盗賊団と悪徳商人
マスター名:松原祥一
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: 難しい
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/01/31 22:05



■オープニング本文

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「御免下さいまし」
 黒兵衛が碁会所を訪れたのは、北面の戦も年を越して激しさを増し、松も明けたある日の事だった。
「待たせたな、ん‥‥お前さんが?」
 黒兵衛は盗賊、霞の西十郎の子分である。だが、つなぎを付けた相手が、このあと開拓者ギルドに駆け込もうとは思いもよらぬ。

 開拓者ギルド。
「おや?」
 手甲、脚絆に草鞋履きで現れた御隠居が笠を取ると、係員が声をかけた。
「御隠居さん、これからご旅行ですか?」
「急いで来たものですからこんな格好で失礼しますよ。それで盗賊団の件なのですが」
 ああ、と相鎚を打つ係員。行方不明だった武家の娘が盗賊の一味に入っていた事を知り、取り戻して欲しいと言われた一件。
「ええと、少々お待ち下さい。霞の一味から連絡が入っていないか、調べ役に聞いてみないと」
「だから、私の話を聞いて下さいな。昨日、黒兵衛が私の所に参りましてね」
「‥‥は?」
 間抜け面を晒す係員。
 まんまと霞の一味に潜入を果たした開拓者達は、それと分からぬ方法で連絡する手段が必要だった。係員はギルドの調役に属するシノビに頼んだつもりだったが。
「ホラ、例のうらなりで」
「うわなり打ちですね、知ってます」
 そう言えば後妻打ちの騒動で心身ともに衰弱する係員に御隠居がツテがあるからと言ってきた。てっきり、娘の両親が雇ったシノビの事だと思い、お願いしたのだ。
「あんたが、つなぎを――正気ですか、相手は盗人ですよ」
 係員は額に手を当てて項垂れる。ギルド職員として在り得ぬミスだ。
「一般人を関わらせるなんて」
「まあまあ。御言葉ですが、私だって無関係では無いですから。依頼した手前ね、金だけの関係では無いつもりですよ」
 係員は苦り切った顔だ。盗賊団とつなぎを付けた今、当事者には違いない。
「黒兵衛の話ではね、今度は仕事だそうです」
「仕事というと、盗みですか?」
 しかたなく隠居を奥に案内し、小部屋で話を聞いた。

「押し込む相手は決めてある。なんて事はねえ商人の屋敷だが、兄貴は大仕事の前に新入りの腕が見てえのよ。だから気を悪くしねえでくれ」
 黒兵衛は隠居を御同業の古狸と決めこんで、盗みの話を打ち明ける。
「押し込みとは、物騒な。殺すのですか?」
「殺さずじゃねえのかい。まあ評判の良くねえ悪徳商人らしいから、やった所で誰かに泣かれる心配はあるめえが、為にならねえ面倒事は無しだ」
 腕試しとして、あくどいと評判の商家を選んだようだ。
 扇屋という小間物屋で、金貸しもしていて、貧乏人を泣かせているらしい。そして今回は腕試しが目的という事で、行きと帰りは行動を共にするが、基本的に霞の一味は盗みには手を出さないという。
「楽な仕事だし、俺達が見てねえからと、気は抜かねえこったぜ」
「何故です?」
 黒兵衛はニヤリと笑った。
「新入りの腕が見たいと言いだしたのは、喜平治ってお人だ。見た目は貧相な爺さんだがな、一滴の血も見ねえで開拓者からお宝を巻きあげたって恐い御仁よ」
 黒兵衛は、喜平治さんの目がどこで光ってるか分からないと嘯いた。

「‥‥今、何と?」
 係員の声がうわずる。前回、名を聞いた時はよもやと思ったが、開拓者から宝を巻きあげた喜平治。そんな偶然があるだろうか。
「興味深い話でしょう。あの盗賊かは、まだ分かりませんが。どうします?」
 両親の依頼は盗賊の一味に居る娘、波路を取り戻すことだ。盗賊団の討伐などは二の次であり、悪徳商人の襲撃計画を役人に知らせて全てを台無しにするような事は望んで居ない。
「虎穴に入らずんば虎児を得ず――この依頼、預かりましょう」
「そう言うと、思いました」


■参加者一覧
山羊座(ib6903
23歳・男・騎
射手座(ib6937
24歳・男・弓
魚座(ib7012
22歳・男・魔
アリス ド リヨン(ib7423
16歳・男・シ
ラグナ・グラウシード(ib8459
19歳・男・騎
ルカ・ジョルジェット(ib8687
23歳・男・砲


■リプレイ本文

 雪夜だった。
「お?」
 芯まで冷えた体を温めようと暖簾をくぐった鶉は見知った顔に出くわした。
「射手座じゃねえか。ははぁ、お前さんもコレかい?」
 つぼを振る真似をした鶉に、芋煮を肴に一杯やっていた射手座(ib6937)は曖昧な笑顔を向ける。
「鶉さんは賭場の帰りかな」
「へっ、これも仕事だあ。仕事と言やあ、お前ぇ兄貴に噛みつくのは良くねえぞ」
「そんなつもりは無いな。西十郎さんに俺達のやり方を知って貰いたいだけだ」
 鶉が言うように、射手座は盗みの分け前に関して西十郎に直談判していた。
「腕試しは了解した。ところで全部こっちでやるのなら、盗った分は皆頂いてしまって良いんだろうな?」
 たまたま側で聞いていた鶉は肝を冷やした。
「店の評判やら、用心棒の数やら、街でたむろしていても入る情報に金は出さないぜ」
「‥‥ふうん。威勢が良いのは嫌いじゃねえ。試しと承知した上ならば構わねえよ、お前さん達の流儀を見せてくれ」
 鶉は、鷹揚に頷いた西十郎にも驚いた。
「兄貴も丸くなったぜ。昔なら、新入りが舐めた口をききやがったら、半殺しにしていたのによ」
 鶉は射手座を心配する風で、ジルベリアは知らないが、天儀の盗賊には仁義があるのだと諭した。
「ジルベリアの盗人にも礼儀はあるつもりだ」
「そうかい。ならいいが、俺達は世間から見れば屑だ。その屑がひと所に集まるからには、義理を欠いちゃならねえ」
 おかしな様だが、どんな稼業も人間関係が大事なのは変わらない。一匹狼を徹すのでなくば、信用は何物にも勝る武器だ。
「待たせたな」
「いや‥‥話は聞こえなかったが、盗賊も大変だな」
 盗人の説教を受ける開拓者、シュールな絵面だと苦笑してラグナ・グラウシード(ib8459)は射手座の向いに座る。
「扇屋に無事、雇われた」
「さすがだな。異国人が二人、よく怪しまれなかったものだ」
 ラグナは表情を引き締めた。
「買いかぶるな、胡散臭いとは思われている」
 用心棒志願のラグナとルカ・ジョルジェット(ib8687)を、扇屋作兵衛はにべもなく断った。食い下がったのはルカ。
「何でかな〜? 志体持ちの用心棒が二人も出向いているのだよ〜、お得な買い物だと思うよ〜〜」
「確かに。ですが、当店には既に用心棒の方々が居られます。それにわたくしはお二人の事を存じません。やはり、大事な命と金をお守り頂くのですから、信用のある方の紹介などございませんと」
 正論だ。開拓者だと名乗れば一発OKだが、二人には身元を明かせぬ訳がある。融通のきかぬラグナ一人だったなら、門前払いだったろう。
「しょーがないね〜。でもミー達は用心棒をしなくちゃいけないのだ〜」
「おいルカ」
 無理を通すには道理を捨てる、自由人ルカは手段を選ばない。
「駄目かね〜? 今ならコレを付けるよ〜、オマケにソレもあげても良いかな〜?」
 指輪や頭飾りなど、身につけていたモノを扇屋に握らせるルカ。彼が褌に手をかけた所で、作兵衛が折れた。
「わ、訳有りとお見受けしました。ではひとまず食事付き給金無しの条件で宜しければ、雇わせて頂きましょう」
「やったね〜! シニューレ・作兵衛、これからヨロシク〜」
 快哉を上げ、褌を締め直すルカ。
「‥‥喰えぬ男だな。しかし、それだと後で問題が無いか?」
「何のことだ」
 扇屋に信用されていない以上、押し込みの後に真っ先に疑われるのラグナ達だ。
「今更、何を言うと思えば。大事を為すため、あえて今は、汚名を着ようではないか」
 固い男だ。一本気なラグナに、射手座は感じ入る。
「貴公は山羊座と気が合うかもな」
 その後、射手座とラグナは互いの情報を交換した。打ち合わせを終えて、立ち上がりかけた射手座は背後から叩かれる。
「いてぇっ!?」
 全身が緊張する。が、背中を叩いた大柄な男は邪気の無い笑顔を向けてきた。
「射手座殿! 久しぶりですなぁ、こんな所で逢うとは奇遇な!」
「え、えーと‥‥小西さんか?」
 男の名は小西陽次郎。名を思い出すのに数瞬を要した程度の知り合いであり、ギルドで顔を合わせた事のある開拓者だ。
「この街には何をしに? おっと、愚問でしたな。お連れの方も只者ではない。開拓者が揃えば、そこに依頼ありと申すもの」
「声がでかい。小西さんこそ、何でここに?」
 射手座の焦りを察し、小西は声を落とした。
「ふむ、失礼した。実はこの街は拙者の故郷でしてな。今回は里帰りでござる」
 土地の者と聞き、扇屋の事を尋ねようかと考えたが、開拓者と言ってもこの微妙な仕事に部外者を関わらせる面倒を思い、射手座は口を閉じる。
「俺達も、休暇さ。天儀の事を知りたくて、あちこち見て回ってるんだ」
「なるほど!」
 話足りない風の小西を置いて、射手座とラグナはそそくさと立ち去る。常ならばともかく、押し込み強盗の計画を練る盗人と用心棒としては、人目は避けたい。


「偵察ですか。それならば道連れは如何か?」
 扇屋に出かける山羊座(ib6903)に、波路が声をかけた。
「無用だ」
「そうか」
「きみ一人で行ったら、ただの不審者じゃないか! ほら、これでも持って、波路さんと一緒に歩けば不自然じゃない♪」
 山羊座の旗クラッシャーぶりに目を丸くした魚座(ib7012)が、慌てて彼に竹刀袋を持たせる。
「‥‥俺を笑い物にする気か?」
「くっくっ、確かに山羊座は人相が悪すぎらぁ。聞き込み向きじゃねえな」
 西十郎が笑うのを、山羊座は心外そうに睨む。貴様も似たようなものだろうと。
「波路様が居てくれた方が情報が集めやすいと思うっす。俺からもお願いするっす」
 アリス ド リヨン(ib7423)にまで言われては、山羊座も観念する他は無い。くすくす笑う魚座を掴んで引き寄せる。
「‥‥話が違うぞ。扇屋の下調べは俺と貴様でやるはず」
「はは、それは私の台詞なんだけど♪ 良い機会じゃない、波路さんのエスコートも頼むよ♪」
 憮然とする山羊座をあれこれ宥めて送り出す魚座。
「困った連中だ」
「面白いじゃねえか。分かり易くてよ」
 溜息をついた射手座に、言葉を投げたのは西十郎。
「全部顔に書いてあらぁ」
「西十郎さんは観相が趣味か」
 この男に正体を知られる訳には行かぬ。射手座は何気なさを装って会話を続ける。
「ふ、お前さん達が何を考えてようと俺には関係ねえ。欲しいのは、その腕だけよ」

「‥‥」
 山羊座と波路は並んで歩く。
 二人共、口数は多くない方だから沈黙が続いた。
「着いた」
 扇屋が見える所まで近づいて、初めて声を出す山羊座。
「山羊座殿。何をすれば宜しいか」
「扇屋の評判を確かめる。今日のところはそれだけだ」
「承知した」
 時折交わされる事務的なやり取り。波路はおとなしく付いて回るだけだが、悪相の山羊座が一人で回るよりはマシか。普段なら、開拓者だと名乗れば多少は口も開いてくれるのだが、只の異国のいかつい戦士では話を聞いて貰うだけでも一苦労だ。
「あの店で用立ててくれると聞いたのだが」
「なんぼ金貸し言うても、異人には貸さんやろ」
 ハードルが高い。高利貸しにとって、最も痛いのは逃げられる事だ。身元の確かでない異国人は客のうちに入らないのだ。
「困りましたね。私なら、貸して下さるでしょうか」
 横合いから波路が言葉を足すと、茶店の親爺は頷いた。
「そら、奥さんが話したら貸しますわ。でもアカン、返済期日を一日でも過ぎたら女郎屋に叩き売られますのや。扇屋のえげつなさ言うたら」
「暴利なのか?」
 住民の話では、扇屋は高利貸しとしては利息は並以下。無論、高い事は高いのだが、他で借りれないから高利貸しを頼る人の感覚としては暴利では無い。そして扇屋は誰にでも貸す。さすがに素性の分からぬ者には貸さないが、逃げられる心配の無い者ならばほぼ断られない。
「良心的では無いか」
「とんでもない。言うたやろ、金の取り立てがえげつないて。あら鬼や、アヤカシの化身やで」
 扇屋は借金の滞納を一切許さない。取り立ては鬼の一字、命を奪われた者も二、三人では無いと言われ、取り立ての恐ろしさに自殺した者まで居る。当然、恨みを買って命を狙われた事は一度や二度では無い。実際、何度か死線を彷徨ったというが、苛烈な取り立てを止めない筋金入りの金の亡者だという。
「酷いな、役人には訴えたのか?」
「証文がありますがな。それに役人には賄賂を積んでおますのや、どうもならん」
 誰か殺してくれんやろかと嘆く茶店の親爺。
「そこまで言うなら、なぜ借りる? 借りなければ良かろう」
「藁にも縋る貧乏人の気持ち、旦那はんは分かりまへんか」
「‥‥」
 生真面目な山羊座は、扇屋を悪と断じきれない。一方、扇屋を殺してやると言えば確実に大金が集まるほどに、作兵衛が恨みを買っているのは確かだ。
「腕試しか」
「扇屋を、斬りますか」
 波路の問いに、無意識に手が刀に伸びていた事に気づく。
「まさか。‥‥扇屋は腕の良い用心棒を雇っていると言っていた。逆に、俺が斬られるかもしれん」
 何という事の無い商人屋敷とは良く言ったもの。嘘は無いが、恨みを買って買って貯め込んだ商人を守る用心棒は間違いなく志体持ち。楽な仕事ではない。
「兄様‥‥」
 山羊座の足が止まる。
「私には兄が居ります。山羊座殿は兄に良く似ている」
「俺は、波路殿の兄者人では無い」
 波路は頷いた。
「姿は瓜二つですが、兄もジルベリア人ではありません。‥‥詮無い事を申しました、お忘れ下さい」
「そうか、問題無い」
 そのような偶然もあるものかと思いはしたが、山羊座は気に留めなかった。


 魚座と山羊座達が調べた情報を元に、アリスは扇屋に忍び込んだ。
 が、どう思案しても用心棒の待機している部屋を抜けねば奥の寝所に辿りつけない。
「城と同じっす。用心棒の部屋を通らないと、本丸に行けないっす」
 防御重視と言えば聞こえは良いが、作兵衛は普段の生活の不便を厭わないらしい。床下や天井にはシノビ対策が仕込まれ、腕利きの用心棒の目を盗んで罠を解除するのは難しい。凄腕のシノビなら可能かもしれないが、アリスは己を過大評価しなかった。
「正面突破しかないのか」
「ふふふ、押し込みらしくなって来たね〜♪」
 俄然、張り切りだしたのは魚座。戦士殺したる彼の魔術師としての腕が、作戦の成否を分けるからだ。ちなみに、客として扇屋を下見した魚座の作兵衛に対する人物評は、道を踏み外した山羊座。
「愛を知らない生真面目な人って、可哀想だよね〜」
 なお余談だが、山羊座は波路との会話を本当に暫く忘れていて、後で話を聞いた魚座を憤激させた。

 用心棒は4人。
 最大の懸念は陰陽師が居ること。他の三人は侍くずれ、無頼の垢が染み付いた手合いだが、腕は本物。夜の当番時、体力に劣る陰陽師は仮眠が長い。
「後を頼む」
 陰陽師が隣の部屋で眠った頃合を見計らい、ラグナとルカは酒を取り出した。
「こいつは取って置きなんだね〜。今のうちに呑んでしまおうかね〜?」
 酒には魚座のセイドが掛けられている。
「毒が入っておるのではあるまいな?」
「用心深い人は損するね〜」
 ルカは酒をあおった。セイドは全て飲み干さねば効果を発揮しない。一つ無駄にしたがまだ三本あった。
「わしらばかりでは心苦しい。受けてくれ」
「勿論よ〜」
 やがて。
「‥‥なんだ? 妙な味だな、うぇ‥‥おかしい、ぞ」
 一人の侍に痺れ薬の効果が表れた。ラグナともう一人の侍の目が合った。
「――うぬかっ」
 片膝立ての姿勢から白刃が閃いた。
 間一髪、ガードが間に合ったラグナは腕を斬られつつ横に転がる。
「貴様あぁ、何者だ!」
「大義のために名乗れぬ者と知れ!」
 三人目の侍にも痺れ薬の効果が現れる。二人目には効かなかったようだ。ルカの方を見るとマスケットを抱えて逃げ出していた。
「ぞぞ、賊でござるぞ!」
 痺れで上手く回らぬ舌で、声を張り上げる用心棒。ラグナは両手剣を掴むが、痺れ薬が効いているとは言え、狭い室内で手だれ三人、余裕で死ねる。
「安心しろ、殺しはせん!」
 啖呵を切るラグナ。彼はくるりと剣を持ちかえた。峰打ちのつもりだが、グレートソードでは無意味だ。
 一方、部屋を逃げ出したルカは表の閂を引き抜く。
「暴れる時間よ〜」
「うっす」
 檻から解き放たれたケモノの如く、飛び出したのはアリス。彼の先導で、魚座が奥を目指す。

「‥‥行くぞ」
「ああ、仕方が無いな」
 店の外で待機していた山羊座と射手座は、騒ぎが起きたのを見て裏口に向う。錠を破壊し、山羊座が中に入る。続いて射手座、
「そこまでだ」
 暗闇に潜んでいた男が、戸をくぐった射手座の首に刃を押し当てる。
「何?!」
「‥‥休暇が聞いて呆れるぞ、射手座殿」
 現れたのは小西だった。
「扇屋に雇われていたのか」
「この家は拙者の実家でござるよ」
 扇屋は陽次郎の実父。父親の悪評に堪えかねた息子は、自らの手で引導を渡してやろうと里帰りした。居酒屋で偶然、射手座に遭い、様子を見ていると扇屋の周囲に開拓者の影が。
「開拓者が押し込みとは、何事か!」
 一喝され、気力が萎える射手座。
「何の仕事かは聞かぬ。父の始末は付ける故、先に逝かれよ」
 小西が刀を持つ手に力を入れる。注意が逸れた一瞬の隙に、山羊座は敵の懐に飛び込んでいた。

「‥‥拙者を殺さぬのか」
 地面に倒れた小西に、山羊座が刀を向ける。射手座がそれを止めた。小西は彼らの素性を知っている。役人に訴えられたら、非常に困った事になる。
「仕方ないかな。盗賊団憎泥悪は殺さず、なんだ」
「射手座殿‥‥」
 屋敷の中でマスケット銃が轟音を発した。壁を突き破り、四人の開拓者が姿を現す。
「ほら、上手く行った♪」
「たまたまだね〜。ミー達は悪運が強いよ〜」
 金と証文が詰まった箱を抱え、用心棒達をかわして命からがら逃げる盗賊達。全てを失った扇屋は庭に倒れている息子に心臓が止まりそうなほど驚き、その体に縋り付いた。


 ビクビクしながら都に戻った開拓者たちだが、ひとまず小西が訴えた形跡は無い。奪った金と証文は係員に預けた。ところでアリスが喜平治の調査を頼んでいたが、結果が分かるのはもう少し後になりそうだ。


天運:10