鬼の棲む城 その壱
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/11/11 20:05



■オープニング本文

 理穴の復興はゆっくりと、だが確実に進んでいた。
 大規模な戦いによって、理穴の魔の森の原因であったアヤカシは討たれ、魔の森は縮小しつつある。
 だが、アヤカシがキレイさっぱり消え去ったわけではない。
 縮小しつつあると言っても未だなおアヤカシの被害は絶えず、戦いは続いているのだ。

 そんな理穴の森の中、そこには小さな城があった。
 低い山の上に建てられたこじんまりとした城は、かつてアヤカシに対する防衛拠点で。
 しかし、その周囲はすでに魔の森のまっただ中。今は寄る人もおらず荒れ放題である。
 山の麓に掘られた堀の水は涸れ、かつては漆喰の塗られた壁も朽ちていくだけ。
 しかし、そこを取り返そうという動きがあった。
 十数年前に魔の森に飲まれたこの地域、すでにその領地を治めていた領主は死んでいる。
 その地から民を逃すために、最後まで闘って城と運命を共にしたのだという話である。
 だが、残された子孫は、かつて自身のものであったその場所を取り返そうというわけで。
 そのために、かつては領地の中心地であったその城をまず手始めに取り戻そうと言うわけである。

 開拓者達の不断の努力により、すでに周辺の魔の森は縮小傾向にある。
 だが、その城にはやっかいなアヤカシが住み着いているようであった。
 強力な鬼系のアヤカシである獄卒鬼と呼ばれる強力なアヤカシが、なんとそこを拠点にしているとか。
 単独でも危険なアヤカシであるが、多くの小鬼たちを従えて周辺一帯を襲っているようで。
 城の奪還を前に、まずその鬼を滅ぼすのが先決となったわけである。

 危険な敵を相手にしなければ行けない上に、城を攻めなければ行けないという難題。
 だが、ここで開拓者は臆するわけにはいかないのだ。
 知恵と技の限りを尽くして、この難局を乗り越えねばならない。

 さて、どうする?


■参加者一覧
緋桜丸(ia0026
25歳・男・砂
龍牙・流陰(ia0556
19歳・男・サ
紬 柳斎(ia1231
27歳・女・サ
喪越(ia1670
33歳・男・陰
露羽(ia5413
23歳・男・シ
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
緋宇美・桜(ia9271
20歳・女・弓
和紗・彼方(ia9767
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●林の中の探索
 日中でもやや薄暗い森の中の小道を進む一行があった。
 彼らが向かう先は、理穴の古い城跡だ。
 かつては人が住まい、それなりに栄えていたはずの痕跡。
 そこは今や、人類の敵であるアヤカシの巣窟となっているのである。
「かつての英霊が眠る城、か。そのようなところを鬼如きにくれたままというのはやはり勿体ないな」
 透徹とした蒼い瞳を行く先に向けて、呟くのは紬 柳斎(ia1231)。
 彼女は一行の先頭を進んでいた。いつ敵が来るか分からない状況で、サムライら前衛は先導者向きなのだ。
 同じくサムライの龍牙・流陰(ia0556)は、紬のそんな言葉を聞いて、頷いて応える。
「そうですね。アヤカシに奪われてしまったこの土地は、有るべき人々の手に返さないと‥‥」
「‥‥うむ、英霊が安らかに眠れるように、早く取り戻したいものだ」
 そんなことを静かに言いながら、現地へと近づいていけば、やっと小さな峠を越えたようで。
 不意に眼前に開けたのは、森の中の窪地に広がる古い村のあとと、その先にある小さな城だ。
「んー、前はアヤカシから守るお城だったのに、今はアヤカシの根城かぁ。何か、ちょっと複雑な気分だね」
 和紗・彼方(ia9767)はそう言いながら、荷物から周辺の地図を取り出して。
「さて、あの城を取り戻すには鬼退治しないとね。そのためにはまず敵を知るところから」
 一同も頷きながらそれぞれの地図を引っ張り出して。
「まずは情報収集だね。がんばろー」

 まず、一行はそれぞれ数人ずつに別れて、それぞれ周辺情報の調査を行い始めるのだった。
 その彼らが最初に気付いたのは、小鬼ら低級のアヤカシの多さである。
「こそこそ隠れて何かをするというのは‥‥こう‥‥何というか、性に合わないのだが」
 苦笑しながらそう思いつつ、静かに茂みの中に潜んでいるのは緋桜丸(ia0026)だ。
 そんな彼の眼前にやってきたのは小鬼の集団だ。
 どうやら鬼の棲む城の周辺には、こうした鬼の小集団が大勢いるらしい。
「‥‥しかし、今回は大事の前の小事。油断なくきっちり行かせてもらうとするか」
 そして、茂みから緋桜丸は飛び出した。
 向かうのは豚鬼を先頭に、5匹の小鬼で構成された一団だ。
 すれ違いざまに小鬼を2匹、両手の刀で斬り飛ばす。そして豚鬼にまっすぐ向かって接近。
 途中にいた小鬼を蹴りとばし、そのまま豚鬼に両手の刀で二重の斬撃。
 すさまじい切れ味の刀、乞食清光に続いて放たれた鋭い一撃、刀「蛍」は淡い燐光で斬閃を残して。
 そして、蹴り飛ばした小鬼が起きる前にとどめの一撃。
 あっというまに、一団は壊滅したのだった。
 だが、彼らの行動はあくまで秘密裏な探索で、2匹の小鬼が走って逃げようとしていたのだが。
 逃げながら仲間を呼ぼうとしていた小鬼は、背後から飛んできた矢に射貫かれてあっさり倒されたのだった。
「気付かれなかったみたいですね。さすがです」
 ひらりと木の上から降りてきたのは緋宇美・桜(ia9271)だ。
 緋桜丸と一緒に行動していた彼女は、そう言いながら周囲を見回して。そんな彼女に緋桜丸は
「それで、周囲に道は見付かったか?」
「はい、どうやら鬼たちが使っている獣道みたいなところがいくつか見付かりました」
 そういって彼女は地図にいくつか線を書き込んだのを見せて。
「小鬼を中心に周囲を見回る小集団を幾つも派遣して居るみたいですね」
「‥‥そうか、用心深いやつのようだな。まあいい、もう一つ二つ集団を潰しながら情報を集めようか」
 そんな緋桜丸の言葉に、静かに緋宇美は頷くのだった。

「‥‥双方引かず、か。憎しみの連鎖は因果なもんやね」
 ぺたぺたとなぜか泥っぽい色に顔を塗りたくりつつ、喪越(ia1670)はそう呟いて。
「ですが、周辺に鬼の被害も出ているようですし、大きな害になるのは時間の問題でしょう」
 応えたのは露羽(ia5413)だ。彼女は周囲を警戒しながら、思わず喪越の言葉に応えたようで、
「やはり、ここは人が治めねばならぬ土地だと思います」
「‥‥ふむ、この地に渦巻く戦の痕は、俺達に何を訴え掛けるのか‥‥」
 珍しく、静かにそう呟く喪越であったが。
「‥‥な〜んちゃって。所詮は浮世よ」
 そしてケロッと笑みを浮かべるのだった。
 そんな喪越に、声をかけたのはブラッディ・D(ia6200)だ。
「ま、とりあえず、先ずは敵を知ることから、かな。大暴れは後のお楽しみーってことで‥‥」
 そういってふと振り向いたブラッディは喪越の顔に気がついた。
「‥‥‥‥喪越、なんだその顔?」
「うふ、アチキって綺麗?」
 鏡から顔を上げた喪越の顔は、手作りの迷彩模様に彩られていたのだった。
 ところどころからつきだした怪しげな葉っぱや木の枝で、さながら植物の精か、新種のアヤカシか。
 そこにちょっとした偵察から戻ってきた露羽もぎょっとしたようだが。
「‥‥えっと、とりあえず、偵察を始めましょうか‥‥」
 硬い笑みをにっこりと浮かべつつ露羽がそう言えば、一行も探索を始めるのだった。

●城への潜入
 一行が何度かに分けて、周辺を探索した結果、いくつかの事実が判明した。
 城には強力なアヤカシが存在しているらしく、周辺に多くの鬼系アヤカシが集っているようだ。
 しかし、どうやら前情報よりも大分鬼の数は増えているようであった。
 この場所は、かつて魔の森の中にあったために、周辺に人里は無い。
 しかし、こうした勢いでアヤカシが増えていけば、いつの日かそれが人里へ溢れるのも時間の問題だ。
 アヤカシ達は、今は周辺の動物らを襲ったりしているようだ。
 しかし、志体を持つかれらのような人間以外に、アヤカシに勝るものはそうそういないわけで。
 たとえ弱い小鬼らだけでも、数が集まればかなりの脅威になるのは目に見えている。
 ということで、彼ら開拓者は決定的な情報を得るために、危険な作戦をとることにしたわけであった。
 それはシノビ以外の開拓者達が囮となっての強行偵察だ。
 次の機会に、敵の首魁である獄卒鬼を討つために、なんとしてもその情報を得る必要があった。

 城の周辺の情報はある程度あつまった。
 どうやら、小高い丘の上にあって周辺を見下ろせる好立地の城だが、すでにかなり傷んでいるようで。
 城は南方に向けて入り口が設けられ、基本的にそこ意外には進入路はない作りである。
 およそ三段に分かれて城壁が設けられ、狭い道を進まねば城の南の入り口からは進めないようだ。
 しかし、すでにそれぞれの壁にあった門は破壊されるままに朽ちているようだった。
 そして同時に城の北方の壁に数カ所、破壊されたままで放置された場所があるのが発見された。
 入り口は無く、水の無くなった堀を越える必要があるのだが、堀は土砂で埋まっているようで。
 おそらく、城の北方からでも、跳躍力や機動力に長けたものなら侵入が可能だということが分かったのだ。
 これで作戦は決まった。
 正面入り口周辺を移動しつつ、囮の開拓者達は戦闘を行う。
 それと同時に、シノビ2名は城の北の進入路から潜入、獄卒鬼を見つけることとなったのだ。
 そして、いよいよ決行の時間がやってくるのだった。

「やっと大暴れできるな! 次回に備えて、すこしでも数を減らしておこうっ!」
 いの一番に飛び出したのは、ブラッディだ。
 百虎箭疾歩を使って、門番のように城壁前に居た豚鬼に強烈な一撃をぶちかまして。
 そのまま彼女のもとに、仲間たちが殺到するのだった。
「‥‥これでびびってあっさり城を引き払ってくれんかなぁ‥‥」
 一行の中心にあって、援護のために周辺を油断無く見回す喪越は思わず淡い期待をこめてそう言うが。
「‥‥それは難しそうだな。むこうはどうやらやる気のようだ」
 静かに笑みを浮かべて、紬は殲刀「秋水清光」を抜き放つのだった。
 紬と龍牙は並んで、押し寄せる鬼たちを斬り飛ばす。
 やってくるのは殆どが小鬼、時折粗末な武器防具を装備しているものもいるようだった。
 しかし、小鬼程度では彼らの敵にならないようで。
「少しはその強さに追いつけるよう頑張ってるつもりですが‥‥さすがに、まだまだ及ばないようですね」
 太刀「阿修羅」を振るって、豪快に豚鬼を叩き斬った龍牙はそう呟いて。
 見れば、ちょうどやってきていた手練れらしき鬼の一体を、あっさり紬が柳生無明剣の一撃で倒したところ。
 それを見て龍牙は気合いも新たに、果敢な攻めを見せるのだった。

 彼ら囮役の開拓者達は、じりじりと城の前から離れつつ、押し寄せる鬼アヤカシ達を撃退していた。
 ゆっくりと森の中に押されて行っているように見えるのだが、これは実は作戦だ。
「雑魚が‥‥大人しく寝ていろ‥‥」
 緋桜丸は、僅かに先行して森の中の鬼を叩き斬っていた。
 時間を稼ぐのが彼らの目的だ。そのためには退路を確保しておく必要があるわけで。
 緋桜丸や緋宇美が遊軍となって、絶えず退路を確保しつつ戦闘を続けているのだった。

 そして同時刻、2人のシノビはすでに城の中へと侵入していた。
「さて、シノビらしい仕事をするのは久々ですね。気合を入れて頑張りましょうか」
 ひらりと先行するのは露羽、抜足を使って音も立てずに城の中を進んでいた。
 それを追うのは和紗だ。2人は抜足と超越聴覚を使って、静かに進みつつ情報を集めているようであった。
 ちょうど、城の中はかなり慌ただしくなっていた。
 それは、囮役の仲間たちが上手く敵を引きつけていると言うことで。
「(別れて探す? 今なら、大分手薄みたいだし‥‥)」
「(‥‥いや、一緒に進んだ方がいいと思いますわ。ほら、小鬼や豚鬼のうなり声とは違う声が‥‥)」
 超越聴覚を働かせている彼ら2人は、殆ど音も立てずに会話していた。
 すでに城の中は荒れ放題で、ところどころには鬼たちが屯しているようであった。
 しかし、今は囮におびき寄せられて居ないよう。時折すれ違う鬼から隠れつつ奧へと進めば。
 おそらくその部屋は、城主が謁見などに使う広い座敷であったと思われた。
 今は畳も荒れ放題で、見る影もなくぼろぼろになっていたのだが、その奧に大きな影があった。
 2人のシノビは、天井裏を進んでいたのだが、2人は気付いていた。
 そこにいるのが、今回の目標の獄卒鬼であるということを。

 すでに城の内部の簡単な見取り図は完成していた。
 一部、崩れたままになった部屋や、通れなくなった廊下がある以外は、意外と昔の姿を残していたようで。
 どこに兵力が集まっていたかという情報はすでに得ている。
 そうなれば、あとは首魁の獄卒鬼を確認してから去れば良いのだが‥‥。
「‥‥っ」
 思わず息を呑んだ和紗に露羽、かなり場数を踏んだ2人のシノビすら緊張したのだった。
 その手には巨大な金棒が。そして人の倍はあろうかという巨大な身体から発される鬼気迫る迫力。
 アヤカシというものは、それぞれ個体差の激しいものだが、どうやらこの獄卒鬼はかなり強力なようであった。
 その姿と場所を確認した2人は、静かにその場を離れようとして。
 しかし、次の瞬間、獄卒鬼は恐ろしい咆哮を上げて金棒を振るった。
 放たれたのは衝撃の刃。その刃は、シノビ2人が隠れ潜む天井裏の一角を吹き飛ばす!
 2人はすでに咄嗟に、全力疾走しながら呼子笛を高らかに吹き鳴らして。
 三角跳を駆使して、天井まで跳ね上がる露羽に、早駆で先行しながら追いついてきた小鬼を蹴散らす和紗。
 露羽は、刀「血雨」を抜き放ち、文字通り血路を開きながら、
「獄卒鬼‥‥次で引導を渡せるでしょうか。‥‥いえ、必ずやり遂げなければなりませんね」
 そう呟きつつ、まっすぐに集合地点へと向かうのであった。

 呼子笛の音に呼応して、囮役の開拓者達は、緋桜丸が確保していた逃走路を使って急ぎ転進。
 小鬼達の追撃を振り切って、無事一行は合流して。
 彼らは危険な任務から何とか生還し、一路神楽の街を目指して帰路につくのだった。

●悲願に向けて
 そして、神楽の都にて、持って帰ってきた情報を受けとりに、今回の依頼主が彼らと顔を合わせていた。
「‥‥まずは無事に戻ってきてくれたことを感謝致す。此度の働きは、非常に有り難く、これで策も進む」
 深々と頭を下げたのは、まだ少年と言っても良い年頃の男の子であった。
 彼は、城から逃げ延びたかつての領主の息子だという。
 といっても、城から逃げ延びた時は彼はまだ赤子であった。
 十数年を経て初めてかつての故郷を取り戻そうとしているとかで、彼は目に涙さえ浮かべて開拓者達に感謝して。
「‥‥次回は奪還に向けて動くことになるだろう。いま、新たにその地の守りを担える兵達を募っている」
 どうやら、公的にその地を取り戻し領地にすることが認められたようで、家臣団を形成する予定とのこと。
 すでに、使える主を失った者たちや、かつての領地にゆかりのある者たちを集めて小規模な軍団をつくるようだ。
「次で、領地を取り返すために攻勢をかける予定だ。その時はどうかまた力を貸して下され」
 そういって、少年領主は静かに頭を下げるのだった。