【百狩】紛れもない力
マスター名:奈華 綾里
シナリオ形態: シリーズ
相棒
難易度: 難しい
参加人数: 10人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2013/06/13 07:18



■オープニング本文

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●障害
(『またあいつが一位か…』)
 張り出された番付けに誰もが思う。
 実力は折り紙つきだった。けれど、それはただの目安にしか過ぎず、ここで最も優先されるのは品のよさ…育ちの確かさ。そしてそれを判断するのは神でもなければ悪魔でもない。たった一握りの由緒ある人間――。

「腕はいいんだけどねぇ…」
 声が聞こえた。しかし、姿は現さない。どうやら俺に見つかるのが嫌らしい。
『ならば、わざわざ聴こえる所で話さなければいい』
 結局奴らは聞かせたいのだ。けれど、顔を合わせて言う自信がないからあのような行動に出る。
『馬鹿げた奴らだ。ろくに力もないくせに』
 綺麗な着物に身を包み、守られているだけの存在が品定めをするような目で俺を見ていく。
「それにあれは真剣じゃないのか?」
 また別の奴の声――。俺だけがそれを手にしているのが目立っているからだろう。
『しかし何が悪い…生き死にのかかる戦場に出る為の訓練で棒切れを振り回して何になる』
 この重みと何とも言いがたい輝きが紛れもなく、それが相手を傷つけ殺める為の道具である事を実感させる。
 これでなくては戦場の空気が伝わるものか。
「やはりうちにはそぐわないな」
 声の主がそう言い、逃げるようにその場を去っていく。
『判らない者は必要ない。俺にはこの腕がある。例えあんな者達のコネがなくとも…実力さえあれば何とでもなる』
 そう思っていたのはいつの事だったか。もう三十を過ぎた…養子になるのは厳しいだろう。
『それにもううんざりだ』
 名ばかりの力に何の意味がある。何処へ行っても罪の跡は後を付いて周り全ての邪魔をする。それが例え自分がしたものでなくとも……。ならばもうここにいる意味はない。
『次に戻ってくる時は本当の意味で力を示すまで』

 門の高さは凡そ15m。石垣部分は流石に無理だろうが、この扉部分だけであれば難しくはないだろう。
(「開拓者の手を借りなければならならほど、アレは焦っているのか…くくっ、結構」)
 予想しなかった事ではなかったが、それでも別に構わない。志士の人員は既に四方に散っているだろうし、今ここでこの扉を破ればこちらにとっては好都合。皆の目には――特に実践の少ない者にはどう映るだろうか?
 ちらりと黙幽に視線を送れば彼もすでに準備は出来たらしい。門の上で交戦中だがそれを知らせる合図はすで出ている。ウォームアップもこれまで…そろそろ自分が動いて見せる番だ。
 狩狂は手にした得物を振り被る。頭上からふり来る氷の刃を軽く一閃し、彼が駆け出すと、手にした得物と彼自身が輝いて――。


●混乱

(「なんでもっと早く気付けなかった…東は青龍、南は朱雀……炎の宝珠は赤き鳥朱雀と龍の持つ玉を現しているのではないか?」)
 菊柾がそれに気付いて立ち上がり、東南の門に駆け出したのと爆音が響いたのはほぼ同時の事だった。
 それは四神相応の考え方…ある国に習ったものだが、そうする事で神に守られた場所になるのだという。
 だが、それに気付いたところでもう遅い。今目の前に見えているのは大破した門と怯え後退する志士の姿。閂など意味がなく、敵が門を大破させたらしい。

『化けんもんだぁぁ!!』

 誰かの叫び――慌てて菊柾も刀を構える。誰がやったかは予想がついた。だが、菊柾と彼との間にはまだ距離がある。
(「本当にお前なのか? しかし、その力は一体…」)
 菊柾が知る彼の強さと今のそれとでは格段に違いがあった。

 勿論その爆音を聞いたのは彼だけではない。
 芹内もまた天守からその様子を見ていた。そして彼は更なる驚きに包まれる。
 眼下に見える人影の中にいる深紅の鎧の敵が…彼の知っている人物に似ているからだ。
(「あれは誰だ…確かに水恋は死んだ筈…」)
 同僚が敵で、しかもその中に死んだ筈の者がいる。さすがの芹内とて完全な冷静を保つ事など出来ない。
 それに追い討ちをかけるように……更なる攻撃が彼を追い詰める。

 どごぉぉぉぉぉん

 それは北側から――はっとしてそちらに視線を向ければ二の丸のある建物が燃えている。
(「まさか、そんな馬鹿な…」)
 進入は防いだ筈の北側の…しかも内部からの煙。反対派の貴族とも考えられたが、彼らは牢の中の筈だ。そして、怪しい新人達の配置は菊柾が徹底して武器庫周辺からは外しており、誰もそこには近づかないよう通達していた。とすると考えられるのは地下からの進入――すなわち土竜攻め。
「芹内様、どうしましょう…これでは二の丸が」
 続々と武器庫から姿を現す敵に側近が問う。
「うろたえるな。しかし確かにこのままではまずいな…優勢からのこれは影響力が高過ぎる…」
 実にあいつらしいやり方ではあると思う。元々彼は一つの策に頼るような愚行はしない。相手の先の先まで見越して、一つ破られたくらいで揺らぐほど軟弱な考えを持っていた訳ではない。それに彼がかなり前からこの為の計画を立てていたのなら土竜攻めの通路を作っていたとしても不思議ではない。
「やられたな…」
 ぎりっと自分の浅はかさに奥歯を咬む。雪崩れ出した敵は志士らと交戦しつつ、二の丸内の建物に火を放ち、馬屋からは馬を放して志士らの妨害に当たっており、徐々に内郭が混乱に包まれていく。
(「くそっ、開拓者らが掴んだ優勢があっという間に持っていかれるとは…」)
 狩狂の圧倒的な力に東南の志士は明らかに引け越しになっているし、別の門の守備についている者も応援に駆けつけているが、見せ付けられた力にさっきまでの士気が根こそぎ持っていかれている。
 格なる上は自分が前に出るしかないが、それには暫し時間は必要だろう。
 幸い、敵が一の丸に続く門に届くまでには距離がある。
 芹内は已む無く二の丸まで響くよう大きな太鼓の打ち鳴らしを命じる。

「二の丸内の志士らは交戦しつつ後退、一の丸に非難せよ! 体制を立て直す!! いいな!!」

 彼の言葉が太鼓の音で知らされ、全域に指令が通達される。これには菊柾も従わざる終えなかった。
――

【進撃状況】
二の丸には武器庫や馬屋の他、常勤志士らの住まいや貴族の屋敷があったが
現在、百狩の進撃により放火活動が行われており消火は難しそうである
襲撃の話がわかっていたおかげで二の丸内の主な貴族や重臣は避難済み

狩狂は東南の門から侵入し部下二名と共に城下側にある南南東の門に向かっている
一方武器庫があったのは東北の門の近くの北側であり、
狩狂とは別の西の門へと進撃する部隊と建物に火をつけて回る部隊とに分かれている模様


■参加者一覧
菊池 志郎(ia5584
23歳・男・シ
魁(ia6129
20歳・男・弓
リューリャ・ドラッケン(ia8037
22歳・男・騎
和奏(ia8807
17歳・男・志
トゥルエノ・ラシーロ(ib0425
20歳・女・サ
蓮 神音(ib2662
14歳・女・泰
バロネーシュ・ロンコワ(ib6645
41歳・女・魔
刃香冶 竜胆(ib8245
20歳・女・サ
白瀬 譜琶(ic0258
14歳・女・シ
庵治 秀影(ic0738
27歳・男・サ


■リプレイ本文

●策議
 後退する志士達、雪崩込んでくる敵――内郭は完全に混乱に呑まれていた。
 そして、そんな中で目立ちはしないものの一部の志士に不審な動きを上空にいた白瀬譜琶(ic0258)は相棒の巌と共に捉える。
(「これは作戦会議にもって行かなくてはですねー…」)
 何時になく神妙な面持ちで…事態は一刻を争う。
 芹内による鐘が鳴り響く中、既に櫓に位置していた開拓者らは一の丸の扉を目指して立ちはだかる敵を薙ぎ払いながら、ただ戦場と化した二の丸を駆け抜ける。そうして、皆が簡易テントに集まるのにかかったのは僅か数十分。相棒の背を借りた者もいる。スキルを行使した者もいる。敵の狙いがはっきりしない中、それでも建て直しを図るべく志士の誘導も視野に入れて、出来るだけ迅速に戻ってこれたのは単に彼らの力だけではない。
「あいつもあれの存在は知っていただろうが多少の時間稼ぎにはなる」
 菊柾他、古株勢が取った行動――それは建物近くに隠されていた防御柵の展開だ。
 攻城戦に備えて昔から常備されていたものであり、高さは身長程であるが鉄製とあってそう簡単に破壊は出来ない筈だ。
「皆の者、まずはよくここまで戻った」
 外からは轟音と煙が立ち昇る中、芹内自ら姿を現しまずは労いの言葉。彼の登場に場が引き締まる。
「おやおや大将自らたぁ有難いねぇ…で、早速だがどうすんだい? 策はあるのかねぇ?」
 顎鬚を擦りつつ、この状況でも何処か飄々とした面持ちで庵野秀影(ic0738)が問う。
「王にその口の聞き方はっ!」
「よい…止めておけ」
 そう言いかけた側近だったが、芹内に制されて…言葉を呑み込む。そんなやり取りにさえ時間を割くのは惜しい。
「おまえはどうなのだ。発言するからには何か考えがあると? あるならば聞こう」
 焦る様子を全く見せずに芹内が言う。
「ああ、あるぜ。ただ少しばかり過激だがなぁ…」
 にやりと笑って言う彼に周囲の視線が集まる。
「まずは火の手をどうにかしたいところだ。だが、消してる暇はねぇ…建物を壊す許可をくれや。そして、次に今開けてる門の閉門だ。敵が紛れ込んでしまうのも防ぎたい…まだ戻れていない志士もいるたぁ思うが、そこはそれ。危険だがそれに当たり、決死隊を編成する」
『決死隊…』
 言葉の響きに場の者から息を呑む音。
 敵の数がどれ程まで膨れ上がるのか判らない以上、それは死をも覚悟した行動となろう。今もまだ刀を奮っている仲間の為に、そして好き勝手する敵の討伐の為に…その状況ではそれも必要だと彼の知識と経験が判断する。
「ふむ…致し方あるまい。しかし、その覚悟のある者はおるか?」
 このテントに集まっている志士らに視線を向けて芹内が問う。
 だが、やはりすぐには手が上がらなかった。危険と判っている道だ。好き好んで進もうと思う者はそういないだろう。
「ならば、小生がそのお役目…お受けいたしんす」
 そこに一筋の光――言葉の後に「特に死ぬ心算はありんせんが…」と付け加えて、刃香冶竜胆(ib8245)が立ち上がる。その姿に周りがざわめいた。彼女は女でしかも修羅だ。開拓者から見れば今や男も女も関係ないのであろうが、頭の堅い古株組には少なからず性別や種族の偏見を持ち合わせている者もいる。だが、彼女のいた門で警備についていた者達は知っている。彼女の実力は確かなものだと…。
「おいおい、あんな美人がやるってんだ。おまえらは今まで何をやってきたんだ?」
 そこへ菊柾の一声――躊躇していた者達の背中を押して、
「俺は独身だ…怖いものなんてねぇ」
「子供の為にもいっちょカッコいい親父の姿を見せてやらぁ」
 数名の志士が立ち上がった。その勇気に芹内は心で感謝しながらも表にその心情は出さない。
「よし、ならば後はそちらの」
「竜胆でありんす」
「そうか。竜胆に任せる。早急に準備を整え始めよ」
『はっ』
 王自らの命令に志士らが答えた。この動きが少なからず士気を高めて――その後は割とスムーズに兵の配置が進む。
「すまんが、俺も手伝わせてくれ。俺の駆鎧はきっと役に立つ」
 別口で雇われ城に来ていてらしい竜哉(ia8037)がテントに顔を出し、門前の防衛を志願する。狩狂が向かっている南南東への志願者が多い為、彼は居残り組の和奏(ia8807)と共に西の門へと向かう。ただし、駆鎧「人狼」・ReinSchwertは二の丸のある建物にあり、取りに行かなくてならない。そしてもう一人…同じような立場にいたのは女剣士のトゥルエノ・ラシーロ(ib0425)だ。城の異変に気付いて炎龍・クローディアに跨り駆けつけて…事の大きさを知り協力を申し出る。撒菱使用の許可を得て、それを持参し配置に向かう。
「あの…すいません。聞いていいのか判りませんがあの南の空堀に意味はあるのですか?」
 そこでふと疑問に思っていた事を和奏が切り出した。
 普通堀と言えば水が張っているものだ。現に二の丸の周囲に張られているそれには水が入っており、外敵の侵入を阻んでいる。だが、郭内の一の丸を囲む一つには水が入っていない。それにどんな意味があるのか? もし水が引けるのであれば、引いた方が良いのではと思い尋ねる。
「あ、私も聞いてみたいと思ってましたー」
 それを耳にし、譜琶も手を上げる。
 彼女は今回上空からの警戒に当たるらしい。巌を外に待たせて、合図用の狼煙銃の点検に入っていた所だ。
「ああ、あれは特殊な堀なのだ。水は引けるが…時機を見た方がいい」
 戻りかけていた芹内が振り返り、声を潜める。
「実はあの堀は敵を海まで押流せるようになっている。ただし、これを知っているのは一部の人間だけだ」
「では、狩狂は?」
「口頭で話した事はない。ただ、極秘文献には記載がある…目を通していたら知っているかもしれん」
 一体何処まで知られているのか? それすらも判らずもやもやが続く。
「では起動方法は?」
 いざと言う時は使うしかない。しかし、流石にそれの起動に至る事は今まで一度もなかったらしい。
「あの堀を軽々と通ってしまうかもしれないのに…」
 門を破壊した相手だ。油断できないと譜琶は思う。
「わかった。もしその時が来る様なら私自ら起動しよう…こればかりは簡単に教える訳にはいかんのでな」
 王にも事情がある。今後の事を考えても彼自身がするのが一番いいと判断し、和奏も無言でテントを後にする。
「では、後一つだけ…お耳に入れたい事があります」
 だが、譜琶は違った。撤退時に目にした光景――それは敵を相手に話が違うと漏らしていた志士の姿。内通者がいるのは以前の事件でも確認済みだが、その後の敵の言葉が耳に残っている。

『おまえらはいつもそうだ。弱者を虐げておいてなんでも金で済むと思ってやがる。俺の顔等覚えてはないんだろう?』

 そう吐き捨てて、敵は一刀の許斬り捨てていた。
「きっと何かあるんです…思い当たる点はありませんか? それに相手にしている志士も逃げる者を優先しているみたいで…」
 後半はただの感想に過ぎないが、それでも事件の要因解明に繋がるのではと彼女は思う。
「推測だけで判断するのは危険だが…わかった。報告感謝する」
 そう言って芹内はもしもの時の準備に入る。
(「まさか…そういう事なのか、八手…いや、『狩狂』」)
 その間も考えを巡らせて――辿り着いたのは朧げな記憶。それは若き頃の約束だった。



●戦場
 たった三人で進撃を続ける狩狂と黙幽、そして鎧の女。圧倒的な力で彼らには未だ大きな傷は付けられていない。
 それは彼の思惑通り、士道により一対一の精神が働いているからかもしれない。例え数がいても彼らは仁義を尊ぶ。複数で同時に斬りかかるのは礼儀に反すると思っているからだ。
(「そんな甘い考えだから腑抜けてしまうのですよ」)
 長物を軽々と扱いながら狩狂は思う。そして背を向ける者には容赦なく彼の刃が襲う。
「ここから先、通れるとは思わない事ね!」
 だがそこへ体制を立て直すべく編成された開拓者達が立ちはだかった。咆哮と共に飛び掛ったのはトゥルエノ。クローディアの背から飛び降りて、重力をも味方に全力のスマッシュを叩き込む。だがそれを避ける事無く、狩狂は柄でそれを受け止め笑みを浮かべる。
「一体何が目的なんですか。例え芹内王を殺害してもそこでこの国が貴方のものになる訳ではありませんよ!」
 ――とこれは菊池志郎(ia5584)。深紅の女の正体が気になりつつも謎だらけの襲撃に答えを求める。
「くくっ、若いですね…私は国が欲しい訳ではない。ただ腐敗したこの国を変えたいだけですよ。その為にいらないモノを排除する…しいて言えばそれが私の目的でしょうか…」
「腐敗ねぇ」
 甲龍・高弦丸に騎乗し、黙幽を警戒しつつも秀影が復唱する。
「あなた方には判らぬ事だ。犬死したくなかったらここを通しなさい!」
 そこを狙った黙幽のターン。高見の見物は許さないとばかりに秀影の許へ屋根伝いに跳躍し、彼に迫る。
「おわっと…」
 それを避けて、危うく勢いで転落しかけた彼だったがなんとかそこで踏み止まる。それは志郎の相棒による援護あればこそ。
「大丈夫ですか?!」
 志郎の指示で間に割って入った鷲獅鳥・虹色。色とりどりの羽が綺麗だが見とれている余裕はない。
「暫くそっちをお願いします」
 志郎は虹色にそう告げて…彼は目の前の敵を見据える。
 そんな彼らをもう一人の瞳がもどかしげに見つめていた。


「はは、さすが個人で城攻めとはやり手だな…」
 さっきこちらに着いて門の警備を買って出た人物、彼の名は魁(ia6129)。門上部の通路に立ち弓を構える。だが、そこではたととんでもない失態に気付く。
「しまった…活性化は三つまでだったな」
 打ちたかったのは相手の虚を付く『風撃』のいう技――しかし、速射・ガトリングボウ・騎射術と手一杯だ。
「魁さん、ここは我々が見ておきます。あなたもあちらに」
 頭を抱えた様子を見取り、兵の一人が言う。
「けど大丈夫か? 再び門を狙ってくるかもしれないし」
 相手は力を誇示してきたと聞く。そういう相手である場合、再びの門の破壊やそう見せておいて防御を固めた所を嘲笑うようなトリッキーな攻め方をしてくる事が多い。この空堀にしても…何か仕掛けてきそうで警戒を怠れない。けれどこれでは、ここに来た意味がなくなってしまう。
「わかった。しかし焦ると思うが無駄な矢は撃つな。自信のある間合いまで引き付けて、射ってくれ。落ち着き射つ事が第一だ」
 そういい残して、彼は駿龍・伏姫に跨る。
「さぁ、いくぜ。今度はこっちが奴らを掻き回してやろう」
 途中参戦、体力気力は十分だ。高速飛行で射程に近付き、跳躍の進撃を牽制しながら太陽を背に弓を構えて、
「乱れ射つぜっ! いけっ!」
 三人の敵を前に…彼は矢の雨を降らせた。そうする事で彼らをばらけさせようというのだ。
「おらおら〜これからだぜ。大将さんよぉ」
 騎射術で安定を保ち、即射で速度を早める。当たらなくとも彼らを引き離せれば万々歳だ。
「調子に乗らないで頂きたいですねぇ」
 だがそれでも三人は怯まず、狩狂などは縦横無尽に場を駆け、そして跳躍と共に鎖のついた鉄球を魁に向け振り被る。
 だが、それは伏姫の本能が回避した。そして降り様の彼に再びトゥルエノの剣が振り下ろされて――ざしゅっと僅かな音がする。しかし、彼女自身に手応えはない。
「おや、折角の手甲でしたのに」
 切り裂いたのは手甲のみ…がその切り口の先には僅かに光るものが見える。
「アレは何だ?」
 志郎が眉を顰めたが、神音の接近に彼の思考は遮られた。


「ねぇ、あなたは誰なの? 水恋さんは死んだはずだもん!」
 蓮神音(ib2662)の人妖・カナンを引き続きサポートに回して、主である神音が深紅の鎧の女に尋ねる。
 彼女の事が好きだった。ひたむきだった彼女の事を思うとやるせない。本当の彼女であるならば王と敵対するはずないと神音は思う。涙が薄ら目尻に浮かんで…それと同時に過ったのは彼女のセンセーが出会ったアヤカシの少女の事。少女は生前の記憶を有してアヤカシとなっていた。それと同じならば…いやしかし、それならばやはり敵対するのは変だ。
「絶対此処を通さないよ!」
 言葉を返さない彼女に神音が瞬脚で駆ける。それに合わせて土を踏みしめ構えた姿はやはり彼女にそっくりだ。
(「判らない…判らないよぉ!!」)
 鳩尾目掛けて最大限に肘を引いて――鎧兜の下にある顔は面頬で隠れて捉える事は出来ない。けれど、それでも仕草が似ていた。刀の握り方から捌き方まで…だが、彼女が繰り出した秋水は――どこか淀んでいる。拳が鳩尾に届くより先に繰り出された刃に慌てて、回避行動に切り替えた神音。八極天陣への移行がワンテンポ遅れて、肩が斬り裂かれ、勢いのまま弾け飛び志郎を巻き込む。カナンが恩寵を発動し彼女を癒しに掛る中、慌てて立ち上がる。だが、そこに息ぴったりに接近する黙幽と女。
「貴方に何が判るのよ…」
 女の呟き――その声に神音が眉を顰める。
(「やっぱり違う…少しだけ声が低い?」)
 少しの間だけしか一緒ではなかったが彼女の直感がそれを告げる。
 女には魁の矢が向いていた。そこで志郎は黙幽に集中し、夜を発動する。
「やはり手強いですね…」
 上空で譜琶が呟いた。


●火の脅威
「漣李、もう少し頑張って下さいね」
 和奏は進化した鷲獅鳥に呼びかけながら出陣の構えに入る。
 竜哉が持ってきたというアーマーケースは二の丸にある屋敷の中だ。持ち出されていない事を祈りつつ、決死隊と連動し囮となって気をひき、彼を走らせる。駆鎧起動後は門の前で弁慶宜しく防衛にあたって貰う手筈だ。
「すまないな…常に持ち歩いている訳にもいかんから」
 例え相棒であっても話し合いの席やらちょっとした用では流石にケースを持ち歩く事はない。此処までの大事になるとは予知できず今に至る。
「問題ないでありんす。竜哉殿が戻るまでにそれなりの数を減らしておきんす」
 何処か優雅立ち手振る舞いで竜胆は霊剣を携えて…後方に集まっている志士達も己の力を信じ、踏み出す時機を窺っている。
「どうやってあの方々がアヤカシを手懐けておられるのか気になりますが、言っている場合ではありませんね…では参ります」
「おう」
 白く見える翼をはためかせて和奏が騎乗し、漣李に低風飛行を命じ敵を牽制する。敵は空から来た彼に地上の者達は早速奪った弓や銃で応戦。しかし、漣李の速さに付いて行けず空を切る。
「いい調子です。しかし…個人の恨みでこれほどの大事になるとは…」
 きっと芹内への恨みが狩狂を動かしていると推測している彼はそうぽつりと呟いて、上空から瞬風波を繰り出し門の上では避難を終えた志士達が応戦体制に入っている。そして、虚をつく為の決死隊も移動を完了し…準備は整った。
「一の隊は建物へ。二の隊は小生の後に続くよし…これ以上の狼藉は許さないでありんす」
 武器庫の付近で展開した二つの隊がそれぞれ行動を開始して――その先頭で竜胆の回し斬りが敵を寄せ付けず、個体相手には正確な突きが冴え渡る。彼女の駿龍・祷諷もそれに応えるように上空から羽ばたきで敵の動きを妨害する。その間に竜哉は問題の屋敷へと辿り着いていた。ここに来た時に初めに通された部屋――今や火に包まれている。
「全くやってくれるな…」
 そうぼやくも行くしかない。マントを火の粉避けに扱いつつ、中へと入って…熱を持ったケースを掴み駆け出す。
 だが、出た先に待ち構えていたのは敵の集団――一人でいる彼との遭遇に薄ら笑みを浮かべている。
(「ちっここで展開するしかないのか…」)
 個人で戦うのも彼ならば十分可能だ。しかし、今手にしている得物は魔槍砲…振り回すには分が悪い。ここは迅速起動で稼動に持ち込むか。背に熱を感じながら思案する。――が数秒後、彼の前には長身な美丈夫の姿があった。
「今のうちに所定の位置へ…ここは私達にお任せ下さい」
 数人の志士と共にバロネーシュ・ロンコア(ib6645)が助太刀に入る。ちなみに彼の前に現れた美丈夫は彼女のからくり、黒竜王・伊達だ。
「我が主にも、友の方にも…指一本触れさせない」
 そう言って容赦なく踏み込む彼。人形であるとは思えない身のこなしとパワーに流石の敵も後ずさる。
「すまんが後を頼む」
「はい」
 まずは家の対応から。とは言っても水の魔法を所持している筈もなく、作り出したのはブリザーストーム。吹雪のそれでどうにか解体を試みる。だが燃え方が悪かった。駆け出した後、竜哉が耳にしたのは木が軋む音。
「主殿!」
 咄嗟に伊達が動いた。彼女に降りかかる木材と火の粉から庇うように…彼女を突き飛ばす。
「伊達ッ!」
 ひびが入った彼に彼女が悲鳴に近い声を上げる。
「大丈夫です…まだ動けます」
 彼の言葉に心底ほっとする。そして次は見誤らない。そう決意し、周囲の敵に彼女は睡眠の魔法を発動した。


 一方竜哉は無事所定の位置へと移動し、
「待たせたな…ここから先は一歩も通さんよ」
 白く人間と見紛うような柔軟な動きをする駆鎧に乗り込んで粗方志士達が避難したのを見計らい、西の門に立ちはだかる。
「やっときましたね…遅いです」
 とこれは和奏だ。一人と一匹で持ち堪えるには少々重責であったようで表情には出さないが、汗で地面を濡らしている。
「まあ、そういいなさんな。さぁ、これを相手に挑んでくる者はいるのか?」
 暫しの沈黙――機械を相手に生身でぶつかる程無謀な事はない。敵にざわめきが走る。
「とその前に一応聞いておこうか? なぜ糾弾ではなく武力による制圧を選んだ?」
 ここまで過激に出るには理由がある筈だ。どんな理由であれ既にやる事は決まっているが、今後の為にと彼が問う。
「糾弾など意味がないとそう判断した…それだけだ。奴らが好き勝手するのなら我々も好きにして何が悪い!」
「ほう、そうか…ではどうなってもいい覚悟はできてるんだな」
 目には目を、歯には歯を――彼らに恨みがある訳ではないが、このまま行動を止めないのならハンドカノンの発動も考えなければならない。
「もう諦めればよし。そうでなければ俺が相手しよう」
 ガチャリとまずは剣を抜いて、竜哉が対峙する。
「怯んでんじゃねぇ…あんなもの、でかいだけだ。こっちにはこれがある…」
 そう言って取り出されたのは焙烙玉――それも一つや二つではない。それぞれが手に持ち合わせている。
「的がでかけりゃ当たりやすいってな」
 彼らは本気だ。妨害すべく和奏や戻ってきつつあった竜胆が走る。そして、竜哉は…。
「そうだな、確かに当たれば大変だが…先に潰させて貰う!」
 剣を横に構えてライドスラッシュからの横一閃。速さに追いつけずにいた者達は火をつける前にそれを取り落とす。
 だが、周囲にはまだ火種が残っていた。いくらかは壊し鎮火に向かっているが、まだ完全ではない。
『しまった!!』
 そう思った時には既に遅く、
「うわっ! 西の門で大爆発…けど、被害はそれ程でもない?」
 空中にぽつぽつやってくる飛行アヤカシに対応しながら、譜琶が状況を分析する。
 すでに二の丸内に残っている志士は決死隊を除けばいないだろう。いるのは敵のみ…数も幾分減っているし、門の前には彼らがいる限り進入は難しいだろう。それに他の道を目指すような不審な行動も見受けられない。
 どちらかと言えばやはり南南東の門が苦戦しているように思われるが、本来の目的である進行を食い止めるという点ではなかなかにいい結果をもたらしているといえよう。
「武器庫からの敵の援軍もないようですし、なんとかなりそうですね…」
 飛びっぱなしの巌を撫でてやりながら彼女が息を吐く。
 だが、それは束の間の安息。狼煙銃の出番がないと思って安心しかけたが、彼女はこの後使う事となる。
 青の…予期せぬ出来事を知らせる青い狼煙を――。