【ch】メールストルム作戦
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/03/28 00:04



■オープニング本文

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●「空の斧」を仲間にして
「ま、凶悪派空賊をのさばらしておくのは治安上良くない。協力するしかないだろう」
 ここは希儀の空。
 風に吹かれるに任せつつ、副艦長の八幡島が重々しく言う。
「でも、ボクたちががわざわざ戦わなくてもいいんじゃないかなぁ?」
 コクリが八幡島の精悍な横顔を見上げて聞いた。
「ん? コクリの嬢ちゃんは冒険は好きじゃないのかい?」
「いや、そりゃ好きだし眠った宝が見付かるかもしれない暗号ってとってもワクワクするけど……チョコレート・ハウスは交易船だし」
 にま、と見詰め返されコクリは慌てた。
 そして八幡島、コクリの返答に満足そうな笑みを浮かべた。満足そうにぽん、とコクリの肩を叩く。
「それでこそ艦長だ。……だがな、状況はちょいとおかしなことになっててな」
「え?」
 今度は難しそうな顔をして八幡島が唸る。
「実は、俺たちの運ぶオリーブを作ってる農園に、その紋章の描かれた物が結構出てきてるみてぇだ」
「ボクたちの取り引きするオリーブ農園って……泰猫隊の?」
「そう」
 つまり、残りの空賊を放っておいたらいつかは嗅ぎ付けてオリーブ農園に襲来してくる可能性があるかもしれないということだ。
「じゃ、泰猫さんたちに早く連絡して先に紋章の品を全部集めておいてもらえれば……」
「だめだ」
 身を乗り出すコクリを冷静に止める八幡島。
「騒げば、漏れる。……ふしぎなことにそういうもんだ。今も紋章と空賊のことなんかは現地に話してねぇ。だから、余計なことも考えずに普通に働いてるだけだ。これを話して泰猫隊たちが調査を始めて騒ぎ出すとむしろやべぇだろう。まずは空賊を潰しておいて、速やかにオリーブ園の村を再調査だ」
「うん……うん、そうだねっ」
 八幡島、農園に先に話すと欲に目が眩んで内部分裂するかもしれない、などまでは話さなかったが、コクリが納得してホッとしている。
「俺らを帯同してんのもそーいうわけだ」
 ここで、ふふんと「空の斧」の頭目、赤熊が胸を張った。
「人間なんざどこで裏切るか分からんからな。……おっと、今の俺たちはいい関係だ。ここであんたらを裏切ると本当に後がないんでな」
 きっ、とコクリが振り向くと赤熊は豪快に笑った。
「その代わり、後から武天西海岸の元の縄張りで活動できるだけの支援は忘れんなよ?」
「チョコレート・ハウスがその空域を通っても手を出さない、ってのも忘れんな?」
 にま、と不敵に笑い合う赤熊と八幡島。どうやらそういう話で折り合っているようだ。
「だから、今から残り三つの空賊をぶっ潰す時も安心しな。……すでにあいつらからは俺たちは敵なんでな。そして、俺たちとしても奴等は憎き敵だ。手下を何人も失った恨みは忘れねぇぜ」
 怒りに燃える赤熊。このあたり、穏健派空賊の真っ当な部分だ。
「でも、敵は本当に護衛無しの旗艦だけかなぁ?」
 コクリ、これからの作戦に一抹の不安を抱いているようだ。
「そりゃ間違いねぇ。俺たちがやられた時も四つの空賊が旗艦一隻で集まった。もしその時、他の空賊が事前の申し合わせをやぶって護衛艦と一緒に来てたら俺たちじゃなく、その約束を破った空賊が一番にやられていたはずだ」
「しかし、今回は集まったところを不意打ちしてお前さんをぶっ叩いた後だろう? 守るとは限らんぜ?」
 そもそも申し合わせを破ってんじゃねぇか、と突っ込む八幡島。
「大丈夫。もう、今回集まるのは決戦のつもりだからな。……このまま俺たちがその空域に行けば、戦う空賊どもを外から叩けることになる。うまくいけば二隻叩ける」
 ぐふふ、と復讐に燃える赤熊が拳を握る。
「じゃあ、主にどれを狙う?」
 八幡島が聞いた。
 敵となる三空賊の名前と旗艦、特徴は次の通り。

・空賊「三つ目鴉」/中型飛空船「シャルンホルスト」/堅守知略型
・空賊「地獄蜻蛉」/中型飛空船「グナイゼナウ」/先手必勝型
・空賊「槍天狗」/中型飛空船「プリンツオイゲン」/猪突猛進型

 三空賊とも現在、宝珠砲は弾切れ中。射撃戦闘をする滑空艇部隊による空母船となる。
 戦闘の輪の外側から奇襲するショコラ隊だが、迅速な攻撃のため先に想定してどれを一番に狙うか決めておく必要があるだろう。
 うまく嵌れば、二つの空賊を攻略できる。


■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
新咲 香澄(ia6036
17歳・女・陰
猫宮・千佳(ib0045
15歳・女・魔
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
朽葉・生(ib2229
19歳・女・魔
シーラ・シャトールノー(ib5285
17歳・女・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
小苺(ic1287
14歳・女・泰


■リプレイ本文


「『天狗』が狙いを定めたようだね」
 天河 ふしぎ(ia1037)が大空を見上げて呟いた。
「やっぱり猪突猛進してる。後背から一気攻撃で制圧できるよ!」
 新咲 香澄(ia6036)も目をきらめかせて見上げている。
「やっぱり旗艦と滑空艇は黒塗りだね♪ そんな気はしたんだ」
 隣にいるルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)も大きな瞳を見開いている。
「ええ。『プリンツオイゲン』の特徴は事前に聞いてたとおり……狙いやすくていいわね」
 シーラ・シャトールノー(ib5285)も小麦色の面を上げて頷いた。

 四人は他のショコラ隊とともに、中型飛空船「チョコレート・ハウス」の甲板にいた。
 その上空では、空賊「三つ目鴉」の中型飛空船「シャルンホルスト」、空賊「地獄蜻蛉」の中型飛空船「グナイゼナウ」、空賊「槍天狗」の中型飛空船「プリンツオイゲン」が三方から空域に接近していたところだ。つい先程、ふしぎの言うように猪突猛進が身上のプリンツオイゲンが加速した。先手必勝のグナイゼナウも加速している。二隻の狙いは、堅守知略のシャルンホルスト!

 そしてチョコレート・ハウスは低空域を航行しつつ同空域に接近していた。協力する空賊「空の斧」の旗艦「大戦斧」も一緒だ。
「よぉし、もうバレてもいいぜ! 急速上昇!」
 副艦長、八幡島の野太い声が響いた。
「もちろんコクリちゃんも行くでしょ?」
 香澄、コクリ・コクル(iz0150)を振り返った。
「コクリちゃん、今回は一緒に出撃頑張ろうにゃ♪」
『く、空ばっかり。なんで空ばっかり! これだけ出ても慣れないにゃー…』
 コクリには猫宮・千佳(ib0045)が抱き付き頬すりすり。千佳の相棒の仙猫「百乃」下で遠い目だったり。
「コクリさん、狙いは『プリンツオイゲン』ですね?」
 コクリの背後に回った朽葉・生(ib2229)が肩に手を置き言った。
「うんっ。そうだね、生さん」
「にゃー! まず狙う飛空船はプ…プリ…プリンオケツにゃ!」
 振り向くコクリ。横では小苺(ic1287)が気勢を上げる。なんだか下を噛み噛みな感じ。
「噛むにしてももうちょっと表現が……」
「見て見て! これすっごいでしょ? あたいの超火力で悪・即・どっかーんしちゃうよ!」
 呆れる香澄の横で、ルゥミがクラッカー大筒を得意げに掲げている。
「さて。……私は今回が初参戦。なら私の腕を皆さんに見てもらいませんとね」
 そんな小さな女の子たちの賑やかな姿に微笑んで、アイシャ・プレーヴェ(ib0251)が相棒の空龍「ジェイド」の背に収まる。
「おっと。……さぁみんな出撃するよっ!」
 香澄、アイシャの様子を見て踵を返す。滑空艇「シャウラ」に乗り込んで大きく声を上げた。
「じゃ、俺は戻って手下に第二陣として出発させるぜ?」
 こちらにいて意思統一していた「空の斧」の頭目「赤熊」も後方に滑空艇で飛び立とうとしている。
「作戦がうまくいったら、今度は本格的なデザートを振舞うわ」
 赤熊の背中に、滑空艇改「オランジュ」に乗り込もうとしていたシーラが振り返って親指を立てていた。
「いいねぇ。俺っちらにゃ姉さんのような料理人はいないんで、若いもんらは大喜びだ。きっといつも以上に働くぜ?」
 振り向きにやりと返す赤熊。シーラ、ウインクして乗り込んだ。
「仲間思いのその気持ち、好きだな。義の無い奴らは、只の悪党だ……改めて、よろしく頼むよ!」
「逆に言うと、気を付けなよ。凶悪派は仲間に対しても酷いもんだ」
 風読のゴーグルを掛けたふしぎ、赤熊に右手を差し出し握手する。ふしぎ、頷き風読のゴーグルを掛けると滑空艇・改弐式「星海竜騎兵」に乗る。
「ショコラ隊、出撃!」
 滑空艇「カンナ・ニソル」に乗ったコクリの合図。
 一斉に9人が飛び立った!



 さて、最初に動いたプリンツオイゲン。
 滑空艇部隊を出して知略堅守型のシャルンホルスト目掛けて襲い掛かっていた。
 呼応するように、グナイゼナウも滑空艇を出してシャルンホルストを狙った。
 この機会に知略堅守型を亡き者にする目論見。一対一ならプリンツオイゲンの方が組しやすしとの判断らしい。
 一方、シャルンホルストは一瞬うろたえたような動きをしたが、すぐに落ち着いた。
 シャルンホルスト側から、ショコラ隊の存在が見えたからである。

 その、ショコラ隊。
「やっぱり知略型は動かないにゃ。好き好き突撃してくるのを様子を見て……にゃ! 三角関係にゃ! リア充・滅……」
「小苺さん、それきっと違う……」
 ぴぴんと来て駿龍「ウーフェン」に乗ったままだしだしと暴れる小苺。慌ててコクリが寄ってきてなだめている。
「そして猪突猛進の方は艦載機が上がってきませんね……まだ気付いてないのでしょうか? それとも全機出撃したのでしょうか?」
 紫色の防具で固めた王獅鳥「司」に乗った生が細い顎に手を当ててしばし思案する。
「どちらにしても奇襲は必要。上空に回ってくるわね」
 シーラ、オランジュを軽快に動かし上昇し離脱した。彼女のやり方はもう分かっている生、頷くだけ。
「だったらあたいは下。暴れん坊天狗め、やっつけちゃうぞ!」
 今度はルゥミ。白い滑空艇「白き死神」を失速させて急降下。低空に下りると一気に再加速していた。
「進路上の妨害がないなら……船を揺らしてみるに限ります。下はルゥミさん。上はシーラさん……」
「じゃ、アイシャさん。一緒にこのまま大きくいこうか!」
 ジェイドに乗るアイシャの横に香澄の赤い滑空艇、シャウラついた。悪戯っぽくウインクしている香澄。
「いいですね。香澄さんとは気が合いそうな気がします」
 アイシャ、にこ。
  この間に奇しくも味方三方の準備が整った。
 船底部分で、ルゥミ。
「ここからなら甲板からの攻撃はないよね。叉鬼で砲撃! 悪・即……」
――どっかーん!
 クラッカー大筒がド派手に火を噴いた。
「おわぁっ!」
 揺れるプリンツオイゲン。甲板の人員が揺れに驚き悲鳴を上げる。
 時を同じくして、上部後方。太陽の中。
「敵の滑空艇がいないんじゃつまらないわね」
 ぎゅん、とシーラのオランジュが急降下してきた。
 捻って敵船甲板を避ける直前に、射程の短い魔槍砲「連昴」をぶっ放す。
「どわっ!」
 機械弓を持った甲板員に痛打を食らわしそのまま下に身を隠した。まさに一陣の風。
 直後、敵船後背の同高度からアイシャと香澄が肉薄していた!
「敵の滑空艇が上がってくれば味方の進路を切り開くのですが……今は!」
 アイシャ、放った。
 ロングボウ「フェイルノート」から放たれた矢は衝撃波をまとって敵甲板を舐めた!
「今度は何だ?!」
 流れ星のように一直線に通過する矢。周囲に奔る衝撃波に翻弄される甲板対空員。
 この攻撃に振り返った者は身を縮ませることとなる!
「ぶちかますよ、ボクの霊魂砲。一番近い敵に!」
 香澄がシャウラで肉薄しているっ。
 掲げた陰陽刀「九字切」を振るうと霊魂型の式が銃弾のように敵目掛け一直線。
「いったいなにが……げふっ!」
「敵襲ーっ!」
 吹っ飛ぶ甲板員。その手前で対空弓兵が必死に組織的行動を取ろうと指示を出していた。
「……皆さん、一度距離を置く様お願いします」
 次に突っ込んできた生が錫杖「ゴールデングローリー」を掲げている。いま、詠唱は終ったところだ。
「船上の火種に潤いを……ストームレイン!」
――ごぉぅ……。
 瞬間、激しい風と精霊力の雨が荒れ狂った!
 ダメージを受け濡れる敵。
 この野郎、と反撃の顔を上げた次の瞬間だった。
「コクリ、続いて。……行くよ、星海竜騎兵。空を荒らす奴等を、僕は許さない!」
 ふしぎが星海竜騎兵の可変翼を畳んで高速で突っ込んで来ていた。生は範囲攻撃を一発か増したあと、司に大きく翼を広げさせて上空に離脱している。
――どぉん……。
 ふしぎの魔槍砲「虹」が火を噴いた。
 銃を捨てて投擲ナイフに換装した敵を撃つ。
「これが戦陣『龍撃震』だね、ふしぎさん!」
 続いてコクリが雷鳴剣。
「にゃふふ……突っ込む姿はまさに猪。おけつはお留守にゃ」
 さらに続いて小苺が相棒の駿龍「舞風(ウーフェン)」で素早く飛び込んできてばさりと一発、ソニックブーム。突風の衝撃波で甲板員をふっ飛ばす。
 こうして駆け抜ける三角編隊。
 そして最後に。
「うに、着艦にゃ♪」
 味方の薙ぎ払った甲板に千佳が着艦。
『こんな船はさっさと制圧して依頼終わらせるにゃ』
 すとん、と仙猫・百乃も下り立ち周囲に目配せ。
「この小娘!」
「一人とはいい度胸だ!」
 たちまち周りから狙われる。
 が。
――ストトン。
「上空は私たちが取りました。大人しくしてください」
 接近したアイシャからの射撃が敵の足元に刺さる。
――どぉん……ぐらぐらっ。
 船底への衝撃がしたと思うと下からものすごい勢いでオレンジ色の滑空艇が上昇してきた。一葉半と呼ばれる特徴的な翼は、シーラのオランジュ。V字型に捻って戻ってきたのだ。
「諦めてはどうかしら?」
 流し目をくれながら飛び去るシーラ。
 そして。
「千佳さんっ!」
 つるべ落としのように上空から強引に着艦してきたコクリが叫ぶ。
「コクリちゃん、ここの防衛は任せたにゃよ! あたしは中へと突入にゃー!」
 頷く千佳、百乃とともに船内に走る。コクリはそれを見送って甲板で白兵戦。
 ここに、香澄も下り立った。
「香澄さん?!」
「おっと。抵抗しないなら痛い思いしないで済むよ。抵抗するなら……」
 コクリと背中合わせになると敵をけん制する。
「ん?」
 この時、上空のアイシャが気付いた。
 進展していた周りの戦況に。



「さすがに……ルゥミさんの砲撃で異変に気付きましたか」
 呟くアイシャ。
 目の前では、母船の危機に気付き引き返してくる黒い滑空艇の集団があった。ルゥミを狙っているのでやや低空を飛行している。派手だったので仕方ない。
 上空に飛び去ったシーラも気付いている。
 そして別の動きにも。
「ふふっ。本当に『いつも以上に働く』みたいね」
 なびく黒髪を見るようにしている先には……。
「よぅし。前は一対三でこてんぱんにされたが今度はそうはいかねぇ!」
「菓子職人の姉ェさんに礼がてらいいとこ見せなきゃな!」
 空賊「空の斧」の滑空艇部隊が戦線に突入してきたのだ!
「……さて三発目」
 ルゥミの方は単動作からの二発目を食らわせたところ。
「お嬢ちゃん、お客さんだぜ?」
 ここに「空の斧」たちが登場。ルゥミの護衛に付いた。
 もう「槍天狗」の滑空艇部隊は目の前だ。
 そればかりではない。
 上空からしっかりと戦況を見ていた小苺は呟く。
「……先手必勝型の『地獄蜻蛉』はやっぱり相手の隙を突いてくるにゃ。そして、その攻撃にはかなり自信があるのにゃ」
 そう。
 「槍天狗」が堅守知略型の「三つ目鴉」を狙う動きを見て共同戦線を張ったかに見えた「地獄蜻蛉」が、今度は「槍天狗」を狙うべくついて来ていたのだ!
「出鼻を挫き返し。攻撃を仕掛けてくるなら、邪魔をするにゃ!」
 小苺は舞風を急降下させる。
 場面はルゥミたちに戻る。
「うおっ。もう撃ってきやがった」
 「槍天狗」たちからバーストアローや乱射が来た。
 ここで、上空からオレンジの機体が突っ込んできた。
「ブレイクしたほうがいいわ。その後は各自ドッグファイトかしらね」
 一撃離脱しつつ叫ぶ。
 もちろん、この動きについていく者が。
「甲板には行かせないんだからな!」
 ふしぎが突っ込んでいる。
 こちらはシーラのように突き抜けず、魔槍砲「虹」で砲撃したのち「可変翼・甲式」でたたんでいた翼を大きく広げて風を掴みぐぐっと旋回。敵と同高度でターンすると信じられない動きで敵の背後を取った。
 これが、巴戦。的確な射撃で敵を削る。
「それ以上させるかよ!」
「そうそう当たりはしないんだからなっ!」
 乱戦の中、敵に背後を取られたところもう一度翼を広げて減速。敵が追い越してしまったところを短銃に持ち替え撃ち込んだ。
 このころ、ルゥミ。
「わあっ。やられたよ〜」
 ごそごそと自分の体をいじっていたと思ったら、突然血塗れになって高度を下げた。
「いやっほぅ。もしかして当ってたか?」
「てめぇら!」
 喜ぶ「槍天狗」にいきり立つ「空の斧」。
「ん? ……まさか」
 乱戦地域の外から見ていたアイシャ。ルゥミの様子がおかしかったことを見抜いていた。墜落するのを助けにも行かずに遠距離からとにかく矢を最前線に入れる。
 入れながら呟く。
「……酷いですね。凶悪派空賊たちの共食いは」
 アイシャの眼下では、ついに「槍天狗」の滑空艇部隊が追いついて来ていた。「槍天狗」の背後から襲い、ショコラ隊とも戦い、「空の斧」とも戦っている。対して、数に劣るショコラは「空の斧」と協力して戦っている。対して二空賊は協力もしない。三陣営の戦いはもちろん、次第にショコラ連合有利となっていく。
「コクリさんたちは?」
 アイシャに気付いて近寄ってきた敵にはガトリングボウで圧倒。余裕のできたところで再びプリンツオイゲンの方を見た。
「え?!」
 ここで目を疑う!



 場面はプリンツオイゲン。
「わっ! この船、沈み始めた?」
 甲板が傾いてコクリが声を上げた。
「急ぎましょう! 香澄さんも突入してください」
 ベイルを掲げ対空の矢を防ぎつつ、生が司で下りてきて声を張った。
「そうだね。千佳さん独りじゃ大変だし。任せたよ、コクリちゃん、生さん」
 たもとをなびかせ艦内に走る香澄。一発白狐をぶちかましたのは、たまたま彼女と目が合った敵がいたから。すでに戦意をなくし気味で、えらく躊躇した末に機械弓を向けたところだった。
「今の、遠慮したの? ……ボクたちは遠慮するつもりはないから、よろしく」
 で、白狐。
 香澄、そういう性格だ。
「コクリさん、無事ですか?」
 残った生は錫杖「ゴールデングローリー」を振るいアムルリープを使う。
「うんっ。ここを最初に狙ったのが悪くなかったみたいだよ」
 コクリの方は生の詠唱時間を稼ぐため雷鳴剣で周りを圧倒する。

 一方、先行して船内突入した千佳。
「前回と同じ感じなら制圧しやすいけどにゃー。とりあえず操舵室を抑えるのにゃ!」
「来たぞ! 狙えっ!」
 走る千佳。手前に敵が現れる。
『狭い通路にたかってくるんじゃないにゃ! 喰らえ、黒炎破にゃー!!』
 一緒に走る百乃が大きく息を吸いながら口を開いて黒炎を前方一面に放出!
「おわぁぁぁっ!」
 うねるように通路奥から広がってくる黒い炎に敵の戦意も消失気味。
「これも食らっとくにゃ!」
 千佳、追撃のスプラッシュ。黒炎破で燃えはしないが水の攻撃をぶつけとく。
「まて、この泥棒猫!」
 今度は後から敵が来た。
「空賊風情が聞き捨てならないにゃ!」
 千佳、半身で振り返りブリザーストーム。
 収まった時には新たな打撃を受けて敵は倒れていた。
「……ボクまで凍えるところだったね」
「うに、香澄お姉さんごめんにゃ……」
『ここが操舵室にゃ』
 香澄が無事に千佳と合流したところで百乃の声。
「じゃ、眠らせてしまうにゃ♪ マジカル♪ 子守唄にゃ♪」
「そんなん利くかー!」
 どかん、と扉を開けると逆に中から大男が襲い掛かってきた。千佳のアムルリープを詠唱途中でふっ飛ばす。
 が、その大男は血を吐いて膝をついた。
「言ったはずだよ? 抵抗するなら容赦しないって」
 香澄が片膝をついて陰陽刀「九字切」を抜き放っていた。またしても、白狐!
「だったらこっちも容赦しねぇ。つーか、お前らの相手なんかしてられっかよ!」
 大男、そのまま室外に出で逃げた!
「とにかく軟着陸させるぞ!」
「集中しろ、集中だ! 無事に下ろせば後は頭目がうまくやってくれる!」
 残った船員達は沈みつつある船を不時着させようと必死だ。さすがに手は出せない。
「沈むのなら、もういっか?」
『さっきの男がこれを落としたにゃ!』
 頭をかいた香澄の横で、百乃が豪華装飾の短剣を発見していてた。「たをさ」の文字が彫られている。
「千佳さん、大丈夫? よし、それじゃボクたちも脱出だ」
「うに……酷い目にあったにゃ」
『それ、いつもなら妾のセリフにゃよ……』
 立ち上がった千佳を確認して香澄たちが撤収する。主人に無事にホッとしつつ短剣を千佳に渡し走る百乃だった。
 この後、プリンツオイゲンは本格的に失速する。



 そして、アイシャ。
「グナイゼナウが突っ込んで来てる……艦首で体当たり、ですか?」
 先手必勝型「地獄蜻蛉」のあまりの早さに驚いていた。
 このままでは甲板からの対空攻撃と滑空艇が連動してしまう。戦局逆転もありうる事態となった。
 下の空域では、小苺が気付いていた。
「『大戦斧』が来てるにゃ!」
 ごごご……とプリンツオイゲンが沈み行くのを背景に、猫的な瞳をカッと見開き友軍の突撃を見詰めた。
「前に一番酷い目に遭わされたんだ。『地獄蜻蛉』にだきゃ借りを返しとかねぇとなぁ」
 旗艦「大戦斧」の舳先に立つ赤熊が不敵に笑っている。
「ついでに、チョコの方は『槍天狗』を第一波でやるっつー話だったんだ。第二波の俺らが『地獄蜻蛉』をやるのは当然だよなぁ」
 ぐふふ、と不敵な笑い。
「その義の心、確かに受け取ったんだぞ!」
 ふしぎ、意気に感じて護衛につく。
「にしても……体当たり勝負する必要はないわ」
 シーラも上下運動を繰り返し敵機掃討を急ぐ。
 実はこの時、『地獄蜻蛉』の頭目は旗艦同士の正面衝突をするなどという最後の手段を取るつもりはなかった。
 が!
「死んだ振り、お終いっ。弾丸特行で敵艦底に突貫! いやっほー!」
 地表の森に隠れて再装填など準備万端にしたルゥミが戻ってきた!
 そのままグナイゼナウの艦底に向かう。上空からのアイシャの激しい射撃、ふしぎの緩急自在の空戦、小苺の龍らしい滞空を軸に誘い込むように飛び攻撃をしかける囮行動、そしてシーラの疾風のような空戦で完全にルゥミはノーマークとなっている。
――どぉん……。
 そしてグナイゼナウに大きな打撃。宙に浮いているので衝撃は分散されるが、「地獄蜻蛉」は面食らった。
 結果、正面衝突に踏み切ることとなる。
 ごごご、と近付く両艦。
 逃げないのは、空賊同士の意地と意地。逃げると横っ腹をどつかれてしまうのもあるが。
――がこぉ……めきめきっ……。
「やっ、た」
 沈み行くプリンツオイゲンから飛び立ったコクリ、千佳、香澄、生が身を竦め大質量同士の衝突に息を飲んだ。
 結局、プリンツオイゲン撃沈。グナイゼナウと大戦斧が相打ち墜落。シャルンホルストは無傷で離脱――。



 その後、チョコレート・ハウスにて。
「はい、お疲れさま。約束のデザートは桜をイメージしたわ」
 シーラがケーキを給仕。サクランボの香りが甘酸っぱい。
「畜生。何とか不時着できたが……もう俺たちの船はダメだろうな」
 赤熊が力なく言う。
 その背後でコクリたちがきゃいきゃい。
 不時着したグナイゼナウの乗組員から三文字の短剣について情報を得ていたのだ。
「この儀には大昔に、エトーリア人っていう少数民族がいましてな? 大民族に滅ぼされたらしいのですが、そこから逃げ延びた最後の幼少王『エトー・ミナル』が『七戦器』と呼ばれる部下と国家再興を目指し財宝を隠したようなのですじゃ」
 「地獄蜻蛉」側にいた学者崩れがそう説明する。
「それ、敵だったボクたちに話していいの?」
 コクリが聞いてみる。
「我輩が欲しいのはただ一つ、真実のみじゃ。お嬢ちゃんらの方に短剣の情報が多いのじゃし、こちらについたほうが得なのじゃよ」
 学者崩れはそう言って、「地獄蜻蛉」の頭目が所持していた短剣の三文字が「るはし」だったことを伝える。
「これであと一つにゃねー♪」
『うう、そろそろ地上で戦いたいにゃよ…』
 千佳は「たをさ」の短剣を出してコクリに抱き付き、百乃は甲板でぐでーっ、と腹を出してひっくり返っていた。