南那〜英雄たちの帰還
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/28 19:34



■オープニング本文

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●椀那(ワンナ)にて
 ここは泰国南西部にある領地、南那(ナンナ)――。
「親父どのの容態はどうだ?」
 領主屋敷の廊下を早足で歩きながら、齢四〇をゆうに数える椀栄進(ワン・エイシン)が凛と声を張った。
 栄進は、南那最大都市「椀那」の直接統治者である。南那の統治者、椀栄董(ワン・エイトウ)の長男である。父親に似て肌黒の精悍な姿で、引き結んだ唇が示す通りやや融通が利かないとのもっぱら噂だ。もっとも、老齢の父・栄董も似た姿で、やはり融通が利かない。領民や部下たちも慣れっこなので問題はない。
「落ち着きは取り戻したようですが、何分ご高齢ですので」
「今まで南那を守っていた北の砦が陥落したとあっては誰しも動揺する。が、あちらも落ち着いた。親父どのも快方に向かうだろう。……それより、領民の安心だ」
 問題点を指摘する栄進。
 現在の泰国は、いにしえの三国割拠の戦乱時代ではないとはいえ、軍事力整備は土地を守る者の基本である。
「はい。一昨年前は北西部からの馬賊の侵入もありました。北部領民は親衛隊の常駐を求めています」
 申告する部下。
「その親衛隊も今回の戦いでほぼ壊滅状態。とても二分することもできず、さりとてアヤカシや外部からの志体持ち部隊と張り合える戦力は親衛隊しかおらず、か」
 専守防衛の土地では優秀な人材は流出する。当の親衛隊長・瞬然(シュンゼン)も、もとは外部の者だ。
「こういう時は祝典に限る。瞬然をすぐに呼び戻せ。開拓者も呼んで凱旋行進させる。その後宴を開いて労をねぎらい、『英雄ここに在り、南那なお揺るぎなし』を広く呼び掛ける」
「しかし、瞬然隊長以下親衛隊は陥落した北の砦の防備に当たってますが」
 部下が懸念を口にした。歩を止め向き直る栄進。
「どのみち同規模のアヤカシ軍団が来れば対応できん。乱世でもないのに他領からの侵攻があれば中央は黙っていない。逆にこれを好材料に外交戦に持ち込める」
「以前のように馬賊が来れば?」
「あの馬賊とは情報があれば購入する契約をしたはずだ。違う馬賊だとしても……奴らも横の連携くらい取れているだろう」
 にやり、と栄進。
 高齢の部下は、「南那も変わったな」と実感するがそれは胸の内のみ。
「とにかく、まずは領民の安心だ」
 この後、北の砦で戦った開拓者たち「英雄部隊」が招待されることとなるが、同時に瞬然から「次期南那防衛戦略として、主力配備朋友を選定したいので協力してほしい」との希望が添えられることとなる。

●南那の南那亭
「よし、それじゃあもう今日はいいから。数日後に、本場から店員さんが来るはずだから、その日はしっかり見習って」
 ある店内で、褐色の肌に剃り上げた頭の男性が若い娘達に言う。
「はぁい。分かりました〜」
「……可愛らしさは出していいんだけど、無責任っぽさは出さないように。何事も一生懸命にね」
「はぁい、加来さん」
 泰国ではまだ珍しいメイド服姿の若い娘が改めて返事をする。今度は真面目な響きが伝わってくる。加来(カク)と呼ばれた男は、うんと満足そうに頷いた。
「『珈琲茶屋・南那亭』で働くことを喜びに、南那の珈琲が天儀でどう飲まれているか知ってもらって、生産の励みになるよう頑張っていきましょう」
 そう。
 加来は、深夜真世(iz0135)たち「珈琲流通開拓者」の称号を持つ開拓者たちとともに、南那の珈琲を輸出産業とし天儀に開店した「珈琲茶屋・南那亭」を一緒に世話した男だ。南那亭が安定してから泰に帰国していたが、今は南那に南那亭を開店させようとしている。
「珈琲がお茶のように飲まれて商売にならない南那で、これが新しい珈琲の楽しみ方になれば……」
「加来くん」
 思いを呟いていると、珈琲通商組合の旅泰、林青(リンセイ)がやって来た。
「真世くんたち、凱旋パレードと領主代行との宴の翌日に来るようお願いしておいたから」
 林青が予備のメイド服や執事服を渡しながら伝えた。
「私は、神楽の都の南那亭で働いていたときが一番幸せでした。……こういう機会を設けてくれて、本当にありがとうございます」
「いいって。それより、ちゃんと儲けてくれないと困るよ? ……加来くんなら大丈夫だと思うけどね」
 というわけで、こちらも新人メイドたちの指導をしておくとよさそうだ。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
萬 以蔵(ia0099
16歳・男・泰
ジルベール・ダリエ(ia9952
27歳・男・志
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
アレクセイ・コースチン(ib2103
33歳・男・シ
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂


■リプレイ本文


「わあっ。すご〜い」
 南那最大の都市、椀那(ワンナ)の中心の通りに人が集まっていた。
 遠くから楽隊の演奏と湧き上がる歓声。透かし見れば紙吹雪が舞い、槍を構えた騎馬や馬車の一団が近付いてきている。
 『北の砦攻防戦』を戦い勝利をもたらした部隊の凱旋である。
「はい、空けて空けて。いま来るから」
 先導者が人波を割って道を作る。
 そこへ先頭の騎馬が通り、楽隊が続く。わあっ、と盛り上がり紙吹雪が舞う。
「親衛隊長〜」
 本隊先頭は、瞬膳の騎馬。ひときわ歓声が高くなる。
 そして。
「英雄部隊だっ!」
 うわさはもう広まるだけ広まっている。
 注目を一身に集める英雄部隊とは――。
「英雄かあ。正直言うと俺の柄じゃあないよなあ」
 ユィルディルン(霊騎)に乗るクロウ・カルガギラ(ib6817)がこっそりそんなことを言っている。
「何言ってんのクロウさん。そうやってピシってユィルディルンに乗ってる姿、とっても様になってるじゃない」
 隣で静日向(霊騎)に乗った深夜真世(iz0135)がにこにこして言う。
「パレードは何処までも続いてゆく〜。世界の果てを目指して♪なのです♪」
 その横を、借りた軍馬に乗ったネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)が追い越そうとする。
「あっ、ネプさんっ!」
「はう? 周りの人に手を振ったりすればいいのです?」
 ネプ、一直線をやめて左右に元気良く手を振ることで速度が落ち着いた。沿道から歓声がわく。
「ははっ。その調子だよ。領民を安心させる意味もあるからね」
 クロウは手本を見せるべく、にこりと白い歯を見せ晴れやかに手を振る。なんとも絵になる佇まいだ。どうやらちやほやされるのは慣れっこらしい。
 絵になるといえば。
「そうそう。こういうのって気持ちいいですね〜。人々を守ってこそ騎士ですから」
 軍馬「ベガ」に乗ったアーシャ・エルダー(ib0054)が背筋を伸ばして堂々の行進。
「騎士は中身よりもまず外見です。民に見せるのは『がんばりました』、では無く『私達がいるのだから安心しなさい』ですからね」
 澄ましてアーシャに並ぶのは、ベガと対になる軍馬「アルタイル」に乗るアイシャ・プレーヴェ(ib0251)。凜と響く声はもちろん、落ち着きのない真世に聞こえるように。
「ふふ、お嬢様方の晴れの姿にご一緒できるとは」
 プレーヴェ家の執事、アレクセイ・コースチン(ib2103)は紳士然として。前の二人を見てにこやかに。緩めた視線は保護者のそれに近く、大変満足そう。騎乗は、真世のかつて乗っていた軍馬「静日和」。
「クロウの兄貴の言う通りだよな」
 続いて、萬 以蔵(ia0099)。
 南那の戦いを共に駆け抜けた鏡王・白(霊騎)と威風堂々と行進する。クロウのようにアル=カマル風でもなく、アイシャたちのようにジルベリア風でもない、泰国馴染みの泰拳袍「九紋竜」に身を包んだ姿は元々閉鎖的な住民から特に大きな歓声が送られている。
 一方、もう一人の泰国風の人物。
「パレードやらなんやらはアタシの柄じゃないガ…んまあ必要経費とでも思っておこカ」
 梢・飛鈴(ia0034)、ここにいた。泰拳袍「朱雀尾」を着てるので沿道からたくさん手を振られているが、だる〜んとした感じ。騎乗は一緒に戦った軍馬だ。
「英雄部隊やなんて持ち上げすぎやけど、飛鈴さんみたいなのもなぁ」
 横ではジルベール(ia9952)が呆れている。
「さて、せっかく久し振りにミネルヴァの騎乗やし、折角来てくれてるんやしサービスしとこか」
 陽気に言うと、何やら焙烙玉みたいなものを懐から出し高々と投げる。そして間髪入れずに神弓「サルンガ」を構え放った玉を射る。
――スタン。
 命中すると玉は割れ、中から紙吹雪がド派手に舞った。
「わあっ!」
 盛り上がる沿道。異国風の男のいなせな演出に心がほだされたようでジルベールにもひときわ大きな拍手が。
「わーい、パレードだよ! 楽しいね! あははは!」
 この時、無邪気に右に左に手を振っていたルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)がジルベールの出し物に気付いた。
「あたいだって楽しいことできるよ! スターダスト?」
 ルゥミ、借りた軍馬の上で魔槍砲「赤刃」を掲げた。そこ迅鷹「スターダスト」が舞い降りてきて「煌きの刃」。
 掲げた「赤刃」は相棒同体化でぴかぴか光った。
「おお〜。これは不思議な」
 これをみてどよめく観衆。ルゥミは得意そうに笑顔が弾ける。
「ほら、飛鈴さんもなんか愛想振りまいたら?」
「狐鈴、ジルがああいってるガ……」
 ジルベールがルゥミの様子ににこにこした後、飛鈴に視線を移す。飛鈴のほうは面倒くさそうに自分の前に座る相棒の人妖精「狐鈴」に視線をやる。
『うむ、ほーしゅーしだいでしてやらんこともない』
 のほほんと浮かぶ狐鈴が対価を要求したぞ?
「酒宴にゃ寿司も出ようテ」
『うむー』
 話は決まったとばかりにふよふよ浮きはじめる狐鈴。観衆はこれを見てどよめくが、狐鈴は手を振ることもなくまったりしているだけ。
 一方、ルゥミ。
「アルバルクちゃんもお疲れだったね」
「はいよ、お疲れさんだったねえ全く。しっかし、英雄なんて柄でもねえんだがねえ……」
 アルバルク(ib6635)と盛り上がっていた。
『あーホント、似合わないヨー。ボクが英雄だなんてー』
 アルバルクの相棒、羽妖精「リプス」が困ったナーもー的な様子で手を振って愛嬌を振り撒きまくっている。
「…なんでいるんだい。お前さん今回働いてねえだろうがよ」
『いつだってボクはおじさんの心の中にいるのさっ』
 ふぅやれやれ、と首を左右に振るリプス。ともかく、リプスは沿道に人気だったが。
 それはそれとして、この様子を飛鈴が見やっていた。
 狐鈴に向き直る。
「…バルんとこのは手を振ってるガ」
『うむー』
 言われて適当に手を振る狐鈴だったり。主人にちょいと似てるところがあるようで。
 とにかく、この行進で開拓者達は「南那の英雄部隊」として顔を覚えられるのであった。



 その晩、領主城にて。
「北の砦は崩れたが、我が精鋭はなお崩れず。見事領地を守った英雄に、乾杯!」
「乾杯!」
 広間に軍関係者と城内重鎮が対座する形に座いすと膳が並べられ、杯を掲げた。
「さ。挨拶に行きましょう」
「アイシャお嬢様、ドレス姿も麗しゅうございます」
 すっと席を立ったアイシャは、行進時の弓掛鎧「山伏」姿から薄緑色のドレス「アルセイド」にお色直しをしていた。そういうアレクセイもパリッと……やっぱりここでも執事服。
「いきなり立って動くのかい?」
 深く座ることになる腰掛けに落ち着くクロウが杯片手に見上げて聞いてくる。
「立食のほうが慣れてるんですよ」
「ふうん。アル=カマルだとどっちでも違和感ないけどね」
「ま、人それぞれやな」
 アイシャとクロウが言い合う間を、ちょいすまんねという感じにジルベールが横切った。
 そのまま領主代行のところまで行き、酌をする。
「ん? 弓使いだな。前線二列目から良く声が飛んでたと報告を受けてる。良くやってくれた」
「それはええんやけど、よそ者の俺らより正規軍の犠牲者をきちんと英雄として扱わんと、優秀な人材は正規軍に魅力を感じず流出する一方やないやろか?」
 賛辞を送る領主代行の栄進に、ジルベールがかしこまりながらも言いたいことを言った。
「はは。報告に違わず良く気の回る。……ありがとう。ちゃんと英霊として慰霊祭を用意している」
 どうやら翌日の訓練の前にするらしい。
「とにかく、たらふく食って楽しくやってくれ。ほら。お仲間のように」
 すい、と杯を持ったまま指差す栄進。釣られてジルベールが振り返った。
 そこにはっ!
「……とにかく敵の破城塔には回り込みましたね。陸は霊騎で。北の砦に居座られた時は龍で空を飛んで。こう、左右からぎゅ〜んと捻り込んで。これからはこれ。飛行相棒の時代ですよ〜」
 アーシャが頬を染めてぷは〜、と杯を干しながら気分良く戦場の様子を話している。すすいと手をくねらせているのは侵入角度を示すため。
「あははっ。あたいは滑空艇の白き死神や甲龍のトントゥに乗って、ホネホネなんかをどっか〜ん! ずばーっ! ってやっつけたんだよー」
 ルゥミも両手でスパークボムとかした瞬間を再現しながら土産話。ちょいとお尻をふりふりして滑空艇を操作してる様子をしつつ、相棒と一緒の活躍を伝える。
「お嬢ちゃんも勇敢に戦ったんだなぁ。よし、おじさんが酌をしてやるぞ?」
「うんっ。あたいはお酒飲めないからご飯をいっぱい食べるよ!」
 その横。喋るルゥミとは対照的に、静かにひたすら酒を飲んで食べ物を食らう姿があるぞ?
「はぅ! これもっとほしーのですー!」
 ネプだった。はうはう狐尻尾を振っておねだり。もちろん、気前良くとろみの付いた野菜炒めやひき肉と豆腐の炒め物などが出てくる。ネプ。なんとも幸せそうだ。
 と、ここで。
「最後に塔にとどめをさしたの私なのですよ〜」
「まあ、それぞれ良く戦ったけど、こうして酒宴ができるのも必死になって力を合わせたお陰なんだと思うぜ」
 えっへんと胸を張るアーシャなど、手柄話が具体的過ぎて個人の活躍だけになってしまいそうになったのに気付いた以蔵が兄貴達――彼が「できる」と認めた年上男性はみんな「兄貴」扱いになるようで――を立てるように声を張った。
「お、いいこと言うじゃねぇか。おっさん、感激したぜ。まぁ飲め」
「うん。俺からも酌をしよう」
 それに気付いたアルバルクとクロウが労いの酌。
「お、おおっ? もちろん兄貴達の酒だから飲むのにやぶさかではないけど……」
「あたいの酒も飲んでよっ」
「酒豪アーシャ参上! 以蔵さん、飲み比べですよ〜」
 うろたえる以蔵に、さらにルゥミが行く。アーシャが行くっ。
「はう? 負けないですよ〜!」
 こういう時だけはぴくっと耳が反応するネプ。自前の「朱塗りの大杯」を取り出し豪快に飲むっ。
『……ほーしゅーはスシーではないのか?』
 騒ぎをよそに物足りなさそうなのは、狐鈴。
「知らン。生魚を食う習慣がないのかもナ」
 しっかり火を通した料理ばかりなのを見て飛鈴が素っ気無く答える。適当にのんべんだらりと酒を飲んでたり。
『というか、話にまざらんのか』
「国の今後の話だとか、先の在り方とかアタシには根本的に不向きな話だしナー」
『じゃあボクが代わりに食べてあげよう』
 相棒と二人きりかと思いきや、リスプがいた。
『うぬ。まけぬー』
 狐鈴、少し寂しそうだったが元気になって食べ始めた。
「領主代行」
 アレクセイは、うやうやしく栄進に頭を垂れていた。
「お一つどうぞ」
 横からアイシャが進み出て酌をする。
「おお。潜入執事と双子戦士の射抜きの方だな」
「やはり飛行戦力は持つべきでしょう」
 ドレスを翻し近寄り上品に酌をしながら言う。駿龍を勧めます、とも。
「霊騎と同様に乗りながら一緒に戦うというスタイルで共通できる所もある筈です」
「他領と互助的に援軍を出し合う仕組みを作ったらどうやろ。対アヤカシ連合軍なら利害も一致するやろ?」
 便乗してジルベールが提案する。
「まあ、血生臭い戦いの歴史があるからなかなかうまくはいかんが、変わっていく必要はあるな」
 まんざらでもない栄進。その様子を遠巻きに見ていた重鎮達は不快そうに眉を顰めるのではあるが。
「あ、真世さん。着替えてきてくれたんですね」
「う。うん」
 アイシャの方は、ドレス「アルセイド」に着替えてきた真世に喜々としていたり。
「真世さん、料理はちゃんととってあるよ」
「アレクセイもこっち来て飲みなさ〜い!」
 クロウとアーシャが手招き。
「北の砦はあのとおり。対空装備の機械弓はやむを得ず……。正直言って、地上戦力だけでは南那は守れません!」
 きぱっと言うアーシャだが、まだ酔ってはいない。ついでに、自分が巨大弓を壊したとも言わない。
「でも、守る方法はあるですっ」
 キパと言うネプ。こちらももちろんまだ酔ってない。というか、ちょっとは酔ってもいいんじゃない?
 とにかく騒ぎはまだまだ続きそうだ。



 翌日。
 開拓者達はジルベールの提案で、予定にはなかった戦没者慰霊祭に飛び込みで列席した。これには「所詮よそ者」と冷ややかに開拓者を見ていた軍の下級兵たちも感心したという。
 それはそれとして、練馬場での相棒披露。
「行くでー。これなんかどうや〜!」
 鷲獅鳥「ヘルメス」に乗って飛んでいるジルベールが、弓から刀に換装し方向転換した。さきほど、弓と真空刃による相棒との一斉射撃を披露したばかりだ。
「飛行相棒が攻撃だけと思ったら大間違いです」
 反対側では、炎龍「セネイ」に乗ったアーシャがやはり方向転換。先の射撃も騎士盾「ホネスティ」を掲げるなどうまいことジルベールの相手をしてやっている。
 この時、地上。
「見せ場ですね」
 アレクセイがアーシャの様子を見上げながら言った。横には相棒の甲龍「グロック」が翼をたたんで控えている。
「ああ」
「ま、心配いらんだろ」
 クロウも眩しそうに見上げ、アルバルクが肩をすくめる。
 そして空中では、ジルベールが刀を振るうのと同時に鷲獅鳥にスマッシュクロウを使わせすり抜ける。
 一方、この攻撃を喰らったはずのアーシャは盾でしっかりと防ぎ、セネイも装備した龍鎧の部分で受けていた。
「どうや。鷲獅鳥は敵が遠くても近くてもいけるで。飛行アヤカシに襲われるかも知れへんから、飛行相棒なんてどうや」
「炎龍はやっぱり接近戦に最適ですよね〜」
 下りてきたジルベールとアーシャは満足そうに勧める。
「人妖、揃えるって出来るんか?」
「無理じゃないかなぁ?」
 横では飛鈴が真世を横目で見ながら聞くが、当然真世の答えはつれない。
「駿龍は……。まあー少数精鋭を運ぶアシだろうナァ。アレを純粋な戦闘戦力として換算するのはちと不安があるナ」
『グアッ』
 飛鈴の言葉に、横にいた相棒の駿龍「艶」が唸った。前回、飛鈴の言う役目をきっちりこなしたので堂々としたものだ。
『人妖は無理……。よーしここは一つボクがだね』
「お前じゃねえ座ってろ」
 飛鈴の言葉に反応していた羽妖精のリプスは出番とばかりに前に出ようとするが、主人のアルバルクに首根っこをひっ捕まえられて『ぐえっ』。
「駿龍はいいと思うけどな。……ああ。ここの事情を考えたら航続距離の少ない滑空艇がいいかもな。ほら、『侵略の意図はありません』って」
 ひらめいたクロウの言葉。 
「ま、論より証拠だな。……『サザー』?」
 アルバルクが頭をかいて自らの相棒、駿龍「サザー」を呼んで騎乗する。
「付き合おう」
 クロウも自らの相棒、駿龍「カスゥルガ」を駆って出る。
「あたいも滑空艇を推すよ! 滑空艇自体は非武装だし、南那にはぴったりだと思うんだ♪」
 出るならあたいも〜、とルゥミが滑空艇「白き死神」を展開して風に乗る。
「アイシャさんは出ないの?」
 たちまち空で駿龍の機動性を見せるアルバルクとクロウ、そして急反転して照明弾をぶっ放したルゥミ。これを見上げながら真世が聞いた。
「あたしはいいんですよ」
 アイシャは自分の駿龍「ジェイド」を撫でて見上げるだけ。昨晩、駿龍の良さは十分伝えているからだ。
『ボクもほら、飛べるよ?』
「あんたは小さいからなぁ。小さいなら『忍犬』を推薦するな」
 ほらほら、と自己主張するリプスを以蔵が構ってやる。
「忍犬なら先んじて斥候できるし、いろいろ役に立つぜ」
「はぅ! 駆鎧がいいのです!」
 ここで、陸用の言葉に反応したネプが勢い良く喋り始めた。
「今回みたいな大きな敵にも対応できるですし、力があるですから、今回壊された砦の修復作業にも使いやすいのです!」
 この意見は、お、と正規軍から注目された。
「それに何より、駆鎧が沢山集まったところは、かっこいいのです!」
「本音が出た……」
 正規軍は砦修復などの運用に興味を引かれ議論していたためネプの最後の言葉には気付いてない。代わりに真世が突っ込んでおいた。
「証拠に……ほら、かっこいいのです!」
 ネプ、自らの人狼型駆鎧「ヴァナルガンド」を展開して乗り込んだ。桜色の機体がぐぐっと立ち上がり、相棒斧「ウコンバサラ」を担ぐ。
 と、ここで背中の搭乗口が開いた。
「はう〜っ。何かでかくて硬い、壊してもいいものとか、用意してもらえるですー?」
「さすがにここにはないようですね」
 アレクセイがてきぱき答えると、耳へにょするネプ。仕方なく素振りでデモンストレーションをした。
「ですが、アーマーは乗り手が……」
「ああ。導入する相棒の必要性と共に、人材登用も進めたいってのが本音だからむしろ乗り手が限られるほうが都合がいいんだ」
 心配するアレクセイに、自らの腹の内を話す瞬膳だった。
 とりあえず導入する相棒は今回の結果を報告して協議することとなる。



 そして、南那の南那亭。
「真世さんがこっちの南那亭で働く姿が見れるとは……」
「……加来さん。なんかこのメイド服、素肌の出る場所が多いんだけど」
 満足そうな加来に、こっちのメイド服に着替えた真世が複雑な表情をしている。
 胸元を広く空けて肩も出し、スカートの丈もさらに短くなっているのだ。
「元々メイド服はジルベリアのものでしょう? こっちだと暑過ぎますからね」
「そ、そう?」
 胸元は白く清楚でフリルたっぷりのシャツで隠れているとはいえ、やっぱりいいのかなぁという思いがある。が、さすがに暑いので納得する。
「……おい。胸のサイズが」
 更衣室からは飛鈴のそんな声。
「だったら胸を全部出しましょう。どうせ白いシャツを着てるんですし」
 アイシャの声も。
 出てきたアイシャの格好は真世と一緒だったが、飛鈴のほうはメイド服の襟元を下げて白いシャツの胸がどどん。
「後は……客引きを狐鈴にやらせよう」
『おむ?』
 話題に上った狐鈴は、既に席に着いて珈琲を飲んでいたり。
「このタダメシ食いめ……」
 ふるふる拳を固める飛鈴だが、すぐに忙しくなる。
「アイシャお嬢様?」
「これでも店員さんですからね!」
 アレクセイに声を掛けられたアイシャの方は晴れやかに言って働き出した。
「仕事が一段落した後は酒もええけどコーヒーが最高やなー」
「あたいも〜。最高やなー」
 店内には、足を伸ばして椅子に座りうまそうに珈琲を飲むジルベール。それをルゥミが真似していたり。
「まあ、おっさんも何だかんだで忙しかったしな」
『人気者はつらいよねー』
 アルバルクとリプスもまったり。
「数は練習用の遠雷を2機、火竜を3機、人狼を5機くらいがいいと思うのです!」
 ネプは珈琲飲みつつも夢を語り尻尾をぱったぱった。
「真世さん。こっちの新人さん、歩き方がなってないから注意したほうがいいですよ」
 アーシャは早速、客として見てこっちの店員の至らない点を真世にこっそり伝えている。
「うん、分かった。……ええと、店内を歩く時はお客様の邪魔にならないように。見た人が不快にならないように。そして自分の気持ちが輝くように」
「へえっ。深夜さんいいこと言うなぁ。なかなかそこまではできない。ちゃんとやってる人は違う」
 新人にコツを話す真世に、殊更感心したようにクロウが褒めた。
「ちょ……クロウさん。どうしたの?」
「いいものはいいのさ。……よし、俺もアル=カマル式の珈琲の淹れ方や珈琲占いの方法を……」
「それよりひと汗かきたいよな」
 何だか晴れやかな真世の様子。これを見てクロウが腰を上げたところで棍を持った以蔵がぐいぐい外に。
「値段以上に喜んで貰おうと思って頑張れば、お客さんにも伝わるもんや。頑張ってや」
「ほら、ジルの兄貴も」
 新人と話していたジルベールもずりずり連れて出て稽古し始める始末。
「あれ? 客さん無茶苦茶増えてるっ!」
「そりゃ英雄の店ですからね〜」
 慌てる真世に、当然とばかりにせっせと働くアイシャ。
 開拓者達はこうして南那に親しみを込めて受け入れられたのだった。