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■オープニング本文 前回のリプレイを見る ──俺の名はフレッド・バート、この塩鉱が確認された、ジリベリアの森を調査する開拓団の記録係だ。 今後の龍の投入に伴い、この森の開拓は発展的解消で、開拓者の時代から一般人の時代になる。 どうやら、今回であちこちの支援は絶えて、今回の害獣を倒すというミッションが成功したら、団長のルーク・イナスントも開拓団の長から、普通の開拓者に戻るようだ。 もちろん、団長も愛龍のマクト=ラスニールと共に、上空から出るようだ。 ちなみに俺の龍はニルダ=ケブレス、というが、一度も乗った事がない。恥ずかしいが、高い所が怖いからだ。 何か問題は? ともあれ、前回は悪くない──有り体に言って結構な額が手に入った。しかし、今回の仕事で厄介者の肉食獣などを一掃したら、それで終わり。 アヤカシなどが居れば話は別だろうが、自分達の入った地理では幸運か不運かはおいといて、痕跡は判らない。 状況を整理する。 自分達は岩塩の近くを流れる事が判明した川を遡上して、塩鉱の位置を『一般人』にも、開拓者の支えがあれば行ける程度には道のりは確認した。 そして、これらの道を一般人で整備していく、その露払いとして龍を出す。 森の中へと直接着地するのは場所探しから始まって難しいが、限界が来る前に戻る位は期待してもバチは当たらないだろう。 まず、塩鉱は時間をかけて採掘していれば絶対に元は取れた、ルーク団長が、買っても元が取れる売り出し文句を出したからには、それなりに景気の良い事を言ったのだろう。 結論を言えば、ルーク団長は刹那主義に走ったのか、採掘権を売買して、皆に頭割りした。 数年間の沈滞より、活気を選んだと言えば聞こえは良いかもしれない。 この先はジルベリアの冬は寒くなる一方だし(もちろん春というものはあるが、本当に来るのか疑いたくなる事もあるものだ)、自分の主観で言えば短期的な収入を得る為の採掘には向いていないだろうから、これ以上トラブルの出ない内に懐を暖めたいのかな? 閑話休題。 確実にいる害獣は『熊』だ。 次に『猪』といった所だが、猪は狩猟の対象となるかもしれない。 冬に冷そうな血を暖めるには、龍にとってはちょっとした運動という奴だろう。 まあ、熊は確実に狩る必要がある。 これはマーキングで、居場所を特定できる。最低でも二頭がなわばりを主張している。 多くても三頭だろう。 猪はある程度の群れがあるらしく、規模は十数頭か? こちらは細かくチェックしていないのと、川に繋がる痕跡がなかったので、何とも言えない。 という事はよそにも水場か? 空中から手際よく行けば特定と撃破は楽な事だろう。 まあ、最低限の的は熊の殲滅。猪は余裕があったら、という所か? 落としどころは、みなで会議をしながら決めてもらおう。 殲滅かポーズかを、だ。 そうそう、決めてもらうと言えば、ルーク団長から話があって、今回は実働部隊のリーダーを決めておいて欲しいとのことだ。 意見が矛盾しても、そのリーダーの意図を優先する。 腕っ節が強いからといってリーダーにはなれないし、頭が切れるからと言って相応しいとは限らない。 さて、誰がリーダーになるかな? ──開拓記十四幕開幕。 |
■参加者一覧
天津疾也(ia0019)
20歳・男・志
北条氏祗(ia0573)
27歳・男・志
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
赤マント(ia3521)
14歳・女・泰
菫(ia5258)
20歳・女・サ
アリア・レイアロー(ia5608)
17歳・女・弓
加茂丹(ia7968)
10歳・男・シ |
■リプレイ本文 そろそろ、今年の総決算もしなければ行けない時節に、ジルベリアの天を龍達が駆け、凍てつきそうな大気を切り裂く光景はまさしく、一幅の絵のようであった。 俺、フレッド・バートと、ルーク団長は後陣に控え、北条氏祗(ia0573)が前方でリーダーとして、翼をはためかせている。 氏祗の愛龍である大山祇神(おおやまつみ)は非常に醜悪であった。 少なくとも、自分の目に映る姿は全身の骨を剥き出しにしたように見え、それは、あらかじめ打ち合わせていなければ、アヤカシとしか見えなかっただろう。 氏祗当人に言わせれば、家族も同然に育ち、違いに気心が知れている、という。 外見に拘るより、正しき道を行う事が武士としては当然な事なのだろう。 俺には武士道というものは良く判らないけれど。 天津疾也(ia0019)は文字通り、疾風の如き、翼で行く、疾風の背から(眼鏡をかけているのは、ちょうど良い風よけだ。疾也自身は計算している訳ではないだろうが)身を乗り出して、けらけらと笑いながら、言葉を投げかける。 「基盤になるものも見つかった事やし、今回でここの開発とはおさらばやな。まあ、きっちし、トリをしめたるか?」 「そう言うと、カッコイーな! いくぜぃ!」 鞍の上で金目に赤毛という非常に目立つルオウ(ia2445)が愛龍であるロートケーニッヒ(確か赤い王という意味だったと思う。どこの国の言語か、という所まで突っ込まれると色々と困るが、大体の意味は外れていないと思う)が大きく手を振り回している。 いささか、くたびれた感のある、炎龍だ。人によっては風格のある、と表するかもしれない。 「ロート、大人しくしてろよ」 いや、ルオウが落ち着く方が先のような──。 出立前に、キャンプ場で聞いた話だと、ロートという愛称で呼んでいる。 ま、長いしね。 ルオウ当人の弁ではジルベリアの騎士だという父親から受け突いたそうだ。まあ、当人は武天の出身でジルベリアのハーフだという事だから、あり得ない話ではないだろう。ともあれ、これは公認された情報からは出ていないので、信憑性に関しては色々と保証しかねる部分もある。 そして、最前列で憑かれた様に、駿龍のレッドキャップをせき立てるのは赤マント(ia3521)だ。レッドキャップは三本の角を生やした優雅そうに自分に見える体のラインを、全身を覆うような赤い皮膜で覆っている。端から見ると、龍の頭を生やした赤いマントが空をかけているようにしか見えない。 赤マント当人は近くの村で、この森を狩り場にしている人物がいないかを、懸命に調べていたが、この森に入り込んだのは自分達が初めてという報告書に明記してある事。慎重なのか、よほど報告書を余程信用していないのだろう。 まあ、氏祗リーダーの決断がなければ、どこまでも遠くへ調べに行ってただろう。 一方、端然とバトルアックスを携え、炎龍の鞍の上に座しているのは菫(ia5258)だ。目の傷痕が特に目を惹く。聞いてみたのだが、特に龍に名前をつけている様子はない──別に龍を粗末にしている訳ではない、普通と考えが違うだけなのだろう。 (今回で最後──か。短い間だったが、貴重な経験になったと思いたいな‥‥今回の害獣退治は、しっかりとこなさねばな) 何となく、そんな思いが手に取るように判るかのようだ。 当人は隠しているのかもしれないが、そして逆に当人は判っているのだが、菫は結構頭は悪い様だ。 一方、甲龍のバコローネに乗った、アリア・レイアロー(ia5608)も眼下の森林を眺めやって(そう言えば、誰も名前を付けなかった。後で常人の開拓者が適当な名前をつけるのだろう。後人のネーミングセンスを云々する趣味はないが)、大型の動物の居そうな地点の大体の当たりをつける。やはり、狩人としての経験があると有利な局面もある。適材適所とはこの事か? ムリヤリ接敵に持ち込まなくても、騎射も出来るというし、やっぱり、アリアさんは色々と芸の幅の広い人だなー。 甲龍の背に、白装束で身を固めた幼女──に見えるシノビの、加茂丹(ia7968)は小柄ながらも鋭い視線で森をながめやる。 懐の手裏剣を探っている。苦無なら万能のツールだという話だが、普通の手裏剣ではそうはいかないだろう。 背中には良く判らないが、鍋を背負っているようだ。 噂で聞いた限りでは料理の采配をするのが好きなのだという話。 彼は色々と食べ物にはうるさい(まあ、自分でも作るから、その点では楽だが)タイプだが、色々と他人の龍にも気を配り、出立前に各人に名前を聞いて回っていた。 自分とルーク団長を引っ張り出した当人でもある。自分は治療要員くらいしかないなー。経験を積んだ人が多すぎて、団長はともかく、自分は正直役に立つとは思えない。 場数も踏んでいない、丹もその点で危惧を覚えたのだろうか? 聞くのも失礼な話かな? と、考えている間に、自体は動いた。肝心の所を聞き逃したというところらしい。 アリアさんの言葉に氏祗リーダーがうなずくと赤い旋風を筆頭に地上に降りていく。まあ、自分は地面なんて一生見たくない、地面は足の下にあるものだ。 「フレッド!」 ルーク団長からの呼ばわる声がする。 自分もニルダ=ケブレスの手綱を取ると、龍任せで地面への距離を詰めていく。 ルオウと疾也が如何にも勿体なさそうな表情で血も滴りそうな肉塊を手近な枝にさしていく。 「熊の居場所は大体、アリアの姉御で判った。これで熊をおびき寄せて、袋だたきや。まあ、腐りかけやったから、元を取るのは楽やけどな。捕まえたら、皮剥いで売り飛ばしたる」 「まあ、これくらい判りやすい方がいいんじゃない?」 ルオウも元を取れるという計算だろうか? 「肉は鍋という事で──この冬の野趣をふんだんに盛り込んだ」 疾也とルオウの言葉に丹は応える。それに対し、ルーク団長も。 「肝は俺が取る。精がつくからな。しかし、痛みやすいから、早めに売りさばかないと」 「早い──ならば、赤マントが出る。もし、早さを求めるのに僕を使わないなら、人を見る目が全くない事になる──早さだよね、早さ!!」 赤マントの言葉にアリアさんは。 「どうして、そんなに早さを求めるの‥‥」 と、そこまで言おうとした所で。 「何故、早さを? 愚問だな、アリア──次の限界速度のために、次のその次の限界速度のために──」 まあ、噂では赤マントの出身地には色々と赤に関する言い伝えがあるらしい。だから、かなりのレベルで泰練気法を収めているらしい。全身が赤くなるから、という理由だろうか? 理性では御しきれない衝動だろうか。 「跳ぶぞ」 トラップが仕掛け終わった所で氏祗が大山祇神の鞍に跨り、再び地上を離れる事を宣言する。 アリアが熊の近づいた情報を出したためだ。彼女自身はバコローネを盾に狙撃ポジションを取った。 ‥‥まあ、やっぱりリーダーの言葉には従うべきだよな。 たしかに剣呑な空気が漂う。 皆が中に舞い上がり、思い思いの方法論で気配を消す。 「野生動物とはいえ、油断は禁物。全力でかかろうぞ」 巨躯が姿を現す。 「今だ! 突撃ー!」 丹が手裏剣を構えようとするが、人間が突入するならともかく、龍の群れが殺到するのを見て、リーダーで氏祗の指示に従う。 膝のあたりに刺さった、アリアの一矢が呼び水となって、血が飛沫き、熊の周りは乱刃の巣と化す。 菫が業物と、バトルアックスをふたつながらに自在に操る。見た目以上の体力がなせる技だろう。 「‥‥‥‥こちらも力が自慢でな──御免っ!」 普段の端正とも取れる佇まいからは予想だに出来ない、立ち居振る舞い。彼女もまた、ひとりの武人であた。 そこで疾也が天も裂ける様な大声をあげる。サムライの『咆吼』だ。 ひるみ勝ちになり、逃走を考えた熊であったが、このスキルにより、その精神に疾也の側から離れられない即ち、逃走という選択肢を削除され、全身から血を滴らせながら、疾也を襲うが、疾也は受けきる。 しかし、膝が僅かに撓む。 「今や! みんな、袋叩きやでっ!!」 「判ったぜ、眼鏡のあんちゃん、いくぜい! ロート、蹴り飛ばせ!!」 ルオウがロートケーニッヒによる直上からの蹴り。勢いで右肩が砕けた。 真っ赤な塊となって、赤い旋風と共に、懐に飛び込んだ赤マントが、赤い旋風の騎乗にて、気をフル稼働! 闘気で全身を朱に染め、スピード重視の、愚直とも取れる、しかし余人には真似の出来ない、直線的な壮絶な一撃で心臓と右肺の上へとそれぞれにら掌底を叩き込む。連鎖して骨が砕ける音。次の一瞬、熊の動きが止まる。 そのまま飛び退る。 ──勝機! 目を光らせる氏祗。 「戦場で隙を見せたが不運、強者よ、せめて北条の武で往生せい!!」 氏祗の大斧である、鬼ごろしの一撃が横隔膜の辺りに振るい、勢いのまま斬り破った。更に体ごと体当たりする。 重い感触。 巨体が揺れた。そして、崩れ落ちた。 大地が揺れ、たわんだ枝々から、無数の氷雪が落ちていった。 倒れ伏した巨体から、地面に血が静かに溜まっていく。 「やったか?」 血の臭いでむせる。 誰が聞いたのかは判らない。だけど、答えは沈黙のみであった。 そんな戦いが幾度か繰り返された。 途中で休息を取り体力を回復。時間を詰める時は自分の治療符で回復する。この一同の熟練ぶりでは自分が呪縛符を使う暇はないようだ。 ともあれ、倒したのは熊だけで合計4匹。多めだろうか? 中には子熊も混じっているが『大きくなれば、どうする』という赤マントの言葉もあったが、今回の仕事は殲滅してこそ、意味もある。 それに、親熊を殺して、生きながらえるとは思えない。生き残らせるのは自己満足でしかないし、かえって残酷な所行なのだろう。 俺はそう思う。 結果だけ言えば、討った。 あっけないくらい、簡単に命を落とした。 大人の熊でも熟練した開拓者では御せるのだから、当然という所だろうか。 逆に見つからなくて、問題になったのは猪であるが、草食動物相手に、血の臭いのする龍では近づこうとしても相手が回避したようだ。少なくとも、これを書いている後知恵ではそうだろうと判断がつくが、アリアさんもふくめて、今の自分達では手一杯であった。 幾つもの開拓の障害物(で、あった熊)が崩れ落ちた所で、各員は狂戦士の如く、暴れた獣を追悼するのであった。 疾風は皮から肉の小片をそぎ取り、毛皮屋に売るための算段を。丹はアリアの調達してきた様々なハーブで臭みを消しながら、火を沸かし、鍋へとかけていく。 ルーク団長は熊の肝だけではなく、胸部を切り開いて、心臓を抉り出すと、木の枝にさして、粗塩をかけると直火であぶった。 脂が爆ぜて、香ばしい臭いがする。 物静かにルーク団長は宣言した。 「あの熊たちは勇者だった。そして、自分達はその勇者の血肉を食べて、弔いとする。自らの血肉と化させるのだ。彼らは我らの内で生きていく」 言って、等分する。龍達にもそれを与えた。 同じ物を食べて、少しでも絆が深まる事を祈って。 ルーク団長のこの行為は正直センチメンタルだと思う。まあ、相手がアヤカシでないから出来た事──ではあった。昔、自分も書いた物だ。開拓者の仕事はアヤカシを退治する事──らしい、と。 でも、口にしたそれは、結構、堅かったし、鉄の味もした。 森を去る時、菫は寂しげに──。 「ここに来るのもこれで最後、ですか、開拓が終わったころにでも来られれば、また来たいですね」 一体何時になるのだろうか? 俺が生きている内には街道も開かれるだろうが。 後は、近くの街で肝を売るだけ。 まあ、泰とかでなら、本格的な漢方の材料として、もっと割が良い値段で売れるのだろうが、そこまで龍で移動するだけの時間も正直勿体ない。 鮮度が落ちると言う事もあると、この当たりで折り合いをつける。 それなりの値段になった。 そして、丹も名前を覚えた皆の龍達に別れを告げる。仕事は終わったのだ。 神楽の都で報告書を出せば、仕事は終わりだ。 これが俺の最初の開拓日誌を締めくくる文章。 また、これからもこの仲間達が集って、処女地を開拓できますように。 ルーク団長は何かあったら頼むかもしれない、と皆に言葉をかけて、さばさばと開拓団を解散した。 結構事務的な人だな。でも、きっとまた、神楽の都で開拓者をしていれば会えるだろう。 俺はそう信じたい。 この業界も広いようで、狭いし。 みんなも三々五々散っていく。 「また会おうぜ」 最後にルオウはそう言って俺に背中を向けた。 これで開拓記の最終節を書ける。 ──開拓記十四幕閉鎖、と。 |