【黒狗の森】森の向かう先
マスター名:猫又ものと
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 9人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/01/13 20:59



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


●切り札

 月明かりの下、4つの影が密やかな声を立てる。

「また協力して戴けるんですって?」
「どうしたのぉ? 前はあんなに嫌がってたのにぃ」
「私達は助かるけど……何か用事があったんじゃなかったの?」
 それぞれに首を傾げる金髪、青髪、赤髪の少女達。白い女性は腕の中の猫型アヤカシを撫でながらゆったりと頷く。
「別に嫌がってた訳じゃないわ。……切り札を見つけたの。アレがあれば、いつだって誘き寄せることができるから急がなくてもいいわ。折角の食事ですもの。どうせなら、美味しく戴く用意をしてからの方がいいじゃない?」
「……切り札は気になりますけれど、用意をした方が良いのは確かですわね」
「戻ってきてくれて助かるわぁ。頼みたいことが色々あるのよぉ」
「イツにはもう色々頼んであるのだけど……もっと用心を重ねたいの」
「……ふうん。いいわ。で、あたしは何をすればいいの?」
 三人の少女達の方へ身を寄せる白い女性。
 ひそひそとした声が、闇に吸い込まれていく――。


●黒狗の森の『今』
「皆様、先日はお世話になりました」
 開拓者ギルドの入口で頭を下げるのは、珠里の村の村長。
 彼に気付くと、開拓者達は村長を招き入れ、椅子とお茶を勧める。
「村長、お久しぶりです」
「村の様子はどうですか?」
「お陰様で、大分落ち着いて来たように思います。少なくとも、表立って黒狗と紗代を非難する者はいなくなりました」
「そうか……。良かった」
 村長の言葉に、安堵のため息を漏らす開拓者。
 紗代は、表で、友達と遊べるようになったのだろうか。
 黒狗に会いに行けたのだろうか。
 森は、雫草は今どうなっているのだろう……。
 聞きたいことは色々あるが……まず、真っ先に確認しなければいけない事がある。
「村長殿は、何故わざわざ開拓者ギルドまで来たのであるか?」
 彼がここに来たという事は、何かを依頼しに来たのだろう。
 開拓者の問いに、村長が頷きながら続ける。
「実は、皆様に黒狗の森の様子を見に行って戴きたいのです」
 開拓者が汚染された土を排除し、土を入れ替えてから大分経つ。
 村長自身、森や雫草の様子は気になっていたのだが、村の内部が落ち着かなかったこともあり、すっかり後回しになってしまっていた。
「我々で行ければ良いのですが、またアヤカシが出ても困ります。そこで、皆様にお願いできないかと思いまして……」
「なるほどね。……俺達も森の様子は気になっていたんですよ」
「……そういうことでしたら……そのお話、お受けします……。皆さんもいいですよね……?」
 開拓者の問いかけに、頷く総員。
 もう一人の開拓者が、意を決して口を開く。
「すまん、村長。一つ確認したい。……紗代を、黒狗に会わせても構わないか?」
 その声に、息を飲む仲間達。
 続く沈黙。
 村長はお茶を一口飲むと、ふう……とため息をつく。
「……村人の手前、大きな声では言えませんがね。私も子どもの頃、良く村を抜け出して森に遊びに行ったものです。子どもに、ちょっとした冒険は必要でしょう。そうは思いませんか」
「ありがとう! あんたいい奴だな!」
 嬉しさのあまり、村長の背中をバシバシと叩く開拓者を慌てて止める仲間達。
 村長ははにかんだ笑みを浮かべる。
「ともかく、森の調査を……雫草がどうなっているか、お調べ戴いた上で、アヤカシが出た場合は討伐して戴けると助かります」
「確かに承った」
 強く頷く開拓者。
 黒狗の森の『今』を見に行く為に。
 開拓者達は出立の準備を始めるのだった。


■参加者一覧
北条氏祗(ia0573
27歳・男・志
天河 ふしぎ(ia1037
17歳・男・シ
ルーンワース(ib0092
20歳・男・魔
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
幻夢桜 獅門(ib9798
20歳・男・武
獅子ヶ谷 仁(ib9818
20歳・男・武
輝羽・零次(ic0300
17歳・男・泰
兎隹(ic0617
14歳・女・砲
黒憐(ic0798
12歳・女・騎


■リプレイ本文

 珠里の村。以前来た時に感じたギスギスとした雰囲気はなく、聞こえてくるのは子ども達の明るい声。
 走り回る子ども達の中に紗代の姿を見つけて、開拓者達は感慨深くその光景を眺める。
「……とりあえず悪意を抑えることは出来たんだよな」
「ああ。全てがすぐに元通りになる訳ではないだろうがな」
 ぽつりと呟くクロウ・カルガギラ(ib6817)に、頷く幻夢桜 獅門(ib9798)。
 村人達の事は、ゆっくりと時間が解決してくれるだろう……と続けた彼に、黒憐(ic0798)もこくこくと頷く。
「紗代さんへの迫害がなくなって……ひとまず……一安心です……」
 安堵のため息をつく彼女。その姿を見つけた子ども達にあっと言う間に取り囲まれる。
「この間のお姉ちゃんだ!」
「なあなあ、俺達、ちゃんと紗代と遊んでるぜ!」
「お姉ちゃん、また一緒に遊ぼうよ!」
「すみません……。今日は……お仕事で来たのですよ……。……皆、約束を守れて……エライですね……。紗代さんも……良く頑張りました……」
 矢継ぎ早に話す子ども達の頭を順番に撫でる黒憐。
 最後に頭を撫でられ、紗代は嬉しそうにぽっと頬を染めて……すぐに小首を傾げる。
「黒憐お姉ちゃん達、今日はどうしたの? お仕事って……?」
「我輩達、これから森を調べに行くのである」
「……また何かあったの?」
「ううん。事件があった訳じゃないよ。森が、どうなってるか……汚れてしまった土がどうなってるか、調べに行くんだ」
 兎耳を揺らす兎隹(ic0617)に、不安そうな顔をした紗代。
 天河 ふしぎ(ia1037)の言葉にぱあっと顔が明るくなる。
 開拓者が一緒なら、黒優に会いに行ける……!
 咄嗟にそう考えたのだろう。
 ルーンワース(ib0092)は膝をつくと、紗夜に目線を合わせて続ける。
「ここを出てまた戻るまでは、俺達は『開拓者』だから。仕事を済ませるまで……待ってて?」
 お願いする前に希望を絶たれて、目に見えて萎む紗代。
 獅子ヶ谷 仁(ib9818)は苦笑すると、ぽんぽんと少女の頭を撫でる。
「なかなか黒優に会わせてあげられなくてごめんね。あと、もうちょっとだから」
「ああ。これが終わったら、黒優に会わせてやる」
 きっぱりと、力強く告げる輝羽・零次(ic0300)。
 紗夜の目に、再び期待の光が宿る。
「本当? 絶対?」
「ああ。約束だ」
「調査の帰りに……黒優さんを連れて来ます……」
「指きりげんまんなのだ」
 零次と黒憐、兎隹と両手の小指を絡ませて、笑顔で歌う紗代。
 交わされる約束。
 必ず叶えると、開拓者達は心に誓って――。
「……では、行くとしようか」
 北条氏祗(ia0573)の声に頷くと、仲間達は一路、森を目指す。


 まず、開拓者達が真っ先に目指したのは、雫草の群生地。
 瘴気で汚染され、土が腐ってしまった場所。
 開拓者達がかつて訪れ、汚染土に塗れながら土を入れ替えた所――。
 そこに着いたはずなのだが、その部分が見当たらなくて、零次はキョロキョロと周囲を見渡す。
「あれ? 土入れ替えたのってこの辺だったよな」
「ああ。間違いない。ほら、あそこだ」
 獅門が指差す先。
 秋を迎えて葉が積もっていた為に、分かりにくくなっており……それは同時に、酷い腐臭を放っていた場所とは思えぬ程に、周囲と馴染んで来ているように見えた。
「枯葉がこんなに……周囲の樹が枯れたから、と言う訳ではなさそうであるな」
「うん。普通に落葉したみたいだな」
 周囲の樹の様子を伺う兎隹とクロウ。
 木々が立ち枯れている様子もなく、赤や黄色の色鮮やかな葉が残っている状況に、仁は首を傾げる。
「枯葉が腐らずに積もる、ということは瘴気は残ってないと思っていいのかな」
「どうかな……。ちょっと枯葉を退けてみようか」
 ルーンワースが枯葉を動かしてみると、土に触れた枯葉が茶色に変わり、少しづつ土に戻りつつあるのが見える。
 これは、土が正しく機能している証拠。
 どうやら、汚染は上手いこと取り除けているらしい。
 ホッとして顔を上げた仁。目に入るのは、近くを流れる小川。
 汚染土が流れ込み、濁っていた水も、汚染元が消えたお陰で澄んだ水を湛えるようになっていた。
「ちょっと皆! これ見て!」
「……雫草の芽……でしょうか……」
 聞こえてきた嬉しそうなふしぎと黒憐の声。
 枯葉の隙間からぴょこぴょこと小さな茎と葉が生えているのが見える。
 ――枯れてしまった雫草は、瘴気を吸ってしまった可能性がある為、全て抜いて焼却の上、ギルドで浄化するという手順を踏んだ。
 結果、そこにあった雫草は殆ど抜き去る結果となってしまった為、再び生えてくるかどうか心配していたのだが……。
 命というのは、想像以上の力を秘めているらしい。
 まだ、花は咲いていないけれど。
 この調子で育っていけば、いずれ可愛らしい青い花を再び見ることが出来るだろう。
「この時期に芽が生えるとは……」
「きっと雫草は多年草なんだね」
 驚く氏祗に、淡々と状況を分析するルーンワース。
「良かった……。良かったなぁ」
 零次がその場に膝をついて、小さな芽をそっと撫でる。
 自分達と紗代、そして黒狗との縁を繋いだ花。
 それが無事でいてくれたことが、素直に嬉しかった。
「村長殿と黒優に、いい報告が出来そうであるな」
 上々の結果に、顔を綻ばせる兎隹。その横で、黒憐がごごごご……と気合を高める。
「ただ……瘴気の実が撒かれた理由がわからなければ……元の木阿弥になってしまう可能性もあるので……勝って兜の緒を締めよ……です……」
「そうだな。念には念を、と言うしな」
「うん。皆で森の中を手分けして調査しようか」
 獅門とふしぎの言葉に頷く仲間達。
 開拓者達は3つの班に別れると、それぞれ森の中へと進んでいく。


 森は鬱蒼と生い茂り、その生命力を誇示している。
 ルーンワースは練力で作り出した明りを纏いながら、周囲を見渡す。
 相変わらずなように見える森。
 今は冬。活動する動植物も減少する時期だが、何度も来た場所だ。
 違和感があれば、きっと分かるはず。
 ちょっとの変化も見逃さないように、ふしぎもバタトサイトを使って目を凝らす。
「……動物達、戻ってきてるみたい」
「本当か!?」
「うん。うさぎがいるよ。冬毛で真っ白だ。あと……鳥もいる」
 彼の言葉に、嬉しさを隠しきれない零次。
 いやいや、と首を振って調査に戻る彼が面白くて、ふしぎがくすりと笑う。
「……空気も清浄。木々も下草も今のところは変化なし、かな」
「アヤカシの気配もねえな。……あれ以降、困ったことは起きてねえのかな」
「そうだといいんだけど……」
 土や葉を持ち上げて呟くルーンワースに、考え込む零次とふしぎ。
 その結論を出すには、まだ調査が足りていないように思う。
「もう少し、調査を続けてみようか」
「そうだね」
「前にアヤカシ達……ヨウに会った場所も見てみようぜ」
 3人は頷き合うと、更に森の奥を目指す。


「んーと。じゃあ、お前達は最近、アヤカシを見てないんだな?」
「突然息が苦しくなったとか、仲間の具合が悪くなったとかもないんだね?」
 クロウと仁の問いに、こくこくと頷いて見せる赤い首輪をした黒狗。
 聞き込みの結果、黒狗達はあれから元気に過ごしていたらしい事が分かり、二人は安堵のため息を漏らす。
 そんな二人に、黒優はぱたぱたと尻尾を振ると咥えていた何かを差し出す。
「ん? これ……柚子?」
「俺達にくれるのか?」
「わう!」
「わあ……ありがとう!」
「お前、本当にいい奴だな!」
 思わぬ贈り物に、感動する仁とクロウ。クロウは、ある事実に気がついて仁を見る。
「……黒狗の森には、柚子も自生してるんだな」
「村長に話を聞いてきたけど、黒狗の森は、『恵みの森』なんだって」
「恵みの森?」
「うん。雫草以外にも、色々植物があって……村が不作の時も、どういう訳か森の植物は豊かに実っていて、昔から助けられて来たって言ってた」
「そっか……」
「黒狗達は、ずっと……この恵みを守って来たのかもね」
 柚子に目を落としたまま、ぽつぽつと呟く仁。
 ――あの白いアヤカシは、ここを『恵みの森』と知っていて、あんな事をしたのだろうか?
 そして黒優が、自身が食べないであろう柚子をわざわざ持ってきて贈ったという事は、『柚子は人間が食べるもの』という知識があったと言うことだ。
 クロウは少し考え込むと、気になっていた事を口にする。
「なあ、黒優。お前何歳くらいなんだ? 俺は17年生きてるけど……お前、それより上か? 下か?」
 彼の問いに暫し考え込んで、首を降る黒優。
 どうやら、『歳』という概念が分からないらしい。
 そもそも、何年生きてきたか……ということ自体、狗達にとってはあまり気にならないことなのかもしれない。
「難しい質問だったかもね」
「そうだなー。じゃあ、かつて人と交流があった頃の名残みたいなもの無いか? 社とか、祠とか」
「……そんなの見つけてどうするの?」
 クロウの問いかけに、黒狗の代わりに聞いた仁。
 クロウはぽりぽりと頭を掻いて続ける。
「いや、さ。そう言うのがあれば、また人と交流をする切欠みたいなのにならないか、と思ってさ……」
 黒狗と人間の距離が近くなり過ぎるのも問題だとは思うけれど。
 この間のように、理不尽に迫害を受けるようなことは避けたい。
 黒優は少し考えると、身体の向きを変え、ついておいで……と言わんばかりに二人を見てから歩き出す。
 クロウと仁は頷くと、慌てて黒優の後を追った。


「大丈夫か?」
「……問題ありません……」
「あの程度のアヤカシなら、遅れを取らないのである」
 氏祗の問いかけに、頷く黒憐と兎隹。
 獅門は周囲を見渡すと、むう、と考え込む。
 森の調査中、アヤカシに出会ったが、吸血蝙蝠に数匹遭遇したのみ。
 然したる脅威ではなかったので、仲間を呼び寄せずに対応したが……知能を持たぬ彼らでは瘴気の木の実を運べないだろうし、例の白いアヤカシの配下ではないと考えるのが妥当だ。
「元々ここにいた奴らなんだろうかね」
「……知能がないのでは……尋問ができないのです……」
 獅門の呟きに、むむむと唸る黒憐。
 兎隹の脳裏に過ぎる、白いアヤカシの怒りに燃える目――。
「あの白いアヤカシは、来ないのであろうか……」
「……出て来てくれたら……がっつりと……お話お伺いするんですけど……」
 両手をワキワキしながら言う黒憐に、獅門は苦笑する。
「そう簡単に現れてはくれんようだな。……兎隹は恨まれてるようだから、気をつけるんだぞ」
「分かってるのだ」
 こくりと頷く兎隹。
 いつか食べてやると言われたが、大人しく食べられてやる気はない。
 森を、黒狗を……そして結果的に紗代を傷つけた代償は、払って貰わねば――。
「ここは異常ないようだな。調査を続けるとしようか」
 周囲を伺っていた氏祗の声に頷く3人。
 再び、森の中へと歩みを進めていく。


 こうして、開拓者達は地道に調査を続け、1日かけてかなり広範囲を調査することができた。
 その結果、前回以降の瘴気の噴出は見られず、森の動植物が元に戻りつつあること。
 雫草の群生地も清浄な状態になり、他人に手を加えられた形跡もなく復活しつつあること。
 そして、黒狗の案内で、森のはずれに大きな岩が祀られていたような跡が残っているのを見つけ――村長や長老の話によると、かつての村人が、その石を森に棲む神と見立てて祀っていたのではないか、という話だった。
 そんな事があったものの、森の中は『現状は異常なし』という結論を出して、調査を終了した。


「……黒優! 待たせてごめんね……!」
 村の外れで、大きな黒い狗に縋って泣く紗代。
 その姿を見て、佐平次と梓乃が涙に暮れて、村長も貰い泣きしている。
 そして、それを遠巻きに見守る村人達――。
 それを、開拓者達は何とも言えぬ気持ちで見守っていた。
「約束を果たすのが随分遅くなってしまって……すみませんでした」
「いいえ。こうして紗代がここに居られるのも、皆さんのお陰です。本当に何とお礼を申し上げたら良いか……」
 頭を下げるルーンワースに、土下座せんばかりの勢いで礼をする佐平次。
 その手をそっと取り、兎隹は彼を立たせる。
「いいや。我輩達だけの力だけではないのだ」
「皆さんの頑張りが……実ったんですよ……」
 こくこくと頷く黒憐。黒優に顔を舐められた紗代の笑い声が聞こえて来て、仲間達は目を細める。
「黒優も嬉しそうだな」
「ずっと一匹で待ってたんだもんな。そりゃ嬉しいよな」
「良かったね……」
「ああ。良かった。本当に……」
 頷き合う獅門とクロウに、ぽつりと呟くふしぎ。
 何だか、急に視界が滲んで、零次は慌てて首を振る。
 そんな彼を、紗代がじっと見上げる。
「……あの。零次お兄ちゃんは、すきなひといるの?」
「何だ? 急に」
「だって、気になるんだもん」
「ん? 何でだよ」
 心底不思議そうな顔をする零次に、うぐ、と言葉に詰まる紗代。
 俯いて、もじもじしながら続ける。
「……だって、紗代、零次お兄ちゃんすきだもん」
「…………は?」
「零次お兄ちゃんがずっとひとりだったら、紗代がお嫁さんになったげる」
 そこまで言って恥ずかしくなったのか、頬を朱に染めて黒優に抱きついた紗代。
 突然の告白に、どう反応していいのか分からないらしい。
 呼吸を忘れた金魚のように、ひたすら困惑する零次を見て、仲間達はぽんぽん、と彼の肩を叩く。
「……零次、良かったね」
「紗代ちゃん、いい子だもんね」
「いや、待て。そういう問題じゃないだろ!?」
 笑いを噛み殺しながら祝福する仁とふしぎに、ガーーーッと吠えた零次。
 黒優は小首を傾げると、彼をじっと見つめる。
 ――何か。すごく。黒優の目が痛い。
「いや。黒優。あのな、これはだな……」
 思わず弁解を始めてしまう零次。
 何となく、黒優の気持ちを察したクロウは苦笑すると、わしわしとその毛並みを撫でる。
「黒優、心配しなくて大丈夫だぞ」
「うむ。紗代はおぬしのことが大好きゆえな」
「黒優さんは……別格ですよ……」
 激しく頷く兎隹と黒憐に、黒優はもう一度首を傾げて……。
「まあ。小さい子の言う事だしな」
「そうだね。小さい子の本気を侮ると怖いけど、ね」
 場を収めようと咳払いをした獅門に、ルーンワースが小さく笑った。


 こうして、開拓者達は無事に調査を終え、村長にその結果を報告した。
 ……色々な事があった。それを乗り越えて、黒狗と少女を逢わせることができた。
 アヤカシの事は、これから解決して行かねばならないけれど。
 黒狗と少女がいつまでも仲良くあればいいと。
 また困った事があればいつでも二人の力になると心に誓って、珠里の村を後にしたのだった。