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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ●裏切りの果て 「……亞久留様を空に還した開拓者達が憎い。憎くて堪らぬ……! 菱儀! 妾に協力するのじゃ。亞久留様を屠った開拓者共を一匹でも多く地獄に引きずりこんでくれる……!」 「分かっている。が、亞久留が消えた今となってはな……こちらから打って出るのは若干戦力不足が否めんぞ」 「そのくらい、妾が何とかしようぞ。おぬしもアヤカシをどんどん生み出すがよい」 「簡単に言ってくれる」 金色の髪を振り乱して怒りを露にする鈴々姫に、神村 菱儀(iz0300)がククク、と笑いを返す。 そこに金髪の人妖……ひいがすっと入り込み、頭を下げる。 「お話中失礼致します。主様、ヨウの討伐についてですが……」 「ああ。ひい。概ね知っているよ」 主の言葉に顔を上げたひい。鈴々姫はくすくすと笑う。 「妾達が何も知らぬと思っておったのか。おぬし達は詰めが甘いのう」 鈴々姫の手に乗る、小さな夜雀。 それを見て、ひいが戦慄する。 「主様、それは……」 咄嗟に出た声。それは最後まで続かず。 菱儀から放たれたカマイタチのような式によって、ひいは、己が斬られたことを知る。 ――イツ。まだ間に合うのならお逃げなさい……。 言葉の代わりに溢れたのは赤い血。 「……部屋が汚れる。鈴々姫、食べていいぞ」 「人妖など腹の足しにもならぬ」 鈴々姫は地に臥した人妖を一瞥すると、ぽい、と外に投げ捨てた。 ●真実を知る時 ――わたくしは役目を果たした。 主様の忠実な僕としてその生を終える。 それを、わたくしは望んでいた。 だから――これは幸せなことなのだ。 ひいが目を覚ますと、全身に包帯が巻かれて、手拭いで作ったと思われる小さな布団がかけられていた。 「ああ、起き上がったら駄目ですよ。傷が開いてしまうから……」 起き上がろうとする人妖を、慌てて押し留める昭吉。 見覚えのある顔に、ひいの身体から力が抜ける。 「……あなたが助けて下さったんですの?」 「ええ。傷だらけで倒れてたんですよ。……覚えていないんですか?」 昭吉の問いに、押し黙るひい。 ……覚えている。 己は、主様に『用済み』と判断されたのだ――。 続く沈黙。昭吉はおずおずと口を開く。 「……あの。あなたは、僕の主……神村菱儀を知っていますよね?」 「ええ、勿論知っていますわ」 「主様が……ええと、ジンヨウ、とか言うのを生み出してるのも知ってます?」 「ええ。……その人妖がわたくしですわ」 ひいの返答に飛びずさる昭吉。 暫く頭を抱えていたが……意を決したように、人妖の前に正座をする。 「あのですね。……知っていたら、教えて欲しいんです。主様は何をしようとしているのか。庭にある……瘴気の樹は何なのか」 「……知ったらきっと、後悔しますわよ」 ひいの声に戸惑いを見せる昭吉。 僕は、主様を素晴らしい人だと思っていた。 先代の主様も自慢の息子だと、嬉しそうに話していたから。 ずっとずっと。そうなんだと信じていた。 だけど……。気付いてしまった。 主様は、何か人として間違ったことをしようとしているのではないか――。 「僕は……知らなければいけないと思う。僕が見ようとしていなかった、本当の事を」 「……そこまで仰るのでしたら、聞かせて差し上げますわ」 少年の決意に満ちた目を見て、頷いたひい。 彼女はぽつりぽつりと、小さな声で語り始める。 ●命の対価 「今日皆に集まって貰ったのは他でもない。賞金首、神村 菱儀とその手の者達についての事だ」 石鏡の開拓者ギルド。部屋に入って来るなり口を開く星見 隼人(iz0294)に、開拓者達も姿勢を正す。 「ヨウやみい達の証言で、菱儀の居場所や瘴気の樹の規模が大体分かってきた……っていうかあんなところに居やがったのかという感じでな」 「ん? どこだったんだよ」 「それがな、石鏡の国の……陽天に近いんだ」 「は……?」 頭を抱える隼人に、目を見開く開拓者達。 石鏡国、陽天。 三位湖の南に位置し、各地の特産品を多く揃えた商業都市であるその街は、観光名所であると同時に、石鏡で一番治安が悪いという不名誉も同時に抱えている。 犯罪者を隠すなら犯罪者の中に。 常に様々な人が多く行き交う場所の近くというのは、ある意味潜伏場所としてはうってつけだったと言う事か。 「……と言う事は、あんまり派手にやり合うと陽天の街にも被害が出る可能性があるのか」 「あと問題なのは、瘴気の樹だよね」 続いた開拓者の言葉に、頷く仲間達。 そう。菱儀の家の庭に瘴気の樹が生えているという情報がある。 それは既に人の身長を優に超える大きさに成長し、実を沢山蓄えているとか。 瘴気の樹に万が一のことがあれば、陽天の町に甚大な被害が及ぶことになる――。 「開拓者ギルドと石鏡の国で、神村の討伐計画を立ててはいるんだが、色々と案が……出すぎる位に出て、纏まる話も纏まらなくてな。是非、開拓者の意見も聞きたいという事なんだ」 「なるほどね……」 「長く事件に関わっているお前達の意見だ。いい案があれば即採用になるだろう。宜しく頼む」 頭を下げる隼人に、難しい顔をして頷く開拓者達。 隼人は思い出したように顔を上げて、彼らを見る。 「……それから、ヨウの件だが。石鏡の国と、開拓者ギルドの総意で処刑以外の選択は認められないそうだ」 「そうか……」 彼の言葉にため息をつく開拓者。 アヤカシは、あらゆる儀に住まう人々全てにおける『敵』である。 いくら協力があったとて、その『敵』を生きて逃がすというのは、国家と開拓者ギルドの存在意義すら揺るがしかねない大問題に発展する。 そういう決断が下されるのも、ある意味仕方のないことなのかもしれない。 「その代わりと言っては何だが、処刑については出来うる限り希望を叶えてくれるそうだ。何か希望があったら聞かせてくれ」 「分かったのだ。あと……人妖達については、上層の者達は何と言っているか聞かせてもらえるか?」 「それなんだがな……人妖達もやはり、処刑が望ましいという判断が下った」 賞金首、神村 菱儀に協力し、瘴気の木の実を撒いた主犯として重い判断が下ったのだろう。 目を伏せる隼人に、開拓者が机を叩いて立ち上がる。 「待ってくれ! ……ヨウと約束したんだ。人妖達の身の安全は保障するって。何とかならないのか……?」 「約束したから……というだけでは、上層は納得しない。いずれヨウは処刑される訳だしな」 淡々と答える隼人に、唇を噛む開拓者。 隼人は、ふう……と深くため息をつく。 「なあ。一つ聞きたい。……人妖達を生かしておいて何をさせたいのか、どうしたいのか……考えてるか?」 「え……?」 「その内容が、上層を納得させるものであれば……生き残る道があるかもしれん」 「……! 分かった。考えてみる」 強く頷く開拓者。 賞金首、神村菱儀の討伐計画と……人妖達の命の行方は開拓者達の手に委ねられた。 |
■参加者一覧
芦屋 璃凛(ia0303)
19歳・女・陰
リューリャ・ドラッケン(ia8037)
22歳・男・騎
ユリア・ソル(ia9996)
21歳・女・泰
アルフレート(ib4138)
18歳・男・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201)
10歳・女・魔
緋那岐(ib5664)
17歳・男・陰
クロウ・カルガギラ(ib6817)
19歳・男・砂
輝羽・零次(ic0300)
17歳・男・泰
火麗(ic0614)
24歳・女・サ
兎隹(ic0617)
14歳・女・砲 |
■リプレイ本文 「処刑を考えるのって、いい気がしねぇな。……相手が誰であっても」 「……そうやね」 肩を竦める緋那岐(ib5664)に、こくりと頷く芦屋 璃凛(ia0303)。 何かの命を奪うというのはあまり好きにはなれない。 けれど、これは感情論でしかなく。今必要でない事は分かっているから……。 いつにも増して怖い顔をして牢獄に入っていく輝羽・零次(ic0300)の背を、2人は黙って見つめる。 「……お前の命は助ける事はできない」 「随分今更な話ね」 彼の声に、くすりと笑うヨウ。零次は彼女から目を反らさずに続ける。 「……処刑は俺がやってやるよ。怨んでくれていいぜ」 「俺が請け負ってもいい。兎隹もその覚悟があるそうだ。好きな奴を選んでくれ」 「考えておくわ」 穏やかな竜哉(ia8037)の声に頷く兎隹(ic0617)。 酷く淡々と答えるヨウを見て、零次は考える。 彼女達のした事を許す事は到底出来ない。 けれど、同じくらい大事な誰かを失うのが辛い事もよくわかるから――。 そこまで考えて、ふと紗代の笑顔が思い浮かんで……。 「その代わり、必ずお前の姉達は助ける。だから……お前からも言ってやって欲しい。あいつらに生きろって」 「分かったわ。……レイジ。選択を後悔するのは止しなさい。利用できるものを利用した。それだけの事でしょう」 「うん。それに……ヨウってアヤカシな訳だし、別に約束守ってやる必要無いんじゃない?」 こくりと頷くリィムナ・ピサレット(ib5201)。その内容に言葉を無くす仲間達。 牢の中に、ヨウの笑い声が響く。 「そうね。その通りだと思うわ」 「お前達何言って……」 目を丸くするクロウ・カルガギラ(ib6817)に、ヨウは笑いを堪えながら続ける。 「確かに、望んでアヤカシに生まれた訳じゃない。けれど、それが何の理由になるのかしら?」 「そうだね。生まれをどうにもできないのは生けとし生ける者全てに言える事でしょ。それに……今まで滅殺してきたアヤカシ達だってじっくり会話する機会が無かっただけで、ヨウと同じ様な内面を持ってたかもよ?」 「リィムナは賢いわね。そういう子は好きよ」 「アヤカシに好かれても嬉しくなーい」 「……確かに。そう考えると面白いね。いや、恐ろしい、か」 ヨウをピシャリと跳ね除けたリィムナに、肩を竦めて笑う竜哉。 己の行動を正当化するでもなく。『許されざる者』と認識しているアヤカシ。 彼女は罪を犯した志体持ちと、どう違うというのか――? ユリア・ヴァル(ia9996)はふう、とため息をつくとヨウに鋭い目線を向ける。 「言う事は最もだけど。命を絶つ事を軽く考えて欲しくないわね」 「軽くも何も……ユリアはアヤカシを滅する事が仕事でしょう」 「そうね。だから何? アヤカシだからと言って思考停止してたら、人の時にも同じ事を言う羽目になるもの」 「強情ねえ……」 「あら。信念があると言って欲しいわ」 首を振るヨウに、にっこり笑顔を返すユリア。 そんな2人に、アルフレート(ib4138)が苦笑しながら口を開く。 「処刑までの期限は最低でも人妖達の処遇が決まるまで……と言うのはどうかな」 ただ、あまり時間を置かない事が望ましい、とは思う……と続けた彼に、火麗(ic0614)が首を傾げる。 「その根拠は?」 「人妖達は諦めているだけで、覚悟を決めている訳ではないように見えるからな」 「そうね。でも少しくらい、姉妹水入らずで過ごす時間があってもいいんじゃないかしら」 「それについては反対する理由はないよ。ただ、残される刻の間に、まだ何か出来ないかと……人妖達の心が迷わないとも限らない。それが心配なだけだ」 ユリアの目線を受け止めて答えるアルフレート。 人妖達が惑う事を最も望まないのは、ヨウ自身ではないかと思う。 多分、今ここで彼女達の行く末を考えてる自分達よりも……。 「じゃあ、長すぎない程度にって言うのがいいのかね」 ふむ、と考え込む火麗。ユリアは頷くとヨウに向き直る。 「……ねえ。ヨウ。竜哉の腕があったら、どれくらい持ちそう?」 「そうね。数週間は大丈夫なんじゃない?」 「そう。じゃあ竜哉、よろしくね」 さらりと酷い事を言う彼女に、苦笑する仲間達。 兎隹はヨウをぼんやりと見つめて考える。 ――姉達を思う酷く人間臭いアヤカシと、妹を思う人妖達。 情状酌量の余地があるのなら、少しでも望みを汲み取ってやりたいと思う。 「……ヨウ。頼みがあるのだ。我輩達は、人妖達が存命できるよう手を尽くそうと思っている。それを条件に、神村討伐の際にも助力を願えないだろうか?」 「いいわよ。ここにいても退屈だしね」 真剣な兎隹にさらりと返答するヨウに、火麗がじゃあ決まりね、と頷いて見せる。 「……要望があったら聞くわよ。何かある?」 「そうね。死ぬ前に……兎ちゃんを食べたいわね。あと、タツヤの腕も」 「お前、まだそんな事言ってんのかよ」 「あたしはアヤカシだもの。当然の欲求よ。飢えを耐え忍ぶのは真っ平御免」 「……そうか」 呆れたように言う緋那岐にきっぱり返すヨウ。兎隹は深くため息をつく。 彼女が、飢えをただ耐え忍び、朽ちる生を望まないなら。 せめて理性の残るうちに終わらせてやりたい――。 そして、クロウがヨウの前に歩み寄り頭を下げる。 「お前を救う方法がどうしても思いつかなかった。すまねえ」 「最初からその予定だったじゃない。どうして辛そうな顔をするのかしら」 「おぬしは、何かを思いやる心を持っているからな。……そういう相手には、応えたくなるものなのだよ」 「理解出来ないわ。ああ、でも……姉達をお願いできた事だけは、幸運だったと思うわ。クロウに言われなかったら、思いつきもしなかった」 兎隹の声に肩を竦めるヨウ。続いた声に、クロウは少しは役に立てたのかな……と考えながら続ける。 「あのさ。俺が生きてる内は覚えとくよ、お前の事。絶対に忘れない」 理由はどうあれ、ヨウのお陰で救われた……或いはこれから救われる命が必ずある。 だから――。 「これだけは言っておくよ。ありがとう」 「……あなたは本当にお人よしね」 ふわり、とクロウの頬を撫でるヨウの手。 人と変わりなく見えるそれは……酷く冷たかった。 「ばかー!! ばかばかばかーー!!」 「話が違いますわぁーー!!」 ふうとみいにぽかぽかと殴られる零次。 ヨウの処遇について包み隠さず人妖達に伝えた途端、この反応だ。 「お前ら落ち着け……いてっ! いてえ!」 零次と人妖の間に割って入った緋那岐まで一緒に殴られ始めたので、璃凛とリィムナがひょい、と人妖達を抱え上げる。 「はいはい。そこまでや」 「ねー。ここまで元気なら気使わなくてもいーんじゃないのー?」 「そうだな。これも正直に言うか。……お前達も処刑が望ましい、って事になっててな。でもヨウはお前達に生きて欲しいって、そう言ってる」 首を傾げるリィムナに頷き、続けた零次。 再び話が違う、と暴れかけた人妖達の頭に、火麗の鉄拳がめり込む。 「ギャーギャー煩い! 静かにしないとぶん殴るよ!」 そんな彼女に苦笑した兎隹は、頭を押さえて大人しくなった人妖達に向き直る。 「我輩達もな、おぬし達に生きて欲しい……ヨウの願いに応えたいと思っているのだ」 「……え。そんな事できるの?」 「それはこれから願い出るところだ。まあ、理由は何とでもなると思うが……」 「ただ、生き残る為には贖罪を求められると思うわ。その覚悟はある?」 キョトンとするふうに、頷くアルフレート。 言い聞かせるようなユリアの言葉に、みいとふうは顔を見合わせる。 「ふう。ショクザイ……って何ですのぉ?」 「えーと。罪滅ぼしをするって意味じゃなかった?」 「……? 何でそんな事するんですのぉ?」 人妖達の反応に、苦笑いを浮かべるユリア。 やはり、彼女達は自分の『罪』を正しく認識してはいない。 ただ盲目的に親である主に従っていた……子供のようなものなのだろう。 『何も知らない』事は、情状酌量の材料になるかもしれない。 「罪を償う方法も色々ある。まずは、俺達に協力してくれないか。神村菱儀を倒す為に」 クロウの申し出に、明らかに動揺する人妖達。 彼女達は、姉妹と生きる道を選択した。 しかし、主とは――そう簡単に、決別できたら苦労はしない。 竜哉は2人の顔を覗き込むと、静かに語り始める。 「『親殺しは幸福である』……俺が一番初めに教えられた事だ」 「えっ。竜哉、親殺したの!?」 「恐ろしいですわぁ……」 「ああ。命を奪えって意味じゃない。その存在が霞むほどの存在になれ、という事さ」 子は、親の思惑や力を越えなければならない。 そうでなければ子の生に意味は無い。 そして子は親になったら、自らの子に越えられる事を誇りに思うべきだ――。 彼の言う事を静かに聴いていた人妖達は、唇を噛んで俯く。 「……主様には、絶対に逆らうなと教わったわ」 「ただ従っていればいいと……そう仰ってぇ……」 「そうか。だったら君達が『親』を越える為にどうしたらいいか……分かるね?」 こくりと頷く人妖達に、頷き返す竜哉。 「……ところでひいとイツは?」 「まだ連絡がないのよ。私も心配しているのだけど……」 「訳あって菱儀の家から出られないのかもしれねえな……」 ユリアとクロウの声に、不安そうな顔をする人妖達。ふうは目を伏せてぽつりと呟く。 「やっぱりあたしも一緒に行けば良かった……」 「……大丈夫。あたし達が何とかするよ。安心おし」 人妖達の頭をくしゃくしゃと撫でる火麗。 誰かに撫でて貰った事などなかったのか……酷く驚いた顔をして頷いた。 「さて、本題に入ろうか。現場は陽天の街の郊外と言う事だが」 「んーと。街からどれだけ離れとるんやろ。人が巻きんでしまわないかが心配やね」 「郊外とはいえ、瘴気の樹もある事だしな……多数の兵を動かせば向こうに気取られるだろうし」 徐に切り出した竜哉に考え込む璃凛。 続いたクロウの考察に、竜哉は頷く。 「この状況を利用するのなら、『逃亡中のアヤカシが民家に逃げ込んだ』という体を取って、周囲の封鎖をする事は出来そうだな」 「作戦としては、同時多面作戦かしら。押さえるべき点は、菱儀、瘴気の樹、鈴々姫、救助の4点。……大掛かりになりそうね」 「そうだな。鈴々姫は間違いなく出てくるだろうな」 指折り数えるユリアに、先日出会った袿姿の少女を思い出すクロウ。 それに、零次が腕を組んでむう、と唸る。 「鈴々姫って奴は良く知らないが……あいつら、また大量にアヤカシ出して来るんじゃねえか? そこも対応に入れた方がいいと思う」 「ああ。概ね良いと思うが、救助班には怪我人の援護や支援、周辺の対応にも当たって貰えると良いな」 「そうであるな。人払いをするとはいえ、周囲に影響が出ないとも限らぬ。念には念を入れた方が良いと思うのだ」 アルフレートの提案に、頷く兎隹。リィムナが小首を傾げながら続ける。 「あとは……瘴気の樹が厄介だね。中に何か埋まってても嫌だし、浄化系スキルできっちり滅しちゃった方がいいと思う」 「滅する前に、瘴気の樹の記録を取った方がええんちゃう?」 「……こんな街中にあんなものがあること事態が異常事態だ。消滅の一択しかない。記録は諦めろ」 己の提案を押し留める抑揚のない竜哉の声に、力なく頷く璃凛。 緋那岐は己の職を生かして、菱儀への対応に頭を巡らせる。 「既存の陰陽スキルに対してなら、シノビの『餓縁』が有効かね?」 「既存ばかりとは限らなそうよね……」 呟く火麗。 菱儀は古代人・亞久留と手を組んでいた。彼が残した情報は、菱儀の手の中に残っているはず。 菱儀が持つ陰陽術、人妖作成技術、瘴気の樹の育成方法……これらの記録の取り扱いも考えないといけない。 「優先順位は低くなるが、奴の持つ資料や文献は確保できるなら、した方がいいかもな」 「あと、人妖達から大体の屋敷の構造は聞いてきた。これで人員配置も考え易くなるな」 緋那岐に頷き返して、簡単な屋敷の見取り図を差し出すクロウ。 それを覗き込む仲間達を見ながら、緋那岐が口を開く。 「……人妖といえばさ、イサナの場合は封陣院の備品として管理下に置かれているけど……今回はちょっと事情が違うか」 人妖・イサナは、陰陽師イサナに創り出された等身大の人妖である。 かつては賞金首として手配されていたが、その後冤罪であった事が証明された。 それ故に、情状酌量もあったのだろうが……今回の人妖達は間違いなく罪を犯している。 彼女のような処遇を期待するのは難しい。 でも、命あるものが道具のように切り捨てられる事が許せない。 菱儀も、陰陽師としては間違っていない部分もある気がして……。 璃凛は弱々しくため息をつく。 「何でこう、上手く行かないんやろね」 「……人の道を外れているから『賞金首』なのよ。そこは間違ってはダメよ」 「人を襲うのは悪い事だ。……作ったというなら、それを教えなかった菱儀はまごうことなく俺の敵だ」 きっぱりと断じたユリアと零次に、頷く璃凛。 アルフレートは咳払いをすると、クロウの手元の見取り図に目を落とす。 「とりあえず、人妖達は今回の作戦にもこうして協力してくれている。贖罪をする気もある。……交渉の条件としては悪くないんじゃないか」 「あたしは別にどっちでもいいんだけど。助けるなら、徹底的な再教育を施すべきだね。自分達の行為でどれだけの人達が苦しんだかきちんと理解しないと」 「そうね。常識を教えてから滅私奉公と言うのが良いんじゃないのかしら」 「人妖なら、色々とヒトに出来ない事も出来る。治安維持に役立てるんじゃないか」 肩を竦めて言うリィムナに、頷きながら続けたユリアと竜哉。 火麗も頬に手を当てて考え込む。 「あとは……後見人がいると良いわね。問題を起こした場合は責任を持って処断する意味も含めて」 「そうであるな。開拓者ギルドもしくは石鏡の要人の所有物として、後見を開拓者にすれば……奉公をする際も監視ができよう」 「じゃあ、その方向で話をまとめるか。責任重大だな……」 「やるしかねえだろ。それでも」 兎隹の提言にため息をつくクロウ。零次は、強い意志を湛えた目を仲間達に向ける。 自分達の選択は、大きな責任を伴うものだ。 勿論、それを背負う気はあるが……願わくば、全てが良い方向に進む事を。 兎隹は頭を垂れて、静かに想う。 「……人妖達の存命を願い出る条件は、これで間違いないな?」 「ああ。これで、上と交渉してもらえると有難い」 「……分かった。結果は追って知らせるよ」 確認する星見 隼人(iz0294)に頷き返す竜哉。 菱儀の討伐計画と人妖の存命嘆願の書面を携え、出て行く彼の背を開拓者達は見送り――。 それから暫くして、開拓者ギルドに届いた手紙。 意外な差出人から齎されたそれが、菱儀の討伐計画を大きく揺り動かす事になる。 |