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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「ん〜〜引き受けたからにはちゃんとやらないと駄目だろうなぁ」 トラップハウスを潜り抜けてキサイの元に到達した開拓者達――。 一応トラップハウスの仕掛けには罠師で重要だと思う事を散りばめておいたのだが、それが伝わっていたかどうか気になりつつも、一週間後の講習開始に向けて何か用意しなくてはと気が焦る。 しかし、講習といったところで一体何から教えたらよいのやら。 いざ、教えるとなると思案に暮れるキサイである。 「仕方ない、師匠に聞くか」 半ば無理矢理押し付けられて、勝手な行動に出た手前‥‥あまり気が進まないのだが、このままでは余計に迷惑をかけてしまうと思い直して重い腰を上げる。 「師匠、少し相談が‥‥」 そう言って師の部屋を訪れたキサイだったが、目の前にいた師の姿を見取り一瞬目を疑った。 「あ、あの‥‥師匠? その怪我は??」 上から下まで包帯に身を包んだ師の姿。いつの間にそんな怪我を負ったのだろうか。 大きな仕事があると聞いていなかった彼に疑問が募る。 「あぁ、これか。仮装だよ、仮装」 「はぁ?」 「なんでもハロウィーンとかいう催しがあるとかで発注したのだ」 「はぁ‥‥」 「ん? どうした‥‥で、相談とは?」 とぼけた姿の師を前にただただ言葉を失くす彼。 こんな師に相談するのは如何なものか。たとえ腕は確かでもどこか納得がいかない。 「‥‥いえ、もう結構です」 色々いいたい事はあったが、それを押し留めてキサイは再び家へと戻る。 『全くあの人は何を考えているんだか‥‥』 こちらの心中も知らずに‥‥真面目に考えていた自分がバカらしく思える。 「あぁ〜〜もう、俺はこういうの苦手なんだよなぁ〜」 一頻りに頭を掻いて、ふと自分に置き換えて考えてみる。 自分が修行時代どう思っていたか。何がやっていて楽しかったかを――。 それを振り返って、彼の中に徐々にではあるが内容が固まり始める。 そして――、 「うっし、これでいくか」 暫く考えた彼が出した一つの答え――。とにもかくにも実習が一番ではないかと彼は思う。 「そうと決まれば、連絡連絡‥‥」 講習の内容が決まった事をとりあえず募集の項目に追加記載し、彼は当日を待つ。 何を思ったか、師と同様に頭に包帯を巻き、利き腕には三角巾をかけた恰好で‥‥。 「さて、常備完了だ」 それはちょっとした好奇心‥‥。 キサイは自分の姿を前にし、参加者がどうでるかを楽しみにしているようだった。 |
■参加者一覧
暮穂(ia5321)
21歳・女・シ
ラシュディア(ib0112)
23歳・男・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251)
20歳・女・弓
桂杏(ib4111)
21歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●始まっていた講習 「わわ! 師匠、どうしたんですか!?」 罠師講習一日目―― 講師であるキサイの姿を見て、彼の前に駆け寄るアイシャ・プレーヴェ(ib0251)。 彼の見た目といえば怪我人同然‥‥頭と腕に包帯が巻かれ、苦笑を浮かべている。 「役目で何か大失敗、的な?」 そんな彼を遠巻きに見ているのは暮穂(ia5321)だった。一流であるのに、しかも仕事前に怪我とはと呆れているのかもしれない。相手が仮にも講師であるというのに、言葉遣いはタメに等しいが、さしてキサイは気にしない。 そして残りの二人はといえば、彼のそれには興味さえ示していないようだ。 「実習からなのですね‥‥知識だけでなく体で覚えるのが開拓者らしいかもしれませんが、なんだか唐突な気がします」 何も教わっていないのにどうしろと‥‥多分、そう思っているに違いない。 「やっぱり無茶だったか‥‥。俺はいけると思ってるんだけどな」 自由の利く左手で後頭部を掻いてキサイが言う。 「師匠が実習‥‥お好きだったとお聞きしましたが、では反対に一番嫌いだった修行は何だったんですか?」 あまり表情を変えずに問うのは桂杏(ib4111)。 「そりゃ、勿論火薬を使った罠制作だよ。一つ間違えば『どかん』だからなっ。後、理論も余り好きじゃなかったかも‥‥」 「理論‥‥ですか」 でもそれを知らなければ何も出来ないのでは?と思う彼女であるが、控えめな為そこまで深くは立ち入ろうとしない。 「こっちは職がかかってるだけど、まだ始めないのか?」 ――とそこへ声をかけたのは、ラシュディア(ib0112)だった。 「実はもう始まってたりするんだぜ」 そんな彼にキサイはにやりと笑い、みんなをトラップハウスに誘導する。 そして、トラップハウス居間にて罠の基本について講習を始めるキサイ。 「まず初めに、俺の姿‥‥それを見て普通の反応だったが、それ自体がもうアウトだ」 唐突な物言いに意味が判らず、一同顔を見合す。 「つまりだ。罠師を目指すなら‥‥いや、罠師でなくてもそうだろうけど、全てのものを疑って掛からないと駄目だ。なぜ、講師の俺がわざわざこんな恰好してると思うよ? もちっといい反応があるかと思ってたが、残念だぜ‥‥」 三角巾をばっと外し包帯をとれば、そこには傷一つない。 「いいか? 罠なんてのは相手と自分の騙し合いみたいなもんだ。怪しいものにだけ注意してればいいって訳じゃない。怪しくなくても疑う。ただ、その疑いが行き過ぎるとまた相手の策にはまる。ここの匙加減が難しいんだ。けど、そういうのは慣れるしかないから、まずは仕掛ける側になって、仕掛ける側の心理を知ると共に回避する能力を養う為、実習をする事にした。人数も少ないし、急遽個人戦で行く事にするから、籤引いてくれ」 徐に番号を書いた木の枝を取り出し、引かせる彼。 「明日設置して、明後日開始だ。設置に関して判らないところがあれば上空巡回するから呼んでくれ。相手にネタがばれないよう、道は距離をおいておくから問題ないからなっ」 かくて、彼はトラップハウスの簡単な罠を例に解説を終え、各自罠合戦の準備に入るのだった。 ●四種四様 はてさて、罠合戦の蓋を開けてみれば意外な事に一番乗りで戻って来たのは弓術師のアイシャだった。なぜ彼女が一番だったかは、また後で語るとして籤で決まった道は後述の通り。暮穂の道をアイシャが、ラシュディアの道を桂杏が、アイシャの道をラシュディアが、桂杏の道を暮穂が進む。予め個人にどんな罠を仕掛けたいのかを聞いて、それに伴い最適な環境の道をキサイはそれぞれに割り当てている。勿論ゴールとなる場所までの距離は直線で同じになるよう計算し公平を期していた。 「さてっ、じゃあ準備はいいか?」 相棒の猛者に跨り、上空から合図を送る彼。四人は下で各自それを見つめている。 「それじゃあ、開始っ!!」 手にした発煙筒に着火し掲げれば、一斉に四人が動き出す。それぞれやはり慎重になっているようで、歩みは遅い。皆前進を始めるかと思われたが、ただ一人脱線する人影――ラシュディアである。 「お‥‥あいつやるつもりだな」 それを見取ってキサイは楽しげに傍観に入るのだった。 桂杏は注意していた‥‥特に足元を。 もちろん高い位置にも気を配り、バランスを大事に進んでゆく。 (「来ましたね」) 前方にはあからさまな形跡。落とし穴を作る際に見受けられる土の変化‥‥それを隠すようにしているが、判断は容易い。そして、その近くには糸が張り巡らされているようで、迂闊に近づけない。 (「どちらが本命でしょうか? それともどちらもダミー?」) 他の道はないかと見回すと、少し迂回すれば道はあるのだが、そちらは背の高い草が多く、足元がはっきりしない為油断出来ない。 「ええい、ままよ」 そう思い、その草地に踏み込む彼女。 すると、途端に別方向の茂みが音をたて何かが崩れるような音がする。 「何か踏んだ? やはり、あの道を行くべきでしょうか?」 踏み込んだ足をさっと戻してさっきの道へと引き返す。 (「駆引‥‥と言われたからには、頑張らないとな。第一段階成功か」) そんな彼女を少し離れた所から見取って、ラシュディアは自分の道へと戻っていく。 彼が脱線した理由――それは手動で罠を発動させる事にあった。時間はロスしてしまうが、これをする事で相手の疑念を誘い前に進む速度を遅らせようと考えたのだ。 落とし穴前に向った桂杏は再び思案しつつも前へと歩を進める。――が、その歩みはかなり慎重だ。頭上の糸にかからないようそっちに視線が集中する。 ぷつんっ ――と、それが命取りだった。うっかり膝元に張られていた細い糸に足を取られ、つんのめる。その先には再び荒らしたような地面――けれど、そこは開拓者。一般人なら対応できなかっただろうが、彼女は片手を付いて回避し、先へと着地する。――が、 「え、崩れないの‥‥ってきゃあ!」 手を付いた場所はダミーでその先に本物が。先の先を行く真偽織り交ぜた罠の配置に翻弄される桂杏だった。 一方その頃、ラシュディアはと言えばやっと本線に戻っていた。 「俺と同じ考えかな?」 散らされた落ち葉を前に彼が呟く。確かに彼とアイシャの仕掛けている罠のタイプは似ているようだ。散らしたその先に目を凝らせば、足掛け用に草を結んで作った罠が見え隠れしている。 「甘いね、その手には乗らないよ」 それを発見し、自分と同様足止め目的と察した彼。その道を迂回せず、進んでいこうと試みる。すると、ここでも茂みが揺れて、はっとする彼。 「つくづく似てるなぁ〜、アイシャ。残念だけど俺には無駄だよ」 そう言ってその茂みに近寄れば、しかしそこにアイシャの姿はなかった。 代わり足に糸を結わえられた兎が一匹。糸は草の根元と結ばれており、それによってがさがさ揺れていたようだ。 「成程。面白い仕掛けだ」 それを純粋に褒める彼。少し先には再び心理的罠が待ち受けている。 それは、頭上から垂れた一本の紐‥‥それを辿れば、木の上の桶に繋がっている。大方、何か入っているに違いない。 「触らぬ神に祟りなし‥‥って待てよ。もしかして」 自分だったらどうするか。これ程判りやすい仕掛けもない。気を上に引きつけておいての足元注意。下に何かあるかもしれない。 「さて、どうしようか?」 思案を始める彼であった。 「お、あいつ割と大胆だな」 そんな二人と違い、急がず騒がずずんずん進んでいく暮穂に感心するキサイ。 桂杏の罠がシンプルだったという事もあるが、それにしても罠を恐れずに前へと進む彼女。道の両側の木には荒縄がかけられている為、彼女はそこを切り開こうとはせず、与えられた道を進む事を決めているようだ。ただし、自分が仕掛けた罠に類似するものがあれば回避しようと、やはり足元には細心の注意を払っている。 「あの罠にアイシャさん‥‥かかってくれるかしら?」 実際のところ、彼女はこの勝敗よりも自分の罠への関心の方が強いらしい。 彼女のコースを行く事になったアイシャを思っているようだ。 「ん? あれはまさしく撒菱地帯」 それに気付いてはたと足を止める。草の陰になっているようだが、あまり隠しもせずばら巻かれた撒菱はどう見ても怪しい。 「上に何かしらの仕掛けがありそうだけど、下はこれ‥‥跳び越えるのが一番かしら」 撒菱が撒かれているのはせいぜい数メートル。うまく回避しながら進めば、あっという間である。 (「よし、行ってみましょう」) 相手の罠を楽しむのもいいだろう。正面突破を試みる。身軽な動きで跳び跳びに突破すれば、その先に待つのは――。 しゅたっ ずぼっ 浅めの落とし穴だった。 それに足を取られて落下すれば、中にはご丁寧に白い粉が撒かれている。 「げほげほ‥‥なかなかやるわね、桂杏さん‥‥」 粉を払いながらも立ち上り、再び遭遇する撒菱地帯。こうなっては、もう警戒せざる負えない。辺りを見回すと先程と同じような風景が広がっているから尚更である。 「まさか、先程と同じパターンでしょうか? いえ、でも‥‥そんな事って‥‥」 首を傾げて考える彼女だったが、 「正面から楽しむと決めたじゃない。私は行くわ」 そう自分に言い聞かせ、再び撒菱地帯に踏み込む彼女。 けれど、気持ちとは裏腹に身体はまだ動こうとはしていないようだった。 そして、そんな彼女の作った道を進むアイシャは誰よりも慎重だった。 開始直後に手頃な長さの枝を見つけ、それを棒代わりにして地面を突きながら進んでいく。勿論、辺り一帯彼女の視線の高さにあるものを常に確認して一歩一歩丁寧な作業が続く。 「相手は皆さんシノビ‥‥慎重に行かなくては」 本職でない以上、何が起こるか判らない。警戒心が一層強くなっているようだ。 「しかし‥‥これはなんとも‥‥」 彼女が苦笑するその訳は、足元の草にあった。そこやかしこに結び草のトラップを仕掛けられており、かれこれもう数十分はその地帯を歩いているからだ。ゆっくり歩いているおかげでひっかかる事はないのだが、その数といったら‥‥数え出したらキリがない。設置にも相当な時間がかかったであろう事が予想される。 草地を抜けてもその作戦は続いていた。質より量を‥‥今度は、つんのめる程度の深さの落とし穴が無数に存在。幸い、棒のおかげでこちらも回避しているが、面倒な事この上ない。 (「なかなかに根気のある方なんですね、暮穂さんって‥‥」) そんなことを思いながらふと上を見上げれば、木が重なるように結わえられている。 「あら、あそこにも罠‥‥でしたか」 もし、彼女がシノビであったなら枝伝いに跳び進む事も考えただろうが、職業上そんなアクロバティックな動きをする筈もなく、ひたすらな作業を続ける。 そうして、次に出くわしたのは池のほとり。ゴールまでは後少しである。 「最後の難関でしょうか? 時に悪魔の様に‥‥時に天使の様に‥‥」 池に何か仕掛けがあるか確めたいところであるが、ここはどうすべきか思案に暮れる所である。あれだけ執拗に数で攻めてきた暮穂だ。ここで何もない筈がない。 「とりあえずそれっ」 そこで彼女は周囲を突いて調べた後、手にした棒を池へと投げ込んだ。けれど、その棒は音を立てて落ちただけで、ぷかりと浮き上がり何も起こる様子がない。 「何もないみたいですね‥‥ここは自分を信じていきましょう」 迷いを見せ始めた心を正して、彼女は池を通過する。 そう、そこには本当に何もなかった。裏の裏、今までの事があるからと猜疑心を誘う罠であったが、彼女の地道な調査によりそれは看破されたしまったようだ。 そうして、進めばゴールとなる丘の上に相棒と共に立つキサイの姿がある。 「結局、地道に行ったアイツがトップか」 他のメンバーに目をやれば、こちらに向ってはいるが歩を止めていた時間が長かったようで彼女には少し及ばない。 「あれ、あたしが一番?」 驚く彼女を前に、キサイは終了を告げる発煙筒を打ち上げるのだった。 ●考察と結論 「どうだったよ、お互いの罠道通った感想は?」 トラップハウスに戻って来たメンバーを前にキサイが尋ねる。 「意外です、アイシャさんが一番だなんて」 「まぁ、相性もあるよな‥‥罠との」 「私の罠を潜り抜けるなんて‥‥」 「まぐれです、きっと」 口々に感想言い合うメンバーにとりあえずの成功を確信するキサイ。 「まぐれなんかじゃないぜ、皆、俺が何も言わなくてもちゃんと要点を抑えて行動してたと思う。ただ、今回のは競争だっていう概念があったからそっちに気をとられてたんじゃないか?? その考えの差がこの結果だと思うぜ」 「概念‥‥ですか?」 暮穂が首を傾げ繰り返す。 「あぁ、おまえ結構大胆に進んでたよな。けど、あれが出来たのは実習だからだろ? あれがもし遺跡だったらどうだ? 同じように進む自信はあるか?」 「それは‥‥」 楽しむ為‥‥多少の罠には立ち向かう姿勢だった彼女だ。けれど、命をかける立場ではそれが出来るかと言えば答えは――。 「つまり、警戒はしてても実際目や聴覚だけで察知出来るのはたかが知れてる。面倒でも、時間がかかっても確実に罠にかからないようにするには、全ての感覚を研ぎ澄ます事が重要なんだ。初めにも言ったろ。怪しくなくても疑えって」 「けれど、考え過ぎては動けなくなります」 それに言葉したのはラシュディア。実習でそれに陥っていた一人である。 「そうだな、じゃあどうするか。予想がつくタイプの罠なら発動させてみるのも一つの手だ。ただし、自分で行かない事」 「では、どうするんですか?」 「今回の場合なら、辺りに生き物がいる。それを使う手がある‥‥ちょっと可哀想な気もするがな。自分の命を持ってかれるよりマシだろう。後は、石を投げたり、アイシャのように棒で突いたりしてみる事だ。大概、何かしらの形跡ないし、簡単なものなら発動してくれるからな」 そう言ってにやりと少年のように笑う。 「あ、数で攻めてる奴がいたがアレはなかなか大変だし見つかりやすいからおススメ出来ないぜ。罠師志望って訳じゃないと思うからいいが、数が多ければ多い程跡も残る。後々の処理が大変なんだ‥‥一流はやらねぇ」 いかに形跡を残さず処理するか。脱線になるが、罠師の彼らは暗殺なども請け負う為意外と重要らしい。 「とにかく相手を読む力は皆あると思う。ただ、もう一歩先を見れるといいな。裏の裏の裏を‥‥これから三週間は各種罠の発見方法ないし解除の手順を教えていくから、覚悟してくれよなっ」 腰のポーチから工具を取り出し、キサイはそう告げて本日の授業は終了。 実践での最終課題に向けて、彼の真面目な授業が始まるのだった。 |