【轟拳】二 拳より知恵
マスター名:雪端為成
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/03/29 22:42



■オープニング本文

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 蒼旗軍として名を知らしめ始めた八極轟拳の対抗勢力。
 そのまとめ役、ガランは部下達からの知らせを聞き血が滾るのを感じた。
 それは待ち望んでいた好機到来の知らせ。とある人物の居場所が判明したという情報だった。
 その人物は、ガランたち蒼旗軍からすると喉から手が出るほど欲しい人物なのだ。
 ガランは考える。
 自分たちと志を共にし、一緒に戦ってくれる蒼旗軍の面々。
 彼らの大半は、八極轟拳と戦い滅ぼされた門派の生き残りたちである。
 故にその大半が泰拳士であり、今回は彼らによる奪還は得策ではない。
 なぜなら泰拳士同志の戦いとなるば、お互い手の内は知れているはずなのだ。
 膠着し、時間が掛かってしまうだろう。それは避けねばならない。
 となれば、頼れるのは開拓者だ。
 同じ泰拳士でも、実戦で磨き抜かれた開拓者たちの戦い方は蒼旗軍の者たちとはひと味もふた味も違う。
 さらに、他の職や技を持つ者たちともなれば、様々な戦い方が出来るだろう。
 そう心を決めたガランは、蒼旗軍にとって躍進となり得るこの奪還作戦を開拓者に託すことにした。
 そしてこの依頼が出されたのである。

 依頼の内容は、とある人物を奪還すること。
 人物の名は、グエン(虞鴛)。かつては古い名門流派の一員であった女性泰拳士だ。
 年の頃は20と少し、拳の才は十人並みでさほど優れた拳士でなかったが、彼女には才能があったのである。
 代々名門の流派で学ぶ泰拳士一家に生まれた彼女は、幼い頃から理論書や拳譜を読みあさる子だった。
 付いたあだ名が「拳譜三絶」、綴じ紐が三度すり切れるほどに書を読む奇特な少女だったという。
 彼女には、優れた目があった。人の動きや技を見てその術理を見極める目が。
 さらに彼女には知恵があった。泰国の多くの門派の技を記憶し、術理を比較し分析する知恵が。
 故に彼女は、優れた拳士とはならなかったが、その知識と才覚を買われた。
 あらゆる門派とその技に通じ、技の仕組みと働きを見抜く優れた眼力を併せ持った彼女。

 ……その彼女は、数年前に八極轟拳に囚われ、彼らのために働かされていた。
 優れた拳士を多く知る彼女は、脅されてその知識と才能を八極轟拳のために使わされているのだ。

 彼女を奪還することが出来れば、八極轟拳の内情を知る事が出来るだろう。
 だが、八極轟拳にとっても彼女は得がたい才能であると同時に、自分たちの秘密を知る者だ。
 決して逃がそうとはしないはずである。
 しかし、この期を逃しては機会はない。必ずや彼女を救い出さねばならないのだ。

 さて、どうする?


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
水鏡 絵梨乃(ia0191
20歳・女・泰
朧楼月 天忌(ia0291
23歳・男・サ
羅喉丸(ia0347
22歳・男・泰
鬼島貫徹(ia0694
45歳・男・サ
叢雲・なりな(ia7729
13歳・女・シ
リンスガルト・ギーベリ(ib5184
10歳・女・泰
嶽御前(ib7951
16歳・女・巫


■リプレイ本文


「二人が囚われている場所、正確にはわかっているのカ?」
 見取り図を前に、梢・飛鈴(ia0034)が尋ねると、依頼主のガランが太い指で一点を示して、
「暗号での知らせによれば……ここのようだな。ん? こっちか?」
 地図が苦手そうなガランに、いいから貸しナ、と笑いながら言って写しを受け取る飛鈴。
 ここは、ガランら蒼旗軍の隠れ家の一つ。街道からすこし離れた寂れた宿屋の地下だ。
 飛鈴は改めて地図を確認して、座敷牢の場所に印を付けているとそれを覗き込む羅喉丸(ia0347)。
「ふむ。座敷牢がそこなら、ここから踏み込むのだろうか」
「んー、こちらの方が入った方ガ死角が少なくないカ? ……って、なんダ? その格好」
「一応変装だ……いつもの装備は目立つので、少しでも正体を隠そうと思ってな」
 ふと飛鈴が見回すと、どうやら地図の準備をしている間に他の面々も変装や偽装を進めていたようだ。
「こりゃ、あたしも面をかえていくべきかナ?」
 そんな飛鈴の言葉に、くすりと笑ったのは水鏡 絵梨乃(ia0191)。
「面を被ってる時点で分かりそうだけどね。ボクたちみたいに、何度も八極轟拳と戦ってると」
「ま、こんだけ好き勝手やってたら普通覚えられとるわナァ……なら面外してたらわからんカ?」
 どうだろう? と肩を竦める水鏡に、どうしたもんかと首を捻る飛鈴。
 一見すると暢気そうな準備の時。
 だが依頼を出した張本人のガランは開拓者達が並の腕前ではないと知っていた。
 ガランもかつては一門を率いたそれなりの武人であり、見る目は確かだ。
 だからこそ分かる。年端も行かないように見える彼ら開拓者が、歴戦の猛者であることが。

「……今回は救出作戦か。ま、俺ぁ陽動として存分に暴れさせて貰うぜ」
 体の調子を確かめながら、朧楼月 天忌(ia0291)は言い放つ。
 彼は、少し前に八極轟拳に関わる凶悪な拳士と戦い、死と紙一重の傷を負ったのだが、
「こないだのイカレ野郎につけられた傷も癒えてきたところだしな、腕が鳴るぜ」
 まだ残る傷痕も気にせずに、にやりと頬の文様を歪めて笑う余裕が天忌にはあった。
「ただの無頼の集まりかと思っていたが、なかなかに物の分かる者が多少はいると見える」
 どこか嬉しそうに、喉の奥で笑う鬼島貫徹(ia0694)。八極轟拳を褒めているのではない。
 単に、かの組織が好敵手たり得ると分析して、その結果嬉しいのだろう。
「さて、妾も準備は整ったぞ。少々地味な出で立ちとなったがのう」
 幼い少女としか見えないリンスガルト・ギーベリ(ib5184)。
 彼女も今日は黒尽くめ。肌にも刀身にも炭を塗り込む念の入れようで。
 彼女がそうして頬に炭を塗っているのは、ともすれば遊んでいるように見えかねない。
 だが、ガランは彼女の一挙手一投足に、優れた武人、拳士としての技量を感じ取っていた。
 そして準備が整った一同の元に、外から新顔の開拓者が飛び込んできた。
「ん、下見をしてきたよ! 今日もいつもと同じ警備体制。大丈夫、いけそうだよ!」
 こちらも元気な少女のなりな(ia7729)。優れたシノビである彼女にとっては情報収集はお手の物で。
 こうして準備は整った。
 一同が静かにガランを見つめると、彼は静かに抱拳の礼をとって、頼むと一言。それに開拓者が頷いて。
「……では、参りましょうか。皆様」
 嶽御前(ib7951)が仲間たちを見上げて、そう尋ねれば彼女の頭をぽふっと水鏡が撫でて。
 そして開拓者達は夜の闇と滑り出ていた。
 目的地までは馬車、距離はそんなになくすぐに付くはずだ。そこからそれぞれが徒歩で接近。
 馬車は帰りのために待機させる手筈となっており、こうして準備は整った。
 あとは目的を果たすだけである。


 開拓者達は幾人かが闇に紛れて消えていった。
 だが、闇に紛れず堂々と正面から進む者たちがいた。
「灯りはこれくらいでよろしいですか?」
 なんと、松明に灯りを点して尋ねる嶽御前。だが、そんな彼女に男2人は頷いて。
「問題ない。おそらく我々の接近に気付けば、すぐさまかがり火が増えるだろうしな」
「そういうこった。それじゃ、ちと派手に噛ましてやろうぜ、鬼島の旦那! ……嶽は支援、頼んだぜ!」
 ずらりと刀を抜き放つ天忌と鬼島。
 この3人は、正面からの囮役として殴り込みをかけたのだ。
 恐れもせずに火を点すのは、陽動として目立つためだ。
 もうじき気付かれるだろう。だが、そこでふと嶽御前に疑問が浮かぶ。
「万が一のことを考えて、蘇生のための術を用意してきましたが……大丈夫でしょうか?」
 嶽御前が心配しているのは、陽動や救出作戦が敵に知られたら、囚われの2人が殺されはしないかということだ。
 だが、それに首を振る鬼島。
「確かにその可能性はあるだろうが……俺が思うにその目は非常に少ないな」
「ん? そうなのか……そりゃまたどういった理由だ?」
 天忌の疑問に一つ頷くと、のしのしと歩きながら鬼島は続ける。
「今回のこの場所には、掌門か上位の人間の指示が行き届いている。手荒に扱うな、という命令がな」
「ああ、そう聞いたな」
「そこにつけいる隙があるだろう。幹部不在であれば、たとえ凶行に及ぼうとも、多少の逡巡は生じるはずだ」
「なるほど、そのわずかな時間でも間に合う、ってわけだな」
「そういうことだ」
 にやりと笑う鬼島。そして丁度、3人は屋敷へと踏み込んだ。
「貴様等、一体ここになんのよう、ぐぁっ!!」
 誰何の声を上げた門番に、鞘ごと刀を振るってぶっとばした鬼島、
「黙って屋敷の財宝をすべて差し出せば、命だけは助けてやっても良いぞ、ん?」
 突然のことに動けなかった他の門番や見回りの拳士たちを前に、悪びれることなく言い放つ。
「おうおう、テメエら雑魚はお呼びじゃねェんだよ!! 死にたくなきゃ下がってな!」
 挑発混じりの怒声をあげて、天忌も吼える。
 そして、1人静かに盾と剣を構えた嶽御前。
「遠距離の敵はお任せ下さい」
 少し離れたところから、飛刀を構えていた拳士に白霊弾。3人は、淡々と大暴れを開始した。

 騒ぎが起きて、屋敷は混乱の最中にあった。
 八極轟拳に喧嘩をうる賊なんて、居るわけがないと高をくくっていたのだ。
 だがもちろん彼らも馬鹿ではない。聡い拳士の数名は、すぐさまこれが賊では無いと感じて動き出す。
 ここは、八極轟拳にとって情報の集まる場所でもあった。
 反抗組織である蒼旗軍や開拓者達の噂は伝わってきている。ならば、その動きかもと予測したのだ。
 だが、一歩遅かった。
「ふふん、やはり一瞬の迷いが脚を止めたな。もう間に合わんぞ♪」
 ひらりと現れた小柄な黒装束に、女性拳士はとっさに拳を放った。
 それをふわりと風に乗って回避するリンスガルト、続いて鞘走った刃が脚を薙ぐ。
 とっさに距離をとり踵を返して逃げようとしたもう一人の背に番天印。
 そこでリンスガルトの背後に飛びかかる大柄な拳士。そこを迎え撃ったのは、なんと……。
「な……蜂の刃、だと……?!」
 背を向けたままのリンスガルトが振るったのは、なんと蜂のように隠し持ったお尻の刃だった。
「よもや下着で攻撃されるとは思うまい?」
 もちろん、背拳の技があっても背後への斬撃は浅かった。が、一瞬ひるませればリンスガルトの勝ちだ。
 振り向きざまに、急所への鋭い突き。あっさりと周囲の聡い拳士たちを打ち倒した少女拳士は、
「……さて、もうしばらくは攪乱にうごくかの」
 ふわりと再び風を蹴って、闇に消えていくのだった。

 そして屋敷内を疾走する影達があった。
 外で剣撃の音、陽動が始まっているならば、急がねばならない。
 なりなと組むのは水鏡。二人はなりなの超越聴覚を活用して屋敷内をひた走っていた。
 曲がり角でぴたりと立ち止まり、敵を確認すればあるときは避けてあるときは撃破。
 そして二人はすぐさま座敷牢へとたどり着いた。
 そこには見張りが二人。だが、声を発する間もなく、飛び込む水鏡と鋼線を放つなりな。
 とっさに反撃の構えの見張り。だが女拳士たちは鋼線に気付いて急停止。
 その隙に水鏡が二人の間合いに踏み込んでいた。
 右の拳士が蹴り、左の拳士が拳を放つ。鋼線の隙間をぬった鋭い一撃だ。
 だが当たらない。ひらりと回避する水鏡、酔拳の妙技だ。即座に反撃の転反攻、かとおもいきや。
 水鏡が伸ばした手は、左右の女拳士の頬と腰に回されていた。
「……急に動いたら危ないよ? ほら、珠のお肌に傷でも付いたら大変だし」
 ひるむ二人。だが攻撃が当たらなかったのを知っているので動けない。
「……大酔仙姑……」
「ん? ボクのこと? ……まあいいや。でも八極轟拳の拳士ってみんな無骨な人ばかりかとおもっていたけど」
 呟く見張り達の言葉を聞きつつ微笑む水鏡。
「でも、近くで見ると意外と可愛い拳士もいるんだね?」
 にこっと笑う水鏡に、あっけにとられる見張り達。次の瞬間、水鏡の手刀が二人の意識を切って落としていた。
 そして、一瞬の出来事を座敷牢の中から見守っていた少女に向かって、なりなが破錠術で鍵を開けつつ、
「あなたがシュエンだね? たすけにきたよ……大丈夫、グエンは別のみんながたすけてるから。安心してね」
 笑いかけながら手を差し出すなりなと水鏡を前に、囚われていたシュエンはあっけにとられるのだった。


 曲がり角から飛び出す二人。羅喉丸と飛鈴だ。
 廊下の向こうに見回りが二人。外の喧噪を聞いて、グエン確保に向かうところのようだ。
 それを羅喉丸たちは追う。
 瞬脚で距離を詰めると、すでに羅喉丸の指は相手の喉に、飛鈴は相手に手をねじり上げていた。
 同じ泰拳士だからこそ分かる絶対的な技量の差。それを知った二人の八極轟拳拳士は、即座に降参。
 あっさりと座敷牢の場所を吐いたので、その場で昏倒させて二人はさらに屋敷の奥へと踏み込んだ。
「予想通りの場所だったな。この先だな?」
「ああ、だガ扉だ。突破するカ」
 二人にとっては頑丈な扉は障害にはならなかった。
 飛鈴が山刀を抜き放ち、扉を切りつけ、それを羅喉丸が拳の一撃で吹っ飛ばす。そのまま二人は部屋の中へ。
 見張りが3人。飛鈴と羅喉丸は飛びかかった。待ち受ける見張り。
 だが、羅喉丸と飛鈴はそれぞれの脚を蹴り合い逆方向に跳んだ!
 予想外の角度で急襲され、喉を潰され顎を打ち抜かれ、昏倒する二人。残る一人左右から迫る羅喉丸と飛鈴。
 最後の一人もあっさりと両者の蹴りに挟まれて昏倒。
 一声も発することなく、あっさりと見張りは全滅。
 そしてここでやっと、羅喉丸に蹴り飛ばされた扉が地面に落ちてきた。
「……あ、貴方たちは……あ、飛雲大侠に面女侠……」
 不思議な名を呼ばれ、首を傾げる羅喉丸に飛鈴、二人はとりあえずグエンを救い出そうとするのだが。
「あ、ちょっと待っタ」
 それを止めたのは飛鈴だ。彼女は、グエンに小さく尋ねた。ガランと貴方の関係は、と。
 これは実は、ガランに飛鈴が尋ねた、本人かどうかの判別法だったのだ。
 偽物かも知れないという可能性を排除するためのこの質問に、グエンは気付いたようで、
「ガラン様は、私の太師父にして叔父にあたります。これで疑いは晴れたでしょうか?」
「うむ、疑って悪かったナ。じゃ、脱出しようか」
 そういって二人は、グエンを支えながら、来た道を戻っていくのだった。

 高らかに呼子笛が響く。それはグエン担当とシュエン担当の仲間たちからの合図だ。
 すぐさま逃走にうつる陽動班。それを追う拳士たち。援護の嶽御前は白霊弾を放ちながら、周囲をぐるりと見回して、
「皆様、障害物を!」
 一言だけ鋭く告げた。
 すぐさま仲間が反応する。鬼島と天忌は傷を負いつつも、気力十分。左右の壁に刃を走らせる。
 白塗りの塀は、崩れ落ちて後続の足場を塞ぐ。さらに逃げると先行していた救出班が見えてきた。
 飛鈴がグエンを、水鏡がシュエンを抱きかかえていくのを先に、と告げて、なりなと羅喉丸がとって返す。
 追いすがる拳士たち、逃げる開拓者。
 なりなの鋼線が伸びて一瞬だけ追っ手の脚を止めた瞬間、羅喉丸が拳を道沿いの大木に打ち込んだ。
 へし折れて道を塞ぐ大木。そこに最後の一人、リンスガルトが飛び込んでくる。
 飛び込んだのは敵の中心、すれ違いざまに刃を翻し、そのままひらりと大樹を飛び越えた。
 追っ手は、来ない。リンスガルトの刃が彼らの脚を薙いでいた。
 こうして、開拓者達は悠々と逃げ去るのだった。


「無事だったか!」
「グエン師父! ……叔父様こそよくぞご無事で……」
 感動的な再開を迎えたグエン・シュエンとガラン。
 聞けば、グエンはかつてはガランの門派の門弟だったのだ。
 だが門派の高弟の一人がグエンの直接の師であり、掌門の親族であることは門派でもふせられていたとか。
 だが彼女を蒼旗軍が取り返したことで、自体は大きく進展していく。

「グエン、一つ聞きたい。おまえの知る八極轟拳最強の技とその使い手についてだ……」
「申し訳ありません。技は八極轟拳内部でも見た者がほとんどいないそうで……ですが使い手はもちろん、轟煉です」
 その応えに、鬼島はクハハと笑って、来る対決に胸を躍らせるのだが、
「やはり最強が八極轟拳のボスか……他にしっていることはあるカ?」
「轟煉はほとんど技を振るうことはないそうです……技を必要としない程、だとか」
「膂力や速さのみ、というコトか? ……信じられんナ」
 ぼやく飛鈴。だがそこで彼女は思い出す。
「そうダ。牢で言っていた面女侠とやらはなんなんダ?」
「あ、あれはその……八極轟拳内部で付けられていた皆さんのあだ名です」
 グエンが言うには、酔拳使いの水鏡は、その酔拳から酔った仙女の意味で大酔仙姑。
 羅喉丸は、その義侠心と飄々とした立ち振る舞いから飛雲大侠。飛鈴は見た目から、面をかぶった女侠と呼ばれていて。
「ということは、八極轟拳内部でも、蒼旗軍は意識されているのか?」
「一部の幹部は、問題視ししていますが……むしろ獲物として見ている幹部も多いようです」
 それを聞いて今度はリンスガルトが疑問をぶつける。
「では、野心家や轟煉に恨みのある幹部はおらんのか? 同士討ちを狙えればよいのだが」
「……それは難しいかも知れません。二心ある者たちは、轟煉が早々に打ち倒すようです」
 轟煉は、強さこそ全てを標榜するが故に、自分に敵意を向ける相手には容赦がないらしい。
 そして最後に尋ねたのは天忌。
「サムライの身で、ヤツラに勝てるのか?」
 そんな言葉にグエンはきょとんとして。
「……屋敷を逃げるときに拝見しましたが、持てる技を鍛えることこそが勝ちに繋がるのでは?」
 私には拳才はありませんでしたが、現に、貴方様はもう勝っておりますしと微笑むグエン。

 こうしてグエンは救われて、大いに蒼旗軍は貴重な情報を手に入れたのだった。