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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「ああ、余所者だとも。その、余所者が言ったんだ。『遠く離れた天儀で、南那産の珈琲が話題だと知れば誇りに思えるはず』と」 泰国は南那の都市椀那で加来(カク)が熱心に主張していた。加来の店がある市場でのことだ。 「わかった。天儀ってところで飲んで喜んでもらったのは、理解した。しかし、領主の椀氏が飲む最高級の豆ならともかく、わしらが山から取った安っぽいコーヒーが、本当に商売になるのか」 「それに収穫増を目指すなら、化け物が出る山々を何とかしないと」 加来が店頭で声を張って集め、コーヒーの大規模収穫のための協力出資を募ろうとしているのだが、保守的な土地柄もありうまくいってないようで。 「なあ、南那のことも思ってくれるような人たちが売ってくれるんだ。何も、俺たちの国から利益を搾り取ろうっていう人たちじゃないんだよ」 「おおい、加来君。喜んでくれ」 そこへ、林青商会の林青(リンセイ)がやって来た。 「南那領主の椀栄董(ワン・エイトウ)氏の許可が出たよ。南那のコーヒーの大規模な輸出や交易に関することは、我々の組織する珈琲通商組合ですべて引き受けることができた。あとは収穫増だが、これもコーヒーノキのなる山を好きに開拓してくれていいという許可が出た」 林青の説明を解説すると、まずは椀氏が土地で取れるコーヒー豆を各種品質に分けて買い取り、林青ら珈琲通商組合に全部卸すという形となる。コーヒー豆は冬以外、常時収穫できる。とりあえず必要分は各家庭ですでに収穫している、家庭で飲むための豆を椀氏が買い取る形で集めるらしい。現在南那は不漁の関係で不況となっており、豆の買い取りは経済活性化と市民救済で大きな意味を持つ。たかが小さな一旅泰である林青商会の提案に、領主が全面協力をする理由でもある。 「ただし」 口調を強める林青。 「化け物――その正体は各種アヤカシだが、収穫する山をあらかじめ決めて、そしてその山のアヤカシだけを退治するよう注文を受けましたけどね」 話せば長くなるが、簡単に言うと土地の防衛上、アヤカシのいる地帯が非常に重要になってくるのだという。南那は比較的平和な土地で、領主の椀氏も戦闘を嫌う。アヤカシは民を襲わない限りは自然の防壁となり、防衛隊は効率的に要所を守ることができる。もっとも、この状態が悪い方へ働き、前途有望で血気盛んな若い武闘家が流出してしまい人材が不足しているという。志体持ちは、特に。 「椀氏の、親衛隊が動くのか‥‥」 「いや、我々の開拓者がとりあえず一つの小さな山を制圧します。‥‥あとは、この土地の人がたくさん収穫してくれるのを待つだけです」 林青はざわざわささやき始める人たちに、期待と含みを持たせて言うのだった。 「というわけで、南那でのアヤカシ退治をお願いします」 天儀は神楽の里で、深夜真世(iz0135)が開拓者ギルドに申請していた。 「‥‥アヤカシって、どんなアヤカシですか」 「ええっと、小鬼とか怪骨とかみたいです。人里に近いから数も多くないとか言ってたような」 ギルドの受付から聞かれそんなことを答える。 「退治のほかに、収穫したり、収穫してくれる人を現地で募ったり、神楽の都に正式に開店する『「珈琲茶屋」南那亭』の店舗はどういった場所でどんな雰囲気の店がいいとか、そういったことも話し合わないとね」 ‥‥なんと注文の多いことだ。 |
■参加者一覧
アーシャ・エルダー(ib0054)
20歳・女・騎
来島剛禅(ib0128)
32歳・男・魔
アイシャ・プレーヴェ(ib0251)
20歳・女・弓
モハメド・アルハムディ(ib1210)
18歳・男・吟
唯霧 望(ib2245)
19歳・男・志
万里子(ib3223)
12歳・男・シ
禾室(ib3232)
13歳・女・シ
ディディエ ベルトラン(ib3404)
27歳・男・魔 |
■リプレイ本文 ● 南方の真夏の日差しは、強い。 「‥‥」 通り沿いの木陰の石壁に座っている禾室(ib3232)が、ぷらんぷらんと足を揺らして物思いに沈んでいた。 強い日差しに、その分暗い木陰。その境目で空を見ながらほうっ、と息を吐き出していた。 「どうしましたか、禾室さん」 聞いたのは、唯霧望(ib2245)だ。 「いやの‥‥」 と望を見た禾室。また空を見る。 「今神楽でも見られるジルベリアや泰国の食べ物や衣服も、初めは同じように誰かが広めようと努力して‥‥その結果なんじゃよな」 しみじみ、言う。 「ええ、そうですね」 微笑んで望が頷いた。 「そう考えるとわしら、今、結構歴史的な事をしとるのかもしれぬ」 禾室、望の方を向いて言った。彼女の背後の枝葉の隙間から、陽光が踊った。手をかざして陽光を遮りながら、望は禾室をまぶしそうに見る。 「なんというか、浪漫じゃの」 にまっと、禾室。 「そうですね。この仕事に携われた事、誇りに思います」 ――開拓者。 アヤカシと戦い、安心して人の住める土地を切り開いた。 空を駆け巡って、空輸の妨げを排除した。 ほかにも、いろいろ頑張ったろう。 そして、まだ知らぬ良い文化を広め知らせることも、開拓者の役目なのかもしれない。 「さって、いよいよ‥‥だね♪」 「いよいよ、です」 地べたに座っていた万里子(ib3223)(以下、まりね)が期待に瞳を輝かせながら立ち上がると、望も彼の視線の先を見て言った。禾室は、「よっ」と石壁から下りた。 三人の視線の先。 そこには、手を振りながら走り寄っているアーシャ・エルダー(ib0054)がいた。 それだけではない。手を取り合ってアーシャを追うアイシャ・プレーヴェ(ib0251)と深夜真世(iz0135)の女性陣、それを笑顔で見守りながら歩く来島剛禅(ib0128)(以下、クリス)、モハメド・アルハムディ(ib1210)、ディディエ ベルトラン(ib3404)もいる。――後に、「珈琲流通開拓者」と呼ばれることとなる九人が勢揃いした。 「まずは山の制圧です〜」 「役割を分担して木に気をつけましょう」 ディディエが細く長い人差指を立てると、クリスが手短に注意点を挙げた。皆が頷く。 さあ、コーヒー収穫地にする山のアヤカシ退治に出発だ! ● さて、山中。 「いますね。狂骨が分散しています」 「ナァム、その様子」 周りを見るクリスの声に、モハメドがリュートを構え前に駆け出した。奏でる旋律は「怪の遠吠え」。アヤカシのみに聞こえる音楽で、周囲の狂骨が一斉にモハメドを見た。武器を構え寄って来る。 と、この時。 モハメドは抱えたリュートの角度を変えた。深く黒い瞳が好機を探し、今、全身で空気を深く吸い込んだ。 「ビスミッラ!」 くらえとばかりに叫んでから、前方広範囲に重低音を叩きつけたッ! 思わぬ衝撃にがくりと全身を揺らす狂骨たち。そして、動きが鈍った。 「今です、今ですよ」 ディディエがアーシャにアクセラレートの魔法を掛ける。突っ込むアーシャ。 「皆が頑張ってきたこと」 腰を落とし構えた盾が、狂骨の攻撃をがっちり防いだ。 「それがいよいよ実が結ぶのですっ!」 ぐあばと振りかぶってファルシオンを大上段から振るう。気合のこもった一撃で、最初の攻撃で弱っていた敵に止めを刺す。これぞ騎士の戦いぶり。 ずざっ、と別の場所で土煙が上がる。 同じくアクセラレートの支援を受け、望が突っ込んで身をかがめている。目の前の敵にまず右手の刀で斬りつけたところだ。続けてチャクラムが命中した。後ろを見ると、まりねがいた。彼の援護だ。「戦闘は苦手なんだけど‥‥」などと言っていたが、俊敏に戦っている。 「これでどうか」 しかし、後ろを気にしたのは一瞬のこと。望は素早く左手のカッツバルゲルで連続攻撃。手数で敵を黙らせる。 「モハメドさん、いい仕事したね」 真世はといえば、敵の誘引と先制攻撃をしてさっと引いたモハメドを迎えて労いの言葉を掛けていたり。 「先の旋律はかなり広範囲に届くようですね。別方向からも来てますよ。‥‥アイシャ君、出番です」 「ちょっと真世さん、近寄っちゃだめですよ〜」 クリスに言われ鉄弓を構えるアイシャ。まさかと思って真世の方を見たら案の定まずは近付こうとしていたので釘を刺しておく。‥‥前にもこんなことありましたねぇと思いつつ。 「っと。最近、自分が弓術師だって忘れてましたけど‥‥身体は覚えています! ‥‥だといいな」 最後に頼りない一言がついたが、すっと構えつつ呼吸を整えるアイシャ。うん、いつもの通りと内心落ち着く。 「木に気をつけてね 」 中距離支援をしていたまりねから声が飛ぶ。タイミングを一つずらしたアイシャ。後ろにコーヒーノキが重ならない場所に狂骨が来たところを狙った。見事的中。さすがに一撃必殺とはいかない。次を番える。 「バシバシとぶつけるのじゃ」 別の場所で印を結ぶのは、禾室。狙った狂骨目掛けて雷の刃が放たれる。 「次じゃの」 味方の攻撃の後の止めにけん制と、撃ちまくる。 「肝心のコーヒーノキを守るためには‥‥」 「手早く対処。だよね、かむろ?」 禾室が雷火手裏剣で削った敵を、まりねが詰めてナイフで屠る。 ディディエは、魔法支援に徹する。 「間違ってもですねぇ、未来のコーヒー農園を焼くようなことになってはいけませんし〜」 攻撃魔法は封印だ。 そして、ずいぶんいた敵を一掃。 「この程度のアヤカシでは束になってかかってきても物足りませんね!」 びしり、とファルシオンを振り下げてアーシャが堂々見栄を切るのだった。 ● 「へえっ。コーヒーノキって、人の二倍くらいあるんだね」 「あ、まよねー。ちょっとそのあたりの果実を収穫してこの袋に入れて」 真世が見上げていると、まりねが地面に杭を打ったり筆記用具で記録をとったりしていた。区画による味の違いなどを記録するつもりだ。 「ほう。まりね君、良い仕事をしてますね」 「うんうん。美味しいものはこうでなくては〜」 クリスが感心し、ディディエもにっこり。 「茶は黒いのに、元の実は赤いんじゃの‥‥。ちょっと齧ってみても良いか?」 禾室が目を丸めながら、齧る。 「どうです?」 「うーん。‥‥味気ないのじゃっ」 こういうことには熱心なディディエが寄って来るが、禾室は眉の根を寄せるだけ。どうも果肉の部分は薄く、あまりおいしいようではないっぽい。 これを見て、まりねも齧ってみる。 「こ、この区画の味は‥‥っ! ‥‥うん、あたいにはよく判んないよね」 ひとまず味のは、保留。 「じゃあ、次に行きましょー」 先を促すアーシャだった。 ● そして、翌日。 「じゃあ、次に行きましょー」 春を思わせるワンピの裾をなびかせ、アーシャが椀那の繁華街へ駆け出した。胸元の桜桃の飾りが揺れる。 「ほら、アイシャも真世さんも禾室さんも早くぅ。お買い物は女のたしなみですよ〜」 今日はたっぷり連れ回すんだから、と振り返って満面の笑み。アイシャと禾室、真世は顔を見合わせくすっと微笑すると、一緒にアーシャを追うのだった。 「女性は華やかでいいですね」 「彼女たちは特別に輝いてますよ」 林青と加来が肩をすくめて見送っている。 「さてと、南那の景気をどげんかせんといけませんねぇ、はい」 ディディエは、残って現地の協力者・労働者の説得に移っていた。南那の領主、椀氏が一括して買い取る制度を採るため各農家も動くが、新たに開拓した農園となる山は収穫者が必要だ。 「あ、もはめど? ずいぶん新しい人が集まってきたよ」 リュートで「心の旋律」を奏で集客していたモハメドを、まりねが満面の笑みで振り返った。 「ヤ・アソハーブ、皆さん」 ここでモハメドが「語り」に入った。 「天儀の方達は、このカホワであなた達や南那にも大きな関心を持つでしょう。イザン、ですから、あなた達は南那を大きく活気付ける“開拓者”になれるのです、インシャッラー!」 何かが始まる、何か大船に乗れる。そんな雰囲気を盛り上げる。 「コーヒーにしても文化にしてもそうです。まずは南那のことを知って貰わねば始まりませんです、はい」 ディディエは、この大船に乗るとコーヒー以外も大きな恩恵があることを滔々と話していた。本来、内向的な南那の住人や商人たちであるが、事前に加来が天儀について語り南那の味方であることを説明していたため、そっぽを向く者はいない。 ちなみにこの時、クリスは収穫したコーヒーの実から豆を取り出したり選別する作業を加来からみっちり教わっていた。実直な加来の人柄を観察しながらということもあってか、実に熱心。南那の人が、開拓者たちがいかに熱心であるかを実感した瞬間でもあった。 「それじゃ、珈琲収穫体験会! 開催だよー♪」 まりねの元気少女的な声が響き渡る。 「やはり、一緒に働きながら言葉を交わすのが一番です」 と望。 どうも同じ作業をして汗を流し、交流して仲良くなりつつ信頼を築いていくつもりだ。もっとも、望としては異国の人と話をしたりするのが楽しみなのであるようだが。 ● ところで、買い物組。 「店員はメイドと執事、でしょ。装飾や衝立は、南那のものがいいと思うんです」 「ジルベリア風の服に建物全体は天儀風。だから、そのほかで南那風の雰囲気を出す。‥‥さすがお姉。いいセンスをしてますねー」 雑貨店で、アーシャとメイド服姿のアイシャがノリノリだ。 「あ、これ可愛くない〜? ‥‥ねーねー、アイシャ、ほら、ちょっと付けてみて?」 って、アーシャさん。何可愛い系のアクセに目を輝かせてんですか? 食器をそろえるんでしょう。 「やっぱり〜、私の見立てどおり! ‥‥これいくらですか?」 「こりゃ、アーシャ。おぬし、役目を忘れとらんか?」 見かねて禾室が突っ込む。 「まあまあ。脇道にそれることもご愛嬌〜」 どうやら値段を聞いたのは本気ではなかったようで。「う、まあそれならよいがの」と禾室。 「ほらほら真世さん、狐耳♪」 「こ、今度は狐耳ですか。アイシャさん〜」 「む。狸の方が可愛いんじゃわい!」 二人して狐耳。どうやら本気ではないけど、本腰を入れて買わない買い物を楽しみ始めたようですよ。 実は、食器などは加来に丁寧に頼んでどの食器を買えばいいか教えてもらっていたので、そういった方面にしか女の子の楽しみがなかったという事情はあったのだが。 さて、彼女たちが戻るとまりねと望がいなかった。 「現地に行ったんだね。その分、私たちが頑張ろうっ」 真世の言葉に頷く三人。 「あ。わしが張っておいた張り紙を持った人が来ておるのじゃ」 禾室も早速説明に。 「私達と一緒に是非この素敵な飲み物を広めてみませんかー」 アイシャは、メイド服姿で珈琲の試飲会。味を確かめてもらうのが目的ではない。どうやって天儀で活動したかを報告しているのだ。 「これは、清楚で可愛いな」 「椀那、いや、南那にはない雰囲気で、楽しそうだ」 「なるほど。これはなんというか、応援したくなるな」 どうも受けているようで。 この一発で、鼻の下を伸ばした親父を中心に協力者や労働者が殺到したという。 もちろん、まりねと望の行った収穫体験会でも、多くの失業者が働きたいと言ってくれた。 「好きこそ物の上手なれってね♪」 「余所者の自分たちが興味を持って収穫しているのを見て、改めて珈琲の商品価値に気付いてもらったようです」 にまっと会心の笑みを浮かべるまりねに、現地の人とのふれあいと分かり合えた実感を握り締める望だった。 ● そして、夜。 開拓者たちは宿で夕食を取りながら、今度は「珈琲茶屋・南那亭」の場所について話し合っていた。 「やはり、開拓者ギルドの傍がいいのでは?」 身を乗り出し、アイシャが主張する。 「そうですね。さまざまな人が通り、旅慣れている人も多いですから。受け入れてもらいやすい環境が整っています」 「うん。一度ウケれば評判が各地に回る効果が期待出来るしの!」 力強く頷くクリスに禾室。ほかの皆も同意の様子だ。 「私も当然そう思うんだが‥‥」 林青は、言葉を濁した。 「この前当たったけど、もう空き店舗はなくって無理っぽいよねぇ」 真世が肩を落とした。 「ナァム、事情は分かります。無理ならば避けましょう」 モハメドが、豚肉料理の入った皿を避けながら言った。 「ギルドから、路地を曲がってどのくらいで〜とか説明できる場所であれば宜しいのでは?」 料理が美味いのだろう、満足そうな顔つきのディディエが指摘した。 「ショクラン、ありがとう。‥‥そうです。立地条件が悪くても」 そう続けると、モハメドはリュートを取り出した。 ♪異国の地より届けに来ました 開拓者たちはギルドをあとに 右に三町 左に一町 遥かな芳香漂うところ カホア・アルナンナティ 香陽ある南那亭 軽やかに歌って見せた。歌による店舗案内だ。 「なるほど、大通りから一つくらいなら裏道に入ってもこれなら大丈夫そうですね」 林青が納得した。あとは、彼の手腕に任せることとなる。 「珈琲を嗜むおじさん風の実物大人形があれば‥‥」 「白い燕尾服で白ひげで、カップにソーサーを持って‥‥」 乗ってきて話の弾むモハメドとアーシャだが、それはちょっとどうだろう。 「のぼりでもいいです」 と、アーシャ。それなら大丈夫かも? 「天儀風は残したいですよ」 「赤い実が綺麗じゃった。あんな飾りを作って、全員のメイド服と執事服につけたいのじゃ」 「甘いものについては、天儀のものも」 望と禾室が身を乗り出し、ディディエも口を挟む。「うん。ぜひ実現させよう」と真世もノリノリだ。 念願の店舗に向けて、話は尽きない。「楽しみだねー」とまりね。 さて、どうなるか次回をご期待。 ●おまけ ところで、クリスが何やら持ち出してきましたよ。 「時間をかけ豆の大きさを均一にして、上澄みでも底でもない中間層を注いだ至高の一杯です」 そういえば日中、収穫した豆とは別に、市場で購入した珈琲をさらに厳しく選別しごく少量の良さそうな豆は高級そうな磁器に入れていた。どうやらそれを使ったらしい。 「趣味、ですよ」 手間隙掛けた理由を、そう説明する。 「あ! おいしいっ」 真世が口元を押さえ驚いていた。 「そういえば真世君、コーヒーを『おいしい』と言ったのは初めてですね」 突っ込む林青。 「だって、自分たちの収穫した豆だモン」 「‥‥これは、クリス君が選別した豆でしょう?」 林青と真世のやり取りに、皆が笑う。それだけ格別の一杯、いや、それだけではない。格別の仕事をやってのけたということかもしれない。 「んもう。‥‥でもきっと、みんな美味しいって言ってくれるはずだよね」 クリスにそう話し掛ける真世。実際、甘い物好きの彼女でも、苦いだけではないコクやほのかな甘み、華やかな香気が気に入った様子だ。 クリスは無言で微笑みながら、うんうんと頷くのだった。 |