|
■オープニング本文 前回のリプレイを見る ● 諏訪屋敷。 その奥座敷に一人の男の姿があった。 瞑目しているが、その怜悧な相貌から男の通常ならぬ知恵者であることが窺われる。諏訪顕実であった。 と、その眼がすうと開いた。戸のむこうに人の気配がある。 「伝えたか」 顕実が問うと、確かに、と気配はこたえた。 「よし。つらいことであろうが、我慢せよ。確かに隠し蔵の在り処、知ることができるとするならお前の娘を篭絡するしかない。もし開拓者の読みどおりであるのなら、お前の娘は雷に操られておる。どのような手段を使っておるのかはわからぬがな。しかし、これこそはまさに好機」 顕実の口元にうすい笑いが浮いた。 「娘をつかえば我らの動き、彼奴らから隠しおおせることは必定じゃ。開拓者が雷の根城を探り出したこともな」 ● そこは破寺の地下であった。 何時、誰が作ったかわからぬ広い地下の空間。蝋燭のみが明かりであるそこに、幾つかの影があった。 と、横たわっていた男がむくりと身を起こした。 「顕実め。大慌てで我らの居所を探っておるわ」 男が嗤った。そうか、と肯いたのは憂愁の翳を頬に刻んだ若者だ。北斗である。 北斗は背をかえすと、壁際で背をもたせかけている人影に歩み寄っていった。 人影は面をつけていた。故に男であるのか女であるのか、また年は幾つくらいであるのかも判然とせぬ。 「大丈夫か、黄泉丸」 北斗が見下ろした。すると黄泉丸と呼ばれた男がわずかに顔をあげた。 「ああ。大事ない」 黄泉丸がこたえた。が、その声音は苦しそうだ。 「術の使いすぎだ。少し控えた方がよいのではないか」 「だめだ。まだ足りぬ。陰殻のシノビども全てを操るにはもっと蛇を放たねばならぬ」 「それはそうだが……。しかしお前が死んでしまっては何もならぬ。シノビに襲われ、死にかけていた俺を助けてくれたのはお前だ。その恩にはまだ報いてはおらぬ」 「そう思うのならば、何としてもお前の夢をかなえてくれ。無残なる掟の呪縛から陰殻を解き放つというお前の夢を」 「わかった」 北斗は肯いた。そして背をむけた。 故に彼は知らぬ。面から覗く黄泉丸の眼に、その時ぞっとするほど陰惨な嘲弄の笑みがよぎったことを。 |
■参加者一覧
大蔵南洋(ia1246)
25歳・男・サ
九法 慧介(ia2194)
20歳・男・シ
ルオウ(ia2445)
14歳・男・サ
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
孔雀(ia4056)
31歳・男・陰
亘 夕凪(ia8154)
28歳・女・シ
レイス(ib1763)
18歳・男・泰
高尾(ib8693)
24歳・女・シ |
■リプレイ本文 ● 諏訪屋敷。 蝋燭の炎がゆれる奥座敷に五つの人影があった。 一人は怜悧な相貌の男。諏訪顕実である。 対するに四人の男女。一人は美麗な相貌の華奢な若者。おそるべきことに顕実であっても気配を感じ取ることは困難であった。 もう一人は二十歳半ばほどの女である。肌は水が滴っているように瑞々しいが、全身から漂う色香は熟した果物のように甘い。 そして三人め。十代半ばほどの可愛らしい少女であった。無邪気な笑をうかべてはいるのだが、どこか得体の知れぬところがある。 四人めは男であった。が、これが異様な出で立ちで。濃い化粧を顔に施していた。 若者は名をレイス(ib1763)、女は名を高尾(ib8693)、少女は秋桜(ia2482)、男は孔雀(ia4056)といった。 と、障子戸のむこうから声がした。下働きの娘のもので、茶をもってきたらしい。 「顕実様、お人払いを」 娘が湯呑を置くのを待ちかねたように秋桜がいった。娘が立ち去るのを確認し、レイスが口を開いた。 「乱童のことですが」 「乱童?」 顕実が眉をひそめた。 「乱童がどうかしたか?」 「身柄を移送してほしいの」 高尾がいった。 「隠し蔵の在り処が知られてしまった以上、もはや戸隠の森にはおいておけないわ」 「だから別の所へ移してください。その上で」 秋桜の眼に刃の冷たい光が閃いた。 「処刑を。雷のことを吐かぬ以上、生かしておいも無駄でございましょう」 「娘」 顕実は苦く笑った。顔は可愛いが、恐いことをさらりといつてのける。 その時、高尾がすっと顕実の手をとった。そこには一枚の紙片が――。 むくりと男が身を起こした。薄暗いそこは、どうやら地下であるらしい。 「確かに聞いたぞ」 男がニンマリした。そして居並ぶ雷忍の面々を見回すと、 「奴ら、乱童を移し、処刑するつもりのようだ」 「処刑?」 ふふん、と少年が嗤った。般若丸だ。 「そうはさせるものかよ。今度こそ俺達の恐ろしさ、思い知らせてやる」 「ならば北斗、般若丸、蛍火、お前たち三人でゆけ」 能面に似た仮面をつけた男がいった。荒い息をつき、苦しそうだ。 「黄泉丸」 憂愁の翳をおびた端正な相貌の若者が口を開いた。 若者――北斗は気遣わしげな視線を黄泉丸に投げると、 「大丈夫か? ひどく疲れているようだが……俺も残った方が良いのではないのか」 「心配はいらぬ。それよりも乱童だ。諏訪のシノビごとき、何十何百かかってこようが問題ではないが、開拓者がからんでおる。奴らに油断は禁物ぞ」 「わかった」 頷くと、北斗は背を返した。 ● 乱童移送の当日である。 いまだ蔵の中で厳重に戒められたままの乱童の前に一人の少女が立った。秋桜である。 「お久しぶりでございますなあ」 秋桜が微笑みかけると、乱童は不敵にニヤリとした。 「小娘。俺に何の用だ。雷のことは吐かぬと先刻承知のはず」 「はい」 秋桜の笑みが深くなった。その手から白光が噴出する。 仕込み杖の一閃。乱童の頬に微かに血の筋がはしった。 「何の真似だ。ぬっ」 乱童が小さく呻いた。 わずかな目眩。五感が乱れている。 「きさま……毒を仕込んだな」 「そういうことでございます。この毒は徐々に効力を表し、一日かかって死に至らしめる私特製の毒。解毒は私のみが可能。私が帰ってくるまで、大人しくお待ち下さいませ。嘘だとお思いでしたら、ご自由にどうぞ。開拓者にも、未知の技を扱えるまでに成長しているのですよ。あまり私達を舐めない方がいい」 あやすように秋桜は告げた。それは嘘であったが、さしもの乱童にも事実を知る術はなかった。 その半刻後のことである。九人の諏訪シノビ、そして秋桜に守られた駕籠が蔵の前から出立した。 同じ頃、残る七人の開拓者の姿はある里の入口にあった。いや――。 そこを里と呼んでいいものか、どうか。 里は無残に焼き払われていた。人の姿は皆無である。 夜叉一族。 今は滅びさったシノビ一族の隠れ里であった。 「……まさか潜伏先が夜叉の里とは」 嘆くがごとく。女が声をもらした。 豪放無頼といってよいか。まだ三十にもならぬ女とは思えぬ落ち着きをもったその者の名は亘夕凪(ia8154)といった。 「因果は回る、と言う事ですかね」 ぽつりと呟いたのはレイスである。と、あーあ、と慨嘆した者がいる。飄然たる風貌の若者。九法慧介(ia2194)であった。 いまだ煙の匂いが残っていそうな里を見渡すと、慧介は顔をしかめた。 「義弟から話だけ聞いてたけど……。ふーん。ここがそうか…派手にやったねぇ」 慧介は唸った。 そう。彼らのいうことから察せられるように、夜叉一族と開拓者の因縁は浅くない。実のところ、夜叉四十九忍衆を滅ぼしたのは開拓者なのである。さらにいえば里を焼き払ったのは、その開拓者の中の一人であった。 でも、と慧介は言葉を継いだ。 「とりあえず、今は何も無いのは助かるよ。関係無い人を巻き添えにする心配が無いからね」 「確かにそうだよな」 勝気そうな、いかにも腕白坊主という雰囲気の少年が肯いた。ルオウ(ia2445)というのだが、その面にはいつもの自信に満ちあふれた輝きはない。 何故なら敵の強大さを知っているから。たった一人の雷シノビに数人の開拓者がかり、ようやく対抗できたという始末であった。 「だからこその策よ」 孔雀はニンマリと笑った。 「あの下働きの娘、確かに立ち聞きしていたわ。細工は粒々、仕上げを御覧じろ、というところかしら」 「かかってもらわくちゃ困るよ」 陰鬱な声で夕凪はいった。 「雷忍一人相手でも痛み分けだってのに、根城の周囲で分断策という訳にもいかぬ。策にのってここから離れてくれりゃあ奴らは百年めだが、しくじればこちらが百年めということになる」 溜息をこぼす夕凪であるが、その脳裏をよぎることがある。下働きの娘のことだ。 此度の策。娘も駒のひとつとして勘定されている。であれば、なおさら救える命は救っておきたかった。 「最終的には諏訪の頭領に任せたい所だが――うん?」 夕凪は気づいた。傍らに立つ無骨な、それでいて温かな笑みをうかべそうな男の不自然な様子に。何かをしきりに考えているようだ。 「どうかしたのかい?」 「あ、ああ」 男――大蔵南洋(ia1246)は夢から醒めたように眼を見開いた。 「恐るべき手練れの者共……。魔性といっても差し支えないかもしれぬ。相対する前にどのような者を敵としているか、今一度思い返しておくべきであろうと思ってな」 「そうだねえ」 夕凪が肯いた。 彼女が知るのは北斗、般若丸、蛍火、乱童、そして糸使いのシノビだ。蛇の術を使う謎の存在は耳にしたのみで、直接相対したことはない。 此度の標的である蛇術使いとは、果たしてどのような者であろうか。夕凪は南洋を見た。彼はその者と相対したことがあるはずであった。 「確かに」 南洋は言葉を濁した。 確かに南洋は蛇の術をつかう仮面の者と相対した。その時、彼を含めた三人の開拓者がその者にかかった。南洋の手には今も仮面の者を斬りつけた手応えが残っている。 が、結果として仮面の者は斃せず、三人の開拓者は意識をなくして地に這っていた。あの時――仮面の者の胴を薙いだ直後、一体何が起こったのであろうか。 「そういえば里を根拠にしていたシノビの一族――夜叉一族といったか。その頭領は恐るべきアヤカシであったな」 「ああ」 重々しく夕凪は頷いた。夕凪はそのアヤカシと相対したことがあったのである。 「蛇を操る術といい、抑々の胴元はよもや同じモノやも知れないねえ……仮面の蛇遣いさえ手先に過ぎぬ程の」 「ンフフ」 孔雀は密やかに嗤った。そして赤くぬめった舌で唇を舐める。 「もうすぐ会えるわね。待ち焦がれたわ」 ● 「あれか」 ルオウが足をとめた。眼前、闇に沈む荒れ寺がある。その地下に雷の根城があるはずであった。 眼を見交わし、夕凪と南洋、慧介と孔雀の四人が走った。と、すぐさま慧介の足がとまった。彼の超人的聴覚は突如わいた呼吸音をとらえている。数は二。 四人の開拓者は見た。荒れ寺の屋根に上に立つ二つの影を。 「何者じゃ、うぬら。殺気を抱いておるところからみて敵のようじゃが。諏訪か。――いいや、違うな」 「開拓者だ」 夕凪が抜刀した。魔刀、天津甕星を。 たばしる刃。その先端から真空の刃が迸りでた。 一瞬後、二人の雷忍が空に舞った。その背後、荒れ寺の屋根が爆裂したようにはじけている。 「はっはは。そんなもので俺達が殺れるか」 男――漣玄三郎が哄笑をあげた。一斉に四人の開拓者が散る。初手の攻撃で斃せるほど雷忍があまい敵でないことは承知している。 「しゃあ」 もう一人の雷忍――兵部の手から五つの光条が噴出した。咄嗟に南洋が跳び退る。が、逃げきれない。 咄嗟に南洋が刃ではじいた。三つの光条を。 「くっ」 南洋は呻いた。二つの光条が彼の身体を切り裂いている。 「鋼の糸?」 光条の正体を悟り、南洋は眼をむいた。彼の身体は練力により硬化している。もし硬化していなかったなら、今頃はどうなっていたか。 「大蔵さん!」 慧介が抜刀した。その顔からは表情は消えている。そうなった時、この無邪気な若者は恐るべき剣鬼と化す。 と、その前に玄三郎が立ちはだかった。 「ぬんっ」 慧介の刃が逆袈裟にはしった。が、慧介の刃は空しく空をうった。玄三郎の姿は一瞬にして慧介の背後にまわつている。まるで瞬間移動したとしか思えぬ迅さであった。 「遅いんだよ」 玄三郎が笑った。その身体には明滅する不気味な紋様が浮かんでいる。唸る玄三郎の刃が慧介を斬り裂いた。 「出たわね」 孔雀の眼が喜悦に輝いた。その手から符が飛ぶ。 符が光の砕片と化した。術式展開。泥濘状の式が玄三郎に襲いかかった。 「今の俺達に式は効かぬ」 兵部の手から十条の光が乱れ飛んだ。式が切り裂かれる。 「はっはは。忍法、旋風糸」 「くっ」 夕凪が跳び退った。刹那、激痛が夕凪の背にはしった。その背が知らぬ間に切り裂かれている。 「何っ」 夕凪は背を切り裂いたものの正体を見とめた。 鋼の糸。 眼に見えぬほど細いそれは、まるで蜘蛛の巣のように開拓者達を取り囲んでいたのである。 「見たか。忍法、獄門陣。下手に動かば手足のみならず、首が落ちるぞ」 兵部はニンマリした。 同じ頃、乱童移送の駕籠もまたとまっていた。九人の諏訪シノビの足がとまっている。いや、動かない。彼らの足はいつの間にか足首まで砂に埋まっていた。 「忍法、砂地獄。動けまいが」 嘲笑う声が響いた。般若丸だ。その傍らには二つの影。北斗と蛍火であった。 「乱童は返してもらうぞ」 北斗がいった。背後にむけて。 「さすがは」 苦笑いし、秋桜が姿をみせた。 「しかし残念でございますなあ。ここに乱童はおりませぬ」 「なるほど。俺達を誘き出したか」 北斗の眼がすうと眇められた。 「お引き取りを。乱童にはわたくし特製の毒を仕込んでおりまする。ひとりでもここにいる者に手をかけたなら、乱童の命はありませぬと思しくださいませ」 「どのみち乱童は殺すんだろ。なら、冥土の道先案内としてうぬら、皆殺しにしてやるよ」 般若丸の眼が殺気に赤く光った。 瞬間、秋桜は死を覚悟した。いかな秋桜とて、超人を超えた怪物である雷忍を相手取って生き延びる術などあろうはずがなかった。 ● ルオウとレイスは音もなく荒れ寺地下に忍び入った。いつの間にか高尾の姿は消えている。 広い地下空間。奥に人影が見えている。 仮面の者――黄泉丸。標的だ。 「うん?」 レイスは眉をひそめた。黄泉丸の様子がおかしいことに気づいたのだ。まるで病であるかのようにぐったりとしている。 勝機。 そう悟ったレイスの姿が消失した。一瞬にして黄泉丸との間合いを詰める。 「ふんっ」 レイスの脚がはねあがった。膨大な精霊力をまといつかせたその一撃は青い閃光と変じ、さらにそれは龍へと変じた。 龍が駆け上る。咆哮をあげて。 蹴りをぶち込まれた黄泉丸が吹き飛んだ。床をごろごろと転がっていく。が、呻いたのはレイスの方だ。彼は気づいていた。刹那の時、黄泉丸が自ら後方に跳び、レイスの蹴りの威力を削いだことに。 「今度は俺だ!」 ルオウが迫った。蹴りを放つ。 それを黄泉丸が躱した。が、足がよろけ、躱しきれない。 蹴りを受けて黄泉丸が仰け反った。その隙をルオウは逃さない。袈裟に秋水清光の刃をはしらせる。 肩から胸までを斬り下げられ、しかし黄泉丸は再び後方に跳んだ。が、地についた瞬間、黄泉丸ががくりと膝をついた。その足に針が突き刺さっている。 「終わりだよ」 闇の中から青黒い苦無がのびた。声は高尾のものである。 さすがに黄泉丸は避けきれなかった。苦無が黄泉丸の首を貫く。 殺った。 そう高尾が思った時である。黄泉丸の身体が爆裂した。 次の瞬間、何かが黄泉丸の身体から飛び出した。 「お前は!?」 レイスの口から愕然たる声が発せられた。 黄泉丸の身体から飛び出た者。それは粘液にまみれた人間であった。いや――。 その者の顔をレイスのみは知っていた。 冷酷そうな秀麗な顔。それこそは夜叉一族頭領である夜叉骸鬼のものではなかったか。 「おのれ」 黄泉丸の口が開いた。蛇が噴出し、三人の開拓者に襲いかかる。 「開拓者どもめ。夜叉の時のみならず、またしても俺の邪魔を」 憎悪に黄泉丸はきりきりと歯を軋らせた。同時に素早く結印。 「まだこの術は使いとうなかったが」 黄泉丸の眼が黄金色の光を放った。瞬間――。 兵部と玄三郎が苦悶し始めた。いや、北斗達三忍、そして乱童も。呆然と見つめる秋桜の眼前、北斗達の全身に浮かび上がった紋様が蠢き、集まり、ひとつの形をつくりあげた。 蛇。 次の瞬間、六人の雷忍の腹を食い破り、巨大な蛇が飛び出した。 ● 兵部と玄三郎の身体を食い破った蛇がするすると黄泉丸に這い寄った。それを美味そうに黄泉丸が飲み込む。 「ふふふ。この時のために仕込んでおいた蛇じゃ。肥え太らせた蛇は俺――魍魎丸に力を与えてくれる」 黄泉丸――魍魎丸がニタリとした。はじかれたように三人の開拓者が跳び退る。 魍魎丸。 その名を知らぬ開拓者が世にあろうか。かつて冥越を滅ぼしたという八禍衆の一旗であるアヤカシの名を。 「まずい。退きますよ」 レイスが促した。魍魎丸から吹きつける凄絶の妖気。夜叉骸鬼の比ではない。三人の開拓者でどうなかなるものではなかった。 三人の開拓者が地下から駆け上がった。外では呆然と佇む四人の開拓者の姿と地に転がった二人の雷忍の骸があった。 「何が」 慧介が口を開いた。 刹那である。爆裂したように荒れ寺がはじけ飛んだ。 濃い霧のように立ち込める粉塵の中、異様なものがそびえたっていた。 巨大な、九つの首をもった蛇。魍魎丸だ。 ごおおおおおおおお。 魍魎丸が吼えた。それは悪夢の始まりを告げる咆哮であった。 |