【瘴乱】白い妖【震嵐】
マスター名:猫又ものと
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2014/04/26 09:36



■オープニング本文

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●流動
「主様、亞久留様。お茶をお持ちしました!」
「ああ。そこに置いたら下がれ」
「はい! 何か足りないものがあったらお申し付けくださいね!」
 主の声に頷き、ぺこりと頭を下げる少年。
 神村 菱儀(iz0300)はため息をつくと、紫髪の男に向き直る。
「黄泉の一件は残念だった、とでも言っておけばいいのか? この場合」
「俺に嫌味を言うとはいいご身分になったものだな、神村菱儀」
「嫌味に受け取られるとは心外だ」
「お前は人の心配などする玉ではなかろう」
 にこりともせず言う亞久留に、肩を竦める菱儀。彼も表情を変えぬまま続ける。
「……これからどうする気だ?」
「神代の娘を奪還し、帰還する。……子供達も連れて行きたかったが、ひとまず後回しだ」
「なるほど。手ぶらで戻る訳にもいかないか」
「そういうことだ。手を貸してもらうぞ」
「ああ。もう見返りは貰っている。協力は惜しまないと言っただろう」
「そうだったな。餞別に鈴々姫はお前にくれてやる。好きに使え」
 それだけ言い、出て行った亞久留。
 菱儀はその背を黙って見送った。


●不穏
「主様。一つご報告があるのですが」
「ヨウが戻って来ないんですぅ。……何かあったのでしょうかぁ」
 金と赤の髪の少女の報告に驚く様子もなく頷く菱儀。
 彼は頬杖をついたまま、さもつまらなそうに続ける。
「……知っている。開拓者に捕まったそうだ。お前達、あいつを処分して来い」
「……え? 今、何て……」
 主のいつもと変わらぬ調子の声。その内容に耳を疑って、青髪の少女が首を傾げる。
「聞こえなかったか? ヨウを処分して来い。アレに色々喋られると面倒なことになるんでな」
「そんな、主様……!」
「今までヨウは色々手を尽くしてくれたじゃないですかぁ!」
「それがどうした? もう一度言う。ヨウを処分しろ」
 驚きで目を見開き、震える青髪と赤髪の少女に、淡々と答える男。
 金髪の少女はただ1人表情を変えず、深々と頭を下げる。
「……畏まりました」
「ひい!?」
「ふうもみいもお黙りなさい。主様の命令は絶対ですわ」
 2人を嗜める金髪の少女に、菱儀は少し口角を上げる。
「お前はいい子だね。ひい」
「当然ですわ。2人にはわたくしが言って聞かせます」
「ああ。頼む」
 頷くひい。三人の少女達は深々と頭を下げるとその場を辞し……。

「ひい、本気なの!? あたしは嫌よ。ヨウを殺すなんて。あたし達の妹なのに……」
「主様の命令は絶対だと言ったはずですわ。ふう、あなたも分からない訳ではないでしょう?」
 与えられた部屋で金髪に食ってかかる青髪。諭されて唇を噛む彼女を、赤髪が慰めるように撫でる。
「あたしも嫌ですわぁ……。何とかして、ヨウを助け出すことは出来ないかしらぁ?」
「そうね……。あたしに考えがある。みい、乗ってみる?」
 青髪の言葉に、強く頷く赤髪。縋るような2人の目線を受け止めて、金髪は深々とため息をつく。
「……わたくしは何も聞いていませんわ。くれぐれも主様のご迷惑にならないようにだけ、お気をつけなさい」
 ――我ながら甘い、とは思う。
 でも心のどこかで、白いアヤカシの無事を願う自分もいて……。
 礼を言い笑顔を浮かべる姉妹達に、金髪はもう一度ため息をついた。


●白いアヤカシ
「皆、先日は助かった。改めて礼を言う。ありがとう」
 石鏡の開拓者ギルド。頭を下げる星見 隼人(iz0294)に、開拓者達は頷く。
「今日、皆を呼び立てたのは他でもない。例の……」
「白いアヤカシ、ヨウについて……ですね?」
「あいつ、どうしてるんだ?」
 言葉を継いだ開拓者に、頷いてみせる隼人。
 開拓者の問いに、それが……と言い淀む。
 一連の事件の重要参考人……白いアヤカシ、ヨウ。
 開拓者達によって捕らえられた彼女は開拓者ギルド奥の座敷牢に、見張りを立てて厳重に収容されている。
 その後、開拓者達と戦った傷も癒え、意識も取り戻したが……暴れたりする様子もない代わりに、ギルド職員達の語りかけや問いかけに対し、何も答えないらしい。
「ああ、すまん。たった一言だけ言ったらしい。『お腹が空いたから人間を寄越しなさい』と。仕方がないから鶏で我慢して貰ったと報告を受けているが……」
 彼の言葉に、顔を見合わせる開拓者達。
 捉えられたこの状況でも、高飛車な態度は変わらないらしい。
 暴れないのも、いつでも逃げ出せると思っているからなのかもしれない。
「ギルドの職員達をどうも見下しているようでな。俺達に、尋問に立ち会って欲しいと依頼があった。来てくれるか?」
「勿論さ」
 隼人の言葉に即答する開拓者。
 こうして、開拓者達と白いアヤカシは牢獄で再び対峙することとなった。


■参加者一覧
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
アルフレート(ib4138
18歳・男・吟
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
緋那岐(ib5664
17歳・男・陰
クロウ・カルガギラ(ib6817
19歳・男・砂
輝羽・零次(ic0300
17歳・男・泰
火麗(ic0614
24歳・女・サ


■リプレイ本文

「捕まえてはみたものの、困ったもんだね……」
「とりあえず、話聞くしかねえんだろうけど……」
 はあぁ……とため息をつく火麗(ic0614)。輝羽・零次(ic0300)もこういった事は苦手らしく、浮かない顔をしている。
「どう話したもんか悩ましいところだよな」
 そう呟いて、この廊下の奥を見るクロウ・カルガギラ(ib6817)。
 この先にいる、件のアヤカシ……ヨウ。
 彼女に色々聞きたいことはある。
 だが、相手はアヤカシだ。素直に答えてくれるとも思えないし、取引しようにもその条件が難しい――。
「まあ。ここは折り目正しく行こうか」
 生まれがどうあれ、知性を持ち、本能を制する理性を持つものは敬意を払ってしかるべきだろう。
 そう続けた竜哉(ia8037)に、頷く菊池 志郎(ia5584)。リィムナ・ピサレット(ib5201)が意を決したように立ち上がる。
「あたし、見回り行ってくる」
「尋問に立ち会わないのですか?」
 首を傾げる志郎にリィムナは強く首を縦に振る。
「皆に任せるよ。あたし、間違いなく怒らせる自信あるからさ!」
「威張るなよ……って、俺も人のこた言えねえけどさ」
 えっへん! と胸を張った彼女に苦笑する緋那岐(ib5664)。
 ふと、リィムナが真剣な面持ちになる。
「あたし、どうしてヨウが大人しくしてるのか……どうしても気になるんだ」
 まさか捕まるとは思っておらず、戸惑っているのかもしれないが……。
 より大きな被害を与えられるよう、暴れる機会を窺っているのか。
 さもなくば、仲間が助けに来るのを待っているのか――。
「確かに、ヨウの言う『あの子達』が来る可能性はあるよな」
「そーゆーこと」
「俺も警戒に当たろう。万が一瘴気の木の実持って来られても対応できるしな」
 リィムナの言葉に頷き、外に向かうアルフレート(ib4138)。
「あたしも見回り行って来るわ。尋問するなら、まずヨウと菱儀の関係から聞くといいと思うよ」
「そう思うなら火麗が聞こうぜ。うん、そうしよう」
 彼らの後を追おうとした火麗をイイ笑顔で引き止める緋那岐。
 腕を掴まれて、彼女は目を丸くする。
「えっ。ちょっ。あんた尋問に立ち会うんでしょ!?」
「ああ、立ち会うぜ。だけどリィムナと同じ理由であんま口開けねーんだって」
「ハァ!? ちょっと離しなさいよ!」
「はいはい。いいからいいから」
 ずるずると引きずって行かれる火麗。
 その様子を見ていたギルド職員は苦笑しつつ、彼らをその奥……ヨウがいる牢獄へと案内する。


 ヨウが居る部屋に入ると人払いを頼み、まず志郎と緋那岐が部屋の隅に移動した。
 何かあってもすぐ聞き取れるよう、視界の中に入るよう、注意を払う。
 そして、ヨウの真横に立つ火麗。
 万が一、暴れようものならしばき倒してでも止めるつもりである。
「……よ。元気そうだな」
 仏頂面で挨拶をする零次。ぶっきらぼうな物言いに、ヨウが肩を竦める。
「……元気そうに見える? レイジを食べたら元気出そうだけど。食べてもいいかしら」
「断る」
 睨み合う2人。今にも殴り合いを始めそうな彼らの間に、竜哉が割って入る。
「ヨウ、と言ったね。初めまして。俺は竜哉だ」
「タツヤ、ね。覚えたわ。貴方も美味しそうね」
「それは褒め言葉と受け取っておくよ。少し俺達と話をしないか」
「……あたしはアヤカシよ? さっさと殺せばいいのに」
「今はそういう訳にはいかない。賢い君なら分かるだろう」
「開拓者も大変ね。情報の為にアヤカシのご機嫌まで取らないといけないんだから」
 ヨウの観察するような目線を受け止める竜哉。
 零次がムッとしたまま口を開く。
「……そう思うならさっさと話してくれ。お互い顔見たくねーだろ」
「あら。貴方達に話して、あたしに何の利点があるのかしら」
 くすくすと笑うヨウ。今まで押し黙っていたクロウが徐に口を開く。
「……お前、穂邑さんを知ってるだろ? 『神代の娘』って呼ばれている人だ」
「ああ、あの子ね。どれがどうしたの?」
「彼女が先日誘拐された際、菱儀の近くにいた事が分かってる。今後穂邑さんから事情を聞いて、そこで菱儀の居場所が分かったら……どうなると思う?」
 彼の言葉に、ヨウの顔から笑みが消える。
 それを見逃さず、クロウは更に畳み掛ける。
「そうなれば、『あの子達』も只じゃ済まないだろうな。だが、今お前が情報を提供してくれるなら、そこで手心を加える事を検討事項に入れる。……それは、お前にとって利点にならないか?」
 向けられるヨウの鋭い目線。どうやらハッタリは効果があったようだ。クロウは内心ホッとしつつ、平静を装い睨み返す。
 続く沈黙。
 彼女はふと目を伏せると、ため息をつく。
「……本当に、あの子達を見逃してくれるのね?」
「ああ。俺達の力が及ぶ限りは」
「……何が知りたいの?」
 頷いたクロウを一瞥したヨウの、どこか諦めたような声。それに火麗は頷いて続ける。
「まず確認させて貰っていいかしら。あんたは神村菱儀に作られた。それは間違いないね?」
「ええ」
「しかし……お前、アヤカシだよな。人妖じゃなくて」
「そうね。人妖になるはずだったモノ……要するに『なり損ない』よ」
「は……? それ、マジか?」
「何を驚いているのです?」
 緋那岐の呟きに、ため息交じりに答えるヨウ。それに心底驚く彼に、志郎が首を傾げる。
「いや……そうだな。説明するぜ。人妖ってのは、高位の陰陽師によって生み出されるんだけどさ。ものすげえ成功率が低いのよ」
 続く緋那岐の解説。
 彼の言う通り、例え高位の陰陽師と言えども人妖を作り上げるのは並大抵のことではなく、大半は一瞬で崩れ去るか、アヤカシを作り上げる結果となる。
 人妖崩れのアヤカシは、大抵下級であり、知能を持たない事が多い。
 ここまでの美貌と知能、能力を保ったままのアヤカシを生成すること自体、稀有なことと言っていい。
 竜哉は納得した、と言うように何度も頷いてヨウを見る。
「なるほど。君の完成度が高いのは人妖の素養を持っているからなんだね。……作られたって言ってたけど、それは君一人なのかな?」
「いいえ。あの子達……姉がいるわ」
「彼女達もアヤカシなのかい?」
「あの子達ってことは、複数いるんだよな」
「あの子達は人妖よ。3人いるわ」
 続く竜哉とクロウの問いかけに淡々と答えるヨウ。それに緋那岐が再びギョッとする。
「マジか……! 人妖3体も生成したってのかよ……!」
「……他には? 君のようなアヤカシはいるのかい?」
「タツヤは随分アヤカシに拘るのね」
「そうだね。怖いもの見たさ、みたいなものかな?」
 首を傾げるヨウに、クク、と笑う竜哉。
 受け答えはしっかりしているし、振る舞いも人間と遜色ない。
 特有の飢えも、ある程度は妥協や我慢が出来る――。
 こんなアヤカシが、素知らぬ振りでこちらの社会に溶け込んでいても、恐らく気づけない。
「君みたいなアヤカシがもし複数『作られて』居るとしたら、それはとても怖い事だ。聞いた所で事前の対処なんて出来ないだろうけど……それでも、確認しておきたくてね」
「私を口説いてどうする気よ。安心なさい。私のようなアヤカシはあともう1体……妹だけよ」
「そうか。……口説いているつもりはなかったが。そう見えたか?」
 心底不思議そうに腕を組む竜哉。
 ……これだけ優しく、かつ有無を言わさず尋問しておいて無自覚とは恐れ入る。
 火麗は曖昧な笑みを返すと、ヨウに向き直る。
「で、あんたと菱儀との関係はどうなんだい?」
「関係? あたしにとっては生みの親っていうだけ」
「人妖達にとっては?」
「絶対の存在なんじゃないかしら。あれの指示に忠実に従っているわ。……言うことを聞けば、いつか寵愛を受けられると信じてね」
 続いた零次の問いに、目を伏せるヨウ。
 火麗は、ヨウの言葉に違和感を感じて首を傾げる。
「ん? 菱儀って男は、その人妖が気に入って傍に置いてるんじゃないのかい?」
「まさか。気まぐれに生かされてるだけよ。あたしもそう。私達以外の妹達は……人妖も、アヤカシも区別なく、皆些細な理由で殺されたわ」
「惨いことを……」
 首を振る志郎。同時に、緋那岐が遠い目をする。
 ……『私達以外の妹達』がいた、ということは、他にも人妖やらアヤカシやらをぼこぼこ生み出していたということだ。
 これまでの話を総合すると、神村菱儀という男は、陰陽師として――瘴気から物体を生成する技術にかけてはド級の実力を持っていると言う推測が導き出される。
 不謹慎だが、同じ陰陽師として興味がそそられる。
 そんな事を考えてしまうのは陰陽寮生の悲しい性か。
 そして、白いアヤカシの様子をずっと伺っていたクロウ。
 彼女の様子を見るに落ち着いているようだし、この調子なら聞いても大丈夫そうだな……。
 そう判断すると、極力静かに、刺激しないように語り掛ける。
「なあ、ヨウ。亜久留と菱儀はどうして協力することになったのか、お前何か知ってるか?」
「あの男が五行に居た頃に突然現れて、それからつるみ始めたみたいだけど……経緯までは良く知らないわ」
「……五行?」
「そうよ。前は五行の生成姫の魔の森に入り浸っていたみたい。生成姫が消滅して、拠点を変えざるを得なくなったみたいだけど」
「そうか……。もう一つ、亜久留の目的について何か耳にしたことは無いか?」
「さあ……。神代の娘を欲しがっている事くらいしか知らない。そういう事は鈴々姫に聞いた方がいいわ。あの子は亞久留が連れて来たアヤカシだから」
「なるほどな。ああ、そうだ。……お前より先に、黒狗の森に瘴気の木の実を撒いた奴が居たよな」
「ええ。最初にやったのはあの子達よ」
 クロウのカマかけに、あっさりと答えるヨウ。
 やはり、黒狗の友人の少女……紗代が見た『ふわふわ飛ぶ小さいヒト』は人妖だったのだ。
 クロウと顔を見合わせた零次。彼も、気になっていたことを口にする。
「……そういや、なんであの森だったんだ?」
 目の前のアヤカシと何度となくやりあう結果となったのも、黒狗の森の一件があったからだ。
 それがなければ、自分がここまで関わる事はなかっただろう――。
 そんな事を思いながら、彼はヨウを見つめる。
「ちょっとした仕返しじゃない? あの子達が以前、あの森に入った時に黒い大きな狗に追い返されたらしいから」
 事も無げな口調で続けるヨウ。零次は怒りのあまり、拳を握り締める。
 森に棲む黒狗達が侵入者を追い払うのは当然のことだし、何より心根の優しい彼らが理由もなくそんな行動に出るとも思えない。
 ――そんな理由で。
 森や黒狗、そして妹分が傷つけられなきゃならなかったって言うのか……?
 零次は更に、思っていたことをぶつける。
「前から思ってたんだけどよ。お前ってか……お前らって一体何がしたかったんだ?」
「あたしはあの子達が望むようにしているだけよ。あの子達は菱儀に従っているだけだと思うわ」
「それだけか? お前、黙って言いなりになるような奴じゃないだろ」
「疑り深いのね。あたし、あの子達が気に入っているの。だから協力してるのよ」
「……本当に、今までに自分の意思で行った行動はあるのですか?」
「……どういう意味?」
 ぽつり、と言葉を発した志郎を冷たい目で見つめるヨウ。
 彼は肩を竦めて続ける。
「あなたは神村菱儀を見下すような口をきいていますが……あなた自身の目的はなく、結局流されているだけなんじゃないかと思いましてね」
「……流されているからどうだって言うの? あたしに与えられたのはたまらない飢えと永劫に続く時間……何年も。何十年も変わらない。……退屈で死にそうなのよ。だったら、あの子達に手を貸して楽しんだ方がいいじゃない」
「知性を持っているが故の不幸……と言うやつなのかな。それは」
 吐き捨てるように言うヨウに、ふう、とため息をつく竜哉。零次は、怒りで目の前が真っ赤になって、近くの机を殴りつける。
「退屈凌ぎだと!? ふざけるな! あいつらがどんだけ苦しんだと思ってんだよ!!」
「輝羽さん、落ち着いて……!」
「離せよ、志郎! こいつもう1回ぶん殴る!」
 抑える志郎を振り払おうとする零次。その頭に、火麗のゲンコツがめり込む。
「いっでーーー!!」
「ったく騒ぐんじゃないよ! 静かにしないとぶん殴るよ!」
「だからもう殴ってるって……」
「何か言った?」
「イイエ。ナンデモアリマセン」
 どこかで聞いた緋那岐と火麗のやり取り。彼女は咳払いをすると、気になっていたことを思い出してヨウを見る。
「そういえば、瘴気の木の実はどこから持ってきてるんだい? まさかわざわざ生成姫の魔の森まで取りに行ってる訳じゃないだろ?」
「庭に生えてるから、そこから回収してるのよ」
「……は?」
「だから、菱儀の家の庭に生えてるって言ってるの。最初にあの森に撒いたのは、きちんと瘴気の木の実が機能しているかどうか、実験の意味もあったようよ」
 衝撃の事実に言葉をなくす開拓者達。
 瘴気の樹は、園芸よろしくほいほいと庭先で栽培できるようなものではないし、何よりあんな禍々しいものが民家にあったら即刻ギルドに通報があってもおかしくない。
 今まで通報ないことを考えると、何らかの手段を用いて隠しているのだとは思うが……。
 あんなものが庭に生えているのを想像しただけでゾッとする。
 彼女を話を聞くに、神村菱儀という男は人らしさ……情や、良心と言ったものが致命的に欠けているように感じる。
 こうやって何かを考え、言葉を交わす事ができる対象を下に見て、使い捨てることに躊躇いがない上、瘴気の樹を庭先で育てるという非常識な行動に出る人物が、強い力を持っているとしたら――。
 それは本当に恐ろしいことだし、早急に何とかしなければいけない事のように思う。
 ヨウの尋問を概ね終えて、開拓者達が思案にくれていたその時――騒ぎが起きた。


 ――時間は少し遡る。
 何度となくギルドの周囲を周回しているアルフレートは、同じくトコトコと歩いているリィムナに声をかける。
「こちらは異常なしだ。そちらは?」
「こっちも大丈夫だよ」
「そうか。何だか、さっき中が騒がしかったようだが……」
「ああ、何か零次が暴れたみたいだよ」
 ケロリと言うリィムナに、苦笑するアルフレート。
 2人は、ギルドの中で尋問に当たっている開拓者の相棒達と共に、周囲の警戒に当たっていた。
 ……ヨウの仲間達が、彼女を奪還するとしたらどこから来るだろう。
 開拓者ギルドは平時から開拓者が行き来しているし、正面から突破してくるとは考えにくい。
 そうなると、瘴気の実を撒く等で陽動して注意を引くか、擬態や変装で人間に成りすまして侵入するか、内部で精神系の状態異常をばらまいて一気に無力化してくるか、あるいはそれらを組み合わせてやってくるか――。
 とにかく、警戒するに越した事はない。
 ギルド職員には、一人にならずなるべく複数で行動し、見慣れない顔や非番の筈の人、いつもとは雰囲気の違う人がいたら注意し、気になる事はすぐに伝えてくれるよう頼んでおいた。
 そういった配慮が功を奏してか、手が空いているギルド職員達も周囲を気にしてくれるようになり。結果、迷い込んできた猫が警戒案件として通報されたりもしたが、気付かずに見逃してしまうよりは余程安心できる。
 そんな事を繰り返すこと数時間。
 最初にその異変に気付いたのは、リィムナの迅鷹、サジタリオだった。
 開拓者ギルドの壁。リィムナの遥か頭上をじっと見つめる迅鷹。
 相棒が急に肩から離れて、彼女は目を丸くする。
「あっ。サジ太! 離れたら危ないよ!」
 人質に取られたりしたらいけないので、離れぬように命令していた。
 その相棒が、命令に反して頭上で旋回している。
「……何かいるのね?」
「ピイィー!」
 主の声に応える迅鷹。
 頭上を見上げるが、彼女の小さな身長では上の方に何があるのか分からない。
 念のため、瘴索結界「念」を発動させるが、上空に瘴気の気配はない。
 そこに、騒ぎを察知したアルフレートがやって来る。
「どうした?」
「あ、アルフレートさん。この上に何かいるみたいなの。見える?」
 リィムナより遥かに背が高いアルフレートが見上げると、壁から、何かが突き出しているのが見える。
「足、だな」
「へ?」
「小さな人型の足だ」
 彼の言葉にぽかーんと口を開けるリィムナ。すぐに復帰すると迅鷹を呼び、友なる翼で高い位置へと飛び上がる。
 そこにあったのは、小さな穴。
 恐らく通風孔として開けられているものだろう。そこから、小さな足が2本にょっきり生えている。
 ジタバタしているところを見ると、前にも後ろにも進めなくなっているようだが……。
「……えーと。これ、人妖の足だよね?」
「……のようだな」
 もしかして、もしかすると、これはヨウの仲間ではないだろううか。
 とりあえず放ってはおけないので、その足を引っ張る2人。
 何度か引っ張ると、スポン! と勢い良く抜けて……赤い髪をした人妖が姿を現した。
「あぁ。ありがとうですわぁ、ひい。助かりましたぁ。前に進めなくなってしまってどうしようかと思……」
 そこまで言って、固まる人妖。助けてくれたのが仲間ではないことにようやっと気がついたらしい。
 次の瞬間、響き渡る絹を切り裂く悲鳴……が急に消える。
 アルフレートが対滅の共鳴を発動させたらしい。
 人妖が何か喚いているようだが聞こえない。
 不気味な沈黙の中、リィムナが容赦なく人妖をフルボッコして取り押さえ……捕り物劇は、拍子抜けする程簡単に終了した。


「……たった今、赤い髪の人妖が捕まったようですよ。貴方のお姉さんですか?」
 静かな調子の志郎に頷き、深々とため息をつくヨウ。
 頭を抱え、ぽつりと呟く。
「……バカな子ね。あたしなんて捨て置けばよかったのに……」
「君は……賢い上に情があるんだね」
「アヤカシに情がある訳ないじゃない。計算よ」
 項垂れている彼女を穏やかに見つめる竜哉。
 ――姉妹達に一番迷惑がかからない方法は、何も語らずにこのまま消されること。だから、逃げようと思わなかったのか。
 情が欠けている人間が生み出したアヤカシの方が余程ヒトらしいなんて、何と言う皮肉だろう……。
 白い長い髪を掻きあげ、顔を上げたヨウは開拓者達を見渡す。
「あたしが知っていることは全て話したわ。さっさと殺しなさいよ。その代わり……クロウ。さっきの約束を覚えているわね?」
「ああ。人妖達に手心を加える話だな」
「お願い。あの子、捕まったと知れたら菱儀に消されるわ……」
「悪いが即答は出来ない。だが、これから検討させて貰う」
 キッパリと言うクロウに、ヨウは頷き目を閉じる。


 白いアヤカシを処刑するのか、捉えられた赤い人妖の身柄をどうするのか。
 議題は、次回に持ち越されることとなった。