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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「とっつぁん」 「何だね」 盗みの術を教えてくれた喜平治に、猪兵衛は訊きたいことがあった。 「老い先短ぇお前さんが、開拓者あいてにヤバい仕事をしなさる。俺には、そこん所が皆目分からねえ」 喜平治はぼんやりと聞き流した。 「開拓者を仇と狙うお前でも、怖いのかね」 「何ィ?」 目の色を変えた猪兵衛の顔を、喜平治は覗き込む。 「今日びの盗人は、開拓者と聞いただけで怖気づく。盗賊がお上を怖がるようじゃぁ、世も末だ」 老盗は溜息をつく。 「俺は、何も怖かねえ!」 「知らねぇなぁ」 牢獄に繋がれた猪兵衛は喜平治の情報を容易に喋ろうとせず、惨い拷問を受けた。いかな勇者でも絶叫をあげる地獄の責め苦に遭い、猪兵衛はぽつりぽつりと喜平治の話をした。彼の知る連絡手段は既に途切れ、住居などの有益な情報は無かった。 過酷な責めを受けた猪兵衛は衰弱し、この冬に肺炎が元で牢死する。 喜平治に関しては、証言を元に人相書きが作られた。貧相な老爺の描かれた絵を受け取り、ギルドの係員は唸る。 「ううむ」 どうしたものだろう。 「先日の一件のことですが」 係員は久しぶりにギルドに顔を出した小西陽次郎を捕まえて、物影に引き込んだ。 「はて? 一体、何の事でござろう」 「小西さんには本当に申し訳の無い事をしました。ですが、これには訳が‥‥」 聞いて欲しいと縋る係員を、陽気な男は突き放した。 「いやいや係員殿。何の話かは存ぜぬが、実は拙者、開拓者を辞めました。部外者が話を伺う訳には参らぬ故、これにて御免」 「へ?」 呆然とする係員を残し、微笑を浮かべた小西はギルドを出ていく。小西と懇意だった職員の話では、ほうぼうに恨みを買っていた父親が破産したので、小西は開拓者を辞して親を守りながら暮らすのだそうだ。 「小西さんの父御は悪徳な高利貸だったそうで。長年、喧嘩別れしていたそうですが、やはり血は水より濃いのですなぁ。残念ですが、仕方がありますまい」 その職員の話では、小西の父親は押し込みに襲われたのだそうだ。強盗はまだ捕まっていないらしい。それはそうだろう。 ギルドを訪れた隠居に、係員はしみじみと呟くのだった。 「依頼とは、難しいものでございますねぇ」 「何を今さら」 「そうじゃないですか。仕事は家出娘を連れ戻す、それだけの事だった筈が、道なかばで色々な人を巻き込んでいる」 「ふむふむ」 係員の話を聞きながら、隠居は懐から取り出した煎餅に齧りついた。話を聞き終わり、お茶で口をさっぱりした隠居が言った。 「楽な仕事なんて無いですよ」 「ま、そう言われては反論も無いですけどね。早く楽隠居がしたいなぁ」 「ほうほう」 四方山話は程々に、隠居が依頼の話を切り出した。 「その波路さんの件ですがね」 「霞の一味から、連絡があったんですか」 「それもあります」 表情を改めた係員が小首を傾げた。 数日前、隠居が通う碁会所に喜平治が現れたという。 「え? ‥‥いや、喜平治は西十郎と繋がっているようですから、有り得ない話では無いのか」 「まだまだ、驚くのはここからですよ」 「間違えていたら御免なさい。ひょっとして、喜平治さんですか?」 霞の一味に老人が居る話は聞いていない。隠居が好奇心から、そう尋ねると喜平治は頷いた。喜平治の格好は商家の大旦那風であり、隠居と碁盤を囲む様に違和感は無い。 「そちら様は?」 「ああ」 問われて、隠居は考えていた二つ名等を口にしようとしたが、上手く言葉が出ない。 「そんな事より、用件を聞かせてくださいな」 「ふむ。射手座達の正体のことだと言えば、察しもつくでしょう」 隠居は心底驚いた。 「‥‥」 「連中は、盗人らしくねえ。それが人殺しはしねえと言うから、高利貸しの屋敷で試しを打った。異国渡りだろうと盗人の仁義に違いはねえはずだ」 手下を用心棒として潜り込ませるのは良い。だが、酒に痺れ薬を盛るなら、他の用心棒は殺すか、己も痺れる等、正体を隠す算段を付けるはずだ。 「よそ者の急ぎ働きに見せかけた、としても疑問は残る。まだ他にもあるが、連中は盗人なら誰でもいの一番に考える事を考えねえ」 それは保身。正体を隠し、人の目を気にし、疑われぬよう常に気を配る。いわば裏稼業に生きる者の宿業。 「役人かとも疑ったが、そうでもねえ。向う見ずで目的の為なら手段を選ばねえ、そういう連中を、俺は一つだけ知っている」 喜平治に睨まれ、殺されると隠居は知った。 「か、考え違いをしていますよ」 「‥‥かもしれねえ」 意外にも喜平治はすんなり矛を収めた。 「御隠居さん、俺は、別に連中の正体が蛇でも鬼でも構わねえ。だから、こんな話をしているんだ」 どういう意味だ? 「仕事さえ、してくれるなら文句は無い」 隠居は、まじまじと喜平治を凝視した。この男の考えている事が分からない。 「それは盗賊の仁義に外れるのでは無いですか?」 「そこだ」 喜平治は口の端を歪めた。 「御隠居さん、俺は構わねえが、西十郎は承知しねえだろうよ。ああ見えて古風な盗賊だ。筋の通らねえことは許しはしねえ」 喜平治としてはそれを心配して、相談に訪れたのだという。 実際、西十郎は前回の仕事ぶりを見て、使えそうに無いと喜平治に話しているそうだ。薄々と気づいていると見るべきだろう。霞の一味から連絡が来なかったのは、多分そのせいだ。 「俺が間に入る。西十郎に筋を通して、一緒に仕事をする気は無いかい?」 「筋を通すと言われても‥‥」 「そいつはお前達で考えな。逃げてもいいが、気が変わったら来な」 喜平治は霞一味の隠れ家の一つであり、射手座達も訪れたことのある煮売り屋に西十郎達が現れる日時を隠居に教えた。 「やはり罠、でしょうか?」 「そうですね。盗賊が、薄々と開拓者と分かった上で誘っているのなら、十中八九は罠だと思います。ただ、この喜平治という人は、分からない人ですねぇ」 隠居の話を聞き終えて、係員は頭を抱えた。 何が正しいのか、どうすれば良いのだろう。 「しかし、罠だとしても、波路さんの事はどうしましょう?」 「うーん。色々と考えることが有り過ぎて、正直私には良い思案は浮かびませんが、‥‥投げ出す訳にもいかないでしょう」 乗りかかった船である。 放り出すにしても、人事を尽くしたとはまだ言い難い。 「彼らを信じて、任せてみましょう」 開拓者が、道を切り拓く。 |
■参加者一覧
山羊座(ib6903)
23歳・男・騎
射手座(ib6937)
24歳・男・弓
魚座(ib7012)
22歳・男・魔
アリス ド リヨン(ib7423)
16歳・男・シ |
■リプレイ本文 「寒いな」 見あげれば朧月。 三寒四温、移ろう季節と山羊座(ib6903)の心は乱れていた。 依頼に私情は持ち込まない。 無論、感情が無い人間など居ない。人は感情の生き物。様々な想いは、事の軽重を問わず、理屈や損得をしばしば凌駕する。 「喜平治に正体ばれてる? あははは、どうしよう♪」 魚は窮地を楽しむ。一歩間違えば開拓者生命に関わる話だが、享楽主義者の笑顔を凍りつかせるには至らない。仮に上辺だけだとしても、大したものだ。 「俺はシノビっすから。相手に不足無し‥‥って、俺一人じゃ話にならないっすけど、最後まで一緒っす」 アリスは忠犬か。相手は凄腕の盗賊。矢面に立つのは他の誰でも無い。ただ己を全うするのみと没入し、神色泰然。 「上手くいかない時はこんなものだ。しかし、ちっとも進展せんな」 欠伸まじりの声で話すが、いま一番危ういのは射手。見なかった事にして、手を放しても文句の出ぬ所だろう。何食わぬ顔で仕事を受けたばかりか、堂々と表に出るとは、怖い者知らずとは奴のこと。 「それに比べ‥‥存外に、だらしが無いのだな、俺は」 仲間はタフな勇者揃い。訳も分からず心を乱している自分は情けなき男だと山羊座は自虐の微笑を作る。生真面目とは、損な性分。 「‥‥」 彼が潜む暗がりから、煮売り屋の裏口が見えた。 亭主が暖簾を下ろすのを、音と気配で知る。 深夜である。今日の外出はもう無い。それから四半刻、山羊座はひっそりと暗がりから消えた。 山羊座が煮売り屋の見張りを始めて三日。 波路が一人で外出する機会を狙い、朝から夜まで張り付いた。 一方、その頃。 「お忙しい所を、有難うございます」 射手座(ib6937)、魚座(ib7012)、アリス ド リヨン(ib7423)の三名は仕事の頼み人である御隠居と会っていた。 「御隠居さん、ご用心でやすよ」 「ははは、こちらの方々はお仲間ですからね。心配するような事は何も」 隠居の所に転がり込んでいたチンピラ顔の開拓者は、三人の前で頭を低くした。 「御免なすって。見ての通りのろくでなし。縁あって此方の御隠居様の軒下を拝借しておる者でござんす」 「ふうん。それって、早い話が護衛ってこと?」 同業者の口上に、魚座の目が笑う。 「俺達の他にも、か。よほど面倒事が好きなんだな」 「そのようで。おっと、あっしは消えさせて頂きやすぜ。どちら様も、御免被ります」 男は三人の事情は詮索しなかった。 「さて御隠居。依頼主について聞きたい事がある」 早速に射手座は用件を切り出した。 「ふむ」 隠居は依頼人ではあるが、真の依頼主は別に居る。 波路奪還の依頼は、彼女の両親から出ている、両親は世間体を憚って代理人を立てているのだ。彼らは、両親の名前も知らない。 「波路さんのことだが、最初に伺った様な家出した小娘なんかじゃない。芯のしっかりした娘さんだった。俺には、彼女が自分の意思で盗賊にいる様に思えるんだ」 「波路さんが自由意思で霞の一味に参加しているなら、彼女を倒さなければ仕事が成立しない。力づくは、我々の本意とする所にあらず。それに彼女が出奔した理由、縁談が嫌だったなどと単純な話には思えない、依頼主は何か我々に隠している事情があるのではないか‥‥御隠居殿はどう思われる?」 射手座の話を聞いた隠居は、眉間に皺を寄せた。 「今更のように思えますねぇ」 親がどう考えようと、子供の家出には必ず重大な理由がある。それを大人が、どう感じるかは別だが。 「煮詰まったと言う訳ですか」 「そうかな。そうかもしれん、請けておいて何だが、俺達は納得できない仕事はしたくないんだ。向こうは調べて欲しくなさそうだが、俺達は依頼主の事情に踏み込むつもりだ。依頼に疑問を持ったのだから、仕方あるまい?」 口調は何気ないが、内容はとんでもない。 「そういう訳で、御隠居の知る依頼主の情報を、このアリスに話して貰えまいか?」 「ほう、私に波路さんの御両親を裏切れと? 商人に金より重い信用を捨てろと言うからには、それなりの代価をお持ちなのでしょうな」 代理人の面子に泥を塗る射手座の頼みに、隠居は怖い顔。 「商人の信用に勝る対価か‥‥持ち合せが無い。御隠居に危害が及ぶようなら、護衛を付けるがどうかな?」 射手座は空手形を切らない。潔いほどに無策。このような人間も居る、隠居は苦笑を浮かべた。 「それでは、ふーむ。こうしてはどうでしょうね。今伺いました事を、私から御両親にお知らせします。依頼のことで開拓者が会いたがっている事を伝え、先方のお許しが出ればご案内できます」 代理人を通して手順を踏み、筋目を立てて事に臨むべきだと諭す。隠居が射手座達に好意的な報告をすれば、進展する見込みはある。 「有り難い話だが、俺達は依頼主を信用できない」 「気持ちは察しますが、それでは」 隠居の口から射手座らの反逆が依頼主に伝われば、依頼は終わり。無断で依頼主を探ろうという輩を使い続ける者は居ない。 「おやおや♪ どう転んでも修羅場だよ♪」 忍び笑いをもらす魚座。いつの間にか、アリスの姿が無い。隠居から情報が得られない以上、残る手段はひとつ。 「どーして、私達は平坦な道を歩けないのかなぁ」 賽は投げられた。 「仕方あるまい。隠居殿にも守るべき義理がある」 射手座から話を聞き、山羊座は納得した。 「親にも子にも、各々事情がある。だが依頼を逸脱する上は、隠居殿に無理強いは出来ん」 「ああ、分かってる。魚を置いてきたが、御隠居を拘束するつもりはない。遠からず、俺達のことは依頼主に連絡が行くと思うが、それで構わないな?」 「勿論だ。それが俺達のやり方、そうだろう」 平然と話す二人。 彼らは依頼達成のために行動する。しかし、そのために依頼そのものが壊れる事を厭わない。それこそ喜平治が称した開拓者の性。目的の為には本当に手段を選ばない。 「今回限りになるぞ」 「是非も無い。俺達は以前にも 仲違した親子やら飛び出した娘やらの仲裁をしてきた。親には親の、子には子の言い分があって、俺達はそれを無視した事は無い」 一方の側に立ち、力技で解決出来ぬ訳ではない。その方が丸く収まるケースが無い訳でも無い。双方の主張を尊重して、最悪の結果を招く事が無い訳でも無い。それでも、信念に従う。 「そうだったな。面倒くさくなったら、オレは逃げるからな」 しれっと不穏な発言を残す射手座。 「射手座」 「何だ」 「西十郎と話すのか?」 喜平治は西十郎に筋を通せと言った。応える義理は無いが。 「波路さん次第だ」 射手座は欠伸を噛み殺し、煮売り屋の見張りを山羊座に任せて寝床に潜り込む。 「ふわぁ‥‥眠い」 碁会所へ向う道で、魚座は大きな欠伸をひとつ。 自ら隠居の護衛役を志願した魚座。朝も昼も夜も、襲撃者を警戒し続けた。志体持ちと言えど生身には過酷な労働だ。 「私の事でしたら、大丈夫でございますよ」 「ねぇ、喜平治はどんな男だった?」 魚座の瞳は老盗を幻視する。敵ではあるが、倒す理由は無い。 「‥‥ま、其処までの事態にはなって欲しく無いンだけど、回り道し過ぎちゃっている気はするンだよね〜♪」 「?」 「山羊にーさん、射手にーさん。思いもかけない事が起こるよ」 魔術師は宙に絵を描く。視ていた隠居にも、それが何の絵か判らない。 「テキトー♪」 「宜しいのでございますか?」 御隠居は魚座達の事が心配で堪らぬ様子だ。 「うーん、今回の作戦は山羊にーさんの担当だから。何でも真剣なんだよね」 山羊座は波路の説得担当。開拓者達は、まだ波路から家出した事すら聞いていないが、あの朴念仁はうまく話を聞き出せるのだろうか。 嫌な予感しかしない。 「山羊座殿?」 暗がりから煮売り屋を見張る男に、波路の方から声をかけた。 「波路殿と話がしたくてな。1人で出て来るのを待っていた」 どっから見ても不審者だが、本人いたって真面目。 「西十郎達に聞かれて困る話なのですか」 「その通りだ」 波路は山羊座を睨みつけた。 「俺達は、腕試しに適わなかったらしい。残念だ」 山羊座は彼女の反応を気にせず続けた。 「アリスから聞いた。俺達が狗では無いと、波路殿が喜平治達に口添えしてくれたおかげで仲間に入れたのだと。感謝する。だが何故、俺達を信用した?」 「‥‥そんな事か、あなたは悪人ではない。そう思っただけのこと」 不思議な話だ。波路は、悪人でないから盗賊の仲間として信用できると言う。つまりは直感か。 「そうか」 山羊座は心中で溜息を洩らす。そこまで買ってくれるのなら、話さぬ訳にもいくまい。交渉は苦手なのだがな、と。 「波路殿は、実家を出奔されたと聞く」 「待て山羊座殿。何の話を」 「聞いて頂く。親御様は今も波路殿を探している。例え力づくでも、子を取り戻すつもりだ。猶予は少ない、波路殿が帰りたくないのであれば、その理由を聞かせて欲しい」 男は直球以外の言葉を持たない。 「私を、騙したのですか?」 「妥当な認識だ。波路殿に理があると思えば、余計な干渉をするつもりは無いし、俺達が手伝う事で何かが解決するなら、そうしてもいいのだ」 冷徹で薄暗い山羊座の容貌は、この種の交渉では不利。もっとも、内容の致命的さに比すれば、些事である。 「私を倒して、如何様にもすれば良い」 女剣士は鯉口を切った。山羊座は盾を構える。武器は騎兵槍だけ、開拓者の膂力なら振れぬ事も無いが、徒歩で波路が相手では荷が重い。 「波路殿らしくもない」 「戯れるな!」 正眼の構えを取る波路に隙を見いだせず、気圧されまいと山羊座はオーラを練る。 「それで山羊にーさん、勝ったの?」 「負けた」 二人の勝負は、当事者が語らないので顛末は知らず。確かなのは、敗れた山羊座が波路に拒絶された事実。 「山羊座様ぁ」 悶絶するアリス。その場に居れば援護しただろう。波路の実家を探る急務が無ければ。射手座や山羊座は、どうして世間と折り合わないのか、押しかけ従者は泣いた。 「アリスの方はどうだ?」 「えっと、御隠居様の交友範囲と、波路さんの年恰好、そこそこの名家らしいんで、その辺から御実家の事を調べて見たっす」 松の助から辿るつもりだったが、シノビの身辺調査は厳しかった。幸いな事に隠居が親しくする武家の親戚筋を調べると、一件目で当りを引く。 「当代、波路の御父上は柴田正義様と仰られ、御年54歳。御母堂は海里様と仰られ、お父上様とは同い年っす」 正義は地方の代官で、華々しさは無いが家柄は良いそうだ。 「波路殿とは、かなり年が離れているな」 「そこっす」 夫婦仲は良いそうだが、二人には子が生まれなかった。後継ぎが居なければ家は絶える。名家旧家というものは、会社と同じで倒産ともなれば困る人が多い。そこで二人は修理介という養子を迎えたが、直後に波路が生まれた。 「御両親はいずれ、波路様を修理介様と娶わせるおつもりで、二人は兄妹として育ったそうっす」 ただ、成長した修理介の品行がよろしく無い。悪い仲間と付き合い、乱暴甚だしく、三年前に正義は修理介を勘当した。この事に、夫婦も波路も大きく心を傷めたそうだ。 「それで後継ぎ問題が宙に浮いたんで、親戚が波路様の縁談を持ちかけたそうっす。相手は篠倉様って大身の三男で、家柄も人柄もまずまず」 波路は親思いの良く出来た娘だったので、まさか出奔するとは予想だにしなかったそうだ。2年が経ち、縁談相手は別の相手と成婚したらしく、また心労の為か最近、母親が床に伏せっているそうだ。勘当後の兄の行方は不明。 「あらあら、大変だねぇ、修理介君♪」 「魚、冗談も時と場合を考えろ」 ちなみに、上記を調べた所でアリスは松の助に遭遇している。 「忠告したはずだがな」 「聞いて欲しいっす。波路様がお家に帰らないのは、何か事情がありそうっす」 「誰だって事情くらいあらぁ。盗人にも三分の理だぜ」 この事は依頼主に報告すると言い残し、松の助は姿を消した。 「家族の事情に、余所者が軽々しく首を突っ込むものではないな」 今さら感満々の台詞を口にする射手座。根掘り葉掘り調べれば、まだまだ事実は現れるのだろう。だが、ともあれ筋は通しておこうと射手座は仲間達と煮売り屋を訪れる。 「おう憎泥悪の。今、お前の事を話していたんだぜ」 二階に居た西十郎は、喜平治と一緒に居た。側に座る波路は射手座達に特に何も言わないが、眼光炯々と山羊座と睨んだ。 「ならば話が早い。この前の試、オレ達は不合格だったって事だな?」 「身内を使い捨てる手口は感心しねえよ」 悪徳商人の一件は、新参の用心棒の犯行という事になっている。腕試しで使い捨ての仲間を使い、人を殺さずに金を強奪した。 「筋の良い盗人の仕事じゃねえな」 「見解の相違だが。仕方無いな、俺達のやり方は特殊だからジルベリアにも居られなくなったのだしな。幸い‥‥というか 先の試で懐は豊かだ。これで暇するとしよう」 澄まし顔で席を立つ射手座。 心残りはあるが、これでおしまいか。 「待ちな。折角この俺が一席こさえたんだ。年寄りの顔を潰す気か」 煮売り屋を出た所で、喜平治が呼びとめた。 「貴公の言う通りだったので、辞意を示した。十分だと思うが?」 「俺の見立てじゃ、てめぇら筋は悪いが、見所はある。少し話を聞いて貰うぜ」 断っても良かったが、好奇心が勝った。 「手短に頼む」 喜平治と射手座達は居酒屋に場所を移す。開拓者は警戒しているものの、老盗の思惑を全く測りかねていた。 「ところで、小西さんは元気かい?」 四方山話のついでという感じで喜平治が切り出した。真っ先に気付いたのは魚座、呪文を唱え掛ける彼を山羊座が止める。 「酒の席だぞ?」 「わ、山羊にーさんったら、常識人過ぎ」 渋々と酒杯を手にする魚座。 「誰の事だ?」 「陽次郎って御仁は勘がいい。危ない橋を渡らねえで、さっさと逃げを打った。この俺も危うく見失う所だった。運が良かったぜ」 小西陽次郎と射手座達の繋がりを、喜平治は知らぬ筈だ。知っていたなら、今回の依頼でもっと別の条件を出したはず。依頼の間に調べたのか。 「‥‥小西さんをどうする気だ?」 「奴は生き証人だ、どうもしねえよ」 小西は射手座達が強盗を働いた証拠。 「恐れながらと奉行所に名乗り出たら、どうするね?」 「わぁ♪」 嬉しそうな魚座。 「うーむ、まさか盗賊に脅迫される日が来ようとは」 しみじみと射手座。 「片腹痛い。喜平治、それで俺達の弱みを握ったつもりか」 強気の山羊座。 「まさか。滅茶苦茶な手前ぇらを、この程度で抑えられる訳がねえ。こいつは、仕事の話をするための段取りだ」 後で連絡すると言い、喜平治は店を出る。 「霞の一味とは切れたんすよ」 「――小僧、シノビならもっと先に目を向けな。出なけりゃ、仲間が死ぬぜ」 依頼主に反逆を知られた。 盗人に目を付けられた。 明日はどっちだ? 天運:15 |