外道退治 弐
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: やや難
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/03/29 21:12



■オープニング本文

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 武天のとある街にて、領主の息子が殺された。
 原因は、領主が集めていた手下との仲間割れだというのだが、真相は闇の中。
 その街に巣くっていた恐ろしい獣の片方は、そうして闇に葬られたのである。
 だが、もう一人恐ろしい男が残っていた。
 それは、現在の領主。名君と誉れ高かった先代と比べられ続けたその男はある日を境に豹変した。
 表面上は、理知的で先代の高めた名声を守ることに一生懸命な領主と見える。
 だが、実際は評判や名声がすべてに優先し、他人の意見を容れることのない狭量な男だ。
 さらに、その狭い了見を押し通すための武力が彼の元にはある。
 そのため領主直属の武人の集団の存在は、街の人間にとっては恐怖の象徴。
 武力による恐怖によって街を支配するその領主は、まさしく暴君といえるだろう。

 その領主は、自分の唯一の跡継ぎを失った。
 自分が親と比べられて苦労した経験を、息子にはさせまいと溺愛した息子を失ったのだ。
 すでに自身の妻は息子が生まれたあとに病で亡くなり、それ以降子はいない。
 しかしまだ壮年だとはいえ、すでにこれから新しい子供を作るという気もない。
 なので、かれは別の手に出たのであった。
 彼には、弟がいたのだ。
 自分が家督を継いだときに、弟は身を引いて今は遠方に越したのだが、弟にも家族がいるはずだ。
 血のつながった子供を引き取り養子にすればいい。
 そう考えた領主の行動は早かった。

 今回、開拓者は待たしても秘密裏に依頼を受けることとなる。
 依頼の目的は、領主に狙われている赤子の保護だ。
 偶然、領主の弟の家には、数週間前に生まれた赤子がいるという。
 長らくこの出来なかった領主の弟の家は、それはもう喜びに沸いているとのこと。
 だが、もし領主がそこにやってくれば、自分のこのかわりとしてその赤ちゃんをさらっていくことだろう。
 そんな暴挙はなんとしても止めなければならない。

 さて、どうする?



■参加者一覧
静月千歳(ia0048
22歳・女・陰
シュラハトリア・M(ia0352
10歳・女・陰
風瀬 都騎(ia3068
16歳・男・志
御神村 茉織(ia5355
26歳・男・シ
ブラッディ・D(ia6200
20歳・女・泰
ネオン・L・メサイア(ia8051
26歳・女・シ
猫宮 京香(ib0927
25歳・女・弓
ライア(ib4543
19歳・女・騎
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫


■リプレイ本文

●巡らせる策
「‥‥まだ準備はできんのか!!」
 卓上の器をなぎ倒して吼えるのは領主。
 室内を歩き回りながら不機嫌に睨み付ける視線の先は部下筆頭の大柄なサムライであった。
「はっ、今急ぎ部下全員の装備と糧食の準備をしていますので‥‥」
「食い物の心配などせんでよい! お前等はただ私を守るためについてくればいいのだ!!」
 手にした皿を投げつければそれは部下の額に命中し、流れる血が。
 その血を拭いもせずに部下は、頭を下げて。
「‥‥仰せの通りに。直ちに全員をそろえますので‥‥」
 そういって静かに部屋を出るのであった。
 そして残されたのは領主ただ1人。もちろん部屋の外には護衛役が控えているのだが。
 領主はイライラと部屋を歩き回り続けつつ、自身も刀を差すと武具を整えて、
「‥‥ふん、私が息子と同じように罠にはまるとは思うなよ‥‥返り討ちにしてくれる」
 ぎりりと柄を握りながら、そう言う領主の言葉は小さく消えるのであった。

 だが、その言葉に聞き耳を立てている影が一つ。
「‥‥赤ん坊を攫おうとするたぁさすが外道だが‥‥阿呆という訳でもないか」
 心中でそう呟くのは御神村 茉織(ia5355)、彼は今領主の屋敷近くに潜伏していた。
 警戒が非常に厳しくこれ以上は近づけないという距離ぎりぎりにて、超越聴覚で辛うじて拾った領主の言葉。
 それは、彼が罠があることを警戒しているという事実を告げていた。
 それもそのはず、息子が殺された事件は表向きには、部下との内輪もめによるものとされている。
 だが猜疑心の強い領主だ。そのことに不審を抱いても不思議ではない。
 もちろん、何者が自分を誅しようとしているのか、そこまではとても分からない状況だ。
 だからこそ領主は、こうして厳重に防備を固めた上で、目的を果たそうとしているわけである。
「‥‥しっかし、策を練り直す時間は無い、と。仕方ねぇ、あとは誘い出しと罠の面子に任せっきゃないな」
 慌ただしい領主の館を見ながら、静かに御神村は姿を闇の中に消すのであった。

「条件を満たす場所は‥‥ふむ、このあたりならまず問題ないな」
 呟くネオン・L・メサイア(ia8051)を戦闘に進む開拓者たち。
 まだ朝靄の薄暗がりの中、彼女ら数名の開拓者たちは先行してとある場所へ向かっていた。
 御神村からもたらされた情報と、目的地の場所などから推理しておおよそ彼らが進む道はつかめている。
 20名もの武装集団が急いで進行できる場所はかなり限られており、必ず通るであろう場所が1カ所。
 そこは街道の脇道で人気の無い隘路となっていた。
 見通しが悪く、人通りが少ないため道も悪い。季節柄下草は多いし、木々も多いため射手が配備できる。
 まさしく、求めていたような場所が見付かったわけである。
「早々に息子たちが待っている場所へと送ってやらねばな。京香、罠に取りかかるぞ」
「ええ、外道な人に遠慮は無用でしょうし、罠はがんがんつくっておきましょうかね〜」
 ネオンの言葉に応える猫宮 京香(ib0927)。2人は、その場所に次々と罠を作り始めるのだった。
 といっても、時間はあまりない。
 すでに仲間たちはそれぞれの作戦に従い持ち場について準備を進めている。
 あとは、領主たち一軍を誘い込む作戦さえ成功すれば、開拓者は有利に戦闘を進められるのだが‥‥。
 そこには様々な障害が待ち受けているのだった。

●作戦の穴
 まだ朝も早い時間から街道を進む一軍。
 それは領主率いる武官らの集団であった。
 全員がそれぞれの装備に身を包んだ物々しい集団で、それが急ぎ足で進んでいる。
 領主のことを知る者であればもちろん、例え知らなかったとしてもその剣呑さは分かると言うものだ。
 だから、そんな集団に自分から話しかけてくる者など居ないと思われたのだが。
「‥‥ねぇねぇ、向かう方向が一緒だから連れてってぇ〜」
 そう声をかけてきた少女が1人。見るからに目立つ白い髪に、銀の瞳。
 そして10才ほどに見えるのにもかかわらず、兵にしなだれかかるその様子。
 この非常に奇異な少女は、囮役のシュラハトリア・M(ia0352)であった。
「た、隊長‥‥この子どうしましょうか」
「‥‥‥そんなガキに関わっている暇は無い。捨て置け‥‥」
 困り切った様子の一兵卒の言葉に、部下の長らしき隊長がそう答えるのだが、
「‥‥ふん、まあ待て。もうじき目的地につく、急ぐことはあるまい」
 そこで声をかけたのはなんと領主その人であった。
 じろじろとシュラハトリアを睨め付けるその視線に、シュラハトリアは領主に懐くように身を寄せて。
「よし、休みもそろそろ切り上げろ。急ぐぞ」
 領主の言葉と共に、彼らはシュラハトリアと共に道を進むのだった。
 この時点では、シュラハトリアはその役目の成功を疑わなかった。
 だが、端から罠があるだろうと疑っている領主に対して、この選択は正しかったのだろうか?

 しばらく進む領主たちはまた別の人物たちと遭遇した。
 それは2人旅の途中と名乗った風瀬 都騎(ia3068)とライア(ib4543)。
 確かにジルベリア人であるライアも旅人であれば珍しくない。
「すいません。村への旅路に迷ってしまって‥‥村へ向かうのなら、ご一緒させてもらっても構いませんか?」
 そういう風瀬と静かに頭を下げるライア。
 今回も領主の護衛隊長は難色を示したのだが、
「‥‥ふむ、目的地も近いし、構わんだろう。だが、我々も急いでおるのでな」
 そういって一応同行を許可した領主を、不思議そうにみやる護衛隊長。
 そもそも、普段から他人を虫けらのように扱うこの領主だ。他人と同道するなんて信じられないようで。
 だが、にたりと笑う領主には思惑があったようだ。

 今回、確かにシュラハトリアと風瀬、ライアの三名の囮は罠の場所に誘導するために重要な役割を果たした。
 だが、果たして罠を仕掛けること自体、必要なことだったのだろうか?
 確かに、罠を仕掛ければ数で劣る差を埋めることができるかもしれない。
 しかし逆に、囮を使うということは、囮が危険にさらされ、さらには奇襲があると予告しているようなもの。
 端から警戒していた領主は、すでにこの時点で彼らが開拓者で囮であろうと見抜いていたのだった。
 というのも、旅人を装う2人はまだしも、さすがに色目を使う10才は怪しいわけで。
 さらに、武装した武官20名に臆面もなくよってくる子どもは普通いないはずだ。
 こうした小さな作戦の齟齬が、果たしてどういう形で影響してくるのだろうか‥‥。

●決行
「失敗は、許されない‥‥」
 心の底で、忸怩たる思いを抱えつつ、口中でその言葉をかみつぶす風瀬。
 彼はライアと共に機をうかがっていた。
 綿密な打ち合わせによって、いくつか小さいな合図がライアと風瀬に知らせるのは、罠の場所が近いこと。
 地図を見て、最初に想定してあった作戦の実行場所がもうすぐ近くなのである。
「お、そろそろ来るみたいだね。待ってましたなのだ」
 仕掛けていた罠を仕上げて、静かに移動したのは叢雲 怜(ib5488)。
「おし、それじゃあ俺は後ろに回って潜むとしようか。射線は通りそうか?」
「うん、大丈夫なのだ。セイも気をつけて」
 叢雲が声をかけたのは木の枝を破邪の剣で払っていた笹倉 靖(ib6125)、彼はへらへらと笑うと、
「おうよ。じゃあ、裏に回るのは‥‥俺と千歳だな」
「ええ、参りましょう。関わった以上、きちんと片付けておかないと‥‥」
 静かにそういったのは静月千歳(ia0048)だ。
 射撃武器を構える叢雲やネオン、猫宮は樹上や射撃の通る場所に隠れて静かに待って。
 そして、笹倉や静月はこっそりと身を隠したまま罠に嵌った時に挟撃できる場所に移動して。
 いよいよ準備は整った。あとは風瀬とライアの行動を待つだけであった。

 罠付近までやってきた領主一行と三名の開拓者。彼らは静かに目配せをすると、
「‥‥覚悟っ!!」
 仕掛けたのはほぼ同時、刃を抜いた風瀬とライアの2人はほぼ同時に領主めがけて斬りかかっていた。
 もちろん、それは領主の左右に控えていた護衛に阻まれて。
 護衛たちは、盾を掲げて風瀬とライアの攻撃を受け止めると、他の面々が一斉に殺到するのだが、
 そのための機をうかがっていただけあって、風瀬とライアは一瞬早く離脱。
 あっという間に歩きにくい藪の中に駆け込む2人、その拍子にライアはシュラハトリアを突き飛ばして。
「‥‥くっ、しくじったか‥‥」
「なに、奴らは俺等を捕まえられやしないさ!」
 ライアの悔しげな呟きに、風瀬の挑発、それはまさしく領主の暗殺を狙ったが失敗したという様子。
 ここまでは、開拓者の作戦通りに事が運んだのだった。
 もちろん、領主の言葉を待たずに追う部下たち。そして開拓者達の狙い通り、部下たちは罠にかかるのだが、
「‥‥深追いするな! 攻撃が来るぞ、防御を固めろ!」
 先行した数名の部下が罠にかかったら、当たり前だが罠を警戒して歩みを止めるわけで。
 そこで領主等はほぼ戦力を失うことなく、防御の陣形を組んで。
 そして、シュラハトリアはそこに囚われてしまうのだった。

「ちぃ、外道でも以外と用心深いやつだな、こうなりゃしかたねぇな!」
 咄嗟に行動をしたのは隠れ潜んでいたブラッディ・D(ia6200)だ。
 万が一、誘導に失敗した場合に備えていたブラッディ。一番近くに潜んでいたのでそこから飛び出して。
 同時に、隠れている仲間たちの援護射撃も開始された。
 罠に仕掛けることは失敗し、奇襲という利は無くなった。
 だが、そうだといってここで引くわけにはいかない理由があるのだ。
「人の大事なもんを奪うってんなら、それ相応の対価を払わないといけないよなー‥‥」
 罠に足を取られていた部下の1人に瞬脚で近づくブラッディ。剣の強烈な一撃で昏倒させると、
「‥‥ま、その命で払っちゃう事になるんだろうけどさ? ギャハハ!!」
 哄笑を上げながら、さらに強烈な一撃を防御の陣形を組む前線の兵士に叩き込むのだった。

 乱戦の開始と共に、銃撃や弓を使う面々は移動しながら援護の射撃を行っていた。
「‥‥さぁ『狩り』の時間だ。誰一人として逃さん。此の場で全員地獄に逝け」
 罠の大部分は効果を発揮することは無かったが、まだこちらは全容が知られていないという利がある。
 埋伏りを使って身を潜めながらの射撃は、視界の利かない森の中では効果は大きかった。
 しかし、こういった状況を想定していたのか、防御の固い兵士たちを前に、中々決定打は無くて。
「目標確認ですよ〜‥‥む、捉えたのに、なかなか効き目がありませんね〜」
 乱射をしながら木々の梢を移動する猫宮はそういって眉をしかめて。
「隙あり!」
 だが、そんな苦戦中の中でも、狙いを定める叢雲。
 狙うのは領主ただ1人、首魁を落とせばと狙う銃弾は首領を僅かにそれて。
 だが、急に領主は、部下の1人の首根っこを掴むと自分の横に引き寄せた。
 そこを穿つ叢雲の銃弾。クイックカーブで銃弾を曲げたのだが、それは部下の1人を撃ち倒しただけで。
 なかなか射撃攻撃では防御を突き崩せず、倒せたのも罠にかかった2人と、今の1人だけ。
 そして前衛は縦横に、一撃離脱戦法をとっているブラッディだけだったのだが。
「‥‥作戦は半ば失敗か。だが赤子は護る! 何が何でも、な!」
 蛇剣を抜き放ち、再び戦場に戻ってきた風瀬。
 そして、迂回して別方向から攻めてきたライアも、ソードクラッシュで一気に攻めにかかり。
「‥‥領主が外道な行いをするとは言語道断」
 掲げる大型の両手剣に裂帛の気合いを込めて、果敢に前線を押し込んで。
 だが、相手はまだかなりの数がいる上に、前衛の数は少ない。
 なんとか決定打を決めねばこの状況はひっくり返らないのだろうが‥‥。

「‥‥このままでは不味いな。火を放て、退くぞ」
 周囲を冷静に見ながら、護られていた領主はそういうと松明を手にとって。
 一気に火を付けると、それをなんと木々に向かって投げ放ったのであった。
 それほど可燃物が多い状況でも無いが、さらに松明に火を付けて投擲する部下たち。
 あっというまに煙が充満しはじめ、射撃が出来なくなる開拓者達。
 そのままじりじりと領主等は引き始めるのだった。
 だが、そこで放たれたのは隠れ潜んでいた静月。
 上手く領主等の背後に回り込み、渾身の眼突鴉を放つのだが、領主は部下たちが覆い隠すため狙えず。
 仕方なく部下たちを狙うがやはり決定打にはならない。
 そして、不幸にも背後を攻めようとしていた静月の前には前衛がいなかった。
 斬りかかってくる兵士、それを護ろうと静月と共にいた笹倉がなんとか立ちはだかろうとするのだが。
 さすがに相手は本職の剣士、数合打ち合えば押されるわけで、あわや切られるとその時に、
「‥‥危ないっ!」
 割り込んできたのは風瀬だ。肩口に一撃を食らい倒れる風瀬。
 慌てて風瀬を支えながら退く笹倉に静月。
 ますます周囲の煙は多くなり、じりじりと開拓者と領主らの距離は開く一方で。

 だが、まだ最後に一つ。シュラハトリアが囚われたままであった。
 領主等は防御の陣形を組んだときにすぐさま隊長がシュラハトリアを捕縛。
 シュラハトリアとて練達の陰陽師であったのだが、術を放つより早く囚われてしまえば手も足も出ず。
「‥‥して、この娘はどうしましょうか。おそらくあの一味なのでしょうが‥‥」
 口を塞がれてじたばたともがくシュラハトリアを吊してそう聞く隊長に、領主は一言。
「‥‥斬って捨てよ。餌に使えるかとも思ったがもう利用価値は無い」
 そう言い捨てたのだった。
 刀を抜き放つ隊長。絶体絶命かと思われた次の瞬間。
 部下の中で、一番右往左往としていた1人が突然手裏剣を放つと、刀を抜いて斬りかかった。
 隊長は手裏剣を鎧で受けると、咄嗟に刀を自分の太刀で受けて。
 その部下は、自由になったシュラハトリアを捕まえると、影で兵士を撃ち倒し包囲を破って。
 辛くもシュラハトリアを救い出したその部下は、御神村の変装であった。
 出発時点から入れ替わっていたようで、なんとか最後の瞬間に間に合ったよう。
 こうして、御神村が開拓者達の所に戻れば、木々の火は消し止められていて。
 最悪の事態は免れ、赤子を救うことは出来たものの、彼らは領主を仕留め損なったのであった。

「‥‥領主は逃しましたが、赤子は守れたのですし、領主はまた次の機会に‥‥」
 失意の開拓者を前に、依頼主の代理人はそういって。
「‥‥あんたらは一体? 民衆の味方、とかならいいんだが‥‥」
 思わずそう聞いた笹倉に、その代理人は、
「敵ではない、と言えるでしょう。‥‥また近いうちにあの領主を止めるための依頼をお持ちしますので」
 ではまた、とその男は去るのだった。