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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● 希儀には人がいませんでした。 発見した人々が大地に立ったとき、遺跡だけが残っていたのです。 遺跡は、多くのことを教えてくれました。 ここに、人々が住んでいたこと。 どんな物を食べ、どんな服を着て、そしてどんな生活をしていたのか。 ですが、それは「最後に滅んだ文明」のものです。 もしかしたら、その文明より先に滅んでしまった文明があるのかもしれません。 大きな文明に飲み込まれた、小さな文明が。 そして、その滅んだはずの小さな文明が救ってくれることもあるのです。 いいえ。 少なくとも、そんな文明に浪漫を感じた冒険者達は感謝しているのです。 小さな、それでいて大きな絆をもたらす冒険自体に――。 ● 中型飛空船「チョコレート・ハウス」は空の上。 「さあ、行くよ。六つの短剣と一つの盾が導く場所に!」 艦橋で、チョコレート・ハウス艦長のコクリ・コクル(iz0150)が晴れやかに顔を上げて言った。彼女の目の前には、エトーリアの紋章と謎の三文字の彫られた短剣いくつかと、手に入れられなかったものの、彫られた三文字だけを記した紙、そして同じ紋章のある盾が並んでいる。 三文字の暗号は、 「とをの」 「もがせ」 「てはい」 「たをさ」 「るはし」 「めがに」 そして盾に彫られた文字は、 「たてもてとめる」 だった。 七戦器と呼ばれる、最後のエトーリアの王「ミナル」を守っていた猛者の数と一緒である。 「みんなの意見も聞いてみないといけないけど、これまでの解読法だと……」 コクリ、そこまで言って止めた。 「ボクは、みんなを信じる。その場所に行ってみるだけだよ」 彼女の目の前には、副艦長の八幡島、学者崩れの男、そして空賊「空の斧」の赤熊などがいる。みんな、無言で頷いている。 「しかし、これは計算外じゃったの」 学者崩れは、新たに出てきた 【エトーリア王家紋章の首飾り】 を掲げて首を捻る。 首飾りの表面は三枚二対の葉に挟まれ装飾された盾のエトーリアの紋章が宝石で飾られ、裏面には三日月と満月、そして逆の三日月と海面が彫られていた。 「ま、行ってみりゃ分かるさ」 八幡島は気軽に言う。 「そうだね。何があるか……もしも本当にエトーリア王家再興のための埋蔵金が隠されているなら、まだ何かあるかもだし、準備はいろんな準備は必要だよね」 「しっかし、もしも本当にそこにあるなら、空と大地と海の冒険をしたってことになるなぁ……。いやあ、コクリの嬢ちゃんさまさまだな」 コクリが言ったところで赤熊ががはははは。 「おい、コクリの嬢ちゃんのことはコクリ艦長と……」 「この上、コクリの嬢ちゃんの水着姿が見れるたぁ、眼福眼福」 「そ、そりゃ一応持ってきたけど……ちゃんと武器も持って行くんだからね!」 ぐいと身を乗り出す八幡島に構わずコクリをからかう赤熊。コクリ、赤くなっている。 「まあ、場所は分かってもそのどこかは分からないからのう。さまざまな準備は必要じゃて」 学者崩れは首飾りを念入りに調べている。 「い、いくらもう海で泳げるといってもだなぁ、希儀は朱藩と武天が開拓に力を入れてんだ。すぐにでも行って先にお宝を手にしないといけない時に……」 「だから水着が必要かも知れないんだろ?」 真面目な話をしようとした八幡島だが、赤熊に指摘されてぐぬぬ。 「あん、もう。とにかく行くよ。呼んだみんなもそろそろ到着するはずだし」 艦橋を後にしたコクリ。 とにかく、後は財宝を発見するだけだ。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
アイシャ・プレーヴェ(ib0251)
20歳・女・弓
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621)
16歳・女・騎
アナス・ディアズイ(ib5668)
16歳・女・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
小苺(ic1287)
14歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ● 「まだ、何かあるかもしれません」 チョコレート・ハウスの食堂で朽葉・生(ib2229)がじっと視線を落としている。コクリ・コクル(iz0150)や他のメンバーも同じ場所を見詰めていた。 生の指先が、テーブルに置いた【三文字の記された紙片】に掛かる。 すい、すいっと場所を動かし整えた。 紙片は 「たをさ」 「てはい」 「もがせ」 「てはい」 「とをの」 「めがに」 「るはし」 の順番になった。 「前に他の方がおっしゃった通り、『たてもてとめる』の順に並べ替えると最後の列に『さいせいのにし』と出ます」 生の説明に、うん、と皆が頷く。これは皆も同じ思いである。 「でも真ん中は『をはがはをがは』……うにに???」 猫宮・千佳(ib0045)は真ん中に注目して首を捻る。 『そこは関係ないと思うにゃよ?』 相棒の仙猫「百乃」が猫髭をへにょっとさせて主人を横目で見る。 「正直なところ、私もそうは思うのですが気にはなります」 「大ちゃん、どう思う?」 うーん、と細い顎に手を当てる生の横からひょこっとルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が顔を出した。相棒の羽妖精「大剣豪」にも聞いてみる。 『ううん、さっぱりだ!』 「あたいもだよ!」 緑色のロングツインテールを振ると、にこっ。つられてルゥミも、にこっ。 この時、生を挟んで反対。 「それより、エトーリアの財宝ってどんなものなのでしょうね?」 シャルロット・S・S(ib2621)は目を輝かせワクワクしている。 『そうそう、それだよねっ』 「どんな宝が出てくるんだろうね♪」 ルゥミと大剣豪がシャルの方を向いてこくこく。 「コクリさんはどう思われます?」 生、目の前でちっさな女の子たちがきゃいきゃいやってる頭越しにコクリに聞いてみた。 「えっと、ボクも生さんと同じところまでしか……」 「暗号は全て揃った。今ここに道は開かれる、謎を解き明かしいざいかん。お・た・か・ら・にゃー!」 答えたコクリの背後から小苺(ic1287)が現れた。 コクリの背中に飛び乗って肩車状態になり、まだ見ぬ先を指差したりとテンションが高い。下のコクリは小苺の着ている旗袍「白鳳」の前布がぴらりんと下がってきて前が見えずおたおた。 「ええっと、『さいせいのにし』。……これは、首飾りに月が描かれていた事も考えて、月が再生の為に沈む西の海の事を指しているんだと思う」 天河 ふしぎ(ia1037)が身を乗り出しこれまでの話を改めてまとめる。 「中の真ん中は、『はがはを』。……首飾りに三枚二対の葉で挟まれた盾が描かれていたし、海面にそういう地形が無いかな?」 ふしぎがそういったところで新たな声が。 「ん、この紋章だね。気になるねぇ」 これまで聞き役に徹していた新咲 香澄(ia6036)だ。 「星好きのボクの推理としては、月と潮汐の関係かなって思うよ。きっと月に一度、もしかすると年に一度の干潮の時に海底が出ることがあるんじゃないかな」 香澄、手にした【エトーリア王家紋章の首飾り】を掲げて見解を話す。 「そうですね。首飾りについて考えられる機能としては……」 同じく聞いていたアナス・ディアズイ(ib5668)も身を乗り出す。 「首飾りそのものがないと通れない場所がある、表の紋章をはめ込む場所がある、あとは……ふしぎさんの言ったとおりでしょうか」 アナスは三つ指折り数えて見せた。 「だったらとにかく行ってみるしかないにゃーっ!」 「水着持ってきたにゃよ♪ コクリちゃんも着替えるにゃ〜」 コクリに肩車で乗っている小苺が威勢よく拳を突き上げ、下では千佳がコクリの胸に服の上から水着をあてがいサイズを確認したり。 「香澄さん、ちょっと」 アイシャ・プレーヴェ(ib0251)は騒ぎをよそに香澄の持つペンダントトップを下からすくった。裏面に刻まれた満月の模様などをしっかりと確認する。 「潮は満ち引き、月は巡る。人のいなくなった儀で持ち主を待ち続ける過去の財宝…なんだか切ないような…ロマンがあるような。不思議ですね」 模様に興亡を見たのだろう。しっとりと呟く。 「うんっ、そうだね。……行こう、財宝が待ってる」 コクリがアイシャを見て頷いた。アイシャも物思いを振るって頷く。 もちろん皆も力強く頷いていた。 ● 「あれが、『夢の岬』と『翼灯台』だよ」 チョコレート・ハウス甲板からふしぎが目を輝かせて下を指差した。 眼下には、第二最西端の岬とそこにある灯台の廃墟があった。 「ふしぎちゃんの小隊が一番乗りしたんだっけね」 「ま、まあ後から真の最西端が発見されちっゃたんだけど……」 香澄が気持ち良さそうに見下ろし言うと、ふしぎは赤くなった。 「ですが、逆を言うとここはその時に多くの開拓者に調べられましたからね」 生が落ち着き払って指摘する。もちろん、その時にエトーリアの財宝など出てこなかった。 「真の最西端はもっと先かにゃ?」 「そうだね、小苺さん」 うきうきする小苺に声を掛けてなだめるコクリ。 「そういえば、遺跡を探した時も第一の宝箱があって、そこから真の隠し場所があったにゃ」 「これを発見したときですね」 千佳がぽむと手を打ち鳴らし、アナスは紋章の首飾りを目の高さにかざしてみる。 「今度はすんなり発見できるといいですね、コクリさん」 アナスは期待を込めて、コクリに首飾りを手渡した。 「あとは……大丈夫だとは思いますが」 アイシャは皆とは反対に、大空に目をやった。 背後には空賊【空の斧】の飛空船がいた。臨時の船が見付かったようで、チョコレート・ハウスの背後を守るようについてきている。 「コクリさん?」 そしてそっとコクリに耳打ち。 「……付き合いが長い訳でないですし、寝返り空賊さん達がおかしな事をしないか、私がそれとなく見守っていますね」 「う、うん」 コクリ、アイシャの配慮に感謝した。何かをこっそり渡しつつ。 「大ちゃんとあたいも、空賊残党みたいな奴らの横取りに注意し周辺を警戒するからねっ」 反対からはルゥミが元気と大剣豪が元気良く宣言。 「ルゥミさん、それ言っちゃ……」 「大丈夫ですのよ。シャルもそのつもりでレーヴェ弐式改を持って来たですの」 あー、と絶句するアイシャ。新たにシャルロットもやって来てアーマーケースをどーんと置く。 「もちろん、警戒は怠りません」 アナスも不敵に微笑して、自らのアーマーケースに腰掛けて足を組んだ。 そして真の最西端上空に到着した。 「潮が引いてる! これから満ちるかまだ引くかは分からないけど、チャンスだよ!」 海を見下ろしていた香澄が顔を上げ声を張った。肩に乗る管狐「観羅」は主人が目を離した隙に何か異変が起きないか、下を向いたまま注意している。 「首飾りにある模様のような海域があるかもしれない、僕は先に出るよ」 ふしぎが待ちきれずに滑空艇・改弐式「星海竜騎兵」にひらりと飛び乗って急発進。可変翼を広げて風を大きくつかむと、回避するかのようにチョコレート・ハウスを巻いて高度を落とし飛び去った。 「にゃ! ま・け・な・い・にゃー!」 目の前を素早く動くものにびくっと反応する猫のように、小苺がぴぴんと反応し駿龍「舞風(ウーフェン)」に向かう。舞風、主人の気紛れは慣れっこのようで首を下げて乗りやすい姿勢。小苺が乗ったのを確認すると、ふしぎの後を追い飛び立った。 一方、香澄の肩の上。 『高みの見物……というタマではないな?』 「あったり前。コクリちゃん、先に行くよ!」 香澄、うっすらと目を細めた観羅に聞かれて答える。踵を返し、いつものように艦載滑空艇を借りるべく走った。 「うん。頼んだよ、香澄さん」 『妾たちは…』 「まだにゃよ」 見送るコクリに、不安そうに主人を見る百乃。千佳が出撃を否定したのを聞いて、内心ほっとしている。 「はいは〜い。チョコレート・ハウスは海に下りるの?」 「岩礁地帯だから陸上に降りるそうですよ、ルゥミさん」 大剣豪と一緒に手を挙げ質問するルゥミをアイシャがにっこりなだめていたりも。 「コクリさん、最後の出撃になるといいですね」 生も艦載滑空艇を借りて飛び立った。その横に、相棒の迅鷹「ヤタ」がすぃ〜っと付く。主人と一緒に手分けして、広域に変わったところがないか確認するようだ。 「着陸する瞬間はシャルがお守りしますの」 シャルロットが甲龍「サンダーフェロウ」で飛び立つ。 「そうですね。空で何かあればアイシャさんやルゥミさんもいますし」 アナスも先に地上で待機するため、艦載滑空艇を借りて出た。 「頼むね、みんな! ……でも」 空を眩しそうに見上げ仲間を見送ったコクリ。 しかし、手掛かりは見付かるのだろうかという不安が過る。 「岩礁地帯だから、きっと紋章のような場所も…」 ふしぎは岩の出ている、複雑な場所を探している。 一方の香澄。 「小苺さん、生さん、干潮で海面に岩肌が出てくるところを探してっ!」 こちらは比較的岩の出ていない海面を飛んでいた。 「わかったにゃー」 「了解しました」 左右に分かれる小苺と生。 「……月に一度、もしかすると年に一度の干潮の時に海底が出るっていうのだと無理かも知れないけど……ん?」 ここで、気付いた。 海に、一直線の道があることを! いや、それはまだ海底ではっきりしないが、明らかに一本の道がうっすらと浮かび上がっているのだ。 はっとして両端を見る。 片方は陸につながっている。 もう片方は……。 「六つの柱!」 海から、六つの岩が突き出していたのだ。 いや、それは柱ではない。ぱっと見るだけでは規則性のない、高さも大きさもまちまちな尖った岩ではあるが、香澄はそこに何かを期待していた。その目から見ると、いびつながら六角形を描いているのだと看破できる。 「『六戦器』! 見つけた…潮は引いてるよね? 急がなくちゃ!」 皆に知らせるべく急いで翼を翻した。 下では刻一刻と、海の道が姿を現していた。 ● 「やっぱり必要になりましたね」 潮が大きく引いて現れた、沖まで続く道を背にアナスが金髪をひらめかせて言った。 「ここは誰も通しません。安心して行ってきてください」 アーマーケースから出して展開した「人狼」改型駆鎧「轍」に、すらりとした腰を捻って搭乗する。ぎぎぎ、とチェーンソーとシールドを構える姿はいつも通りの頼もしさがある。 「いきましょう、コクリちゃん。最早守るとはいいませんの。防御はお任せくださいですの」 見上げていたシャルは、背中のアーマーケースを展開する変わりにコクリの手を取った。 「うん!」 「観羅、一緒にいくよ。海に入るかもだけど我慢してね」 頷くコクリを横目に見て微笑し、香澄が先行して走る。観羅は『そうなったら姿を消すだけ』と達観している。 『もしかして我も…にゃ? ふ、船の上で万が一の時のために待機とかは…にゃ゛ー!?』 これを聞いた百乃は、びくっと身を引く。 「うに、コクリちゃんが行くのならあそこに行くにゃよ!」 それをワシ掴みにして千佳が走る。 シャルとコクリも走り出だした。 「行くよ、大ちゃん!」 『みんなと一緒にかけっこだ!』 ルゥミと大剣豪も仲間を追う。 大潮で海に現れた道は、同じく大潮で姿を現した六つの尖った岩で囲まれた平らな岩場に続いている。 「……まるで闘技場のようですね」 ヤタと同化し、光の翼で空を舞う生がコクリたちを守るように左について飛び、ぼそり。 「そうですね、生さん。何が出るかわかりませんし…」 右には、空を飛ぶ戦馬「ジンクロー」を駆るアイシャが付いた。ロングボウを構え一つ弦をかき鳴らすと……。 「アヤカシ、います!」 慌てて声を張った。 一直線の道に、岩の人形みたいな敵が立ちはだかったのだ。 「そんなことだろうと思ったよ」 香澄、忍刀「風也」を振るう。その背後をコクリたちが駆け抜けた。これを確認して、今度は反対の手の陰陽刀「九字切」で……切りつけずに白狐をど派手に放つ! 先頭にたったコクリたち。さらに岩の人形が。 「にゃ、コクリちゃんはやらせないにゃー!」 今度は千佳がマジカルワンドを手に矢面に立つ。いや、蔦を呼んで敵を拘束したぞ。 「後はお任せを…」 そこに空から生が急降下。錫杖「ゴールデングローリー」をかざすと不気味な音が。小さな暗黒空間が生まれたかと思うと敵の二の腕を空間ごと抉り落とした。 ここをコクリとシャル、ルゥミが抜けていく。 残した敵に、ととんと矢が立つ。 「背後は任せてください」 アイシャ、見事な六節で敵を圧倒する。 そして――。 「着いた!」 「シャルはここで通せんぼですのっ!」 干潮で現れた大地に立つコクリ。シャルは道を封鎖するように「遠雷」改型駆鎧「レーヴェ」を素早く展開。コクリの背後を守る。 「まるで前の遺跡みたいだね〜」 『前って……地下闘技場っていってたね!』 目を大きく見開いて周りを見回したルゥミの言葉に、大剣豪が無邪気に指摘する。 その瞬間だった! 「あっ!」 コクリの叫び声。 目の前の地面。尖った岩の影が盛り上がると、ぬっそりと大男の姿になったのだ。 その数、三体。槍使いに斧使い、そして剣使いだった。 ――がっ! 剣使いがコクリに襲い掛かるが、コクリは抜刀して敵の剣を打ち反対に身を投げかわす。 さらに槍使いが襲ってくるぞ。 「大ちゃん!」 『ルゥミもコクリかんちょーも守るよ!』 これは獣剣「ヨートゥン」を振りかざす羽妖精、大剣豪がカットイン。ルゥミのマスケット「魔弾」も火を噴くが、敵の斧使いは盾で防ぐ。 「え、何ですの?」 振動に気付いてシャルが振り返り戦闘状態を知る。 その横を矢が飛んでいるのは、アイシャの遠距離射撃だ。 「やっぱり財宝の守護者がいたにゃーーーっ!」 高空からは小苺が舞風で急降下。ばさっと翼を広げてソニックブームを放ち味方からの注意を逸らす。 「守護者……そうか! コクリ、紋章の首飾りを!」 同じく高空から異変に気付き翼をたたんで突っ込んできていたふしぎがピンと来て叫んだ。 しかし、コクリからの反応はなく防戦するのみ。 「コクリ、僕の声が聞こえない?」 さらに叫ぶふしぎ。 「ふしぎさん、首飾りは私が持ってます。『空の斧』の目を欺くために!」 なんと、首飾りはアイシャが持っていた。 「考えがあるなら使ってください!」 アイシャ、掲げて見せた首飾りを投げた。 「分かったよ」 ぱしりとキャッチしたふしぎ、「ごめん、星海竜騎兵」と呟いて海面へ緊急着水。 そのまま滑って……。 ――どかっ、ごろごろ……。 尖った岩にぶつけて止まり、自身はコクリたちの前に転がった。 そして。 「ばんばんだよ!」 身を投げたルゥミが下から敵の振りかぶった剣を狙う。 痛烈な一撃で敵は武器を弾かれた。高く舞った剣。 そこでふしぎが立つ。 「正統に財宝を継ぐものと認めて、道を譲るといいんだぞっ!」 コクリとルゥミの前で、【エトーリア王家紋章の首飾り】を高々と掲げた。背後にはシャルのレーヴェがそそり立ち、光の翼の生と空を走るジンクローに乗ったアイシャも後ろに控えた。 するとッ! ● 足元の岩場に亀裂が入り、隙間から金色の光条が走った。 その光に包まれると、三体の守護者たちは足元の影に戻るようにして、消えた。 もう、敵の姿はない。 光条も一瞬で消えた。 足元の亀裂もない。 「大丈夫でしたか?」 長い距離の道をオーラダッシュで渡ってきたアナスが、轍のハッチを開け顔を出して皆に聞いた。 「ええ。宝物には番人がいるものですわ。……でも」 シャルもハッチを開けて姿を現し、アナスを振り返って呟いた。 そして前を向く。 「でも、認められましたの」 前にいる仲間を誇らしく見る。 ――ひゅんひゅんひゅん……ざくっ! 時が止まったような世界で、先ほどルゥミの射撃で空高く飛ばしていた剣が落ちて来て岩場に刺さった。 いや。やはり本体と同じく、すぐにもとの影に戻ったが。 「あれ?」 ここでコクリ、気付いた。 剣が刺さり消えた後の亀裂から、金色の輝きが覗いていたのだ。 「コクリちゃん、掘ってみるといいよ? 見張りはボク達がやっておくからさ」 いつの間にか追いついてきていた香澄がそれだけ言って、背後を守るように背を向けた。 コクリ、頷き屈む。 ざくりと短剣を差して岩をはぐ。 そこには金の延べ棒がたくさん埋まっていた。 「うわあああ〜」 その輝きと量は、ルゥミの目がキラキラと輝くほどだった。 「やったねコクリ」 ふしぎは金の延べ棒を持ち立ち上がったコクリの手を取り、ぴょんぴょん跳ねて。 「終わり……かにゃ?」 舞風に乗っていた小苺は皆を眺めつつ、どこか呆然としていた。 それから。 「土木作業なら、と思ってたのですが」 岩場に座って長い足を伸ばしてリラックスしたアナスが残念そうに言う。 「すぐに潮が満ち始めるとは思わなかったですの」 シャルは詰まらなさそうにレーヴェを収めたアーマーケースに腰掛けて足をぶらんぶらん。 どうやらアナスは轍で掘削作業をしようとしたが、すぐに潮位が上がってきたので慌ててオーラダッシュで戻ったらしい。シャルのレーヴェもしかり。 「でも、皆さん用意がいいですね〜」 アイシャが水辺を眺めながら言う。 視線の先には、わずかながらの砂浜があった。 「コクリちゃん、脱ぐにゃ脱ぐにゃ〜☆」 「ちょ…千佳さん引っ張りすぎ〜っ」 「仕方ない。大ちゃん、あたいたちも手伝うよっ」 『合点承知だよっ!』 フリルたっぷりの水着姿になった千佳がコクリの上着をぐいぐい引っ張っている。 これに気付いたルゥミと大剣豪がコクリのスカートをぐいぐい引っ張っている。 そんなこんなで、コクリも水着姿に。ホルターネックのビキニ姿だ。 「ルゥミさんたちまで……あれ? ルゥミさんもそういう水着が好きなの?」 「うんっ。白スクだよ♪ ゼッケンに『るぅみ』『だいけんごー』ってそれぞれ書いてあるんだ♪」 コクリに指差され、ルゥミがぺったんこな胸をそらす。大剣豪も真似したり。 一方、ここから逃げようとする者も。 『もしかして我も潜らないといけない…にゃ? ふ、船の上で万が一の時のために待機とかは…にゃ゛ー!?』 「百乃も行くにゃ! さっきの宝探しにゃよ〜っ!」 千佳、逃げようとする百乃の首根っこ掴んで海にどぷ〜ん。 「あははっ。沈んだ宝探しだねっ」 「うん、行こう」 ルゥミとコクリも、どぷ〜ん。 この様子を見て、アイシャはにっこり。 「ふしぎちゃんは滑空艇が壊れてないか確認中か……生さんは」 「大体、地図に書き残しましたよ。……本当は洞窟があると思ってましたが」 すらりと立つアイシャの横に腰掛けていた香澄が気付くと、筆記用具を持った生が近寄ってきていた。これで後からここに来ても財宝のありかは分かる。 「チョコでここに来るとは思わなかったね、なんか感慨深いよ。うん」 香澄、改めて最西端の海を見て呟く。 「当時の人はどんな想いでここからの景色を見ていたのでしょう?」 アイシャも寂しそうな視線で海を見る。 「千佳さんも言ってたけどあの財宝、チョコのために使いたいよね」 「でもコクリさん、『チョコにはもうたくさん宝があるから』でしたね」 視線を上げて香澄が言う。視線を落としてアイシャが微笑する。どちらも誇らしげだ。 ――ざぱっ! コクリたちが海中から戻ってきた。 特に収穫はなかった様子だが、いつの間にやらルゥミと千佳と三人で水の掛け合いが始まっている。大剣豪も加わってきゃいきゃいと水しぶき。 「……ダメにゃ。冒険し足りないにゃ。コクリにゃーん!」 これまでずうっと塞いでいた小苺が立ち上がり掛けて行き、コクリに抱きついた。 「ボクたちの旅はまだまだ続きそう、かな?」 香澄。 ボクも交ざろうかな、と立ち上がる。 財宝は結局、希儀の復興のために使われることになりそうだ。 空と大地と海の冒険者たちに、絆の品だけをもたらして。 |