南那〜破城塔への葬送曲
マスター名:瀬川潮
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/05/01 21:31



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


●後退した作戦本部
「どうだ?」
「はい、ヤツはあれからまったく動きがありません」
 南那正規軍親衛隊長の瞬膳(シュンゼン)が北の砦守備隊臨時屯営に到着したとき、同守備隊の隊長、粋頑(スイガン)は声を弾ませた。
「いったん荒野に抜けてから飛空船で戻ったと聞いた時は安心しました。志体持ちのいない守備隊では、アレはなんともなりませんからね」
 アレとは当然、巨大決戦型アヤカシ「破城塔」と陸戦アヤカシ「骨鎧」50体程度のことだ。
 釣られて改めて前を見る瞬膳。
 遠くに、鉄壁を誇り長く南那防衛戦略を支えて来た要衝、「北の砦」が見える。
 が、すでに中央城門部分が破壊され、「破城塔」がすっぽりと収まっている。
 前回、瞬膳は開拓者を雇い迫る破城塔に対し塹壕を掘り砦手前での決戦を挑んだ。
 開拓者は、深夜真世(iz0135)などで編成する「南那の騎馬部隊」。南那の西部戦線で馬賊と人馬アヤカシから領地を守った英雄部隊である。
 その戦闘で破城塔を塹壕に落とすことには成功したが、外堀踏破能力である前面装甲排除とその後の再生により突破された。城門などは破られるが、敵の再生能力の中心を砕くことに成功。再戦を心待ちにしていた。
「黒い霧もないし、もう再生しないことは明らかだが……動かないとはどういうことだろう?」
「北の砦を破るための兵器だったものです。もう、目的がなくなったんじゃないですかね?」
 ふむぅ、と顎をさする瞬膳に粋頑がおうじる。
「しかし、今はアヤカシだ。どうせそのうち出てくるだろう。占拠してても意味がないからな」
 瞬膳、そう見る。
 そして当然、南那としては放置しておくわけにはいかない。南那の良質な塩は内陸部でこそ高く値がつき、農作物の生産高に劣る性格上内陸部からの作物輸入は必須のものとなる。飛空船での交易に一定の制限をつけている以上、この北ルートの交易線は掛け替えのないものである。
「出てくる見通しなら、そこを狙いますか?」
 城攻めは大変ですからね、と粋頑。
「とはいえ、敵は攻城兵器。守りに入って同じ強さというわけではあるまい」
「もう再生能力がないならもう一度塹壕に落とすのも手では? 幸い、今度はここからさらに後方の東側に川があります」
「誘い込むことが出来ればそこで終わるな。……もちろん、失敗して直進されればいずれ村に突っ込まれることになるが」
「まあ、アヤカシ化する前の究極的な目標は中心都市の椀那(ワンナ)だったんでしょうし」
「もしも誘導に失敗すればもう防衛施設はない。椀那までまかり通られてしまう、か」
 策を巡らせる瞬膳と粋頑。
 ご覧のように、戦意は落ちていない。
「まあ、戦いやすいほうで戦うほうがいい。『英雄部隊』の意見を聞いて、やりやすいほうで料理をする」
 瞬膳、そう結論付けた。
「親衛隊の消耗も激しい。ここをあの戦力に抜かれることがあれば南那の最後だ。最終決戦のつもりでいくぞ。必要なら航空戦力も使っていい」
 こうして三度、深夜真世たちが呼ばれることとなる。
 北の砦に張り付いている間に叩くか、再び敵が前進し始めてから叩くか。
 開拓者の判断で決まる。


■参加者一覧
梢・飛鈴(ia0034
21歳・女・泰
萬 以蔵(ia0099
16歳・男・泰
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
アレクセイ・コースチン(ib2103
33歳・男・シ
ネプ・ヴィンダールヴ(ib4918
15歳・男・騎
ルゥミ・ケイユカイネン(ib5905
10歳・女・砲
アルバルク(ib6635
38歳・男・砂
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂


■リプレイ本文


 守備隊の本営で。
「前回はしてやられたが……」
 穴の開いた「北の砦」を見遣り、クロウ・カルガギラ(ib6817)が胸にかけた青い「邪視除けのお守り」を弄りつつ声を出していた。
「とんだびっくり箱だったなあ」
 横に並んで、アルバルク(ib6635)が顎鬚を弄りながらぼやく。
 そのびっくり箱たる巨大アヤカシ「破城塔」は砦の穴に居座っている。ちょうど正面門があったところで、彼らが前回の出撃前に珈琲を飲んでいた場所でもある。すでに粉々に砕かれ存在しないが。
「でも、もう敵の手の内は出尽くしたはずだって」
「そうあってほしいもんだ」
 語気を強める深夜真世(iz0135)をぽふぽふとなだめるアルバルク。
「それに、動かないのは足回りに不具合が出たのかも? 前回、以蔵さんが徹底的に狙ってたし」
「ああ。完全破壊まであと一歩だよな」
 振り返る真世。そこにいた萬 以蔵(ia0099)はぽんと真世の肩を叩いて背を向け下がった。
 その以蔵の行く横で。
「…評価してもらえてたみたいですけど、あんなの負け以外の何物でもないのです…破片一つ残さず瘴気にしてやるのです…」
 俯きがちのネプ・ヴィンダールヴ(ib4918)が、無表情で影の落ちた面のままぼそりと何か言っている。
「あ、あの、ネプさん? なんだか怖いんですけど」
「いーからほっといてやれっテ」
 不穏な雰囲気を感じた真世がびくりとしたところ、紅い泰拳袍「獣夜」に身を包んだ姿が寄ってきて声を掛けた。
 梢・飛鈴(ia0034)だ。
「前回参加し損ねた分ちっとは派手にやってやらんとナァ。さっくりと片ァつけてやるカイ」
 くい、と半被りしていたもふらの面を上げニヤリとする飛鈴。
「なかなかしぶといものですね。……いいでしょう、決着を付ける事といたしましょうか」
 前にいたアレクセイ・コースチン(ib2103)は、逆にすっと身を引いて後に下がった。黒い手袋を引き絞りつつ見遣る先は、以蔵が取りまとめている南那正規軍たち。
「……必ずや崩落へと成し遂げて以降の憂いを無くす様にするんだぜ!」
「おおっ!」
 以蔵の檄に応じる正規軍。
「これ以上、仲間も傷つかせる事の無いように計らわないといけませんね」
「もちろん。領内にも入れたくないのです。あんなのに穢されたくないのです」
 正規軍を見遣り呟いたアレクセイと、歩み寄ってきたアーシャ・エルダー(ib0054)がすれ違った。きっ、と顔を上げて言い切るアーシャ。
「……たとえ、あの塔が私たちを待っていようが」
「アーシャさん」
「今回、セルムとゴリアテを連れて来ました」
 アーシャの瞳に感じるものがあった真世。気付いたアーシャが自信を見せる。
「真世さん、落ち着いてやれば大丈夫ですからね」
 姉のアーシャについていたアイシャ・プレーヴェ(ib0251)がぎゅっと真世を抱き締めてやる。いつも、いつだって戦いを切り抜けてきたおまじないだ。
「今回はアーシャさんと同じくダブル相棒で行くっ。トントゥとスターダストだよ♪」
 さらに横からぴょこんと飛び出し、元気良くルゥミ・ケイユカイネン(ib5905)が言う。
 これを背中越しにふっと微笑するアルバルク。
「砦は確かに破られはしたが…もういいだろう。どこまで行くのが目的だったのかは知らねえが、ここいらで古い古い夢の続きは、オシマイにさせてやろうや」
「ああ。戦士の誇りにかけて、今度こそあの世に送り返してやるぜ」
 遠い歴史を空かし見るように目を細めたアルバルクの横で、クロウが口の端を引き締めるのだった。
「よし、守備隊の撤収準備は完了した。英雄部隊と親衛隊、総攻撃だ!」
 瞬膳の声が響く。



――ドカカッ!
 馬の蹄に荒野の瓦礫がはじけ飛ぶ。
「行くぞっ!」
 霊騎の集団の先頭は、瞬膳。
「野郎が化け出て意地を通したなら、今度はこっちが意地を通す番だぜ」
 アラベスク(霊騎)に乗って続くアルバルクが言い、さっと左手を横に伸ばして合図をした。にやり、と前を見据えるのは、事前に望遠鏡で覗いたとおり、敵は地上と砦の上に戦力を分散したままであることから。
「よし、アルバルクさんが撃ってから左に突っ込む」
 クロウはユィルディルン(霊騎)と一緒だ。弓を装備した正規兵数騎を連れて二列目から左翼に展開する。
「それじゃ、お先に行くな!」
 鏡王・白(霊騎)を駆る以蔵が速度を上げた。先んじて吶喊する気だ。
「無茶すんじゃねぇぜ?」
 イェニ・スィパーヒで乗りこなすアルバルクも速度を上げて付いて行く。手には魔槍砲「戦神の怒り」。
――ひゅん。
 気付いた骨鎧のうち、弓を装備していた数体が撃ってきた。
「攻撃を惹きつける役目だぜ?」
 以蔵、鞍上で絡踊三操をぶんぶん振り回し飛んできた矢を防いだ。
「それだけ陸上部隊に弓が少ないってこった」
 この隙に以蔵を追い抜いたアルバルクが、十分近寄ってから魔槍砲「戦神の怒り」を発射。
――ピカッ!
 撃ったのは通常弾ではなく、スキル「閃光練弾」。炸裂した弾丸が敵の鼻っ柱で閃光を放つ。
「ちぃと無茶したが、目晦ましにはなったろ?」
 アルバルクの武器は極端に射程が短い。敵の攻撃を受けたが、目晦ましをかました後は離脱もたやすい。
「よし、主力が地上正面だと思わせてやれ!」
 ここで、後から瞬膳の声。残りの正規兵が殺到し乱戦に持ち込む。
「出撃前に言ったとおり、連携だぜ? 敵の注意を散らせつつ個々に追い込んだ処で集中撃破がいいよなっ」
 声を張りつつ以蔵が「破軍」で気合いを乗せた一撃――爆砕拳をかまして本格的な格闘に入る。あえて最激戦区に突っ込んだのは、「裏一重」の極意でまず目の敵にされるため。
「続け続け〜!」
「以蔵さんを孤立させるな」
 味方が突っ込んできたのを見計らい、引く。追ってきた敵は味方の餌食だ。
 敵の波を押し止めたのを見計らい、また踵を返す以蔵。絡踊三操で薙いだり引っ掛けたりするのは……。
「敵をここに釘付けにするんだぞっ。長く戦えばそれだけ味方が楽になるぞっ」
 以蔵、突破を考えていない。
 理由は頭上にあった。
 航空部隊が突撃を開始したのだ。

 この時、クロウは数騎を従え左翼から突出していた。
「とにかく狙われないように動け!」
 砦の上から矢を射掛けられているが、機動力を生かしとにかく動くことで被弾率を下げていた。特に回転円陣の動きで入れ替わり立ち代りつつ絶え間なく矢を射掛けている。
「これでいい。地上はアルバルクさんと以蔵さんが引き付けてくれている」
 クロウ自身、騎乗戦技の見事な騎乗からフリントロックピストルで上を狙っている。
 おかげで敵はもう隠れることに精一杯だ。クロウらに大きな被害はないが、敵も同様。
 が、これは計算のうち。
 証拠に、はっと砦の骨鎧たちが顔を上げた。
 ぐん、とジェイド(駿龍)に乗るアイシャが迫っていたのだ。
 慌てて射角を取って弓を構える骨鎧。
 だが遅い。
「こと、弓で私にかなうと思ってます?」
 アイシャ、薄く笑ってロングボウ「ウィリアム」でガドリングボウ。長い射程から三本矢が迫ってくる。
――カツッ!
 骨鎧、先ほどから避け癖がついていたため身を屈め難を逃れる。が、アイシャは安息流騎射術で揺ぎ無し。チャージしたジェイドがラッシュフライトで一気に詰めてくる。今度はバーストアローで隠れた敵に薙ぎ払い攻撃を仕掛ける。これで完全に砦左側は沈黙した。
「行くよ、セルム。今度こそ決着付けに!」
 この隙に、セルム(鷲獅鳥)に乗ったアーシャが突っ込んできた。セルムに暴れさせてアーシャはスタンと着地する。
 そのまま長い柄のアックス「ラビリス」を横に構えて走るっ!
 もちろん敵に弓を向けられるがこれを無視。セルムからの真空刃が来てるのを感じつつ……。
「これ、けっこう高価ですよね〜。南那の皆さんには悪いけれども。また私、南那のためにいっぱい頑張りますから!」
 にこやかに言い訳したっ!
 そして眼前に迫った固定式の大型弓に、助走と遠心力を加えた渾身の一撃をぶうんとかます。
――ガシャ!
 デリケートな弓の部分が折れた。
 しかし、これを完全破壊というか?
 と、ここで上空から影が落ちる。
「グロック、もう一仕事行きますよ。アイシャお嬢様、アーシャお嬢様の援護です」
 アレクセイだ。
 彼の呼び掛けに、グアッと返事をするグロック(甲龍)。チャージでたっぷり溜めた急降下爆撃から、相棒用の鎖鉄球「鎖明星『甲龍』」が繰り出された。
――ガスゥ…ン。
 重い一撃でついに固定弓の支柱が折れた!
「吹っ飛んどきなさ〜い」
――ドガッ!
 アーシャの追撃で、支柱の折れた巨大弓が砦の下に落とされるのだった。



 これより少し前、下の乱戦。
「アルバルクさん、ちょっとお願いっ」
 静日向(霊騎)に乗った真世の叫びに、ストライクスピアで正面の敵をぶっ飛ばしていたアルバルクが反応した。
「どうしたい?」
「ネプさんが突っ込んでるの!」
 軍馬で先を行くネプを追いながら真世が叫ぶ。
「仕方ねぇ。真世はいいから砦の弓兵を狙いな」
 馬首を巡らせるアルバルク。ちょうど魔槍砲の充填の時期でもある。
「行って来いって。ちょっとの間ならおいら、突撃のタイミングをずらすぜ?」
 効果的に爆砕拳をぶっぱなし、絡踊三操で敵を寄せ付けない戦いを繰り広げる以蔵が振り返りもせずに言った。
「ちょっくら行ってくる」
 アルバルク、アラベスクに最適置で微妙に位置をずらしつつ戦っていたが、ここでどーんと「踏みつけ」。
 ただし、これは攻撃目的ではなく空中移動のため。着地するや否や高速走行でネプを追う。
 この時、左翼上空にも味方が姿を現していた。
 トントゥ(甲龍)に乗ったルゥミだ。迅鷹のスターダストもトントゥの鞍に止まっている。
――ヒュン。
「来た」
 ルゥミ、砦の骨鎧に気付かれ射かけられところでトントゥの首筋をぺちりと叩いた。この合図で硬質化するトントゥ。
「今度はあたいの番」
 近距離射撃で精度の落ちる鳥銃「狙い撃ち」を構え片目をつぶるルゥミ。
「大丈夫だよ! あたい毎日練習してるんだから!」
――タァン!
 もしかしたら、心の中で今は亡きじいちゃんが語りかけていたのかもしれない。
 そんな一撃はびすりと骨鎧を砕く。半身が砕けるもまだ動いている。さらに追撃で息の根を止める。
 この時、状況は目まぐるしく動いていた。
 まずは下。
「ネプさん、どうしたの? 呼んでも返事してくれないし」
「……」
 真世が砦の下近くでようやく止まったネプに追いついていてた。上はルゥミに射線が集中している。
 この時、上。
「とりあえず、邪魔なもんはどかさんとナ」
 ルゥミの背後から艶(駿龍)が一気の高速飛行で突っ込んでいたッ!
 駆るは紅き泰拳袍の、飛鈴。
 射線は守りをがっちり固めたトントゥに集中している。完全に虚を突いた形だ。
 そして何と、砦で艶から飛び降りたぞ。
「よっ、と」
 スタンと着地を決める飛鈴。艶はそのまま離脱して射撃を誘うような飛行に入る。
――ザザッ!
 さすがに色めき立つ砦右側の骨鎧。早速弓を撃ったり曲刀に換装する。
 その、瞬間だった!
「はぅーーっ!」
 下から轟く意味不明の叫び声。
 なんだ、とばかりに下を見る骨鎧。
 そこには、ネプがいた。渾身の咆哮だ。
「あ。ちょっとネプさんどこ行くの?」
「おっと……。いいから真世は反撃しなって」
 たちまち矢が降り注ぐが、ネプは騎士剣「グラム」でいくつか防ぐと何もなかったようにしれっと移動。代わりに真世が残され反撃。アルバルクは真世を残すわけにも行かず、真世を守りつつ追ってきた地上部隊と交戦している。撃って防いで斬り返してと、魔槍砲ならではの間合い自在の活躍だ。
 そして、上。
「あははっ。もしかしたらと思ったけど、やっぱりこっち向かないんだねっ」
 慎重に観察していたルゥミがここで突撃。魔槍砲「赤刃」を構えると、固定巨大弓に向かって魔砲「ブレイカーレイ」発射!
 一直線の閃光が巨大弓を、周りの骨鎧を薙ぎ払う。
「あン? 堅いんカイ?」
 すれ違う骨鎧にアーマードヒットの拳をめり込ませつつ突っ込む飛鈴が「それなら」と覚悟を決めた。
 すうう、と息を吸い旋風脚で大回転しつつ敵を砕いた。
 その動きはまだ終わってない!
 激しい遠心力で型がばらばらになったまま巨大弓に吹っ飛んだかと思うと、そこから激しい蹴りを繰り出す。
 その名も、絶破昇竜脚ッ!
――ガクリ。
 支柱からお辞儀する巨大弓。飛鈴が勢い余って吹っ飛ぶ隙に、さらにルゥミからブレイカーレイがっ。
 ずずぅん、と巨大弓は砦の下に落ちていくのだった。
 これで砦の正面側、つまり破城塔の開口部側への強力な敵側対空兵器が二門とも喪失したこととなる。



「よし!」
 砦の上を見つつ戦場を自在に横切っているクロウが会心の声を上げた。
 クロウはこの時、さっと砦から引いてシャムシール「アッ・シャムス」を抜刀。戦場を駆け抜け遠近織り交ぜ暴れている。常に先手を取り対応される前に動いているので止まらない。いま、棍で奮戦する以蔵の前を横切った。
 狙うはもちろん……。
「左側面が弱かったはず」
 やや敵の多かった反対側へと大回りしている。
 目の前ではネプが砦と破城塔の隙間から突破をしている。
「よし、ごり押しだな、後は……。真世は下がってな」
 アルバルクもネプを追っている。真世は素直にしたがって二人の健闘を祈りつつ後退。
「俺は……ここを狙う」
 クロウは、ユィルディルンを駆って高飛び。そのままファクタ・カトラスで体重を乗せ切り下げるっ!
 左側面に結構なダメージが入ることとなる。

 この時、上空。
「お姉!余り無茶はしちゃダメですよ! アレクセイ、お願いね!」
 アイシャのジェイドが破城塔上空を駆け抜けた。入る前にバーストアローで一射して、髪を振り乱し振り返り声を掛けざま……。
「今後の憂い、一体たりと容赦しませんよ!」
 びすり、と二射。天井開口部にいた弓の骨鎧を倒した。
「セルム、ご苦労様。アイシャ、任せたからねっ」
 続いてアーシャがセルムで突っ込んで天井部に着地。飛び去ったセルムはアイシャの管理に入る。
「よっ、とナ」
 すたん、と飛鈴も砦から飛び降りてきていた。そのまま残った骨鎧に蹴りを見舞う。
「さあて。立ち●がれ〜、立ち●がれ〜……♪」
 アーシャはアーマーケースからゴリアテ(アーマー)を迅速起動。気分良く歌う歌は荒野の風に一部遮られていたり。
 が、当然残った骨鎧が襲ってくる。飛鈴は逆サイドだ。これは援護できない。
――すとっ。
「レディの着替え中を襲おうとはいやはや……その様な不埒者には私がお相手いたしましょうか」
 グロックから飛び降りたアレクセイがいたっ。忍刀「黒龍」で斬りつけ戦う。
 この隙にゴリアテ、屋上部分で起動。

 同時に、下でも。
「低空爆撃だよっ」
 トントゥのルゥミが、制空権を確保した敵後背開口部に肉薄していたっ!
「どっか〜ん!」
 赤刃で魔砲「スパークボム」を開口部にぶち込む。
 ただし、一発だけ。
 理由は明白。
 後部にネプがいたっ。いや、既にアーマー「人狼」に乗り込んでいるっ。
 いま、ぎぎぎと桜色に塗装されたヴァナルガンドが起動。いきなりアーマーアックス「エグゼキューショナー」を振りかぶっているっ!
――ドカッ!
 迫力と質量のダウンスイングで寄ってきた骨鎧を粉砕。アーマースマッシュだ。勢い余って破城塔一階床部分もざっくりと。
 そのまま破城塔に乗り込むネプ。
 一方、ルゥミは迅鷹のスターダストを従え屋上部分に着地していた。
 この時すでに、飛鈴とアレクセイが無言で頷き合って前と後の二箇所の昇降階段を使い二階部分に下りていた。
「さてと、前回は暴れ足りなかったし、今回は大暴れさせてもらいますよ!」
 アーシャ、アーマーアックス「エグゼキューショナー」を上段で溜めて、渾身のゲートクラッシュ!
――ドゴォ!
 何と、狙ったのは自分の足元。
「きゃあああっ!」
 派手に床が抜けて二階に移動した。
「無茶苦茶やナ……」
「変わりませんね……」
 先に下りていた飛鈴とアレクセイが呆れる。
 さらに下ではネプがアーマースマッシュの連打・連打。外側でクロウが痛めつけている側面の壁をこれで完全破壊した。
「よっ!」
 ひらりとユィルディルンで飛び込んできたクロウがファクタ・カトラスでネプに群がっていた敵を斬る。クロウが入ってきたことでネプの防御面も安泰となった。
 そして、天井。
――ぴぃぃぃ!
 ルゥミの呼子笛が響いていた。
 反応した迅鷹のスターダストが首をもたげ主を探す。見つけるとばささっと飛び寄り、きらめく光となった。いや、すぐに姿を消し、ルゥミの持つ武器と同化する。「煌きの刃」だ。
 そのままアーシャの開けた穴から飛び降りると、相棒同化の赤刃で前面装甲内側を狙う。
「集え星屑の光! スターダストブレイカー!」
――ゴゥン!
「おわっ!」
 外での戦闘を優位に戦っていた以蔵が驚いて見上げたほどの爆破であった。
 前面装甲にぽっかりと穴が開く。
 場面は再び、内部。
「しかし、敵の核のようなものは前回の以外にはないようですね」
 超越感覚に暗視と、偵察技術の全てを尽くして探っていたアレクセイが難しそうな顔をしている。もちろん、敵を屠りつつ。
「ちゅーことは、外壁を壊す……のカァ? 骨が折れるってレベルじゃねー」
 骨鎧に蹴りを入れつつ呆れる飛鈴。
 下では、纏いつく骨鎧をクロウに任せているネプが反対側の壁に穴を開けていた。
 と、この時。
――がくん。
 とんでもないこととなった。



「ちょっとーっ。前進し始めたじゃないっ!」
 外で真世が叫んでいた。
 外部での戦闘はほぼ終了。正規軍と開拓者は敵をほぼ一掃していた。
 そして破城塔は内部からの破壊でボロボロ。
「とうとう苦しくなって逃げ出したか?」
「……前に、かよ!」
 アルバルクと以蔵、これに反応。しかし退避際に敵の突進に引っかかる。「大丈夫?」と真世が駆け寄るが、反応が遅れた正規軍が壊滅的ダメージを受ける。骨鎧が全滅したからこその戦法かもしれない。
 さて、内部。
「この速度を出されてたら駆鎧は追いつけなかったな」
 クロウがどうしたものかと周りを見る。ネプの方はついに練力が切れ強制排除で出てくる。
「乗り込んでたから事なきを得たガ……どないせーっちゅう……」
「とにかく壊すしかないよ」
 飛鈴の呆れ声にルゥミが元気良くこたえ、今度はスターダストに殲刀「秋水清光」と同化させ壁を斬る・斬る。
 しかし、破槍塔の前進は止まらない。
 陸上部隊もこれを追うことは出来ていない。最後の突撃を喰らってもう余力がないのだ。かろうじて航空部隊のアイシャが残っているが、皆の空戦相棒を気にして微妙に統率しているので動けない。
 このまま領地深くに侵入されてしまうのかっ!
「ん? アーシャお嬢様?」
「土台とか中央とか、その辺が怪しそうな?」
 ゴリアテの気配に気付いたアレクセイが慌てて呼子笛を吹いた。
――ゴスッ!
 何と、再びアックスで床を破壊するアーシャ。一階部分にずどどんと落ちる。幸い、壁を狙っていたネプとクロウは右に寄っていたのでこの降ってわいた災厄に巻き込まれることはなかった。
「そうれ、もう一丁〜」
 再び振りかぶり、渾身のダウンスイングをするアーシャ。
 時代が時代であれば、ホイールベースと言われたかもしれない。
 その車軸を支える土台部分を、破壊した。
 あるいは、外からでは無敵を誇った内部多重車輪構造が、ホイールベースの弱体化につながっていたのかもしれない。
――バキッ! ガリガリガリ!
「わあああっ!」
 真っ二つになった土台は、左右に分かれつつばきばきばきと上部を崩壊させつつ、股を開くように前進を続け……。
 そして、止まった。
「いたたた」
「はうっ? これで終わったです?」
 開拓者達は放り出された場所で、しゅううと瘴気に戻り瓦礫となって崩れる破城塔を見守るのだった。