力の歯車〜追跡〜
マスター名:真柄葉
シナリオ形態: シリーズ
危険 :相棒
難易度: 普通
参加人数: 6人
サポート: 0人
リプレイ完成日時: 2012/04/03 00:18



■オープニング本文

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●工房
「こりゃぁ、派手にやったな」
「乗り手が素人であったから、この程度で済んだのです」
 白い装甲には無数の掻き傷が残る。
 感心した様な、困惑した様な複雑な表情を浮かべる職人に、金髪の少女はきっぱりと言ってのけた。
「まぁ、駆動部は無事みたいだから装甲板を取りかえれば動くかな」
「動いたとしても、戦力にはならないでしょう。‥‥あんな機能をつけるなんて」
 早速とアーマーの修理に向う職人を見送り、少女は一人ごちる。
 奪われ取り返した最新式のアーマーは、まだまだ改良の余地こそあれ、現状でも十分一線を張れる性能を有している。アーマーの操縦に長けた者が乗れば、それこそ一騎当千の活躍が期待できる程に。
「これでは戦力として考えようがないじゃないですか‥‥」
 しかし、そんな機体を前にしても、少女の表情は曇ったまま。
 それがこの最新鋭機に搭載された試作システム『搭乗者登録システム』のせいであった。

●工房奥の部屋
「ママぁ!」
 わんわん鳴き叫ぶいい歳した青年を、冷たい目でにらみつけながら、短髪の少年が口を開く。
「そんで、一体何の為にこんなことしたんだ? アーマー強奪なんて、重犯罪だって事くらい知ってるだろ?」
「アヤカシを倒す為だよ!」
 答えたのはスネークの横に座る少年ノービスであった。
「‥‥アヤカシを倒す為だったら、盗みを働いてもいいっての?」
「う‥‥そ、それは‥‥」
 睨みの効いた言葉に少年は言葉を無くし俯いた。
「いいか? アヤカシを倒したいなら修行だ! 駆鎧なんかに頼らなくても、拳一本あれば、アヤカシなんて――」
「まぁまぁ、お前はそれができるかもしれないけど、普通の人間には難しいだろ?」
 熱く語る少年が話を脱線させようとするのを、同席した眼帯の男が苦笑交じりに止める。
「本当のことを教えて欲しい。お前達は――『誰』に頼まれたんだ?」
「そ、そうだった‥‥。お前たちじゃないよな、計画したの。――あの船の男なんだろ?」
「‥‥船の男?」
 答えたのはノービス。何の事かときょとんと呆ける。
「‥‥」
 一方、頬に冷や汗一筋、じっと沈黙のスネーク。
「そっちの兄ちゃんは知ってるみたいだね?」
 と、少年はスネークにターゲットを絞る。
「知らない! 本当に僕はなんにも知らないんだよ! 聞きたいならGTに聞けばいいだろ!」
「ふ―ん‥‥あんまり痛い事はしたくないんだけどなぁ」
 少年がぽきりと拳を鳴らした瞬間、スネークはまるで子供のように大泣き。
「ほ、本当に知らないんだって! ママぁー!!」

「ふむ‥‥どうやら、取り逃がした最後の一人を捕まえる必要があるみたいだな」
「こいつらも結局、いい様に使われたって事?」
「ま、そう言うことだろうな」
 短髪の少年と眼帯の男は、再び拘留所へ移送されていく二人をじっと見つめた。

●アリソン
「――年の老舗である我が工房を」
 鼻高々に職場自慢を繰り広げる男の話を言葉半分に聞き流し、白髪の少女はきょろきょろと工房内を見渡した。
 ここはまさに偶像の神殿。仕上がったばかりのアーマーが整然と並ぶその様は、まさに圧巻であった。
「‥‥なんだかあんまり強そうじゃないの」
「な、何か言いましたかな? よく聞こえませんね。もう少し大きな声で言って頂けますかな?」
「‥‥量産品には興味無いの」
 少女の言葉をあくまで聞き流そうとする男に、少女は改めてはっきりと告げる。
「ぐっ‥‥腐っても開拓者か」
「‥‥何か言ったの?」
「いえいえ、なんでもありませんよ?! し、仕方ありませんね。とっておきをお見せしましょう!」
 少女の無垢な瞳に見上げられる男は渋々と倉庫の奥の扉を指差した。

 その部屋には、一目で一級品とわかるそれが数体並んでいた。
「本来であれば部外者にお見せしないのですが‥‥特別です! これが我がアリソンが誇る技術の結晶! 特級品のアーマー達です! ふふ、いかがですか? うん? ぐうの音も出ないといった感じですね?」
「‥‥他にはないの?」
「な‥‥! これほどの作品を見て満足しないとは‥‥‥‥貴女、一体何者ですか?」
 驚愕は疑惑へ。男はまるで驚いた様子を見せない少女に、訝しげな視線を向ける。
『主殿、引き上げ時だ』
 内なる声が聞こえる。
「‥‥そんな事は無いの。とっても満足したの。ありがとなの」
 怪訝そうに見下ろす男から視線を外し、少女はぺこりと大きく頭を下げた。

●シュレービン
「すげぇな‥‥。これだけの種類が並ぶと壮観だ」
「ジルベリアだけでなく、天儀にも卸させていただいていますからね。これでも少ない方ですよ」
 感嘆の声を上げる黒髪の男に、眼鏡の人の良さそうな青年が笑顔で答える。
「ってことは、これ全部売り先が決まってるのか?」
「ええ、全て注文品ですからね」
「へぇ‥‥じゃ、最新型のアーマーなんかも?」
「そうですね。最新式は値は張りますが人気商品ですからね」
「ふーん、なるほどね。で、ここには無いのか?」
「最新式の物は別の場所に厳重に保管してありますよ。価値もそうですが、技術者が他の工房に技術を盗まれたくない! って、うるさいんですよ」
「うん? 技術者同士ってそんなに仲悪いのか?」
「いえいえ、そう言う訳ではないんですけどね。事技術の事になると、頑なと言うか融通がきかないというか‥‥まぁ、だからこそいい商品と言う物も生み出されるのかもしれないですけどね」
「そう言うもんか」
「そう言うものですよ」
 理解しがたい世界の話に、かくりと首を傾げる男に青年は人懐っこい笑みを向けた。

●マクドガル別邸
「‥‥随分と厳重だな」
 道は途中で巨大な門に封鎖されていた。
 旅人を装った猫族の青年は、物々しいまでの警備を視界にとらえても平然と道を進んでいく。
「止まれ! 貴様何者だ!」
 当然、門の前に現れた青年は警備の兵によって止められた。
 まさに門番になるべくして生まれてきたのではないかと思わせる風貌の兵を前に、青年は臆することなく口を開いた。
「私は旅の者、ここはどなたかのお屋敷ですか?」
「そうだ! この先は私有地である! さっさと引き返えせ!」
「なるほど、こんな立派な門をお持ちだ、さぞかし名のある方の屋敷なのでしょうね」
「ふっ‥‥聞いて驚け! ここはジルベリア名家マクドガル家が別荘である!」
 門番はまるで自分のことでも褒められているかのように、鼻高々で答えた。
「え、あのアーマー収集家として有名な‥‥実は私もアーマーに興味がありまして。中を見せていただく事ってできないですか?」
「馬鹿もん! できるわけあるか! さっさと立ち去れ! いい加減にしないと役人を呼ぶぞ!」
「あ、やっぱりそうですよね。――じゃ、私はこれで」
 青年はにへらと気の抜けた笑みを浮かべると踵を返した。

「‥‥ふむ、正面からはやはり無理か。少し方法を考えなくてはな」
 任務を全うししたり顔の門番にちらりと視線を向けながら、青年はその場を後にした。



■参加者一覧
小伝良 虎太郎(ia0375
18歳・男・泰
水月(ia2566
10歳・女・吟
グリムバルド(ib0608
18歳・男・騎
煉谷 耀(ib3229
33歳・男・シ
久坂・紅太郎(ib3825
18歳・男・サ
アナス・ディアズイ(ib5668
16歳・女・騎


■リプレイ本文

●工房
「ほんとに知らないんだって! 僕は最新型に乗れるって誘われただけなんだっ!」
 半ベソで喚き散らすスネークを、対面に座る小伝良 虎太郎(ia0375)と水月(ia2566)はなおも問い詰める。
「‥‥私達はあなたの敵じゃない‥‥力になりたいの」
「そうだよ、俺達は利用されたあんたを助けたいんだ」
「え‥‥?」
 助けたいという真摯な言葉をかける虎太郎と、スネークの身を案じギュッと手を握る水月。
「だから詳しく教えてよ、知ってること全部。大丈夫、絶対他の人には言わないから。これ、男の約束なっ!」
「‥‥済んだ事は仕方ないけど、ちゃんと謝れば酷い目には会わないで済むかもしれないの。私も一緒に謝ってあげるの」
「う‥‥う‥‥ああぁぁん! ありがとうありがとう‥‥ほんとは取っても心細かったんだ‥‥でもごめん、本当に何も知らないんだ‥‥GTに誘われただけで、本当に何も‥‥うぅ、ママぁ」
 スネークは人目もはばからず涙を流すと、そのまま机に突っ伏した。
「‥‥ママ、かぁ」
「‥‥どうしたの?」
「あ、うんん、何でも無いよ。それよりスネーク、ごめんな、疑ったりして」
「‥‥きつく当たってごめんなさいなの」
 泣きじゃくるスネークは、とても嘘をついている様には見えない。
 二人はこれ以上追求するのをやめ、スネークを解放した。

 別室では――。
「ほんとに知らないのか?」
「知らないよっ! なんだよそのなんとかシステムって!」
 久坂・紅太郎(ib3825)と対面に座るノービスは、鼻を突き合わせて大口論中。
「ならなんでこんなことしたんだよ。アヤカシ討伐なんて開拓者に任せておけばいい事だろ?」
「何処にそんなお金があるんだよっ! それに何日も待ってたらアヤカシが攻めてくるだろ!」
「あのなぁ、お前達が捕まってもう一カ月だぜ? アヤカシが攻めてきたなんて話聞いたか?」
「うっ‥‥それは‥‥」
「大方、あのGTって奴に騙されたんだろ」
「そんな事っ! GTはあんな奴だけど、嘘はつかないんだよ! ‥‥多分」
「はぁ‥‥なんでここまでされてあいつを庇うんだ? GTってお前等の何なんだよ」
「幼馴染だよ! だから僕達を裏切ったりしないんだっ!」
「裏切りねぇ。それにしても幼馴染‥‥か」
 幼い頃からの馴染みが何故騙すような真似を?
 ノービスの話を聞けば聞く程、三人の中に騙し合いなどという無粋な感情が割って入る様な隙は無い様に見える。
「やっぱ気になるな」
「え?」
「いや、何でもない。話は分かった。まぁ、もう少し反省しておくんだな。悪い様にはしないさ」

●港
「――ええ、このような形の船なのですが」
 港の喧騒の中、アナス・ディアズイ(ib5668)が差し出した絵を眺める男は困った様に首を傾げた。
「特徴がないなぁ。ちなみに大きさは?」
「甲板でアーマーを運用できる程でした」
 アナスはあの夜見た、最後の一機を攫った船の特徴を事細かに絵に起こしていた。
「もう少し特徴とかないのか? たとえば船籍がわかる旗とか」
 しかし、港への船の出入りを管理する男は絵だけでは判断が出来ぬと、逆にアナスに問いかける。
「旗など出していれば苦労はしないのですが‥‥あ、そうです。でしたらあの時間に出入りがあった船の記録はありませんか?」
「うーん、その時間だと‥‥無いね」
「え? 入出港の記録が無い?」
「いや、記録はあるよ。ただ、どの船も入港も出航もしてないってだけだね」
「入出港が無い? そんな、あの船は確かに‥‥」
 男の説明にアナスは視線を落し考え込む。
「ま、まさか‥‥! 係員さん、港内での船の移動は管理していますか?」
「い、いや、港の中までは管理していないね」
「であれば、今港に停泊している船でこちらの三者が持つ船で、この絵の船に該当する船は!」
 カチリカチリとパズルのピースが嵌っていく。アナスは捲し立てる様に男に問いかけた。

●街
「あれほどの巨体、そう易々と痕跡を消せると思わぬ事だ」
 港を望む丘に立つ煉谷 耀(ib3229)の呟きが風に溶けた。
「港中央にシュレービン‥‥流石、流通を仕切るだけあってでかいな」
 丘に立つ耀は、港中央に位置する桟橋に視線を移す。
「右の岬にマクドガル‥‥やはり出入りは陸だけか」
 視線を右に振れば、森深い岬の突端にジルベリア式の洋館が見える。
「丘の袂か。港から直接船では向えぬ‥‥いや、あれは運河か」
 左に振れば工房街の中でも一際大きな建物と倉庫群、アリソンの敷地だ。
「どれもアーマー一体隠すのは苦労しないか‥‥」
 耀は再び三か所の位置関係を確認する様に見渡す。
「‥‥どこだ、一体どこにいる」

●酒場
 真昼間だというのに、ここは喧騒が絶えない。
「――へぇ、じゃぁ、アリソンが潰れるのも時間の問題なのか?」
「だといいがな。あれでもこの街じゃ1,2を争うでかい工房だからなぁ」
 ほろ酔い気分で昼間から酒を煽る男を捕まえたグリムバルド(ib0608)。
「いくらでかかろうが、取引先が潰れちゃ商売上がったりだろ?」
「お、兄ちゃんよく知ってんな。他所者だろ?」
「これでも商人の端くれなんでね。そのくらいの情報は掴んでるさ」
「へぇ‥‥どっちかって言うと開拓者に見えるが‥‥ま、いいか。でもよ、兄ちゃん」
「なんだ?」
「無料って訳じゃねぇよな?」
「はは、これは失礼した。――おい、この机に上物のヴォドカを頼む」
 卑猥に微笑む男に大袈裟に肩を竦ませ、グリムバルトは奥へ向け手を上げた。

●工房
「――えっと、工房の人から必要そうな情報を聞いてきたよ」
 虎太郎が元気よく手を突き上げると、乱雑に文字を書きなぐった手帳を机に広げる。
「‥‥達筆というか、豪快というか」
「‥‥書道家顔負けすぎて、読めないの」
「えっ!? 一生懸命書いたんだよっ!?」
「まぁまぁ、折角調べてくれたんだ。無碍にする訳にも‥‥って、こりゃすごいな」
「紅太郎までっ!?」
「とにかく、調べていただいた事を詳しく話していただけますか?」
「え、あ、えっと、うん。一応これに書いてるんだけど‥‥いいよ、説明するよ‥‥」
 散々な評価を受けた手帳を指差しながら虎太郎は調べた事を読み上げる。
 一つに試作機の三体に搭載している搭乗者登録システム諸々、その存在は極秘であった事。
 二つに製品として造られたのではなく、新しいシステムの実験機として研究用に作られた事。
 そして、購入を申し出た相手は無い事。
「ふむ‥‥登録システムまで極秘だとすると、盗んだ奴は知らずに盗んだのか」
「その可能性は高い。しかし、解除が可能だとすると‥‥虎太郎、解除はできるのか?」
「うん、一応解除は可能らしいよ。ただ、かなり面倒臭いらしいけど」

 続いて発言したアナスに皆の混迷の色はさらに膨らむ。
「以上が三者所有の船です。そして、あの夜の船と同型の船が‥‥これです」
 机に広げられたのは、あの日港に停泊してあった船の配置図だった。
「ふむ‥‥三隻か」
「っていう事は、この三隻の船の所有者が犯人って事か?」
「いや、断定はできないだろうな。当の持ち主が盗まれたなり、知らない間に使われたなりのいい訳でも吐きゃぁ、こっちに確かめる手段は無いぜ?」
「‥‥結局わからないって事なの?」
「船の姿形から追えばすぐに尻尾を掴めるような事を相手もしないでしょう。ですから偽装も含め、更に問い詰めた所のですが‥‥」
 アナスは広げた図面の端に書かれた文字に指を奔らせる。
「ふーむ‥‥三者それぞれにアリバイありか。やっぱ、洗い直しか」
「ええ、決定的な証拠を突き付ける。そう、盗まれた機体。それと――」
「‥‥GTさんかあの黒服眼鏡さんなの」
「その通りです」

「‥‥結局、GTって奴何がしたいんだ? 登録システムの事は知らないみたいだし、盗んだって自分で使うつもりじゃないみたいだしな」
「騙された、という線で当たるのが妥当だと思います。かもすれば、背後にはかなり大掛かりな組織があるのかも‥‥」
 推測が推測を呼ぶ話し合いは次第に混迷を極める。
「大がかりな組織って言うんで、ちょっと酒場でいい話を小耳にはさんだが」
 と、今まで聞き手に回っていたグリムバルトが手を上げた。
「その前にっと。なぁ、アーマーってのはなんであんなに値が張ると思う?」
「‥‥宝珠が高いから?」
「他には?」
「でかい武器を作るのが大変とかか?」
「どっちも残念。結局は開発費がかさむかららしいぞ」
「開発費?」
「そう、開発費。ああいう機械物ってのはすぐに性能がいい奴が出てきて、旧型はすぐに売れなくなる」
「それで新しい機体を開発しないといけなくなる、か」
「そういうことだ。で、開発には膨大な時間と人と費用がかかる。だから機体の値段もどうしても高くなる。‥‥もし、それをそっくり浮かせられたら」
「‥‥高性能な機体を安く売れるの」
「そういうことだな」

「盗んだ奴はどこかで試作機の話を掴んで、そそのかしてGT達に盗ませたのか」
「人の成果を盗むなんて許せません」
「‥‥なんとしても取り戻すの」
「登録者システムの解除に手間取っている今がチャンスか」
「うん、生産が始まったら、もう遅いと思う」
「GTか機体。それに黒服眼鏡のどれかを見つけるまで一つずつ潰して行くぞ」
 耀の言葉に一行は一斉に立ち上がった。

●マクドガル家
「ほう、これがそなたのアーマーですか」
 灼熱に輝くアーマーを舐めまわす様に見上げる白髭の紳士。
「如何でしょう! 高尚な趣味をお持ちの貴方にはお分かりになる筈! この燃えるような赤を基調とした優美な姿が!」
 紅太郎は喜劇の役者の様にわざとらしくも優美に、自慢の機体を紹介する。
「ふむ、なるほど。この駆動系体と装甲の傾向を見る限り‥‥工房テトーラ製5番機を独自に改良した物と見たが、如何かな?」
 突然、マクドガルが鋭い目つきで問いかけた。
「え‥‥?」
「おや、違ったかな?」
「い、いえ! 流石マクドガル氏ですね。その通り! この機体を手に入れるのには苦労しましたよ!」
「ほう? 機体自体はあまり珍しくは無いが‥‥なるほど、改造を施した――」

(やばい‥‥。水月、まだか? 収集家ってのは伊達じゃないぞ。何処製だとか全然わからねぇ!)
(‥‥もう少しなの。もう少し話を続けて。今人魂で探ってるの)
 紅太郎は収集家特有の長話を話半分に、隣についてきた水月に耳打ちする。
(もう少しって‥‥! これ以上話すとボロが出るって!)
(‥‥愛と勇気でカバーなの)
(無理っ!?)

「うん? どうかされましたかな?」
「い、いえ何でもありません! それより、流石マクドガル氏。ここのコレクションは壮観ですね!」
「はは、ここにあるものはほんの一部ですがね」
「えっ! これだけあってまだ一部!? よ、よければ他のコレクションも拝見させていただけませんか!」
「ええ、構いませんよ」
「おお!」
 ついに容疑者の一人と目されるマクドガルの全容を暴けると、紅太郎はグッと身を乗り出す。
「では、今度ジルベリアの我が本宅へご案内しましょう。こことは比べ物になりませんから楽しみにしていてください」
「‥‥‥‥え?」

 クイクイっ。

「‥‥ここは白。あの破壊音波はここに居ないの。ついでに三号機も無いの」
 ぽかんと呆ける紅太郎の手を取り、水月はさっさと屋敷を出口に向う。
「おやお帰りですか。ではまたジルベリアで」
 和やかに手を振るマクドガルに見送られながら――。

●シュレービン
「――何度も言いますが、お見せする訳にはいかないのですよ」
「そこをなんとか見せてもらえないか」
「困った人たちですねぇ」
 諦めることなく何度となく交渉する耀に、担当の男は困り顔。
「私達は先日起こったアーマー強奪事件を調べる為に派遣された開拓者です。このままでは貴方方にも容疑が掛るのですよ?」
 あくまで敵ではなく味方として訪れたと、アナスは穏やかに諭す。
「そう言われましてもねぇ。残念ながら、貴方がた開拓者と、取引先のどちらを信用するかと言われれば、後者ですので」
 しかし、担当の男は困惑の表情を崩さず、鋭い視線を返してきた。
「‥‥その発言が更に疑惑を深めているとわかっていても、か?」
「ええ、わかっていてもです。なんなら奉行所に報告してくださって結構ですよ。我々は無実ですから」
 鋭い視線に抗する耀の言葉を、男は真正面から受け止める。
「でしたら、せめてその潔白を証明する為に、あの日に扱った『荷物』の伝票。それと、使用した船舶の航行記録を提示してはいただけませんか?」
「それを見せるのは取引先様を売るのと同義――なのですが、それでは貴方も納得できませんね。わかりました。お渡ししましょう」
 根負けしたとでも言いたげに肩をすくめた男は、手元に積んであった台帳の束から一冊を引き抜く。
「これが当日の台帳です。申し訳ありませんが荷の名は伏せてありますよ」

 そう言って渡された台帳には、目指す三号機の名はおろか、他者との繋がりを伺わせる情報は何も無い。
「‥‥白と見るか?」
「‥‥どうでしょう。だけれども今はこれ以上追求できる材料がないですね」
 営業スマイルを浮かべる男を背に、二人はこくりと頷き合った。

●アリソン
「‥‥あれ?」
 虎太郎がアリソン大工房の扉を何度も叩くが中からは一向に反応が無い。
「おっかしいなぁ。今日は休みなんて話は聞いてないんだけど‥‥。うん? あれは‥‥もしかして、あそこから入れるかな?」
 と、工房の壁沿いに路地へと回った虎太郎は、奥に雑木林を発見した。

「もしもしー誰かいますかー。お?」
 昼でさえ薄暗い雑木林を壁沿いに進む虎太郎は、眼前にしゃがみ込む人影を見つけ歩み寄った。
「すみません、ちょっと聞きたいんだけ――って、じ、GTっ!?」
 少し離れていてもしゃがみ込む青年がGTだとすぐにわかった。捕えた二人に聞いた個性的な特徴とあまりに一致したから。
「お、おい!」
 すぐさまに駆け寄った虎太郎がGTを抱き起そうとするが――。
「こ、これって‥‥血っ!?」
 抱き起した腕にねっとりと絡みつく生温かい感触。そして、鼻腔をくすぐる鉄の香。
「じ、GT! しっかり!!」
 揺すらぬよう身体を起こすが、GTの顔は蒼白、息すらしているのかも怪しい。
「ここじゃ何もできない。一旦表に!」
 血に濡れる服も気にせず、虎太郎は巨漢のGTを抱えあげると表へと急いだ。

「ど、どうした、虎太郎!」
 表へと出た虎太郎に、丁度グリムバルトが合流する。
「グリムバルト! どうしよう‥‥GTが!」
「なっ!? お、おい、一体どういうことだ!」
「わかんないよっ! 裏に回ったらGTが倒れてたんだ!」
 虎太郎の腕の中で虫の息なGTに、うろたえる二人。
「と、とにかく止血だ! 水月が来るまでなんとか持たせるんだ!」
「う、うんっ!」
 絶え間なくGTの命の元が流れ落ちる。

 その後、残りのメンバーが駆けつける間にも、GTの容体は悪化の一途を辿って行った。