【振姫】兄弟のキズナ
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: シリーズ
危険
難易度: やや難
参加人数: 8人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2010/07/06 22:26



■オープニング本文

前回のリプレイを見る


●沢繭
「いま帰ったのじゃ!」
「姫様!?」
 (自身が招いた)様々な困難を乗り越え、屋敷へと戻った振々を頼重が震える声で迎えた。
「うむ、振なのじゃ!」
 どどーんと無い胸を張り、入口に仁王立つ振々。その表情は、何故か誇らしげであった。
「‥‥」
「うん? どうしたのじゃ? 振が帰ったのじゃ、もっと盛大に迎えぬかっ!」
 しかし、ふるふると肩を振るわせ立ちつくす頼重。そして、その頼重をはらはらと見守る家臣達。
「‥‥」
「むぅ、折角のかんどーが台無しではな――っ!」
 そんな家臣達に振々が不満をぶちまけ様とした、その時――。
「よくぞ‥‥よくぞご無事で‥‥」
 駆け寄った頼重が、振々を抱きしめた。
「離さぬか頼重! 苦しいでは――もがもが」
「どれほど心配したとお思いか‥‥」
 その声は小さくも優しくあった。
「‥‥すまぬ」
 頼重の声よりもさらに小さな呟き。
「‥‥もうよろしい。無事に帰ってこられたのですから」
 そう言うと頼重は振々の肩に手をやり、身体から離した。

●森
 深き森。
 理穴にあっては珍しくない木々が生い茂る森。
 その森の深部で小さく、まるで何者にも聞こえてはならぬよう囁く声が聞こえた。
「――様、手筈は整いました」
「わかった。しくじったら承知しないからね」
「御意」
「で、あいつ等は使えるんだろうね」
「信頼できる伝手を辿って手配した者達です。問題無いかと」
「‥‥信頼してるよ、律」
「はっ!」
「じゃぁ頼むよ。必ずね」
 男の言葉に、無言で頷く人影。
 そして、人影は取り巻きを引き連れ、森の闇へと溶けていった。

「――待っていろ兄上‥‥僕が、僕が次期党首なんだ‥‥っ!」
 森へと消えた影達を見送る人影が、ぼそりと呟いたのだった。

●沢繭
「その件であれば、開拓者の皆より連絡を受け、永眼様へ伝令を送っております。あの方であれば、問題無く処理されるでしょう」
「それがいかんのじゃ!!」
 袖端家にあって、もっとも聡明とされる長兄の永眼である。情報さえ得れば何事も完璧にこなすであろう。
 頼重はそう思い口にした言葉であったが、振々はその言葉に激怒する。
「な、なぜですか‥‥?」
 何にそんなに怒っているのか、頼重は訳がわからずきょとんと呆けた。
「永眼兄様がはむかう者にようしゃするはずが無いのじゃ!」
「あ‥‥」
 振々の言わんとしている事がようやくわかった。
 何事も完璧を期す永眼であれば、いくら弟であっても寛容に許すはずが無い。
「わかったであれば早々にあのものたちに伝令をおくるのじゃ!」
 振々の発する怒声には、ほのかに焦りの色が浮かぶ。
「畏まりました」
 振々の兄を想う気持ち。
 その気持ちに答える為に、頼重はギルドへと急ぎ伝令を走らせた。

●沼蓑
「‥‥」
 一本の蝋燭が照らし出す薄暗い部屋。
 この部屋の主が机に広げられた一枚の書に眼を落していた。
「‥‥馬鹿な弟だ」
 眼球だけを動かし書を読み終えた永眼はぼそりと呟く。
「‥‥」
 表情すら変えずそう呟いた永眼は、ふと天を仰いだ。
「‥‥虚栄心ばかり私に似たのか」
 ピクリと頬が動く。
「‥‥誰か」
 と、永眼が部屋の戸へ向け声をかけた。
『はっ!』
 即座に返ってくる返事。
「‥‥厳戒態勢に入る。この屋敷に入った者は皆、斬り捨てよ」
『はっ!!』
「‥‥」
 廊下を遠ざかる足音。
 その音を聞きながら永眼は、一度だけ深く溜息をついたのだった。 


■参加者一覧
万木・朱璃(ia0029
23歳・女・巫
喪越(ia1670
33歳・男・陰
御神村 茉織(ia5355
26歳・男・シ
リーナ・クライン(ia9109
22歳・女・魔
レイラン(ia9966
17歳・女・騎
ユリア・ソル(ia9996
21歳・女・泰
更紗・シルヴィス(ib0051
23歳・女・吟
エルネストワ(ib0509
29歳・女・弓


■リプレイ本文

●郊外
 分厚い雲が星空を覆い、闇の中を吹き抜ける音。
 虫の声か、それとも人か。否、風鳴りか。
「――」
 木々の隙間をまるで蛇のようにうねり吹く。
「ちっ」
 小さな舌打。
 闇深き森の中を聴覚だけを頼りに御神村 茉織(ia5355)が駆け抜ける。
「色々と考えつくもんだぜ、まったく」
 背後には数多の気配。
「ちっ」
 二度目の舌打。茉織はただひたすらに闇を駆け抜けた。

●門前

 カシャン!

「っ!」
 金属が打ち合う甲高い音。
「ちょっと、なにするんだよ!」
 文を片手に永眼の屋敷の門をくぐろうとしたリーナ・クライン(ia9109)を衛兵が槍で制した。
「‥‥」
 無言の衛兵は恨めしそうに見上げるリーナを見下す。
「袖端家が末子、振姫の書状だよ!」
 蔑むように見下ろす衛兵へ向け、リーナは文を突き付けた。
「死にたくなくば帰れ。これは我らの恩情だ」
 しかし、衛兵は制止した事を恩と言う。
「何言ってるの! あなた達のご主人様を思ってやってることなんだよ!」
「‥‥静かにしろ」
「な、永眼様!?」
 門より一歩も引かないリーナ。そこに現れたのは永眼であった。
「何時ぞやの小娘か」
 感情の欠片も見られない表情。永眼はリーナを冷たく見下ろす。
「永眼くんが出てきてくれたのなら話ははやいよ。これ振ちゃんからのお手紙だよ」
 交差された槍の隙間から、リーナは文を永眼へと伸ばした。
「‥‥」
「ちょっと!?」
 それを受け取った永眼は、見もせず無言で破り捨てた。
「下がれ。今からここは死地となる」
 そして、くるりと背を向け立ち去る永眼は小さくそう呟いたのだった。

●街
「喪越君じゃありませんか」
 暖簾をくぐった万木・朱璃(ia0029)が、席で蕎麦を啜る喪越(ia1670)を見つけた。
「よぉ。おめぇもどうだ? 一杯」
 一方、朱璃を見つけた喪越は口に含んだ蕎麦を飛ばしながら、隣の席を勧める。
「魅力的な提案なんですけど、遠慮しておきますね」
「ん、そうか。残念無念」
 にこりと微笑んだ朱璃に喪越はかくりと肩を落とした。
「ん? 結局座るのか?」
「お話だけですよ」
「ふむ――。で?」
 昼時を外していた為、周りに客の姿はほとんど無い。
 しかし、朱璃は声を殺し喪越に語りかける。
「外出を控える様にと通達が出ているようですね」
「なるほどな。そんな中で怪しい動きしてる奴がいれば、一発でわかるってわけか」
「さすがは聡明な永眼君。徹底していますね」
「こっちも下手な動きはできねぇな」
「ええ」
 小声で話す二人。
「‥‥長話はできねぇな」
「ですね。じゃ、私はこれで」
 すっと席を立つ朱璃。
 二人は絶えず付きまとう視線を逃れる様に、再びそれぞれの役目へと戻っていった。

●街
「あら、レーちゃん元気ないわね」
 袖端領内で1,2を争う街とは思えぬ閑散とした通り。
 レイラン(ia9966)とユリア・ヴァル(ia9996)の、二人が辺りを伺いながら歩いていた。
「厳戒態勢なの‥‥」
「全くね。寂しいったらありゃしない」
 行き交う人もまばらな通りを、二人は眺め呟く。
「でも、いいじゃない。厳戒態勢」
「うに?」
 にこりと微笑むユリアに、レイランははてと問いかけた。
「これだけ警備が厳しかったら、どこかで誰かが悪戯したらすぐわかるもの」
「相変わらずユリアちゃんは、ポジティブなの」
「ふふ、良い女は根暗に物を考えないものよ」
「いい女も良し悪しなの‥‥」
 にこやかな笑顔を向けるユリアにレイランはぼそっと呟く。
「ふふ、レーちゃん何か言ったかしら?」
 そんなレイランの首に腕を回し、耳元で囁くユリア。
「にゅー、ボクにそんな趣味は無いの」
 そして、ユリアの腕の中でレイランがもがいていた、その時。
「おい、ここで何をしている!」
 突然の怒声が二人を呼び止めた。
「ほら釣れた」
「にゅー、なんだか複雑な心境なの‥‥」
 顔を見合わせた二人。
 そして、詰め寄ってきた衛兵に向け、二人はにこりと微笑んだのだった。

●物見櫓
「いかがですか?」
 櫓の頂上へ顔を出した更紗・シルヴィス(ib0051)がエルネストワ(ib0509)に声をかけた。
「見晴らしはいいのだけれどね。さすがに屋敷までは遠いわ」
 物見櫓から眼下に広がる街を見下ろし、エルネストワが呟く。
「リーナ様のお話では、屋敷は厳戒態勢。街まで衛兵が見回ってるようですね」
「みたいね。ここからでもよく見えるわ」
 と、更紗の言葉を受け再び街に視線を落したエルネストワ。
「どこから来るの‥‥」
「もう入ってるのかもしれませんね」
「‥‥その可能性も高いわね。内部工作も考えておかないと」
「ですね。切羽詰まった人間は何をするかわかりません」
「全く、仮にも振ちゃんの兄さんが、器の小さい事を」
 不甲斐ない兄ですら思う気持ちは、振々から痛いほど伝わってきた。
「あ、エルネストワ様!」
 突然声を上げた更紗。
「‥‥ユリアさん達ね。いよいよ動くわね」
 二人は眼下に、衛兵を路地裏に連れ込むユリア達の姿を捕えていた。

●夜
 辺りを夜の帳が覆い始めた頃、それは起こる。
 大音量の警鐘が沼蓑の街に響き渡った。
「いたよ!」
 屋敷を囲む塀の外、リーナが声を上げた。
「あの姿形‥‥律って人みたいですね!」
 共に駆ける朱璃が、塀沿いを逃げる人影に見当をつける。
「朱璃ちゃん、あそこにも!」
 と、影を追うリーナが突然塀の上を指差した。
「別働隊ですか!」
「どうしよ。二手に分かれる? それとも――」
 朱璃はリーナに釣られる様に塀の上に視線を移す。
「だね! まずは屋敷の防衛を優先!」
「です!」
 視線を合わせた二人は、申し合わせる事無く塀の上の影に狙いを定めた。

●櫓
「屋敷の方が騒がしいですね」
 警鐘の音。そして人の怒声。
 櫓の上でその様子を伺っていた更紗がぽつりと呟いた。
「始まったわね」
 そんな更紗の横でエルネストワが呟く。
「私達も向かいますか?」
「屋敷には4人向かっているはず、今は動かない方がいいわ」
「‥‥エルネストワ様も、感じますか」
「ええ、嫌な空気ね」
 二人は屋敷の方角を見据え、小さく呟いた。

●路地
「‥‥巻いたか」
 壁を背に息荒く律が呟いた。
「お生憎様。そう簡単には行かないわよ」
 その声は背後の路地から。
「くっ!」
「おっと、こっちは行き止まりなの」
 声に反応し、反対側へと逃げようとした律の進路をレイランが塞いだ。
「ね、レーちゃん。衛兵さんに聞いた通りだったでしょ?」
「にゅー、たまたまだと思うの」
「まぁ、酷いわ。そんなこと言う子は後で悪戯ね」
「それは勘弁なの‥‥」
 律を挟み、世間話でもするかのように話す二人。
「くっ」
 細い路地。二人に囲まれ律が刀に手をかけた。
「どれ程腕が立つか知らないけど、やめておいた方がいいわよ?」
「大人しくお縄を頂戴するといいの」
 囲む二人も、それぞれの武器に手をかけた――。

●外壁
「手加減なしです! 刻みなさい、精霊の力を!」
 夜の黒を昼に変えるほどの閃光が辺りを照らす。
「一人! 次!」
 身に宿る練力を吐き出した朱璃が、次の標的を捕えた。
「巫女二人で戦闘する事になるなんてねー」
 霊杖を振りかざし、朱璃に白銀の加護を施すリーナが呟いく。
「そんな悠長な事言ってないで! 敵はまだいます!」
「はーい。わかってるよー」
 気を張る朱璃の声にのほほんと答えるリーナ。しかし、その瞳には決意の色が浮かぶ。
「あっちだよー」
「はい!」
 リーナが指差した先。そこには新たな二つの影。
 二人は影を追い、再び駆けだした。

●通り
「待たせたな」
 通りを散歩でもする様にふらりと歩いていた喪越に、路地の影から声がかかった。
「うむり、お勤め御苦労」
「‥‥おいおい。随分な出迎えだな」
 影からの声に、喪越はなぜか無意味に胸を張る。
「一度やってみたかったのよ」
「左様ですか旦那様。――でだ」
 喪越の冗談に着き合う影は、声色を真剣な物に変える。
「うむ、用件を言え」
「‥‥はぁ、気が抜けるわ」
 再び無意味に胸を張る喪越の元へ路地から姿を見せたのは、茉織であった。
「‥‥手酷くやられたもんだな」
「まぁ、色々あってな」
 現れた姿に喪越の顔が曇る。
 気丈に振る舞う茉織の肩からは、一筋の血が。
「詳しく話せるか」
「‥‥奴さん、やる気だぜ」
「やる気?」
 茉織の言い回しに、喪越が苛立ちを募らせ聞き返した。
「来るぞ。でけぇのが」
「‥‥屋敷か!」
 短く呟く茉織の言葉に喪越はくるりと屋敷へ向き、そのまま駆けだした。

●櫓
「こんな時間に?」
 エルネストワが通りを行く一台の荷馬車を見つけた。
「あからさま過ぎますが。罠‥‥でしょうか?」
 既に夕刻。人々も帰路に足を速める時間だ。
「その可能性もあるわね。――更紗」
「はい」
 二人は馬車から視線を外さず、追うように一気に櫓から舞い降りた。

●路地
「貴方達の狙い、洗いざらい教えてもらえるかしら?」
「これ以上は無意味なの。大人しく従った方がいいの」
 二人の技に倒れた律。二人は地に伏す律に膝を折り問いかける。
「‥‥ふん、引っかかったな」
 絞り出す声とは裏腹に、律は口元を釣り上げ余裕の笑みを浮かべた。
「きゃー、やられちゃったわ」
「にゅー、大失敗なの」
 しかし、その笑みに二人はわざとらしく嘆息する。
「な‥‥」
 そんな二人の態度に、逆に律が驚愕した。
「私達も馬鹿じゃないのよ」
「そうそう、諦めて侘鋤さんの居所を教えて欲しいの」
「く‥‥だが、もう遅い」
 二人の問い詰めに、その顔に諦めの色を映す律が呟いた。
「‥‥どういう事?」
「すでに計画は止まらない、と言う事さ!」
「ぬっ!」
 突然、転がった刀を取った律は、そのまま白刃を喉へと突き立てる。

「‥‥馬鹿な真似を」
「この覚悟、半端ないの。‥‥ユリアちゃん」
「ええ、屋敷が危ないわね」
 絶命した律を見下ろし、二人は小さく呟いたのだった。

●正門
「なんだあれは!」
 門を守る衛兵が叫んだ。
 それは闇夜を照らす程、荷台を真っ赤の燃やし、一直線に屋敷へと向かってくる一台の馬車。
「敵襲だ! 閉門!」
 衛兵が屋敷の中へと叫ぶ、が――。
「お、おい! 門だ!」
 再び叫ぶ衛兵。
 しかし、門はピクリとも動く気配が無い。
「ま、まずいぞ!」
 最早、火車は目前まで迫っている。その時――。
「そんなへっぴり腰じゃ、あれは止まらないよー」
 拍子抜けするほど気楽な声。
 緊張に肩を振るわせる衛兵の背をポンと叩いたのは、リーナだった。
「さて、一仕事しますかね」
「だな」
 リーナを追う様に現れた喪越と茉織。
「あれー? 酷い怪我だね」
「ああ、ちょっとドジ踏んじまってな」
 肩を押さえる茉織をリーナが見つめる。
「あらら、いいよ。治してあげる」
「お、助かる」
「ほいじゃ俺はあっちを。ほれほれ、お馬さん。大好物のにんじんでちゅよー」
 癒しを受ける茉織を置いて、喪越が突進してくる火車の前へ立ち、符を放った。
 形を結ぶ符。その姿は――足の生えた人参であった。
「わぁ、かわいいー」
 そんな式の姿に、リーナ感動。瞳をキラキラと輝かせる。
「さぁ! 存分に喰らいつ――」

 ぷちっ。

 しかし、足人参はあえなく暴走する馬に踏み潰された。
「あー‥‥」
 リーナの残念そうな声。
「あー‥‥」
 茉織の呆れ声。
「お、俺の渾身の人参さんをよくも‥‥!」
 式を踏み潰された喪越はフルフルと肩を振るわせ。
「しゃーねぇ!」
 その怒りをぶつける様に火車へと向け駆けだした。

 どっ!

 肉がぶつかり合う鈍い音。
「全く、可愛い動物さんをこんな事に使うなんて、天が許してもこの俺が――げっ!」
 喪越が身体を擲って馬へと体当たりをかます。
 しかし、引き手の勢いを殺しても、火車は止まらない。
 地面へ躯体を擦りながらも、火車は行く手を塞ぐ喪越へと迫った。その時――。
「打ち砕きなさい! ガトリングボウ!」
 無数の矢が空を裂く。
 エルネストワが放った矢が、見事火車の車輪を打ち砕いた。
「まだか!」
 しかし、片輪を失ってもまだ止まらない。
「旦那、先に逝っててくれ」
「ちょまっ!?」
 火車に向け茉織が跳んだ。

 がっ!

 飛び蹴り一閃。茉織の一撃が火車の側面を捕える。
 そして、火車はゆるりと体を崩し――止まった。 

「うへぇ‥‥助かったぜ」
 目の前で燃え行く荷車に、安堵のため息をつく喪越。
「いやぁ、残念」
 そんな喪越を残念そうな溜息をつき見つめる茉織。
「どういう意味っ!?」
 ひとまずの危機を脱した正門は、小さな笑いに包まれた。

●裏門
 正門の騒動に衛兵の注意が引きつけられた裏門。
 そこで影が動いた。
「――御苦労様」
 小さく呟く声。
「どういたしまして」
 答えるのは、女の声であった。
「っ!?」
 その答えに、影が固まる。
「なかなか用意周到だったわね」
「危なく出し抜かれる所だったの」
 更に二人の女の声。
 裏門をくぐった侘鋤を囲むのは、朱璃、ユリア、レイラン、そして。
「最早、貴方様の計画は頓挫いたしました」
 更紗であった。
「うぐっ!」
「詰めが甘いな、侘鋤」
 4人に囲まれ身動きの取れない侘鋤に更なる声がかかる。
「あ、兄上‥‥っ!」
 憎々しげに言葉を絞り出す侘鋤。その相手は永眼であった。
「‥‥覚悟はできているだろうな」
 冷たく突き刺さる声。
 永眼は侘鋤を見下ろし、すらりと刀を抜く。
「お待ちください永眼様、どうか穏便に済ませる事は出来ないでしょうか」
 そんな永眼の腕を押さえ、語りかける更紗。
「‥‥異な事を言う」
 押さえる手に持ち主に視線を移した永眼が眉を吊り上げる。
「今回の件、永眼様にとっても醜聞になるかと思います」
「‥‥」
 更紗の言葉に、永眼は沈黙する。
「随分と血が流れたわ。もういいでしょう」
 そして、ユリアもまた永眼の腕に手を添えた。
「もう終りにしようよ」
 そしてレイランもまた、その手を添える
「そうはいかん――」
 しかし、永眼は三人の手を振り払い、刀を振り上げ――。
「侘鋤君!」
 朱璃が咄嗟に侘鋤を庇うように立ち塞がる。

 振り下ろされる刀。

 しかし、永眼の刀は朱璃を、そして侘鋤を捕える事無く、宙を斬る。
「――『袖端』侘鋤は死んだ」
「っ!」
 その言葉が意味するもの。
 侘鋤は許されたのだ。永眼の、そして振々が遣わせた一行の慈悲に。

「一般人がここで何をしている。早々に立ち去れ」
 それだけを言い残し、刀を納めた永眼がその場を後にする。
「‥‥」
 その後ろ姿を呆然と見つめる侘鋤。
「まったく、素直じゃないんだから」
「同感なの」
 ユリアとレイランも去り行く永眼を見つめる。
「終わりましたね」
 ほっと肩を下ろす更紗。
「振々様の優しさが伝染したのかな? 侘鋤君、これで貴方は自由ですよ」
 最後に朱璃が侘鋤に向け、にこりと優しく微笑んだのだった。




 振々の命を受けた一行の嘆願により侘鋤は命を繋ぐ。
 その後、騒動の張本人は、代償として袖端の名を剥奪され領内を去った。

「これが自由か‥‥」

 天儀のどこか。
 そこで氏族の呪縛から解放された一人の男が、そう呟いたのだった――。