士を緋桜丸や孫市が抑えていたからこそ足並みが揃ったわけだが。 そこで緋桜丸は領主に視線を向けた。言わんとすることは一つ、ここが正念場だということ。 「‥‥っっ! 征くぞ者ども!! 今こそこの地を取り戻すのだっ!!」 血が滲むほど唇をかみ締めていた少年領主・雪之丞は声を上げた。 孫市と護衛役の兵と共に、頼もしい戦力としてリィムナを連れて雪之丞が進めば、 「良し、まずは門を確保するぞ! 武功を立てたい奴は俺についてこい!」 緋桜丸は疾駆しつつ眼前に立ちはだかった鎧鬼を、なんと単独で切り伏せる。 その様子を見れば、歩兵たちもさらに士気を上げて。 「弓隊、構えっ! 合わせてください!」 城壁を護ろうとする弓装備の小鬼たちを、緋宇美の指示に合わせて矢の雨が襲う。 そうなれば安全に射程を詰めたリィムナら後衛。 「巻き込まれないようにね! 見張り台にメテオ行くよ〜!」 豚鬼をアークブラストで消し飛ばした彼女は、さらに大技を連発。 小鬼達をかなりの数巻き込んだまま、火球が見張り台を直撃し炎上。 同時に崩れ落ちた見張り台は崩れかけの城壁に倒れ込み完膚無きまでに砕いて。 「一気に進むぞ。火に気をつけて進めっ!」 緋桜丸はついに砦内部に突入。弓隊の援護をうけつつ、一気呵成に勝負を決めにかかるのだった。 一方その頃、北の別働隊は。 「‥‥仲間は呼ばせないよ!」 奔刃術で距離を詰めた和紗が見張りを斬り倒す。別働隊はすでに砦内部に潜入していた。 後に続くのは、月酌と部下たち、だけでなく喪越の姿も。 「いやー、じーさんに一応って頼んでおいたのが役に立ったな」 彼ら遊撃部隊が別働隊援護のための梯子を運んできたため、潜入が楽になったようである。 防衛戦を展開する鬼相手に遊撃戦は意味を成さなかったが、どうにか面目が立ったというところ。 天井裏を案内する和紗、そして彼女たちがたどり着いたのは予定通り、鬼たちの中枢だった。 敵の戦力は厚い。鎧鬼数体に豚鬼も数体。小勢のこちらでは危険だ。 だが退かない。彼らには策があるからだ。 「鬼退治に黒き鬼が参ったぞ!」 飛び出し、轟と剣気を叩きつけつつ首魁に詰め寄る月酌、だが、彼は詰めすぎず距離を保って戦い続けた。 それを援護する喪越、兵士たちも連携し豚鬼相手に丁々発止。 そして、引きつけられた豚鬼と鎧鬼を狙い定めたのは、シノビ衆と和紗だ。 敵の連携が乱れた隙に、天井裏の高所から遠距離攻撃雨あられ、あっという間に倒される鬼たち。 だが、そこまで有利に事を運びつつも月酌は、 「‥‥ここまでだ、退くぞ!!」 軽傷を負った兵達の為か、退きにかかるのだった。 それを見て、鬼たちに迷いが生じた。今一気に攻めれば‥‥だが、狙いはその迷いだ。 「奇襲ならぬ、鬼襲は上手く行ったようじゃ。あとは任せたぞ。雑魚はこちらが引き受けた!」 月酌が剣気を放つと同時に、正面から突破してきたのは、緋桜丸率いる兵士たちであった。 緋宇美が率いる弓隊は、火矢を上手く扱い本軍を追う鬼たちを外に釘付けにしていた。 同時に、少年領主も戦場にあって兵士を鼓舞。 孫市に護られながら時には刃を振るい懸命に城門を守りきった。 そこで猛威を振るったのは矢の集中攻撃とリィムナの魔法だ。それぞれが的確に敵を痛撃。 見事に敵の作戦系統は混乱したようで、緋桜丸率いる兵士たちの突入成功へと結びついたのだ。 「決して1人で先行するな! 複数で対処し、別働隊とも連携だ!」 指示を飛ばす緋桜丸に応え、兵達は小集団に別れて鬼に対処。 シノビ衆が高所を確保しつつ援護、そして強敵は月酌の刀の錆に。さらには喪越は、 「死んだらそこで終わりだからな〜」 と飛ばした治癒符は貴重な回復手段。 そして、炎がちらちらと迫る中、対峙する獄卒鬼と緋桜丸。 「俺が相手だ。かかって来な!」 その挑発に、鬼の大将は傲然と金棒を振るって緋桜丸を打ち据える。 体を開いて躱す緋桜丸。流れる髪が数本、金棒の剛風でちぎれる。 緋桜丸の左手には燐光を放つ刀、それがちらりと視界の端で泳いだ瞬間、獄卒鬼の足に衝撃。 地面に刀で足を縫い止められたことに気付いた獄卒鬼、とっさに引き抜こうとするがもう遅い。 のど元に炎を纏った緋桜丸の刃が迫り、一閃。 鬼らは大将を喪い、殆どが撃たれ、あとは野に消えていくのだった。 鬼は、その体力と数で押す戦い方を得意とするアヤカシだ。 混乱の虚を突かれ、大群も端から潰され、そして鬼の大将も敵に囲まれた討たれたこの状況。 完全に開拓者の作戦勝ちであった。 ●戦い終えて 「ふむ、やはり城は燃えてこそ、じゃな」 と剣呑な事をいう月酌。一行はその後砦を無事脱出した。 怪我人は多く出たが、なんと死者は無し。凄まじいほどの戦果であった。 もちろん、この後は論功行賞があるのだろう。すでに立候補している者もいるようでもちろん認められた。 だが、正式な論功行賞はまだしばらく先になるようだ。 燃え落ちる砦を前に、少年領主は兵達と開拓者に感謝の意を伝え、 「‥‥この地を取り戻せたのは、貴方たちの働きによるもの‥‥本当にありがとう!」 涙を浮かべて、頭を下げたのだった。 |