【罠師】目に見えぬ?
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: シリーズ
EX
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2011/01/15 02:22



■オープニング本文

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「もうそんなに経つんだっけ?」
 実習の終了目前になっての思わぬ自体に、延期を余儀なくされていた最終試験。
 ばたばたしていたとはいえ、ふと気付けばもう年末――帰郷する者もいるだろうし、これ以上延ばす事は出来ない。師匠の提案がうまく行かなかった今、ここは踏ん張り時である。講師として、ちゃんと全てを終わらせられるかどうかは彼のそれにかかっている。
「技術も試せて、それなりの難易度はほしい‥‥か」
 実践を試験にするのはやはり外せない。緊迫感はこの仕事には付いて回るものだ。それを体験していないとあれば、現場に出た時何も出来なくなってしまう。とはいえ、生徒は開拓者であるからそう簡単に物怖じをする事はないだろう。
「そういえばアヤカシに面白いのがいたな」
 ふとそれが過って、キサイの脳裏にみるみるうちに試験内容が構成されていく。
「そうと決まれば、ギルドに情報収集に向かうかな」
 そうして、そそくさと仕度を整えて‥‥彼は丁度いい依頼を発見する。


「お、飛んで火に入る夏の虫‥‥だぜ」
 依頼書の束を捲りつつ、見つけた依頼に思わずにやりと笑う。
 それはあるアヤカシの討伐依頼だった。
「なぁ、この依頼‥‥まだ大丈夫か? 随分出されて時間が経ってるみたいだけど」
 その依頼書を片手に、窓口で手続きに入る。
「少々お待ち下さい‥‥‥と、ありました。大丈夫ですが、少し厄介な事になってますね」
「厄介な事?」
 内容だけを見ていたキサイだったが、よく見ればそこには追加報告がなされている。
「ほら、ここに。一度この依頼を他の方々が受けられているんですが、その方々が行方不明になっているようです。しかも、その後のその付近に行った者の話によれば、その開拓者達はアヤカシ側についているとかで」
「え、まじで。ふ〜〜ん、でもますます最適かもしれねえ」
「はい?」
 その事実を知って、その気になるキサイに受付は訳がわからない。
「いや、こっちの話だ‥‥で、ようはそいつらも一緒にどうにかすればいいって事だろう?」
 にやりと笑って、問い返す彼に若干あたふた気味の受付。
「ええ、まぁ‥‥ただし、彼らは殺さずに捕まえてほしいそうです。操られているのか、それとも自分の意思でアヤカシに力を貸したのか調査するそうなので」
「ふ〜ん、了解。この依頼、俺とその仲間達で引き受けるぜ」
 キサイはそう言って、早速その依頼を受ける手続きに入るのだった。 

 そして――
「‥‥という事で最終試験の相手はアヤカシ。しかも、擬態するタイプの奴だ。どんな姿で現れるかはわからない。もしかしたら、透明ってことも有り得る。相手の出方がわからない以上、なかなか難しいと思うが、そこは今までの力を発揮して切り抜けてくれよな」
 講座終了時に最終試験の概要を皆に通達する。
「後、人数的な問題でこの依頼はギルドにも出してるから追加参加者もいると思うが、協力して宜しく。それと‥‥俺も危なそうなら参加するから、そのつもりで」
 最終試験に講師自らというのは前代未聞であるが、彼はあまり気にしていないようだ。
「それじゃ、発表終わり。今度こそ頑張ろうぜ」
 爽やかにそういうと、彼はその場を後にし自らの道具のメンテナンスに入るのだった。


■参加者一覧
鴇ノ宮 風葉(ia0799
18歳・女・魔
ルオウ(ia2445
14歳・男・サ
和奏(ia8807
17歳・男・志
日御碕・神音(ib0037
18歳・女・吟
アーシャ・エルダー(ib0054
20歳・女・騎
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
琉宇(ib1119
12歳・男・吟


■リプレイ本文

●過信する者

   ざっくざっくざっく

 一歩一歩大地を踏み締めて、森を行く開拓者達――。
 その姿を遠くから確認する瞳がある。
「こんな森にわざわざ出向いてくるとはご苦労な事だ」
「相手は九人‥‥まあ、アレに任せれば大丈夫だろう」
 木々の間に身を潜めながら彼らはそう呟いてその場を離れるのだった。

 そんなやりとりがあったとはつゆ知らず、一行は地図と目撃情報を元に問題の森へと歩を進める。先頭を行くのは、地図を手にしていた志士の和奏(ia8807)だった。予めギルドから借り受けたそれにはきっちり情報も書き込まれている。
「擬態‥‥何かに化けているんでしょうか?」
 辺りを確認しつつ、ゆっくりと進む。
「なあなぁ、罠ってどんな風にはるんだ?」
 そう言って質問しているのはサムライのルオウ(ia2445)だ。今回の依頼では知り合いが多いらしく、緊張感など微塵もない。通常であっても天真爛漫な彼はとりあえず、気になっていた事を同行しているキサイに尋ねている。
「姉さんも応援に駆けつけてくれた事ですし頑張ります」
 その横でそう張り切っているのは今回の依頼が試験となっている弓術師のアイシャ・プレーヴェ(ib0251)――ぐっと拳を握って決意を新たにする。
「そうだな。これまで時間を割いてくれたキサイへの恩返しも込めて、頑張らないとな」
 もう一人の生徒であるシノビのラシュディア(ib0112)も最後とあって気の抜けない面持ちだ。
「ふふっ、頑張ってね」
 それを微笑ましく見守るのはアーシャ・エルダー(ib0054)――アイシャの姉に当たる人物である。
「あ、あそこなんて丁度良さそうだよ」
 そんな中、後方を歩いていた吟遊詩人の琉宇(ib1119)がふと足を止めある場所を指差した。
「ん? そうね。あそこ‥‥いいと思うわ」
 それにつられて視線を向けた先にある痕跡を見つけ、陰陽師の鴇ノ宮風葉(ia0799)が同意する。
「それでは、あそこを野営場所としましょうか〜」
 その提案にもう一人の吟遊詩人・日御碕・神音(ib0037)がにこやかに笑い答えるのだった。


 そして、一行はそれぞれの仕込みに入る。
 手際よくテントを組み立て、琉宇は旗の設置を開始している。
 そんな中で別件で動くのは主に四名――勿論、罠を張る為である。
「ルオウ君、そっちはそれでお願いします」
 用意してきていたのだろうシャベル片手に穴掘りを指示し、本人は弓にロープをつけ木に向け放つ。すると、それは綺麗な放物線を描いて飛んで枝の上を飛び越え地面に落ちる。
「よしっ」
 それで彼女の意図は達せられたようだ。矢を拾ってなにやら結わえ付けている。
「成る程、捕獲系の罠か」
 その作業工程を終始眺めながら、キサイは思う。
(「設置に弓を使う辺り、やっぱりアイシャらしいな」)と――。
 その後の工程も見ておきたい所だが、もう一人にも目を向けなくてはいけない。近くの木に登り辺りを見回せば、目当ての人物はテント付近で地味な作業を繰り返しているようだ。
「よう、やってるな」
 その近くまで早駆し、キサイがラシュディアに声をかける。
「ああ、出来る事はやっておかないと」
 足元だけでなく胸元の高さにも糸を張って、その先には鳴り物の類がぶら下がっているようだ。
「堅実な作戦で行くってところか。お手並み拝見だぜ」
 彼がしばしば見せる悪戯な笑み‥‥その様子に思わずラシュディアも笑顔を浮かべるのだった。


●野外で正月
 星が瞬く寒い夜に、煌々と焚き木を囲んで年始の挨拶が行われる。
 季節は冬――風が吹けば身震いしてしまう程の場所でおせちを囲むのは、アイシャとアーシャ、そして神音の三名である。残りのメンバーはといえば辺りの物陰に潜み、アヤカシないし開拓者らの登場を待つ。
(「きっと来るよね。こんな宴、怪しすぎるもの」)
 この囮作戦の発案者である琉宇が脳裏で呟く。あからさまな罠を見て相手はどう思うか。操られていれば別であるが、そうでなければこの状況、怪しむのが当然であり、そこが彼の狙いでもある。
「ふふふ、もふら様にお酒をお供えしましょう」
 木彫りのもふら相手にアーシャが甘酒を差し出す。
「では、私は一曲演奏いたしましょうか〜」
 そう言って琵琶を取り出し神音が雅な曲を奏で始める。
 野鳥の声と木葉のざわめき――それ位しかないその場所に、流れたそれは否応なしに相手の耳に入る。
「何、騒いでんですかねぇ〜」
 別所でそれを聞いていた開拓者の一人が言う。
「あそこは確か以前俺らがキャンプを張っていた場所だよなあ」
 もう一人もその煙の先を確認し呟く。
「野郎‥‥何しにきたのかはしらねぇが、舐めたまねしてくれるぜ」
 そこへリーダーらしい男も加わって残る人影は二つ。
「おい、相手は開拓者らしいな。となると数では分が悪い‥‥お前行ってこい」
「おれ、いくのか?」
 一際背の高い男がそれに答える。
「ああ、美味しい『ご馳走』になるだろうからな」
「ごちそう? それ、うまいか?」
「さあな。おい、お前も行っとけ。見張りだ」
「へい」
 喜び勇んで出て行く男を横目で見つつ、もう一人を促す。なにやら奇妙な会話だった。


   からからから

 それから暫くの後、テント付近の様子は一変した。
 焚き火付近は明るいが、他は余りにも暗い森の中――ラシュディアの張った鳴子が音を立てたのだ。まだ方向は定まっていないが、何かが近付いてきている事は明らかである。
「どっちだ?」
 開拓者か、アヤカシか。姿が判らない以上判断の使用がない。音が鳴ったのは一度のみ。相手も馬鹿ではないようだ。テント付近には意図的に作った泥濘やら、落ち葉を使った音の出るトラップを仕掛けてある。けれど、そのどちらにもそれらしい兆候は見られない。
「じれったいわね」
 ぼんやりと隠れて様子を見ていた風葉が呟く。
「姿が見えないってのは厄介だぜ」
 その横には同じくサポートの為隠れているルオウが苦々しく言う。
「神音さん、あれを」
 そんな状況を打破すべく、琉宇が合図を送ると神音はこくりと頷き再び琵琶を手に取った。そして、奏でるのは音のない旋律――正確にはアヤカシにだけ届く音色で相手の出方を待つ。琉宇はそれとは逆に手にしたバイオリンを構えゆったりとした曲を紡いでいた。先ほどとは違い、森には高音の緩やかな音色が響き渡る。
「なんだ、いきなり?」
 見張りをまかされた男はその変調に怪しみを感じずにはいられない。鳴子で位置を知られたかと思ったが、まだ勘繰られていないようだ。けれど、こっちを意識してきているのは確かである。
(「能無しはコレだから困る」)
 あんなちゃちな罠に掛かった大男をチラリと見て男は思う。しかし、こればかりは仕方が無いのかもしれない。なぜなら彼は‥‥。
「おい、大丈夫か?」
 そう言って先行する彼に話しかけるが、男は全く答えようとせず、ただぼーーと立ち尽くすのみで返事を返さない。
「おいきいて‥‥っておわぁぁ!!」
 近寄りかけた矢先に、男が動いた。
 ぐにょりと体を曲げ、一瞬にして人程の大きさの兎に変化している。
「い、いきなり変わるんじゃねぇよ」
 何度見ても気持ちのいいものではなかった。けれど、これがこいつの本来の姿なのだ。男の動揺を余所に、兎になったアヤカシは耳を激しく動かし何かを探る仕草を見せている。

「どこだ? ここ、おれのなわばり」
 怪の遠吠えを聴いて同種の敵が現れたのだと悟り、必死でその声の出所を探るアヤカシ。そして出所を突き止めると、一目散に走り出す。前足で大きく大地を蹴って、一跳びで恐ろしい距離を稼ぐ。
「あっおい!!」
 見張りがそう叫んだが、彼にはもうその言葉は届かなかった。


●接触

   がさがさがさ

「来ます!!」
 姿を動物に変えたからか、はたまた遠吠えの影響か。音が鳴ろうとお構いなしに駆けて来るアヤカシに皆が身構える。
「神音さん、お手柄です!」
「ありがとう〜」
 和奏の言葉に手を振る神音。どこまでもマイペースな彼女‥‥でか兎が接近しようともその場を離れない。琵琶を優雅に弾き続ける。後数メートルでぶつかると思ったが、
「甘いわ!」
 サポート班の風葉が結界呪符によって壁を作り手前で奴を弾き飛ばす。これにはさすがのアヤカシも対応できず。頭を打ち付け、軽い脳震盪を起こしているようだ。
「こっちだ、化け兎!!」
 そこへ空かさずルオウの咆哮――至近距離とあって大きな耳にはその声が木霊し、ぴくりと反応を示す。
「そこです!」
 その一瞬をついて、別の場所から飛び出したのは和奏だ。刀をきらりと輝かせて、スキル雪折が兎の身体を捕えようとする。だがそこでアヤカシも意地を見せた。かわせないと見るや、攻撃でそれを相殺にかかる。目を輝かせると同時に、周囲に鋭い風が吹き抜けた。それは鎌鼬と違い、波動のように進み全周に展開されている。
「だんちょー!!」
 その輪が風葉に向かうのを見取って、ルオウは彼女を弾き飛ばした。その代わりに、彼の肩を風が掠める。
「ちょっと、大丈夫!!」
 思わぬ事態に驚く彼女。だが、彼は無事のようだった。服が破れた程度で出血には至っていない。
「へへへっ、どんたもんだい!」
 にかっと笑い返す彼にでこぴんを返す風葉。内心はほっとしているのだが、やはり素直にそれを表現するのに照れがあるようだ。その間例のアヤカシはと言えば、自分に有利に体を変化させ始めていた。彼らに見えないように、色を落としつつ人型に変化させてゆく。
「させません!」
 だが、それを許す彼らではなかった。情報を知った時からそれなりの対策は立ててきている。ラシュディアは懐から竹筒を取り出し、そのアヤカシ目掛けて投げつける。そして間髪入れず飛苦無を投げれば竹筒は割れ、中から鮮やかな染料が流れ出す。
「擬態敗れたり」
 どれだけ姿を変えようとも、その染料が目印になる。意図した事がうまくいって、彼の口元に浮かぶ微笑。
「もらったわっ!」
 そこへ風葉の蛇神が絡みつき、アヤカシは動きを止めざるおえなかった。
「う、うう‥‥」
 締まる身体に人並みの苦悶の声――変体しようにも思うようにならず、度重なる変体に力を消耗したのか、人間の形を保っていられないようで色が落ちのっぺらな人型になってゆく。
「さ、言いなさい! 人間の仲間は何処!」
 更にぎゅっと締め付けて風葉が問う。
「まぁまぁ風葉様、ここは穏やかに〜」
 とそこへ割って入ったのは神音だった。
「あなたおしゃべりできるのね〜、なら私達のような人がここに来たでしょう〜? その方達はいま何処かしら‥‥話して頂けますか〜?」
 おっとりまったり落ち着いた様子でアヤカシに聞く。
「あいつら、おまえらのなかまか? えさ、くれるひとちがうのか」
『えっ‥‥』
 その意外な言葉に一同顔を見合わせる。
「餌って‥‥あなたまさか」

   がさっ

 その時、後方の叢が音を立てた。
「誰!!」
 それを聞いて走り出したアーシャを琉宇が援護する。再びバイオリンを掲げ、今度は安らぎの旋律――眠りを誘う夜の子守唄である。ひき始めてから僅か数分で、遠くでどさりと倒れる音。どうやらうまくいったらしい。
「連れて参りました」
 眠りこけたままの男を連れて、アーシャが戻る。
「こ、ここは?」
 目覚めた男を囲んで見つめる瞳――その状況に気付いて、男の額に汗が流れる。
「さぁ、どういうワケなのか教えてくださいな♪」
 ごきごきと拳を鳴らしながら、アーシャの顔が笑っていた。


●真相と結果
「帰ってこねぇな」
 出て行ったきり朝を迎えて、残りの三人が言葉する。
「あのアヤカシ相手に‥‥となると俺らじゃ敵わないかも」
 そんな中で弱音を吐く一人にきっと睨みを利かすリーダー。
 しかし、内心同様の想いを抱えていたりする。
「兄貴ぃ〜〜」
 ――とそこへ問題の男の声が木霊した。
 実は彼ら現在洞窟の中を拠点としているのだが、その声は入口側からのものだ。
「おい、なにしてやがっ」
 一人が立ち上がってそちらに向かったその直後、彼はふっと姿を消す。
 それを目の当たりにしてリーダーが息を飲む。もう一人など瞬きを繰り返しているばかりだ。
「何があっ‥‥あーーーーーー」
 今度は二人で恐る恐る近付いた彼らだったが、状況を察した時には既に遅かった。
 入口の上部に吊るされているのはさっきの一人。どうやら夜のうちに仕掛けられた罠に掛かったらしい。それを見つけた時には地面の感触はなく、代わりに深い穴が存在し彼らは闇へと誘われる。
「二名様ご案内ですね」
「これ掘るの大変だったんだからな」
 平然と答える和奏に自慢するルオウ。
「作戦は私のです」
 ――とこれはアイシャだ。アヤカシ相手に罠を発揮できなかった手前どうしてもと、聞き出したアジト前に彼女が製作したものだ。勿論、仲間も手伝っている。
「よくできました」
 その功績にアーシャが拍手を送る。
「さて、話はあの方から聞きました。アヤカシを手懐けて悪事を働こうと考えるとは‥‥けれど、もう少し考えるべきでした。あなた方を捜索に来る者がいるとは思わなかったんですか?」
 和奏が呆れた顔で問う。
「そんなもん、アイツが‥‥ってそういやあのアヤカシは!」
 必死に辺りを見回すが、勿論それが近くにいる筈も無い。
「残念ながら自分らが討伐させて頂きました。子供のような知能だからと言ってほおってはおけませんからね」
「くそぅ」
 その言葉に舌打ちをして男が悔しがる。
 結局、この事件の真相はそういうことだった。
 アヤカシを利用しようとした開拓者と利用されている事に気付かなかったアヤカシ――透明にもなれるとあって、強盗等に利用しようと考えていたらしいが、なかなかここを離れないアヤカシの説得に時間がかかっていたのだと言う。
「全く呆れた話だぜ」
 出番の無かったキサイはそれを聞き溜息を付くのだった。


「あの、試験結果は?」
 問題の開拓者を引き渡して、罠師の屋敷前でそわそわとした様子のアイシャが尋ねる。
「ああ、勿論合格。事件解決、一件落着だからな。あぁ〜とこれが終了の証だ」
 そう言って少し歪な字で書かれた紙を差し出した。
「ラシュディアもお疲れ。俺みたいな講師で遣り辛かったかもしれないが、楽しかったぜ」
 屈託の無い笑顔でそう言って、終了証と共に工具が手渡される。
「これは?」
「まぁ記念品だ。もしかしたら売り出すかもだけど‥‥うちの里で作られてるものだから、丈夫だし何かの役に立つ事請け合いだぜ」
 それは忍びのアイテム――ツボキリという代物である。
「俺も貰ったんだ‥‥師匠から。アイシャにはシロコだ。使ってくれな」
「ああ、ありがとう」
「ありがとうございます」
 それを受け取り二人が想いを噛み締める。
「今度は本家の依頼で会おうぜ」
 キサイはそう言って、ぱんっと背を押し二人を見送る。
「まだまだだな。俺も‥‥」
 今回の事を振り返って、キサイはそう呟くのだった。