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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「私達、どうなるんだろう?」 牢の中で少女がポツリと呟く。 宝物庫を襲ったうちの二人が捕らえられた。その情報はもう仲間の下には届いているだろう。本来ならば今ここで自分で手を下さなくてはならないが、彼女達はまだ幼くそれに至るのに躊躇している。それに彼女達の持ち物は既に取り上げられており、自身ではどうする事もできないのだ。 「油断したのかな…あたし達?」 「死にたくないよね…」 この後何が待っているのか、それ位想像はつく。 「あの方の為だもん。しょうがないよ…それに今まで生きてこれたのはあの方のおかげだよ?」 「そうだよね」 誰の話をしているのか? それでも少女達の目尻には涙が浮かんでいる。 「出ろ」 そこに声がかかった。取調べだろう、びくりと肩を揺らしたもののそれでも脅える気持ちを必死で堪えて、それぞれ別の部屋に連行されていく。けれど、彼女達を待っていたのは人の良さそうな男による簡単な質問だけだった。彼女達は拍子抜けしつつも、どこかほっとし息を吐き出す。だが、彼女達も組織の一人だ。その掟に逆らう事は許されない。 「尋問は終わりましたか」 牢に戻されたその日の夜――唯一ある天窓から彼女らに声が届く。 「黙幽様、私達何も喋ってません。だから、その…」 「助けて欲しいとでも言うのですか?」 一人が縋るように言いかけたのを聞いて、声の主が淡々と続ける。 「あの……薬を、下さい。取り上げられてしまってて、このままでは、自分で…けりをつける事も、できません」 それを聞いてもう一人が消え入りそうな声で志願する。 「成程…しかし、そうですね。折角ですからチャンスを差し上げましょう。あなた方を尋問した男…その名を聞きましたか?」 けれど、黙幽と呼ばれた男は彼女達をまだ殺す気はないらしい。 「確か菊柾と聞きましたが、あの男が何か?」 「菊柾ですか…調べておきましょう。追ってまた連絡します、それまでいい子に」 『はいっ』 まだ生き延びられる、まだ役に立てる。少女達の瞳に光が戻った。 それから数日後、 「一抹、これから世話になるぞ」 「あぁん?」 唐突に現れた菊柾にご主人はいつもに増して不機嫌な声を出す。 それもそのはず菊柾は風呂敷包みを背負い、これからここに居候すると言い出したのだ。 「あんた仕事はどうした。投げ出してきていい身分じゃねえだろうがッ」 寝癖のついた頭を掻きながらご主人が言う。 「そりゃそうだが、ここから通うさ。それにあの後の事も気になるだろう?」 ご主人が関わった園遊会と宝物庫の襲撃。一時は濡れ衣を着せられかけた参加者だったが、その疑いはなんとかはれて――その後の事を言っているのだろう。 「そう言えば捕らえた子供達はどうなったのにゃ?」 意外な犯人においらも驚いた事を覚えている。 「それが一日目は元気がなかったんだが、二日目からは息を吹き返したようでな。二人ともその後は『知らない、覚えがない』の一点張りだ。アヤカシにでも操られているのかと巫女も呼んではみたんだが、瘴気の関与は認められず…となると」 彼女らの意思で黙秘。子供相手となると罪人だとはいえ、余り強引な手には出られないらしい。 「であんたがうちにくるのとどんな関係があるんだ?」 話だけなら泊まる必要はない。家出する歳でもなく、何かあると考えられる。 「それは…つけられているみたいでな」 「つけられている?」 姿は確認できていないが、気配がするらしい。彼の経験からその相手が危険であるという事を無意識に悟っているようだ。 「…あの人物か?」 「知っているのかにゃ?」 ぼそり呟いた言葉においらが尋ねる。 「俺も気配だけだがな。聞き込みの時と事件の後の二回…奇妙な視線を感じた」 真剣な表情でそう言うから、おいらも思わず耳をそばだて辺りを警戒する。 「それにこんな物も届いていてな」 菊柾しゃんはそう言って一枚の紙を取り出した。 その紙には『余計な事をするな。でないと命はない』と記されている。 「家族の方には既に手はうってあるが、このままという訳にはいかんだろう。だから私自身が囮になってみようと思うから、宜しく頼むぞ」 「はあ?」 ご主人の肩に手を置いて、にこりと笑う菊柾しゃん。 さらりと言ってのけたけども、この人は自分の命を餌にすると言っているのだ。ご主人を信頼しているとしても、そう簡単にいえるものではない。 「……くそっ、これきりにしてくれ。乗りかかった船だと今回は最後まで面倒は見るが、厄介事は」 「御免だ…だったな。まあ、私としても早くかたをつけておかなくてはならんからなあ」 一抹が庭を見つめたのに続いて、菊柾しゃんの視線も自然と庭に移る。 手入れのされていない庭だから草も多いが、その中に春の息吹が少しずつ顔を出し始めている。 「さて、そろそろ…」 「私も同行しよう。その男、知っているかもしれん」 一方別の場所でも別の二人が時を同じくして…双方の準備は整いつつあった。 |
■参加者一覧
菊池 志郎(ia5584)
23歳・男・シ
村雨 紫狼(ia9073)
27歳・男・サ
マルカ・アルフォレスタ(ib4596)
15歳・女・騎
ユウキ=アルセイフ(ib6332)
18歳・男・魔
江守 梅(ic0353)
92歳・女・シ |
■リプレイ本文 ●相談 依頼としては大っぴらに名前を出すと相手に気付かれるかもしれない。 そういう訳で今回は一抹の手伝いという名目で人が集められ、内々に集まった者達に内容が提示される。 「成程…菊柾さんとは別の依頼でもご縁がありますし、全力で護衛致します」 護衛相手が菊柾だと聞いて菊池志郎(ia5584)が穏やかに言う。 仁生での不穏な動き…その裏にある何かが気になり始めているのかもしれない。 「しかしながらまずいですわね…我々は顔を知られていると思われますわ」 一連の事件に関与してきたのはマルカ・アルフォレスタ(ib4596)だけではない。その他にも村雨紫狼(ia9073)とユウキ=アルセイフ(ib6332)の二名は菊柾との接触は多く、付きっ切りになれば相手に警戒されるかもしれない。いやむしろ面識がある分、今回の件を話していると考えるのが自然かもしれない。 「僕は一応面をつけていたからばれてないかもしれないよ」 面収集が趣味なのか、普段でもお面をつけているユウキは、確かに園遊会でも宝物庫の時でも面を着用していた筈だ。 「聞き込みの時は変装していたし、あの時は女の姿だったからな」 怪しい気配を察知した時を思い出し、一抹が補足する。 「囮になるって言ってんだ。つまり菊さんも待つだけで終わるつもりはねえんだろうし、となると作戦を考えなきゃなんねえぜ」 襲撃を待つとなると消耗が激しい。紫狼の言葉にこないだのそれを思い出しつつ、もう一人の志郎が考える。 「城への行き帰りを狙ってほしいものですが」 大通りだと一般人を巻き込む恐れがあり、かといって路地裏を歩けばこちらとしても戦闘になった時動きにくくなる。 「あの警告…本当にアイツの命が狙いだろうか?」 ぽそりと呟く一抹だが、その疑問に答えられる者はいなかった。どちらであれ菊柾の心は変わらないし、彼らのやる事は一つなのだ。 「こうなりゃ相手が俺らを知っている…それを逆手にとってやってみるってのはどうだ?」 紫狼はそう言うと早速作戦を書き出し提示する。 「しかし…幼い子供たちが、事件を起さねばならぬとは…」 悲しいものだと言葉にはしなかったが、今回協力を申し出た高齢の開拓者・江守梅(ic0353)はその事実に心が痛い。それには彼女なりの特別な想いがあるからだ。愛娘がアヤカシに殺され、それをきっかけに開拓者となり、その傍らでは娘が守った赤子を引き取り育てている。その子供と少ししか違わない者達が犯罪に手を染めているのはどんな理由があれ、彼女にとっては悲しい事だ。 それと似た思いを抱くマルカは自分は復讐を胸に秘めているけれど、できれば辞めさせたいと思う。自分と同じになって欲しくないのだ。 「きっと裏に手引きしている者がいる筈ですわ。その者をなんとしても捕まえなくては」 普段穏やかなマルカが声を強めて言う。 「そうだな、子供を利用した時点でそれは邪悪よ! どんな理由があろうと許されねえ!!」 生成姫の件でもドス黒い気分になっていた紫狼が熱く拳を握る。 彼の作戦、それは菊柾が道すがらトラブルに巻き込まれた所を敵さんに狙って貰おうというものだ。 「ポチにはお手紙を託したいのだけれど、頼まれてくれますか?」 そんな彼らの中でユウキが隅でじっとしていたポチを見つけ言う。 「いいにゃよ。でも相手は誰なのにゃ?」 その問いにユウキは静かに耳打ち。相手はポチとも面識がある。こちらで起こっている事件と彼が関与していた事件…そこに共通点を見出して、ユウキはそれを報告しておきたいらしい。けれど、彼は今旅に出ているらしく配達には時間が掛りそうだ。 「どれ、ポチ殿。そのままの姿だと敵に知られている以上遠出は危険…一つ、自分が変装させて差し上げますのじゃ」 梅はそう言い、持ち合わせた手拭と染料を使いポチの模様に手を加える。 「では、とりあえず判っている事を記しておこうかな」 ユウキをそう言って、思い当たる節を文にしたため始めるのだった。 「あ、そうだ。菊さんに聞きたいんだが捕縛された子供たち、今のところ服毒の可能性はどうなん?」 作戦準備の最中にふとした疑問。それを一抹伝えに紫狼が質問する。 菊柾の関わっていた別の事件では捕縛後獄中で服毒死した例があったからだ。 「その心配は無用だ。それらしいもんは処分したらしいし、舌でも噛み切らねえ限りそれはないだろうとさ」 「そっか…ならいいZE。折角の命無駄にして欲しくねえからな」 ひとまずあちらは安心と紫狼が息を吐く。 「あのそっちの件の進展は?」 「あぁ、それについてはもうすぐ結果が出るそうだ」 志郎も関わっていた事件であり、手掛かりになるやもと思ったのだろう。 だが、その回答はまだ一抹の方には回ってきていないのだった。 ●行動 「ここも相変わらずだな」 深めの笠を被って、男は都の隅にある貧乏長屋の一画を青年と共に歩く。 そこでは寺子屋に通えない者達がぼろぼろの服と朽ちた机でお下がりの本を前に必死で勉強している。だが、彼らは時機に知るだろう。この国に根深く根付いたどうしよもない現実に――そして、嘆き悲しむに違いない。 (「そう変わらない。ここは今も昔も…アレが上に立っても昔のままだ」) 男はそう心中で呟く。 「さて、あの警告はうまくいきそうだな…案外二人を連れ帰るのは簡単そうだ。問題は」 「あの男ですか?」 報告で知らされた名前に懐かしみを覚えながらも、男は少し思案する。 「殺れるならやっておくに越した事はないが最優先は回収だ。いいな」 男の指示に青年は小さく頷くのだった。 そして翌日、早速作戦は決行に至る。 いつも通りの朝を装い、菊柾と一抹が出かける道すがら彼らに会う手筈だ。 「あら、菊柾様。お早う御座いますわ」 「お、抹さんも…奇遇じゃねえか」 ギルドに続く道の途中でマルカと紫狼が合流。 偶然か自然を装った護衛としてか。どちらに取られても構わない。 (「今のところ不審者はなしか」) その遥か後ろで一般役人に混じるようにして志郎が敵の動きを見張る。彼は仕事を受けてからずっと辺りを警戒、一抹の家近くに宿まで取っていた徹底振りでこの依頼に挑んでいる。 通りは朝という事もあってなかなかに人が多かった。けれど目視出来る位の範囲であり、今回は敵を警戒してか超越聴覚は活性化していない彼である。だが、敵は案外早く動き出す。 「ん?」 その気配を察して一抹が三人に視線を送った。相手がこちらに目を付けたのは間違いない。ぴったりと距離を保って尾行が開始されている。そこで志郎も待機中のユウキに合図を送って、チャンスは一回…それに反応して貰えるかが鍵となる。合流した二人を含めて暫く世間話をしながら、歩いて頃合を見計らうと突然マルカがその場にしゃがみ込んだ。 「どうした?」 それに紫狼が寄り添う。 「あの、申し訳御座いません。お腹の具合が優れなくて…」 顔を赤らめながら言う彼女に心配する一同。 「それは大変だ。私はいいから休んでおいてくれ」 そう言って菊柾は近くの店を紹介し、紫狼を付き添わせる。 「じゃあ、すぐ戻ってくるし」 そんな彼に紫狼はそう言って二人は一旦通りから離れ、店を経由し所定の位置へ移動する。残った二人は気にすることなく、歩き始めて…前に見えたのは籠一杯に花を抱えた小柄な女性だ。 「このばぁばの育てた、花は如何かのぅ?」 可愛らしい声音で彼女・梅が言う。 「どれ、一つ。あの子達に買っていこうか」 そこで菊柾は立ち止まった。あの子達とはあの子供達の事か。花を選んで財布を取り出す。 (「今だ!」) それをユウキは見逃さなかった。 「御免ッ!」 派手に梅と菊柾の間にぶつかって、花篭を取り落とさせる。 その隙に財布をかっぱらい、逃走開始だ。 「おお、何ということでっしゃろ! ばぁばの花が…しかもお財布までもっ」 「ぬっ、私のもかッ!」 売上金と菊柾の財布…同時に失くなった事からしても犯人は彼に違いない。 「おい、そこの! 待たぬかっ!」 菊柾の声にユウキは慌てて走り出し、追跡する三人。通り自体もその事件に僅かにざわめく。そんな中で三人を追う一つの陰を志郎が捉えた。年の頃は二十歳過ぎ…身なりは少し風変わりなもので髪型も特徴的であるのに、何故だか悪目立ちしていない。 (「プロかもしれない…」) 志郎は直感的にそう思う。自分もシノビの経験者だ。熟練してくると彼のように多少奇抜であっても目立たないでいる事は可能だ。その陰は足音も立てず、しかし菊柾を完全に追いかけている。 (「他の仲間もいなさそうですが、念の為このまま距離を保っておきましょう」) 事が進む中、志郎はそう思い一定の距離をおいて追いかけるのだった。 一方その頃、ユウキはまんまと陰を袋小路に誘い込む事に成功していた。 しかし、なぜか立場は有利とは言い切れない。場所柄深い目に誘い込む必要があった為、菊柾を逃がす事は叶わなかった。壁を背にして菊柾を庇うように一抹と梅、ユウキがたちはだかる。 カン カンッ 金属が金属に弾かれる音。宙を舞ったのは複数の棒手裏剣――それは菊柾を狙って投げられたものだが、一抹の刀と梅の忍刀によって弾かれている。そこで振り向き様にユウキが反撃に出る。駆けていた内から発動のタイミングを見計らっていたフローズだ。それが青年を捉え、彼の動きを鈍らせる。 「逃がしゃしねえぜッ!」 そこで紫狼が咆えた。出口となる方からの咆哮で彼の意識を自分に向けさせる。 「あなたがあの子供達を利用したのですか!?」 そこでマルカがスタッキングでゼロ距離への接近を試みた。すでに彼女は騎士の誓約で能力を上昇させ、大振りの槍から放たれたのはガードブレイクだ。青年は何も構えておらず、これが決まればあっさりと勝負が決しそうだ。だが、 (「嫌な予感がする」) 彼の行動に志郎は不信感を拭えない。あれほど攻められて動かないとは…裏があるに違いない。そう思い、その場から鑚針釘を投擲。マルカの援護に回る。 「…ッ」 そこで初めて青年は声を発した。いや、正確には静かな舌打ち。ゼロ距離でのガードブレイクを防ぐべく、彼が出現させたのは炎の渦。その発動の為その場を動けなかったらしい。志郎の釘が彼の太股に突き刺さる。 「マルカたん!?」 だが、こちらも無傷とはいかない。咄嗟に直撃は回避したもののマルカのコートが焦げ、槍も急激に熱を帯びており、慌てて火傷の手当てに志郎を呼ぶ。 「大丈夫ですわ、この位…」 そういう彼女であるが、肌が白い為火傷が目立つ。 「よくもやってくれたな…おまえは絶対許さねぇ」 紫狼がそう言い、ダッシュを駆けた。両刀使いの彼は一気に畳みかけるつもりだ。 けれど、相手は怪我を負ってもなおスタイルを崩さない。俯いたままの何処か不気味な姿勢で…接近を待ち、今度は木葉隠で紫狼のそれを回避する。 (「だったらもう一度足止めが出来れば!」) そこでユウキは更なるフローズを展開した。勿論以前の二の舞を踏まない為、自己防御は強化済みだ。梅も敵が子供ではなかった事により、少しはほっとしつつ忍刀を振るうが――。 ●真意 ドゴォォン そんな攻防の最中に爆音が上がった。その音にはっとし、皆の視線がそちらに移る。 その一瞬を敵は見逃さなかった。瞬時に夜を発動して、周囲の時間が止まる。その停止時間は僅かなものだが、彼にとっては十分な時間だ。一抹を押しのけ菊柾に迫る。そこで時間が戻って…目を僅かに見開く一抹。それはその筈だ。瞬間移動でもされたように見えたのだろう。 「くっ!」 そこで一抹が身体を割り込ませて…再び時間は停止した。けれど、今度は青年のものではない。閃癒を終えた志郎がそれに気付いて応戦に出たのだ。 (「一抹さんには悪いけど、あれは防ぎ切れない…となると今出来るのは」) 青年の行動を少しでも妨害する事。狙うは懐から取り出され打ち下ろされそうになっている短刀…ではなく彼の腕だ。そう判断して再び鑚針釘を投げる。 ドスッ ドスッ 時間が戻ったと同時に鈍い音がした。 それは一抹の脇腹に刺さる短刀の音と釘が刺さった音との両方だ。 『えっ!!?』 その一瞬の出来事に残りの仲間が声を上げる。 「一抹ッ!」 菊柾がそれを知り駆け寄った。彼にも多少刃が届いていたが、気にしない。 「やはりあなたでしたか…まだ生きていたとはねぇ」 だが、それよりも彼らを驚かせたのはこの声の主。いつ着たのか、初めに志郎がいた付近に佇む人影…男だった。大した体格ではないのに、両腕に二人の少女を抱えて薄ら笑いを浮かべている。そして、さっきの爆音の方角は留置所のある辺りで……どうやら、彼が抱えているのは捕まっていた子供達らしい。 「時間稼ぎご苦労でしたよ、黙幽…」 突然現れた男が青年に告げる。 (『こいつが子供達を…』) 今まで感じた事のない威圧感――アヤカシとはまた違うそれに開拓者達は困惑する。けれど、ここで引く訳にはいかない。どこか禍々しい空気を感じつつ、再び獲物を奮う。だが、彼は子供達を抱えたまま軽がるとそれを避けて見せる。 「なぜ…なぜ子供達に罪を犯させるのじゃ。汝らも…どうして?」 子供を前にして堪えきれなくなったのだろう梅が問う。 「ご婦人、罪を犯しているのはこの国自体ですよ…それにねぇ、彼女達は自分の意思で私の元にきたんです。ほら、言ってあげなさい」 男はそう言って少女に言葉を促す。 「狩狂様はいい人なんだもん」 「私達を助けてくれたんだからー」 その言葉に梅他皆返す言葉が浮かばなかった。洗脳かとも思ったが、特に目に曇りはなく、彼女らは本当にそう思っている様だ。彼らが黙るのを見て、男はにやりと笑う。 「さて…これで目的は完了ですし、今日はこの辺で失礼しましょう。黙幽、いけますか?」 ちらりと青年に視線を送り男が言う。 「はい、問題ありません」 青年もそういうと痛む足を感じさせない動きですくりと立ち上がり、その場で再び木葉隠を発動する。 「あ、待て!!」 そう言ったがもう遅かった。 「ご主人!!」 手紙を届けて帰って来たポチが一抹の傷を見て驚く。 傷自体はそれ程深くないのだが、大事を取れと大袈裟な位に包帯を巻かれてしまったらしい。 「すまぬ…深読みできなかった私のミスだ」 警告文には『余計な事をするな』と書かれていた。そこから菊柾はてっきり今調べている件から手を引けという意味であり、それが出来ない自分を狙ってくるとばかり思っていたのだが、その内にあったのはそれだけではなかったらしい。少女達の奪還…その為の陽動。囮になるつもりがまんまと相手の策にはまっていた様だ。 「だが敵の顔がわかった。あの男…賞金首だってな」 一抹が差し入れの酒を飲みつつ言う。 「ああ、しかし何処か知ってる気も…」 「…?」 そう問う菊柾をいつもの仏頂面で見返す一抹だった。 |