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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ●泰猫隊のオリーブ農園で ここは希儀のとあるオリーブ農園。ある男が物置にしている廃屋で屈みこんでいた。 「三枚の葉っぱが外に広がる枝で装飾された盾の紋章……これだ!」 「こっちにもあった! 瑞鵬(ズイホウ)さん、見て!」 瑞鵬、と呼ばれた男が朽ち果てた鎧を探し当て、別の場所にいた少女がベルトのようなものを掲げて振り向いた。 少女の名は、コクリ・コクル(iz0150)。 活発で少年のようにも見えるが、女の子だ。 何をしているかというと、再興したオリーブ農園にコクリたちの追っている「エトーリア人の紋章がある品」がたくさん出ているため、まだ整理していない村内などを探しているのだ。もちろん、どういう経緯でそんな品がここにあるのかは、謎のままである。 「ダメじゃの、価値は無い。必要なのは三文字の彫られた短剣ですじゃ」 ぐりぐり眼鏡を掛けた、グナイゼナウに乗り組んでいた学者崩れが言う。 「そんなこと言ったって……、あ!」 「どうしましたかの、艦長」 何かに気付いて声を上げたコクリに、学者崩れが問う。 「ねえ、三文字はもう五つも集まったんでしょ? だったら、全部そろわなくてもこれが何を意味するか分かったりしないかなぁ?」 コクリ、振り向いて明るく言い放つ。 「……まあ、艦長の言うことは間違いではないの」 学者崩れ、一呼吸置いて言った。 「じゃあ、探すのはもういいですかね?」 瑞鵬、瓦礫に突っ込んでいた上半身を上げて肩を竦めた。 「暗号には鍵がある。それが見付からん限りは安心はできん。おそらく、今回の暗号」 学者崩れ、慌てて瑞鵬に返した。 「そも、城塞都市『エルベテリ』を領地として栄えておった少数民族、エトーリア人が滅ぼされ、最後の幼少王『エトー・ミナル』が『七戦器』と呼ばれる部下と国家再興を目指し財宝を隠したということまでは我輩の研究で分かったことでありまして……」 「はぁ……」 コクリ、溜息をついた。もう何度も聞かされているのだ。 「この『七戦器』に財宝のありか、もしくは最終目的地を託したのであるなら、短剣は七つもしくは八つあると考えられますの。と、すれば五つはまだ半分……」 「お!」 ここで瑞鵬の声。 「見てください、これは凄いですよ」 「え? 何?」 「どれじゃ?」 コクリと学者崩れが集まる。 瑞鵬が持っていたのは、エトーリアの紋章と「たてもてとめる」の文字が彫られた盾だった。 「……決まりましたの」 「え?」 きらーん、と瞳を輝かす学者崩れ。驚くコクリ。 「短剣の数は、六つですじゃ」 「どうして?」 「エトーリアの紋章を模しておると考えるのが妥当ですじゃ」 ははぁ、と納得する瑞鵬とコクリ。確かに盾と短剣六つであれば紋章のとおりで、形式美として最上である。 「ええっと。ということは……」 頭を整理するコクリ。 いままで出てきた暗号は、 「とをの」 「もがせ」 「てはい」 「たをさ」 「るはし」 の短剣に刻印された五つと、 「たてもてとめる」 の、新たに発見した盾に刻印された文字だ。 「うーん、どういう意味があるんだろう?」 首を捻る。 「大変だ!」 ここで、八幡島副艦長が廃屋に飛び込んできた。 「『地獄蜻蛉』の残党が攻めてきやがった。滑空艇とアーマーと、歩兵の混合部隊だ」 どうやら前回、「空の斧」と相打ちとなって不時着した飛空船「シャルンホルスト」に乗り組んでいた凶悪派空賊「地獄蜻蛉」が接近しているらしい。アーマーを展開しているということは、戦う気満々だ。 「まさかとは思うが」 「我輩が裏切って情報を送るはずもあるまい。あのアーマーは『ターゲット・バレル』で鍛えた者が乗っておるはず。甘く見ないほうがよろしいの」 疑う八幡島に、敵の情報をくれてやる学者崩れ。 「よし。確かターゲット・バレル用にアーマーを運んできたはずだよねっ。ボク、それで出るよ!」 コクリ、言うや否や廃屋を出た。 「だ、大丈夫か……」 八幡島、呆然とコクリを見送るが、いつもの開拓者仲間がいるんだからと自らを落ち着けるのだった。 |
■参加者一覧
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
アイシャ・プレーヴェ(ib0251)
20歳・女・弓
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
シャルロット・S・S(ib2621)
16歳・女・騎
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
アナス・ディアズイ(ib5668)
16歳・女・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
小苺(ic1287)
14歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ● コクリたちが探索していた以外の廃屋で。 「にゃにゃにゃ!? コクリちゃんが!」 がたん、と音がしてがらくたが崩れると、ネコ耳頭巾を被った猫宮・千佳(ib0045)の頭がひょっこり覗いた。驚きで目はいつにも増してまん丸。 「コクリさんがアーマーで出たんですか?」 熱心に探しものをしていた手を止め、アナス・ディアズイ(ib5668)も振り向いた。駆鎧乗りで分解好きなだけに、こういうガラクタの山は嫌いではないのかもしれない。 「はい。私がこちらに来る前にものすごい勢いで……。しかもアーマーに乗って出るって」 伝えに来た泰猫隊のメンバーが慌てて説明する。 「コクリちゃんのピンチとあれば!」 ぴょ〜ん、と上からシャルロット・S・S(ib2621)が小さな体で飛び降りてきた。 すたん、と着地すると小さな顎を上げて前を見据える。 「駆けつけない訳にはまいりませんの!」 ぴゅ〜っ、と駆け出していく。その速いこと速いこと。 「コクリちゃん無茶過ぎにゃー!? 百乃、急いで追いかけるにゃ!」 『今回は地上にゃ? 気合入れるにゃー!』 千佳の横に仙猫「百乃」がぴょ〜ん、と下りてきて並走する。後ろ姿は仲良くしっぽふりふり。 「まったく……アーマーでいくなんて随分な無茶をしますね」 あれって消費がばかにならないんですよね、とアイシャ・プレーヴェ(ib0251)。 「騎士で効率稼動があれば随分違いますが、コクリさんでは厳しいですね」 アナスと一緒に廃屋を出る。 時は若干遡り別の場所。日の当る農場前にて。 「オリーブ農園、おっきいよね〜」 ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が大の字ジャンプしてはしゃいでいる。 その後の廃屋では。 「建物のある程度復旧させていますね」 朽葉・生(ib2229)が興味深そうに補修された壁などを確認していた。 「ああ。俺たちの人生、泰を出てからこういうのばっかだったしな」 泰猫隊と楽しく話している。 さらに、その補修した壁に寄りかかりぐったりする者。 「にゃ、負傷してしまったにゃ…。一生の不覚でござる…にんにん。にゃー!!」 小苺(ic1287)だ。 別の依頼で頑張りすぎて本調子ではないのだろう。いつも元気そうな猫耳がしゅんとお辞儀してたり。もどかしさのあまり最後は言葉とともに爆発するが。 「そういうこともあるわ。疲れた時は美味しいものを食べてゆっくりすることね」 シーラ・シャトールノー(ib5285)が焼きたてのクッキーを持ってきた。これに小苺、がつがつと食いつく。ストレス発散の食べっぷりに思わずシーラが微笑む。 その時。 「大変です、『地獄蜻蛉』の残党です!」 チョコレート・ハウスの乗組員が知らせに来た。 「あっ! コクリかんちょーがアーマーに乗って出たよ?」 「あら、往生際が悪いわね。そしてコクリさんは無茶しすぎだわ」 振り返り指差すルゥミに、流石に面の引きしまるシーラ。 「すいません、確か馬がありましたね? 貸して下さい。馬は戦闘に巻き込みませんので」 生は、ばさっ、と肩に舞い下りてきた迅鷹「ヤタ」を撫でて泰猫隊に言う。 「あ、はい。準備しておきます」 「他の方にも声を掛けてきます!」 慌てて駆け出す泰猫隊。生は廃屋の方に走る。 「少し掛かりそうね。あたしたちが先に向かっておくわ」 「うんっ。オリーブ園は荒らさせないよ! 白き死神、ごー!」 シーラとルゥミは急いで滑空艇の方に行く。 これを、負傷している小苺が見送る。 「我慢…我慢の子。うぎぎぎぎ…ふしゃー!」 じたばたして出撃を我慢していたようだが、そんなものはネコジャラシの前の猫と同じ。 結局シーラとルゥミの後を追って走っているのだった。 ● さて、コクリ。 「アーマーって、一度乗ってみたかったんだよね〜」 すとんと軽快に操縦席に収まりつつ気軽な一言。 「じゃ、行くよ!」 起動させ、じゃこんじゃこんと戦場に向かう。 一方、遠くに見える敵アーマーはかなりのろのろした動きをしている。 「しめた。村には近寄らせないよ!」 これがアーマー初心者の過ちだった。 その隣に、戦馬「ジンクロー」を駆るアイシャがついた。高速走行で直線一気。後方からあっという間に追い付いた。 「コクリさん、焦らず速度を……あ」 アイシャが声を張ったところで、がくんとコクリのアーマーが動力停止した。高速走行でないと追いつけない距離を移動していたのだ。騎士ではなく、初期状態のアーマーをコクリが使うとこうなる。 「んもーっ。やっぱり滑空艇がいいよねっ」 がこん、と出てきたコクリ、ぷんぷん怒ってるが自業自得。 「コクリさん……はいはい、鬼さんこちらですよー?」 アイシャ、駄々っ子を見るようにしたが前方から徒歩で近寄る敵に気付いた。前に躍り出て注意を引き、ロングボウ「フェイルノート」を放ち横に移動する。 すとん、と立った矢は敵の手前だったが、敵は前進を止めた。 「届くか? この距離!」 「止まれ! 上を待て」 敵の動きにアイシャも気付いた。 上空待機していた敵滑空艇部隊が低空域に降下してきたのだ。 「ジンクロー、出番です。下は任せましたよ?」 アイシャ、陸上部隊の動きと牽制は愛馬に任せ自身は対空攻撃に専念するつもりだ。 ひゅん、と空に放った矢で敵を散らす。とはいえ、数が多い。このままでは集中砲火を浴びてしまう。狙う瞳に厳しさが宿る。 が、見上げたアイシャの瞳に希望の光が戻った。 ――どぉん……。 空で魔砲「スパークボム」が轟いた。 その爆風から、ルゥミの滑空艇改「白き死神」とシーラの滑空艇改「オランジュ」が飛び出してきた。 「むー。逃げてくれちゃうな〜」 ルゥミ、一瞬早く気付かれ散開されたことを悔しがる。 「さすがに一度戦った敵、ということかしらね。」 「でも、今度は長銃と魔槍砲用のラックを作ったから換装も早いよ♪」 そんな会話をしつつ、ルゥミとシーラが敵に上から攻撃を加え駆け抜けた。 いや、ルゥミが留まったぞ? 「ルゥミ?」 「農場に行かれるわけにはいかないから。あたい、ここで戦うよ!」 振り返るシーラにルゥミが手を振る。すでに攻撃を食らっているが。 「あたしが大きく動き回ればいいことね」 シーラ、ぐんとオランジュの機首を引き上げた。 一方、アイシャ。 「空陸連携。空は皆さんに任せて存分に行きますよ」 ぽん、とジンクローの背中をたたいて本番はこれからだと前を見据える。 が、ついに敵の魔槍砲一斉射撃が来た。 「ちょっとした隙に詰めてきますね。……さすが先手必勝型というべきですか」 言うわりに焦ってない。 愛馬に高く跳躍させて敵の意表を突くとそのまま踏みつけ。間髪入れずに一気に駆け抜け弓を射る。 もちろん、アーマーから出たばかりのコクリがノーガードになった! 「うわっ!」 先の魔槍砲一斉砲火も主にコクリとアーマーを狙っていた。激しく食らって後ろに倒れるアーマーと放り出されるコクリ。 この時。 「あたしのコクリちゃんを傷つける人は絶対に許さないのにゃー!」 どかかっ、と馬を駆り千佳が颯爽と……いや、必死の様子で登場! 「コクリちゃんから離れてー!」 シャルも馬に乗って駆け付けた。 「ありがとうございました。さあ、後は農園まで走ってください!」 生も一緒だ。借りた馬から下りると農園の方へ向かせて尻をたたく。ひひん、と一気に馬は帰って行った。おや、その動きに合わせもう一頭が寄り添い帰って行ったぞ? そして、人狼型駆鎧「轍」も巨体を響かせ走ってきた! 「シャルロットさんが駆鎧を展開するまで私一人で何とかします」 轍の操縦席で面を引き締めるのは、アナス。皆とともに馬を借りたが、わざと手前で下りてアーマーを展開していた。 これがうまいこと相互補完になる。 目の前から、敵のアーマー2体がついに前線に到着していたのだ。 「マジカル♪ メテオにゃ!」 どおん、と着弾する千佳のメテオ。が、敵はすでに散っている。一度戦っている様子を見られているだけに対応も手堅い。 「千佳さん、助かります」 この、割れた敵正面をアナスの轍が突破した。 「よくもコクリちゃんを…シャルは怒りましたの!」 シャルはこの隙にアーマー「遠雷」改「レーヴェ弐式・改」を展開。おしりからすとんと操縦席に収まる。 「くっ……」 シャルのレーヴェ弐式・改の後ろでは、倒れていたコクリが頭を振ってようやく上体を起していた。 「コクリさん!」 膝をついた生がコクリを支え、レ・リカル。かざした手からほのかに輝く白い光が広がりコクリを包んだ。 「生…さん」 「コクリさんは少し休んでいてください。大丈夫です。シャルロットさんたちがいますし……」 聞いたコクリに優しく微笑む生。ここでばふぅ、と煙幕が発生する。レーヴェ弐式・改のアーマースモークだ。 「私も、飛んできます」 立ち上がる生。 そこに迅鷹「ヤタ」が舞い降りてきて煌めく光となった。瞬間、生の背中に光でできた翼が生える。 ――ばさっ。 そして、飛翔。 同時に地面が盛り上がり接近していた敵をぐらつかせた。 『ふふん、地上なら全力で行けるにゃ! 空にいた時と同じと思うんじゃないにゃよ!』 「百乃、よくやったにゃ!」 千佳の仙猫「百乃」による土隆衝。さらに千佳が雷撃を放ち敵を寄せ付けない。遠くではまたアイシャがジンクローに乗って跳躍し、踏みつけ。下・上・正面と幅のある攻撃で敵の注意力を削っている。 ● 「駆鎧を盗賊稼業に使うとは駆鎧乗りへの挑戦です!」 操縦席で気迫を見せるアナスが、敵アーマーに突撃していた。 シールド「グラン」 を構えて半身の状態で一気にオーラダッシュ。アーマー用儀礼外套が華麗になびく。 これに対し、敵アーマーも迫撃突。 ――ガツッ! 腹に響くような衝撃を伴う激突。 が、ともに譲らない。耐えた。 ぎぎぎ、と押し合いをする中でアナス、隠し気味に持っていたチェーンソーをゆうらり、と構えた。 同時に盾を持つ手で相手を抱え込む。 ぎゃりりり……と回転鋸が敵の間接に当てられた。 「駆鎧ごと解体されるか投降するか選びなさい」 勝負所と声を大きくするアナス。 「あっ!」 しかし、敵はわざとバランスを崩しすかさずポジションリセットすることで嵌めた上体から離脱した。 無茶な動きでいっそう間接が切断されたが、悪い選択ではなかった。 「まだまだ!」 攻め手休まず組みつくアナス。 とにかく、完全に一体の自由を奪った。 「シャルは!」 こちら、シャルロット。 迫る敵アーマーにがしょんがしょんと正面から接近すると、駆鎧の鋸刀を大きく掲げた。 ――がしっ! 操縦席で小さな体が大きな衝撃に揺れる。 が、歯を食いしばって顔を上げる。金の前髪は揺れるが、青い瞳は揺るがない。 「ぜえぇぇぇったい負けないですのっ!」 敵のアーマーソードを食らったがレーヴェ弐式・改を信じ、一歩も引かない。雷鳴のような轟音と共に機体が白い蒸気で包まれ、機体がオーラを纏う。 そしてぶうん、と駆鎧の鋸刀で半月薙ぎ。まずは付近の歩兵も散らす狙いもある。 がしん、とくらって敵は仰け反るが、こちらも一歩も引かない。 間合いを置いて構える。 「敵ながらやりますですのっ!」 改めて一呼吸置く。敵もシャルの出方を待っている。 もちろん、引かない。 後にはコクリがいる。 「シャルは……」 レーヴェ弐式・改、踏み込んだ。敵も応じる。 「シャルロット・シャルウィード・シャルフィリーアですの!」 名乗りを上げて小さな可愛い騎士が行くッ! 渾身の、駆鎧の鋸刀が振るわれた―― 一方、空。 「そういうこと……」 装弾のためいったんオランジュを戦線離脱させたシーラが気付いた。 シーラは縦の動きを繰り返していたが、敵も似たような動きをしていたのだ。 空は敵が数的優位を保ち、巧妙に射程を気にしながら範囲攻撃を受けないよう行動していた。最初は、「敵もなかなかやるわね」と感じていたのだが理由が分かった。 「もともと地上の援護が目的だものね」 ルゥミの空中戦の最中に、数的有利を狙えるにも関わらず地上にちょっかいを出しているのだ。低空飛行を意識しているから、敵も自然と上下動が激しい。 「じゃ、あたしも射撃戦じゃなく本格的な格闘戦をしようかしら?」 それだけ言うと上昇途中で失速した。 ものすごい勢いで墜落している。 いや、弐式加速だ。 狙いは、上空に逃げてからまた急降下しようとしている敵。 「一つ」 背後について射撃。敵、よろける。 常に数的有利を作る作戦を敵が取っているのは知っている。今度は先の滑空艇を援護する位置にいる敵の背後に捻りこんだ。 「二つ」 シーラが機首に固定しているのは、爆連銃。四発打ち切るまで装填は不要だ。 射撃を受けふらつく敵を追い越し、燕返しで背面飛行しながら正面に回った。 「三つ!」 ばきっ、と敵滑空艇から音がした。そのまま墜落する。 いずれも、弐式加速で射程の間合いを計らせない速攻だった。 「あたいのスパークボムを見てよっ!」 ルゥミは初撃で交わされたスパークボムにこだわっていた。 ――ひゅん、ひゅん……。 が、敵に読まれて苦戦している。それでも繰り返すルゥミ。魔槍砲「赤刃」を再装填する間に微妙な間合いから射撃を受ける。 「む〜。分かってるんだからっ。そうやって上から攻撃して、あたいを地対空攻撃の網にかけようってゆーんでしょ?」 下を見ると、敵歩兵が戦闘しながらも上を気にしていた。その手はくわない、と高度を死守する。少々攻撃を食らっているのはそのためだ。その分、シーラがうまく動け上空待機する小苺に負担が掛かっていない。 「さあ、もうゆるなさいよっ♪」 ルゥミが装填完了した時、正面から迫っている敵がいた。魔槍砲を構えても動じないのは、射程ギリギリから撃ち込み離脱するつもりにちがいない。先程までの攻撃で完全にルゥミの間合いは悟られていた。 しかしっ! ――どーん! ルゥミの撃った一撃は今までの倍くらい伸びたのだ。 「な、なにぃ?」 滑空艇に手痛い一撃を食らいコントロールを失う敵。撃墜だ。 「届かないと思ってれば回避行動も遅れるよね♪」 瞳を輝かせえへんと威張るルゥミ。 魔砲「ゼーレゲブリュル」。 射程を延ばす技。 姿勢を低く保ってしっかりと構える形で銃を固定したのは、そういう意味もあった。 「車にゃんきちと戦った時の応用だよ」 ひゅん、と飛び去りながら得意そうなルゥミ。魔槍砲開発依頼での経験が生きる。 「もー我慢できないにゃーっ!」 上空で爆発しているのは、小苺。重体食らって安全策を取り待機していたのだが、味方の数的不利についに業を煮やした。 「攻撃は駿龍の舞風に任せれば大丈夫にゃ。今回は絶対の頼みなのにゃ」 急降下する相棒にすりすりと感謝する。確かに相棒に乗れば、相棒が普通に戦ってくれる。 『ぎゃ!』 しかも舞風の基本戦法は高速飛行からのソニックブーム。さらに駿龍の翼で回避・回避。 「頼りになるのにゃ〜。にゃ!」 その主人思いの戦いっぷりにらぶらぶすりすりしていた小苺だが、もちろん敵も射撃隊。乗り手に目を付けることもある。わざと攻撃を受ける舞風。小苺はもちろん、怒る! 「何するにゃ!」 掌から気を放つ。残念ながら気功波の射程は短く、届くような距離だと逆にかなり危険。ただ、牽制にはなった。 ここで、結構高度が下がっていることに気付く。 「無事ですか、小苺さん」 光の翼で羽ばたく生が横についた。 敵、これに目を付ける。 「ここは私に任せて安全な場所に」 「ぎぎぎぎー」 悔しそうにしながら相棒に連れ去られる小苺。 「はっ!」 生、敵の突っ込みを急上昇してかわすと太陽を背にする。 「青天の蒼雷を食らいなさい」 振るった錫杖「ゴールデングローリー」から雷の束が複雑に折れながら一直線。サンダーヘヴンレイで敵を撃つ。 「これで敵の思惑は崩れたかしらね」 シーラの微笑。 味方の数がそろい敵撃墜したことで戦場の流れが完全に変わった。 後は陸だ。 シャルロットのレーヴェが、左手をぶらんとさせて立ち尽くしていた。 アナスの轍も左手が使い物にならなくなっている。盾を持った腕を相手の脇の下に差し込み自由を奪いチェーンソーを当てていたのはいいが、逆間接に決められたのだ。 だだし、二人が相手をしていた敵アーマーは沈黙している。アナスは分解伝説にまた一体を加え、シャルはコクリを守ったことに誇りを感じていた。 「ちょこまかわずらわしいにゃ〜っ!」 千佳はやっぱりメテオど〜ん。隙を見て節分豆をぱりぽり食べている。 が、敵はやや好戦的ではなくなっている。 アーマー二体が倒れ、空からの援護がなくなっているからだ。 そんな中、敵のボスが騎馬に乗り戦場を掛けている。 「ええい、敵アーマーは足の裏を集中して砲撃せよ。陣形、立て直せ!」 その馬に、遠くから並走する影があった。 「さて。そろそろ本気でいきますよ?」 アイシャだ! ロングボウ「フェイルノート」をキリリと引き絞り片目を閉じ、ジンクローに身を任せて狙っていた。 いや、ややトランス状態に陥っているか。狙う佇まいが、まるで振動に、風に、精霊に身を任せているように神懸かっていた。 ――しゅっ! 放たれた矢は薄緑色の気を纏って飛び、敵ボスの腕に刺さった。 「くっ! 円陣組め、引けっ、引け〜っ!」 同時に魔槍砲の一斉射撃が来た。 「なかなか……統率が取れていますね」 空から戻ってきた生が、とんと爪先から大地に降りて呟いた。 農場が守られればそれでいい。 深追いはしなかった。 「コクリちゃんーーー! だいじょうぶですの? 怪我はありませんの? 無茶しちゃ駄目ですのーーー」 レーヴェから下りたシャルが一目散にコクリに駆け寄り抱きついた。 「う、うん。大丈夫だよ。それにしてもシャルさんたち、アーマーを使いこなして凄いよね」 「で、結局これはなんの騒ぎですの?」 シャル、良く分からず飛び出したようで。 ● 「はい。野菜とハムや魚をオリーブオイルで炒めたものよ」 戦い終わって、シーラができたての料理を運んできた。 「チーズとオリーブオイルのいいにおいがするにゃ! これを食べて、次回予告『シャオ、不死鳥のごとく蘇る!』にこうご期待にゃ!」 小苺、重体のわりに元気が有り余っているようで。 「これを食べたら轍で農作業を手伝いたかったのですが……」 「左手を直すのが先ですのー」 手っ取り早く敵のアーマーを倒した代償にうなだれるアナスとシャル。 生はひっ捕らえた敵を回復しているぞ? 「謎解きにはこの集団からの情報も必要かと思いまして」 「知るか。そこの学者に聞け!」 まったく役に立たないようで。 「で、どうです?」 敵の視線を追ったアイシャがぐりぐり眼鏡の学者崩れに聞いてみた。 「ん?」 呼ばれて振り向く学者崩れ。一心不乱になにをしているかと思えばシーラの料理にがっついていた。 「たてもてとめる〜たてもてとめる〜♪」 「まあ、こうかしらね。……二行目が言葉にならないのが気に食わないけど」 小苺とシーラが短剣に記されていた文字を書いた紙を、新たに発見した盾の言葉に当てはめてみて言う。「ま、そんなとこじゃろ」 学者も太鼓判を押す。どうやら盾の文字に短剣の頭文字を並べればいいみたいではある。 「うにー…む、難しい事はわからないにゃー…」 「あたいよくわかんない!」 千佳はぷしゅー、と頭から湯気を上げくらくら。ルゥミは元気に何も考えない。 「気を付けな。最後の空賊はおそらく『わざわざまとめてもらった』そのセットを狙いに来るぜ」 そういう奴だ、と捕らえた敵。どうやら生に回復させてもらった恩を返しているようだ。 「あまり無茶はしちゃだめなのにゃ! コクリちゃんが大怪我なんてしたら寂しくなるにゃよっ」 新たな戦いの予感に、千佳はコクリに向き直りうるうると訴えるのだった。 |