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■オープニング本文 ●希儀の美術品 昨秋、希儀の難破船が武天西部の海岸に漂着した。 見慣れぬ装飾品などから「新たな儀からの船では?」と湧き立った。 調査団が組まれ、新たな儀の存在を確信し、嵐の門を開放し希儀へと渡り……。 現在、朱藩と武天が希儀の開拓に力を注いでいる。 ただ、まだまだ謎は多い。 開拓者ギルドに保管されている希儀からの宝飾品にも、謎をはらむものがある。 宝石で飾られた、二つの短剣である。 それぞれ柄に、 「とをの」 「もがせ」 という三文字が刻まれているのだ。刀身に直接刻まれているのではないので、銘ではなさそうだ。 三枚二対の葉に挟まれ装飾された盾の紋章は、この二つの宝剣だけに見られ、他の宝飾品には見られない。 何か意味があるのだろうか、と囁かれもしたが、当然誰にも分かるわけがなかった。 ●武天西部海岸にて 小さな船が岩礁の波間に漂っている。 揺れる船に人影は、ない。 「よっ、と」 いや、寝そべっていただけだ。 年輩男性が身を起こし、波間に差し入れていた籠付きの長い竿をたぐっている。籠の中には、海栗がこんもり入っている。このあたりの浅瀬は良好な海栗の漁場らしい。 「なあ」 もう一人が身を起こした。若い男性で、彼のたぐっていた竿先の籠にはあまり海栗が入っていない。 若い男、ぼんやりと空を見る。 「最近、空賊をあまり見なくなったような気がする」 「ああ。『空の斧』の連中も希儀に行ったらしいな」 身の入らない若い男を尻目に、年輩職人はまた寝そべる。 「前に聞いたときは、ここらの空の守りもするから派手に暴れない限りお上も大目に見てるって……」 「そうじゃの」 「じゃあ、空賊たちが行ってしまった今、余所から凶悪な空賊が来たらどうすんだ?」 ここらを根城にしていた空賊「空の斧」は関税目的の穏健派だった。空賊の中には出会ったものや地域の村などは皆殺しの凶悪派もいる。彼の心配はもっともかもしれない。 「なぁに。希儀じゃあお上の手の回らない小さな遺跡がごろごろあって、お宝と冒険目当てに空賊どもはこぞってあっちに渡ってるらしいな」 「冒険とお宝、か……」 遠い瞳をする若い男。眼差しに羨望の色がある。 「よ……っと。わしらのお宝は海の中、じゃ。目の前の冒険とお宝にも気付かんようなモンがあっちに渡っても見た目だけの宝に振り回されるだけじゃろ」 年配猟師、またも籠いっぱいに海栗をすくっていた。技術と経験が必要らしい。 ●神楽の都の港にて 「ようし、泰国からのチョコレートの便はこれで終いだな?」 停泊中の中型飛空船「チョコレート・ハウス」のたもとで副艦長の八幡島が確認していた。 「へえ、おやっさん。バレンタイン用の積荷はこれで最後です。……次は希儀にオリーブオイル交易に行くんでしたっけ?」 「おぅよ。……だがおめぇはそうじゃねぇ。ここに残れ」 八幡島、確認した若手乗組員にきびしく返した。 「ええっ! おやっさん、俺、何か失敗でもしましたか?」 突然の話に慌てる若手。 「そーじゃねぇ。チョコレートハウスの二番艦が完成したから、お前そっちを担当しろ」 実はチョコレート・ハウス。手掛ける交易が当り続け結構な余裕が出来たことと、泰国と希儀の二航路を担当するには忙しすぎた。オーナーの商人、対馬涼子が二番艦の建造に踏み切ったのが一年前の話。もう船は完成したようだが、運用には人材がいる。とりあえず八幡島は人員を分けて新人教育に当るつもりだ。 「……コクリのお嬢さんはどっちに乗るんで?」 若手、一番気になるところを聞いてみた。 ぴき、と機嫌を損ねる八幡島。 「バカ野郎。コクリの嬢ちゃんは開拓者だ。その時で都合のいいほうに乗るんだよ!」 「八幡島さ〜ん!」 ここで、遠くから八幡島を呼ぶ声が。 コクリ・コクル(iz0150)が駆けて来たのである。 「八幡島さん、空戦のできる開拓者の募集、開拓者ギルドに頼んできたよ」 「おお、すまねぇな。何せ、空賊どもが希儀に流れて暴れてるんで自衛はきちっとしとかねぇとな」 息を弾ませ報告するコクリに目尻を下げる八幡島。チョコレート・ハウスは交易船なので固定武装はないが、その代わり艦載滑空艇などを充実させ艦としても働けるようにしている。コクリは戦闘部隊『ショコラ隊』の責任者でもあるため、チョコレート・ハウスの艦長に据えている。もっともこれは戦闘効果よりも、可愛い女の子の船が運ぶチョコレート、ということでもっぱら営業販売に激しく効果を挙げているのだが。 「おやっさん〜」 「ええい、うるさい。二番艦の方は対馬のお嬢さんは指揮を取るからな。任せたぞ」 泣きつく若手に一喝する八幡島だった。 この時コクリ、まさか本当に空賊たちと遭遇戦をして後に新たな冒険をすることとなるとは夢にも思っていなかったのである。 |
■参加者一覧
天河 ふしぎ(ia1037)
17歳・男・シ
新咲 香澄(ia6036)
17歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
猫宮・千佳(ib0045)
15歳・女・魔
朽葉・生(ib2229)
19歳・女・魔
シーラ・シャトールノー(ib5285)
17歳・女・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)
10歳・女・砲
小苺(ic1287)
14歳・女・泰 |
■リプレイ本文 ● 「き〜ぎ〜ぎ〜」 希儀の空に、駿龍一匹。 大きく羽ばたいて高度を上げると、中型飛空船「チョコレート・ハウス」の甲板が大きく見えた。 「にゃ、戻ってきたにゃ! 尻尾を立てるにゃー!」 駿龍の名は、舞風(ウーフェン)。 そして舞風の背に乗りお尻を突き出して尻尾を立てているのは猫族少女、小苺(ic1287)。初めての希儀の空に興奮気味だ。 こちらは、チョコレート・ハウスの甲板。 「小苺が戻ってきたわね。……あの様子じゃ何も問題はなさそうかしら?」 シーラ・シャトールノー(ib5285)が風に髪を現れるに任せコクリ・コクル(iz0150)を見た。 「コクリちゃん、今回もよろしくにゃー♪ にゅふふ、また冒険の再開にゃね♪ 一緒に楽しんでいくにゃ♪」 コクリは猫宮・千佳(ib0045)がふにゅふにゅはぐはぐと挨拶中。ふにゅふにゅはぎゅはぎゅ。 「そ、そうだね。シーラさん。次の偵察飛行……わっ!」 「久しぶりのチョコだね、頑張るよ! コクリちゃんは安心して待っててね♪」 コクリの横を新咲 香澄(ia6036)が駆け抜けていった。ぽーんと背中を叩き、艦載滑空艇を展開するとあっという間に風に乗る。偵察飛行に出るつもりだ。 「んもう。香澄さんたら相変わらず元気がいいんだから」 「あらあら。それじゃ私はオランジュの微調整をしておこうかしら」 うに、と千佳に抱きつかれたままコクリが香澄を見送り、シーラが微笑して滑空艇改「オランジュ」の整備に向かう。 「わーっ。シーラちゃん、すごいねっ」 オランジュを整備するシーラの横に、とてて、と近寄ったルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が屈みこんで感心している。 「ふーん、魔槍砲『連昴』とマスケット『クルマルス』を滑空艇に固定できるようにしてるんだ」 「ええ。私のオランジュは一葉半式の翼でしょ? 攻撃は前方のみって決めてるから、しっかり狙えるように固定してるの」 「あたいは、マスケット『魔弾』で悪・即・ダーン! 滑空艇改の白き死神は冬季迷彩仕様。雲にうまく隠れるといいな」 ダーン、と狙い撃つ格好をしてはしゃぐルゥミ。 「そういえばコクリさんの服装が白いのもそのためと言ってましたね」 朽葉・生(ib2229)もやって来た。 「そういう生ちゃんも白っぽい服だねっ。色のお揃い?」 「いえ私はその……。それより、武天西部海岸の穏健派空賊もこちらに渡っていると聞きました」 ルゥミに言われて赤くなる生。話を変えてその場を逃れる。 「武天西部海岸といったら『空の斧』かしらね? もしそうなら……」 「制圧・捕縛した後に事情をきこー!」 ピンときて鋭い瞳をするシーラ。おー、とルゥミが気勢を上げる。 一方、コクリ。 「コクリ、空の守りなら今回も僕に任せて!」 にこっ、と天河 ふしぎ(ia1037)がコクリの横に立って風を気持ち良さそうに受けた。これを見た千佳も、うに、と風を一身に受けるように遠くを見る。 「希儀はまだ遺跡とか一杯有るんだよね、それを聞くだけでもワクワクしちゃって…そうそう、噂の謎の2つの短剣とかもお宝の鍵になってそうだよね……確か『とのを』『もげろ』だっけ?」 「違うにゃ、『とをの』と『もがせ』にゃ」 「ごめん、ちょっと間違えたよ」 あはは、と笑い合うふしぎと千佳、そしてコクリ。 この時、舞風が着艦。ぴょんと小苺が飛び降りて駆けて来た。 「コクリにゃんは初めましてにゃー」 がしー、とコクリに抱き付いてすりすりすりすりはぐはぐはぐー♪。 「けも耳の可愛らしい女の子が多いのね」 これを遠くから見てシーラがルゥミのおっきな赤いリボンをネコ耳みたいな形に調えてやるのだったり。 この時、竜哉(ia8037)。 「乗るのは二度目だが世話になる。それと、一台艦載滑空艇を借りることになるが……」 竜哉、八幡島と話していた。 「ああ、いいぜ。今回はお澄ましした人妖さんはいねぇのかい?」 「いや、今回は迅鷹の『光鷹』を連れて来た。それより、神楽の都の恋人達は賑わったようでなにより」 「ん? どうしたい」 感謝した竜哉に首を捻る八幡島。 「チョコレート交易路を維持していることへの感謝さ。……コクリも頑張ってるようだが、貴方達が信用を積み重ねたからこそ此処まで大きく成長できたんだ、と思うよ」 「嬉しいね、ありがとよ。コクリの嬢ちゃんは仲間にも恵まれてるな」 がはは、と笑う八幡島。コクリと同じことを言われよほど嬉しかったらしい。 「だから、コクリの嬢ちゃんも大きく育てたいねぇ。……これは、船の古株の仲間の総意だ」 ふうん、と不敵に微笑する竜哉だった。 ここで、偵察に出ていた香澄が物凄い勢いで戻ってきた。 「みんな、大変だよっ。空賊っぽい旗を掲げた飛空船がこっちに来てる! 宝珠砲も装備してるよっ」 ぐきゅる、と滑空艇を甲板の上で捻りながらピンポイントに甲板に着艦して駆けて来る。 「香澄さんっ、どんな旗だった?」 「白い翼に斧二つ。あれは確か……」 聞いたコクリに、思い返す香澄。 「うにゃ、前にあった空賊さん達かにゃ?」 「空の斧!」 思い出す千佳。そしてシーラとふしぎが声を合わせた。 「積荷が多くてこっちは船足が遅い。『空の斧』なら穏健派だが、追いついてくるぞ」 吠える八幡島。 「よし。ショコラ隊、出撃準備だよっ」 コクリの号令で甲板が騒がしくなった。 ● 「敵のグライダーの発艦を確認にした…こちらも出るよ」 ふしぎが滑空艇・改弐式「星海竜騎兵」で飛び立つ。やや大型となる改弐式だが、見事風に乗った。 「ルゥミ、行きましょう」 「うんっ、シーラちゃん。畜生働きする奴等なら悪・即・ダーン!」 続いてシーラがオランジュでテイク・オフ。ルゥミも白き死神で続いた。 「穏健派なら、できるだけ被害を抑え制圧してしまうのがいいですね」 生は相棒の上級鷲獅鳥「司」に跨る。司、くわっと嘴を開き吠えた後、数歩助走して飛び立った。 「コクリは念のため船を守ってくれ!」 竜哉が翼を展開した滑空艇にひらりと乗り風に舞いつつ言葉を残した。その横に、それまでチョコレート・ハウスの周りを飛んでいた金色の迅鷹「光鷹」がぴたりとつく。 「えーっ!」 「みんなヤル気満々だから、誰かがぴしっと後ろを締めないとね。任せたよ、コクリちゃん」 ぶーたれるコクリを追い越しつつ、またも香澄がとんとコクリの肩を叩いて出撃。 「そういえば香澄さん、シャウラじゃないんだ」 『ま、いろいろある』 香澄の肩に現れた管狐の観羅が目を細め、見送り呟くコクリに尻尾を振ってみせる。 「そうにゃよ。……ある意味逆恨みにも近い気がするけど…仕掛けてくるなら対抗するにゃー!」 『え? 我も行くのにゃ? 飛空艇の乗っただけで嫌なのに、結局こっちにも乗らされるのにゃー!?』 今度は千佳がコクリを追い抜く。相棒の猫又、百乃の悲鳴と共に。百乃には思わずコクリが手を振ったり。 「空賊『空の斧』の旗艦を制圧せよ。猫、未知なる空を飛ぶーの巻〜」 「小苺さん、頼むよ〜っ!」 小苺、出掛けにコクリの声を聞いた。舞風で飛びつつ、ピンと尻尾を立てて返事とする。 「敵は五機。……一度も完全に決着がついた事は無いけれど、こちらの強さは分かっているはず。よほどケリをつけたいのかしら」 さて、飛び立ったシーラ。 ひらっ、とオランジュを一瞬失速させると再び弐式加速で急上昇した。 敵の旗艦『大戦斧』や迫ってくる敵滑空艇五機のいる高度から一気に外れた。 「あたいは敵滑空艇に対応!」 「僕も敵の滑空艇の編隊に突っ込むから」 同じ高度からは、ルゥミの白い死神とふしぎの星海竜騎兵が突っ込む。 一方、敵五機の対応。 「敵は縦列だ。突っ込むと連続攻撃を食らうぞ」 速度を落とした。 先にショコラ隊を突っ込ませて迎撃するつもりだ。 遭遇時の射程距離の駆け引きは敵に軍配が上がる。 その刹那。 「それでいいのかしら?」 上空からシーラが急降下してきた。滑空艇は上に乗ることで視界があるとはいえ、それでも対応しにくいほどの急角度で抉ってきた! ――ビスッ! 敵一機の翼に打ち込んでから、ギリギリをかすめて下に逃げる。弐式加速の勢いにあおられぐらつく敵。 「下に逃げちゃ追われるぜ?」 別の一機がシーラを追うが……。 ――ターン! 「あたいのマスケットの射程は長いんだから!」 ルゥミが遠くから援護射撃。行かせない。 「無理して追うな。どうせ銃なら再装填に時間がかかる。それより後続を叩け」 敵の指示が飛ぶところに、ふしぎが突っ込んだ! 「また会ったね空の斧…だが、コクリ達にはこの僕が指一歩触れさせはしないから!」 ばさあっ、と巨大な大紋旗が翻った。宙にはためく佇まいは圧巻で、旗には夢の翼の印が雄々しく描かれている。 「この野郎!」 「てめぇ!」 回避をやや犠牲にしてまで掲げた旗は、空の斧たちを挑発するのに十分だった。改めて散開し、遭遇戦から格闘戦の配置に展開する。 しかしっ! ――パウッ! 「あら。追ってこないなら好きにしていいのね?」 シーラが下から戻ってきていた! 「バカなっ。再装填が早すぎる!」 機体下部を手ひどくやられた敵が歯軋りしながらオランジュを見送る。そして機首から銃口が二つ見えることに気付いた。 「魔槍砲にやられたことくらい気付いてほしいわね」 高機動で捻り込み、後下方から式加速で肉薄して事前に備え付けておいた魔槍砲「連昴」をぶち込んだのだ。が、流石に上に逃げた場合は直接敵のクロスボウが飛んでくるが。 「クロスボウってあんまり飛ばないんだよね」 ルゥミ、ちゃんと見ている。カザークショットでシーラを狙った敵を撃つ。逆に近場の敵から攻撃をうけるが、高機動で回避しつつ風に乗り巡航させ両手で再装填。 この時、味方後続。 「生さん。敵の船、一直線にチョコレート・ハウスに向かってない?」 香澄が不審に思って聞いてみた。 「宝珠砲も心配ですが……」 生、口元に手を当てて考え込む。まさか、という思いもあるが敵はまだ撃ってない。 「体当たりか接舷攻撃でもするつもりか? とにかく急ごう」 竜哉が二人の合間を縫って一直線に飛んでいく。 これを敵が発見した! 「おい、ここは通さん……おわっ!」 「うに、邪魔する悪い子は痺れて貰うにゃよ! マジカル♪サンダーにゃ♪」 続いていた千佳の雷撃が竜哉に気付いた敵を撃つ。 この動きに敵が完全に気付いたぞ? 「おい、『大戦斧』に近付けさせるな!」 ぐうん、と反転する敵たち。 「遅いっ…その機体では弐式になった星海竜騎兵の動きに、ついてはこれないんだからなっ!」 「な、なんでそんな旗付けてそんな素早いんだ?」 ふしぎ、巴戦で敵の後ろではなく、真正面に回った。敵は突然目の前に出てきた大きな機体とはためく大紋旗、そしてなによりふしぎのまっすぐ見据えた瞳に気圧された。 スターン、と宝珠銃「レリックバスター」で撃った後敵に抜かせて急反転。さらに敵後方上空から追い抜きつつ霊剣「御雷」で斬る! さらに上空で反転の後、斬る! 「これぞ『燕返し』なんだからなっ!」 びし、と構えるふしぎの背後でコントロールを失い敵がへろへろと飛んでいる。 さて、他の展開した敵には。 「うおっまぶし! ってなるでしょ?」 狙われていたルゥミが大きく宙返り。太陽を使って別の敵に射撃していた。 そして追ってきた敵は……。 「えいっ!」 機首を強引に上に上げて失速させた。再び機首を上げると、敵の背後を取っている。 「これが『木葉落とし』。そして単動作で早撃ちだよっ」 背後から的確に射抜くルゥミだった。 「ち、畜生。それならこいつらの船を……おわっ!」 先を急いだ敵が不意にバランスを崩したぞ? 「飛べない何とかはタダの何とか…だったかにゃ」 最終ラインの小苺が高速飛行で先回りしていた。 舞風のソニックブームで敵の突出も抑えたぞ! ● 味方の奮戦により竜哉、香澄、千佳、そして生が敵艦に到達しようとしていた。 「さあ。観羅、降伏勧告といこうか」 滑空艇の速度をぐんと上げた香澄が、首に纏いつく白い管狐「観羅」の顔色を伺った。観羅、目を細め頷くと煌めく光となり、陰陽刀「九字切」と同化する。 「よし。……まずは挨拶代わりだ」 光る九字切を抜くと同時に巨大な九尾の白狐を召喚。一気に走らせ敵甲板の精霊砲を狙った。 ――どごん! 「ショコラ隊見参! こうなりたくなかったら降伏しろ!」 上空を通過しつつ声を張る香澄。 ――ひゅん、ひゅん……。 返事代わりの対空の矢が来た。 ここに生が突っ込んできた。ベイル「翼竜鱗」を掲げて自らを盾とする。 ちょこざいな、とさらに射線が集まった。 「司、『飛翔翼』」 生、騎乗する司に指示してこれを避ける。 「すまない」 その背後。 司の下から竜哉が出てくる! 防御は何も考えず弾丸のように突っ込んできた。 「わあっ!」 敵甲板員の悲鳴。ざざざ、と滑空艇が敵艦に着艦した。 「コウ!」 竜哉、膝立ちの状態から顔を上げて呼ぶと、金色の羽毛を持つ迅鷹「光鷹」が低空飛行で近寄ってきた。そのまま光となり竜哉の脚に纏いつく。 「これでいい」 「野郎!」 ぐ、と立ち上がる竜哉。敵のクロスボウの射線が来るが、咄嗟に大きく回避して構え直す。足元が光りステップが軽い。竜哉、余裕のある表情。 同時に短銃二丁を構えたぞ? ――た・たん! 宝珠銃「ネルガル」・「メレクタウス」を両手に持って二丁乱舞。しかもウィマラサースで次弾も。死と孔雀王の名を持つ銃が敵の頭部を狙ってくる。 「おわっ!」 受け流しつつも怯む敵。これで後続が楽になった。 「皆眠らせてしまえばいいのにゃ♪」 敵の視線が竜哉に集まる隙に千佳もふわふわスカートをひらめかし、中の白いものを派手に見せつつ加速して着艦。膝小僧を見せつつ降り立つとマジカルワンドでアムルリープ。 「ん?」 この様子に上空の生が気付いた。 「半数以上は志体持ちではないようです!」 千佳のアムルリープでかなりの数が寝てしまったことで、生が敵の陣容を看破した。生も追撃のアムルリープ。 「ひいい」 この時、敵の一人が中に逃げ込んだぞ。扉に閂をかけた様子。 「凍りなさい!」 生、これに反応。錫杖「ゴールデングローリー」を掲げてフローズさせる。 「後は任せて」 忍刀「風也」を走らせ瘴刃烈破と共に横切る香澄。 「俺は機関室の制圧に移る」 最後に体当たりで扉を破った竜哉が言い捨て突入した。 「うに。艦橋目指すにゃよ♪」 軽快に千佳も続く。生も香澄も突入だ。 「うに、眠らない悪い子は痺れて貰うにゃよ! マジカル♪サンダーにゃ♪」 『恨みは皆攻めてきた賊に返すにゃ! 貴様らが来なければこんな目には合わなかったのにゃー!!!』 ばりっ、と電撃が奔り、足元にはすねこすり。 おわっ、と道を塞ぐ敵が倒れる。その横を千佳がすり抜け、ぴょ〜んと跳ねた百乃が千佳の肩に戻る。 「よし、ここが艦橋だねっ!」 確認する声と共に瘴刃烈破を放つ香澄。さらに足で扉をふっ飛ばす。 「鍵……かかってなさそうですよ?」 「派手なほうがいいんだって……よし、抵抗を止めろ!」 香澄、生の突っ込みに答えてから仁王立ちして声を張った。その脇からすかさず生と千佳がアムルリープをかけて制圧。が、意外そうに顔を上げた。 「お前ら凶悪派の空賊か? そうでなかったらこれ以上暴れねぇでくんねーかな?」 敵の親玉らしい、ひげだらけの屈強な男が両手を上げて余裕のある声を出した。 「空で生きる者にとっちゃ人材は宝なんだぜ。……さて、交渉だ」 穏健派の空賊らしい対応である。 一方、機関室向かった竜哉。 「お前、凶悪派の空賊か? 空賊からも恨まれるぞ」 「空賊のしきたりなぞ知らん」 ぐい、と敵の胸ぐらを掴んで話をしているが、敵がすでに抵抗してないのは理解していた。暴れることなくすんなりと機関室に到達し制圧していた。 「どうしてチョコレート・ハウスを狙った? しかも体当たりを狙っていたろう?」 凄む竜哉。 「そりゃお前ぇ、前に襲って因縁のある船が積荷満載で護衛無し。前に襲った時と違って雲も近くにないと来りゃ借りを返そうとするのは当たり前だろ。俺たちゃ空賊なんだぜ?」 「前の因縁なんて知らんよ」 実際、竜哉は知らないしそんなことはどうでもいい。 この時、艦橋。 「こっちゃ、一緒に行動してた空賊に裏切られて一隻になっちまってよ。そんでお前らを見つけたわけだ。前にやられた時とちがって雲もねぇし。制圧して船をもらっちまおうって魂胆だったが……」 生や香澄、千佳にそう話す敵艦長が、ずずいと身を乗り出してきた。 「なあ、俺たち『空の斧』と組まねぇか? 他の凶悪派の空賊を出し抜いて宝探しだ」 「組む? 態度が違うんじゃないかなー?」 にやにやと話し掛ける空の斧頭目に、にやにやと不敵に返す香澄。 「さすが香澄さんです」 「さすが香澄ちゃんにゃー♪」 対等に、賊っぽい話し合いをしている仲間に感心する生と千佳だったり。 この時、空戦組。 「よし、この船は僕たちが制圧したんだからなっ」 ふしぎが星海竜騎兵から下りて言い放った。 『大戦斧』の甲板には仁王立ちするふしぎと、着艦した星海竜騎兵に付けられた大紋旗が堂々とはためいている。 「降伏勧告に従ってくれて助かるわ。……不時着した者はいないの?」 シーラも艦橋に下り立ち敵に聞いていた。 「そっちの船に無理に向かった者はいるが……」 「それならきっと大丈夫よ」 シーラ、チョコレート・ハウスの方を見る。 その頃、ルゥミと小苺。 練煙幕の余韻を残し、ルゥミの白い死神がチョコレート・ハウスの甲板に着艦した。 すでに小苺は舞風を下ろし、甲板にいるコクリの元に向かっていた。 「コクリちゃん、敵は?」 「うん、ご覧のとおりだよ。ルゥミさん」 ルゥミが真ん丸い目でコクリを見ると、先にチョコレート・ハウスに着艦するよう指示した敵がいた。小苺がコクリの横について、ふしゃー、と敵を威嚇している。 「とにかく、勝負ありなら艦長同士で交渉してくれ。あんたら、凶悪派の空賊じゃねーんだろ? これ以上やったら悪いうわさが広まるぜ?」 「こっちは空賊じゃないからそっちのやり方は通用しないけどね」 ふてぶてしい敵に唇を尖らせるコクリだった。 ● 「見てくれ」 のち、チョコレート・ハウスに来たひげだらけの敵の頭目、赤熊が一本の短剣を差し出してきた。 宝石で飾られた豪華な短剣だ。柄には三枚二対の葉に挟まれ装飾された盾の紋章が刻まれている。 そして「てはい」の三文字も。 「あれ? これって、ボクたち開拓者が最初に希儀開拓した時に出てきた宝飾品にも……」 コクリが気付いた。 「ああ。確か、研究のためってことで上にまとめられたお宝の中に同じ紋章で三文字の刻まれた短剣があったな」 うんうんと八幡島。 「俺たち四つの空賊が協定を結んでここより別の地域で遺跡荒らしをしてて発見した。紋章からして、おそらく短剣は六本あると見ている。で、これは何だと話し合った結果、お宝の暗号じゃねーかってなってな?」 「それ以外の可能性もありますが」 生、釣られることなく冷静に知的に指摘する。 「どっちにしても何かの暗号だろ? で、四つの空賊がちょうど一本ずつ持ってたんだが、お宝の可能性がでるや、あっという間に分裂だ」 赤熊が言う。 他の三つの空賊が凶悪派だったため、最初に『空の斧』が狙われたというわけで。 「他の短剣の」 「三文字は?」 竜哉とふしぎが聞いてみた。 「見せるわきゃねーだろ? だからこうなったんだがな」 「それで『組む』か」 香澄、納得。 「どういうことにゃ?」 「どういうことかにゃー?」 ふいふい、と千佳&小苺。 「昔の敵は今の味方、ということにしたいのかしらね?」 「困ってる人は助けたいけど……」 二人の視線を受けて説明するシーラ。ルゥミと一緒にどうしたものかしらとコクリを見る。 |