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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「村を守る警備隊を退治してください」 いかにも胡乱な依頼だった。 1年ほど前の話だ。 辺境の村を守った開拓者が村に居つき、設立された警備隊だった。 20年間、警備隊は村を守り続けたが、小さな村に似合わぬ規模だった。アヤカシや山賊が出なくなると村人は警備隊を重荷に感じ、排除しようとした。 ギルドに四度の依頼が出されたが、春が過ぎてふっと依頼が出なくなる。 良くある事で、大体は依頼人の事情である。 「そういえば、警備隊はどうなったんだろう」 先日、一人の開拓者が思い出し、気になったので依頼の帰りに村を訪れてみた。 はたして村は無くなって‥‥は居なかった。 村人の話では、警備隊は村の領主の宇鬼田好政の家来になったそうだ。 「ふ‥‥む」 それは開拓者が提案した結末の一つ。 しかし、どうして依頼は来なかったのか。開拓者は依頼人に話を聞きに行く。 開拓者ギルド。 ご隠居と係員が昔話をしている。 「私の子供の頃は、今と違って開拓者など居りません。その代わりに傭兵、警備隊、冒険者などという輩が居りましたけど、子供心にもおっかなくて、近寄るのが怖かったですなぁ」 「今でも傭兵や軍隊は居りますが、開拓者はまあ、何でも屋のようにやっておりますから、それで身近に感じてもらっているのでしょうか」 係員は満更でも無い風だが、無沙汰を詫びる御隠居の世辞、と理解している。 「近頃はお見限りでしたねぇ」 「それそれ。前に話しましたでしょう、息子に止められていたんですよ」 御隠居さんは小間物屋を息子に譲って悠々自適。時々、面倒の種を拾ってはギルドに持ち込んで来ていた。警備隊の話も、依頼の筋が不明瞭となった後も御隠居の一存で続けられていたのだが。 「何でも、宇鬼田様から、息子に連絡があったそうで」 好奇心でよその村の揉め事に首を突っ込んで役人に煙たがられている‥‥孝行息子ならば止めるのが当たり前だろう。 「何で依頼主がばれたんでしょう」 「元はと言えば人づてに頼まれた事ですからね、村長さんならお分かりになると思いますよ。領主様に聞かれたら答えざるを得ないでしょうし」 道理だ。宇鬼田は依頼主を牽制しておいて、その間に村人と警備隊と話し合い、警備隊の吸収に動いたらしい。 「それだと、ギルドの出る幕はありませんねえ」 人同士の揉め事の仲裁、裁判権は古来より王にあり、領主にある。領主が正論をふりかざして対処に動いたのであれば、開拓者は不要だ。 「そうでしょうか」 御隠居は不満そうだ。 「外の人間があれこれと理想を押し付けるより、村の人と領主と警備隊が話し合って決める方がいいに決まってますよ。経緯はどうあれ、開拓者任せにするより自分でと領主が頑張っているなら、それでいいじゃないですか」 係員は悟ったように言う。 何でもかんでも開拓者任せでは役人の立場が無いし、開拓者も仕事が増え過ぎてアヤカシ退治が出来なくなれば、本末転倒だ。 「結局、開拓者は傭兵と変わらないのですなぁ」 御隠居はちょっとした失望感を味わう。彼が子供の頃、大人達は何かあると傭兵、私兵を雇って頼んでいた。彼らは頼もしい存在だったが、騒動が片付くか、金が無くなれば居なくなった。若い頃は地回りの親分に憧れてやんちゃをし、直って商売人として多少の成功をした。開拓者を知り、幼い頃の英雄像が蘇った気がした。 宇鬼田は警備隊を丸々抱え込むのは大変だから、整理されるだろう。その上で一つの村だけでなく、領内の警備隊として再編され、村の負担は減り、皆が徐々に平穏を取り戻す。そうはならないかもしれないが、いずれにしても自業自得だ。 かくして、依頼は出されなかった。 領主は当初、警備隊や開拓者の介入に、力で対抗することも考慮していた。 そのため、傭兵を雇っている。 しかし、依頼人の封じ込めが功を奏したので、多少は妥協しても平和裏に解決する道を選んだ。それを、面白く思わない者達が居る。 「森に金が隠してあるってのは確かな筋かい?」 「ああ。都の開拓者が、何が楽しくて何もねえ田舎の村を二十年も守るもんか。森の中には表沙汰にできねえ凄ぇ宝が隠してあって、警備隊は只の隠れ蓑よ」 傭兵の中に、かつて警備隊と争った山賊の一味だった男が居た。男は仲間を多数倒されて、警備隊に恨みを持っていた。仕事はフイになり、警備隊は領主付きに‥‥男にとって、それは許せる話では無かった。 「だが、どうしようもねえ」 「いいや。もうすぐ領主と警備隊が村で手打ちをする話になってる。そいつをぶち壊すのさ」 男は山賊を引退して傭兵稼業に身を置いていたが、恨みが余程深いのか、考える事が飛んでいる。 「そんなに上手くいくか?」 「簡単だ。領主と隊長をぶっ殺して、隊長が領主を斬った事にするのさ」 傭兵達は顔を見合わせた。困った事に、他の傭兵達も男と同類だった。仕事があれば善人面だが、金が無ければ強盗もする。 「村の連中も領主も開拓者に不信感を持ってるからな、何でもいいから騒ぎを起こして、上手くやれば俺達が全て頂けるって寸法よ。悪くねえだろ」 すこぶる拙い作戦だが、このまま仕事も無く追い剥ぎ山賊に落ちるよりは良い、と傭兵達は判断したのだった。 春から療養中だった小杉半兵衛が死んだ。 小杉は村を守った開拓者の1人で、村では伝説の人だ。 英雄の死を悼み、葬儀は村で行われることになった。 宇鬼田好政、警備隊隊長の風荻清太郎が参列し、葬儀の後、その場で風荻は警備隊の解体を了承する運びだ。警備隊は正式に宇鬼田の兵に編成され、再生される事になる。 葬儀には馴染みの開拓者も呼ばれた。御隠居や係員も列席する。葬儀場は村長の屋敷。当日は宇鬼田の傭兵達が警護し、式場に武器の持ち込みは認められない。 さて、どうなるか。 |
■参加者一覧
秋桜(ia2482)
17歳・女・シ
无(ib1198)
18歳・男・陰
ネシェルケティ(ib6677)
33歳・男・ジ
雨傘 伝質郎(ib7543)
28歳・男・吟
松戸 暗(ic0068)
16歳・女・シ
スチール(ic0202)
16歳・女・騎 |
■リプレイ本文 「私はスチール・ド・サグラモール。木本兼篤から警備隊の話を聞いて、やってきた。守りには自信があるぞ。どうだ、この空の騎士を使ってみないか?」 スチール(ic0202)が言うのを、元十手持ちの梅蔵は黙って聞いていた。年は若い‥‥十五、六か。ジルベリア風の皮鎧に、青いサーコート、腰に長剣を佩き、頭にはフリル付きのヘッドドレス。 「パッと見は、駆け出しの開拓者風だな。木本某ってのは知らねぇが」 「私も聞いたことの無い名前ね」 「‥‥ああ、十何年か前に、そんな名前の開拓者が来てたな。その頃は、今より警備隊も羽振りが良かったんだよ。あまり、長続きはしなかったが」 ネシェルケティ(ib6677)と話していた風荻が、会うだけは会ってみると言うので、梅蔵はスチールを奥へ通した。入れ違いにネシェルは退出する。 「もっとゆっくり話を聞きたいが」 「結構よ。一応、葬儀には出るけど、ギャラも出ないのに愛想ふりまく気なんて無いのよ」 扉を開けたら、バラージドレスを着た2mの巨漢が居たのでスチールは驚いた。ネシェルの方は、 「なんだ小娘か」 これみよがしに舌打ちし、スチールの体を廊下から引っこ抜いて体を入れ替える。 「今の大女も、ここで働いているのか?」 「ネシェルケティは開拓者だ。警備隊が無くなる前に、別れの挨拶に来たようだな」 用件を切り出す前に、無駄だと知ったスチールは情けない表情を浮かべた。 「無くなるのか? 何か仕事を回して貰えるかと思って、やって来たのにな」 「見た所、君も開拓者のようだが、ギルドの者ならば仕事に困ることは無いだろう」 ぶんぶんと首を振るスチール。 「新人でな。難しい依頼には関われんし、ただ言われた通りに動くのでは開拓者になった甲斐が無い。出来れば仕事は自分で選びたいのだ」 ツテを広げようと、依頼の合間に歩きまわっているらしい。それならば、こんな田舎に来なくても、都会の方が幾らでも仕事の種は転がっていそうだが。 「私は騎士だ。人々を守る盾に、鎧になりたい。満足な兵も派遣されない寒村を何年も守っている警備隊があると聞いて、興味があった」 「成程。確かに、この警備隊は君が言った通りのものだよ」 風荻は微笑む。警備隊が生まれた頃は、スチールのような若者が何人もやってきた。戦いがある時は良かったが、辺境警備の本質は暇と退屈。徐々に疎遠になったが、木本もそんな一人だった。 「ふーん。一つの村を二十年も守ったのか、それは凄い。私には、真似出来そうにないよ。ところで、私も葬式に出させて貰っても良いかな」 「構わないさ」 スチールは警備隊本部である大昔の砦跡に泊まった。警備隊の解体は隊員も周知だったので、すでに隊を去った者も居て、部屋は余っていた。 「領主や開拓者が参列するなら、顔を出しておいて損はなさそうだ」 用意された寝床に横になるスチール。臭いし寒い。使えそうな備品は辞める者の餞別になっていたので、お世辞にも快適とは言えない部屋だ。 「立派な砦が、勿体無いな。警備隊が出来る前は、山賊の根城にもなっていたと言っていたが」 魔の森の成長により、近くの街道が廃れて砦は放棄された。最近はギルドの活躍で各国の軋轢が減り、朝廷を中心にギルドと各国が連携してアヤカシに対抗する事例が増えている。辺境に兵を置くよりも、有事の際には中央の兵を派遣したり、ギルドの開拓者を頼る方が効率的だ。非効率な警備隊が解散するのも、時流か。 「隊長さん、やはり寂しそうだったな」 スチールは劣悪な環境は気にならないのか、ごみ同然の毛布にくるまって眠った。 宇鬼田屋敷。 「傭兵は開拓者ほど信念も矜持も無いですよ、縛るは金のみです」 葬儀の前に好政に面会を申し入れた无(ib1198)は、領主の考えを聞いた上で、そう忠告した。この時点で无は傭兵達の企てを知らない。彼の矜持が、傭兵を使って開拓者や警備隊に対抗しようとした好政に反発したのだろう。 「素性は確かなのでしょうか。再調査することを強くお勧めいたしますが」 「分かった、言う通りにしよう」 好政は逆らわずに学者の話を聞いた。无は手土産として、依頼関連で調べ上げた情報を地歴調査報告書として提出していた。 「どう思うね?」 「はぁ‥‥わたくし如きでは、私見を挟むのも畏れ多い事ながら、厄介な御仁のようで‥‥」 松戸 暗(ic0068)は好政の前でひれ伏す。人づてに雇われ、関係者の素行調査を行った暗だったが、満足な報告は挙げられず、平身低頭する。 「開拓者が、色々と動いていた事は確かだ。ひょっとしたら、久留間や小杉の死にも関わることかもしれないが」 「まさか」 否定はしたものの、嫌な汗が噴き出す。己の諜報で事態を解決に導くつもりが、関係者は海千山千の開拓者ばかりで手に負えない。 「ですが、警備隊に関する依頼が出されていないことは間違いございません」 「それだけ分かれば、重畳だな。警備隊を吸収出来れば、もはや開拓者が余計な横車を押すことはあるまい。その方は葬儀の間、傭兵と開拓者の動きを見張っていろ」 「はっ、承知仕りました」 傭兵の素性の再調査は間に合わない。ここ数年の来歴ははっきりしているし、怪しむべき所は無い。十年以上、遡るとなれば時間が掛かり過ぎる。それこそ、何か目星をつけて以前から調べていなければ、出来る事では無い。 「へへへ‥‥」 「薄気味の悪い野郎だな」 警備隊の砦に転がり込んでいた雨傘 伝質郎(ib7543)。いよいよ解散が近くなると宇鬼田の傭兵達に会いに行く。 「こいつァ失礼。思わず笑みがこぼれっちまいやしたァ」 「お前さんかい、俺達の仲間に入りてぇって物好きは」 傭兵の代表は五十絡みの貧相な男だった。 「残念だったな。仕事はもうすぐしめぇだぜ。他を当んな」 どこかで聞いた話と異口同音。宇鬼田はちゃんと給金は払うし、紹介状も書くつもりでいるが、その日暮らしの傭兵の鬱屈を若当主が察せられないのも無理は無い。 「とんでもねぇ。しめぇの大仕事、あっしにも一枚咬ませてくんなせえ」 「何だとぉ?」 傭兵の顔色が変わった。 「勘違いしてなさるようだが」 「おっとぉ、野暮は無しですぜ」 雨傘は先の依頼の際から、彼が調べた山賊の生き残りの情報を語って聞かせた。世辞にも固い証拠とは言えないが、宇鬼田が疑念を抱く可能性はある。 「若ぇの、滅多な事を言うもんじゃねえや」 「命が要らねえと見えるぜ」 この場で雨傘を絞めて埋めるくらいは、傭兵達には訳ないことである。雨傘も承知だが、小心者の癖に妙な所で図々しい。 「どうでも俺達の仲間になりたいなら、証しを見せて貰いてぇな」 「へぇ?」 「宇鬼田の若僧に、柏木が張り付いていて面倒だ。奴をばらせ」 「訳もねえ話でさあ」 「この度はご愁傷様です」 村長の家を訪れた秋桜(ia2482)。この前、彼女が村にやって来たのは春先。あの時は村に殆ど入らなかったから、村長の大貫と面と向かうのは、一年前に旅芸人に偽装した時以来だ。 適当に言葉を繋ぎ、頭を下げながら秋桜は思う。あの時、正直に開拓者と名乗っていたならば、どうなっていたのだろう。 「小杉様とお知り合いとは存じませんでしたが、妙な御縁でございますな。あなたがお姉さんと村にやってきた時とは、この村も随分と変わってしまいました」 しみじみと語る村長は、すっかり老け込んで見えた。まだ四十前の筈だが、彼の心境は秋桜にも想像し難い。 「あら、あなたも来たのね。袖摺り合うも他生の何とやらよ、そんな隅に居ないでこっちにいらっしゃいな」 座敷に居たネシェルが手招きした。无も居る。 「雨傘も来ているらしいのですが、姿を見ましたか?」 「さあ、わたくしは今来た所ですから」 妙な既視感があった。三人は一年前から村に来ているが、一度も村長の家で一堂に会したことは無い。松戸暗が人間関係の複雑さに匙を投げるのも頷ける話である。 「村長に啖呵を切った手前、彼が何かしでかすと立場が無いですねぇ」 「无は心配性ねぇ。そんなだから、あんた禿げるのよ」 「あらぬ誤解を撒き散らさないで下さい」 「大丈夫よ。よしんば何か起きてもね、その程度の火の粉を払えないなら、行く末同じだわ」 バシバシと背中を叩かれ、无は顔をしかめた。横を向くと、秋桜は既に飲み始めていた。女中として準備など手伝いたいと思ったのだが、今日は客ですからと言われ、それならばと酒を貰う。 「潰れても知りませんよ」 「へーきですよぉ、むしろ小杉さんのお葬式らしくて良いと思いません? ‥‥はぁ、やはり不摂生が祟って、ですよねぇ‥‥はぅ。お酒が命の私にとっては、耳が痛いお話なのです。次は我が身、ですね‥‥」 しみじみと語る間に一升瓶を空ける秋桜。呆れる无だが、いざとなれば酒笊々があるから大丈夫だとガブ飲みする秋桜。 「そんな勿体無い真似をする人に飲まれては酒が可哀想だ」 无も愛用の酒盃を取り出す。 「お、やってるな」 座敷に顔を出したスチールは、いかにも駄目人間の集まりに、先日見た巨女を見つけて近づいた。 「先輩方は、亡くなった人とどんな知り合いだったんだ?」 単刀直入に聞くスチール。 「飲み友達ですかねぇ」 術を使うのを忘れているとしか思えない顔色で、飲み続ける秋桜。玄関の方から村人達のどよめきが聞こえて、席を立つ。 「‥‥響を連れて来たのは、鵜鵯田さんらしいですね」 「へぇ、男の友情って奴かしらね」 来る前に鵜鵯田を質問責めにした无は、おそらく居所を探したり、小杉の噂を流したりしたのは彼だと推測した。 「あの偽物は、死体に憑依する類でしたから‥‥警備隊で亡くなった開拓者の誰かで、鵜鵯田の知り合いだったのだと思います。夕堂や風荻が気づかない筈はありませんから、私達が深入りする事でも無いんですけどね」 残された白骨から身元を知るのは無理だ。分からない事はあるが、警備隊が無くなる今、無理に暴いても詮方無い。 「正直過剰な所はあったし、良い塩梅の解決策が見つからない以上、落ち付く所に落ち着くのは、仕方の無いことよ」 ネシェルも侘びしくなり、秋桜の残した酒を手酌で飲み干す。 「安直で面白くも何ともないけど。面白い、だけでは大半の『普通な人』は飯食えないのよね。哀しいけど、それが現実。だから皆浪漫に憧れるのよ」 ところで、三人に酒と肴を運んでいる女中は、暗である。今この瞬間も、襖の影で耳をすませている。 (やはり、何か起きるのでしょうか‥‥シノビ失格です。いいえ、悩んでいる場合ではありません。シノビは心に刃を乗せると書いて忍。いざという時は、この身にかえても) 懊悩する女忍者に聞かせるように、无の話が続く。 「そういえば柏木の叔父が、久留間達の仲間だったらしいですよ」 「初耳ね」 「警備隊の人達も、知らないんじゃないですかね。隊長は気づいていたかもしれませんが」 思わずメモを取る暗。スチールが彼女の脇を通るが、騎士は気づかない。 久留間響は綺麗な顔をしていた。 「よく戻ってきてくれたな。兄さんも喜ぶ」 村長は感情を抑えた声で、姪を出迎える。彼女は黒い着流しに、物干竿のような長刀を背負い、およそ葬儀に出る格好ではない。 「小杉半兵衛が死んだと聞いたから来ただけ。すぐ帰る」 「罰あたりな」 村人の呟きを、秋桜は聞いた。村人は口々に声をかけるが、響には感慨が無い様子。秋桜には馴染みの感覚だ。開拓者にはこういう人間も少なくない。 「ほうほう、響さんは用心棒をしておられるのですか」 村人には超然とした佇まいを見せる響だったが、半兵衛の死に様を知る秋桜とは少しだけ長く話した。 「成り行きだ。他に、取り得が無い」 響は長刀を背負ったままだ。警護の傭兵達は刀を預かると言ったが、では帰ると彼女が踵を返したので、村長が特別に許した。さすがに怯えて、村人達は彼女に近づかない。 「お酒は? え、飲まない? 人生の九割を捨てたも同然です〜」 軽く五升を空けて、酒笊々を使い始めた秋桜。既に酔った分は回復しないし、更に飲む。余人には測れない境地だ。 「酒もなく、荒んだ生活を続けられては、今日の故人と同じ末路ですよ〜」 「父や半兵衛のようには、死ねない。野良犬のように野垂れ死ぬのが落ちだな」 「ふふふー」 がぶがぶと酒樽の中身を流し込みながら、秋桜は笑う。 「独り占めは許せませんね。はじめまして、響さん。父上や小杉さんには、色々とお世話になりましたよ」 響の隣に腰を下ろした无も、相当に出来あがっている。小娘がちやほやされる様は面白くないと、ネシェルは席を立つ。義理は果たした、お暇しようと廊下に出たジプシーは、鯉口に手をかけた雨傘とばったり会う。 「おい、早く柏木をやらねぇか」 「‥‥あんた、馬鹿?」 前後から声をかけられ、あても無く動いたツケをどう踏み倒そうかと思案していた男は、困り果てる。 「屑は承知でござんすよぉ」 無銘「千一」を逆手に抜いた雨傘は、無理な態勢で後ろに突き入れた。傭兵のわき腹を刀が串刺しにするが、がら空きの首を短刀が捉える。一瞬早く、ネシェルの踵落としが雨傘を叩き伏せていた。 「雨傘がやっ‥‥られた!?」 廊下に待機していた傭兵達は戸惑いつつも、抜刀した。座敷から顔を出した宇鬼田に、倒れた傭兵の刀を放り投げるネシェル。 「男なんだから、自分の不始末を捨てて逃げないわよね」 「今倒した男は仲間では?」 自嘲の笑みを浮かべたが、刀を握る好政。 「私の剣はどこだ? ええい、ままよ!」 スチールは領主や村人の前で良い所を見せようと発奮し、無手で傭兵の列に飛び込んだ。 「ここまで頭の悪い連中だったとは‥‥村人を逃がしますから、係員さんは御隠居さんをお願いします」 袖から呪符を取り出す无。 「げ、陰陽師がいやがる! 潰せ!」 「わたくしも、居ますよ〜」 真赤な笑顔で懐に忍ばせていた手裏剣を投げる秋桜。呪符と手裏剣で二人倒れるが、傭兵達も本職。背後に回った一人に斬られ、无がよろめく。 「狼藉者!」 隠れていた暗は印を結び、火炎を傭兵にぶつける。シノビとしては、冷静に対処すべき事態だが、暗は村人を守る為に進んで大立ち回りを演じた。 「話が違うぜ」 「だから俺は無理だって言ったんだ」 数の上では傭兵の方が倍近い。だが彼らには命懸けで戦う理由が無い。手錬れほど先に逃げてしまい、ほどなく鎮圧された。 「宝だと? 愚かな‥‥私達は守りたかっただけだ」 何をと聞いても風荻は答えない。縄を打たれた雨傘は、しまらない終わり方だと笑った。傭兵と戦った功で百叩きで済まされたが、痛かった。 後日、延期された警備隊の解散が滞り行われたという知らせが、ギルドに届く。何となく、久留間達の気持ちを察する者も居たが、それも憶測に過ぎない。 おわり |