黒曜華 〜奪還の道標〜
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: やや難
参加人数: 6人
サポート: 1人
リプレイ完成日時: 2014/05/17 17:38



■オープニング本文

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●三位湖
 湖岸には新緑が繁茂し、穏やかで清らかな水を湛える三位湖。
 普段であれば風光明媚な景色が広がる長閑な場所であるはずであった。
 しかし、今は――。
 上空を見上げれば、開拓者の手によって引き裂かれ叩き落された同胞達の無残な姿が落ちてくる。
 アヤカシの残骸が波静かな湖面に無数の波紋を広げた。
 湖岸に視線をやれば、そこは激戦地。中心には一人の巫女。そして、巫女を目指し上空より一人の男が飛来する。
 用意された小さな舞台を中心に、開拓者達と大挙するアヤカシ達との壮絶な戦いが続いていた。

●宿場町
 日向ぼっこには丁度いい季節。
 瓦から伝わってくるじんわりとした温もりに、瞳を微睡ませていた。
『……っ』
 突然、顔を空に向けスンスンと鼻を鳴らす。
『……うん? どうかしたのか?』
 相方が眠い目を擦りながら顔を上げ、不思議そうに同じ空を見上げた。
 雲一つない澄んだ空には、柔らかな光を湛える太陽が昇っている。
『……匂い』
『匂い……? そんなの感じないし』
『……ついに鼻まで潰れたか。腐るのは脳味噌だけで十分だと言ったのに』
『潰れてないし、腐ってないし!?』
 いつものやり取りを重ねながらも、『二体』は空の彼方を凝視した。
 空は穏やか、風も時折吹いてくるが、頬を撫でる程度で心地いい。
 だが――。
『っ!』
 その風に確かな『匂い』が混じっていた。
『……消えた』
『……消えたし』
 二体の声がハモる。一瞬、感じた言い知れぬ不快感を持ったそれは、すでに風と共に消えていた。
 二体の心の奥底に、今まで嗅いだことのない匂いがもたらした不安が去来する。
 しかし、二体は屋根の上に座して待つ。
 それが今日結ばれた新たな『約束』だから。

●三位湖
 戦の天秤は徐々に傾きつつあった。
 沈むのは開拓者側。数を頼りに押しに押し込んだアヤカシの軍勢は、個々の力量と連携を前に着実にその数を減らしていた。
 そして、アヤカシを統率する男が動く。
『形勢を覆すために中心となっていた女を狙ったか』
 何もない湖面に小さな波紋が浮かぶ。
 ふわりと風に乗り、何かがそこへと降り立った。
『下策だな』
 そこには何もないのに、時折波紋だけが立つ。
 そして聞こえる小さな囁きは風の声か。それとも――その時、視線が合った。
『ほう、我に気付くか』
 既に開拓者達の放つ戦火に消えた男を見やり、口元を釣り上げる。
『……それほどまでにして欲しいのか、あの人間が。くくく……やはり面白いな』
 戦いはいつしか最終局面を迎えていた。
 開拓者達の奮戦は大きな成果を上げ、天秤を大きく傾ける。
 そして、裏で様々な思惑が蠢く中、この激戦は開拓者達の勝利で幕を閉じた。


■参加者一覧
劫光(ia9510
22歳・男・陰
フレイア(ib0257
28歳・女・魔
ロック・J・グリフィス(ib0293
25歳・男・騎
破軍(ib8103
19歳・男・サ
白鋼 玉葉(ic1211
24歳・男・武
小苺(ic1287
14歳・女・泰


■リプレイ本文

●神楽ギルド
「……だから俺達がやると言っている!」
 打ち付けられた拳に重厚な机が悲鳴を上げる。
「神代護衛の任は我等から離れました。いくら諸君が何かを知っていても、これは決定事項なのです」
 かの大戦が三位湖の湖畔で繰り広げられている丁度その頃、破軍(ib8103)は神楽のギルドを訪れていた。
「なぜ見放す……あれはギルドの所属だろう……」
 瞳に衰えぬ鋭さを秘め、破軍は静かに問いかける。
「ギルド所属の開拓者以上の価値を認められたという事でしょう」
「俺達は用無しという事か……!」
 あくまで事務的に語る男に、破軍は語気を強めた。
「しかし、朝廷と我がギルドは良好な関係を維持しています。であればこそ、『友軍』となろうというもの――必要ならば一筆したためましょう」
「……友軍、か。いいだろう」
 男の言葉に破軍は怒気を抑え考え込む。
 望む位置は得られなかった。しかし、ギルドから『お墨付き』を得られるのは大きい。
 破軍は、男の瞳をしばらく凝視し、静かに頷いた。

●宿場
 春も麗な陽気に、足取りも軽い旅人達は、賑やかな店々に次々と吸い込まれていった。
 そんな賑やかな宿場の様子を眼下に眺める、とある店の屋根の上では――。
『ぬあぁぁ……腹減ったし』
『……寿司美味かった』
『寿司!? そんなのいつ食ったし?!』
『……穂邑、取ろうとしてる奴がくれた』
『あいつまた現れたし!? 懲りない奴……今度見つけたら食ってやるし』
『……けふっ』
『あ、俺の寿司は!?』
『……けふっ』
『ぬおぉぉぉ……あいつ、許すまじだし……!』
 二匹のケモノが、のんびりと日向ぼっこしていた。
「随分と俗世慣れしたケモノですね」
 と、眼下の街道からクスクスと笑い声が聞こえる。
 二匹のケモノ――阿業と吽海が地面を見下ろすと、そこには春風に靡く絹髪も鮮やかな女がこちらを見上げていた。
『誰だし?』
「至急あなた方に伝えねばならぬ事があり、まかり越しました」
 見下ろす瞳に、優雅に一礼したフレイア(ib0257)は、拙速に語りだした。

 二匹の宿主的存在である穂邑の身に危険が及んでいる事。
 狙うのは大アヤカシ亜螺架である事。
 すでに猶予なく、危急存亡の秋を迎えている事。

「――どうかお力をお貸しください」
 あくまで優雅に、事実だけを正確に告げたフレイアの言葉に、双子はじっと聞き入る。
 だが、その答えは。
『お前……あの匂いがするし』
 疑念の籠った警戒であった。
「何を仰って――」
 咄嗟に聞き返したフレイアであったが、子犬程のケモノから漂う強烈な敵意に言葉を詰まらせる。
『……これに食われたくないなら、さっさとどこかへ行った方がいい』
 吽海がこれと呼んだ阿業は、今にもフレイアに飛びかからんばかりに牙を剥く。
「……残念です」
 フレイアは小さく一つ溜息を吐き、双子の言葉に首肯した。

●書架
 かび臭く乾いた空気の中、劫光(ia9510)が紙を捲る音だけが響いていた。
「……これでもないか」
 劫光が求め探しているのは、他でもない亜螺架にまつわる記述。
 しかし、冥越を滅ぼした程に悪名高い一旗であるはずの亜螺架の記述は驚く程に少なかった。
 そもそもの発生からして謎である上に、誕生した時はまったくの無名であったアヤカシが、冥越崩壊の折、突如として姿を見せその一翼を担ったのだ。
「何か……何かあるはずだ――ん? これは」
 次の本を捜し、手を彷徨わせていた劫光の手に紙の質感が触れる。
 それは一枚の手紙であった。弟ヘイズからもたらされたそれには、穂邑と懇意にしている双子のケモノへ無事伝言が済んだことを伝えている。
 ついでに、食われそうになったとも。
「……あいつ、何やってんだ」
 問題を更に増やしてくれる弟に頭痛を覚えながらも、劫光は首筋に手をやった。
「……今は感じないのか」
 あの日、激しい不快感を訴えかけた体の一部。
 亜螺架と縁を結んだ者達からの話に聞いた呪縛が、自らの体にも刻まれたのだと悟った。
 しかし、それはいつの事か。
 先日初めて邂逅した時には、すでに首筋に耐えがたい痛みを感じた。初の邂逅であったはずなのに、だ。
 ならば、それよりも前に、どこかで『会って』いることになる。
「……やはり、あの一件か」
 思い当たるのは、非人道も極まる兵士達の事。
 環獄兵と名付けられた人を人としたまま先兵にした兵器を思い出した劫光の顔は、無意識に険しいものとなっていた。
「だとすれば……一体、何手もってやがる」
 アヤカシ兵器然り、環獄兵然り。一つ見切れば、また新たな手を出してくる。鼬ごっこにも等しい応酬だが、やらぬわけにはいかないと、劫光は自らを奮い立たせた。

●道中
「はっはっはっ、私に任せておけば何も問題ない!」
 そんなに反ったら背骨が折れるぞとツッコみたくなる程に胸をそらせた男に、小苺(ic1287)はいい加減辟易としていた。
 男の名は熊野勝之進。北面が誇る朝廷直属の近衛集団『天護隊』の小隊長だった。
「うざいにゃ」
「うんん? 何か言ったかね猫人族よ」
「……何でもないにゃ」
 小さな呟きであっても、自分の事になると耳聡く聞き分ける。
 小苺はそんな小隊長を横目に、今日何度目かの溜息をついた。

 一方、破軍の働きかけにより友軍という形で護衛隊に加わった一行は、物々しい警備に申し訳なさそうな穂邑の近辺に侍っていた。
「穂邑嬢、辛くはないか? 激しい戦いの後だ、疲れを覚えたのなら遠慮せず言ってくれ」
「あ、ありがとうございます。でも大丈夫ですっ!」
 気を使ってかそれとも性か。女でも口説くように語り掛けるロック・J・グリフィス(ib0293)に、穂邑はフルフルと首を振り元気を強調する。
 破軍、小苺、ロック、そして白鋼 玉葉(ic1211)。徒歩で目的地へと向かう穂邑を護るように囲う開拓者達は、激戦続きで心労も濃いであろう穂邑の心情を慮って、まるで友の様に接していた。
「ほむほむは、そのケモノ達と仲良しなのにゃね」
「仲良し……なのでしょうか? 懐かれているとは思うんですけど」
「まるでケモノ達の片思いみたいな言い方なのにゃ」
「え……えぇっ!?」
「うにゃ? なんでそんなに焦ってるのにゃ?」
「べ、別に焦ってませんっ!」
「にゃ?」
 初対面である事など微塵も感じさせず、人懐っこい笑みで問いかける小苺に、穂邑も楽しげに答える。
 和やかな雰囲気が流れてる、そんな道中――。
「穂邑殿、歓談している処、申し訳ない。少しよろしいか」
 からくりだけにその表情から感情を窺い知ることは難しいが、声にはただならぬ雰囲気が如実に表れていた。
「は、はいっ?」
 そんな雰囲気に少し気圧されながら、穂邑は玉葉と正対する。
「すまない」
「えぇっ!?」
 突然下げられた頭に、穂邑は戸惑い狼狽えた。
「穂邑殿の身を危険に晒すような真似をしてしまった」
 首を下げたまま玉葉は語る。亜螺架に対して行ってしまった失言を悔い、穂邑にその全てを正直に打ち明けた。
 語られた真実を穂邑は静かに聞く。
「……頭を上げてください」
 そして、玉葉の話が終わるのを待って静かに口を開いた。
「神代についてはまだよく解りませんけど、何が起きてもおかしくないのは理解してます。だから、戦うって決めたんです」
 無言で佇む玉葉の人ならざる瞳を覗き込み、穂邑は優しく微笑みかける。
 決して他人を責める事はしない。それが運命の流れだと受け止める。
 諦めではない彼女の強さに、玉葉はこの時ほど自らの無表情を恨んだ事は無かった。
「穂邑嬢、あまり彼を『責めて』やらないでくれ。からくりであっても泣いてしまうぞ?」
 愕然と佇む玉葉の肩に手を置き、ロックが悪戯っぽく声をかける。
「玉葉だけではない。責任は俺達にもある。穂邑嬢、すまなかった」
「うん、ごめんにゃ。でもほむほむならきっと負けないにゃ!」
 ロックに小苺。二人もまた穂邑に向け首を垂れた。
 それは謝罪というより、責務を全うする為の決意であるかのように。

●書架
 薄暗い室内では時間の感覚がどうも狂う。
 凝った肩をこきりと鳴らし、伸びをする。
 ふぅと一息に肺から空気を追い出し、何度か瞬きした。
「はぁ……ここはハズレか」
 無造作に広げられた本を、肩肘を着きながら読む気もなくページだけをめくる。
「うん?」
 ふと、本のある項目が劫光の目に留まった。
「菌糸?」
 それは植物に関する書物のキノコ類の項目。数百ページにも及ぶ分厚い本のその項目が、なぜか劫光の意識を射止める。
 凝り固まった体に鞭を打ち、劫光は再び知識の海へと沈んでいった。

●街道
「……む」
 破軍は思わず足を止めた。
 眼前には変わらず和やかに歩く穂邑の姿と、自分と同じように何かを感じ足を止めた仲間達が映る。
「この感じは……」
 ちりちりと首筋を焼くような感覚。
 破軍は首筋の感覚に押されるように、護衛隊の前方へ視線をやった。
「っ!……待て、そいつは!」
 瞬間、思わず叫んでいた。

 我が隊長だと体現でもするかのように、目の前の女につかつかと歩み寄る。
「お嬢さん、我々は先を急いでいるのだ」
 女性に対してのみ発揮される邪な礼節。
「道を譲ってもらえ――」
 いつもの事かと部下達が呆れるのを他所に、勝之進がかけた声が、突然――消えた。
「ル……?」
 語尾を結んだ声が響いたのは、遥か彼方の地面。
「くっ! 皆、穂邑を守れ!!」
 司令系統を失った体が糸の切れた人形の様に崩れ落ちるのを横目に、ロックは一際大きな声を上げた。
『貴様が神代か』
 穂邑を鮮血色の瞳に写し、女――亜螺架は笑う。そして、同時に凶悪に濃い瘴気が爆発した。
 不可視の毒となって広がる亜螺架の瘴気は街道を覆い尽くし、そこを行く旅人達を飲み込んだ。
「何をしている! やめろ!」
 濃厚な瘴気に当てられた人々は恐慌し、死に至る。壊れていく日常を前に、玉葉は声を荒げた。
『ククク……』
 しかし、亜螺架は周りの事など眼中にもとどめず、不敵な笑みを口元に浮かべる。
 一歩、また一歩。死は穂邑へ近づいて行った。

●街道
 春の麗らかな日差しが心地よい平和な街道は一変、死が吹き荒れる。
 穂邑を守るべき天護隊は、隊長を失った事により、すでに壊滅状態。亜螺架の瘴気を受け瘴気を保っていられて者も四散した。
「皆さん、しっかりしてくださいっ! 今すぐ癒しを……!」
 穂邑は自らに向けられた興味の視線にも気付かず、瘴気に当てられた人々へ必死の癒しを施す。
 そんな無償の献身を背に感じながら、4人は亜螺架の進行を止めるべく立ち塞がった。

「アラカビ許すまじ! 掃除にゃ! 駆除にゃ!」
 黒に染まる体をまるでリスの如く這い回り、小苺は亜螺架の体中にハタキを叩きこむ。
 効かない事はわかっている。だが、何が『切っ掛け』となるかはわからない。
 小苺はそれを無意識のうちに感じ取っているのか、一見無意味な攻撃を只管に続ける。

 ロックが大盾を地面に突き立て、亜螺架の進路を塞ぐのも何度目か。その都度、ロックは亜螺架に体ごとぶつかり、そして吹き飛ばされた。
「何度弾き飛ばされても俺は立ち上がる……そして、貴様の前に立ち塞がる!!」
 それでもロックは立ち塞がる。その背で懸命に命を繋ぐ少女の為に。

 玉葉の投げつけたビンが亜螺架に中身をぶちまけた。
『これは』
 強烈な酒の匂いがあたりに充満し、亜螺架は歩みを止め自らの体にまとわりつく液体を観察する。
「カビならばカビらしく、酒気で消え失せろ」
 玉葉が狙ったのは消毒。強い酒精により亜螺架を弱体化しようと試みたのだが。
『ふっ……愚かしい人形よ』
 亜螺架の口元から嘲笑以外の言葉を引き出すことはできなかった。

 4人による足止めはどれも効果を見せず、亜螺架は再び歩みだす。
 だが、その一歩を記すよりも早く――。
「――これはどうですか」
 まるで大地の怒り、火山の爆発の如き巨大な炎の柱が地面から吹き上がった。
 幻の炎は、玉葉の投げつけたヴォトカを延焼、強大な炎の渦を巻き上げる。
「来たか……」
「遅くなって申し訳ありません」
 豊かな胸を揺らし駆け寄ってきたフレイアを、破軍が迎えた。
「すぐに癒しを」
「そんな事をすれば、あれが暴れだす……今はいい」
 破軍の言葉に小さく頷きフレイアも巨大な劫炎に視線移す。
 強大な炎の渦で中心にいるであろう亜螺架の姿は見えない。
 現と幻、両の炎に焼かれ、炎柱は天を衝くほどの勢いで燃え盛っていた。
「やった……のにゃ?」
「気を抜くな。何をしてくるかわからん」
 先日の亜螺架は炎に焼かれ一瞬のスキを見せたかに見えた。だがそれが本当の隙である確証がない。
 小苺と玉葉は、油断なく炎を見つめた。
「今は全ての事象を記憶に刻め……」
 破軍の言葉に5人は、不定に動く炎の一つ一つを凝視し続けた。
 だが――。

『きゃぁぁ!!』

 後方からの悲鳴に5人は一斉に振り返る。
「穂邑嬢!!」
 5人の瞳に映ったのは、亜螺架の黒腕に胸を貫かれた穂邑の姿だった。
『……なるほど、これが神代か。面白い』
 一斉に動き出した5人の事など意にも介さず、突き刺した片腕を怪しく動かし、亜螺架が不敵に微笑む。
「うおぉぉ!!」
 破軍が獣の咆哮を上げ、亜螺架の背へ向け太刀を大上段に振り下ろした。
 だが、亜螺架は突き立てたまま腕を振り、痛みにもがく穂邑を盾にする。
『ククク……それほどまでにこの娘が大事か』
「てめぇ……!」
 破軍の太刀は穂邑に届く寸前に止まっていた。
 振り上げた太刀の降ろし処を失った破軍が、亜螺架の微笑みを憎々しげに睨み付ける。
『どうした、また焼かぬのか?』
 射殺すような破軍の怒気をも心地よさげに受け流し、亜螺架は後方のフレイアに微笑みかけた。
「……」
 明らかな挑発にもフレイアは返事を返せない。
 今また極炎を放とうものなら、その手に貫かれた穂邑も共に燃えてしまう。
『安心しろ、殺しはせん。それでは面白くないからな』
 誰がその言葉を信じることができるだろう。現に亜螺架の腕に貫かれた穂邑は、抜け出そうと必死にもがいている。
 5人は進退窮まりながらも、油断なく亜螺架を睨み付けた。
『ククク、どうにも信用がないようだな』
 怒り、戸惑い、憤り、そして、恐怖。
 ぶつけられるさまざまな感情を愉悦に感じながら、亜螺架は穂邑の耳元へ口を近づけた。
『お前も心苦しいだろう。人の身には重すぎる力をその身に宿したのだからな』
 囁かれた甘い声。
『だが、安心しろ、我がその力――消しておいた』
 締めくくられた言葉に、穂邑の顔から血の気が引いた。
『さぁ開拓者共、次はどのような足掻きを見せてくれるのだ?』
 呆然自失にへたり込む穂邑の体から亜螺架の腕が抜かれる。
 力なく横たわった穂邑を開拓者達の元へ蹴り飛ばし、亜螺架は悪戯に笑う。
『ククク、答えはないか。いいだろう。その時を楽しみに待つとしよう』
 それだけを言い残し、亜螺架は空に溶けた。