【罠師】入門への道
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/10/02 03:35



■オープニング本文

「あぁ? やっと遺跡の調査が落ち着いたと思ったら、次はこれかよ‥‥」
 栢山遺跡での罠の解除をひたすらこなしてきたシノビのキサイの元に新たな手紙――
 いや命令ともとれる書簡が届いたのはつい先程の事だった。
 未だ未知の部分も多い遺跡ではあるが開門の宝珠を見つけ出し新大陸発見と話は進み、こちらの調査と言えばある程度の落ち着きをみせている。とはいえ、遺跡の全貌を明らかにする為、日夜どこかしらのグループが出入りを繰り返している事に変わりはない。
 そんな中でやっと手に入れた休息の時間‥‥。
 シノビなどは命があれば二十四時間営業とはいえ、彼も一応人間である。
「あぁ〜面倒だなぁ〜。俺が指導者? 冗談きついって」
 書簡の内容――それは開拓者への罠に対する指導と耐性および解除の技術を教えろというものだった。しかし、これはある意味罠師にとっては致命傷になりかねない。手品師にタネを明かせといっているようなものだ。
 それに、彼はまだ二十歳を過ぎたばかり‥‥どれだけ名門の出とはいえ、少々の難があるのではないか。自分の力量は決して低くないと自負出来る彼であるが、こういう時は嘘も方便。その線で断ろうと考える彼である。
 だが、彼の師の意見は違っていた。

「いいんじゃないか、受ければ」
 普段の会話と同じ口調で、さも重要ではなさげにそう言ってのける。
「ちょっ、わかってんのか! 代々受け継いできた技術をそんなあっさり教えちまっていいのかよ!」
 落ち着いた面持ちの師に対し、てっきり同意してくれるものだとばかり思っていたキサイは動揺する。
「おまえこそ、何か勘違いしていないか? どこにも全てを曝け出せとは書いていないだろう‥‥基本の基本でいいんだよ。とにかく遺跡調査の際にいち早くそれを察知出来、尚且つ解除出来る人間がほしいと、そう上は言っているだけだ。おまえだってここ一ヶ月働きづめで疲れただろう? もし、お前のような存在が増えたら楽だと思うぞ。週五が週三になれば注意力が落ちる事もない。毎回ベストな状態で仕事にあたれるんだからな」
 キサイに喋る余裕を与えず一息にそこまで言って、師は含みのある微笑を浮かべてみせる。
「けど‥‥結局それでは俺らの仕事が」
「減るとでも? なら、新しいものの開発の励めばいい‥‥そうして、罠師の技量が上がっていくなら良い事だと思うが?」
 あまり納得のいかないキサイであったが、これ以上この話を続けても平行線を辿りそうだと思い、彼はそこで話を切り上げる。
「キサイ、受けるんだ‥‥いいな」
 背を向け立ち去ろうとした際に師の言いつけた言葉――。
 その声は仕事時の有無を言わせない絶対的なもので、やむなく彼は首を縦に振る。
(「全く‥‥何考えてんだか」)
 そう思っていても、それを言葉には出せない。
(「だが、俺のやり方でやらせてもらうからな‥‥」)
 口元を少し釣り上げて、悪戯な笑みを作ると彼は早速準備に取り掛かる。

 トラップハウス――からくり屋敷ともいえるその場所は、彼ら罠師の試練の場。
 彼はそこに簡単な罠を仕掛けて入門者を待つ事にする。
「その力量、試させてもらうぜ」
 その屋敷のどこかで彼がそう一人ごちた。


■参加者一覧
無月 幻十郎(ia0102
26歳・男・サ
朧楼月 天忌(ia0291
23歳・男・サ
暮穂(ia5321
21歳・女・シ
ラシュディア(ib0112
23歳・男・騎
アイシャ・プレーヴェ(ib0251
20歳・女・弓
桂杏(ib4111
21歳・女・シ


■リプレイ本文

●集まった挑戦者
「はっは〜ここがそうか、楽しみだねぇ〜」
 ギルドの募集の記事を見て興味を持ったのは計六名。
 キサイの指定した屋敷を前に感想を漏らすはサムライの無月幻十郎(ia0102)。おのおの理由は違えど、罠師という職業に興味を持った事に変わりはない。ある者は、食べていく為の職として、またある者は今後の依頼を有利に進める為、そしてまたある者は己の技術の向上の為。この場を訪れたのである。
「まずは周囲を確認いたしましょう」
 皆が集まったのをきっかけに早速計測に入ったのはシノビの暮穂(ia5321)だ。中がどうなっているかがわからない以上、広さを把握しておく事が自分の位置を確認する為の手掛かりとなる。
「なら、我輩がメモしておこうか」
 そう言って手帳を取り出し、幻十郎が付き添う。
「成程、歩幅を使って計測と言う訳か」
 それをじっと見つめるは、サムライの朧楼月天忌(ia0291)だった。腕っ節だけでここまで来たのだが、このままではいけないと感じたらしい。
「罠師! 素晴らしい響きです」
 ――とその横では、弓術師のアイシャ・プレーヴェ(ib0251)が目を輝かせている。悪戯好きらしく、この試練で得た知識をそちらに回そうと考えているのかもしれない。
「六人‥‥か。数が少ないようだが‥‥個性派揃いかもな」
 そんな彼らを見下ろして、ある部屋でキサイはそう呟いた。


 結局、屋敷周囲には目立つ仕掛けはなかった。
 床下などを覗いてみたのだが、特に不審な点は見当たらない。所々に侵入妨害の落とし穴が仕掛けられていたのだが、さすがにその位を回避出来ない開拓者ではない。落とし穴の性質上、完全に隠す事など不可能であり、何らかの証拠が残ってしまう為少し気を付けていれば発見するのは意外に容易い。
「それでは、参りましょう」
 そう言って、玄関の扉を慎重に開く桂杏(ib4111)。ガララララッと音を立てて開けた先――彼らを待っていたのは、長い廊下だった。そして、少し奥の左右にはいくつかの障子戸が見える。
「まずは、俺らが先行する」
 そう言ってシノビのラシュディア(ib0112)と桂杏が廊下へ踏み出す。壁に手をつき、何かないか調べながら‥‥思いの他、時間のかかる作業であるが仕方ない。そんな中、殿にいるアイシャが入ると同時に聴こえた機械音。音の方を見やれば、廊下の先から小さな人形が姿を現す。
「一体、何のつもりだ?」
 先行組の間をすり抜けて、やってきたのは一体の茶運び人形。両手を前に盆の上には、湯飲みが載せられている。そして、丁度彼らの真ん中でその人形は停止した。
「ん、何かしら?」
 後ろから覗き込む形でアイシャが湯飲みを見つめ問う。
「手紙‥‥か?」
 それを目に手を伸ばす天忌。
「待て。それも罠かもしれん」
 それを幻十郎が静止した。
「それを抜いたら重さが変わって何か発動‥‥なんて事もあるかもしれんしな」
 用心深くそれを見つめ言う。
「確かに。しかし、このままというのは」
 それは彼ら宛に贈られたものだ。何かのヒントかもしれない。
「では、私が」
 そう言って忍眼を発動したのは暮穂だった。普段よりも注意力を上げ、何かないか探る。
「胸の辺りに小さな穴があるようです。それ以外は普通かと」
 ふっと集中を解いてそう告げる。
「あぁ、わかった」
 それを聞き紙を引き抜く天忌である。

   かたんっ

 すると、案の定紙を取ったと同時に仕掛けが発動。濛々と白い煙が噴き出し、あっという間に視界を奪ってゆく。
「よっよくわからねぇ〜が、一旦出ようぜっ」
 このままでは調査等不可能。未開の部分に逃げ込む訳にはいかず、入って早々振り出しに戻される一行であった。


●疑う心
「さて‥‥これをどう取るか‥‥」
 玄関に舞い戻った一行を悩ます紙――それは勿論さっきの茶運び人形のものである。
「怪しいと思います」
 その内容を前に桂杏が言う。
「まさか、こんなものを贈ってくるとは‥‥物理的なものしか考えてなかったが、参ったね‥‥」
 そう言って頭を抱えたのは幻十郎だ。
「どう見ても配置図ですよね、これ」
 紙の内容‥‥それはこの屋敷の見取り図であり、なんとご丁寧に罠の配置まで事細かに記されたものだった。
「屋敷周囲の落とし穴の位置‥‥これと同じでした」
 メモを確認しながらこれは暮穂。
「だからと言って中もその通りとは限らないでしょう」
 相手は罠師だ。早々に手の内を曝け出すとは思えない。
「けど、もしかしてもしかしたらって事も考えられるよね?」
 と、これはアイシャの言い分だ。本物か否か‥‥かれこれ数十分は悩んでいる一行である。
 そんな中で、一人違う問題で頭を抱えていたのは天忌だった。
(「俺らは一体何しに来てんだか‥‥」)
 屋敷を前に、そんな事を一人ごちる。
「あのよ〜」
 そしてついに、彼が重い口を開いた。
「俺はあんまこの手の事に詳しくねぇが、この地図ってそんなに重要か?」
『え‥‥』
 その言葉に思わず視線が集まる。
「だって、地図ですよ。これが本物なら難なくキサイさんの下に行ける訳で必よぅ‥‥」
 そう言いかけた暮穂であるが、何かを悟ったようで言葉が続かない。
「あはは、そうか。やられたね‥‥成程、全くいい性格してるよ、キサイって人は」
 ラシュディアも悟ったらしく、苦笑してみせる。
「ん? 俺何か言ったか?」
 気付かせた本人なのだが、キサイの名に不思議顔だ。
「つまり‥‥この地図自体が罠だったって事です。なんで気付かないかなぁ〜、まんまとはめられたみたいだ」
 たった一枚の紙切れに仕掛けられた罠――それは単純な事だった。全てに疑いを張り巡らせてしまう状況下だからこそ、かかってしまう心理トリック。人の心を利用し巧みに操る‥‥手の内を明かす事で相手に疑わせ、疑心を募らせ動けなくする――それがキサイの仕掛けた罠だった。目的はあくまで屋敷の攻略であり、この紙の真偽ではないはずだ。
「そうですね。進まないと意味がないわ。これがどうあれ、関係ないです」
 それに皆も気づいて、近くにいたアイシャがくしゃりと紙を握り潰す。
「へぇ、第一関門突破か‥‥」
 そんな彼らを見て、キサイが楽しげに呟いた。


●紐
 先程同様シノビの二人が先行して、小さな仕掛けは回避。うっかり発動させても、その都度後続がフォローに回り、現在大事には至っていない。そして、粗方一階を探索し終えて、行き当たったのは一つの部屋。
「また、これもあからさまだな」
 天井から伸びた紐――長さはまちまちであるが数は六本あり、彼らの人数と同じになっている。
「多分、この部屋を出たところの壁に階段が隠されているみたいです。けど、どうやっても開かなくて‥‥多分、この紐のどれかがスイッチになってるんだと思います」
 紐を見つめたまま、ラシュディアがそう解説する。
「じゃあ、どれかが正解って事か?」
「多分‥‥他に何かありましたか??」
 そう皆に尋ねるが、他のメンバーもそれらしいものは発見出来ていないらしい。
「ねぇ、忍眼でわからないの?」
 そう聞いたアイシャだが、それに首を振るシノビ達。
「いくら忍眼でも能力を上げるだけだから、どれが当たりかなんて事はわからないんです。それができたらギルド籤だってほしいものを引き放題になってしまいますもの」
「あ、そりゃそうか」
 桂杏の答えに、納得するアイシャ。
「ん〜〜となると六本ってのが気になるところね。偶然かもしれないけど、わざわざ六本にしているのには意味があるのかも‥‥」
 さっきの事を教訓に、自分だったらどうするかを思考する。
「キサイは心理戦が得意っぽいな」
 そう言ってラシュディアは彼の性格から答えを導き出そうとしている様だ。
(「常識に囚われない考え方で‥‥他に何もないから、これを使うのは確定事項‥‥普通ならどれか一本が‥‥っと、そうか」)
「判ったかも!!」
 脳内整理を終えて、声を上げた彼女に皆の視線が集まる。
「あたしの答えが正しければ、同時に引き‥‥これが答えです」
 自信があるのか胸を張って彼女が言う。
「同時に? またなぜ?」
「それは、数あるからです。沢山のうちのどれか‥‥そう考えがちですが、そこが罠。私ならその裏をかいて一本ではなく全部を正解にします。けど、それだと意味がないので、どうするか。わざわざ合わせた様に用意された人数分の紐‥‥これは力を合わせろということではないでしょうか?」
「成程‥‥一理あるな」
 それを聞き、納得する。
「まぁ、間違ってりゃどうにか切り抜ければいいことで。気楽にいこうぜ」
「いざとなったら、私が脱出道具を持参しておりますから。大事無いです」
 天忌と桂杏の言葉に皆覚悟を決めて――せーので引く。すると、

   がこんっ

 引いたと同時に、廊下の先の壁に階段が出現。思わず歓喜の声が上がる。
「では、いざ二階へ」
 そう言って一段一段慎重に登ってゆくのだが、その階段にももう一つのカラクリ。

   がこんっ

 皆が半ばに差し掛かると再び音を立て、足場が収納され滑り台へと変貌し、一階の廊下は板ごとスライドして、その下には落とし穴が出現する。
「くっ、やっぱりか」
「大丈夫です!! ていっ」
 愚痴る幻十郎他下のメンバーを支える為、桂杏が手摺に特製の縄付き苦無を投擲。うまく巻きつければ、辛うじて落下を免れ事なきを得る。
「縄、巻きつけてて良かったな」
 先行班の転落防止の為に巻いていたものだが、結果は逆の者に発揮されたようだ。
「ははは〜なんか干し柿の気分だな、こりゃ」
 きしむ手摺に肝を冷やしつつ、一階を後にする一行だった。


●どんでん返しは何の為?
 二階に上がると、そこには再び部屋を囲むように廊下が続き、中央部には四つの部屋。展開図を描くならば、丁度漢字の田の字の配置といったところか。どの部屋も同じ造りになっている。調度品は特になく、あるのは押入れと床の間のみ。部屋の仕切りには襖が使われている。勿論中央に存在する部屋であるから、窓はなく中が薄暗い。
「ここは私にお任せ下さい」
「私もお手伝いを」
 そう言って、暗視を使い辺りを見回す暮穂と桂杏。廊下の先には上へ繋がる道がなかった事から、部屋の何処かしらに一階同様上への道が隠されているのだろう。
 周囲に目を凝らし、壁に手をあて歪な所はないか調べる桂杏に対して、暮穂はこつこつと壁を叩いて移動している。
「何も出来ねぇ〜俺が言うのもあれだが、あまり時間をかけ過ぎるのはどうかと思うぜ。俺なら時限式の罠を仕掛けるだろうしな」
 すでに屋敷に入って、一時間は越えている。砂時計のような仕掛けがあるとすれば、確かに用心が必要かもしれない。
「急かさないで下さい‥‥これでも精一杯‥‥あ」
 答えかけた暮穂だったが、音の違う部分を発見し、再度叩き違いを見極める。
(「ここだけ音が軽い‥‥この壁は木製?」)
 音の違いを察して出した答え。桂杏を呼び寄せ、二人でその壁をくまなく調べれば薄ら畳み半畳分位の大きさに俄かなズレが見える。
「いわゆるどんでん返しのようです」
 桂杏がそう言って、ぐっとその壁を押せば回転する。けれど、その方向が問題で‥‥。
「危ないっ!!」
 叫んだのはラシュディアだった。普通なら横に回転するどんでん返しであるが、ここのは縦に回転したのだ。しかも、壁の上半分のみ――押した勢いで上の面が彼女を襲う。けれど、それより早く駆けつけて、たんこぶを作らずに済んだ桂杏である。
「助かりました」
 少し照れながらも丁寧に頭を下げる。
「あはは、怪我なくてよかったよ」
 それにほっとする彼である。くるりとひっくり返してみればそこには足場となるような取っ掛かり。けれど、天井には当然の如く板が張られ到底進めそうにない。
「外れる板とかなのかな?」
 手探りで探すも、やはりどれも動きそうにない。ここを一旦諦めて、残りの三つの部屋も調査したのだが、押入れに落とし穴が仕掛けられていた位で、大きな収穫はないようだ。
「ん、これは‥‥もしや」
 そんな中で、ふと手帳を広げていた幻十郎に浮かんだ小さな疑問。確認を取る為、暮穂に近付く。
「廊下の歩数と部屋の歩数‥‥廊下の幅を差し引いても差が大き過ぎる気がするんだが、暮穂殿は如何かな?」
「えっと‥‥待って下さい。外と内‥‥あぁ確かに三足半‥‥壁の厚みにしては厚過ぎますね」
「だろう? という事はそこに何かしらあるんじゃないか?」
 にやりと笑って幻十郎。どんでんの下部分を刀の鞘でこずいて見せる。すると、そこも案の定音が違うようだ。
「発見させておいて実はそっちはダミー‥‥本来の道はその下にってか」
 少し力を入れて叩くと、いとも容易くその壁は崩れ先には人が一人通れる位の幅の通路が出現する。どうやら、壁の間に空間があり、そこが通路になっているようだ。
「ここは一列じゃねぇ〜と無理だな」
 そうしてその先に進めば縄梯子が三階へと続いている。念の為今度は一人ずつ進むと、そこには開けた空間――屋根裏を思わせる造りになっているようだ。
「ここは?」
 外から見れば四階構造だったはずだが、中は三階までらしい。
「遅い‥‥待ちくたびれたぜ」
 ――とそこへ聴こえるはキサイの声。姿はまだ確認できない。
「一体どこに‥‥ってわぁぁぁ!!」
 そこで周囲を確認しようと各々見合わせた中にイレギュラー。見知らぬ顔を見つけ驚く一行。勿論、それはキサイである。
「いつの間に‥‥というか、どうやって近付いたんですか」
 高鳴る鼓動を押し留めながらラシュディアが問う。
「ちょちょっとな。床にもどんでんがあるんだよ。気付け、シノビなら」
「はっはぁ‥‥すいません」
 なぜか怒られた気がして謝ってしまう彼。
「さて、まぁお疲れ。思ったより早かったし、とりあえず合格だ。準備もあるだろうから、一週間後にまた会おう」
 実に爽やかにそう言って、去っていこうとするキサイ。
「ちょっ、それだけかよ」
「ん? 何か他にあるか?? 俺はおまえたちの性格も把握できたし十分だけど?」
「性格?」
「あぁ。右から、慎重、信頼、注視、駆引、読心、冷静‥‥って所か」
 幻十郎、天忌、暮穂、ラシュディア、アイシャ、桂杏の順に、一人ひとりを漢字二文字で表したらしい。熟語にないものもあるが、まぁそれは彼のご愛嬌。
「読心か‥‥ふふって、あぁ! じゃあやっぱりずっと何処からか見てたのね〜ずるぅ〜い」
 喜んだのも束の間、予想していたにも関わらず、気付なかったことに悔しがるアイシャ。
「この手の屋敷にはお約束だっつ〜の」
 そんな彼女に子供のような態度を返すキサイである。
「さて、それじゃ詳細はさっき一言った通りだから‥‥じゃ、皆解散!」
『ええっ!!』
 言いたい事だけを言い切って、キサイは徐に床の板を外しレバーを引く。
「あの、それって‥‥」
 答えを聞く前に三階床がぱかりと開き、皆は半ば強制的に一階へと移動させられるのだった。