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■オープニング本文 開拓者ギルド。 白い妖精が現れたり、またぞろ北面がキナ臭くなったりと、只でさえ忙しい師走に騒動のたねは尽きない。 ちまたの慌ただしさとは無縁な御隠居さんと係員はギルドの店先でくだらない話をしていた。 「この前の開拓村から便りが届きましてね。おかげさまで村作りも順調とかで、近いうちにまた仕事を頼みたいとか」 「ほう」 そう言われて係員も悪い顔はしない。 「お化けを恐がる開拓者のどこが良いのやら」 「む、親しみ易いじゃないですか」 妙な抗弁に、隠居は微笑しつつ煙草を取り出した。 「まあね。私も近頃は、少し分かって来ましたよ。開拓者と言っても、鬼でも無ければ蛇でも無い‥‥こう言ってはなんだが、中身は平凡ですな」 係員も苦笑いを浮かべた。開拓者を農夫扱いした老人が、簡単に正鵠を射てくれる。 「今度はどんな話です?」 「ふふ‥‥聖人君主じゃない所を見込んで、聞いてほしい話があるんですよ」 隠居の友達の知人から内密に頼まれた事があるのだという。なんだか、隠居は裏社会の元締めいてきたと係員は思ったが、冗談では無かった。 「えーと。つかぬ事を聞きますが、ギルドに盗賊は居ませんか」 「はあ?」 「昔、山賊の仲間だったとか、開拓者は世を忍ぶ仮の姿で本当は大泥棒とか、そういう人が良いんですけどね」 係員は慌てて隠居の口を塞ぐ。店の中で話すような内容では無い。 「あんたは営業妨害に来たのか!」 「まあまあ。どうも順番を間違えるのが、私の悪い癖ですな。ちゃんと最初から説明しますから落ち着いて下さいな」 「‥‥なるほど。盗賊団に、潜入する仕事ですか」 隠居の話す所では、真の依頼人は士分‥‥そこそこに身分のある武士らしい。 「娘が居るのですが、二年前から消息不明で――勿論、手を尽くして探したそうですが、最近になって娘が、とある街で盗賊の一味に入っている事を知ったのだとか」 連れ戻したいが、武士と盗賊は水と油の間柄。生半な方法では上手くいくまいし、下手をすれば娘の命に係る事だけに、玄人の手を借りたいのだという。 「ふむ。ギルドに盗人は居ませんが、シノビならば依頼内容にも沿うでしょう」 盗賊団に潜入し、娘を説得、それが叶わない時は力づくでも構わないので取り戻して来て欲しいという。 「なかなか難しい仕事ですねぇ。いっそ盗賊団を壊滅させてしまうのは駄目ですか?」 「あなたも物騒な。絶対に確実だと仰るなら構わんでしょうが、それで一味と娘に逃げられたら、もう一度探しあてるのは困難でしょう」 係員は得心した。 この仕事は正義のために盗賊を倒そうというのでは無い。あくまで目的は娘を取り戻す事で、それ以外の事にはオマケほどの意味も無いのだ。 「むむむ。その点を割り切ってくれる人を探す必要がありますねぇ。それに、詳しい話を聞く必要もありそうだ。その娘さんは、いったいぜんたい、どうして家出して盗賊団なんぞに入る事になったんでしょうね?」 隠居も頷いた。彼も同じ事を質問したようだ。 「親御さんの言うことには、おそらくは縁談が嫌で出奔したのだろうと」 親としては良縁のつもりだったが、娘は思いつめて家出したのではないか。だが世間知らずの娘は悪い連中に騙されて、道を踏み外してしまったのだろう、と。 「ふーむ。ところで、これが重要なのですが、娘さんは開拓者‥‥いえ、志体持ちですか?」 「おや、良くお分かりですな。町道場では敵無しだったそうですよ」 「まあ、そんな話だろうと思っていましたよ」 素質がある者がフラフラしていたら、盗賊になる事もあるだろう。そういう意味では、珍しい話では無い。 「盗賊団は近いうちに大きな仕事をするつもりで、助っ人を探しているとか」 「親としては気が気では無いでしょうな。それで、開拓者を潜入させることを考えた訳ですか」 何も本当に盗賊になる訳ではないのだからと、係員は依頼を預かる事にした。 「お控えなすって。手前、北面は酢豚の生まれ、人呼んで流し素麺の豚吉。朝には弱いが、夜も弱い。屑の中の屑一匹」 鵜鵯田右兵之介が妙な啖呵を切るのを、係員は可哀想なものを見る目で眺める。 「ん。盗賊の一味に入るなら、二つ名と口上は絶対必要だぞ」 「だったら俺は肉じゃがの熊五郎で」 小杉半兵衛がノリノリで仁義を切る時の挨拶を考えている。この二人は古参の開拓者。職業はシノビではなく不良侍だが、盗賊も大所帯になれば個々の役割は様々で、シノビでなければ仲間になれない訳ではない。そもそも、本当に盗みを働く事は無いのだ――多分。 ともあれ、間違いがあっては大変な仕事なので係員は予算を組み、今回は慎重に裏を取った。暫くして、まず依頼内容に誤りはなさそうだというので依頼書を張りだしたが、さんざん冷やかした二人は居なかったり、予定が合わなかったりで参加しなかった。 まずは盗賊団に入り込み、娘に接近する必要があるだろう。 すぐに連れ戻す行動を取るか、それとも様子を見るかは参加者の判断に任せるしかあるまい。 |
■参加者一覧
山羊座(ib6903)
23歳・男・騎
射手座(ib6937)
24歳・男・弓
魚座(ib7012)
22歳・男・魔
アリス ド リヨン(ib7423)
16歳・男・シ |
■リプレイ本文 開拓者ギルド。 「お流れですか‥‥うーん」 張り紙を一瞥し、係員が溜息をつく。 刻限まであと数刻、いまだ一人の開拓者も現れず。常識的に考えて、成立は絶望的だ。仮に人数が揃っても、相談もなく出発して良い結果が出せるだろうか。 「無駄足だな」 「申し訳も無いことです」 依頼書を見上げて安酒をちびちび飲む男が居た。係員は男に謝り、一週間放置された張り紙に手を伸ばす。 「待った」 係員の腕を掴んだ碧眼の異邦人。 「気が早いなぁ、係員さん。でもちょっと待ってね。――ハイ、これで良いよ〜」 横合いから現れた金髪の男が、依頼書にすらすらと羽根ペンを走らせる。 「え、何を?」 「見ての通りッス。この仕事は星座さん達がもらい受けたッス。あ、勿論、オレも参加するっすよ」 犬の獣人が、四名の開拓者の名前が書かれた依頼書を係員の前に突き出した。 「フン‥‥小娘ひとりに大仰だな」 最後に入って来たのは騎士剣を背負った男。 射手座(ib6937) 魚座(ib7012) アリス ド リヨン(ib7423) 山羊座(ib6903) 以上、四名が揃い、依頼の必要人数が達成される。 「何故?」 「誰も入らなかった依頼だから」 当惑する係員に、微笑みを浮かべて答える魚座。 「おい魚」 「ははは、嘘嘘。こーゆー仕事だいっ好き♪」 一癖も二癖もあるのが開拓者だが、この四人は掴みどころが無い。 ともあれ、依頼は成約した。全員がそれなりの場数を踏んでいるようだし、知り合い同士ならば連携も取れそうだ。 「問題無いようですね。いや、流れなくて本当に良かった、皆さんのおかげです」 「喜ぶのは早すぎる。オレ達は請け負っただけだ。まだ誰も助けてはいない」 山羊座の言葉に、アリスが用件を思い出す。 「そうっす。何でもいいっすから、お嬢さんの事出来るだけ話して下さいっす。具体的には性格とか、どんな話が好きか嫌いかとか、あと食べ物とか嗜好品なんかも‥‥あ、衣服の好みも重要っす」 筆記用具を片手に係員に迫るアリス。 「おっと。そいつは俺から話そう」 酒を飲んでいた男が立ち上がり、開拓者らに近づいた。 「どちら様?」 「俺の名は松の助、まあ名前なんてどうでもいいが、依頼主はお前達と一緒だぜ」 男は、波路の親に雇われて彼女を探していたシノビだという。依頼を受けた開拓者を案内するためにギルドに来ていた。 「お前達に下手に聞き込みなんぞされちゃあ、依頼主が困るのよ」 「用心深いな。世間体か、親心か、まあ理解は出来るか」 係員が部屋を用意し、松の助が調べた盗賊団の情報等を聞く開拓者達。 「しかし、これだけ調べてるなら、何で貴公が潜入しない?」 「深入りはしねえ主義だ」 探る者と潜入する者は分けた方が相手に悟られ難いのは確かだろう。松の助の仕事は開拓者らに仕事を引き継ぐ所までだと言う。 「お前さんの仕事は取らねえから安心していいぜ」 「べ、別にオレは気にしてないっす」 口を尖らせたアリスの髪を、魚座がくしゃくしゃと掻き回す。 「あははアリスちん、可愛い」 「ちょ、魚座様、止めて下さいっす」 嫌がるアリスは尻尾をパタパタ振っていた。 「‥‥さっき、盗賊団の正体は掴めていないと言ったが、シノビの貴公が深入りを躊躇う相手なんだな」 射手座の問いに、松の助はニコリともせず頷いた。 「ありゃあ、駆け出しじゃあねえな。筋の通った本職には間違いねえぜ」 「そいつは困った。逃げてもいいかな?」 「論外だ」 山羊座に軽口を切り捨てられ、頬杖をつく射手座はあれこれと思案するのだった。 月が消えた夜更け。 「畜生、今夜はついてねえ」 鶉は今にも人を殺しそうな凶悪な顔付きで歩いていた。鶉は霞の西十郎の手下で、普段は盗賊に似合わず、穏やかな男だが、博打に目が無かった。 「あんな目が出る訳ねえんだ。ち、つまんねえイカサマに引っかかったのが運の尽きだぜ」 「おーい」 酔って悪態をつく鶉に、背後から声を掛ける魚座。 「なんだお前ぇ?」 賭場で馴れ馴れしく話しかけてきた魚座が、己を追いかけて来た理由が鶉には分からない。 「キミ、今日は本当についてなかったねぇ♪」 「うるせえや、叩っ殺されてぇか」 威嚇する鶉に構わず、小柄な鶉の肩を抱く魚座。 「ねー♪ 私は勝っちゃった♪ 気分いいから、一杯奢っちゃう♪」 「ば、馬鹿か?」 鶉は西十郎から遊びを控えるよう散々言われている。この上、変な奴に関わったのでは堪らないと逃げにかかったが、魚座は首を捕まえて離さない。 「私ねえ、キミの正体知ってるんだよ♪」 ぞくぞくする声だった。 「正体だと」 「惚けても駄目。キミにも損の無い話さ、上手くすれば、今日の負けなんて忘れちゃうくらいの大金が手に入るかもよ♪」 酒に濁っていた鶉の眼に光が宿る。そもそも鶉が賭場に通ったのは、西十郎の命令で仲間を集めるためだ。一見してジルベリア人の魚座は眼中に無かったのだが。 「ふうん‥‥」 博打の後でなければ、鶉も今少し冷静になれただろう。 「ジルベリア渡りの盗賊団てなぁ、お前さん達かえ?」 鶉の案内で入った煮売り屋の二階に、霞の西十郎は寝転がっていた。西十郎は針金のような長身痩躯、病的に痩せこけた眼つきの鋭すぎる男だった。 「会えて嬉しいぜ、霞の親分さん。俺が獣帯(ゾーディアック)盗賊団の頭目、射手座だ。そして、こいつらは俺の身内。宜しく頼むぜ」 頭として仲間達を紹介する射手座。 「憎泥悪? 知らねえな」 「だよね〜♪ 私達、ジルベリアから逃げてきたんだけど、こっちでまだ仕事してないんだぁ。路銀も底ついちゃうしさぁ♪」 ノリノリで口を挟んだ魚座に、射手座は渋い表情で黙った。 「‥‥こ奴ら、偽りでは無いか? お前達、盗賊には見えないが何の目的で近づいた」 西十郎の側に控えていた黒髪の剣士が片膝を立てて刀に手をかけた。抜けば斬られる距離だ。一見して少年のような若武者、彼女がターゲットらしい。 「すまねえな客人、うちの者は血の気が多くていけねえ。‥‥おい波路、てめぇも修行が足りねえぜ」 西十郎は四人が『出来る』と判断したようだ。 「人を見かけで判断しちゃいけねえや。ところで射手座さん、あっしらが人手を探してることを何処で聞きなすった?」 「それは、蛇の道は蛇だな。オレ達も、この国で仕事をするために地元の盗賊を探していたのでね」 たまたま目的が一緒だったという訳だ。強引だが一応、筋は通るか。 「読めたぜ。近頃、俺らを嗅ぎ回ってるのが居ると思ってたんだが、お前さん達だったのかい」 「ばれちゃったなら、仕方ないね♪ 何を隠そう、キミ達を探っていたのはこのアリスちんなのだ!」 魚座が衝撃の事実を告白した。一番驚いたのは無論、アリスである。 「この坊主が? まさか、有り得ねえ」 後ろで成り行きを眺めていた鶉が首を振る。 「ふふん、アリスちんは隠行と変装の達人なんだよ♪」 「えへへ、それほどでも無いっすけど、シノビとしてお役に立つっすよ!」 魚座はノリノリ、アリスも満更では無い様子。 「そうなんだ。アリスはボンボンに見えるけど、優秀なシノビでね。オレ達を仲間にして損は無いと思うよ」 「人はみかけによらねえ、か」 (やれやれだ‥‥ん?) 交渉の間、一人蚊帳の外の山羊座は不意に波路と目が合った。四人を見つめる波路の視線に、不信感とは異なる何かを感じたが、すぐに彼女は瞳を逸らした。 「そこまで言うなら、使ってみようかい」 西十郎は四人を仲間に入れる決断を下した。 「お前さん達のような腕利きを探してた。近いうちに、大きな仕事がある」 「どんな?」 慌てるなと西十郎は薄笑いを浮かべる。まだ完全に信用してはいないという事か、当然の話ではある。 「‥‥いいだろう。だが、一つ断っておく。オレ達は一般人に被害が出るような盗みはやらないぜ」 射手座がそう宣言すると、西十郎はじっと彼を見つめた。 「開拓者みてえな事を言いやがる」 「万が一の用心だ。磔にはなりたくない」 極悪人となれば只では死ねない。極刑を避けたがるのも、それほど不自然では無い。 「そうかい。血を見ねえで済むなら、それに越した事はねえ」 西十郎は反対しなかった。 「しばらくはゆっくりしててくれ」 大仕事が何かは不明だが、今すぐ準備に掛かる訳では無いようだ。 西十郎は改めて手下を紹介した。 鶉の他に、黒兵衛、次郎という盗賊を連れている。射手座達が驚いたことには三人とも志体持ちで、我流ながらシノビ風の技を遣うようだ。 「西十郎さんは有名な親分さんなのかい?」 「さあね。名のある大親分の下で修業したとは聞いたよ。実際、兄貴は腕が立つし、頭も切れる。お前さん達は運がいいぜ」 「そうだ。兄ぃの言う通りにしていれば何も心配はいらねえ」 手下の中では鶉が一番の古株で、黒兵衛と次郎は二年ほど前に別の盗賊団から移ってきた若い者だ。霞は単独で盗みもやるが、時に他の盗賊団と組んで仕事をする事があり、そうした裏稼業に通じた男のようだ。 「波路殿は、盗人には見えないが」 「なんだお前、波路に気があるのかぁ?」 率直な山羊座の問いに、黒兵衛は親切に教えてくれた。 出遭った時、波路は商人の用心棒で、西十郎達はそこへ押し入った盗賊だった。危うく黒兵衛は首を飛ばされかけたが、西十郎が手強い彼女を倒した。西十郎がどう説得したものか、彼女を仲間にすると言った時には二人とも驚いたという。 「幾ら兄貴の言葉でも、今度ばかりは無茶苦茶だと思ったぜ」 所が波路は盗賊の仕事を実直にこなし、裏切る素振りも無い。西十郎も彼女を信頼し、波路が嫌う強盗の類は極力避けた。元々、忍びの技には長けていたので、実力のある剣士が加わった事で幅が広がり、無理な押し込みを働く必要もなくなった。黒兵衛達も今は波路を信頼しているようだ。 「あれは武家の娘だろう。剣に妙な癖が無い。良い師範の下で心血を注いで打ちこんだに違いないが、何故若い娘が用心棒などに?」 「‥‥こりゃ本物だ。でもなぁ、波路の奴、自分の事は話さねえし、お前も知ってると思うがこの稼業で過去の詮索はご法度だぜ」 勘違いした次郎は山羊座に忠告してくれた。 誰だって裏稼業に身を落とすには理由がある。本人が語らぬ限り、それを聞かないのは盗人仲間の不文律と言って良い。 「ねえねえ♪ 今日も剣の練習? 付き合おうか♪」 「魚座殿、先日も同じ事を申されたが、剣は上達されたのですか」 魔術師である魚座は剣術は得意ではない。波路は剣の道が好きというので、付き合って練習した結果、ボロ雑巾にされた。 「心配してくれるの、やさしーね♪ それじゃ今日は剣術はお休みにして、私に天儀の事を教えてくれるってのはどうかな?」 「私は世間知らずの粗忽者、他の者に聞かれた方が宜しい」 ガードは固いが、魚座は諦めない。 一方、 「盗賊稼業は辛くないすか?」 「己の選んだ道を辛いと思ったことはありません」 「毎日休まないで稽古して、大変そうすね?」 「そう見えているのでしょうか。刀を振っている時は無心になるので、苦労と感じた事はありませんが」 魚座とは別の方面で、何かと気を遣って波路に話し掛けるアリス。 分かった事は彼女が真面目で愚直であり、今の生活に不満を持っていない様子であること。そして、己の事を話さないこと。 波路が自分から話さない以上、さすがに四人も下手に踏み込むことは出来なかった。 「行ってくるぜ」 西十郎の外出時、射手座の指示でアリスは彼を尾行した。供は波路一人、二人とも実力はアリスより上だから、かなり距離を取ってあとを付けた。 「どこへ行くか、突き止めるっすよ」 暫く歩いた二人は街道沿いの茶屋で休憩した。隣に座る老人と何やら話している。気になったアリスは危険を冒して近づいた。 「‥‥西十郎どん、らしくもねえ」 旅姿の老人の口調は親しげだ。 「新入りが揃いも揃って波路に近づくとなりゃあ、答えは一つじゃねえかい」 人づきあいが苦手な山羊座も含め、四人とも自然と波路を視線で追う。そうした空気は隠しきれないものだ。 「おじさん、波路に限ってそんな事はねえよ」 「あの娘のことは、俺も信用はしてるさ。まあ、本人に聞くが一番だ」 西十郎に呼ばれて、少し離れて座っていた波路が近づいた。 「波路、こちらの喜平治さんは苦労症でな。お前に悪い虫がついたんじゃねえかと心配していなさる。あの四人の事だが、お前の過去を詮索したり、力になってやるとか言ってやしないかえ? 下手をすると、奴らは狗かもしれねえ」 盗み聞きするアリスは心臓が飛び出しそうだった。直接的な言動こそ避けてはいるが、疑われても不思議の無い行動はしている。 しかし。 「‥‥しつこく声は掛けられていますが、怪しい素振りはありません。大方、私が女と見て与し易いと思っているのでしょう」 「そうかい。お前の言うことだ、間違いはねえとは思うが、用心するに越した事はねえからな。喜平治さんの勘も、外れる事もあらあ」 「俺をもうろく呼ばわりしやがる」 波路のお陰で、ひとまず危機は脱した。 西十郎に信用された四人は、暫く自由にしていろと解放される。怪しまれぬよう、仕事の時以外は分かれるようだ。四人は係員と相談し、ギルドと無関係に見える形で盗賊団との連絡手段を作ることにした。 さて、次からが本番である。 今回の天運:十七 |