【猫又】使われた必殺技
マスター名：奈華 綾里
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| ■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「よくやってくれた。しかし、おまえの腕も変ってないようで安心したぞ」 園遊会の終わったその夜に菊柾しゃんが家を訪れて――ご主人と共に今日何杯目かの杯を交わす。 （「何度見ても凄い人には見えないにゃ〜」） おいらはそう思いつつも黙っていた。今日はご主人も何処か機嫌がいい。 相手が彼であるからなのか、久々に肩を動かしたからなのかそこら辺は判らない。それでもご主人の口元には笑みが浮かんでいるのが見て取れる。園遊会で見せた一閃…おいらのかまいたちよりも早い一撃。寝ていると思っていたのに、気付いたらすでに腕は動いていたのをおいらは覚えている。 「おまえにもご褒美をやろう。ほらこれだ」 その声においらが顔を上げれば、菊柾しゃんが七輪で焼いたホタテが貝のお皿に乗せられて差し出されていいた。 「ありがとにゃー♪」 おいらは嬉しくなって近付いたのだが――。 「おまえは何もやってないだろう…俺が頂いてやる」 そう言ってぱくりと一口。貝のお皿の巨大ホタテがご主人の胃袋へと消えていく。 「ごしゅじぃ〜〜ん」 「一抹、さすがにそれは大人気ないぞ」 おいらと菊柾の言葉にもご主人は微動だにしなかった。ただ黙々と咀嚼を繰り返す。 「全く…仕方ない。新しいのを焼いてやろう」 菊柾の言葉においらは目を輝かせ、こくこく首を動かす。 けれどそんな幸せは長くは続かない。その数日後、おいらを新たな問題が襲うのだった。 「あ、あれはなんだ！？」 真夜中の事だった。明かりのない空に真っ赤な炎が突如現れ、それが港に向かって流れ落ちる。 「まさか隕石！ いや違う…あれはどこかで」 ドゴォォン それに続いて落ちたのは複数の雷――それが倉庫に直撃し、港の壁を破壊する。 「侵入者だ！ 捕らえよっ！！」 その襲撃に慌てて動いた警備員達だったが、 ドスッ ゴス バキッ 全てがいとも簡単にいなされていた。 「余裕〜、天才に歯向かうなんて一万年早いよー♪」 「悪は成敗するのが常。悪足掻きはやめた方がよろしいかと…」 腕に覚えがあるのだろう。各々が言葉を発しながら警備達を見下す。 相手は覆面を被っていた。だから顔は判らない。 しかし、その技には見覚えがあった。そうこれは――。 「号外、号外ーー！！ 港が何者かに襲撃されたってよ！」 町の瓦版が号外をばら撒く。それ同時に一抹の元に菊柾が再び訪れる。 「どうしたのにゃ？」 飛び込んできた菊柾の慌てようにおいらが顔を洗いつつ尋ねると、 「どうしたもこうしたも……って一抹はどうした？」 おいらしか出ないのを見ての彼の問い。 「なんだ…朝っぱらから…」 そこでご主人もようやく顔を出して、菊柾から聞かされたのはまだ公になっていない情報。 「昨日の港の襲撃なんだが…それで使われた技が園遊会で披露された物と同じだったらしい」 「何？」 「相手の顔は判らないし、まだこの話は上層部しか知らないがな。しかし、このままではじき出演した者達が疑われてしまう。私はおまえ達でない事は信じているが、他はそうもいかんだろう。しかも七草の後のこの騒動では、我々はともかくあいつも…」 言葉を濁してはいるがおよその見当はつく。彼はその人物とも繋がりがあるようだ。 「だが先手は打っているのだろう？ 俺らはその犯人を見つければいいのか？」 「ああ、早急に…頼む」 「とは言ってもまだこの町に相手がいればいいが」 「それは問題ない。何のつもりか犯行予告をしてきている。次はこの場所だ」 紙を差し出されて、それを受け取るご主人の肩に飛び乗り、おいらもその紙を覗き込む。 「これって確か…」 「そう、仁生の宝物庫だ」 言葉にする前に菊柾が答えた。目的は判らないが、このまま見逃す訳にはいかない。 「面倒事は御免だったんだがな…」 ご主人はいつもの顔でそう言うと、気だるげに準備を始めるのだった。 |
■参加者一覧
村雨 紫狼（ia9073）27歳・男・サ 
マルカ・アルフォレスタ（ib4596）15歳・女・騎 
リンスガルト・ギーベリ（ib5184）10歳・女・泰 
リィムナ・ピサレット（ib5201）10歳・女・魔 
ユウキ＝アルセイフ（ib6332）18歳・男・魔 
衝甲（ic0216）29歳・男・泰 |
| ■リプレイ本文 ●証明 園遊会に参加した者達が自動的に集まるのは必然だった。 なぜなら彼らが披露した技が使われ、疑いがかけられるまでにそう時間は残されていない。そうなれば彼らのみならず開拓者は信頼を失い、果てはこの国までも…。 「まずは我らの身の潔白を証明せねばの」 「現場も見てみる必要がありそうだよねー、リンスちゃん」 「そうじゃの！」 相変わらず仲のいいリンスガルド・ギーベリ（ib5184）とリィムナ・ピサレット（ib5201）であるが、実際の所はこのままにしておけない理由がある。それはリンスのメイドでリィムナの姉の存在――彼女は曲がった事が大嫌いで、リンスが悪さをした時等はきついお仕置きをされた経験があるのだ。 「どうかしたのにゃ？」 青ざめたまま御尻を押さえた彼女にポチが問う。 「な、何でもないのじゃ！ とにかく今回のこの事件いくつか矛盾しておる。そこから説得に持ち込むのじゃ」 「そうですわね。では早速参りましょう」 マルカ・アルフォレスタ（ib4596）も神妙な面持ちで今回への思いを秘めている。 「すいませんが、僕は情報収集に行きますね」 そんな中、一人だけ別行動を希望したのはユウキ＝アルセイフ（ib6332）だった。 「おまえ、その格好…」 髪は枝垂桜の簪で留め、身体を包むのは青のドレス――傍から見れば華奢な体格からして女性に見える。 「はい、変装してみました…ジルベリア出身の観光客といった設定なのですがどうでしょうか？」 くるりとその場で回転すると、ふわりと裾が揺れる。 「いやぁ、これはたまげた。誰かと思いました」 「ち、俺も女装なら負けねーんだけどな。今回はおまえに任せる…代わりにポチ、おまえは俺と行動だぜ。いいか、一抹っさん？」 それに衝甲（ic0216）が驚き、村雨紫狼（ia9073）が続く。 「ああ、構わん。好きにしろ」 そして、ポチ同行の許可が下りた所で彼らは場所を移す。 その場所とは次の襲撃予告場所である宝物庫があるという別宅だった。ちなみにここが王の宝物庫になっている事は一部の人間しか知らない。一抹がどうして知りえたかは兎も角、それ程の場所であるから彼らに対する警戒も強い。菊柾から話は通してあっても彼らを見つめる視線は何処か疑いの色を宿している。それは彼らが港の襲撃の内容は聞かされており、中にはあの園遊会を観覧した者も混じっているからだ。 「…菊柾様はああ言ったが、ここは俺達だけで十分だ。他に回ってもらおう」 到着するや否や彼らに浴びせられたのはそんな言葉で…予想はしていたが、溜息を吐き出したくなったり。 「そんな事言わないで下さいまし。わたくし達開拓者の技は人々を守る為にあるのですわ。決して罪無き者を傷つける為のものではございません。そのような我々の誇りを傷つけた輩をこの手で捕らえたいのです。どうぞ、協力させてくださいまし！」 礼儀正しくも熱意の篭った瞳でマルカが訴える。 「それにおかしいとは思わぬか？ もし我等がやったとして何のメリットがある？ 顔を隠しているのに、園遊会で披露した技を使っているのじゃぞ。顔を隠したならば我等と判らぬ技を使うのが普通…つまりは我等を貶める輩の仕業という事じゃ」 「そう言われれば、そうだよな…」 リンスの説明に警備志士の一人が納得するように言葉する。 「それにあんなもんはスキルの組み合わせだ。誰だって再現可能だＺＥ」 「あの時言った言葉に偽りはない。どうか頼む」 警備の中に志体持ちも複数いる。技に関してのそれも心得ているだろう。 「しかし、一％でも確率があるならば通す訳には…」 「だったらあたしはないよ。だってあの後転職して魔術師のスキル全部忘れちゃってるしね」 そこで口を開いたのはリィムナだった。 「魔術師として最後の晴れ舞台のつもりで参加したんだよねー。だからあの後吟遊詩人になったし、依頼にも出てるから転職諸々確認して見て。開拓者だって人間だから準備やら疲れもある。そんな中であんな襲撃できると思う？」 その言葉に警備志士達が顔を見合わせ、ひそひそ相談に入る。 「もう、疑い深いなー」 ぷぅと頬を膨らませる彼女を隣で宥めるリンスガルド。その後ろでは…。 「見つかるなよ」 「わかってるにゃ」 そう言い小さな体門を潜る。 「わかった。警備を認めよう…但し、中での警備人はこちらで決めさせてもらう」 全員は入らせないという事だろう。しかし、それでも彼らへの疑いは多少軽減されたようだ。 「感謝致す」 衝甲があの時同様一礼する。 「まだ時間があるから港の現場にも行きたいんだけど、いいかなー？」 転職しているとはいえ経験はある。現場の傷跡から相手の力量等を判断する事が出来るかもしれないとリィムナが言う。予告日は明日の夜、それまで彼らは行動しつつ策を巡らすのだった。 ●気配 一方変装して先に襲撃現場に向かっていたユウキは付近の人々に声をかけていた。 「事件があったんですよね…どんな感じでしたか？ 怪しい人とか見ませんでした？」 俄か探偵か野次馬か、はたまた噂好きの旅行者か。どことなくそんな雰囲気を漂わせて彼が問う。 「凄い音がしてね、気付いたら煙が上がってて……屋根に人がいたんです」 「屋根、襲撃者ですか？」 「さあ、暗くて顔は見えなくて…背格好は割と低目のだったかしら…けれどあれってやっぱり…」 その後を口にはしなかったが、この人はきっと園遊会を思い浮かべたに違いない。後から聞くと見に行ったという証言が取れた。 「…低目か。小柄な人だったのかな？」 「そこの者、何をしている！」 思案する様に顎に手を当てて、少し近付き過ぎたか。現場保存の為、辺りを警戒していた志士に呼び止められる。 「えっと…その…」 「なんだ、歯切れが悪いな。ここは近付いていい場所では」 「悪いな、俺の連れだ」 そんな彼を見つけて一抹が助け舟を出す。肩に手を置き、いつもの仏頂面でぼそりと言う。 「そ、そうか…ならば早くここから立ち去れ」 「ああそうしたいんだが、船がまだでな。いつ来るんだ？」 ここは港だ。全てが閉鎖されている訳ではない為、それを滞在理由に挙げてみる。 その間にユウキは奥の現場を遠目に観察した。壁は確かに皹が入り一部壊され、飛空船もものの見事に鉄屑と化している。あの分では修復は不可能だろう。熱による甲板の焼跡やら、雷撃での柱の崩壊が見て取れる。だがそこは後の者に任せ、彼が目を付けたのは壁の傷・ 打撃が入った場所を見つめて彼は思う。 （「距離があるから判らないけど…確かに少し低いかも」） 「ん？」 そんな折、一抹が突然振り返った。動作としてはゆっくりであったが、何か気になる事があったらしい。 「一抹さん？」 「…いや何でもない」 ユウキの声に彼はそう言った。 （「…へぇ、あの方程の使い手がいるようですね」） 咄嗟に背を向けて路地を歩き始めた青年が心中で呟く。 そう言えばあの男は園遊会でも居合のような技を使っていた。だがそれがどうした。自分の周りにもあの男と同様の、いやそれ以上の能力を有している者はいる。そして自分も…それなりに力がない訳ではない。 「さて、それよりもこの対応の早さ…一体誰が？」 何かある――一抹を警戒しつつも頭を切り替えて、彼の自分の直感に従うのだった。 ●配置 現場検証を終えた結果、 「まさか、あたし程の威力があるとか信じられないよー」 「強敵のようですわ」 「でも悉く捕まえねばならぬのじゃ！」 威力は多少劣るもののほぼ彼女達と同等の力を持っているのではないかという結論に至った。港の警備についていた者達は一瞬でやられたという事で詳しい事は判らない。ただ覆面をしていた事だけは確かなようで、顔を隠す必要があったのだけは間違いない。 「ここだけはやられる訳にはいかん。皆のもの気を引き締めて頼むぞ」 そこで菊柾も今日は別宅を訪れて、終日滞在する構えだという。 「どうだ、ポチ。怪しい場所はあったか？」 結局、中の警備に入れたのは二名。蔵を希望しており園遊会では料理作りだった紫狼と転職したリィムナの二人である。二人はそれぞれ西と東に分かれて待機。外・東のリンスは呼子笛を首に下げ、いざという時に備えている。そして正面には衝甲とマルカが、裏口には一抹とユウキが警戒し、その他巡回はこれまで通り警備志士達が行っている。 予告状には日と場所はかいていても時間までは記されていなかった。つまりはいつ来るかは判らず、緊張の警戒態勢が続く。 「床下まで確認したけども何もなかったのにゃ。警備の皆しゃんはみんな真面目みたいにゃよ」 先に入っていたポチが紫狼に報告する。となると敵は一体何処から進入しようというのだろうか？ そういえばここが宝物庫であるという事をどうやって知り得たのかも気になる所ではある。 バシュンッ そうして時は闇が世界を支配し始めた頃、辺りに動きがあった。 流れ星が如く軌道を描いて一本の矢が別宅の屋根を貫通し、池の底に突き刺さる。矢の軌道は東側から…リンスが早速笛を吹く。 「本当に真似してきているみたいだねー」 今の矢はきっと爆星――披露した当の本人は今回ここにはいないが、見ていた彼らは一瞬でそれを悟る。瓦の屋根が衝撃波で捲れ、池の水が舞い上がる。別宅周辺の空気が一瞬にして変わった。 「隠れてないで出てくるのじゃ！」 矢の目撃と同時に塀に上がったリンスが辺りに目を凝らす。すると遥か先の屋根に火炎球。ここからみれば鬼火玉の様にも見えるが、もしあれがあの時と同じサイズまで膨れ上がるとしたら？ 大惨事である。 「うむ、已む終えん」 リンスはそう言って瞬脚を発動した。少しでも早くアレを止めなくては。逸る心を抑え、間に合う事を願う。次第に大きくなる火炎球に近付き、彼女は地を蹴った。相手は屋根の上…シノビであれば難なく飛び上がれるだろうが、彼女はそうはいかない。それでも身体のばねを最大限に活かして跳び上がり塀を経由し、屋根に上がればそこにいたのは二人のみ。 「なんだ、一人しか釣れなかったの？」 飛び込んでくる彼女に向かって一人が弓を連射する。 「ッ！？」 一人出来たのはまずかったか。もう一人の火炎球は既に大きく膨れ上がっている。止められるか、いや止めなくては。弓を受けるのも構わず、兎に角必死に前へ足を運ぶ。八極天陣の力で急所は免れていたが、このまま受け続ければどうなるか判らない。 「何この人、信じられなーい」 そんな中で聞き取った声は随分幼かった。身長も彼女と変わらないかもしれない。 「遅くなったな」 そこへ一抹も合流。裏口から彼女が走る姿を見ていたのだろう。手にした刀の峰で弓使いを打ちつける。 「わ、わわっ！」 「お主の相手は妾じゃ！」 一抹のそれで弾かれた一人を見て、もう一人が動揺した。その隙にリンスが接近する。 「戦場では余所見は禁物じゃぞ」 そして彼女は百虎前疾歩の剣突をお見舞いして、どさりと音を立てて崩れる敵。 「大丈夫か？」 一抹が尋ねる。何のこれしき…そう答えたが、刺さった矢が身体の自由を奪ってゆく。どうやら何か仕込まれていたらしい。 「肩、貸して貰えるかの？」 そのお願いに一抹は無言のまま、彼女を抱きかかえるのだった。 一方、別宅への襲撃があれで終わった訳ではなく、更に発展を見せている。 「空から何か降って…ってくそっ、やられた！ 門を開けろ！！」 襲撃の発生はリンスの笛で知らさせている。 だが、進入経路が上からとあっては飛び道具を持っている者が以外、対処のし様がない。警備志士も弓を取り狙うも闇に紛れて当たらない。 そこでリィムナがフルートを手に取った。 奏でる曲は夜の子守唄…これであれば相手を眠らせ捕縛が簡単になる。が、 カンッ 彼女の手を狙って投げられたのは一本の棒手裏剣。それが見事に彼女の笛を打ち落としている。 「あっ」 慌てて拾おうとする彼女に追い討ちの一発。 「危ないっ！」 マルカが飛び出した。笛の合図で既に外周にいた仲間はこちらに集結しつつある。リィムナを突き飛ばして振り返れば、そこには蔦の絡んだ笛の氷柱が出来ていた。そしてピシャリと落ちる雷撃。 『んっあぁッ！？』 思わず声が出た。それはアイススパークの分解版。笛と共にリィムナが氷漬けにならなかった為、標的を二人にずらしたらしい。さすがの二人も雷撃の衝撃に動い。 「二人をよくも…俺が全員相手してやるぜ！」 そこで紫狼が唸りを上げる。屋根を飛び降りて来た敵に向けて怒りの咆哮。 「俺の二天一流は天下泰平の為に我が師から必死で賜ったもんだ…それを汚す奴は覚悟しやがれッ！」 とは言うものの疑い回避の為、刀は一本のみしか持参していない。一本の刀で複数を相手にするのは骨が折れる。 「助太刀致します」 それに衝甲が加わった。深く腰を沈めて、相手の出方を窺う。そこに警備も加われば、数の上では優位に立ったかのように思われたが――敵の一人がオーラバーストを強行。続いてブリザードストームの激しい冷気が襲い、踏ん張るのがやっとの状態へ。 「あれをどうにか…」 そこへ裏口から回り込んできたユウキが氷漬けの笛に狙いを定めた。この場をどうにかするには自分の小技ではどこまで通用するか判らない。そこであれに賭ける事を考えて、 「ポチ、あれを！」 氷柱に視線を向けて指示を出す。幸い、それで彼も事を理解してくれたようだ。鎌鼬の風の刃が氷柱を破壊し、ユウキの蔦がそれを受け止める。 「させないよっ！」 だが、ここでも邪魔が入った。紫狼の咆哮の影響を受けなかった者が彼に迫る。そして、敵の拳が鳩尾に入った。 「くはっ…」 元々物理に強い訳ではない為、身体が悲鳴を上げる。けれど笛は死守し、リィムナの方に投げる。そこへも邪魔が入りかけたが、今度はマルカが立ちはだかり、 「好きな様にはさせないわ！」 槍で一閃――彼女は気力で立っている。 そして、届いたのはフルートにより演奏されるゆったりとした調べ――戦闘中の者達の動きが鈍る。 ピィーー そこへ新たな音が発せられ、それと同時に敵が引き上げて始める。 「待ちなさい！」 そう言ったが追いかける余裕はなかった。 敵の手掛かりが逃げてしまう。肩を落としかけた彼らだったが、戻ったリンスと一抹が屋根の二人を確保しており、ほっと息を吐く。 その後覆面を取って正体を確認した所、その下にあったのはまだ十も満たないであろう子供の姿であった。 「詳しくは調べてみないと判らんが、今日は皆よくやってくれた。感謝する」 菊柾も手にしていた刀をしまって、皆を労う。 （「成程、あの男か…」） それを見つめる影――それに気付き、そっと一抹が視線を走らせる。 だが、彼がその場で見つかる事はなかった。 |
