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■オープニング本文 前回のリプレイを見る 「また、失敗ですか?」 怒りを通り越して、もはやあきれるしかないという表情になってシャイロック・マネレンダは顔をあげた。 金を貸している男の顔は真っ青になり、ただただ頭を下げているだけだ。 むろん同じ重さの血肉よりも価値のある金属、つまり金銭を貸しているのだから許していいわけではないが、だからといって相手を無能とだけ罵っているだけにはいかない。長雨のつづいた冷夏に作物が育たなかったといって、農家を怠惰と貶すわけにはいかないのと同様である。 さきだって失ったエンジンの行方は開拓者達の懸命な努力の結果、発見することができた。発見した以上は、回収するつもりであったのだが、ここでもまた問題が発生した。いや、問題の発生など事前にわかっていたことなのだ。 飛空挺用に作ったエンジンがアヤカシに襲われ、再び落下したのだ。 運良く、今回はどこにあるのかまではわかっているが、回収しようとするたびに落下していたのでは話にならない。 それにアヤカシがらみとなれば開拓者に動いてもらうのがいいのは前回の依頼で理解できた。 ならば―― 「なんにしろ、これが最後です。開拓者に動いてもらいます。その上で失敗するようでしたら、あれを破棄させていただきます」 損益の天秤をかけた、それが最後の決断であった。 |
■参加者一覧
羅喉丸(ia0347)
22歳・男・泰
和奏(ia8807)
17歳・男・志
エアベルン・アーサー(ia9990)
32歳・男・騎
アルクトゥルス(ib0016)
20歳・女・騎
フランヴェル・ギーベリ(ib5897)
20歳・女・サ
神座亜紀(ib6736)
12歳・女・魔
山羊座(ib6903)
23歳・男・騎
射手座(ib6937)
24歳・男・弓 |
■リプレイ本文 和奏(ia8807)は、テーブルに拡げた資料をいま一度見直している。依頼の実践を前に、何度も何度も確認し、もはや完璧に頭に入っているのだが、なんとはなしに再び手にしていた。 まるでテスト直前ではないか。 自然と苦笑がもれる。 情報はすでにわかっているの、それでも資料に目を通したくなる。たぶん、いまさらの詰め込みなどに覚えるという意味はなく、ただ資料を眺め、気分を落ち着かせたいのだろう。冒険を何度も重ねているのに、おかしな話だ。 ならば―― (「二度目の仕事、慣れない」) 山羊座(ib6903)は表情こそ変えぬまでも、心でつぶやく声は相棒に届いたのだろうか。そして、射手座(ib6937)の心の叫びである (「今日も山羊のお守りだ‥‥」) 相棒の声もまた届いたのか。 なんにしろ友情なのか、それとは違うのか他者には知り得ぬ関係であるのはわからないが、わざわざ二人でそろって奇妙な異国の開拓者は先達に意見を求めている。 表情は変わらないが、無口ながらも要点だけをまとめた質問は、人によっては好意を持ち、人によっては態度がなってないと怒鳴る類の態度であった。あわてて射手座がフォローを入れる。 まったくもって息があっている。交渉にも押すと引くというテクニックめいたものがあるが、それを二人でやっているのだ。 まるで二人で一人の開拓者だと羅喉丸(ia0347)は思った。 まだ開拓者になったばかりの者たちに、エンジンを発見するまでのいきせつを語る。 「――そして魚に似たアヤカシだ。見てくれこそ空を飛ぶ魚という愉快な姿だがバカにはできない。斬れば死ぬが、鱗は硬い気がする‥‥まあ、これは俺の感触だから気にすることはないし、個体差もあるだろう」 前回の経験を踏まえ、魚型のアヤカシの特徴を前回未参加者へ伝えた。 「それに依頼人にアヤカシはどこを優先的に狙ってきたのかと尋ねたところ、エンジンを狙っているらしいが、まるで大切な卵を奪い返そうとしているようだったという船員たちの声もあるな」 「エンジンですか?」 ぴんときた。 山羊座と射手座はうなずいて、二人の行動は決まった。 一方で、エアベルン・アーサー(ia9990)は顎に手をあてながら頭を悩ませる。 「エンジンの宝珠の力を求めているのか‥‥それとも図りえぬ意図があるのか‥‥なんにせよ好きにはさせられんな!」 この場所に来るまでに見せていた陽気でひょうきんな態度からはまるで想像もつかない豹変ぶりで口ぶりまで変わっている。極端なレベルの変化だが、仕事とそれ以外をしっかりとわけるタイプなのだろう。 ● 「よろしくお願いしますね」 和奏は、にっこりと笑って駿龍の頬に手をあてた。 「龍さんにご同行をお願いしますよ」 親しげに目を細め、甘えたような口ぶりで語りかけると、楓がうなり声をあげる。 (「戦ってやるぜ! 戦ってやるぜ! 野生が俺を呼んでいるぜ!?」) 「どうしたんです?」 荒ぶる楓に和奏はすこし不思議そうな顔をして、にっこりと笑った。 「戦いが怖いんですか? 大丈夫ですよ」 (「いや、俺は戦いたいんだけど‥‥」) 碧落の猛と鳴らした往年の牙と爪はいまいずこ。 温室育ちの優しい主人に飼い慣らされ、腹には野生に対する渇望をもちながら、加護の中の竜は、籠の中のお姫さまのようなものである。 まったくもって玉は磨けば光る。しかし、怠ればたんなる石となるわけである。 「それに、お前の綺麗な羽をぬらすことになってしまうんですよね。どうやら谷は霧の多い場所らしいですから」 ● 「えくすかりばんは、ちゃんと働いてくれるだろうか?」 「そもそも、お前がを無茶をしないかが不安だ」 愛想笑いも疲れたと言った表情で射手座は山羊座に言った。 「無茶はしない」 「そうか‥‥ならばいい――」 二人はそう言い合うと、過去のエンジン運搬経験者に事前に話を聞き、失敗原因、2度目以降の準備や、尚も失敗した理由についてまとめた書類を書いていた。 これで、かなりのことがわかり分析でき、計画にも盛り込むことができた。 ただ気になるのは、何種類かいるアヤカシの内にはまだ攻撃に参加していない種類も確認されているということであった。 ● (「せっかくみつけたエンジンなのにまた行方不明になられちゃ堪らないよ! 絶対守って見せるんだから!」) 駿龍のはやてにまたがった神座亜紀(ib6736)はエンジンにさわりながら、さきの冒険を思い出している 雨、雨、雨―― 「だあぁ、思い出しただけで頭の中がかびちゃぅぅ!?」 何の因果か、神のダイスのイタズラか、依頼の間ずっと降り続けた天候がまず思い浮かぶ。そして――魚。 泳ぐように深夜の空を泳いでいた生き物。だが、その発する瘴気からアヤカシと判断された敵は、なんとも美しく、いま思い返しても、夢の中にいるような気持ちになれる。だが、あれが敵となるのならば――手綱をにぎる手がぎゅっとなる。 「ならばこその我々だ」 甲龍、アスピディスケをさっそうと駆り、騎士が神座のそばにきた。 「アルクトゥルス(ib0016)さん!」 「今回もよろしく頼む」 陽光にその横顔がかがやく。 天空の風が銀の髪がなびかせている。 「ほぇ‥‥」 しゃべれば姉御だが、黙ったまま、こうしていれば美しき処女の騎士と言い張ることができるだろう。なんにしろ同性の目にすらも見惚れさせる、空を駆ける騎士さまだ。 くしょん。 「風邪かい?」 「そうかしら‥‥誰かが噂してるのかな?」 そんな神座を遠くから見守る(?)目がある。 「あぁぁ、もうかわいなぁ‥‥」 フランヴェル・ギーベリ(ib5897)が望遠鏡ごしに彼女たちの姿を見ては、鼻を伸ばしているのだ。まるで寒い、寒いと自分の体を両手でかかえるような少女の姿も、またプリティーだ。 「何か見えるか?」 羅喉丸もまた望遠鏡を使って見張りを行っている。 「ああ可愛い娘ならばいますよ! えへへへ‥‥」 頬がゆるんでる、ゆるんでる。 「なんだと?」 「ああ、いや。ほら、うちの仲間はかわいい娘が多いじゃないですか! その姿だけは見えますってことです」 「よくわからんが、アヤカシは見えないんだな?」 何事もなかったように羅喉丸は答えたが、その心中はいかなるものか。 望遠鏡で周囲を見張りをつづけて、はや数日。 精神的な疲れも、そろそろピークだろうか。 「ああ、甘いもの‥‥甘いもの」 日に日に菓子に手が伸びる回数が増えてきている気がする。とりあえずは目をつぶっているが、この依頼が終わった後、女性の大敵であるタイジュウゾウカと依頼もなしに戦うことになるかもしれない。 その時、艦橋に声が響いた。 「見えたぞ!」 ● 神座の呼子笛の音が谷に響いた。 「アヤカシがいたよ!?」 あたりの空気が変わる。 谷間に緊張が走る。 ちょうど飛空挺が谷に入っていく、 もちろん谷である以上、入り口があれば出口もある。その場所の特徴ゆえ、入り口と出口がそれぞれひとつしかない時には挟撃を恐れる場所でもあるが、撤退戦ともなれば話は変わってくる。 特に挟撃の可能性がない――つまり背後の地がみずからの領土であり、あるいは制圧した土地であるのならば敵の数と攻めてくる方向をある程度、操ることができる、つまりは逃げの一点である弱者すらも戦いにおける主導権を奪うことができる場でもあるのだ。 むろん代償はある。 一斉攻撃ができないからこそ、敵の攻撃は何波にも渡る攻撃となるのだ。 「行く!」 飛空挺は船員たちにまかせ、その場を離れると、フランヴェルは飛空挺の外に出た。 強烈な風が吹く。 吹き付ける風に思わず足を取られそうになる。吹き飛ばされないように柵を手でつかみ、一歩、一歩。 飛空挺と縄で繋げた滑空艇が風で左右に揺れている。 「ええぃ、ままよ!?」 フランヴェルが飛び乗ると、飛空挺から落ちて滑空艇は自然落下。きりもみをしながら滑降をすると、みるみるうちに眼下の木々が大きくなる。 しかし、あわてることはない。 「捕まえた!」 ふわり。 ポーラースターは風に乗った。 急上昇する。 青い空がまぶしい。 思わず目を細めると、魚たちの腹がきらめいている。 まるで水の底から水面を見ているような気分だ。 「バカンスだったらよかったのな――」 頭の隅に少女たちの水着姿がわずかによぎった時、天上で何かが爆発した。 「はじまった」 空戦部隊に合流しよう。 「よし!」 体に巻き付けた荒縄の結びを確認し、神座ははやてに発破を掛ける。 (「いくよ!」) はやてが叫び声をあげて応じ、少女と共に戦いのまっただなかに突っ込んでいった。 ● ウルベルムにまたがりエアベルンも戦場にいた。 しかし、ここはまだ最前線ではない。 遠くから聞こえる剣戟の音に甲龍が反応し、好戦的なうなり声をあげている。 「まあ、まてまて――」 急かす友を落ち着かせ、自分に言い聞かせるように声をあげた。 「防御は任せてもらう!」 「では、頼んだ!」 羅喉丸が竜にまたがった。 「友よ、いくぞ! 心してかかれよ!?」 羅喉丸の命に頑鉄が咆哮をあげて応えると、その鱗がスキルによって硬くなる。 風となって、前線へたどり着くと、小魚の姿をした先遣隊のアヤカシが正面に見えた。 (「まずは六体です」) 心眼の「集」であたりを探っていた和奏の声がした。 「うん、見えるよ」 フランヴェルは目を細め、雲間にその姿を認めると、なにかがそれに向かって突っ込んでいく。 「まずは手慣らしだ」 アルクトゥルスがヴィルヘルムをふるった。 ハーフムーンスマッシュが数体のアヤカシを一刀のもとに断つ。 「アルクトゥルスさん、早い!?」 「こまけぇこたぁいいんだよ!」 「次が来るぞ!?」 「わかってる。いくよ、はやて!?」 神座とはやてが一心同体となってアヤカシの群れに突っ込み、 「さあ、こっちこっち!?」 一部の敵を引き離しにかかる。 たとえ倍の敵と戦ったとしても、敵が二手に分かれ、さらにそれを半分にすることができれば局所的ではあっても、敵よりも優位な戦いができるのだ。 ● 「はじまったな」 「ああ」 射手座と山羊座は前線から離れた背後で、戦いを見ていた。 「前線だけで敵を倒してしまうんじゃないか?」 「だと、いいな」 「貴公‥‥いや、そうだな。これで終わるのならば、わざわざ私たちに依頼がくるわけではないからな」 たしかに海戦劈頭は開拓者達のペースで始まった。 すでに先遣隊のアヤカシのたいがいを切り捨てている。 だが、それは幕開けにすぎない。 「つぎが来ます」 和奏の警告が跳ぶ。 そして、詳細―― 「数‥‥数十体!?」 和奏はわずかだが言葉を呑み、しかし彼の知る限りで正確に状況を伝えた。 「本隊かしら?」 「そうだと思います」 「和奏は、背後にさがってくれ」 「後退ですか?」 「エンジンを護らなくちゃいけないから!」 「そういうことですか」 「若い子たちばかりだから、保護者がいないとね」 「あの人たちが怒りますよ」 「前線は、まだ冗談をいえるくらいの余裕があると伝えておいてくれ」 「何か言いたいことがあるのかい?」 顔に何か書いてあるような物言いだ。 「霧も出てきましたしね――」 予報どうり谷間には霧が立ちこめてきている。 幸いだったのは霧が出てくる前にアヤカシを発見できたことだろう。もし霧が出た後の遭遇であったら一方的な奇襲か、典型的な遭遇戦となっていたかもしれない。 「武運を祈ります」 楓が飛空挺のある位置まで後退した。 「さて、本番! 本番!?」 敵の本隊とコンタクト。 「時間との戦いだな」 泰拳士がアヤカシを叩き落とすと、 「恨まれたかな?」 十体以上のアヤカシが向かってきている。 そのそばでは騎士が再びスキルで複数の敵をつぶす。 「だが――」 練気の消耗が激しい戦いだ。 「こっちだよ!」 ポーラースターがアヤカシたちを咆哮で引き寄せる。 「やあ雑魚の諸君! 暫しの間ボクと踊ってもらうよ!」 蜘蛛の子のように散り散りになると、そこに別の影が突っ込んでくる。 「はやて、駆けて!」 アヤカシのまっただなかを駿龍が割り込んでくる。 「これで!?」 神座が手に向かって指をあげると、あたりが光につつまれ、すこし時間をおいて雷鳴がとどろくと、まっくろになったアヤカシが落下していく。 「面倒‥‥でも――」 ダメージを与えればすぐに落ちるし、こちらの鎧や装甲を抜けてくるほど強力な攻撃力を持ったアヤカシは現在のところ確認されていない。 ● その頃―― 前線を突破したアヤカシどもが、エンジンに向かって突っ込んできた。 「来るぞ!?」 エアベルンが剣をふりあげ、仲間を激励した。 「はじまるぞ」 「ああ――」 山羊座と射手座も戦いに身を投じる。 ふたりはアヤカシを切って、斬って、斬りまくった。 あたりは消えていくアヤカシどもの瘴気で黒くすら見えるほどだった。 衝撃波がアヤカシを屠った。 (「やってやるぜ! やってやるぜ!?」) 「こらこら、そんな力んではダメですよ」 (「だから、やってやるぜ! やってやるんだよ!?」) いやいやというふうに楓が首を振ると、和奏は心配顔。 「そうですか‥‥怖いんですね。わかりました。この場を離れるとしましょう」 どうも戦いがいやと勘違いしているらしい。 しかし、いくら甘ちゃんに見えても、和奏には戦いの才も経験もある。 距離を取ると、敵の反撃がこない受けない間合いでアヤカシを攻撃していく。 そこに、ぬっと巨大なウナギにも似た白いアヤカシが顕れた。 目がないらしく、大きな口には痛々しいほどの鋭い歯がある。 「大物だな?」 「あれが正体不明のアヤカシか?」 「やるか?」 「もちろん注意してだ!」 山羊座と射手座が攻撃を加える、付き従う竜たちも牙で、爪で攻撃を加える。 だが反撃はない。 それがしばらくつづき、奇妙だ――ふたりが、そう気がついたとき、サジッタの爪がアヤカシに致命傷を与えた。 そして、それがカウントダウンの開始であった。 その次の瞬間、開拓者たちの隙をつくように、アヤカシは脱兎のごとく逃走を始めたのだ。それもすごいスピードで前にだ! 完全に不意をつかれた。 追いつけない。 ぼろぼろになったアヤカシは飛空挺に――いや、エンジンに突っ込み、爆発した! 爆音が谷間に響く。 真っ赤な火の玉が生まれた。 「自爆だと!?」 衝撃波が来る。 開拓者たちは、竜にしがみつく。 竜たちは生存への本能と欲望に従い、ただがむしゃらに羽をはばたかせた。突風が来る。懸命に風に乗ろうとする。竜すらも荒れる大気の動き、蛇の舌のごとく谷間で暴れる炎に生死をもてあそばれる状況だ、アヤカシどもが大気の動きに遊ばれ左右の谷にぶつかり、あるいは炎で焼かれたのは驚くには値しないだろう。 「大丈夫か?」 「なんとかな――」 ようやく言葉を口にすることが出来るようになった。 山羊座と射手座が、たがいの安否を確認する。 あたりを見れば、つぎつぎとアヤカシどもが砕け、瘴気に戻っていく。 谷間が白い霧と黒い瘴気に彩られた、不気味な空間にと姿を変えていた。 だが、飛空挺とエンジンはまだ健在だ。爆発の影響と、岩にこすりでもしたのか大きな傷跡が見えるが、まだ空中に浮いてはいる。 「――!?」 だが余力もあとわずか。それがわかっているのか、さらに死をも恐れないアヤカシどもが霧を突き破って、突っ込んできたのだ。 終わった―― そう思った瞬間、アヤカシたちが切り刻まれた。 「おいおい、なにをやっているんだ?」 声がした。 飛空挺の前に竜にまたがった男がいる。 エアベルンだ。 偉丈夫が、戦いで傷つきながらも、血塗れの顔でにやりと笑った。 「この盾が砕かれん限りは触れさせん!」 アヤカシに声高々と宣戦を布告し、ぎろりと遠くに見えるアヤカシを睨んだ。 「そろそろ終わりにしてもらわんと、困るのでな!」 騎士らしくないと自負する男は、だがその時、まちがいなく騎士であり、あるいはそれ以上に漢であった。 なんにしろ、アヤカシの自爆は計画――そんなものがあればの話だが――そのものが自爆であった。その爆発に巻き込まれ、アヤカシの大半もまた消え去ってしまったのだ。 戦場にわずかな休息時間が生まれた。 フランヴェルは迷っていた。飛空挺まで戻って休息をとる予定だったが、どうもいい予感はしない。ちょうど神座の竜が崖の上に降りるのが見えた。 「いい船があった!」 フランヴェルは着陸の準備をはじめた。後ろ姿しか見えないが、はたして正面から見たら、どんな顔をしているのだろうか。 さて、別の場所でも休む者たちがいた。 「そろそろ最後かな?」 「そう信じたいな」 アルクトゥルスは肩で息をしながら、羅喉丸から梵露丸を受け取った。 「さすがに少数で戦いつづけるのはきついな」 「永遠に戦えるわけでもないしな」 背後から大きな爆発音がしたが、まだ飛空挺は大丈夫だという。 「まだ、か――」 さすがの羅喉丸も小さいな傷が体のあちらこちらに見える。 まさに乱戦であるが、幸いといっていいのかどうかわからないが、飛空挺の能力の半分以上を失った代わりに、アヤカシたちの姿も一掃された。 そして、残るは霧の中に見える最後の影。 「さて、きみはさがって。これからは大人の遠足なの」 何を言っているのかしらと神座はフランヴェルを見上げ、はっとした。 神座が大きな目がうるみ心配そうな表情でフランヴェルを見つめた。 かわいらしい少女の憂いをおびた眼差し。大きな瞳がなかば涙で濡れていて、心配そうに見上げている。心の中では大喜びだが、表面上は、ごく淑女な態度で年下の仲間を諭す。 さすがに、ここまで無事に過ごせた少女にケガをさせるわけにはいかない。 「準備ができましたか?」 入れ替わるように和奏が再び前線に戻ってきた。 ひょうひょうとした表情で、虫の知らせのようなもので、ここが勝負時だと察したとのことである。 「さて生き残りそうな連中だけが残ったな?」 「ああ」 さて、もう一暴れだ。 「速攻で落とすぞ!?」 逆に言えば、いまさら長期戦を戦えるだけの余裕は開拓者たちにはない。そして、アヤカシもまた同様であったのかもしれない。 霧を突き抜け、最大級の巨大な魚が襲ってきた。 「お前の弱点は、ここだ!?」 羅喉丸の矢が鱗を打ち抜き、黒い瘴気が血のように流れ、さらに頑鉄がそこにぶつかっていく。 「秋水――」 和奏の鬼神丸をふるってアヤカシに斬りかかり、同時に楓も衝撃波を放った。 (「やってやったぜ! やってやったぜ!?」) 「ボクに二本目はない! ただ、この一撃に掛ける!?」 師にさずかった言葉を自分なりに解するとそういうことなのだろう。この技は、技ではあっても技術ではない。覚悟だ! 一撃必殺! アヤカシの体が消えかかっている。 「薬を貰ったのだ。働かなくてはいけないな」 アルクトゥルスの体がオーラでかがやく。、 「さあ、いくぞ!?」 アスピディスケが主人の声に応じて、突撃していった。 「その首、もらったぁぁ」 アスピディスケがアヤカシの体を噛み砕き、アルクトゥルスの刃が魚の首を落とし――エンジンを狙っていた、アヤカシは滅びた。 ● 「これがエンジンか――」 すっかり時間がかかってしまったが、ついに手に入った。 商人と金貸しは、ただただ感無量であった。 言葉はない。 ただ、目には光るものがあった。 まるで我が子を撫でるようにさすったエンジンの表面には、これを奪い返した開拓者たちの名前が記されていた。それは二度とアヤカシの怪異と出会わないようにという神なきジルベリアでは、祈りの言葉の代わるものであったのかもしれない。 そして、それは彼らの目の前で新型の飛空挺に納められた。 それは、ある晴れた夏の日のことであった。 |