【帰郷】神威人の都入り
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/16 19:23



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


「おそらく、里の北西じゃろう」
 コクリ・コクル(iz0150)たち「小手毬隊」(通称、ろりぃ隊)がハンザケとの戦いを終え麓の村に戻った時、神威人の老人マクタ・キシタが言った。背の低い猫の獣人の生き残りたちは口々に「なるほど」などと納得している。
「そういえば、森の北西には行っちゃいけないんだったっけ?」
 今さらながらにコクリも思い出す。
 が、他の若い猫の獣人も口々に「そういや何で行っちゃいけなかったんだっけ?」、「精霊の森の裏に当たるから立ち入り禁止だったとかじゃなかったっけ?」などと顔を見合わせている。
「わしらの知らなかった脅威だったわけじゃから、逃げ戻った先はその方向しか考えられん。ちょうどそっちには滝があってその先は川を伝って行けなくなるし、不吉な様子があるからみだりに近付く事は禁止するとシノビリカは言っていたらしいがの。‥‥何代か前のシノビリカじゃが」
「そっか。大きなハンザケだから、きっとその滝壷をねぐらにしてるに違いないよ」
 マクタの説明にコクリが納得する。
「よし。それじゃ、また俺達が偵察して来よう」
 コクリの幼馴染、チプサンケが威勢良く言う。
「いや、その必要はないじゃろう」
 しかし、マクタがそれを止めた。「どうして」とチプサンケらが振り返る。
「仮に、ハンザケの巣がその滝壷ならこの村までは行動範囲ではあるまい。余計な手出しをして状況を変えるより、放っておくのが一番じゃ」
 一理ある。が、マクタ以外の神威人はみな若い男性だ。不満そうに顔を見合わせる。
「ほうら、の。わしらがこの村に住めば、里をどうにかしよう、ハンザケをどうにかしようとちょっかいを出す。ちょっかいを出せばハンザケも行動範囲を広げる」
 若手の様子を見て、マクタが両手を狭くしたり広げたりして説明する。
「じゃから、わしはコクリについて神楽の都なるところに行くぞ」
「ええっ?」
 突然のマクタの発案に、コクリは飛びあがるほど驚いた。
「駄目かの?」
「駄目も何も、ボクは神楽の都に家はないよ。出資者のおばさまの旅館に居候させてもらってる身だし‥‥」
「なぁに。わしらは神楽の都の近くの森に住めばよい。もう、シノビリカがいないんで精霊の森は作れんが、木の上にでも家を建てればよかろう。領主には特産を献上する事で許可をとればいい。‥‥さあ、楽しくなるぞ」
 マクタはそれだけいうと、ひたひたにゃんと踊ってみせる。これを見たチプサンケらもノリノリで、ひたひたにゃん。
「ええ〜。でも、マクタたちは神楽の都に土地鑑ないでしょう?」
「そのためにコクリ、お主がいるんじゃろう?」
「そんなぁ。ボクも実は詳しくないし、そもそも里帰りしたくなって‥‥」
「ええい、昔のように『師匠』と呼ばんか。‥‥里が恋しくなるなんてのは半人前の証拠。まだまだ修行が足らん」
「ひっどい。ボクだって開拓者として頑張ってるんだからね。‥‥それを半人前だなんて」
「‥‥敵の安っぽい挑発に乗って、お仲間の皆さんに迷惑を掛けたらしいの?」
「ぐ」
 マクタの指摘に、むきになっていたコクリの言葉が詰る。
「わしが精神を一から鍛えてやる。じゃから、昔のように師匠と呼ぶこと。‥‥そして、その師匠が『神楽の都を案内せい』と言っておる。師匠の言う事には従うことじゃの」
 まるで猫ひげを立てるように得意げなマクタ。‥‥実際に猫ひげはないけど。
「でも、この村の人に『うまいこと言って一族だけが逃げ出した』ととられないかなぁ」
 ぼそりとチプサンケが言った。「だが、退治できるのか?」、「今度は水中戦がありえるし」など若手が口々に囁く。
「うん、そうだね。‥‥師匠、ボクの仲間にも相談するからそれまで待ってください」
「ほう。‥‥自分勝手なところは直りつつあるようじゃの。前は『ちっちゃいからって縮み込む必要はないんだからね』とかなんとか言って飛び出したくせにの」
 数年前を思い出して笑うマクタ。
「んもう。とにかく、仲間にも聞いてみるからね」
 赤くなるコクリ。
 さて、ハンザケを退治してから神楽の都に入るか、そっとしておいて神楽の都をたっぷり案内するか。
 小手毬隊は、どちらを選ぶ?


■参加者一覧
のばら(ia1380
13歳・女・サ
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
ベアトリーチェ(ia8478
12歳・女・陰
リエット・ネーヴ(ia8814
14歳・女・シ
ルンルン・パムポップン(ib0234
17歳・女・シ
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621
16歳・女・騎
プレシア・ベルティーニ(ib3541
18歳・女・陰


■リプレイ本文


 神威人の里の麓の村にて。
「全く‥‥またあんなのと戦わなきゃいけないなんて、何て面倒なのかしら」
 ベアトリーチェ(ia8478)が、呪殺符「深愛」に呪符を装填していた。
「べ、別に放って置いてもいいんだよ?」
 彼女の波打つ長い銀髪の背後から、コクリ・コクル(iz0150)が声を掛けた。
「‥‥全く、面倒なんだから」
 ぴた、と作業を止めたものの、ベアトリーチェは瞳を伏せてそのまま出陣の準備を続ける。
「いや、だから‥‥」
「お黙りなさい、コクリ」
 しつこいコクリについに振り向き、ぐっと顔を寄せ鋭い瞳で黙らせる。そして、「見てみなさい」と周囲に視線をやる。
「ん〜、やっぱりちゃんと片付けてから出た方がいいよね〜」
「ええ。ハンザケを退治し後顧の憂いを断ちましょう」
 狐しっぽをくりくりふわんと遊ばせているプレシア・ベルティーニ(ib3541)と、涼やかな表情で落ち着いている朽葉・生(ib2229)がそんな会話を交わしている。
「お師匠様から聞いた事があるよ〜、こういうの『立つ鳥跡を濁さず』って言うんだよね〜?」
 プレシアの言葉に、朽葉は目を丸めた。そして、ふふっと微笑。「ほに?」と首を傾げるプレシア。
「コクリちゃん。前回はごめんね。今回はしっかり働くよ!」
 新咲 香澄(ia6036)が近寄っていつもの元気を見せる。
「香澄も、退治するつもりよね?」
「もっちろん。やっぱり立つ鳥後を濁さずじゃないけど、気持ちよく旅立つためにも、退治しておきたいね!」
 ベアトリーチェの言葉に、香澄はきっぱり答える。さすがにコクリももう何も言わず首を縦に振るだけだ。
「マクタさん達に都を案内してあげるのも気になるけど、やっぱりあいつをこのまま放っておくのは危険だと思うもの」
 今度こそやっつけちゃいます、とルンルン・パムポップン(ib0234)も元気元気。
「もちろん、コクリさんの里の人たちもしっかり案内するのです。‥‥でも、アヤカシはいつか山を下って人を襲うのです。だから、ここでちゃんと討っておかなくちゃ」
 ぐ、と両拳を胸の前で固めのばら(ia1380)も主張する。
「むやみに倒すのは心苦しいのですけど、アヤカシなら話は別。アヤカシの犠牲になる人を出しては騎士の名折れですの!」
 その隣でごごごと騎士魂を燃やすのは、シャルロット・S・S(ib2621)。愛すべきどじっ娘さんだが、騎士としての正義感は人一倍。今回もばっちり働くのだと、準備は万端である。‥‥いろいろと。
「コクリねーもよろしくだじぇっ!」
「あうっ!」
 わずかの間隙を縫うダッシュ&抱きつきはすでに必殺技の域、リエット・ネーヴ(ia8814)の抱き締め挨拶を食らうコクリ。ベアトリーチェを巻き込んで倒れ込む。
「‥‥というわけだから、コクリは素直に私たちについて来ればいいのよ」
「う、うん‥‥」
 ベアトリーチェにしなだれ抱きついたまま、彼女の言葉に素直に頷くコクリだったり。
「マクタ殿。倒して帰ってくるまで里の皆様にはご不便をおかけします。申し訳ありません」
「いや、コクリは良いお仲間に巡りあったようで何よりじゃ」
 朽葉がコクリに掛けた言葉と同じ内容をマクタに伝えていた。マクタは続けて「‥‥これは、わしの方が要らぬ心遣いをしたようじゃの」と、にこにこつぶやくのだった。


 無残な廃墟と化したコクリの里を後に森の奥へ進んだ一行は、大きく開けた場所に出た。
「へええ、こんな場所があったんだぁ」
 コクリが目を丸める。その隣でリエットも「おお〜」と目を輝かせる。
 滝の水量は少なかったが、数か所から注ぎ込んでいた。滝壷も当然、広くなっている。大きなハンザケがねぐらにしていてもおかしくない大きさである。
「私に時間をください。罠を仕掛けます」
 白い面を仲間に向けると、朽葉が先行作業を志願した。
「ボクは今回罠は作れないんだ〜」
 しゅん、と耳が垂れるプレシア。しっぽも力なく地面にぺったり。
「じゃあ、ハンザケを刺激しないように気を付けつつ、滝壺をそーっと偵察です!」
 ルンルンが注意をしつつ滝壷に接近する。この隙に、朽葉は下流側にフロストマインを仕掛けたりストーンウォールを建てたりして逃げ道を塞いでいる。
「のばらは、囮になってきますね」
「のばらさん、シャルも行きますの。‥‥コクリさん、いざとなったらよろしくお願いしますの」
 小手毬隊前衛といえばこの二人。のばらが先頭に立ち、シャルロットがにっこりとコクリに二列目を託す。
「コクリ、あんまり一人で突出しないでよ」
「ボクもふるぱわーで戦うよ〜!」
 ベアトリーチェがコクリに釘を刺し、その隣でプレシアが「ボクだってちゃんと成長してるんだから〜、びっくりするよ♪」と胸をそらしている。ぽよんとはねる胸。振り返っていたコクリはこの様子を見てびっくり。思わず「あ、あれ。プレシアさんもそんなに胸おっきかったんだ」とか呟いたり。
「じゃ、香澄ねー。いくじぇ」
「ボクも前回の報告聞いて、今回の作戦には支障ないように準備はしてきたからね!」
 リエットと香澄は、攻撃支援と退路分断。上流側からぐるりと回り込んで裏を取るつもりだ。リエットの超越感覚で警戒しながら走る。
――これが、前回との違い。
 前は準備中に、待ち構えていたハンザケに先手を取られた。
 今回、ハンザケは待ち構えているのではなく、自身が絶対有利のねぐらで安心している。
「よし。‥‥こっちはいいですよ」
 朽葉が準備完了の合図をした。続けて、杖「フロストクィーン」を構え水面へのブリザーストームの準備をする。
「小手毬隊前衛陣ももうひとふんばりです。行くのですよ、コクリさん、シャルさん!」
 焙烙玉に点火するのばら。これを水面あたりで爆発させておびき出すつもりだ。
「あのアヤカシ残しちゃうの、やっぱりすっきりしないから‥‥。ニンジャの諺にもあるもの、ハットリ跡を濁さずって!」
 今回は見つからずニンジャとしての面目を保ったルンルンが、きっ、と真面目な目をして水面を見詰める。‥‥口走ったボケはともかく、さあ、行動開始だ。


 静かな森に、爆発音と吹き荒れる風の音が響いた。木々から小鳥が一斉に飛び立つ。
「出ましたですっ!」
 滝壷から立ち上る水柱。
 そこから、黒い巨体が現れたッ。
 声をあげ囮になるつもりだったのばら、そして奔刃術で誘導するつもりだったルンルンは、はっと反射的に身を横に引いた。
 その中心を、抜かれたッ!
「んおっ。こっちから?」
「いい加減にして欲しいわね、ホント」
 最初に対峙することになったのは、最後列の予定だったプレシアとベアトリーチェだった。
 一方、滝壷のそば。
「むしろ好都合だじぇ」
 戦うときはきりりと真顔、リエットが横合いから回り込みきききと止まる。水の中にはもう逃がさないじぇとそそり立つ。
「相手有利の地形には逃がさないように、ね!」
 首元のサザンクロス二つが乱舞しキラリ。香澄も続いてきききと止まり寄り添う。二枚体制だ。
 そして、最前線。
「紅き薔薇よ、彼の者を絡め取れ!」
「まわりの瘴気も上乗せして〜、特殊しょーかーん☆」
 ベアトリーチェの呪縛符が棘の蔓となりハンザケの突進を止めた。その隙にプレシアは隷役で力を溜める。「可愛い首輪付きになるんだよ♪」って、一体何をするつもりか。
「プレシア、まだなの?」
 焦るベアトリーチェだが、ここで敵の背後からリズミカルな声がするッ!
「ジュゲームジュゲームパムポップン‥‥。ルンルン忍法フラワーフレイム!」
 ルンルンの不知火でハンザケが炎に包まれたッ。じゅっと白い水蒸気が舞う。
「今回も〜☆ 燃え燃え〜、きゅん♪」
 この隙にプレシアが火炎獣。首輪付きの炎の獣が現れたかと思うと、一気に火炎放射。その後ろでプレシアがわざわざ後ろに向き直りつつ振り向いてウインクVサイン(はあと)とかしてるのは、まったくの余談。
 が、相変わらず攻撃を食らいつつも動くハンザケ。走り出したら止まらないぜ状態で体を回転させる範囲体当たりでプレシア、ベアトリーチェを弾きつつ方向転換した。
「シャルさん、コクリさん、ぬめぬめを削りますよ〜」
 振りかぶる長柄槌は「ブロークンバロウ」。のばらを先頭に小手毬隊前衛部隊が折り返すハンザケに詰めていた。
「呪縛符よ、ハンザケの動きを止めて!」
 背後から香澄の声がしたかと思うと、狐の式が現れハンザケに纏い付く。
「いきますよ〜」
 この好機にぶうんと長物を振るうのばら。上からハンザケをブロークン。
「ここですの〜」
 可愛い声に凛々しい響き。シャルが下からユニコーンヘッドで突き上げる。そしてのけぞったハンザケの無防備な腹側を、コクリが狙った。ルンルンも好機を逃さない。
 見事な連携だがしかし、口を狙ったシャル以外は粘液が散った。下敷きになるコクリに弾き飛ばされるシャル、のばら、ルンルン。ねとねとだ。
「紅き薔薇よ、我が友の傷を癒せ」
 傷みのひどいコクリに治癒符を使うベアトリーチェ。
 と、このままハンザケが直進すると滝壷に逃げられてしまうが、どうか。


「好きにはさせないじぇっ」
 ここで、リエットの影がするするっと伸びた。纏わり付かれたハンザケの動きがまたも鈍る。
「さぁ、こっちに来ても熱いだけだよ、あっちに行っちゃいな!」
 香澄はこの隙に火輪で削る。
 しかし、動き始めるハンザケ。狙いは変わらず正面のリエット・香澄の最終ライン。
「くるかっ。‥‥さぁ、ボクの主砲だよ、耐えられるかな? 火炎獣!」
 香澄は逃げなかった。炎の馬を召還すると、得意の火炎放射。
 この時、リエットは微妙に対峙線を外しつつ前に前転移動していた。えらく綺麗な円軌道を描く。手練である。
 そして、燃えたッ!
 火遁である。
 水蒸気が派手に上がるハンザケ。背後からはベアトリーチェの火線が来ている。
「あっ、逃がさないんだよ〜!!」
 ここで、敵の異変にプレシアが気付いた。
「んんんん〜、おっきいはんぺん!」
 いきなり何? なことを言って大の字に両手足を広げると、ハンザケの目の前に塗り壁が現れた。滝壷に逃げようとしていたハンザケはこれにぶつかり、方向転換。‥‥香澄とリエットはすでに一連の動きに巻き込まれねとねとになっているが。

 この後、似たような展開を何度繰り返したか。
「いい加減、さっさとやられなさいよ」
 またも弾き飛ばされていたベアトリーチェがねとねとをぬぐいながら毒づく。結構仲間を回復している。もちろん、ハンザケ攻撃の手応えもあるのだが。
「ついにこの時が来ましたっ」
 リエットの火遁が再び炸裂したとき、我慢の静観を続けていた朽葉がついに動いた。
 ハンザケの体から濃霧が立ち上ったのだ。前回は同様に煙幕を張った後、逃亡している。「生さん、お願いしますっ」とのばらの声がする。
「ブリザーストーム!」
 朽葉の掛け声が響くッ! 吹雪で濃霧を吹き飛ばすつもりだ。
 濃霧は見事晴れるが、吹雪で視界が遮られた。ちなみに、ブリザーストームで水面を凍らせたり濃霧を冷やしたりといった目覚しい効果は得られないようだ。
「うっ‥‥」
 朽葉、前回同様、吹雪の中から突っ込んでくるハンザケに跳ね飛ばされた。
(前と、一緒?)
 ねとねとになりながら思案する朽葉。
 前回は、濃霧にまぎれて逃げている。今回は逃げていない。
 ハンザケのほうを見ると、仕掛けたフロストマインにはまっていた。暴れて逃げようとするが、ストーンウォールに阻まれ滝壷には戻れない。もう、逃げる場所がないのかもしれない。
「今だよ! ハンザケの表面がてかってない」
「皆さん! ここはお任せですの」
 コクリとシャルロットがハンザケに突っ込む。のばらは咆哮を使ってから続き、ついに小手毬隊前衛が手にした武器で本格的に戦い始めた。ちょうどハンザケは朽葉が連続して引っかかるようにと隣接設置していたフロストマインにかかってまたも足止めされている。弾き飛ばされながらも食らいついて今までより効果的な攻防を繰り広げている。
「炎よ、薔薇の刃と化して彼の者を燃やし尽くせ!」
「一点集中で攻撃だね!」
 後方からは、ベアトリーチェと香澄の火輪が飛んでくる。
 そして、この機を逃すまいと集中する者が一人。
「明るく照らす炎があれば、そこに生まれる影がある」
 燃えるような瞳を上げたのは、ルンルン・パムポップン。
「‥‥今、炎の力を借りて、ルンルン忍法・くりてぃかるひっと!」
 一気にハンザケの目の前まで走り距離を詰め、目のある辺りに緑色の刀「翠礁」を突き立て抜くと一陣の風のようにその場を後にする。スキル「影」だ。ざざっ、と着地すると、背後でハンザケがのけぞり刺された場所から瘴気を吹き出していた。「ここで止めをっ」、「のばらもやるのですっ」と仲間の声。ずずん、という音はシャルロットの焙烙玉。「秘密兵器投入ですの!」 と口の中に放り込んだようだ。
 やがて、倒れる大きな音を背中で聞いた。ルンルン、目を伏せ立ち上がると刀を鞘に戻した。
 振り返ると、横たわったハンザケの巨体が瘴気へと変わり始めていた。


「コクリちゃん、里帰りは大変なことになっちゃったけど、里ごと引越しになれば里帰りも楽になるよ! 気を落とさないでね?」
「うん。‥‥ありがとう。香澄さん」
 戦い終わって、香澄がさびしそうな表情をしているコクリを励ました。
「粘々だじぇ♪」
「きゃあっ!」
 リエットに抱きつかれ、またも倒れるコクリ。今度は香澄に抱きついている。リエット、香澄を順番に見て、コクリにようやく笑顔が戻った。
「退治したから、神楽の都入りもずっと、楽しい、のですよ♪」
 寄って来てにっこりののばらも、ねとねと。
 と、この時。
――ざぶ〜ん。
 何と、シャルロットが滝壷に飛び込んだではないか。
「この方が早くぬめぬめが取れますの〜」
 って、シャルさん。鎧が脱げても知りませんよ? って、なぜに今鎧を脱ぐんですかっ!
「シャルはぬれてもいいように、下は水着で万全ですのっ」
 脱いだ鎧の下からは、体に密着するミズチの水着姿が現れた。いろいろ準備万端とは、こういうことのようで。
「忍法水着変身ですっ」
 あらまあ、ルンルンさんもミズチの水着を着用してるし。
「‥‥」
 って、朽葉さんもですかっ!
 結局、全員滝壷に入って水遊びしたとか。パシャパシャ水を掛け合いつつ、ぬめぬめを取ったりきゃいきゃいはしゃいだり。みんなみんな、笑顔が弾けていた。


 ところで、マクタたちはどうしたのだろう。
「安心しなさい、神楽の都にいるのは特徴的な連中ばかりだから貴方達もすぐに馴染めるわよ」
 村に帰ってから、神威人に掛けたベアトリーチェの言葉。
 この一言で、マクタやチプサンケたちはとても安心したようだ。

 小手毬隊がハンザケを退治したことで、予定は大幅に変更。
 里で死んだ人を改めて手厚く弔って、後日落ち着いてから神楽の都入りすることになったという。