【希儀/密命】嵐
マスター名:桜紫苑
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: 難しい
参加人数: 8人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2012/11/29 05:33



■オープニング本文

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●剣
 途方もなさすぎて、現実味が感じられない話だ。
 そう考えて、焔は口元を歪めた。
 子供に聞かせる昔語りの方が、まだマシだ。開拓者を焚きつけ、語る自分が間抜けに思えた程だ。
 7500年という年月は、あまりに遠過ぎて実感が伴わない。
 それは仕方のない事だ。けれど‥‥。
 しゅるりと紐を解く。
 錦の鞘掛けから姿を現した剣の柄を握る焔の顔に緊張が走った。
 刀身を鞘から引き抜く、ただそれだけの行為をこんなにも躊躇った事はない。
 手のひらに汗が滲む。
 どれくらい、そのままでいたのだろうか。
 やがて、焔は大きく息を吐いて、元の通りに剣を錦で包んだ。

 布都御魂。

 かつて、天儀朝廷が所有していた2振りの霊剣の片割れ。
 長い長い時間、朝廷の奥深くで眠りについていた剣が、希儀から船が流れ着いたと同時に表に出て来た事が、時の彼方に失われた対を求めているように思える。もしくは、嵐の門の向こうから対を呼ぶ声に応えたか。
「‥‥感傷、か。私らしくない」
 自嘲すると、焔は頭を振った。
 剣がどうあれ、自分は与えられた任を果たすだけだ。
 伝承の真偽はともかく、何者かが対の剣を探すという密命を妨害しているのは確かだ。
 最初は、密命を帯び、開拓者と共に希儀に向かうはずだった者が殺された。
 殺した女は、その場で自分の首を切って死亡。町方では2人の心中事件として処理した。しかし、殺された男は相当の手練れだった。主から受けた密命の途上で、女に隙を見せるような者でもない。忠狂いだったのだから。
 そして、先日、また1人殺された。
 昇殿が許された殿上人で、温和な人だったという。
 その温和な人が、開拓者を拘束するという暴挙に及び、直後に事切れたのだ。
 突然、糸が切れたように倒れ込んで、それっきりだ。
 彼のような最期を迎えた者の話は、ここしばらく、よく耳にする。開拓者を襲う者達だ。自分達が不利になった途端に死ぬか、もしくは廃人となる。偶然の一致ではないと、焔は考えていた。
 鍵となるのは、やはり開拓者と接触したという謎の人物だろうか。
 目撃されたのはほんの一瞬だが、十分に怪しい。
「だが、襲撃は防げばいいだけのこと。最大の問題は、やはり情報だろうな」
 手掛かりが、腕に抱えた剣だけというのは何とも心許ない事だと、焔は嘆息した。

●出立
 希儀での行動の第一段階が成功した。
 その報告が届くと同時に、彼らは動き出した。
 先遣隊の成功を受けて、新しい儀に向かって飛び立つ飛空船は後を絶たない。その中に紛れて出立すれば、襲撃者の目も誤魔化せるかもしれない。この機を逃す手はない。
 念の為にと、複数の飛空船も手配してある。
「どの船で行くか、いつ出立するか、最終的な決定は任せる。これまでの事を考えると、敵に襲撃される確率は高い。その辺りを踏まえての連携も、お前達が中心となって考えた方がうまくいくだろうしな」
 焔は開拓者達を見回した。
「また、「布都御魂」が導くとはいえ、どのような状態になるか分からない。今、希儀で動いているのはお前達の仲間だ。情報も手に入れ易いだろうし、希儀に着いてからの事も任せる」
 開拓者達は、大きく頷きを返したのだった。


■参加者一覧
霧崎 灯華(ia1054
18歳・女・陰
赤鈴 大左衛門(ia9854
18歳・男・志
ケロリーナ(ib2037
15歳・女・巫
御調 昴(ib5479
16歳・男・砂
叢雲 怜(ib5488
10歳・男・砲
笹倉 靖(ib6125
23歳・男・巫
フレス(ib6696
11歳・女・ジ
神座亜紀(ib6736
12歳・女・魔


■リプレイ本文

●確認
 水月と一緒に休んでいた神座亜紀(ib6736)は、そっと音もたてずに寝床を離れた。
 夜も更けた時間。
 寝静まったはずの仲間達が、示し合わせたように部屋へと集まって来る。
「どう?」
 笹倉靖(ib6125)が問うた。
 何が、とは聞かない。
「よく眠ってるよ」
「そう」
 短く返し、靖は僅かに視線を下げた。物憂げな表情を浮かべ、髪を掻きあげた靖を仲間達がじっと見つめる。やがて、彼はゆっくりと口を開いた。
「結論から言えば、術を掛けられている気配はない」
 安堵半分、疑念半分といった様子で息を吐く仲間達を見回して、靖は眉を寄せた。
「分からないな。そいつは何がしたかったんだ?」
 図書館での一件を、直接見たわけではない。
 けれど、話を聞く限りでは、何らかの意図を持って接触しているはずだ。術でこちらの動向を探っているのかと術視を使ってみたが、水月に異常は見受けられない。こちらの動きを読んだような襲撃が続いているのは気味悪いが。
「あとは焔か」
 今はいない依頼人を思い浮かべて、仲間に視線を戻す。その意味を察して、御調昴(ib5479)はここ数日を思い出しながら答えた。
「前回の定期連絡以来、焔さんの姿は見ていませんね。それ以降に決めた行動も襲撃されましたから、焔さんから漏れたという線は薄いかと。ですが」
 一旦言葉を切って、昴は声を潜めた。
 感知系の術を用いて周囲に敵がいない事を確認してはいるが、万が一もある。警戒するに越した事はない。
「使う船は乗船直前まで伏せておいた方がいいと思います」
 頷きが返されるのを確認して、昴は考え込んだ。
 何とはなしに揺れる灯火を見つめ、会話が途切れた所に、
「んだども、びっくりしただスよ。「天羽々斬」っつうと、昔、おっ師ょ様ァお話しなすった、でけェ蛇さ斬った剣でねェだスか!」
 張りつめた雰囲気にそぐわない、のんびりとした声が響いた。
「そ、そうなんだ?」
「んだ! 聞いた事ないだスか?」
 唐突に切り替わった話題に、なんとか相槌を返したフレス(ib6696)に、赤鈴大左衛門(ia9854)は満面の笑みを向ける。一応、状況を慮って潜められた声にも隠しきれない期待が滲んでいる。
「う、うん?」
「むかしむかしのお話。大蛇の生贄にされかけたお姫様を助ける為に、1人の若者が立ち上がり大蛇を倒しました‥‥って、どこにでもあるような昔語りよ」
 つまらなそうに肩を竦めた霧崎灯華(ia1054)の話に、フレスの目がキラキラと輝く。
「お姫様!?」
 目だけではない。
 溢れる好奇心を全身で表している。
「お姫様と若者は恋に落ちましたの?」
 いつの間にかフレスの隣に移動していたケロリーナ(ib2037)も、興味津々に尋ねて来る。
「‥‥どうしよう。うっかり萌えツボ押しちゃったみたい」
「そういえば、大蛇は朝廷が手に入れた鉱山の支配権って説があるな‥‥。まあ、捕らわれのお姫様を助ける勇者って昔語りの定番の方が女の子的には憧れるかもな」
 続き続きと迫るフレスとケロリーナの勢いに気圧される灯華に、靖は肩を竦めて笑う。
「そンなモンだスか。娘っコの気持ちは、よく分からんだスよ。んだども、希儀にゃ蛇アヤカシが多いって聞くだスよ‥‥。関係あるンだスかね」
「さあ、どうでしょう。大蛇は「天羽々斬」が希儀に渡る前の、真偽も定かではない話ですし‥‥。でも」
 首を傾げた大左衛門と、同じように首を傾いだ昴が呟いた。
「ちょっと気になりますね。昔語りの共通点、ですか‥‥」

●燃える港
 飛空船が係留された発着場は、希儀に向かう開拓者や商人、彼らを目当てに小銭を稼ごうとする物売り達で混雑している。
 その人混みの中、叢雲怜(ib5488)は見知った顔を見つけて声を上げかけた。
「あっ、藍‥‥っと、駄目駄目。今はお仕事中なのだぜ」
 誤魔化そうと思えば誤魔化せるだろう。だが、どこから情報が漏れているか分からない状態にある現在、迂闊な行動は出来ない。気持ちを切り替えて、怜は合流する仲間達を探した。ケロリーナが用意した飛空船は物資の積み込みも完了し、いつでも飛び立てる。
 ただし、どの船を使うかは決まっていない。
「灯華姉と赤鈴のおっちゃん‥‥あ、いた」
 この混雑の中でも、声の大きい大左衛門はすぐに見つかった。共にいる灯華が疲れているのは見なかった事にして、彼らの元に駆け寄る。
「お待たせなのだぜ! 焔姉も!」
 しばらく姿を見せなかった焔の姿に、怜は安堵の息を吐いた。来ると分かっていたけれど、頻繁に顔を合わせているわけではないからか、少し不安があったのだ。
 それだけではない。図書館の一件があって、謎の人物に接触した水月だけでなく、疑惑の目は焔にも向けられている。焔が気にしてなければいいのだけど、と怜は思う。
「ん? 「おねにいさま」でないンだスか?」
 あはは、と怜が乾いた笑みを浮かべたその時、地鳴りと共に耳をつんざく爆発音が轟き渡る。
 咄嗟に灯華と怜を抱き込んだ大左衛門の大きな肩の向こう、それまで活気に溢れていた発着場が炎に包まれた。
「なんなの、これ!」
「わ、わかんないのだ」
「襲撃に決まっている」
 焔の声が緊張を孕んでいた。
 小さく舌打ちして、灯華が金鮫剪を取り出す。
「そういう事なら、あたしも遠慮なしで行かせて貰うわ。酒飲んでるだけのお荷物だと思われるのも嫌だし、ねっ!」
 襲い掛って来た影を切り裂いた灯華は、次の瞬間、驚愕に目を見開いた。
 影が消えて開けた視界に広がるのは地獄絵図。
 折り重なるように倒れ伏した人々は、爆発の犠牲者だけではない。黒い装束を纏った者達が下げた刀から滴るものが、その事実を物語っていた。
「なんてことを!」
 爆発に巻き込まれた人がいるであろう事は予想していた。襲撃者を退け、怪我人を救助してと冷静に考えていた頭が、一気に沸騰する。
 呼び出した式神は、灯華の怒りを写し取ったかのように敵へと襲い掛った。
「灯華姉、援護するのだぜ!」
 怜の声に頷くと、灯華は距離を詰める。
 敵の数を数え、纏めて葬り去るべく更なる術を発動しようとした灯華の目の隅に、小さな影がふらりと過った。
「っ!」
 幼い少女だ。怪我の痛みか恐怖か、泣きじゃくる子供を巻き込む事は出来ない。舌打ちして、灯華は少女へと駆け寄った。
「こっちよ! ‥‥っ!」
 少女を抱きあげた灯華の肩口に痛みが走る。
 年端もいかぬ少女の手には不似合いな小刀が、灯華の首筋を狙う。
「駄目だスよ!」
 しかし、振り下ろされた刃は灯華を傷つける事はなかった。
 割り入った大左衛門は、腕を裂いた刃を気に留める事もなく、灯華から少女を引き離す。そして、暴れる少女を落ち着かせるように、ぎゅうと抱き締めた。
「大丈夫。大丈夫だスよ。もう怖ぇこと、な‥‥」
 宥める言葉が終わるよりも、少女の体が痙攣する方が先だった。激しく引き攣けを起こした少女は、やがてだらりと力を失った腕を下げた。
「っ!! なんで、なんで、こんな小さい子までっ!」
 叫んだ怜の声に、大左衛門の怒りと悲しみの混じった雄叫びが重なる。
 だが、彼らの憤りも嘆きも、襲撃者達には関係のない事だ。じりじりと狭まるむ囲いを睨め付けて、灯華は唇を笑みの形に歪めた。
「ねぇ、もういい加減頭にきてるんだけど。アンタ達、ちょーっと付き合って貰ってもいいかしら?」
 笑顔の宣言を警戒したのか、じりじりと間合いを詰めていた者達の動きが止まる。そこに、氷混じりの突風が吹き抜けた。風の威力に、近くにいた数人が体勢を崩す。その機を逃さず、襲撃者と灯華達の間に滑り込んで来たのはフレスだった。
「今のうちなんだよ!」
「分かってる。でも、コイツらは」
「見回りで藍可おねえさまに来て頂いてますの! ここは藍可おねえさまにお願いした方がいいと思いますですの!」
 もう一度、ブリザーストームを放って、ケロリーナが燃える発着場を指差す。言わんとする事を察して、怜と大左衛門、そして焔が走り出す。逡巡する素振りを見せた灯華も、舌打ちと共に飛空船目指して駆け出した。
 追いかけようとする襲撃者達を牽制しつつ、フレスとケロリーナが頷き合う。2人同時に踵を返しかけた瞬間、再び大きな爆発が起きた。
 爆風から身を庇ったフレスは、はっと息を呑むとケロリーナの腕を引いた。彼女を抱えたまま転がる。
 数瞬の後、彼女らがいた場所に刃が振り下ろされた。
「‥‥誰」
 炎が巻き上げた布地をうっとおしそうに払って、襲って来た者は地面に突き刺さった刀を抜く。
「おや。小鳥かと思えば子犬だったか」
 目元を怪しげな仮面をつけた人物。冷笑を浮かべるその口元から発せられた言葉に、ケロリーナは顔を強張らせた。
「あなた‥‥ですの?」
「子犬の牙、見せて貰おう」
 どん、とケロリーナを突き飛ばして、フレスはその人物の懐へと飛び込んだ。そのまま胡蝶刀を振り上げる。だが、その刃は届く前に弾かれてしまった。即座に地を蹴って、距離を取る。しかし、容赦ない斬撃が立て続けに襲って来た。
 その全てを防ぎ切る事が出来ず、押されてじりと後退る。
「せめてケロリーナ姉様だけでも」
 気合いを込めて、攻撃を返す。
「甘い」
 さらに加えられた一撃に、フレスの体は吹き飛んだ。
「子犬を嬲る趣味はない。ひと思いに楽にしてくれる‥‥っ!?」
 不意に、その人物が動きを止めた。と同時に、亜紀が叫ぶ。彼女は、飛空船への道を確保していたはずだ。ということは。
「今だよ!」
 見れば、彼の足元が凍りついている。
「フレスさん、ケロリーナさん、早く!」
 亜紀が掴んでいる縄はしごの先には、今にも飛び立たんとする飛空船がある。
 2人は迷わず走った。
 縄はしごに手をかけると、待ちかねていたように飛空船がゆっくり上昇する。
 登る手を止めて発着場を見下ろせば、赤く燃える炎がじわじわと周囲を侵食していくのが見えた。
「‥‥大丈夫かな」
「‥‥大丈夫ですの。きっと、藍可おねえさま達が何とかしてくれますの」
 呟いた亜紀に、ケロリーナが笑顔を見せる。無理していると分かる笑顔だったが、彼女の言葉は力強い。
「そうだね、きっとね。希儀から戻る時には、お土産持ってお礼に行こうね」

●希儀
 その後、警戒していた襲撃はぱったりと途絶え、彼らは何の問題もなく希儀へと辿り着いた。
 宿営地【明向】を拠点として、本格的な「天羽々斬」探しが始まった。
 だがしかし、今ある情報はあまりに少ない。
 右も左も分からない儀で、この状態は心許ない。
「とは言ってもなぁ」
 こめかみを揉み解しながら、靖は軽く頭を振った。
 仲間達が集めて来た情報を纏める作業をしていたのだが、天儀の文字との対照表と照らし合わせながらの作業は、思った以上に疲れる。特に目が。そして、首から肩の辺りが重い。
 いや、重いというよりも、岩石化してると言った方が正しいかもしれない。
「あ〜‥‥肩が凝る」
 呟けば、整理を手伝っていた水月がとてとてと近付いて、肩に手を伸ばしてくれる。一生懸命、凝りを揉み解してくれる水月に、靖も思わず微笑んだ。
「ありがとな。しかし、どうするかなぁ、これから」
「公に出来ない調査でもありますしね」
 溜息混じりの昴の言葉に、大左衛門がぽんと手を叩く。
「「布都御魂」さ相方まで導くンだら、焔さ、天井から紐で吊るしてみるだスよ! 切っ先さ、在処指すかもしれねェだス!」
「‥‥‥‥」
 言われて、じっと手に持った「布都御魂」を見つめる焔に、亜紀が小さく首を振った。
「本気で悩んじゃ駄目だよ」
 出発からこちら、一緒に行動していれば、少なからず相手の表情を読めるようになる。無表情ながらも、焔が吊るしてみるべきか否かと悩んでいる事は、すぐに見て取れた。
「「天羽々斬」に反応するのは、使わない手はないと思うけど、天井から吊るされる霊剣っていうのは見たくないよね。なんとなく」
 もっともな亜紀の意見に、仲間達はうんうんと頷いた。
「ところで、焔さん、一度、「布都御魂」を見せて貰ってもいい?」
 一拍の間の後、錦の鞘掛けに包まれた剣が差し出される。
 ずしりとした重みは、剣の重さだけではない。
 気が遠くなる程の年月を経た霊剣に圧倒されながらも、丁寧に紐を解き、鞘掛けに手を掛ける。
「これが霊剣‥‥すごいね」
 それが素直な感想だった。
 朝廷によって秘され、眠り続けて来たはずなのに、使い慣れた剣のようにしっくりと手に馴染んだ。
「片割れの「天羽々斬」は形状とか似てるのかな」
「可能性はありますね」
 昴は、靖が纏めていた資料に手を伸ばす。
「この中に、剣が出て来る資料はありますか」
「そーだなぁ。フィフロスで選り分けて貰って‥‥」
 幾つかの資料を手に、昴は小声で囁いた。
「焔さんはいかがでしたか」
「術は掛けられてない‥‥みたいだな」
 なるほど、と焔の様子を覗き見る。
 それとなく、遠目に観察していたが、怪しい行動を取ることもない。時々、ケロリーナをぶら下げている事もあるが、昴の見る限り、調査に出たり、怜と共に周辺探査に行ったりと淡々と任をこなしている。
「っと、そう言えば、こっちの昔語りがいくつか手に入ったんだが、こういう話ってのは、どこでも似たようなモンなんだなぁ」
 ほら、と手渡された数冊の書物に、昴は苦笑した。
「勇者の化けもの退治、捕らわれのお姫様‥‥そんな話ですか? 定番ですよね」
「ンだ。強ェ蛇アヤカシの話もあるかもしンねェな」
 何気ない大左衛門の言葉に考え込む。
 出発の前にも、同じような事を語り合った。
 目の前に並べられた、読むだけでも一苦労の書物を、昴は見つめる。
 その物思いを打ち切ったのは、またも大左衛門の一言であった。
「だども、発着場さ焼いた敵の目的ァ、何なンだス? あンれから襲って来ねェだスが、諦めたんだスか」
「あれだけの事して、諦められちゃ困るわよ」
 吐き捨てるように呟いたのは、灯華だ。
 うん、と怜も頷く。
「あんな事、絶対に許せないんだぜ‥‥。あの後、どうなったのかな。藍可姉は無事かな」
 断腸の思いで、燃える発着場を後にした。巻き込まれた人々や藍可達の安否は気になるが、今は依頼に集中するしかない。
 だが、あの事件の元凶‥‥襲って来た敵を討ち果たしたわけではない。
 今のところ、襲撃は途絶えているが、あれほどまでに執拗に襲って来た連中である。このまま諦めるとは思えなかった。
「敵さワシ等ン事よく知ってるみてェだスたからァ、剣さ行方分かってねェ事も知ってたはずだスな。なのに、なンで、あんなに襲って来ただスか。もしかスて、敵の狙いさ剣の入手よりゃ探索ン邪魔‥‥だスか? けンど、なして‥‥」
 その呟きを聞きながら、彼らはそれぞれに思案に暮れたのだった。