【鍋蓋】義賊 強行編
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/10/08 05:11



■オープニング本文

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「成程、そうですか。わかりました、手配しておきましょう」
 地主の屋敷の裏門で側近の男が言葉する。相手は天儀人であり、風体から察するに志士といった所だろうか。話が終わると、すぐに二人は他人に戻り素知らぬ顔で闇に紛れる。
(「こちらもそろそろ潮時でしょうか? しかし、まだ利用する価値はある‥‥」)
 闇に紛れる黒スーツ――そんな中で掛けられた銀の眼鏡だけがきらりと光を帯びていた。


「で、判ったのはそれだけなの?」
「そう、さね‥‥」
 自称義賊のラストドロップことラスと接触した新海に呆れた顔を見せる彼女。
 ここはやはり宿屋の一室――コンタクトを取った時を入れれば、三度目の接触となる。
「それで‥‥これからどうするつもり?」
 地主から奪ってきた駱駝の木片の正体。それが四連式の鍵だということはわかったが、肝心のその鍵の使用場所が判らない。地主によって、貧民街の人間が攫われている事は確かだったが、何処に攫われてしまっているのか判らなければ話にならない。
「あの男は郊外に定期的に向かってる。だから、きっとそこだと思うけど‥‥まだ確証がないのよね」
 相変わらず机に座って彼女が言う。
「なんでラスは動かないさね? ラス程の技術があればお手の物じゃないさぁ」
 そこでふとした疑問を新海がぶつけてみた。しかし、それが思わぬ方向に向かわせる。
「私! 私は駄目よ‥‥か弱き女性にそんな危ない真似しろっていうの?」
「そういう訳じゃないさね‥‥けど、なぜそこまで判ってて動かないのか気になったから‥‥」
「疑っているのね?」
 俯いたまま表情を押し殺して彼女が問う。
「それは‥‥」
 そこで口篭ったのかいけなかった。
「いいわ、もう貴方を信じない! 助けてくれそうだから信じてたのに‥‥そんな言い方されるとは思わなかった!!」
 手にしていた木片をふんだくられて、そのまま彼女は窓からひらりと姿を消す。
「まっ、待つさね!! それはっ!!」
 そう叫んだが遅かった。人ゴミの多い通りに面した窓側の道。そっちに逃げられてしまっては追いかけようがない。しかも、ここは四階である。
「しまったさね‥‥こんなつもりじゃなかったさぁ〜」
 今更な呟き――ごそごその取り出したのは例の鍵。今、ラスが持ち去ったのは新海が作っていた偽物である。案外手が器用なものだから、いざと言う時の切り札にならないかと、彼が独自でスペアを作り始めていたのだ。
 力になる筈がとんだ勘違いを招いてしまった‥‥しかも、持ち去られたのは偽物。出来はなかなかのものだが、もし救出に使っても扉は開かない。新海が窓の外を心配げに見つめる。けれど、そこにはもうラスの姿は有りはしなかった。


 そして、数日後――裏路地で囁かれる噂に新海ははっとする。
「最近、ラストドロップが姿を見せないのは、どうやらついに捕まったらしいぜ」
 いかにもゴロツキといった男がひそひそ話している。
「ホントかよ? で、一体誰がやったんだ?」
「あの悪徳地主だとさ。まぁ正確にはあそこの側近らしいがな」
「へ〜、済ました顔したあの優男がか?」
「ああ、そうらしい。しかもラスドロはまだ若い女だったとかでな。あの地主の事だから、きっとラスドロも」
「はははっ。有り得るな、それ。今頃お楽しみかもしれねぇ」
 下卑た笑い――その声が新海の耳を掻き乱す。
(「俺があんな事言ってしまったばかりに彼女は一人で向かい捕まったさぁ」)
 もし、今の噂が真実ならば取り返しの付かない事となってしまう。
「ちょっとあんたら、その話本当さね?」
 いつになく凄みを利かせた表情で問い詰める彼。その形相に男達は思わず逃げ出していく。
「これは一大事さねっ! もしもの事があったら、俺は開拓者失格さぁ‥‥」
 ラスの事はおおっぴらには出来ない。しかし、助け出さねばと思う。
 ギルドには知人の救出として依頼を出し仲間を募ると、彼自身も手掛り集めに奔走する。

 そして、思わぬ所から情報を得る事となる。
 それは、地主の家のあのメイドだった。始めの折に打たれそうになった所を助けた繋がりだ。
「数日前に連れ戻された給仕がおりました。少し前に辞めた筈の金髪の少女です。以前こちらに居た時と違って勝気な物言いで、引きづられるように半ば連れ込まれて‥‥。それから彼女を見た者はおりませんが、鍵がどうこう言っていたので、もしや貴方様のお探しの方かと」
 周りを気にしながらも力になりたいと彼女はそう新海に伝える。
「で、その後見ないという事は何処か別の場所に移されたさぁ?」
「わかりません。しかし、聞き訳がない者はいつの間にか居なくなるので‥‥その辺はあの僅籠(きんろう)様が管理なされているはず」
「僅籠? 誰さね?」
「あの側近の‥‥たまたま聞いてしまったので。普通の者は名前を知らないと思います」
 脅えながらも答える彼女――しかし、このままではいけないと思っているのだろう。
「ありがとうさね。絶対どうにかするさぁ。だから頑張ってほしいさね!」
 新海はそう励ますと、再び決意を新たにするのだった。


■参加者一覧
秋桜(ia2482
17歳・女・シ
和奏(ia8807
17歳・男・志
志宝(ib1898
12歳・男・志
万里子(ib3223
12歳・男・シ
リィムナ・ピサレット(ib5201
10歳・女・魔
リーゼロッテ・ヴェルト(ib5386
14歳・女・陰
蓮 蒼馬(ib5707
30歳・男・泰
コトハ(ib6081
16歳・女・シ


■リプレイ本文

●所在

「あの男、気に食わん!」

 地主が自室にて――相変わらずのマナーの悪さが目立つ食べ方で骨付き肉を頬張っている。それは彼が今ストレスを抱えているからだ。

「わしが主だ! あいつが捕らえようと後の事はわしが決めていい筈ではないか!!」

 咀嚼もそこそこにぶつぶつ言い、次の肉を放り込む。

「若い娘は楽しみ方も多いと言うのに‥‥」

 ラスドロの事だろうか。そう思いながら万里子(ib3223)が屋根裏で聞耳を立てる。

「金髪の‥‥あれはエルフだった筈。なのに、側近の分際で忌々しい」

 多分彼が居ればこんな態度は取らないだろうが、今は一人とあって言いたい放題だ。

(「ついでに攫った人達の居場所も吐いてくれたらいいのにな」)

 等と思いながら、一応辺りを警戒する。勿論今は側近のいないとされている時間であるが、万が一という事もある。以前の事もあるし、姿がばれるのは避けたい。

「くそっ、あの鍵のスペアはまだ出来んのか!」

 そしてその後も地主は食事の間中愚痴を続けるのだった。


 一方その頃、別の場所でも聞き込みは行われていた。
 時間は夜――仕事を終えた者達が酒場や宿に集まる時間である。裏ギルドには秋桜(ia2482)が、側近に接触する足掛りにはコトハ(ib6081)が、新顔のリィムナ・ピサレット(ib5201)と新海は高級宿に向かう。

「危ないと思うさね」

 以前武器開発でお世話になった為、一人で行くと言うリィムナを心配し同行した新海であるが、外見年齢十と二十三ではどうも不釣合いだ。

「だって人身売買なんて絶対許せない! その為なら多少の危険は仕方ないよ」

 しかし、当の本人は全く気にせず解決に意欲を見せている。貴族のその手の宿ならば、人買いの話が出るかもと考えたのだ。地下に続く階段を降りて扉を開けば、そこにはランプの明かりで包まれた淡い空間が広がっている。
「何か御用でしょうか?」
 入ると同時にオーナーらしき男が出迎える。
「え〜とそれは」
「部屋を。あたし、この人の恋人なの」
「ええっ!」
 さらりと言ってのけたリィムナに驚く新海。けれど、男は何も言わず部屋の手配に入る。
「ど、どういうことさね?」
「何が? いいじゃない。そういう趣味の人もいるって事だよ」
 こそこそとそうやりとりし、案内されるのを待つ。そして部屋に着くと、

「ねぇ、おじさん。ここって人は派遣して貰えるのかな?」

 と事も無げにリィムナが尋ねてみせる。

「それはどういう意味ですかな?」
「それは勿論夜の。ほら、この人‥‥こんなだから」

 こんなとはどんなだと思う新海だったが、何か意図があるのを悟って口を出さないでおく。すると、男も態度を変える事無く言葉を続けて、

「お相手が必要でしたら、娼館へお行き下さい。私共はその様なサービスは致しておりませんので。更に先をお求めになるのであれば、紹介程度なら行えますが」
「紹介さね?」

 よくわからないが意味深な言葉に新海が繰り返す。

「はい、但しそれなりの前金を頂く事になりますが」

 男の言葉に新海の財布が悲鳴を上げた。


 砂漠の大地にスーツの男が借金の徴収に屋敷を後に貧民街へと向かう。その男は昨日予め仕入れた話では側近・つまり僅籠直属の部下に当たるらしい。場所柄一目につかない路地を見計らい、コトハが接触を試みる。

「あの‥‥、ちょっと教えて欲しい事があるのですが‥‥」

 男の腕をしっかり握って上目遣いに引き止める。

「なんだ、おまえは。私は急いでいるんだ」

 そう言った男であるが目が合った瞬間にざわめく心――彼女の夜春の効果である。

「僅籠様に文をお渡ししたいのです。あなた様は、よく僅籠様と居る所をおみかけしましたっ! だからお願いで御座います」

 視線を外さずそう言うと男も動揺を隠せない。彼の側近とはいえ、不意打ちとあっては回避出来ない。

「あの方はおまえのような者には靡かないと思うぞ」

 困ったように男が言う。

「いいのです! それでも気持ちを届けたいのです‥‥それさえ出来れば私は満足‥‥だから、何処にいけば人目を偲んでお渡しできるか教えて頂けますか?」

 もう一押しとばかりに演技に熱が入っている。

 そんなやりとりを遠目にリーゼロッテ・ヴェルト(ib5386)が聞き込みをするのは貧民街。繋がりの強さを信じ、攫われた者達の行方を探す。

「あそこにいるような黒スーツの男が何かしてなかったかしら?」

 丁度コトハが接触しているのを指差し尋ねてみる。しかし、貧民街の人間もそう易々とは口を割らない。知っていそうな素振りではあるが、変な事に関われば我が身にも危険が降りかかるのではと考えているようだ。

「うまくすればここの治安を良く出来るのですよ。ですから何か教えて頂けませんか?」

 そこへ役所経由でこちらにやってきた和奏(ia8807)も話しに加わる。

「治安なぞそう簡単に出来るものでは」
「そうでしょうか? 役所で聞いた話ですが、あの地主様の元にある容疑が掛かったようですよ」

 今し方聞いたばかりの話――仁生の方であった国営のハーレム船の事件に彼の船が使われていたらしく容疑がかかっているらしい。

「もし、人攫いをしている証拠があがれば、その事件との関連性も高く逃れるのは難しいかと思われます。だから、今がチャンスでもある」

 そう説得すると暫く思案する住民。『今がチャンス』その言葉に心が揺らぐ。仲間が攫われているのを放っておくしかなかった状況‥‥けれど、今なら。

「わかった。判る事を話そう」

 時間はかかったが、住民はそういうと二人を自分のテントへと導くのだった。


 そしてこちらも、
「わかりました。そこまでおっしゃるなら‥‥」
 ぽっと頬を染めて薔薇の花束を受け取る女性。再び現れたイケメンに喜んだのも束の間で、しかし情報をくれればデートを約束すると言われて、そんな些細な喜びに負け情報提供を約束する。
「あの人を狙っていた女の子も多いから‥‥その子達の話では、毎晩郊外にある酒場に行っていたと言ってました。でも、閉店時間が過ぎても出てこないって‥‥宿が併設されている訳ではないのに出てこないから、もしかしたらあの宿の主人とできてるのかって‥‥」
「なんと! そんな男なのか!」
 別に鵜呑みにした訳ではないが、地主の給仕に恋したが振られ、その原因が側近だと言う事にしている為声を大にし怒りを露わにする。
「真実かどうかはわかりません。けれど、裏口からも姿は見ないって。気付いたら館に戻ってたりとか‥‥秘密の抜け穴でもあるのかも」
「そうか。いや、有難う。行ってみるよ‥‥約束は仕事が終わったらちゃんと守るから」
「はい、待ってます」
 その言葉に満面の笑みを浮かべて離れ際には頬に口付けをされる。
(「ははは、こんな所を娘に見られたら殺されかねんな‥‥」)
 仕事ではあるが、蓮蒼馬(ib5707)の背に冷たいものが走るのだった。


●酒場
 皆の情報を総合しラスの所在は判らなかったが、万里子の情報からどうやら彼女は僅籠の手にあるのは確かなようだ。そして、行きついた先は郊外に立つ一軒の酒場――そこに攫われたという貧民街の者の言葉と、高級宿で教えられた場所はそこで一致している。
「借金の取立てに今日お昼位に僅籠も動くみたいだよ」
「その時間であれば、酒場も手薄だろうしいいかもしれないな」
 夜の戦闘は視界が悪い。闇に紛れられるのはいいが、逆に言えば相手を見失うリスクもある。どっちにしろ囮として時間を稼ぐのであれば、わかりやすいに越した事はない。面が割れている秋桜を初め接近に強い志宝(ib1898)に蒼馬、リーゼロッテとコトハが囮を買って出る。残りの面子はその間に酒場を調査し、救出という手筈だ。
「いいですか、絶対に手放さないで下さいませ」
 木片を預かる新海にコトハが念を押す。元はと言えばラスがこうなったのは彼のせい――スペアのアイデアはよかったのだが、不用意にしていたのも事実である。
「わかったさね。そっちも気をつけてほしいさぁ」
 凄腕と聞いている手前心配が募る。
「これ、使えるか判らないけど」
 そこへ手渡されたのは郊外の地図。志宝が調べていたようだ。
「それでは」
「頑張ってこー」
 リィムナの言葉に気合を入れて彼らは二手に分かれるのだった。


 そして、人通りの少ない場所を選んで囮班は行動を開始する。

「おまえが彼女を‥‥許さん!」

 きっと指を差して蒼馬が僅籠を睨みつける。ここは一本道逃げ場等ない。

「逃がしはしないですよ、側近さん」

 そういうのはこないだ顔を合わせた秋桜だ。それに残りの面子も続く。

「これはまた‥‥大勢でいらっしゃるとは私も人気が出たと言う事ですか」

 しかし、彼はあくまで冷静だった。焦る事無く、護衛の部下に指示を出し彼自身は蒼馬との間合いを詰める。

「私に敵うとでも? いえ、それともこれはただのお遊びですか?」

 この意図を察しているのかにやりと笑みを浮かべて詰め寄る彼。まさか接近してくるとは思わず、慌てて回避する蒼馬。裏一重で辛うじて避けるが、それでも尚追い縋って手には短刀を隠し持ち、アクセラレートで詰めてくる。

「助太刀します!」

 そこに割って入って刀で応戦する志宝。小柄な彼だから懐に入るのは造作もない。僅籠の武器は遠距離向きが多く、短刀はあくまでサブとみる。

「ふん、小僧が」
 けれど彼は素早く獲物を持ち替えて、しかしそれもフェイント。

「危ない、避けて!」

 スキルが発動するのを悟ってリーゼロッテが叫ぶ。けれど、その声と同時に二人の前に風の刃が押し寄せていた。


   カラン

 例の酒場の扉を開ければ、備え付けのベルが鳴る。
「何用だ? まだ開店はしていないが」
 それを察知して店主が無愛想に顔を出す。
「少し聞きたい事があるんです」
 それに平然と答える和奏‥‥いつもながら動じた様子はない。
「ここで何かの取引をしていると聞いたのですが、本当ですか?」
 あまりにも単刀直入に言う彼に店主はぴくりと眉をひそめる。
「取引‥‥さあねぇ。どこの噂だ? 余所者が誰かに騙されたんじゃないのか?」
「いや、ちゃんとした筋さね。高級宿の主人から聞いた話さぁ」
 それに続いて新海も顔を出す。
「ほう、しかし時間外じゃないか‥‥何もできんよ」
「そうかな? じゃあ勝手にやらせてもらうね」
 幸い店は準備中で人はいない。話している間にリィムナが近付き、睡眠のスキルを店主にかける。すると、そこに残されたのは彼らのみ。戸が開かないよう衝立をすると、急いで中を調べ始める。

「本当にここにいるさね?」

 一見見ればただの酒場。酒の匂いが染み付いた店内には酒が並ぶばかり。人が隠されているようには見えない。

「ここはあたいに任せてよ」

 すると地主宅同様超越聴覚で音を拾い、万里子がカウンターの下からの声を察知する。
「これは‥‥きっと女性だよ」
 そう言って床に目を凝らせば、一箇所取っ手が付いている。どうやら、地下への扉のようだ。
 喜ぶ新海に万里子も笑って鍵を外しに掛かる。
 その先には再び頑丈な柵に鍵があったが、これはあの木片が見事に嵌り難なく奥へと進んでいく。
「なんだ、意外と手薄だね」
 酒場の下の地下牢の警備は僅か数名と拍子抜け。鍵に絶対の信頼を置いていたのか、あっさりとしたものである。

「これであの地主もお縄でしょうか」

 牢の中の女性達を逃がしながら和奏が呟く。

「だといいけど‥‥人数少なくない? それにラスドロは??」

 肝心の彼女がいない事を悟って、リィムナが問う。

「地主さんのとこにはいなかったよ‥‥」
「じゃあ一体何処さね?」

 新海が首を捻る。――とそこへ、

「ありがとっ!」

 彼女の声と共に地下には煙が充満し、慌てて脱出する四人だった。


●露呈

「くっ! 流石に一筋縄ではいかないな!!」

 防戦一方になりつつある蒼馬が言葉する。建物の影であっても、天儀と違う気温が体力を奪う。しかし、僅籠は慣れているようで汗一つ流さない。

「どうしてあなたほどの武を修めた人がこんな仕事を?」

 少しでも時間を稼ごうと飛び込みざまに志宝が声をかける。

「フフ、そうですね。しいていえば欲でしょうか?」
「欲?」

 答えてはくれないと思っていた手前、まさかの回答に内心驚く。

「私はね、思う通りにならないのが気に食わないだけですよ‥‥貴方もきっとあんなギルドでは物足りないと思う日が来る筈ですから」

 意味深にそう言って、ぐんっと距離を取りに掛かる。しかし、

「お待たせしました」
「後はあなただけです」

 本意と違い側近の部下を相手をさせられていた二人が参戦し、形勢はは大きく傾く。

「おやおや、なんと不甲斐ない‥‥私の部下というのに。人選を間違えましたかねぇ‥‥ひとまず退却しましょうか」

 まるで人事のようにそう言って、彼は戦線離脱の態勢。

「させませんっ!」

 けれど、それを許す筈もなくコトハの裏術・鉄血針が襲う。それを一足先に跳躍でかわそうと一旦しゃがんで。そこに秋桜が接近し影で急所を狙う。だが、彼は微笑を浮かべて、

「っ!!」

 息を飲んだのは彼女の方。踏み込んだ先の冷気に身体が危機を悟る。

「危ないっ!!」

 しかし、大事には至らなかった。先に気付いて志宝が彼女の手を強引に引っ張ったのだ。

「残念ですね、私の置き土産でしたのに‥‥それでは失礼」

 僅籠はそういうとぱちりと指を鳴らし竜巻と共に姿を晦ます。

「やられたな‥‥」

 巻き起こった風に一同押されて、散りじりに後退する。

「けれど、時間は稼げた筈‥‥あちらさえうまくいっていれば問題ないでしょう」
「そう、ですね」

 取り残されたのは側近の部下のみ。事情を聞き出せないかと縛り上げ拠点に戻るが彼らの口は硬く、果てはどうやって持ち込んだのか毒によって自殺を謀られては聞き様がない。

「これ程の徹底振り‥‥生半可な組織では無さそうね」

 その行動にリーゼロットがぽつりと呟くのだった。


 一夜明けて――役所から正式な取調べが入り地主は窮地に陥る。今までは財力でどうにか凌いでいたらしいが、証拠と貧民街の訴えもあり、もう隠しきれなくなったのだ。

「わしは知らん! ハーレム船なぞ知らん!!」

 天儀での事件も含めて、彼の豚箱行きは決行する。そして、あの側近はと言えば‥‥あの後地主に見切りを付けて姿を消していた。しかも、地主の財産を一部持ち出したようで役所調べの額とは随分と差があったようだ。

「これでラスの願いも解決さね?」

 地主は捕まり、貧民街の人々は助けられた‥‥という事は、確かに彼女との約束は果たした事になる。しかし、当の本人は姿を現さない。あの煙からの脱出で声を聞いて以来、姿を見せないのだ。

「鍋蓋武器はいつになったら見せてもらえるさねぇ〜〜」

 宿屋の一室で新海の空しい叫びが木霊する。彼はまだ天儀に帰れそうにはない。

 そして、蒼馬もお嬢さん達に囲まれて‥‥複数対一人の嬉恥ずかしデートに精を出すのだった。