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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● こぽこぽと音がして、白い湯気が立つ。 珈琲喫茶・南那亭の厨房で、褐色の肌に剃り上げた頭。泰国は南那から神楽の都までやってきて珈琲流通開拓者たちの代わりに店に常駐している加来(カク)である。「ありがとうございました♪」と店内から声が響いた。本日最後の客が帰ったのだ。 「ふうっ。今日もお疲れ様、加来さん」 南那亭めいど☆の深夜真世(iz0135)が厨房に戻ってくる。 「お疲れ様は真世さんでしょう。‥‥はい。珈琲を入れておきましたよ」 「わあ、ありがとっ」 砂糖をまぶしたせんべいと一緒に、珈琲を楽しむ。加来もそれに習う。 「‥‥そういえば、何か忘れ物をしているような気がするのよね」 ぱきっと口にくわえたせんべいを割りながら、真世がそんなことを言う。にぎやかだった南那亭開店からこっち、忙しい日々が続いている。‥‥客が多いというより、常駐する店員がいないという問題からであるが。このあたり、開拓者が一過性の仕事に強い半面、長期に渡る仕事に弱いという性格が出ている。 「きっと、開拓者ギルドの依頼のことに違いないです。しばらくあちらに顔を出してないでしょう、真世さん。ほかの店員さんはいろいろ依頼を受けているようですしね。‥‥私が『お疲れ様は真世さんでしょう』って言ったのは、そういう意味ですよ」 「あ、それ。そうだよ、開拓者ギルドだよ!」 優しく言う加来の言葉に反応して、真世は身を乗り出すのだった。 「ほら、『頭が冴えたりして気分転換にいい飲み物なら、開拓者ギルドに卸したらいい』って案があったでしょう」 「ああ。鼠耳の彼が実際、深夜に実行した案ですね」 そう。 珈琲流通開拓者の一人が夜の開拓者ギルドにお邪魔して珈琲を勧めたことがある。 が、あれ以降、開拓者ギルドから評判を聞いていない。 「開店記念日の時も、『良い眠気覚ましになりそう』とか、『開拓者専用の眠気防止剤にどう?』とかいう意見がたくさんあったでしょう」 「そうですが、ギルドの方が来店されないとアピールもできないですし‥‥」 「もう一回、こっちから出向くのよ。‥‥ううん、何度でも行くの。大規模戦もそうだったでしょ? てきをたおすまでなんどでもあたっくするのよ!」 無茶を言いながら拳を固めごごごと瞳を燃やす真世だったり。 「さあっ、開拓者ギルドに波状攻撃を仕掛けるんだからねっ!」 えらくノリノリである。 こうして、朝昼夕晩の開拓者ギルドに乗り込んで珈琲を差し入れし、南那亭に来てもらえるよう勧誘する人材を求める依頼が開拓者ギルドに持ち込まれることとなった。 ‥‥ん? 「こんなことせずに自由に来て直接言えばいいじゃないか!」 「でも、来てくんないじゃないですよ〜」 突っ込む受付にぶーたれる真世。 「知るか。こちとら忙しいんだ」 大規模戦の後だ。当然だろう。 が、にまっとする真世。 「なぁんだ。やっぱり、メイド服の店員に『おねがい☆』して欲しいんじゃないですかぁ」 ちなみに真世、今はメイド服ではない。 「ち、違うっ」 「ええっ! 執事服の男性にお願いされる方がいいんですか? ははぁ、そういう趣味で‥‥」 「ええい、違う違う!」 「じゃあ、『開拓者ギルド職員さん歓迎日』用の店員募集なら、いいでしょ?」 「まあ、それならおかしくはないが、職員が行くかどうか分からんぞ。今本当に忙しいんだ」 「‥‥ほうら。結局こうなっちゃうじゃない」 そんなこんなで、南那亭は「開拓者ギルド職員歓迎の日」をすることに。 ただし、状況としては大規模戦後であり上層部含め、一部(?)を除いて皆職員は忙しくしている。まずは一般職員から流行させ、上層部を動かしたいところである。 |
■参加者一覧
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
来島剛禅(ib0128)
32歳・男・魔
アイシャ・プレーヴェ(ib0251)
20歳・女・弓
十野間 月与(ib0343)
22歳・女・サ
唯霧 望(ib2245)
19歳・男・志
万里子(ib3223)
12歳・男・シ
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
ディディエ ベルトラン(ib3404)
27歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ● 「へえ〜。満腹屋ってところを手伝ったりもしてるんですか」 「うん、そうだよ。ほかにもあたいは民宿の厨房で腕を振るってんだ」 メイド服姿のアイシャ・プレーヴェ(ib0251)が明王院 月与(ib0343)と一緒に珈琲喫茶・南那亭の厨房から出てきた。 「ふうん。だから手際がいいんですね。綺麗だし、凄いですね〜」 「アイシャさん綺麗だし凄いよ」 どうやらアイシャ、本格的に一緒にやることとなった月与に珈琲の淹れ方を改めて紹介したりと気に掛けたようだ。 「あ、真世さん」 ここで、月与は深夜真世(iz0135)を見つけて呼んだ。 「お店で出せるものは、珈琲とかき餅なんかの軽い和菓子だけかな?」 「うん。そうだよ」 こくりと頷く真世。月与は、にこっと笑顔で覗き込む。「あたい、いろいろできるよ?」とか期待の眼差し。 「う〜ん」 お茶請けなどについては、今までもいろいろ意見が出た。お茶請けが付いても十五文という、決して安くはないながらも庶民的な価格に抑えるため、これで我慢しているという現状だったりする。 「じゃあ、月与さん。ギルド職員さん歓迎日のときは、存分に腕を振るってください。なんたって、特別な日だから」 「そうですよ〜」 その時、厨房からディディエ ベルトラン(ib3404)が出てきた。 「珈琲の認知度を更に高めるためにもですねぇ、ここはギルドの職員さん達をサクラに‥‥失礼、ギルド職員さん達の御力をお借りするべきでしょう」 言い直して人差指を立てる。 「そうですね。普段お世話になっているギルドの方々への恩返しとなれるよう、誠心誠意でお迎えしましょう」 引き締まった口元と、使命感に燃えそうな瞳の唯霧 望(ib2245)もやって来た。 「メイド服よし! ヘッドドレスよし!」 奥からは元気一杯の声。そして‥‥。 「お待たせなのじゃ。いつも世話になっとるギルドの皆に、ささやかな恩返しになればええの」 今日も元気一杯の禾室(ib3232)、戦闘準備は万全じゃとただいま登場。 「ところで、万里子さんはどうしたのでしょうか〜?」 「夜に備えて寝ておるのじゃ」 「見に行こう。ね、見に行こう」 意地悪そうに真世が言う。月与と望の腕を取って奥の間に。 そこには、お布団を敷いてすやすやと寝息を立てている万里子(ib3223)(以下、まりね)がいた。むにゃ、と今、寝返りを打ってこちらを向く。 「可愛い〜」 と、真世。そのまま、「まりねちゃん、いつもひそかに頑張ってるよねー」とか「どこにもいないと思ったら後で役立つことをしてくれているのじゃ」とか噂話。 「皆さん、そろそろ時間ですよ」 ここで新たにやって来て声を掛けたのは、来島剛禅(ib0128)(以下、クリス)だ。研究熱心な男で、今回も開拓者ギルド内を観察し、比較的誘いやすい時間帯と人を割り出している。そのクリスが今だと言う。 さあ、活動開始だ。 ● さて、開拓者ギルド。 「‥‥もちろん、『南那亭』ですっ」 メイド服姿のアーシャ・エルダー(ib0054)が、すらりとした足を伸ばしポーズを取って言い放っていた。知人がいたようで、「どこの衣装?」とか聞かれていたのだ。 「次から次に顔見知りが‥‥。お姉の顔の広さには脱帽です」 同じくメイド服姿、アーシャの妹・アイシャがため息をついていた。 「あ、お姉。‥‥あれ、橘さんじゃないかな」 アイシャが姉の二の腕をつつくと、アーシャはきら〜ん。 「イケメン! しかもギルド員にしてはタダ者じゃない気配」 歩いてきた橘 鉄州斎(iz0008)を見て「お話には聞いていましたが、素敵な人ですね〜」とかべた褒めするアーシャ。その鉄州斎、泰然自若とした歩き姿だ。‥‥これで実は若いころは羽目を外したこともしてたりとかあったらしいのだが、真相は藪の中。っていうかどんな羽目外してたんだろ? 閑話休題。 「‥‥私の戦士魂がうずきますね」 「ち、ちょっとお姉ぇ」 鉄州斎を目にしたアーシャの、使命を忘れたのではと思わせる燃えっぷり。慌ててアイシャが身をとめる。 「ん?」 ここで、鉄州斎が異変に気付いた。青い瞳を細めて二人を見ている。 「アーシャさん〜、ここは私にお任せをば〜」 張り出してある依頼を見る振りをしていたディディエもやって来て説得した。 「そうそう、お姉。ここはディディエさんに任せて、私たちは占い師さんを当たりましょう」 「占い師さんでしたら、もうしばらくして辻占いに出ますので準備してください」 アイシャもなだめてクリスが補足する。「あ、あの人なら私の『鶏肉の友』に聞いているので知ってます」とアーシャ。姉妹そろって、結夏(iz0039)を探しに外に出た。 一方、鉄州斎。 「いや、職務中だ」 近寄ったディディエに勧められた珈琲を、断っていた。 「働き詰めでは却って効率が落ちるというものですし〜。いかがでしょう、気分転換に外にでも?」 しかし、ディディエも飄々としたもの。予想した反応で、諦めることはない。 と、ここでディディエの持っていたカップから立ち上っていた白い湯気の向きが変わった。 む、と鉄州斎の青い目に追憶の色が浮かんだ。 「目的は来店勧誘だろう? ともかく了解した。指定日に行くので、今日のところは失礼する」 すまんな、と優しいところを見せつつ身を翻し立ち去った。 「‥‥なるほどですね〜。相談役ですか」 あるいは立場もあるのかもしれないとディディエは思い見送りつつも、手応えをつかむのだった。 ● 「あ、お姉。あの人がそうじゃないでしょうか」 神楽の都の往来で、アイシャが辻占いの女性を指差した。 その先には、「流離の占い師」こと、陰陽師の結夏がいた。今、占ってもらっていた町娘が礼を言って立ち去った。頬が染まっていた様子から恋の占いで、町娘にとって良い結果だったに違いない。 「こんにちは、結夏さん」 「まあ、こんにちは。双子さんなんですね」 アイシャの挨拶に、結夏が微笑む。 「私、占いが好きなんですよ〜。結夏さんの占いはタロットカードに似ているのでしょうか?」 アーシャは自己紹介すると、好奇心丸出しで結夏の顔を覗き込んだり手元のカードに熱い視線を送ったり。 「これは歌留多に近いですね。ジルベリアの人には珍しいかもしれません。‥‥ところで、何か悩み事でもおありですか?」 おっとりとした、落ち着いた面差しの女性である。が、騙されてはいけない。実は活動的な面もある。 とりあえず悩みのない二人は、知り合いの話とかカードを見せてもらったりとか盛り上がる。 「そういえば、南那亭でギルド職員歓迎日をするそうですね」 話が落ち着いたとき、結夏が切り出した。 「ど、どうしてそれを?」 「‥‥お伺いしますから、よろしくお願いしますね」 盛り上がりすぎてまだ切り出してないのに、と首をひねる姉妹を見て苦笑する結夏。彼女にとっては、何が用事であるか火を見るより明らかで。 ● 夜。 「あら、いらっしゃい」 赤い瞳が丸くなって、にっこり笑顔。開拓者ギルド不寝番の西渦(iz0072)が、今日も不夜城のギルド受付で不寝番中だった。 「こんばんはー、南那亭から珈琲の差し入れでーす♪」 やって来たのは、夜は古い友達、情報屋のまりねだった。 「あなたもしかして、前も夜に来てた?」 夜更かしとか仕事の忙しさは肌の大敵なのにねぇ、とか浮かない表情をしていた西渦が、ぱあっと明るい表情に。 「うん、そだよ♪ 不寝番って大変だよね?」 かちゃかちゃと出前の珈琲を準備するまりね。 「珈琲飲むと頭が冴えるんだよ♪」 「噂を聞いて、私もちょうど試してみたかったのよねー」 笑顔で応じる西渦だが、「ところで、あなたこそ珈琲飲んだほうがいいんじゃない?」とか突っ込む。 「ん? あたいは完徹使ってるし大丈夫」 あれ? 昼間寝てなかったですか、まりねさん。って「んふふふ〜」とか満面の笑みで笑うし。‥‥どうやら狸寝入りで情報収集してたようで。 「まあ、その日ならちょうど非番だから、行ってあげてもいいわよ?」 ともかく、西渦は快く応じるのだった。 ● そして、翌日。 「こんにちは。‥‥どうでしたか?」 望は、ギルド受付で東湖(iz0073)と話していた。 「ええ。疲れや眠気はすっきりしていいです。確かに集中力の回復にもいいですね」 俯き加減ながらもてきぱき答える東湖。どうやら望、前日にそう言って彼女に珈琲を勧めていたらしい。 「仕事から離れた場所だと、どうでしょうねぇ。‥‥一度、南那亭で味わってみてください」 これなら切り出しても大丈夫だろうと、ギルド職員歓迎日のことを口にした。 が。 「うーん、本当に今忙しいですから」 珈琲に対する情報を自分の中で整理して話すことと、職場を離れて楽しむといったことはどうやら別の話のようだ。反応が鈍い。 「東湖さんも、どうですか?」 ここで、月与がやって来た。小さな珈琲カップを差し出す。 ちなみに、望は珈琲を持たずに東湖と話していた。昨日、彼女が周りを気にしていたからだ。この時は、ほかの職員がいなかったので飲んでもらえた。 「いえ、わたくしは‥‥」 「ほかの職員からも、『ぜひ、東湖さんにも』って言われたんですよ」 月与、嘘を吐いた。慎ましやかであるとの読みが正しいかどうかは謎だが、ほぼ望と同じ読み。望みは、珈琲を出さないことで特別扱いを避けたが、月与は全員に珈琲を出すことで特別扱いを避けた。 「分かりました、何とか時間を作ります」 二人に誘われ、ついに東湖も首を縦に振るのだった。 ● 「あー、もう。分かったわよ」 ギルドの別の場所。 何やらご機嫌斜めなのは、不月 彩(iz0157) 。身だしなみとかがきっちりしているギルド職員の中で、胸元がせくしぃだったりスカートが膝丈えらく上だったりするのは‥‥、「暑いのがいけないのよ」(彩談)だそうで。 「まったく、変な仕事ばっかり私のところに来るんだから」 とか、相変わらず変な仕事が大好き‥‥もとい、変な仕事に好かれているようで。 「さて誰に頼んだものか‥‥。あそこのせくしぃな御仁に頼んでみようかの」 そこへ、禾室がやって来た。 「えーと、今度お店での、この間の騒ぎでお疲れ様なギルドの皆の労を労う為に『開拓者ギルド職員さん歓迎日』企画をやるのじゃよ」 彩に説明し始めるが、何やら雲行きがおかしいですよ。 「いつ、やるの?」 「あ、明日じゃ」 「今日も準備が必要じゃない?」 「いや、別に‥‥」 「必要よねっ。はい、決まり。‥‥それじゃ私、外回りしてきま〜す」 ‥‥なにやらあっさり決まったようで。っていうか、このままサボるつもりだろうなぁ、彩さんは。 ● さて、歓迎日当日。 「ね、アイシャ。あの人知ってる?」 「お姉が知らないのに知りませんよ〜」 南那亭に、筋肉質の只者ならぬ男性が一人座っている。アーシャの戦士魂がうずくようで。 「月与さん、あの人誘いました?」 「あたいは知らないよ」 「まりねさんの情報に、あの人はありますか」 「ううん。しらないよ、のぞむ」 そんなこんなで、何と言うか気まずい雰囲気。 「いらっしゃいませ。ギルドの方ですね。失礼ですが、お名前は」 「うむ。仙石という。よろしくな」 クリスが名前を聞き出すが、彼自身ピンと来ない。神楽の都の開拓者ギルドに数日張っていたのだが、見覚えがない。 と、ここで開拓者が誘ったギルド職員がぞろぞろとやって来た。 「来た来た♪ こっちこっちー」 「彩殿、来てくれてありがとうなのじゃ!」 まりねが西渦の姿を見つけて手を振る。禾室は耳をピンとさせて彩に突撃。ほかにも東湖がいる、結夏もいる。そして――。 「これは、仙石ギルド長」 鉄州斎が、謎だった男に挨拶をした。 「ギルド長?」 「朱藩のギルド長ですよ」 誰、と顔を見合わせる望と月与に、東湖がこそこそっと教えた。 「えええええっ!」 聞いてないよ、といった感じで驚く南那亭の一同。まさか朱藩のギルド長・仙石 守弘(iz0170)その人だったとは。 「ひ、非礼はなかったかのぅ」 「き、騎士として非礼はなかったです」 「それより、とにかく始めてしまいましょう」 「クリスさんの言うとおりですよ〜。ここはなし崩し的に、です〜」 どたばたどたばたと用意。 そして改めて――。 「ギルド職員さん、いつもお疲れ様です〜」 声をそろえて、歓迎日開催。 「今日はどうされました?」 「ん? さあな」 聞く鉄州斎に、カップを持ち上げ白い湯気立つ薫りに目を細める仙石。鉄州斎はそれ以上聞かずに珈琲を飲み、「思い出の味がする」。鉄州斎、かつては各地で活躍したことだろう。それはそれとして、真世は二人を見つつ、「あ、どちらも砂糖もミルクも入れないのね」と納得したり。 「ちょっと」 「ええ、いろいろできるよ」 砂糖やミルクなどいろいろ試す西渦には、ジルベリアの菓子を振舞う月与が丁寧に対応。「甘いものを取ると作業もはかどりますよ」と日常飲んでもらえるようアピールも。 「お姉さんの事を話している時、とても、暖かい表情をされますね」 望は東湖と歓談。ミルクと砂糖を迷う彼女に、ミルク多めを勧めたり。彼には手のかかる妹がいるようで、兄弟姉妹の会話や様子には親近感を覚えるようだ。手厚くもてなす。 「砂糖は、少なめがいいかしらね」 「これは〜、グルメでいらっしゃる〜」 結夏のこだわりにディディエが喜ぶ。 「何コレ黒いし苦いし。絶対こんなの飲み物じゃないわ!」 「ふむ、受け入れられやすい中間仕様で配合・焙煎したのですが‥‥」 彩の反応に思案するクリス。 「では、こちらでは?」 「‥‥何コレ。もしかして毒を盛られた?」 「ふむふむ」 実はクリス、苦いだけの目覚ましを出したようで。その次に落ち着いて飲める香り高い物を出したところ、ようやく彩の感想も「さっきよりはマシだけど」に。良い被験者になったようだ。 「鉄州斎さ〜ん。私たち、どっちがどっちでしょう」 きゃるん、と位置を入れ替わったアーシャとアイシャが鉄州斎に尋ねたり。‥‥鉄州斎が羽目を外したかどうかは、秘密♪。 ● 「かくー? ちょっと相談あるのー」 忙しい中、まりねが厨房に下がった。 「‥‥それなら、ちょうど試作品ができましたよ。これはぜひ、手伝っていただいた開拓者の皆さんに。私からの、感謝の気持ちです」 まりねに、「自家製用珈琲一式」は作れないかと聞かれたところ、加来もその必要を感じていたようだ。すでに一式を作っていた加来は、今までのお礼だとまりねに人数分、手渡した。 「わしらこそ、本当にありがとうなのじゃ」 禾室もやって来て、感謝の肩叩きで加来を労う。 「何かお困りの際は〜御遠慮なくお声を掛けて下さいね」 乗りかかった船と申しますか〜と、ディディエもやって来て感謝の言葉を掛ける。 「本当に、今まで南那を思ってくれてありがとうございます」 ほかの開拓者は、忙しく働いている。 その様子に、厨房の影から何度も何度も頭を下げる加来だった。 |